【課題】溶解槽の貫通孔に電極を押し込む際に用改装の壁に損傷を与えること無く、長期間に亘り安定的にガラスを溶解することができるガラスの溶解方法、およびガラス基板の製造方法の提供。
【解決手段】溶解槽201の貫通孔210aに電極208を押し込む際の電極208と貫通孔210aとの間の摩擦抵抗の増大を抑制するために、短小化した電極208を溶解槽201内の溶融ガラス方向に押圧部材220によって押し出す際、貫通孔210aと電極208との間の摩擦抵抗が低減するよう電極208の後端面208bの傾きを決定し、押圧部材220によって前記電極208の後端面208bを押圧する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本実施形態のガラスの製造方法について説明する。
図1は、本実施形態のガラス基板の製造方法の工程を説明する工程図である。
ガラス基板の製造方法は、溶解工程(ST1)と、清澄工程(ST2)と、均質化工程(ST3)と、供給工程(ST4)と、成形工程(ST5)と、徐冷工程(ST6)と、切断工程(ST7)と、を主に有する。この他に、研削工程、研磨工程、洗浄工程、検査工程、梱包工程等を有し、梱包工程で積層された複数のガラス板は、納入先の業者に搬送される。
【0013】
図2は、溶解工程(ST1)から切断工程(ST7)までを行う装置を模式的に示す図である。当該装置は、
図2に示すように、主に溶解装置200と、成形装置300と、切断装置400と、を有する。溶解装置200は、溶解槽201と、清澄槽202と、攪拌槽203と、第1配管204と、第2配管205と、を主に有する。
【0014】
溶解工程(ST1)では、溶解槽201内に供給されたガラス原料を、バーナー206(
図3参照)から発する火焔で加熱して溶解することで、溶融ガラスMGが作られる。この後、電極体208(
図3参照)を用いて溶融ガラスMGが通電加熱される。
清澄工程(ST2)は、清澄槽202において行われる。清澄槽202内の溶融ガラスMGが加熱されることにより、溶融ガラスMG中に含まれるO
2等の気泡は、清澄剤の還元反応により生成される酸素を吸収して成長し、液面に浮上して放出される。あるいは、気泡中の酸素等のガス成分が、清澄剤の酸化反応のために溶融ガラス中に吸収されて、気泡が消滅する。
均質化工程(ST3)では、第1配管204を通って供給された攪拌槽203内の溶融ガラスMGがスターラを用いて攪拌されることにより、ガラス成分の均質化が行われる。
供給工程(ST4)では、第2配管205を通して溶融ガラスMGが成形装置300に供給される。
【0015】
成形装置300では、成形工程(ST5)及び徐冷工程(ST6)が行われる。
成形工程(ST5)では、溶融ガラスMGがシート状ガラスに成形され、シート状ガラスの流れが作られる。本実施形態では、オーバーフローダウンドロー法を用いる。徐冷工程(ST6)では、成形されて流れるシート状ガラスが所望の厚さになり、内部歪が生じないように、さらに、熱収縮率が大きくならないように、冷却される。
切断工程(ST7)では、切断装置400において、成形装置300から供給されたシート状ガラスを所定の長さに切断することで、ガラス基板が得られる。切断されたガラス基板は、さらに所定のサイズに切断され、目標サイズのガラス基板が作られる。この後、ガラス基板は、端面の研削および研磨がされた後、洗浄が行われ、さらに気泡や脈理等の異常欠陥の有無が検査され、検査合格品のガラス基板が最終製品として梱包される。
【0016】
図3は、溶解工程を行う溶解槽201を説明する図である。
溶解槽201は、耐火レンガである耐火物部材により構成された壁210を有する。溶解槽201は、壁210で囲まれた内部空間を有する。溶解槽201の内部空間は、上記空間に投入されたガラス原料が溶解してできた溶融ガラスMGを加熱しながら収容する液槽Bと、溶融ガラスMGの上層に形成され、ガラス原料が投入される、気相である上部空間Aとを有する。
上部空間Aの壁210には、燃料と酸素等を混合した燃焼ガスが燃焼して火炎を発するバーナー206が設けられる。バーナー206は火炎によって上部空間Aの耐火物部材を加熱して壁210を高温にする。ガラス原料は、高温になった壁210の輻射熱により、また、高温となった気相の雰囲気により加熱されて溶解する。
【0017】
溶解槽201の液槽Bの向かい合う壁210,210には、それぞれ3つの貫通孔210aが設けられている。貫通孔210aには、酸化錫あるいはモリブデン等の耐熱性を有する導電性材料で構成された3対の電極体208が配置されている。本実施形態においては、電極体208は酸化錫により構成されている。3対の電極体208はいずれも、貫通孔210aを通して溶解槽201の外側から液槽Bの内壁面に向かって延びている。
【0018】
3対の電極体208のそれぞれの対のうち、図中奥側の電極体は図示されていない。3対の電極体208の各対は、溶融ガラスMGを通してお互いに対向するように、貫通孔210aに配置されている。各対の電極体208は、正電極、負電極となってこの電極間の溶融ガラスMGに電流を流す。この通電により溶融ガラスMGにジュール熱が発生し、溶融ガラスMGは自ら発するジュール熱により加熱される。溶解槽201では、溶融ガラスMGは例えば1500℃以上に加熱される。加熱された溶融ガラスMGは、ガラス供給管を通して清澄槽202へ送られる。
【0019】
本実施形態では、溶解槽201には3対の電極体208が設けられるが、1対、2対あるいは4対以上の電極体が設けられてもよい。すなわち、本実施形態では、少なくとも一対の貫通孔210a,210aの各々に電極体208を設けた溶解槽201を用い、溶解槽201に収納したガラスを溶解する。
【0020】
以下、鉛直方向をz軸とし、xy平面が水平面であるxyz直交座標系を用いて説明する。
図3に示すように、溶解槽201の液槽Bの向かい合う壁210,210は、yz平面と平行に設けられている。
図4は、溶解槽201の電極体208及び貫通孔210a近傍のxz平面に平行な断面図である。
図5は、電極体208及び貫通孔210a近傍のxy平面に平行な断面図である。
図6は、電極体208及び貫通孔210a近傍をx方向から見た正面拡大図である。
図4から
図6では、電極体208に設けられるコネクタ等の図示は省略されている。
【0021】
電極体208は、複数の長尺状の電極体要素208aを一方向に延びるように束ねた複合体であり、電極体要素208aの各々が溶融ガラスMGに通電する。電極体208の先端面208f及び後端面208bは、電極体208の中心軸C1と垂直になるように構成されている。
図4から
図6では、縦方向に4段、横方向に4列、合計16本の電極体要素208aで構成されている。電極体要素208aからなる複合体としての電極体208は、本実施形態のように、縦方向に4段、横方向に4列、合計16本の電極体要素208aで構成されることに限定されず、合計本数、縦方向の段数、横方向の列数は特に制限されない。例えば、電極体208は、1つの電極体要素208aで構成されてもよい。
【0022】
図4及び
図5に示すように、溶解槽201の壁210は、耐火レンガである耐火物部材が積層されて構成されている。壁210には、貫通孔210aが設けられている。貫通孔210aの中心軸C1及び貫通孔210aの壁面は、x軸と平行に設けられている。すなわち、貫通孔210aの中心軸C1及び貫通孔210aの壁面は、yz平面と平行な壁210と垂直に設けられている。
【0023】
この貫通孔210aに電極体208が挿入されて設置されている。すなわち、電極体208は、液槽Bの内壁面に向かって延びて、壁210を構成する電極体208周りの耐火物部材、具体的には、電極体208の図中の下方、上方、及び側方にある耐火物部材によって保持されている。
図4及び
図5において、電極体208の中心軸C2は、貫通孔210aの中心軸C1と一致している。
【0024】
電極体208は、設置時に、先端面208fの位置が液槽Bの内壁面(壁210の内表面)の位置P0に合せられている。すなわち、電極体208の先端面208fと溶解槽201の内壁面とは段差なく隣接している。すなわち、先端面208fは、液槽Bの内壁面と同一の平面上に配置することができる。なお、電極208の先端面208fは、ある程度、貫通孔210aから液槽Bの内側に突出するように配置しても良いが、先端面208fの位置を液槽Bの内壁面の位置P0に合せることで、電極体208の浸食および溶解槽201の壁210を構成する耐火物部材の浸食を低減することができる。
【0025】
電極体208は、溶融ガラスMGを通電加熱することで、溶融ガラスMGに接する先端部が溶融ガラスMGによって浸食されて磨耗し、
図4及び
図5に示すように、先端面208fの位置が液槽Bの内壁面の位置P0よりも溶解槽201の外側へ後退していく。このように、電極体208の先端面208fが液槽Bの内壁面から貫通孔210aの内側に窪んだ状態になると、対向する電極体208,208間の電圧が上昇するだけでなく、電極体208の近傍の壁210が浸食されやすくなる。そのため、溶解槽201の外側には、電極体208を溶融ガラスMG方向へ押し込むための押圧構造220が設けられている。
【0026】
押圧構造(押圧部材)220は、電極体208の後端面208bに配置された水平治具221および垂直治具222と、垂直治具222に押圧力を作用させるウォームジャッキ223と、基準面設定装置224と、測定ゲージ225と、を備えている。
図6に示すように、水平治具221は、水平方向に隣接するすべての電極体要素208aに掛け渡され、電極体要素208aの最も上の段から最も下の段までの各段にそれぞれ設けられている。垂直治具222は、上下方向に隣接する水平治具221の各々に掛け渡されている。
【0027】
図4及び
図5に示すように、ウォームジャッキ223は、フランジ部223aと、押圧軸223bと、駆動部223cとを備えている。フランジ部223aは、溶解槽201の外側に設けられた不図示のフレーム状の構造体の任意の位置に固定できるように設けられ、ボルトなどにより電極体208に対向する面の傾きが調整できるようになっている。押圧軸223bは、フランジ部223aに対して垂直に設けられ、外周面に台形ネジが形成されている。駆動部223cは、歯車を有するウォームギアを備えている。歯車は、内周部に台形ネジが形成されて押圧軸223bの台形ネジに螺合されている。駆動部223cに不図示のハンドルを取り付けて回転させるとウォームギアの歯車が回転し、押圧軸223bが台形ネジの作用によりフランジ部223aと垂直な方向に前進及び後退する。ウォームジャッキ223は、押圧軸223bの先端を垂直治具222に当接させた状態で、押圧軸223bをx軸負方向に前進させることで、垂直治具222及び水平治具221を介して電極体208の後端面208bに押圧力を作用させる。本実施形態では、ウォームジャッキ223が1つ設置されているが、ウォームジャッキ223の設置数は2つ以上であっても良い。
【0028】
図4に示すように、基準面設定装置224は、例えば市販のレーザー墨出し器あるいはレーザー水準器を用いることができる。基準面設定装置224は、本体224aから鉛直面および水平面に沿ってレーザー光を照射することで、周囲の空間に基準面あるいは基準線を設定できるように構成されている。本実施形態では、
図3に示すように、溶解槽201の壁210と平行で、壁210から所定の距離D0だけ離れた鉛直面を基準面Rとして設定する。すなわち、基準面Rはyz平面と平行に設定されている。また、溶解槽201の壁210に設けられた貫通孔210aの中心軸C1及び貫通孔210aの壁面は、壁210と垂直に設けられている。そのため、基準面Rは、貫通孔210aの中心軸C1及び貫通孔210aの壁面に対して垂直である。
測定ゲージ(測定器)225は、2点間の距離を測定可能なゲージであり、電極体208の後端面208b上の任意の点と基準面Rとの距離を測定する。
【0029】
図4及び
図5に示すように、電極体208は、先端部が溶解槽201の液槽Bの壁210に設けられた貫通孔210aに挿入され、後端部が貫通孔210aから溶解槽201の外側に突出した状態で配置される。電極体208の後端部の下方には、溶解槽201の外側に突出した電極体208の少なくとも一部を、貫通孔210aの中心軸C1に交差するz方向から支持する電極支持台230が設けられている。
【0030】
図4及び
図6に示すように、電極支持台230は、台座部231と、昇降部232と、調節ネジ233と、絶縁部234と、電極支持部235と、により構成されている。台座部231は、調節ネジ233を介して昇降部232を支持している。昇降部232は、調節ネジ233により、鉛直方向(z方向)に昇降するように構成されている。昇降部232上には、絶縁体からなる絶縁部234が配置されている。絶縁部234上には、耐火レンガからなる電極支持部235が配置されている。電極支持台230は、調節ネジ233により昇降部232を昇降させて、電極支持部235を適切な高さにすることで、電極体208の中心軸C2が水平になるように電極体208を支持している。
【0031】
次に、本実施形態の作用について説明する。
図1に示すガラス基板の製造方法の溶解工程(ST1)においては、溶解槽201の液槽Bの壁210の貫通孔210aに電極体208を配置した後、溶解槽201内にガラス原料が供給される。ガラス原料は、バーナー206が発する火焔によって加熱されて溶解して、溶融ガラスMGが液槽Bに蓄えられる。その後、電極体208を用いて溶融ガラスMGが通電加熱される。溶融ガラスMGの通電加熱を長期間継続すると、電極体208の先端部が溶融ガラスMGによって浸食される。これにより、
図4及び
図5に示すように、電極体208の先端面208fの位置が、初期の位置P0から貫通孔210aの内側へ後退する。
【0032】
このように、少なくとも一対の貫通孔210aに酸化錫からなる電極体208を設けた溶解槽201に収納したガラスを溶解する方法においては、短小化した電極体208を溶解槽201内の溶融ガラスMG方向に押し出す工程が必要になる。以下、電極体208を溶解槽201内の溶融ガラスMG方向に押し出す工程について説明する。
【0033】
図7は、xz平面に平行な断面図であり、(a)は押し込み前の電極体208の周辺を示す断面図、(b)は押し込み後の電極体208の周辺を示す断面図である。
図8は、xy平面に平行な断面図であり、(a)は押し込み前の電極体208の周辺を示す断面図、(b)は押し込み後の電極体208の周辺を示す断面図である。なお、
図7において、電極支持台230の図示は省略している。
図7の(a)に示すように、電極体208は、鉛直面内において、その中心軸C2が、貫通孔210aの中心軸C1に対して傾く場合がある。また、
図8の(a)に示すように、電極体208は、水平面内において、その中心軸C2が、貫通孔210aの中心軸C1に対して傾く場合がある。
【0034】
本実施形態においては、xz平面(鉛直面)内における貫通孔210aの中心軸C1に対する電極体208の中心軸C2の傾きを上下の傾きとし、xy平面(水平面)内における貫通孔210aの中心軸C1に対する電極体208の中心軸C2の傾きを左右の傾きとする。なお、
図7に示すxz平面内において、電極体208の中心軸C2の傾きが正の場合、電極体208の中心軸C2は貫通孔210aの中心軸C1あるいはx軸に対して上に傾いているといい、電極体208の中心軸C2の傾きが負の場合、電極体208の中心軸C2は貫通孔210aの中心軸C1あるいはx軸に対して下に傾いているという。また、
図8に示すxy平面において、電極体208の中心軸C2の傾きが正の場合、電極体208の中心軸C2は貫通孔210aの中心軸C1あるいはx軸に対して右に傾いているといい、電極体208の中心軸C2の傾きが負の場合、電極体208の中心軸C2は貫通孔210aの中心軸C1あるいはx軸に対して左に傾いているという。
【0035】
このように電極体208の中心軸C2が貫通孔210aの中心軸C1に対して傾く要因としては、例えば、溶解槽201の温度上昇による壁210の熱膨張、電極体208の後端部の自重、ウォームジャッキ223のフランジ部223aの固定不良、ウォームジャッキ223のフランジ部223aが固定されている不図示の構造体の反りなどがある。
電極体208の中心軸C2が貫通孔210aの中心軸C1に対して傾いた状態で、電極体208の押圧方向を適切に決定せずに、電極体208を溶融ガラスMG方向に押し出すと、電極体208と貫通孔210aとの間に大きな摩擦力が発生し、電極体208の押し込みに大きな力が必要になる。このような状態で電極208を貫通孔210aに押し込むと、溶解槽201の液槽Bの壁210が大きな力を受けて損傷するおそれがある。
【0036】
そこで、本実施形態においては、短小化した電極体208を押圧構造220によって溶解槽201内の溶融ガラスMG方向へ押し出す際、貫通孔210aの中心軸C1に対する電極体208の後端面208bの傾きを測定する測定工程を実施する。
【0037】
具体的には、
図7の(a)に示すように、基準面Rと電極体208の後端面208bとの間のx方向の距離を、z方向の複数の個所で測定する。本実施形態では、測定ゲージ225の先端を電極体208の後端面208bに当接させ、水平器や基準面設定装置224を用いて測定ゲージ225をx軸と平行に保つ。この状態で、基準面設定装置224から基準面Rを示すレーザー光が照射された測定ゲージ225の目盛りを読むことで、電極体208の後端面208bと基準面Rとの間のx方向の距離を測定する。これをz方向の複数の箇所で行って、電極体208の後端面208bと基準面Rとの間のx方向の距離D1,D2を測定することにより、電極体208の後端面208bのxz面内における傾きが求められる。なお、電極体208の後端面208bと基準面Rとの間のx方向の距離の測定は、3箇所以上で行うことが好ましい。
ここで、電極体208の後端面208bは、電極体208の中心軸C2と垂直に設けられている。また、貫通孔210aの中心軸C1は、x軸と平行である。したがって、xz平面内における電極体208の後端面208bの傾きから、xz平面内における電極体208の中心軸C2の傾きが求められ、さらにxz平面内における貫通孔210aの中心軸C1に対する電極体208の中心軸C2の傾きが求められる。
【0038】
同様に、
図8(a)に示すように、基準面Rと電極体208の後端面208bとの間のx方向の距離を、y方向の複数の点で測定する。本実施形態では、例えば、測定ゲージ225の先端を電極体208の後端面208bの左端と右端に当接させて、電極体208の後端面208bと基準面Rとの間のx方向の距離D3,D4を測定する。これにより、xy平面内における電極体208の後端面208bの傾きが求められ、さらにxy平面内における貫通孔210aの中心軸C1に対する電極体208の中心軸C2の傾きが求められる。
【0039】
このようにして、貫通孔210aの中心軸C1に対する電極体208の傾きを測定した後、測定工程で得られた測定結果に基づいて押圧構造(押圧部材)220による電極体208の後端面208bの押圧方向を決定する決定工程を実施する。決定工程においては、好ましくは、電極体208の後端面208bの傾きを低減させるように、押圧方向を決定する。また、決定工程においては、好ましくは、後端面208bの押圧方向とともに、後端面208bの押圧位置を決定する。
【0040】
具体的には、
図7の(a)に示すように、押圧構造220による電極体208の後端面208bの押圧方向を決定する。本実施形態においては、電極体208の後端面208bの傾きを測定する場合と同様に、
図7(a)及び
図8(a)に示すように、ウォームジャッキ223のフランジ部223aと基準面Rとの間の距離d1,d2,d3,d4を、測定ゲージ225によりz方向及びy方向の複数の箇所で測定して、フランジ部223aの基準面Rに対する傾きを求める。なお、フランジ部223aと基準面Rとの間の距離の測定は、3箇所以上で行うことが好ましい。
次に、フランジ部223aが基準面Rと平行になるように、不図示の調節ネジによりフランジ部223aの傾きを調整する。これにより、ウォームジャッキ223の押圧軸223bによる電極体208の後端面208bの押圧方向が、x軸と平行になるようにしている。すなわち、電極体208の後端面208bの押圧方向は、貫通孔210aの中心軸C1と平行である。
【0041】
また、上記のように押圧方向の決定とともに、押圧位置を決定してもよい。あるいは、押圧方向の決定を行わず、押圧位置の決定を行うこともできる。押圧位置の決定は、以下のように行うことができる。電極体208の中心軸C2が貫通孔210aの中心軸C1に対して下に傾いている場合、ウォームジャッキ223を移動させて、押圧軸223bによる電極体208の後端面208bの押圧位置が、中心軸C2よりも上になるようにする。逆に、電極体208の中心軸C2が貫通孔210aの中心軸C1に対して上に傾いている場合、ウォームジャッキ223を移動させて、押圧軸223bによる電極体208の後端面208bの押圧位置が中心軸C2よりも下になるようにする。また、
図8の(a)に示すように、電極体208の中心軸C2が貫通孔210aの中心軸C1に対して右に傾いている場合、ウォームジャッキ223を移動させて、押圧軸223bによる電極体208の後端面208bの押圧位置が中心軸C2よりも左になるようにする。逆に、電極体208の中心軸C2が貫通孔210aの中心軸C1に対して左に傾いている場合、ウォームジャッキ223を移動させて、押圧軸223bによる電極体208の後端面208bの押圧位置が中心軸C2よりも右になるようにする。
すなわち、押圧構造220による電極体208の後端面208bの押圧位置は、電極体208の中心軸C2を基準として、電極体208の中心軸C2が貫通孔210aの中心軸C1に対して傾いている方向と反対側に決定する。
【0042】
上記のように、電極体208の後端面208bの押圧位置及び/または押圧方向を決定した後、押圧部材220によって電極体208の後端面208bを押圧する押圧工程を実施する。具体的には、水平治具221及び垂直治具222を介して、ウォームジャッキ223の押圧軸223bにより、電極体208の後端面208bを押圧する。
【0043】
このとき、
図7の(a)および
図8の(a)に示すように、本実施形態では、電極体208の後端面208bの押圧方向は、貫通孔210aの中心軸C1と平行である。そのため、電極体208の中心軸C2が貫通孔210aの中心軸C1に対して傾いている場合であっても、電極体208を貫通孔210aの中心軸C1に沿って押し込むことで、電極体208の中心軸C2の傾きを低減することができる。したがって、電極体208を貫通孔210aに押し込む際の電極体208と貫通孔210aとの間の摩擦抵抗を低減させることができる。
【0044】
また、本実施形態では、押圧部材220の押圧位置は、電極体208の中心軸C2を基準として、電極体208の中心軸C2が貫通孔210aの中心軸C1に対して傾いている方向と、反対側に決定されている。そのため、電極体208を押圧構造220により押圧すると、電極体208には、電極体208の貫通孔210aの中心軸C1に対する電極体208の中心軸C2の傾きを低減させるような回転力が作用する。したがって、電極体208の中心軸C2が貫通孔210aの中心軸C1に対して傾いている場合であっても、電極体208を溶融ガラスMG方向に押し出すに従って、貫通孔210aの中心軸C1に対する電極体208の中心軸C1の傾きが低減される。これにより、
図7(b)及び
図8(b)に示すように、電極体208の先端面208fが目的の位置P0に達するまで、電極体208を溶融ガラスMG方向に押し出す際に、貫通孔210aの中心軸C1と電極体208の中心軸C2とが一致するように、電極体208を貫通孔210aに押し込むことができる。よって、電極体208と貫通孔210aとの間の摩擦抵抗が低減され、溶解槽201の液槽Bの壁210が電極体208の押し込みによって損傷することが防止され、溶解槽201を用いて長期間に亘り安定的にガラスを溶解することができる。
【0045】
また、本実施形態においては、押圧構造220によって電極体208の後端面を押圧する際に、溶解槽201の外側に突出した電極体208の少なくとも一部を、貫通孔210aの中心軸C1に交差する方向から支持する電極支持台230が設けられている。そのため、電極体208を溶融ガラスMG方向に押し出す際に、電極体208の中心軸C2が貫通孔210aの中心軸C1に対して下に傾くことが防止される。また、電極支持台230の高さが調節可能に設けられているので、電極支持台230の高さを適切に設定することで、電極体208が自重によって傾くことがより効果的に防止される。
【0046】
以上説明したように、本実施形態のガラスの溶解方法、ガラス基板の製造方法及びガラスの溶解装置によれば、溶解槽201の貫通孔208aに電極体208を押し込む際の電極体208と貫通孔208aとの間の摩擦抵抗を低減し、溶解槽201を用いて長期間に亘り安定的にガラスを溶解することができる。
【0047】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよい。
例えば、電極体208の押し込みは、複数回に分け、後端面208bの傾きを測定する工程と押圧構造220の押圧位置または押圧方向を決定する工程とを繰り返して行うことができる。これにより、貫通孔210aの中心軸C1に対する電極体208の中心軸C1の傾きを測定しつつ、押圧構造220による押圧位置および押圧方向を微調整することができる。
また、電極体208の後端面208bの傾きの程度によっては、上記のように押圧位置を適切に決定した後、押圧方向を変更せず、そのまま電極体208を押圧構造220によって貫通孔210aに押し込んでも良い。
また、押圧位置を変更せず、押圧方向のみを最適な方向に決定することもできる。この場合、押圧方向は、xz平面およびxy平面における貫通孔210aの中心軸C1に対して電極体208の中心軸C2が傾いている方向と逆の方向を向くように設定する。これにより、電極体208に、貫通孔210aの中心軸C1に対する電極体208の中心軸C2の傾きを低減する回転力を作用させ、貫通孔210aの中心軸C1に対する電極体208の中心軸C2の傾きを低減することができる。
電極体208の後端面208bの押圧方向は、電極体208の後端面208bの傾きを低減することができる方向であれば、貫通孔210aの中心軸C1と平行でなくてもよい。例えば、
図7の(a)に示すように、電極体208の中心軸C2が貫通孔210aの中心軸C1あるいはx軸に対して下に傾いている場合、ウォームジャッキ223の押圧軸223bによる電極体208の後端面208bの押圧方向が、斜め上方を向くように押圧方向を決定してもよい。逆に、電極体208の中心軸C2が貫通孔210aの中心軸C1あるいはx軸に対して上に傾いている場合、ウォームジャッキ223の押圧軸223bによる電極体208の後端面208bの押圧方向が、斜め下方を向くように押圧方向を決定してもよい。また、
図8の(a)に示すように、電極体208の中心軸C2が貫通孔210aの中心軸C1あるいはx軸に対して右に傾いている場合、ウォームジャッキ223の押圧軸223bによる電極体208の後端面208bの押圧方向が、斜め左方を向くように押圧方向を決定してもよい。逆に、電極体208の中心軸C2が貫通孔210aの中心軸C1あるいはx軸に対して左に傾いている場合、ウォームジャッキ223の押圧軸223bによる電極体208の後端面208bの押圧方向が、斜め右方を向くように押圧方向を決定してもよい。このように、電極体208が傾いている方向と逆の方向に押圧方向を決定することで、電極体208に傾きを低減する回転力を作用させ、電極体208の傾きを低減することができる。
また、上述の実施形態では、押圧構造220は、水平治具221及び垂直治具222を介して電極体208の後端面208bを押圧する構成としたが、例えば格子状の治具や板状の一体的に形成された治具を用いて電極体208の後端面208bを押圧しても良い。
また、上述の実施形態では、測定器として測定ゲージ225を用いる例を説明したが、基準面Rと電極体の後端面208bとの間の距離を複数の点で測定可能なものであれば、測定器として光学式など、非接触式の距離センサーを用いても良い。また、水平治具221の後端面に加速度センサーを設けて、この加速度センサーを用いて重力加速度を測定することにより、電極の後端面の傾きを求めても良い。
また、上述の実施形態では、電極支持台230は、電極体208を下方から支持する構成とした。しかし、電極体208を指示する方向は、溶解槽201の外側に突出した電極体208の少なくとも一部を、貫通孔210aの中心軸C1に交差する方向から支持する構成であれば、特に限定されない。例えば、電極体208の後端部を上方から吊り下げて支持したり、斜め方向から支持したりしてもよい。