【解決手段】ベンズ[d][1,3]オキサジン誘導体マレイン酸塩を含有する吸入用製剤であって、当該有効成分が、粉末X線回折において、回折角(2θ±0.5°)として、8.4°に特徴的なピークを有する結晶であり、7.7°に特徴的なピークを有する結晶は実質的に含まない有効成分であり、当該担体粒子の累積10%粒子径が20μm以上である、吸入粉末剤。
【背景技術】
【0002】
ヒト好中球エラスターゼは、感染症又は炎症性疾患の場合に出現する好中球の顆粒から放出されるセリンヒドロラーゼの一種である。好中球エラスターゼは、エラスチン、コラーゲン、プロテオグリカン、フィブロネクチン又は、肺、軟骨、血管壁もしくは皮膚のような生体内の結合組織の間質を構成する他のタンパク質を加水分解する酵素である。
【0003】
生体において、好中球エラスターゼのようなセリンヒドロラーゼは生体のホメオスタシスを維持する。また、セリンヒドロラーゼの活性は、α1-プロテアーゼインヒビター、α2-マクログロブリン又は分泌型白血球プロテアーゼインヒビターのような内在性タンパク質性インヒビターによって制御される。しかしながら、好中球エラスターゼと内在性インヒビター間の平衡が、炎症部位における好中球エラスターゼの過剰な放出、あるいはインヒビターレベルの低下によって失われた場合、好中球エラスターゼ活性の制御を維持することができず、組織が損なわれる。
【0004】
優れたセリンヒドロラーゼ阻害剤として、ベンズ[d][1,3]オキサジン誘導体が知られており(特許文献1)、そのマレイン酸塩は、原薬安定性、溶解性及び結晶性に優れていることが知られている(特許文献2)。
セリンヒドロラーゼが関与する疾患としては、肺気腫、急性呼吸窮迫症候群、成人呼吸窮迫症候群(ARDS)、特発性間質性肺炎(IIP)、嚢胞性肺線維症、慢性間質性肺炎、慢性気管支炎、慢性気道感染、びまん性汎細気管支炎、気管支拡張症、喘息等が挙げられ、これらの疾患の標的部位である気道下部に、直接的に有効成分を送達できる投与形態として、吸入剤が期待されていた。
【0005】
吸入剤の剤形として、ネブライザー、加圧式定量噴霧吸入器(Metered Dose Inhaler,MDI)及び吸入粉末剤(Dry Powder Inhaler,DPI)が挙げられる。ネブライザーは液状の有効成分を霧状にしたものを、患者の自発呼吸下で吸入するタイプの剤形であるが、一般に高価で携帯に不便である。加圧式定量噴霧吸入器は、有効成分が充填されている缶(ボンベ)を強く押すことで、噴霧されるタイプの剤形であるが、噴霧と吸気を同調させる必要があり、吸入技術が必要となる。また、噴射剤として、オゾン層の破壊や地球温暖化の原因となるフロン類を使用しており、地球環境上好ましくない。一方、吸入粉末剤は、粉末状の有効成分を患者の自発呼吸下で吸入するタイプの剤形であり、患者の好適なタイミングで吸い込むことができる。また、ネブライザーに比べ安価に製造でき、持ち運びも容易である。
【0006】
吸入粉末剤は、有効成分を気管、気管支等の気道下部に到達させるため、0.5〜5μm程度の有効成分微粒子を用いる(非特許文献2乃至4、特許文献3乃至7)。しかし、有効成分微粒子そのものを吸入容器に充填すると、付着性及び凝集性が高いため、有効成分微粒子が凝集した粒子径の大きな塊の生成や、容器の壁への付着が起き、効率よく有効成分微粒子が放出されない。これらの問題を解決する手段として、造粒法とキャリア法がある。造粒法とは、有効成分微粒子を柔らかく造粒した造粒物を使用する方法で、容器内から当該造粒物が吸入されると、造粒物から構成有効成分微粒子が分離し、分離した有効成分微粒子が標的部位まで到達し、薬効を示す。一方、キャリア法は、有効成分微粒子と乳糖等の担体粒子(キャリア)の混合物を使用する方法である。容器内では、有効成分微粒子は担体粒子に付着しているが、患者に吸入されると、有効成分微粒子は担体粒子から分離し、分離した有効成分微粒子が標的部位まで到達し、薬効を示す。一般にキャリア法は、造粒法よりも製造方法が容易であり、汎用性が高い。
【0007】
吸入粉末剤のキャリア法においては、製造の際及び容器内に保存されている際には、有効成分微粒子が担体粒子に付着し、安定な混合物を形成することが重要である。しかし、その一方で、吸入の際には、有効成分微粒子が容易に担体粒子から分離し、放出される必要がある。有効成分微粒子が分離しないと、有効成分微粒子は担体粒子に付着した状態のまま、標的部位である気道下部に到達する前に、口腔、咽喉等に沈着してしまい、肺への到達率が低下する結果となる。
【0008】
吸入粉末剤のキャリア法において、吸入特性を上げ、効率的に標的部位に有効成分を送達させる方法として、球形度0.9以上に成型した有効成分微粒子を使用し、有効成分微粒子と担体粒子間の付着力を最適化する方法(特許文献3)、微粉化乳糖を添加する方法(特許文献4〜6、非特許文献1〜3)、ステアリン酸塩を添加する方法(特許文献7〜9、非特許文献3〜4)、アミノ酸やポリペプチドを添加する方法(特許文献10)、担体粒子を、ソルビタン脂肪酸エステルなど帯電防止剤でコートする方法(特許文献11)、担体粒子表面を加工する方法(特許文献12)が知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ベンズ[d][1,3]オキサジン誘導体マレイン酸塩を有効成分とした、吸入特性の優れた吸入粉末剤を提供することにある。従来から、有効成分を球形に成型することで、有効成分微粒子同士の凝集、及び有効成分微粒子と担体粒子との付着力を最適化し、気管、気管支、肺への沈着効率を改善する方法は知られていたが(特許文献3)、有効成分を球形に成型するために、造粒する等の複雑な工程が必要であった。本発明の目的は、より簡便で安価な方法により、吸入特性の優れた吸入粉末剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を行った結果、ベンズ[d][1,3]オキサジン誘導体マレイン酸塩のうち、特定の結晶の粉砕物を使用することにより、優れた吸入特性を持つ吸入粉末剤が得られることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである
〔1〕式(1)
【0013】
【化1】
【0014】
で表される有効成分及び担体粒子を含有する吸入用製剤であって、
当該有効成分が、粉末X線回折において、回折角(2θ±0.5°)として、8.4°に特徴的なピークを有する結晶であり、7.7°に特徴的なピークを有する結晶は実質的に含まない有効成分であり、
当該担体粒子の累積10%粒子径が20μm以上である、吸入粉末剤。
〔2〕前記有効成分が、
図2に示される粉末X線回折パターンと同じ粉末X線回折パターンを有する2−{2−((S)−3−ジメチルアミノピロリジン−1−イル)ピリジン−3−イル}−5−エチル−7−メトキシ−4H−ベンズ〔d〕〔1,3〕オキサジン−4−オン・1マレイン酸塩である、〔1〕に記載の吸入粉末剤。
〔3〕前記有効成分の0.5〜5.0μmの範囲にある粒子頻度が65%以上である、〔1〕または〔2〕に記載の吸入粉末剤。
〔4〕前記有効成分の累積50%粒子径が3μm以下である、〔1〕乃至〔3〕のいずれか1項に記載の吸入粉末剤。
〔5〕さらに、微粉化糖類を含有する〔1〕乃至〔4〕のいずれか1項に記載の吸入粉末剤。
〔6〕前記微粉化糖類の累積50%粒子径が5μm以下である、〔5〕に記載の吸入粉末剤。
〔7〕前記微粉化糖類が乳糖である、〔5〕または〔6〕に記載の吸入粉末剤。
〔8〕前記担体粒子が乳糖である、〔1〕乃至〔7〕のいずれか1項に記載の吸入粉末剤。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、優れた吸入特性を有し、かつ含量均一性試験に適合する、ベンズ[d][1,3]オキサジン誘導体マレイン酸塩の吸入粉末剤の提供が可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0019】
で表される2−{2−((S)−3−ジメチルアミノピロリジン−1−イル)ピリジン−3−イル}−5−エチル−7−メトキシ−4H−ベンズ〔d〕〔1,3〕オキサジン−4−オン・1マレイン酸塩(以下化合物1)には、粉末X線回折において回折角(2θ±0.5°)として、14.8°付近に特徴的なピークを有する結晶と、10.8°付近に特徴的なピークを有する結晶が知られている(特許文献2、WO2011/036895)。
【0020】
なお、14.8°付近に特徴的なピークを有する結晶は、当該ピークの他に、8.4°付近にも特徴的なピークを有する。粉末X線回折パターンを
図2に示す。また、10.8°付近に特徴的なピークを有する結晶は、当該ピークの他に、7.7°付近にも特徴的なピークを有する。前者の結晶は後者の結晶に比べ、融点が高いため、前者の結晶を高融点結晶、後者の結晶を低融点結晶と記載する。
化合物1が、高融点結晶と低融点結晶の混合物である場合、当該混合物の粉末X線回折パターンを測定し、8.4°のピーク強度(高融点結晶由来)に対する7.7°のピーク強度(低融点結晶由来)の割合により、低融点結晶がどれだけ含まれているのかを判別可能である。
【0021】
本件発明で用いる有効成分は、上記の高融点結晶を用い、低融点結晶は実質的に含まない。換言すると、式(1)で現される有効成分が、粉末X線回折において、回折角(2θ±0.5°)として、8.4°に特徴的なピークを有する結晶を用い、7.7°に特徴的なピークを有する結晶は実質的に含まない有効成分を用いる。
【0022】
本件明細書において、「7.7°に特徴的なピークを有する結晶は実質的に含まない有効成分」とは、使用する有効成分の粉末X線回折パターンを測定した際に、7.7°のピーク強度が、8.4°のピーク強度に対し、0.25以下であることを意味する。
【0023】
吸入特性の向上という観点から、8.4°に特徴的なピークを有する結晶(高融点結晶)の含有割合は高い方が好ましい。より好ましくは、7.7°のピーク強度(低融点結晶由来)が、8.4°のピーク強度(高融点結晶由来)に対し、0.15以下、より好ましくは0.05以下、特に好ましくは0.01以下であることが挙げられる。
【0024】
吸入特性が高く、効率的に標的部位に有効成分を送達させるためには、本件発明で使用する有効成分は、0.5〜5.0μmの範囲にある粒子頻度が65%以上であることが好ましい。さらに好ましくは75%以上100%以下である。高融点結晶を使用した場合、ジェットミル粉砕、ビーズミル粉砕、ボールミル粉砕、ハンマーミル粉砕等のミル粉砕等の簡便な操作により、0.5〜5.0μm粒子頻度が65%以上の粒子頻度を有する有効成分を得ることができる。ミル粉砕のうち、好ましくはジェットミル粉砕が挙げられる。
【0025】
また同様に、吸入特性が高く、効率的に標的部位に有効成分を送達させるためには、本件発明で使用する有効成分の累積50%粒子径が3μm以下であることが好ましい。さらに好ましくは、当該粒子径が3μm以下0.5μm以上であること、より好ましくは2.5μm以下0.5μm以上であることが挙げられる。高融点結晶を使用した場合、ジェットミル粉砕、ビーズミル粉砕、ボールミル粉砕、ハンマーミル粉砕等のミル粉砕等の簡便な操作により累積50%粒子径が2.5μm以下の有効成分を得ることができる。ミル粉砕のうち、好ましくはジェットミル粉砕が挙げられる
【0026】
本件明細書において、担体粒子とは、有効成分を付着させる核粒子を意味し、例えば、乳糖、ブドウ糖、ショ糖、マルトース、トレハロース、デキストランなどの糖、または、マンニトール、キシリトール、エリスリトールなどの糖アルコールが挙げられ、このうち1種または2種以上の担体粒子を任意に選択することができる。好ましくは、乳糖、ブドウ糖、ショ糖、マルトース、トレハロース、デキストランなどの糖が挙げられ、さらに好ましくは乳糖が挙げられる。
【0027】
本件発明では、担体粒子として、当該担体粒子の累積10%粒子径が20μm以上であるものを用いた場合、含量均一性試験に適合する製剤が得られる。そのうち、さらに好ましくは、累積10%粒子径が20μm以上でかつ累積50%粒子径が150μm以下である担体、より好ましくは累積10%粒子径が20μm以上でかつ累積50%粒子径が120μm以下である担体粒子、特に好ましくは累積10%粒子径が25μm以上でかつ累積50%粒子径が70μm以下である担体粒子が挙げられる。
【0028】
本件明細書において、微粉化糖類とは累積50%粒子径が10μm以下に粉砕された糖類を意味する。その中でも好ましくは、累積50%粒子径が5μm以下、さらに好ましくは3μm以下、特に好ましくは3μm以下0.5μm以上に粉砕された糖類が挙げられる。微粉化糖類としては、担体粒子と有効成分の付着力を調整できるものであれば特に制限されない。例えば、乳糖、ブドウ糖、ショ糖、マルトース、トレハロース、デキストランなどの糖、または、マンニトール、キシリトール、エリスリトール等の糖アルコール類が挙げられ、このうち1種または2種以上の微粉化糖類を任意に選択することができる。このうち、好ましくは、乳糖、ブドウ糖、ショ糖、マルトース、トレハロース、デキストランなどの糖が挙げられ、さらに好ましくは乳糖が挙げられる。微粉化糖類は、上記担体粒子と同一の糖類又は糖アルコール類を用いることができる。
【0029】
微粉化糖類を添加することにより、有効成分の担体粒子への付着力が弱まる。このため、吸入器から放出される際に、有効成分が担体粒子から容易に分離し、分離した有効成分は、口腔、咽喉等に沈着することなく、標的部位である気道下部に到達することができる。
【0030】
本件明細書において「累積50%粒子径」とは、1つの粉体の集団を仮定し、その粒度分布をレーザー回折法により求め、その粉体の集団の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブが50%となる点の粒子径を意味する。
【0031】
本件明細書において「累積10%粒子径」とは、1つの粉体の集団を仮定し,その粒度分布をレーザー回折法により求め、その粉体の集団の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブが10%となる点の粒子径を意味する。
【0032】
本件明細書において「有効成分の累積50%粒子径」及び「有効成分の累積10%粒子径」とは、第16改正日本薬局方に収載されているレーザー回折による粒子径測定法に準拠し、測定した値を意味する(測定機器:粒度分布計、日機装製、マイクロトラックMT3300EX)。
本件明細書において「担体粒子の累積50%粒子径」、「担体粒子の累積10%粒子径」、「微粉化糖類の累積50%粒子径」及び「微粉化糖類の累積10%粒子径」とは、レーザー回折法(Sympatec Laser Diffraction)により測定した値を意味する。
【0033】
本件明細書において、「0.5〜5.0μmの範囲にある粒子頻度」とは、第16改正日本薬局方に収載されているレーザー回折による粒子径測定法により頻度(%)を求め、粒子径区分0.5〜5.0μmの範囲の頻度(%)を和したものである。(測定機器:粒度分布計、日機装製、マイクロトラックMT3300EX)。
(実施例)
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0034】
なお、以下の実施例において、粉末X線は、以下の条件により測定した。
試料をシリコン無反射試料板の充填部に充填した。次いで、理学電機RINT2200型粉末X線回折装置を用いて試料の粉末X線回折を測定した。測定に使用する試料は、未粉砕品については、メノウ乳鉢で粉砕したものを用いた。粉砕品については、メノウ乳鉢での粉砕は行わず、粉砕品の状態でそのまま測定を行った。
【0035】
管電流:40 mA
管電圧:40 kV
走査速度:2°/min
X線:CuKα
発散スリット:1/2deg
受光スリット:0.15 mm
散乱スリット:1/2deg
対陰極:銅
走査範囲:5〜40
(参考例1)
化合物1の低融点結晶と高融点結晶の混在品(以下Intact品A)の製造
2−{2−((S)−3−ジメチルアミノピロリジン−1−イル)ピリジン−3−イル}−5−エチル−7−メトキシ−4H−ベンズ[d][1,3]オキサジン−4−オン(10.0g)のアセトン(180mL)溶液を外温30℃で撹拌した。内温30℃でマレイン酸3.09gを投入し、容器をアセトン20mLで洗い込んだ。撹拌しながら、反応生成物(1マレイン酸塩)を晶析させた。10分間混合液を撹拌した後、t−ブチルメチルエーテル(200mL)を混合液に加え、さらに内温45〜50℃で1時間加熱撹拌した。混合液を冷却しながら撹拌し、さらに内温15℃以下で10分間撹拌した後(内温6℃まで)、析出結晶をろ取し、t−ブチルメチルエーテル(50mL)で洗浄した。湿潤結晶を50℃で送風乾燥し、白色綿状晶の2−{2−((S)−3−ジメチルアミノピロリジン−1−イル)ピリジン−3−イル}−5−エチル−7−メトキシ−4H−ベンズ[d][1,3]オキサジン−4−オン・1マレイン酸塩11.7g(収率91%)を得た。
【0036】
得られた当該マレイン酸塩(10.0g)にアセトン(200mL)、水(10mL)を加え、外温45℃で撹拌しながら溶解させた。この溶液を熱時ろ過し、アセトン(30mL)、水(1.5mL)の混合溶媒でろ過器を洗浄した。ろ液を外温45℃で撹拌しながら、t−ブチルメチルエーテル(50mL)を当該ろ液に加え、冷却しながら撹拌し、1マレイン酸塩を晶析させた(晶析開始温度:内温27℃)。析出した1マレイン酸塩を含む混合液を内温23〜27℃で30分間撹拌した後、加熱しながら撹拌した。これにより、析出結晶の大部分を混合液に溶解させた(内温37℃)。
【0037】
次に、混合液を冷却しながら撹拌することにより、徐々に1マレイン酸塩を晶析させた。混合液にt−ブチルメチルエーテル(200mL)を滴下した後、加熱しながら撹拌し、内温40〜45℃で30分間撹拌した。続いて、混合液を徐々に冷却し、内温15℃以下で30分間撹拌した後(内温7℃まで)、析出結晶をろ取し、t−ブチルメチルエーテル50mLで洗浄した。湿潤結晶を40〜50℃で送風乾燥し、白色綿状晶の2−{2−((S)−3−ジメチルアミノピロリジン−1−イル)ピリジン−3−イル}−5−エチル−7−メトキシ−4H−ベンズ[d][1,3]オキサジン−4−オン・1マレイン酸塩8.36g(Intact品A、収率84%)を得た。粉末X線回折パターンを
図1に示す。なお、Intact品Aの粉末X線回折パターンにおいて、7.7°のピーク強度は、8.4°のピーク強度に対し、3.0である。
融点(熱板法):153〜163℃(融解)
(参考例2)
参考例1で得られたIntact品A(10g)をスーパージェットミル(SJ−100GMP、日清エンジニアリング製)にて粉砕し、粉砕物4.2gを得た。以下、ここで得られた粉砕物を、Mill品Aと記載する。
【0038】
(粉砕条件)
粉砕圧(MPa) :0.44〜0.46MPa
供給量(g/hr) :6.45
(参考例3)
化合物1の高融点結晶(以下Intact品B)の製造
参考例1で得られたIntact品A(12g)を褐色びんに秤量し、130℃に設定した送風定温恒温器(ヤマト科学製、DNF600型)に4時間曝露し、化合物1の高融点結晶(Intact品B)を得た。粉末X線回折パターンを
図2に示す。
(参考例4)
参考例3で得られたIntact品B(10g)をスーパージェットミル(SJ−100GMP、日清エンジニアリング製)にて粉砕し、粉砕物6.4gを得た。以下、ここで得られた粉砕物を、Mill品Bと記載する。
【0039】
(粉砕条件)
粉砕圧(MPa) :0.44〜0.46MPa
供給量(g/hr) :10.00
(試験例1)SEM観察
参考例1〜4で得られた結晶または粉砕物を、それぞれ、SEM(KEYENCE製、リアルサーフェスビュー顕微鏡)により観察した。観察結果を表1及び
図3〜6に示す。
【0041】
(試験例2)粒度分布測定
参考例2及び参考例4で得られた粉砕物の粒度分布を粒度分布計(日機装製、マイクロトラックMT3300EX)を用いて、以下の測定条件により求めた。結果を表2に示す。
測定条件
サンプル量:100mg
測定モード:乾式測定
測定時間:10秒
測定回数:1回
透過性:透過
粒子屈折率:1.81
形状:非球形
コンプレッサー圧:15psi
分散圧:3
【実施例1】
【0043】
褐色びんに乳糖(Respitose SV003、DFE Pharm製)5000mgを秤量し、ボルテックスミキサーを用いて1分間攪拌した。Mill品B50mgを秤量し、前記の褐色びんに添加して、ボルテックスミキサーを用いて15分間混合した。
【実施例2】
【0044】
褐色びんに乳糖(Respitose SV010、DFE Pharm製)5000mgを秤量し、ボルテックスミキサーを用いて1分間攪拌した。Mill品B50mgを秤量し、前記の褐色びんに添加して、ボルテックスミキサーを用いて15分間混合した。
【実施例3】
【0045】
褐色びんに乳糖(Respitose SV003、DFE Pharm製)5000mgを秤量し、微粉化乳糖(Respitose MC001、DFE Pharm製)500mgを添加した。ボルテックスミキサーを用いて10分間攪拌した。この乳糖混合物3000mgを褐色びんに秤量し、Mill品B50mgを添加して、ボルテックスミキサーを用いて15分間混合した。
(比較例1)
褐色びんに乳糖(Respitose ML001、DFE Pharm製)5000mgを秤量し、ボルテックスミキサーを用いて1分間攪拌した。Mill品B50mgを秤量し、前記の褐色びんに添加して、ボルテックスミキサーを用いて15分間混合した。
(比較例2)
褐色びんに乳糖(Respitose MC001、DFE Pharm製)5000mgを秤量し、ボルテックスミキサーを用いて1分間攪拌した。Mill品B50mgを秤量し、前記の褐色びんに添加して、ボルテックスミキサーを用いて15分間混合した。
(比較例3)
褐色びんに乳糖(Respitose SV003、DFE Pharm製)5000mgを秤量し、ステアリン酸マグネシウム96mgを添加した。ボルテックスミキサーを用いて30分間攪拌した。この乳糖混合物3000mgを褐色びんに秤量し、Mill品B31mgを添加して、ボルテックスミキサーを用いて15分間混合した。
(比較例4)
褐色びんに乳糖(Respitose SV003、DFE Pharm製)5000mgを秤量し、ボルテックスミキサーを用いて1分間攪拌した。Mill品A50mgを秤量し、前記の褐色びんに添加して、ボルテックスミキサーを用いて15分間混合した。
(試験例3)含量均一性試験
0.01、0.02、0.10、0.20、1.00、2.01、5.02、10.03、20.06及び24.07μg/mlの有効成分濃度を含む一連の標準溶液を調製した。なお有効成分はMill品A、希釈溶媒は水/液体クロマトグラフィー用メタノール混液(4:1)を用いた。これらの標準溶液を使用して有効成分のピーク面積に対して有効成分濃度の検量線を作成し、0.010〜24μg/mlの範囲で直線性良好であった。
【0046】
HPLC測定条件A:
分離カラム:内径4.6mm、長さ150mmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充てんした(ジーエルサイエンス製、Inertsil ODS−3V)
カラム温度:35℃
移動相:1−オクタンスルホン酸ナトリウム1.08gに薄めたリン酸(1→1000)を加え1000mLとした。当該溶液300mLに液体クロマトグラフィー用アセトニトリル200mLを加え、移動相とした。
流量:0.9mL/min
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:240nm)
注入量:20μL
面積測定範囲:8分間
保持時間:5分間
【0047】
実施例1乃至3及び比較例1乃至4からそれぞれ6サンプルを無作為に抽出した。サンプル20mgに、水/液体クロマトグラフィー用メタノール混液(4:1)15mLを加えて室温で10分間攪拌した後、水/液体クロマトグラフィー用メタノール混液(4:1)を加えて20mLとし、遠心分離器により遠心分離を行った(3000回転、10分間)。得られた上澄み液のHPLC測定を行い、サンプル量を測定した(HPLC測定条件Aにて測定を行った)。有効成分含量の相対標準偏差を使用して混合物の均一性を評価した。なお、平均含量が90〜110%であり、かつ相対標準偏差が15%以下の混合品を含量均一性が得られたと判断した。結果を表3に示す。
【0048】
【表3】
【0049】
有効成分の担体粒子として、RespitoseSV003またはRespitoseSV010を使用した実施例1乃至3及び比較例4は、含量均一性試験に適合した。一方、担体粒子としてRespitoseML001を使用した比較例1、またはRespitoseMC001を使用した比較例2の場合は、含量均一性試験に不適合であった。表4に、使用した担体粒子(乳糖)の粒度分布を示す(非特許文献1)。表3の結果及び表4のデータから、使用する担体粒子の累積10%粒子径が小さすぎると、含量均一性試験に適合しないものと考えられる。本発明では、使用する担体粒子の累積10%粒子径が20μm以上であることが好ましい。
【0050】
また、担体粒子の累積10%粒子径が20μm以上であるRespitoseSV003を用いた場合でも、添加剤として、ステアリン酸マグネシウムを添加すると含量均一性試験に適合しないが(比較例3)、微粉化乳糖(RespitoseMC001)を添加した場合は、含量均一性試験に適合する(実施例3)。ステアリン酸マグネシウムや、微粉化乳糖は、吸入特性を上げる目的で添加しているが、含量均一性試験に適合するためには、微粉化乳糖が適していることが分かる。
【0051】
【表4】
【0052】
(試験例4)吸入特性評価試験
ハンディーヘラー(日本ベーリンガーインゲルハイム製)に空のカプセルを入れ、ハンディーヘラー付属の針でカプセルに穴をあけた。ハンディーヘラーをネクストジェネレーションインパクター(NGI:次世代カスケードインパクター、Copley製)にアダプターで接続し、圧力損失が4kPaになる流速(40.8L/min)を求めた。
【0053】
実施例1乃至3及び比較例4から、それぞれ20mgを秤量し、硬カプセル(サイズ3、ゼラチンカプセル、カプスゲル・ジャパン製)に充填した。硬カプセルをハンディーヘラー(日本ベーリンガーインゲルハイム製)に入れた。
【0054】
ハンディーヘラーをNGIにアダプターで接続し、ハンディーヘラー付属の針でカプセルに穴をあけた。40.8L/minの流速で5.9秒吸引した。ハンディーヘラー、カプセル、マウスピース及びNGIの各分画(インダクションポート、プレセパレーター、Stage1〜7、MOC)を水/液体クロマトグラフィー用メタノール混液(4/1)で洗い込み、各分画への有効成分濃度をHPLC測定によりを求め(HPLC測定条件Aを使用した)、有効成分の沈着割合を計算した。回収された全有効成分量をAD値、カプセル及びデバイスから放出された有効成分量をED値として算出した。0.5〜5μmのステージに分布した有効成分量の累計をFPD(Fine Particle Dose)とし、AD値に対するFPDの割合としてFPF
AD、ED値に対するFPDの割合としてFPF
EDを算出した。結果を表5及び6に示す。
【0055】
【表5】
【0056】
Mill品Bを使用した実施例1及び2の、FPF
AD及びFPF
EDの値は、Mill品Aを使用した比較例4と比べ、当該数値が2倍以上となっており、吸入特性が有意に改善されていることが分かる。Mill品Bは、Mill品Aに比べ、球形に近い形をしており(
図4及び
図6参照)、0.5〜5.0μmの範囲にある粒子頻度が高いことから(表2参照)、高い吸入特性をしたと考えられる。Mill品Bは、参考例4に示した通り、Intact品Bをジェットミル粉砕することで容易に入手可能である。噴霧乾燥法等を行い、有効成分微粒子を球形に成型する従来法(特許文献3)のように、球形に成型する工程は不要であり、簡便で安価に製造が可能である点で有用である。
【0057】
【表6】
【0058】
さらに、実施例1及び2においては、プレセパレーター分画での含量が50%程度と高いが、微粉化乳糖(Respitose MC001)を添加混合した場合、プレセパレーター分画の含量が18.9%まで低下した(実施例3)。プレセパレーター分画の含量低下は、標的部位前器官への有効成分沈着量が少ないことを意味する。ここで標的部位前器官とは、標的部位である気道下部に到達する前の器官であり、口腔や咽頭等を意味する。標的部位前器官からの有効成分吸収が抑えられることにより、副作用の少ない吸入製剤が可能となる。さらに、標的部位前器官への有効成分沈着量が少ないことで、標的部位への有効成分到達率が向上しており、実施例3の吸入特性は、FPF
ADが20.6%まで、FPF
EDは36.2%まで向上している。
(比較例5)
インタールカプセル外用20mg(サノフィ・アベンティス株式会社)に充填されている粉末全量を3号ゼラチンカプセル(カプスゲル・ジャパン社製)に充填した。当該カプセルを、ハンディヘラー(日本ベーリンガーインゲルハイム社製)に入れた。
(比較例6)
フルタイド200ロタディスク(グラスソ・スミスクライン株式会社)に充填されている粉末を3号ゼラチンカプセル(カプスゲル・ジャパン社製)に充填した。当該カプセルを、ハンディヘラー(日本ベーリンガーインゲルハイム社製)に入れた。
(試験例5)吸入特性評価試験(30mL/min)
比較例5及び6のハンディへラーをそれぞれ、NGIにアダプターで接続し、ハンディへラー付属の針でカプセルに穴を開けた。30L/minの流速で8秒間吸引した。ハンディーヘラーを薄めたリン酸(1→1000)で洗いこみ、カプセル及びNGIの各分画(インダクションポート、プレセパレーター、Stage1〜7、MOC)をアセトニトリル/薄めたリン酸(1→1000)混液(1/1)で洗い込み、各分画への有効成分濃度をHPLC測定により求め、有効成分の沈着割合を計算した(比較例5は、HPLC測定条件Bを、比較例6はHPLC測定条件Cを使用した)。カプセル及びデバイスから放出された有効成分量をED値として算出した。0.5〜5μm以下のステージに分布した有効成分量の累計をFPDとし、ED値に対するFPDの割合としてFPF
EDを算出した。結果を表7に示す。
【0059】
HPLC測定条件B:
分離カラム:内径4.6mm、長さ150mmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充てんした。(ジーエルサイエンス、Inertsil ODS−2)
ガードカラム:内径4.6mm、長さ5mmのステンレス管に3μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充てんした。(ジーエルサイエンス、Inertsil ODS−3)
移動相:液体クロマトグラフィー用アセトニトリル/薄めたリン酸(1→1000)混液(7:3)
【0060】
流量:1.0mL/min
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:327nm)
注入量:10μL
面積測定範囲:5分間
保持時間:3.5分
【0061】
HPLC測定条件C:
分離カラム:内径4.6mm、長さ150mmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充てんした。(ジーエルサイエンス、Inertsil ODS−2)
ガードカラム:内径4.6mm、長さ5mmのステンレス管に3μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充てんした。(ジーエルサイエンス、Inertsil ODS−3)
移動相:液体クロマトグラフィー用アセトニトリル/薄めたリン酸(1→1000)混液(7:3)
【0062】
流量:1.0mL/min
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:237nm)
注入量:100μL
面積測定範囲:5分間
保持時間:3.4分
(試験例6)吸入特性評価試験(60mL/min)
60L/minの流速で4秒間吸引した以外は試験例5と同様な操作で、比較例5及び比較例6のハンディへラーについて、それぞれ試験を行った。結果を表7に示す。
【0063】
【表7】
【0064】
実施例3のFPF
EDは36.2%と高く、市場で流通しているインタール(比較例5)やフルタイド(比較例6)のうち、最も高い比較例5(流速60L/min、インタール)と比較しても、1.4倍もの高い値を示した。実施例3が吸入特性の高い有用な吸入粉末剤であることが分かる。