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特開2015-15531デジタル放送システム及びデジタル放送方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-15531(P2015-15531A)
(43)【公開日】2015年1月22日
(54)【発明の名称】デジタル放送システム及びデジタル放送方法
(51)【国際特許分類】
   H04N 21/2362 20110101AFI20141219BHJP
   H04N 21/241 20110101ALI20141219BHJP
   H04H 20/28 20080101ALI20141219BHJP
   H04H 60/42 20080101ALI20141219BHJP
   H04H 60/43 20080101ALI20141219BHJP
   H04H 20/06 20080101ALI20141219BHJP
   H04N 21/61 20110101ALI20141219BHJP
【FI】
   H04N21/2362
   H04N21/241
   H04H20/28
   H04H60/42
   H04H60/43
   H04H20/06
   H04N21/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2013-139701(P2013-139701)
(22)【出願日】2013年7月3日
(71)【出願人】
【識別番号】512082794
【氏名又は名称】株式会社タナビキ
(71)【出願人】
【識別番号】398007209
【氏名又は名称】日本エレクトロニックシステムズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592164890
【氏名又は名称】朝日放送株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145883
【弁理士】
【氏名又は名称】新池 義明
(72)【発明者】
【氏名】高橋 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】田靡 範明
(72)【発明者】
【氏名】大西 久人
(72)【発明者】
【氏名】千原 ▲邦▼義
【テーマコード(参考)】
5C164
【Fターム(参考)】
5C164FA04
5C164SB41S
5C164SB51P
5C164TA05S
5C164TA08S
5C164TA22P
5C164YA21
(57)【要約】
【課題】災害時の放送用バックアップとなる安価でかつ運用が容易なデジタル放送システム及びデジタル放送方法を提供する。
【解決手段】1個のトランスポートストリーム(TS)形式の放送信号を生成するデジタル放送用スタジオ局11と、デジタル放送用スタジオ局において生成された放送TS信号を 地上波デジタル放送用送信所31に配信する配信手段58とを備え、配信手段を介して配信された放送TS信号を当該送信所において地上波デジタル放送信号に変換して所定の無線周波数で放送するデジタル放送システムである。地上波デジタル放送用送信所 において当該送信所に配信された放送TS信号に含まれる番組特定情報を当該地上波放送区域に指定された番組特定情報に書き換えるPSI書換装置72を備え、前記1個の放送TS信号を異なる地上波放送区域に放送可能にした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1個のトランスポートストリーム形式の放送信号(以下、「放送TS信号」という。)を生成するデジタル放送用スタジオ局(11)と、前記デジタル放送用スタジオ局において生成された放送TS信号を1又は複数の地上波デジタル放送用送信所(31)に配信する配信手段(58)を備え、前記配信手段を介して配信された放送TS信号を当該送信所において地上波デジタル放送信号に変換して所定の無線周波数で放送するデジタル放送システムであって、
前記地上波デジタル放送用送信所が当該送信所に配信された放送TS信号に含まれる番組特定情報を当該地上波放送区域に指定された番組特定情報に書き換えるPSI書換装置(72)を備え、
前記1個の放送TS信号を異なる地上波放送区域に放送可能にしたデジタル放送システム。
【請求項2】
前記配信手段が運搬可能なマイクロ波通信システム及び光ファイバー通信システムのいずれかである請求項1記載のデジタル放送システム。
【請求項3】
前記デジタル放送用スタジオ局が、情報を伝送していないパケットを放送TS信号から削除して伝送速度を圧縮する放送TS信号圧縮装置(73)を備え、
前記地上波デジタル放送用送信所が、前記放送TS信号圧縮装置により圧縮された圧縮放送TS信号に前記パケットを再度挿入して、圧縮前の放送TS信号に伸長する放送TS信号伸長装置(74)を備える請求項1又は2記載のデジタル放送システム。
【請求項4】
前記地上波デジタル放送用送信所(31)が、放送TS信号のトランスポートストリーム信号処理機能を共に有する前記PSI書換装置と前記放送TS信号伸長装置の機能を統合した放送TS信号伸張・PSI書換装置(75)を備える請求項1ないし3のいずれか1項記載のデジタル放送システム。
【請求項5】
デジタル放送用スタジオ局において生成された1個のトランスポートストリーム形式の放送信号(以下、「放送TS信号」という。)を受信する受信手段と、
前記受信手段によって受信された放送TS信号に含まれる番組特定情報を当該送信所の地上波放送区域に指定された番組特定情報に書き換えるPSI書換装置を備え、
前記1個の放送TS信号を異なる地上波放送区域に放送可能にした地上波デジタル放送用送信所。
【請求項6】
1個のトランスポートストリーム形式の放送信号(以下、「放送TS信号」という。)を生成するステップと、
生成した放送TS信号を1又は複数の地上波デジタル放送用送信所に配信するステップと、
前記地上波デジタル放送用送信所に配信された放送TS信号に含まれる番組特定情報を当該地上波放送区域に指定された番組特定情報に書き換えるステップと、
書き換えられた放送TS信号を地上波デジタル放送信号に変換することによって、前記1個の放送TS信号を異なる地上波放送区域に放送するステップと
を有するデジタル放送方法。
【請求項7】
前記地上波デジタル放送用送信所に配信する放送TS信号から、情報を伝送していないパケットを削除して伝送速度を圧縮するステップと、
圧縮された圧縮放送TS信号に前記パケットを再度挿入して、圧縮前の放送TS信号に伸長するステップを
有する請求項6記載のデジタル放送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地上デジタル放送を行う1又は複数の地域に対して、共通の放送プログラムの放送サービスを行う場合に放送プログラム信号の加工を行うデジタル放送システム及びデジタル放送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、わが国においても地上波放送はデジタル化され、各地域毎にデジタル放送が実施されている。このようなデジタル放送サービスにおいては、視聴者が容易に放送チャンネルや番組を選択できるように、放送される信号の中に番組特定情報(PSI:Program Specific Information)を多重化して放送を行うことが知られている(例えば、特許文献1,2参照)。特に、番組特定情報の中のネットワーク情報テーブル(NIT:Network Information Table)は、放送の伝送路に関する情報(周波数や変調方式など)が記述されており、受信機において、放送チャンネルの選択等の操作を容易に行うために利用されている(例えば、非特許文献1,2参照)。
【0003】
NIT内に記述されている放送ネットワークIDは、放送地域(ネットワーク)毎、チャンネル毎に一対一で対応している(このような状態を「ユニーク」ということがある。)。そのためデジタル放送では、受信機においてネットワークIDにより容易にチャンネル選択が可能な仕組みとなっている。
【0004】
図10は、上記した従来の地上デジタル放送システムの構成の一例を示す。図10に示すように、地上デジタル放送事業者のスタジオシステムである番組制作編集設備211では、キー局又は準キー局等から放送プログラム交換回線227を介して供給される全国向け放送プログラムと、各地方局において制作され、カメラ212やVTR他の記録装置213や衛星通信用送受信機263から供給される放送プログラムがプログラム選択装置(スイッチャ)214において選択され、TV信号用(フルセグ)エンコーダ215においてエンコードしてデジタル信号(フルセグTV信号)に変換された後、多重化装置221のプログラム多重化部222において他の放送信号と共に多重化される。
【0005】
多重化された信号は、放送TS信号生成部226において、フレーム同期信号生成部223で生成されるフレーム同期信号、伝送制御情報生成部224で生成される伝送制御情報、無効パケット信号生成部225において生成される伝送速度を所定の速度に合わせるために挿入される無効パケット信号と多重化され、送信所231に伝送される信号形式である放送用トランスポートストリーム形式の放送信号(本明細書において、「放送TS信号」ということがある。)として放送TS信号配信回線228を介して送信所231に伝送される。
【0006】
送信所231に伝送された放送TS信号は、伝送路符号化部232に供給され、所定の誤り訂正符号及び変調方式に変換された後、デジタル変調部233内の逆フーリエ変換部234において地上デジタル放送の信号形式であるOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplex:直交周波数分割多重)信号に変換される。ガードインターバル付加部235でOFDM信号にマルチパスの影響を除去するためのガードインターバルが付加された後、周波数変換部(U/C)236において送信周波数に変換される。次に、送信部237において所定の送信電力まで増幅された後、送信アンテナ238から無線送信され、一般家庭のTV受信機に配信される。
【0007】
デジタル放送では、携帯端末などでの受信を可能としたワンセグ放送や放送コンテンツの付加情報及びニュース・天気予報のように独立した情報を提供するデータ放送などのサービスが提供されており、ワンセグ放送やデータ放送などは災害時に視聴者に的確に情報を伝える有効な手段として評価されている。
これらの放送サービスは、主たるTV放送サービスとは別の設備である映像ダウンコンバータ216、ワンセグエンコーダ217、データ放送制作端末(フルセグ用)218A、同(ワンセグ用)218B、データ放送送出装置219A、219Bによりプログラムの制作・多重化が行われる。
また、デジタル放送においては、受信機における放送局選択、プログラム選択等を容易にするために番組特定情報が多重化されている。番組特定情報中のNITなど放送チャンネルを示す情報は独自に生成され、放送局毎にユニークなID番号が付与されているので、受信機が当該地域における複数の放送電波の中から所定の放送チャンネルを容易に選択できる。
【0008】
同一系列局の地方局で放送区域が隣接している場合、同一時間帯に同一の全国向け放送プログラムが放送されることもあるが、各放送局毎の放送信号に多重化されているNITには、地方局毎にユニークなID番号が付与されているので、受信機はこのID番号を知ることにより、自地域の放送局か否かを識別するので、放送エリアのフリンジ区域(区域周辺の重複エリア)における混信が防止できる。このような番組特定情報は、各放送局毎に設置されているPSI生成装置220において生成され、放送TS信号に多重化される。
【0009】
図11は、従来の地上デジタル放送システムにおけるバックアップの構成を示す。図11に示すように各機能ブロック毎に予備設備(バックアップ)を配置して、機器故障時には迅速に予備設備に切り替えることにより、放送サービスの信頼性を高めている。すなわち、番組制作編集設備211には、現用のスイッチャ(#1)241Aと、予備のスイッチャ(#2)241Bとを設け、プログラム選択・分配部241においていずれかの放送プログラムが選択及び分配され、現用の多重化装置221A(#1)又は予備の多重化装置(#2)221Bのいずれかに出力される。多重化装置221A、221Bには、それぞれ現用のPSI生成装置(#1)220A、予備のPSI生成装置(#2)220Bにおいて生成された番組特定情報が供給され、多重化される。
【0010】
多重化装置221A,Bから出力された放送TS信号は、放送TS信号選択部242において選択され、放送TS信号分配部243において分配され、現用の放送TS信号配信回線(#1)228A又は予備の放送TS信号配信回線(#2)228Bに出力される。そして、放送TS信号が現用の放送TS信号配信回線(#1)228A又は予備の放送TS信号配信回線(#2)228Bを介して送信所231に伝送される。
【0011】
放送TS信号配信回線228A、228Bを介して伝送された放送TS信号は、送信所231の放送TS信号選択部244において選択され、放送TS信号分配部245において分配され、現用の伝送路符号化部(#1)232A又は予備の伝送路符号化部(#2)232Bに供給され、所定の誤り訂正符号及び変調方式に変換された後、それぞれ現用のデジタル変調部(#1)233A、予備のデジタル変調部(#2)233BにおいてOFDM信号に変換されて変調信号選択部246に出力される。そして、変調信号選択部246においていずれかの変調信号が選択され、選択された変調信号が変調信号分配部247において現用の送信部(#1)237A又は予備の送信部(#2)237Bに分配され、出力切替部248において出力が切り換えられて送信アンテナ238から無線送信される。
【0012】
しかしながら、近年発生した東日本大震災とそれに付随して発生した大津波のような激甚災害に遭遇した場合、図10に示す放送局の番組制作編集設備(スタジオシステム)211の機能損傷や、番組制作編集設備211から送信所231への放送TS信号伝送回線228用のアンテナ鉄塔の破損などによる伝送回線の機能損傷というような事故に対しては、図11に示すバックアップではカバーが難しいことが考えられる。このため、放送サービスの高い信頼性を確保するためには、こうした重大事故により生じるシステムの不具合への対応が必要になる。
【0013】
<第1方式のバックアップ>
激甚災害により当該地方局の番組編成機能ないしスタジオ−送信所間の放送TS信号伝送機能が喪失した場合には、通信衛星によるニュース素材収集(Satellite News Gathering)(本明細書において、「SNG」ということがある。)のための専用車(以下、「SNG車」ということがある。)を当該地方局の送信所に移動させて、放送プログラム制作・番組編成作業をSNG車の中で行い、直接送信所から放送することで、激甚災害時にシステム不具合が生じても、放送業務を継続することが可能となる。
SNG車は、放送局がニュース素材中継やスポーツイベントの屋外中継などのために地方局自身又は系列で保有しているケースが多く、改めて災害対策用として設備する必要がないため設備整備コストを削減することができる。
【0014】
図12はSNG車を使用して放送番組素材の交換を行うシステムの一例を示す。図12に示すように、SNG車251の設備構成は、カメラ212、VTR他の記録装置213、プログラム選択装置214などで構成される番組制作系と、その出力をデジタル化するTV信号用エンコーダ215、衛星通信用デジタル変調器252、電力増幅器253などで構成される送信系と、送受分波器254、送受信アンテナ255などで構成されるアンテナ系と、衛星通信用受信機256、モニターTV257などで構成されるモニター系などのサブシステムを有する。
【0015】
また、SNG地上局及びスタジオ局261は、衛星送受信アンテナ262と、衛星通信用送受信機263と、番組制作編集設備211とで構成され、放送番組素材を収集する受信局として機能する。そして、SNG車251から通信衛星を使った通信回線(以下、「衛星回線」ということがある。)258を介して送信された放送番組素材(放送番組プログラム)は、SNG地上局及びスタジオ局261の衛星通信用送受信機263で受信され、衛星通信用送受信機263を通して番組制作編集設備(スタジオシステム)211に送られる。
【0016】
図13は、SNG車を送信所に移動させて放送TS信号生成機能を持たせる方式の構成を示し、激甚災害時に、例えば、番組制作編集設備211(図10参照)から送信所231への放送TS信号伝送回線228用のアンテナ鉄塔の破損などによる伝送回線の機能損傷が生じた場合に、SNG車251を地方局の送信所231に移動させて、SNG地上局及びスタジオ局261から衛星回線158を介して送信されてくる当該地方局の放送番組プログラムをSNG車251で受信し、SNG車251に放送TS信号生成機能を持たせて、SNG車251において当該地方局放送区域向け放送TS信号に編成して送信所231から送信するケースを示したものである。
この場合、SNG地上局及びスタジオ局261は、図12とは異なり、当該地方局向け放送番組素材信号を供給する送信局として機能する。
【0017】
SNG地上局及びスタジオ局261から衛星回線258を介して送信される放送番組素材は、SNG車251のSNG用アンテナ255で受信された後、TV信号用エンコーダ215でエンコードされ、SNG車251内に非常用バックアップのために追加された多重化装置221Pに供給され、放送TS信号に変換される。この時、TV信号用エンコーダ215から衛星通信用変調器252への信号経路を切り離し、TV信号用エンコーダ215から多重化装置221Pへの信号経路を接続する。
多重化装置221Pで変換された放送TS信号は、送信所231の伝送路符号化部232に入る。その後の流れは、図10に示した平常時運用と同じであるので、その説明を省略する。
【0018】
SNG車251は、ニュース素材や屋外イベント中継のための番組素材の収集・編集機能は保有しているものの、放送プログラム信号を編集し、番組特定情報を多重化するための多重化装置221Pを、通常、搭載していない。また、わが国のデジタル放送の特徴である携帯受信機向けのワンセグ放送を行うための設備(図10の映像ダウンコンバータ216、ワンセグエンコーダ217参照)や、データ放送のためのデータ制作設備(図10のデータ放送制作端末218A、218B参照)及び送出設備機能(図10のデータ放送送出装置219A、219B参照)も有していない。
【0019】
ワンセグ放送やデータ放送は、災害時に視聴者が必要とする情報サービスと考えられるが、SNG車内に設備するとなると設備コストが嵩むとともに、SNG車内に設置可能な予備スペースの確保が必要になる。更に、データ放送制作のためには、気象情報や災害情報などを入手するための通信回線を別に確保する必要があるが、災害時には通信が集中するためこうした通信回線確保が容易ではない。
【0020】
また、第1方式では、SNG車を送信所近傍まで移動させる必要があるが、送信所(一般に、山頂など見通しのよい場所に設置されることが多く、無人で運用されている)までの交通手段が確保できないおそれがある。更に、送信所に移動させたSNG車でスタジオ機能のすべてを動作させるためには番組制作・編成のための要員の確保が必要である。災害時に要員を現地まで移動させたり、長期間滞在させることは難しく、SNG車が地方放送局のスタジオ機能喪失のバックアップを行うには困難が伴うと考えられる。
【0021】
<第2方式のバックアップ>
図14は、送信所231に多重化装置を設置するシステムの構成を示す。図13の場合と同様に、当該地方局向け放送番組素材信号(放送プログラム信号)の送信局として機能するSNG地上局及びスタジオ局261から衛星回線258を介して送信された放送番組素材は、地方送信所231に設置された衛星受信専用アンテナ271を介して衛星通信用受信機256で受信された後、多重化装置221に供給され、放送TS信号に変換される。変換された放送TS信号は、伝送路符号化部232に入力される。その後の信号の流れは、図10に示した平常時運用と同じであるので、その説明を省略する。ここで、衛星受信専用アンテナ271、衛星通信用受信機256、多重化装置221は、地方局送信所231において非常用バックアップのために追加が必要である。
このように、地方送信所231に放送プログラム生成・送出する設備を追加することにより、激甚災害時にシステム不具合が生じても、放送業務を継続することが可能になると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特開2001−197025号公報
【特許文献2】特開2002−359825号公報
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】ARIB STD−B31「地上デジタルテレビジョン放送の伝送方式」、2.0版、社団法人電波産業会、2011年3月28日2.0改定
【非特許文献2】ARIB TR−B14「地上デジタルテレビジョン放送運用規定」、4.9版、社団法人電波産業会、2012年7月3日4.9改定
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
しかしながら、第2方式の場合には、第1方式の課題であったSNG車の送信所への移動と、SNG車内に追加設備のための設置スペースを確保するなどの問題は解決するものの、多重化装置221に加えて、衛星通信受信専用アンテナ271と衛星通信用受信機256が新たに必要となる(図14参照)ので、追加設備コストが嵩むという課題がある。
また、ワンセグ放送やデータ放送のサービスを行うためには更なる設備の追加が必要であり、番組制作・編成のための複数名の要員の確保と送信所での作業環境の確保、データ放送制作のための通信回線の確保という課題がある。
【0025】
このように自然災害などによって地方放送局のスタジオ機能が喪失した場合のバックアップ手段として、当該地方放送局の設備・要員でもって独自の放送プログラムを制作し放送することは極めて困難である。
本発明は、上記のような従来技術の課題を解決するものであり、安価でかつ運用が容易な放送用バックアップを有するデジタル放送システム及びデジタル放送方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、1個のトランスポートストリーム(TS)形式の放送信号(本明細書において、「放送TS信号」ということがある。)を生成するデジタル放送用スタジオ局(11)と、デジタル放送用スタジオ局において生成された放送TS信号を1又は複数の地上波デジタル放送用送信所(31)に配信する配信手段(58)を備え、当該配信手段を介して配信された放送TS信号を当該送信所において地上波デジタル放送信号に変換して所定の無線周波数で放送するデジタル放送システムであって、地上波デジタル放送用送信所が当該送信所に配信された放送TS信号に含まれる番組特定情報を当該地上波放送区域に指定された番組特定情報に書き換えるPSI書換装置(72)を備え、前記1個の放送TS信号を異なる地上波放送区域に放送可能にした。
【0027】
本発明に係るデジタル放送システムによれば、1又は複数の放送区域に対してそれぞれの放送区域を担当する1又は複数の地上波デジタル放送用送信所において放送TS信号中の番組特定情報をそれぞれの地上波放送区域に指定された番組特定情報に書き換えて放送するため、いずれの放送区域においても放送区域内の受信機の設定を変更することなく平常時と同様に放送サービスを受信することができる。
【0028】
本発明において、配信手段が運搬可能なマイクロ波通信システム及び光ファイバー通信システムのいずれかであるデジタル放送システムであるのが好ましい。
これによって、配信手段としてマイクロ波送受信システムや地上波光回線を使用することで、激甚災害時に需要が高まる衛星通信手段を使用することなしに、デジタル放送用スタジオ局から地上波デジタル放送用送信所に放送TS信号を配信することができる。
【0029】
好ましい態様では、デジタル放送用スタジオ局が、情報を伝送していないパケットを放送TS信号から削除して伝送速度を圧縮する放送TS信号圧縮装置(73)を備え、地上波デジタル放送用送信所が、放送TS信号圧縮装置により圧縮された圧縮放送TS信号に前記パケットを再度挿入して、圧縮前の放送TS信号に伸長する放送TS信号伸長装置(74)を備える。
これによって、配信回線を介して配信される放送TS信号の中から無効パケットなど受信側で不要なパケット(領域)が削除されるため、放送TS信号の伝送レートを大幅に下げることができ、配信回線の所要帯域幅及び所要送信電力を削減できる。
【0030】
上記態様では、地上波デジタル放送用送信所(31)が、放送TS信号のトランスポートストリーム信号処理機能を共に有する前記PSI書換装置と前記放送TS信号伸長装置の機能を統合した放送TS信号伸張・PSI書換装置(75)を備えてもよい。
このことによって、PSI書換装置及び放送TS信号伸長装置におけるフレーム同期処理、PID検出処理、クロック再生処理等のトランスポートストリーム信号処理機能を共有化できるので、送信所に設置する機器コスト及び設置容積を削減することができる。
【0031】
本発明の第2の態様では、1個のデジタル放送用スタジオ局において生成されたトランスポートストリーム形式の放送信号を受信する受信手段と、当該受信手段によって受信された放送TS信号に含まれる番組特定情報を当該送信所の地上波放送区域に指定された番組特定情報に書き換えるPSI書換装置を備え、前記1個の放送TS信号を異なる地上波放送区域に放送可能にしたことを特徴とする地上波デジタル放送用送信所を提供する。
【0032】
本発明の別の態様では、1個のトランスポートストリーム形式の放送信号を生成するステップと、生成した放送TS信号を1又は複数の地上波デジタル放送用送信所に配信するステップと、地上波デジタル放送用送信所に配信された放送TS信号に含まれる番組特定情報を当該地上波放送区域に指定された番組特定情報に書き換えるステップと、書き換えられた放送TS信号を地上波デジタル放送信号に変換して1個の放送TS信号を異なる地上波放送区域に放送するステップとを有するデジタル放送方法を提供する。
【0033】
上記態様では、地上波デジタル放送用送信所に配信する放送TS信号から情報を伝送していないパケットを削除して伝送速度を圧縮するステップと、圧縮された圧縮放送TS信号に前記パケットを再度挿入して、圧縮前の放送TS信号に伸長するステップを更に有するのが好ましい。
【発明の効果】
【0034】
本発明のデジタル放送システム及びデジタル放送方法によれば、自然災害などにより被災した1又は複数の地上波デジタル放送用送信所において、キー局又は準キー局などのデジタル放送用スタジオ局において生成された1個の放送TS信号に含まれる番組特定情報が当該地上波放送区域に指定された番組特定情報に書き換えられるため、当該1個の放送TS信号を配信することで1又は複数の被災地域の放送サービスを受信することが可能となり、安価でかつ運用が容易な放送用バックアップを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】実施例1に係るデジタル放送システムの構成を示すブロック図である。
図2】実施例1に係る番組特定情報の構成図である。
図3】PSI書換装置の構成を示すブロック図である。(実施例1)
図4】PSI書換装置におけるTSパケット書き換えを示す図である。(実施例1)
図5】実施例2に係るデジタル放送システムの構成を示すブロック図である。
図6】実施例3に係るデジタル放送システムの構成を示すブロック図である。
図7】放送TS信号と圧縮放送TS信号の構成を示す図である。(実施例3)
図8】実施例4に係るデジタル放送システムの構成を示すブロック図である。
図9】放送TS信号伸張・PSI書換装置75の構成を示すブロック図である。(実施例4)
図10】従来の地上デジタル放送システムの構成を示すブロック図である。
図11】従来の地上デジタル放送システムにおけるバックアップの構成を示すブロック図である。
図12】SNG車を使用して放送番組素材の交換を行うシステムの一例を示すブロック図である。
図13】SNG車を送信局に移動させて放送TS信号生成機能を持たせる方式の構成を示すブロック図である。
図14】送信所に多重化装置を設置するシステムの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図に示す実施例により本発明をさらに詳細に説明する。このことにより、本発明が限定されるものではない。また、以下の実施例において同一機材については同一の符号を付し、その重複する説明は省略する。
【実施例】
【0037】
−実施例1−
図1は、実施例1に係るデジタル放送システムの構成を示す。
図1に示すように、デジタル放送システム1は、キー局又は準キー局のスタジオ局(本明細書において、「デジタル放送用スタジオ局」ということがある。)11と、それに併設するSNG地上局61と、衛星回線58と、地方局送信所31(本明細書において、「地上波デジタル放送用送信所」又は、単に「送信所」ということがある。)とで構成される。
本実施例では、災害等により自社のスタジオにおいて放送プログラムの制作ができなくなり、自社制作の放送プログラム(放送TS信号)を、放送TS信号配信回線(TTL回線)28を介して地方局送信所31に伝送できなくなった地方局に代わり、当該地方局の放送プログラムとしてキー局又は準キー局が制作した放送プログラムを地方局送信所31に伝送する。
【0038】
図1において、スタジオ局11は、スタジオ設備としての現用系81Aの他に、災害時用のバックアップとなる予備系81Bを備え、予備系81Bが当該地方局の放送プログラムを制作する。
現用系81Aは、制作された各種の番組素材が供給されるスイッチャ(#1)14Aと、スイッチャ(#1)14Aで選択された番組素材(放送プログラム)をエンコードして変換したデジタル信号(TV信号)に、データ放送用信号やPSI生成装置(#1)20Aで生成された番組特定情報を多重して放送TS信号を生成する多重化装置(#1)21Aとを備える。
【0039】
また、スタジオ設備の予備系81Bは、現用のスイッチャ14Aと同様な構成の予備のスイッチャ(#2)14Bと、現用のPSI生成装置20Aと同様な構成の予備のPSI生成装置(#2)20Bと、現用の多重化装置21Aと同様な構成の予備の多重化装置(#2)21Bとを備える。
現用の多重化装置(#1)21Aで生成された放送TS信号は、自社の送信所(図示せず)に伝送された後、一般家庭のTV受信機に配信される。予備の多重化装置(#2)21Bで生成された放送TS信号は、SNG地上局61に伝送される。
【0040】
SNG地上局61は、ここではキー局又は準キー局のスタジオ局11に併設され、衛星通信用送受信アンテナ62と、衛星通信用送受信機63を備え、スタジオ局11が制作した当該地方局向け放送TS信号を、衛星回線58を介して地方局送信所31に伝送する。
災害時、放送TS信号配信回線28に不具合が生じた場合には、当該地方局向け放送プログラム信号は、スタジオ局11の中のスタジオ設備予備系81Bを使用して制作される。このため、当該地方局向け放送プログラム信号は、直接送信所31に配信可能な放送TS信号まで生成してSNG地上局61に供給される。SNG地上局61は、この放送TS信号を衛星回線58を介して地方局送信所31に伝送する。
【0041】
地方局送信所31では、非常用バックアップのために設置された衛星受信アンテナ71と、衛星通信用受信機56と、受信された放送TS信号内の番組特定情報を当該地方局に割り当てられたIDに書き換えるためのPSI書換装置72と、当該地方局送信所31の地上放送用送信設備(伝送路符号化部32、デジタル変調部33、送信部37、送信アンテナ38)とを備え、SNG地上局61から伝送された当該地方局向け放送TS信号を変換・変調し、当該地方局の放送区域向け放送信号を送信アンテナ38から無線送信する。
【0042】
キー局又は準キー局のスタジオ設備予備系81Bにおいては、災害時にスタジオ局11が使用できなくなった地方局の放送プログラムを制作し、送信可能な信号形式である放送TS信号まで変換する。この放送TS信号に多重化されている番組特定情報は、特に当該地方局に割り当てられたID番号でなくてもよい。この放送TS信号は、SNG地上局61、衛星回線58を介して、地方局送信所31に設置された衛星受信アンテナ71と衛星通信用受信機56に配信される。
【0043】
衛星通信用受信機56から供給される放送TS信号に多重化されている番組特定情報は、スタジオ設備予備系81Bにおいて生成されているため、キー局又は準キー局の放送区域に割り当てられたID番号に設定されている。そのため、そのまま伝送路符号化部32に供給して地上波放送を行うと、当該地方局の放送区域に割り当てられたID番号と異なるため、放送区域内の一般家庭のTV受信機が当該地方局の放送信号と認識できないので、視聴者は当該地方局の放送サービスを受けることができない。
本実施例では、衛星通信用受信機56から供給される放送TS信号に多重化されている番組特定情報をPSI書換装置72において当該地方局に割り当てられたID番号に書き換えるので、当該地方局の放送区域内の受信機は、平常サービス時と同じID番号であることを認識して正常に受信することが可能になった。
【0044】
また、図1には、地方局送信所31が1個しか図示されていないが複数としてもよい。複数の送信所31に対して1個の放送TS信号を放送TS信号配信回線28を介して配信することによって、複数の送信所31で当該放送区域をカバーできる。
従って、非常災害時バックアップのため当該放送区域内の複数の送信所31に衛星受信アンテナ71と衛星通信用受信機56とPSI書換装置72とを備えることにより、衛星回線58を介して直接放送TS信号を配信することができるので、放送TS信号配信回線28が罹災した場合においても平常時と同様な放送サービスを提供することができる。
【0045】
更に、図1では、当該対象区域が1つしか記載されていないが、放送区域が異なる複数の地方局の送信所に同様なバックアップ設備を設置し、各PSI書換装置72において書き換えるID番号を各放送区域向けの平常時のID番号とすることにより、各区域で平常時と同様の受信が可能となる。また、図1では、当該地方局向けの番組を作るためにスタジオ設備予備系81Bを例示しているが、スタジオ設備現用系81Aで制作された自社送信所向けの放送TS信号を当該地方局の送信所に送出することも可能である。
【0046】
日本の地上デジタルテレビジョン放送では、その運用規定(ARIB TR−B14)[非特許文献2]によって、それぞれの地域の放送事業者名毎に、ネットワークID、TSID、サービスIDが割り当てられている。これらのID番号はNITで定義され、ARIB TR−B14によれば受信機が記憶することを推奨している。NITに記載したID番号と各TSパケットとの関連付けを行うために、プログラムアソシエーションテーブル(PAT:Program Association Table)と、プログラムマップテーブル(PMT:Program Map Table)という2つの構造体を参照する。
図2は、NIT,PAT及びPMTの関係を示す番組特定情報の構成図である。なお、TS信号の構造は、ARIB TR−B14[非特許文献2]で定義されている。
【0047】
図2に示すように、NITは、ネットワーク識別、TS識別、サービス識別(サービスタイプ)、送信パラメータの各情報を含んでいる。PATは、NITのTS識別情報、サービス識別情報からそれぞれ抽出するTS識別情報,プログラムナンバー情報(すなわち、PMT PID)を含んでいる。そして、PMTは、PATのプログラムナンバー情報から抽出するプログラムナンバー情報(使用するPID)を含んでいる。
【0048】
図3は、PSI書換装置72の詳細構成を示す。PSI書換装置72は、当該地方局のID番号(NIT)などの番組特定情報を記憶するPSI記憶部101、放送TS信号のパケットの種別を検出するPID検出部102、NITの書き換えを行うNIT書換部103、PATの書き換えを行うPAT書換部104、PMTの書き換えを行うPMT書換部105、ID番号の書き換えに伴い誤り検出パリティ(以下、CRC32と略記する。)を再計算するCRC32生成部106A,106B,106C、伝送するパケットを選択するパケット選択部107、放送TSのリードソロモン誤り訂正符号(RSECC)を再計算するRSECC部108を備える。
【0049】
キー局又は準キー局から伝送された放送TS信号は、PID検出部102に供給され、PID検出部102において、放送TS信号のパケットの種別(パケットID)が検出される。PID検出部102において検出されたパケット種別情報は、NIT書換部103、PAT書換部104、PMT書換部105、パケット選択部107にそれぞれ供給される。
一方、NIT書換部103、PAT書換部104、PMT書換部105には、PSI記憶部101に記憶された当該地方局のID番号(ネットワーク識別情報、TSID、サービス識別情報)がそれぞれ供給される。各書換部103,104,105の出力は、CRC32生成部106A,106B,106Cを介してパケット選択部107に供給される。パケット選択部107の出力は、RSECC部108を介して当該放送区域の放送TS信号として出力される。
【0050】
図4は、PSI書換装置72におけるTSパケット書き換えを示す。書き換え後のNITは、PSI記憶部101にあらかじめ記憶させておく。また、他の番組特定情報の書き換えに必要なID番号(PAT、PMT)はNITから抽出される。
キー局又は準キー局から送られてきた放送TS信号に、パケットID(以下、PIDという。)に基づいてNITを示すTSパケットが見つかった場合、NIT書換部103において、送られてきたパケットの情報(NIT)を、PSI記憶部101に記憶されていたNITに書き換える。そして、CRC32生成部106Aにおいて、書き換えたNITに合わせてCRC32を再計算し、パケット選択部107において、書き換えたパケットが選択されて、RSECC部108において、書き換えたTSパケットのリードソロモン誤り訂正符号(RSECC)を再計算してパリティが付け直される。
【0051】
PIDに基づいてPATを示すTSパケットが見つかった場合、PAT書換部104において、送られてきたパケットの情報(PATのTSID及びプログラムナンバー)を、PSI記憶部101に記憶されていたPATのTSID及びプログラムナンバーに書き換える。そして、NITの場合と同様に、CRC32生成部106Bにおいて、書き換えたPATに合わせてCRC32を再計算し、パケット選択部107において、書き換えたパケットが選択されて、RSECC部108において、書き換えたTSパケットのリードソロモン誤り訂正符号を再計算してパリティ付け直される。
【0052】
PIDに基づいてPMTを示すTSパケットが見つかった場合、PMT書換部105において、送られてきたパケットの情報(PMTのプログラムナンバー)を、PSI記憶部101に記憶されていたPMTのプログラムナンバーに書き換える。そして、NITの場合と同様に、CRC32生成部106Cにおいて、書き換えたPMTに合わせてCRC32を再計算し、パケット選択部107において、書き換えたパケットが選択されて、RSECC部108において、書き換えたTSパケットのリードソロモンエラー訂正符号を再計算してパリティ付け直される。
また、提供サービスの種類に応じて、番組特定情報のほか番組配列情報についてもこれらの識別情報の書き換えが行われる。このことで、他の地域の放送TS信号を、当該地方局の放送TS信号に変換することができる。そして、書き換えないパケット(映像パケット、音声パケット)はそのまま出力される。
【0053】
以上、説明したように、実施例1では、衛星通信用受信機56から供給される放送TS信号に多重化されている番組特定情報がPSI書換装置72において当該地方局に割り当てられたID番号に書き換えられるので、当該地方局の放送区域内の受信機は平常サービス時と同じID番号であることを認識して正常に受信することができる。このため、当該地方局の放送区域内において、受信機がネットワークIDを認識できず受信不能となる事態が防止できる。
つまり、異常事態発生時、当該放送区域内の受信機を周波数スキャンさせて各周波数に対応するネットワークIDを取り直すというような、ある程度の電子機器に精通した操作を一般家庭の受信者に要請することが解消できる。また、情報が必要な時に周波数スキャンなどの作業で重要な情報の受信を失敗することを防止できる。更に、周波数スキャン後に取得したネットワークIDは当該地域の放送局のものではないため、ステーションマーク等は違うものが表示されることによる受信者の混乱を防止できる。
【0054】
さらに、異常事態発生時に周波数スキャンさせてネットワークIDを取り直した受信機は、災害から復旧し平常時の放送サービスに戻った場合、平常時とは異なるネットワークIDを受信機内に記憶しているため、非常用設備での運用開始時と同様にネットワークIDの認識ができないので、このような事態を回避するためには、再度周波数スキャンを行い、改めて平常時運用の時のネットワークIDを取得し直す必要がある。このように異なる地域向けに同一の放送プログラム信号を配信した場合、平常時とは異なるネットワークIDが送信されるため、当該地域の受信機に受信障害が発生する、もしくは通常運用復帰時に受信障害が発生する等の問題を生じるおそれがあった。
【0055】
このような対策の場合には、多重化装置を含む代替放送のプログラム編成機能を複数準備する必要があるが、災害地域に放送プログラム信号を伝送するための衛星回線を複数準備する必要があるなど、設備・運用コストが嵩むという欠点を有していた。とりわけ災害状況に関する取材などの放送素材の伝送にSNGが要請されるため、通信回線の利用が制限される危険性が大きかった。また、複数プログラムを制作・編成するための人員も確保する必要があり、大きな負担となる弊害もあった。
本発明の完成により、これらの課題が解決できた。
【0056】
以上、説明したように、実施例1では、激甚災害などで複数の地方局の放送プログラム制作、伝送機能が喪失した場合においても、1つのバックアップで対応することが可能となる。従って、従来技術のバックアップで対応した場合に比べて、バックアップに必要な通信回線数を大幅に削減することが可能である。特に、激甚災害の場合は、平常時に比べて通信需要が急増するため、こうした通信回線需要の削減はコスト削減以上に効果が大きいと期待できる。
【0057】
−実施例2−
図5は、実施例2に係るデジタル放送システムの構成を示す。図5に示すデジタル放送システム2は、図1のSNG地上局61、地方局送信所31の衛星受信アンテナ71及び衛星通信用受信機56で構成されるバックアップ用衛星通信システムの代わりに、放送局が番組中継などで使用する運搬可能なマイクロ波送受信システム(FPU:フィールド・ピックアップ・ユニット)(以下、「FPU」ということがある。)を使用する場合を示す。
【0058】
つまり、図1のSNG地上局61の代わりにFPU送信部82、地方局送信所31の衛星受信アンテナ71と衛星通信用受信機56の代わりにFPU受信部83で構成され、FPU送信部82は、マイクロ波送受信アンテナ84とマイクロ波送受信機85を備え、FPU受信部83は、マイクロ波送受信アンテナ86とマイクロ波送受信機87を備える。
本実施例では、スタジオ設備予備系81Bで制作された放送TS信号は、FPU送信部82に供給され、マイクロ波送受信機85においてマイクロ波デジタル変調信号に変換された後、マイクロ波送受信アンテナ84から地方局送信所31に運び込まれたFPU受信部83に伝送される。
【0059】
地方局送信所31のFPU受信部83のマイクロ波送受信アンテナ86で受信された信号は、マイクロ波送受信機87において復調され、PSI書換装置72に供給される。
本実施例では、激甚災害時に特に需要が高まる衛星通信システムを使用することなしに、実施例1と同様な効果を得ることができる。。
−変形例−
実施例2のFPUの代わりに、光ファイバー通信システムなど衛星通信システム以外の通信システムを使用してもよい。
【0060】
−実施例3−
図6は、実施例3に係るデジタル放送システムの構成を示す。図6に示すデジタル放送システム3では、スタジオ局11に非常用バックアップとして放送TS信号圧縮装置73がSNG地上局61の前段に、地方局送信所31には放送TS信号伸長装置74が衛星通信用送受信機56の後段にそれぞれ配置される。本実施例では、放送TS信号を伝送する代わりに、無効パケットを削除してビットレートを圧縮した放送TS信号である圧縮放送TS信号を伝送する。
【0061】
放送TS信号は、わが国ではビットレートの値が、32.50…Mbpsに規定されており、このビットレートに合わせるように、無効パケットが放送TS信号に挿入される。無効パケット信号は情報を伝送していないため送信所に伝送しなくても放送業務に支障は生じない。無効パケットを削除した伝送ビットレートは、フルセグ・プラス(+)・ワンセグの場合約21Mbpsになるため、大幅なビットレートの削減ができる。
キー局又は準キー局のスタジオ設備予備系81Bで制作された放送TS信号は、放送TS信号圧縮装置73において放送TS信号から無効パケットが削除されて圧縮放送TS信号が生成される。一方、地方局送信所31に伝送された圧縮放送TS信号は、放送TS信号伸長装置74において圧縮放送TS信号に無効パケットが再度挿入されて規定のビットレートに合わされる。
【0062】
図7は、放送TS信号と圧縮放送TS信号の構成を示す。必要パケット121と無効パケット122で構成される放送TS信号は、スタジオ局11内の多重化装置21Bと地方局送信所31内の伝送路符号化部32(図6参照)のインターフェースを統一化するために、信号の伝送速度を放送波の任意の伝送パラメータ設定に対して一定の伝送速度(例えば、6MHz放送帯域の場合、32.5…Mbps)に設定されている。このため、必要パケット121に無効パケット122を追加して伝送速度を合わせている。従って、無効パケット122は、放送TS信号配信回線28を介して伝送する必要はなく、地方局送信所31において伝送路符号化部32の前段において再生すればよい。
【0063】
図7下段は、放送TS信号圧縮装置73(図6参照)の出力端の信号である圧縮放送TS信号を示し、無効パケット122が削除された状態で伝送される。無効パケット122の挿入位置は、放送波の伝送パラメータにより、一位的に決定されるため、送信所31に備えられる放送TS信号伸長装置74において挿入位置情報なしで再度挿入することができる。従って、放送TS信号伸長装置74から伝送路符号化部32に供給される信号は放送TS信号となる。
このように、放送TS信号圧縮装置73と放送TS信号伸長装置74を使用することにより、所定の効果を損ねることなく放送TS信号伝送回線28における所要帯域幅を圧縮することができる。
【0064】
本実施例では、衛星回線58を介して伝送される圧縮放送TS信号のビットレートは21Mbps強となり、所要衛星通信回線帯域幅を大幅に削減することが可能となる。これに伴って所要送信電力の削減も可能となる。
また、本実施例において、衛星回線58を介して伝送される信号は圧縮放送TS信号であるが、送り側のスタジオ設備予備系81Bの出力端及び受信側のPSI書換装置72の入力端における信号形式は放送TS信号であるため、既存設備との信号インターフェース規格は実施例1の場合と同じである。
【0065】
以上、説明したように、本実施例では、自然災害などで複数の地方局の放送プログラム制作、伝送機能が喪失した場合においても、1つのバックアップで対応することが可能となるので、バックアップに必要な通信回線数を大幅に削減することが可能であり、更なる所要通信回線帯域幅の削減が可能となる。また、所要送信電力を削減することができるので、削減された帯域幅、電力をSNG地上局など別の設備運用に割り当てることができる。
【0066】
−実施例4−
図8は、実施例4に係るデジタル放送システムの構成を示す。図8に示すデジタル放送システム4は、放送TS信号に対しての、フレーム同期処理、PID検出処理、クロック再生処理等のトランスポートストリーム信号処理機能を共に有している放送TS信号伸長装置74とPSI書換装置72(図6参照)の機能を統合して、これら共通の回路機能を共有化又は一体化し、回路の削減を図っている。
具体的には、放送TS信号伸長装置74とPSI書換装置72(図6参照)の代わりに、両装置を一体化した放送TS信号伸張・PSI書換装置75が地方局送信所31に備えられている。その他の構成は、デジタル放送システム3(図6参照)と同じである。
本実施例では、地方局送信所31に伝送された圧縮放送TS信号は、放送TS信号伸張・PSI書換装置75において圧縮放送TS信号に再度無効パケットが挿入されて規定のビットレートに合わされ、更に、当該地方局に割り当てられたID番号に書き換えられる。
【0067】
図9は、放送TS信号伸張・PSI書換装置75の詳細構成を示す。放送TS信号伸張・PSI書換装置75は、TSクロックを再生しTSパケットを抽出するTS入力インターフェイス部111、TS入力インターフェイス部111の後段に接続されて放送TS信号のパケットの種別を検出するPID検出部102、PID検出部102の後段に接続されて放送TSの復元に必要なデータを抽出する放送TS抽出部113、放送TS抽出部113の後段に接続されて無効パケットを挿入する無効パケット挿入部114、放送TS抽出部113の後段に接続されて放送TS信号のデータから放送TSクロックを再生する放送TSクロック再生部115を備える。
【0068】
更に、当該地方局のID番号(NIT)などの番組特定情報を記憶しておくPSI記憶部116、無効パケット挿入部114の後段に接続されてPSI記憶部116に記憶された当該地方局のID番号などの番組特定情報を書き換えるPSI書換部117、PSI書換部117の後段に接続されてリードソロモン誤り訂正符号(RSECC)を再計算するRSECC部108、RSECC生成部108の後段に接続されたTS出力インターフェイス部119を備える。
【0069】
TS入力インターフェイス部111において抽出されたTSクロックはPID検出部102及び放送TS抽出部113の各ブロックにそれぞれ供給される。また、放送TSクロック再生部115において再生されたTSクロックは無効パケット挿入部114、PSI書換部117、RSECC生成部108及びTS出力インターフェイス部119の各ブロックにそれぞれ供給される。
ここで、TS入力インターフェイス部111、PID検出部102、RSECC生成部108、TS出力インターフェイス部119は、放送TS信号伸長装置74とPSI書換装置72に共通しているので、放送TS信号伸張・PSI書換装置75として一体化することによって装置を簡易化することができ、安価になる。
【0070】
以下、図9を参照しながら、放送TS信号伸張・PSI書換装置75の動作を説明する。
図9において、スタジオ局11の放送TS信号圧縮装置73(図8参照)によって無効パケットを削除し、伝送用TSに変換され、衛星回線58を介して地方局送信所31に伝送された圧縮放送TS信号は、放送TS信号伸張・PSI書換装置75のTS入力インターフェイス部111に入力され、TSクロックの再生及びTSパケットの抽出が行われる。更に、PID検出部102においてPIDを監視してパケットの種別が検出される。放送TS抽出部113において放送TSの復元に必要なデータが抽出される。抽出された放送TS信号のデータから放送TSクロック再生部115においてクロックが生成され、このクロックに従って無効パケット挿入部114において無効パケットが挿入される。
【0071】
無効パケット挿入部114の出力は、リードソロモン誤り訂正符号パリティを除き、伸張後の放送TS信号が復元されている。この放送TS信号の番組特定情報を書き換え、RSECC部108においてリードソロモン誤り訂正符号パリティが計算し直され、パリティが付け直され、当該放送区域の放送TS信号が完成する。そして、完成した当該放送区域放送TS信号が出力され、次段の伝送路符号化部32(図8参照)に供給される。
以上、説明したように、本実施例では、実施例3と同様な効果を得ることができるとともに、更なる回路機能の削減が可能となる。そして、回路を削減した分だけ送信所に設置する機器コスト及び設置容積を削減することができる。
【0072】
以上、本発明を実施例に基づいて詳細に説明したが、本発明の構成及び上記説明に記載されていないその他のシステム構成や、放送プログラム制作や放送TS信号生成のバックアップ方法、放送TS信号及び圧縮放送TS信号の伝送放送、番組特定情報の書き換え方法等についても、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、当業者の知識に基づいて種々の変形、修正、改良を加えて実施できる。
【符号の説明】
【0073】
1,2,3 デジタル放送システム
11 キー局又は準キー局のスタジオ局(デジタル放送用スタジオ局,スタジオ局)
14A 現用のスイッチャ
14B 予備のスイッチャ
20A 現用のPSI生成装置
20B 予備のPSI生成装置
21A 現用の多重化装置
21B 予備の多重化装置
28 放送TS信号配信回線
31 地方局送信所(地上波デジタル放送用送信所,送信所)
32 伝送路符号化部
33 デジタル変調部
37 送信部
38 送信アンテナ
56 衛星通信用受信機
58 衛星回線(配信手段)
61 SNG地上局
62 衛星通信用送受信アンテナ
63 衛星通信用送受信機
71 衛星受信アンテナ
72 PSI書換装置
73 放送TS信号圧縮装置
74 放送TS信号伸長装置
75 放送TS信号伸張・PSI書換装置
81A スタジオ設備現用系
81B スタジオ設備予備系
82 FPU送信部
83 FPU受信部
84,86 マイクロ波送受信アンテナ
85,87 マイクロ波送受信機
101 PSI記憶部
102 PID検出部
103 NIT書換部
104 PAT書換部
105 PMT書換部
106A,106B,106C CRC32生成部
107 パケット選択部
108 RSECC部
111 TS入力インターフェイス部
113 放送TS抽出部
114 無効パケット挿入部
115 放送TSクロック再生部
116 PSI記憶部
117 PSI書換部
119 TS出力インターフェイス部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14