上記目的は、茶エキス、エピガロカテキンガレート、又は茶エキス及びエピガロカテキンガレートを含有する受容体発現亢進剤であって、前記受容体がラミニン受容体、レチノイドX受容体及び遊離脂肪酸受容体からなる群から選ばれる少なくとも一種の受容体である、前記受容体発現亢進剤によって解決される。
前記受容体結合因子が、前記受容体結合因子を含む天然物若しくは該天然物処理物、又は前記受容体結合因子を含む飲食品原料若しくは該飲食品原料加工物である、請求項6に記載の組成物又はキット。
茶エキス及び/又はエピガロカテキンガレートが、受容体結合因子の投与と同時に、又は受容体結合因子の投与の前に、投与されるように用いられ、かつ、該受容体結合因子はラミニン受容体結合因子、レチノイドX受容体結合因子及び遊離脂肪酸受容体結合因子からなる群から選ばれる少なくとも一種の受容体結合因子である、茶エキス及び/又はエピガロカテキンガレートを有効成分として含有する、受容体結合因子の生理活性を増強するための組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1〜3に記載されているCg、GCg及びECgを含めて、緑茶に含まれるカテキン類の生理活性作用については不明な点が多い。特に、非エピ体のカテキン類については、さらなる生理活性作用の解明が待望されている。
【0006】
そこで、本発明は、緑茶などの茶に含まれるカテキン類及び茶エキスを利用した新規な有用剤及び新規な有用組成物を提供することを発明が解決しようとする課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するべく、カテキン類及び茶エキスについて鋭意研究を積み重ねた結果、カテキン類のうちエピ体であるエピガロカテキンガレート及び茶エキスは、T細胞においてみられるリボソームタンパク質SA、レチノイドX受容体α及び遊離脂肪酸受容体2の発現を亢進することを見出した。そして、このような受容体亢進発現作用に基づく、エピガロカテキンガレートや茶エキスを含有する有用剤及び有用組成物を製造することに成功した。本発明は、このような知見や成功例に基づき、完成された発明である。
【0008】
したがって、本発明によれば、茶エキス及び/又はエピガロカテキンガレートを含有する受容体発現亢進剤であって、前記受容体がラミニン受容体、レチノイドX受容体及び遊離脂肪酸受容体からなる群から選ばれる少なくとも一種の受容体である、前記受容体発現亢進剤が提供される。
【0009】
本発明の別の側面によれば、茶エキス及び/又はエピガロカテキンガレートを含有する吸収促進剤が提供される。
【0010】
本発明の別の側面によれば、茶エキス及び/又はエピガロカテキンガレートを含有する免疫調節剤が提供される。
【0011】
本発明の別の側面によれば、茶エキス及び/又はエピガロカテキンガレートを含有する免疫細胞賦活剤が提供される。
【0012】
本発明の別の側面によれば、茶エキス及び/又はエピガロカテキンガレートを含有する、受容体結合因子吸収促進剤であって、前記受容体結合因子は、ラミニン受容体結合因子、レチノイドX受容体結合因子及び遊離脂肪酸受容体結合因子からなる群から選ばれる少なくとも一種の受容体結合因子である、前記受容体結合因子吸収促進剤が提供される。
【0013】
本発明の別の側面によれば、茶エキス及び/又はエピガロカテキンガレートと、ラミニン受容体結合因子、レチノイドX受容体結合因子及び遊離脂肪酸受容体結合因子からなる群から選ばれる少なくとも一種の受容体結合因子とを含む、組成物又はキットが提供される。
【0014】
好ましくは、本発明の組成物又はキットにおいて、前記受容体結合因子が、前記受容体結合因子を含む天然物若しくは該天然物処理物、又は前記受容体結合因子を含む飲食品原料若しくは該飲食品原料加工物である。
【0015】
本発明の別の側面によれば、茶エキス及び/又はエピガロカテキンガレートと、ラミニン受容体結合因子、レチノイドX受容体結合因子及び遊離脂肪酸受容体結合因子からなる群から選ばれる少なくとも一種の受容体結合因子とを含む、抗肥満剤が提供される。
【0016】
本発明の別の側面によれば、茶エキス及び/又はエピガロカテキンガレートが、受容体結合因子の投与と同時に、又は受容体結合因子の投与の前に、投与されるように用いられ、かつ、該受容体結合因子はラミニン受容体結合因子、レチノイドX受容体結合因子及び遊離脂肪酸受容体結合因子からなる群から選ばれる少なくとも一種の受容体結合因子である、茶エキス及び/又はエピガロカテキンガレートを有効成分として含有する、受容体結合因子の生理活性を増強するための組成物が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、茶エキスやエピガロカテキンガレートを含有することにより、生体内外の細胞上のラミニン受容体、レチノイドX受容体及び遊離脂肪酸受容体の発現を亢進することができる。また、本発明によれば、上記受容体の発現を亢進する作用を通じて、受容体に結合する受容体結合因子の吸収を促進すること、該受容体結合因子が受容体に結合して誘起される生理活性を増大させること、これらの受容体を発現するT細胞などの免疫細胞を賦活化することが可能である。さらに、本発明によれば、受容体結合因子−受容体間の結合促進を通じて、抗肥満効果、抗メタボリック効果、抗炎症効果などの薬理効果を発揮することが期待できる。
【0018】
本発明の受容体発現亢進剤、吸収促進剤、免疫調節剤、免疫細胞賦活剤、受容体結合因子吸収促進剤、組成物及び抗肥満剤は、飲食品用組成物に配合することができ、又はその他の添加物と共に、若しくはすでにある飲食品に配合して、飲食品用組成物の形態を採り得る。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の詳細について説明する。
本発明の受容体発現亢進剤は、茶エキス、エピガロカテキンガレート、又は茶エキス及びエピガロカテキンガレート(以下、これらを合わせて「茶エキス等」ともよぶ。)を含有する受容体発現亢進剤であって、前記受容体がラミニン受容体、レチノイドX受容体及び遊離脂肪酸受容体からなる群から選ばれる少なくとも一種の受容体である。
【0021】
本発明の受容体発現亢進剤は、茶エキス等をそのまま受容体発現亢進剤として用いてもよいし、その他の成分と組み合わせた組成物として受容体発現亢進剤としてもよい。
【0022】
茶エキスはカテキン類を含むものであれば特に限定されないが、例えば、緑茶抽出物、白茶抽出物、青茶抽出物、黄茶抽出物、黒茶抽出物などが挙げられる。カテキン類とは、ポリヒドロキシフラバン−3−オールの総称である。カテキン類としては、(+)−カテキン(C;狭義のカテキンといわれる)、(−)−エピカテキン(EC)、(+)−ガロカテキン(GC)、(−)−エピガロカテキン(EGC)、エピガロカテキンガレート(EGCg)、エピカテキンガレート(ECg)、アフゼレキンなどが知られている。上記茶抽出物からは、上記のCの他、EC、GC、EGC、EGCg、ECg、C、GCの3−ガロイル誘導体が単離されている。カテキン類には、発癌抑制作用、活性酸素やフリーラジカルの消去作用、抗酸化作用などがあることが知られている。
【0023】
茶エキスに使用される茶の品種は特に限定されず、例えば、やぶきた、べにふうき、べにほまれ、あさつゆ、みよし、たまみどり、さやまみどり、まきのはらやせ、こやにし、ろくろう、やまとみどり、たかちほ、いんど、はつもみじ、べにたちわせ、あかね、なつみどり、やえほ、あさぎり、きょうみどり、はつみどり、べにかおり、べにふじ、ひめみどり、いずみ、さつまべに、おくむさし、やまなみ、べにひかり、うんかい、かなやみどり、さやまかおり、おくみどり、とよか、おくゆたか、めいりょく、ふくみどり、しゅんめい、みねかおり、みなみかおり、さえみどり、ふうしゅん、みなみさやか、ほくめい、りょうふう、むさしかおり、さきみどり、はるみどり、及びこれらの混合物などが挙げられるが、好ましくはやぶきたである。これらの茶品種を単一種又は複数種混合して用いてもよい。
【0024】
茶エキスは、茶植物のどの部分から抽出されたものであってもよい。例えば、カテキン類が多く含まれることから、茶の地上部が好ましく、茎葉部がより好ましく、葉部がさらに好ましい。茶の葉部を用いる場合、採取後そのままの生葉から仕上げ茶(乾燥茶)まで、通常の製茶工程のいずれの段階のものでも用いることができ、発酵の程度に関係なく、例えば、不発酵茶、半発酵茶、発酵茶などを使用できる。また、茶は、例えば、乾燥、細断、破砕、磨砕、加熱などの植物を加工処理する際に通常採られ得る物理的又は化学的処理に供したものであってもよい。
【0025】
茶の乾燥手段は特に限定されないが、例えば、茶の葉部を、天日乾燥、陰干乾燥、熱風乾燥などの乾燥処理が挙げられる。乾燥の程度は、茶の水分含有量が十分に低下したことが確認されるまでの程度であればよく、例えば、水分含有量が10wt%以下であり、好ましくは5wt%以下となるまでの程度である。また、抽出の効率向上の観点から、例えば、茶の乾燥物を粉砕することにより、茶の乾燥粉末とすることが好ましい。
【0026】
茶の粉末手段としては特に限定されないが、例えば、当業者が通常用いる方法であるボールミル、ハンマーミル、ローラーミルなどにより、茶の葉部を粉砕して粉末化する方法が挙げられる。例えば、茶の乾燥粉末を得るに際しては、乾燥と粉末化の順序を入れ替えて、乾燥前の葉部をマスコロイダー、スライサー、コミトロールなどで予め細断又は粉砕したものを乾燥して、茶乾燥粉末とすることができる。
【0027】
本発明において、茶の抽出効率を上げるためには、例えば、茶は乾燥処理に供したものであることが好ましく、粉末化したものがより好ましく、乾燥粉末であることがさらに好ましい。
【0028】
茶エキスは、茶の含有成分が抽出されたものであれば特に限定されず、例えば、茶と溶媒とを接触して抽出することによって得られる抽出液などが挙げられる。また、茶エキスは、例えば、茶抽出液を濃縮又は希釈することによって得られる濃縮液や希釈液であってもよく、茶抽出液中の溶媒を留去して得られる、又はさらに乾燥処理、粉末化処理に供して得られる濃縮物、濃縮乾燥物、乾燥粉末などの様々な形態を採り得る。
【0029】
茶エキスは、抽出液の形態で得る場合、通常知られている植物体を用いた溶媒抽出手段により得ることができる。例えば、溶媒中に茶を加えて、適宜加温や撹拌などをすることにより、茶エキスが得られる。また、遠心分離やろ過などの通常知られている固液分離手段を用いて、固形分を除いた液体成分からなる茶エキスとすることができる。
【0030】
茶エキスを得る際に使用する溶媒としては、例えば、水、有機溶媒、含水有機溶媒などが挙げられるが、EGCgなどのカテキン類の溶解性の高い溶媒であることが好ましい。また、有機溶媒は、抽出処理に通常用いられる有機溶媒であれば特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、t−ブタノールなどの低級アルコール;グリセリン、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコールなどの液状多価アルコール;アセトン、エチルメチルケトンなどのケトン類;酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類;ジエチルエーテル、ジオキサンなどのエーテル類などが挙げられ、その他としてヘキサン、シクロヘキサン、ジクロロメタン、食用油脂、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,2−トリクロロエテンなどの抽出操作によく用いられる有機溶媒が挙げられる。これら抽出溶媒は、1種を単独で、又は2種以上を組合せて用いることができる。人体への影響を考慮すれば、水、エタノール、メタノール及びこれらの混合溶媒が好ましく、水とエタノールとの混合溶媒である含水エタノールがより好ましい。抽出溶媒を含水エタノールにすることで、抽出後の溶媒除去の操作が容易になる傾向がある。含水エタノールにおけるエタノールの濃度は特に限定されないが、例えば、0.1〜100vol%であり、1〜90vol%が好ましい。
【0031】
抽出溶媒の量は特に限定されないが、例えば、茶の乾燥質量1g当たり20mL程度である。
【0032】
抽出手段は特に限定されないが、例えば、加温抽出法、超臨界抽出法、加圧抽出法などが挙げられ、これらの手段を単独又は組み合わせることができる。加温抽出では茶と溶媒との混合物を入れた容器を水浴や油浴などを用いて加温する。この際の温度は使用する溶媒の融点より高く、かつ、沸点より低い温度であれば特に限定されないが、例えば、使用する溶媒が水の場合は10℃〜100℃、エタノール又はメタノールを含む場合は10℃〜40℃が好ましいが、加熱還流法を採用する場合は比較的低温下で実施することができる。抽出効率を上げるために、撹拌や振とうなどをしてもよい。
【0033】
抽出時間は、EGCgなどのカテキン類が茶から十分に抽出される時間であれば特に限定されず、茶の部位、乾燥の有無や量、及び抽出溶媒の種類や量によって変動するが、例えば、数分から数十時間であり、加温条件によっては30分〜48時間とすることができる。なお、加温せずに抽出する場合、50℃未満で抽出する場合、抽出と濃縮とを連続的に実施する場合などは、例えば、抽出時間を6時間〜48時間とすることができる。50℃以上で加温する場合は、例えば、抽出時間を30分〜24時間とすることができる。抽出時間、すなわち抽出の開始から終了までの時間は、各種条件に依存するが、例えば、カテキン類の濃度を経時的に測定し、カテキン類の濃度、特にEGCgの濃度が最大濃度でプラトーになった時間をもって抽出終了時間とすることができる。
【0034】
茶エキスは、例えば、有機溶媒を除去するなどのために、抽出操作を経た抽出液からエバポレーターなどを用いて溶媒を除去する減圧濃縮処理や該処理によって得られる残渣を水に懸濁したものを凍結乾燥などの乾燥処理に供して粉末化したものなどとすることができる。
【0035】
茶エキスは、例えば、茶抽出物を溶媒抽出法;樹脂吸着法;限外濾過、逆浸透濾過などの濾過といった分離精製手段によってカテキン類、中でもEGCgの含有量を高める方向に分離精製したものとして得ることができる。抽出の際、EGCgの含有量を高めるべく、酢酸エチルなどの有機溶媒で分画することもできる。具体的には、茶抽出物を、合成吸着剤(ダイアイオンHP20、セファビースSP825、アンバーライトXAD4、MCIgelCHP20Pなど)やデキストラン樹脂(セファデックスLH−20など)などを用いて、EGCgなどのカテキン類を高含有する抽出物としてもよい。
【0036】
茶エキスは、市販の茶抽出物をそのまま、又は上記した処理に供して得られることができるが、例えば、茶葉から直接、熱水抽出したものや熱水抽出後に酢酸エチル等の有機溶媒で分画したものを使用することが望ましく、熱水抽出後に酢酸エチル等の有機溶媒で分画したものを用いることが特に望ましい。また、市販の茶抽出物として三栄源エフ・エフ・アイ製の「SD緑茶エキスパウダー」、三井農林製「ポリフェノン」、太陽化学製「サンフェノン」、株式会社ファーマフーズ製「PF−TP90」や「PF−TP80」なども用いることができる。
【0037】
茶エキスは、茶を抽出処理に供することにより、EGCgその他のカテキン類を含有し得る。茶エキスに含有されるEGCgを含むカテキン類の含有量は、例えば、抽出物の乾燥質量に対して30wt%以上、より好ましくは70wt%〜90wt%である。また、EGCgの含有量は、例えば、抽出物の乾燥質量に対して10wt%以上が好ましく、50wt%〜70wt%であることがより好ましい。
【0038】
エピガロカテキンガレート(EGCg)は、茶に含まれるカテキン類の一種であり、エピガロカテキンガラートともよばれる下記式(I)の構造を有する物質である。
【化1】
(I)
【0039】
EGCgを入手する方法は特に限定されず、例えば、EGCgは茶エキスから上記した分離精製手段を採用して得ることができ、又は市販のEGCgを用いてもよい。
【0040】
茶エキス及びEGCgは、驚くべきことに、後述する実施例に記載があるとおり、ラミニン受容体、レチノイドX受容体及び遊離脂肪酸受容体の発現を亢進する。このような茶エキス及びEGCgがラミニン受容体、レチノイドX受容体及び遊離脂肪酸受容体の発現を亢進し得ることは、本発明者らによって初めて見出されたことである。ここで、「受容体の発現を亢進する」とは、受容体の遺伝子レベルでの発現、すなわち、受容体をコードする遺伝子のmRNAの量が増えるように作用することを意味する。また、mRNA量が増えることから、受容体タンパク質の量が増えるように作用することと捉えても差し支えない。
【0041】
本発明の受容体発現亢進剤において、含有成分である茶エキス等が発現を亢進するラミニン受容体は、例えば、リボソームタンパク質SA(RPSA)である。RPSAは、ラミニンレセプター1や67LRともよばれており、基底膜の主要な構成成分であるラミニンやそれに由来するペプチド、EGCgなどのカテキン類、メチル化カテキンなどと結合する細胞膜タンパク質である。
【0042】
本発明の受容体発現亢進剤において、含有成分である茶エキス等が発現を亢進するレチノイドX受容体は、例えば、レチノイドX受容体α(RXRA)である。RXRAは、レチノイン酸の誘導体であるレキシノイド、特に9−cis−レチノイン酸、ホノキオール、マグノロール、DHAやアラキドン酸などと結合すると細胞質から核内へ移行する核内受容体である。
【0043】
本発明の受容体発現亢進剤において、含有成分である茶エキス等が発現を亢進する遊離脂肪酸受容体は、例えば、遊離脂肪酸受容体2(FFAR2)である。FFAR2は、GPR43ともよばれており、酢酸やプロピオン酸などの短鎖脂肪酸と結合する、Gタンパク質共役型受容体である。
【0044】
本発明の受容体発現亢進剤は、含有成分である茶エキス等の作用により、RPSAなどのラミニン受容体;RXRAなどのレチノイドX受容体;及びFFAR2などの遊離脂肪酸受容体の発現を亢進する。また、発現が亢進された受容体は、受容体が結合する受容体結合因子(リガンド)、例えば、RPSAに対してはラミニンやカテキン類など;RXRAに対してはレキシノイドなど、特に9−cis−レチノイン酸、ホノキオール、マグノロール、DHAやアラキドン酸など;及びFFAR2に対しては酢酸やプロピオン酸などの短鎖脂肪酸などとの結合が促進され、結果として、これらの受容体結合因子と受容体との結合によって誘起される生理作用、例えば、遊離脂肪酸などの受容体結合因子の吸収促進、免疫系の調節、免疫細胞の賦活化などの生理作用が達成される。そこで、本発明の別の態様は、茶エキス等を含有する、吸収促進剤、免疫調節剤、免疫細胞賦活剤及び受容体結合因子吸収促進剤である。
【0045】
また、茶エキスやEGCgが発現を亢進する受容体と受容体結合因子との結合によって誘起される生理活性作用を迅速かつ効率的に得るためのものとして、茶エキス等と、ラミニン受容体結合因子、レチノイドX受容体結合因子及び遊離脂肪酸受容体結合因子からなる群から選ばれる少なくとも一種の受容体結合因子とを一体として含む組成物又はこれらを別個に含むキットが本発明の一態様として包含される。
【0046】
ここで、受容体結合因子は、それぞれ分離精製されたものでもよく、受容体結合因子を含むもの、例えば、天然物やその処理物、飲食品原料やその加工物などであってもよく、特に限定されない。
【0047】
RXRAやFFAR2が受容体結合因子と結合して活性化すると、脂肪細胞の分化、ブドウ糖や脂肪酸などのエネルギー源の脂肪組織の取り込み及び蓄積の抑制、脂肪組織の増大の抑制といった生理作用が生じる。その結果として、これらの受容体の活性化は、肥満抑制、メタボリック症候群の抑制、インスリン感受性の増大、エネルギー利用効率の促進といった抗肥満効果が得られる蓋然性がある。そこで、本発明の別の態様は、茶エキス等と、ラミニン受容体結合因子、レチノイドX受容体結合因子及び遊離脂肪酸受容体結合因子からなる群から選ばれる少なくとも一種の受容体結合因子とを含む、抗肥満剤である。
【0048】
ラミニン受容体、レチノイドX受容体及び遊離脂肪酸受容体の活性化を促進するために、茶エキス等は、これに対する受容体結合因子の投与と同時に、又は受容体結合因子の投与の前に、投与されるように用いられることが好ましい。その結果、受容体結合因子の生理活性を増強することが期待できる。
【0049】
茶エキス及びEGCgの配合量は、受容体発現亢進作用を示し得る有効量であれば特に限定されない。例えば、茶エキスの配合量は成人一日あたりの摂取量として下限値を乾燥質量で、例えば、10mg以上、好ましくは100mg以上となるように設定することができる。また、成人一日あたりの摂取量として上限値を乾燥質量で、例えば、3,000mg以下、好ましくは1,000mg以下となるように設定することができる。
【0050】
EGCgの配合量は、例えば、成人一日あたりの摂取量として下限値を乾燥質量で、例えば、1mg以上、好ましくは10mg以上となるように設定することができ、成人一日あたりの摂取量として上限値を、例えば、300mg以下、好ましくは100mg以下となるように設定することができる。
【0051】
茶エキス等と受容体結合因子との配合割合は特に限定されず、例えば、茶エキス等 1〜99質量部に対して、受容体結合因子は99〜1質量部とすることができる。また、茶エキス及びEGCgの量に対して、受容体結合因子の量を0.1〜10倍程度にとることができる。
【0052】
本発明の具体的な一態様として、受容体発現亢進剤、吸収促進剤、免疫調節剤、免疫細胞賦活剤、受容体結合因子吸収促進剤及び抗肥満剤並びに組成物からなる、又は本発明の受容体発現亢進剤、吸収促進剤、免疫調節剤、免疫細胞賦活剤、受容体結合因子吸収促進剤及び抗肥満剤並びに組成物を飲食品に配合してなる飲食用組成物が挙げられる。
【0053】
本発明の飲食用組成物における茶エキス等の配合量は、その形態や剤形などによって適宜設定することができ、特に限定されない。茶エキスの配合量は、飲食用組成物100質量部に対して、茶エキスの下限値は乾燥質量で、例えば、0.01質量部以上、好ましくは0.1質量部以上と設定することができ、茶エキスの上限値は乾燥質量で、例えば、80質量部以下、好ましくは50質量部以下と設定することができる。EGCgの配合量は、飲食用組成物100質量部に対して、EGCgの下限値は乾燥質量で、例えば、0.0001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上と設定することができ、EGCgの上限値は乾燥質量で、例えば、50質量部以下、好ましくは30質量部以下と設定することができる。
【0054】
本発明の飲食用組成物には、必要に応じて、賦形剤、増量剤、結合剤、増粘剤、乳化剤、着色料、香料、その他の飲食品原料、調味料、医薬品原料などを添加してもよい。さらに、用途に応じて、ハードカプセルやソフトカプセルなどのカプセル剤、錠剤、丸剤などに製剤設計することができ、又は粉末状、顆粒状、茶状、ティーバッグ状、飴状などの通常飲食品として採り得る形状に成形することができ、さらには液体状の飲料として用いることもできる。本発明の飲食用組成物を摂取するに際しては、これらの形状のものをそのまま、又は好みに応じてこれらの形状のものを水、湯、牛乳などに溶いて飲むことができる。また、本発明の飲食用組成物が粉末化したティーバッグ状である場合は、含有成分を湯などに浸出させてから飲むことが好ましい。
【0055】
本発明の飲食用組成物に配合し得る飲食品原料又は飲食品としては、例えば、ローヤルゼリー、プロポリス、ビタミン類(A、C、D、E、K、葉酸、パントテン酸、ビオチン、これらの誘導体など)、ミネラル(鉄、マグネシウム、カルシウム、亜鉛など)、セレン、α−リポ酸、レシチン、ポリフェノール(フラボノイド類、これらの誘導体など)、カロテノイド(リコピン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、ルテインなど)、キサンチン誘導体(カフェインなど)、脂肪酸、タンパク質(コラーゲン、エラスチンなど)、ムコ多糖類(ヒアルロン酸など)、アミノ糖(グルコサミン、アセチルグルコサミン、ガラクトサミン、アセチルガラクトサミン、ノイラミン酸、アセチルノイラミン酸、ヘキソサミン、それらの塩など)、オリゴ糖(イソマルトオリゴ糖、環状オリゴ糖など)、スフィンゴ脂質やリン脂質及びその誘導体(フォスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、セラミドなど)、含硫化合物(アリイン、セパエン、タウリン、グルタチオン、メチルスルホニルメタンなど)、糖アルコール、リグナン類(セサミンなど)、これらを含有する動植物抽出物、根菜類(ウコン、ショウガなど)、麦若葉末などのイネ科植物の緑葉、ケールなどのアブラナ科植物の緑葉などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
調味料としては、例えば、グラニュー糖、蜂蜜、ソルビットなどの甘味料;アルコール;及びクエン酸、リンゴ酸、酒石酸などの酸味料などが挙げられるが、これらに限定されない。糖液、糖アルコール、調味料などを加えて本発明の飲食用組成物の甘味を強くすることができる。
【0057】
本発明の飲食用組成物は、茶エキスやEGCgに加えて、脂肪組織の増大を抑える脂質吸収抑制成分や脂質代謝促進成分に加えて、免疫系向上に繋がる免疫調節成分や免疫細胞賦活成分などの生理活性成分を含有することにより、相乗的な脂質の蓄積抑制効果、体脂肪減少効果、免疫向上効果などを得ることができる。その結果、例えば、糖尿病、高脂血症その他のメタボリック症候群を含む肥満や免疫力低下に伴う様々な症状の抑制又は緩和効果などが期待できる。
【0058】
脂質吸収抑制成分としては、例えば、キトサン及びその誘導体、サイリウム、プロアントシアニジンなどの胆汁酸を排泄する作用を有する成分、ガロタンニン、ビワ葉及びその抽出物などのリパーゼ阻害作用を有する成分が挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、例えば、松樹皮抽出物といったプロアントシアニジンを多く含む植物抽出物を、プロアントシアニジンとして用いることも可能である。
【0059】
脂質代謝促進成分としては、例えば、短鎖脂肪酸、リボフラビン類、茶カテキン類、異性化リノール酸、カフェイン、カプサイシン、カルニチン、コエンザイムQ10、大豆ペプチド、分岐アミノ酸、フォスファチジルコリン、アリルスルフィド化合物、フォルスコリン、ベルゲニン、ケルセチン、アスチルビン、ヒドロキシクエン酸、及びこれらの塩などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。脂質代謝促進成分は、これら脂質代謝促進成分を含有する植物抽出物であってもよく、例えば、茶、コレウスフォコリ、アカショウマ、黄杞、大豆、唐辛子、ソバ、ニンニク、タマネギ、コーヒーなどの抽出物を、脂質代謝促進成分として用いることができる。
【0060】
免疫調節成分としては、例えば、茶カテキン類、プロアントシアニジン類、アントシアニン配糖体、メトキシフラボノイド類、イソフラボン類、カフェ酸誘導体やこれらを含む植物抽出物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。免疫細胞賦活成分としては、例えば、茶カテキン類、プロアントシアニジン類、スフィンゴ脂質やリン脂質及びその誘導体(フォスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、セラミドなど)、含硫化合物(アリイン、セパエン、タウリン、グルタチオン、メチルスルホニルメタンなど)、糖アルコール、リグナン類(セサミンなど)、これらを含有する動植物抽出物、根菜類(ウコン、ショウガなど)、麦若葉末などのイネ科植物の緑葉、ケールなどのアブラナ科植物の緑葉などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0061】
本発明の飲食用組成物は、脂質吸収抑制成分、脂質代謝促進成分、免疫調節成分、免疫細胞賦活成分などの生理活性成分を、目的に応じて適宜配合する。例えば、これらのいずれか1種又は2種以上の成分を配合してもよく、これらの成分のすべてを配合してもよい。また、各成分の2種以上を配合することもできる。
【0062】
本発明の飲食用組成物の加工形態は特に限定されないが、例えば、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料(これらの飲料の濃縮原液及び調整用粉末を含む);アイスクリーム、シャーベット、フローズンヨーグルト、かき氷などの冷菓;そば、うどん、はるさめ、ぎょうざの皮、しゅうまいの皮、中華麺、即席麺などの麺類;飴、チューインガム、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子などの菓子類;かまぼこ、ハム、ソーセージなどの水産・畜産加工食品;加工乳、発酵乳などの乳製品;サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシングなどの油脂及び油脂加工食品;ソース、たれなどの調味料;スープ、シチュー、サラダ、惣菜、漬物などが挙げられる。
【0063】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
【実施例】
【0064】
[実施例1.茶エキスを用いた受容体発現亢進作用]
(1)茶エキスの調製
茶エキスは、茶葉を熱水で抽出して得られた抽出物を酢酸エチルで分画して乾燥することにより粉末化した。この粉末化したものを茶エキスとして使用した。
【0065】
(2)被験組成物の調製
10%(v/v)FBS含有RPMI1640培地を用いて、茶エキスが1mg/mLとなるように茶エキス含有培地を調製した。得られた茶エキス含有培地を0.2μmの滅菌フィルター(ADVANTEC製)を用いてろ過滅菌した。このろ液を、10%(v/v)FBS含有RPMI1640培地を用いて、茶エキスの最終濃度が0、10及び30μg/mLとなるように調製して、被験組成物を得た。
【0066】
(3)受容体発現亢進評価
10%(v/v)FBS含有RPMI1640培地を用いて継代培養した、ヒト急性リンパ芽球性白血病細胞MOLT4を、7.5×10
5cells/mLの細胞密度で0.4mLずつ24ウェルプレートに播種した。各ウェルに、被験組成物 0.4mLを添加し、茶エキスの最終濃度を0、5及び15μg/mLとした。24ウェルプレートを37℃で6時間又は24時間インキュベートした後、各ウェルから細胞を回収し、Rneasy Mini Kit(QIAGEN製)を用いてRNAの抽出を行った。
【0067】
抽出したRNAから、QuantiTect Reverse Transcription kit(QIAGEN製)を用いてcDNAを作成した。得られたcDNAを鋳型として、リボソームタンパク質SA(RPSA)遺伝子に対するプライマー(QIAGEN製);レチノイドX受容体α(RXRA)遺伝子に対するプライマー(QIAGEN製);並びに遊離脂肪酸受容体2(FFAR2)遺伝子に対するプライマー(QIAGEN製)を用いて、Rotor−Gene SYBR Green PCR Kit(QIAGEN製)により製造業者の指示に従って定量リアルタイムPCRを行い、RPSA、RXRA及びFFAR2に対する各遺伝子の発現量を測定した。内在性コントロールとして、GAPDH遺伝子に対するプライマー(QIAGEN製)を用いた。
【0068】
RPSA、RXRA及びFFAR2に対する各遺伝子発現量(コントロールに対する相対量)の測定結果を
図1〜3に表わした。
図1〜3が示すように、いずれの受容体遺伝子も、茶エキスの濃度依存的に発現量が亢進した。特に、15μg/mLの茶エキスは、各受容体遺伝子に対して顕著に増大した発現量をもたらした。
【0069】
[実施例2.EGCgを用いた受容体発現亢進作用]
(1)被験組成物の調製
10%(v/v)FBS含有RPMI1640培地を用いて、エピガロカテキンガレート(EGCg)粉末(ナカライテスク製)が3μg/mLとなるようにEGCg含有培地を調製した。得られたEGCg含有培地を0.2μmの滅菌フィルター(ADVANTEC製)を用いてろ過滅菌した。このろ液を、10%(v/v)FBS含有RPMI1640培地を用いて、EGCgの最終濃度が0.3、1及び3μg/mLとなるように調製して、被験組成物を得た。
【0070】
(3)受容体発現亢進評価(1):RPSA、RXRA
10%(v/v)FBS含有RPMI1640培地を用いて継代培養した、ヒト急性リンパ芽球性白血病細胞MOLT4を、7.5×10
5cells/mLの細胞密度で0.4mLずつ24ウェルプレートに播種した。各ウェルに、被験組成物 0.4mLを添加し、EGCgの最終濃度を0.15、0.5及び1.5μg/mLとした。24ウェルプレートを37℃で2時間インキュベートした後、各ウェルから細胞を回収し、Rneasy Mini Kit(QIAGEN製)を用いてRNAの抽出を行った。
【0071】
抽出したRNAから、QuantiTect Reverse Transcription kit(QIAGEN製)を用いてcDNAを作成した。得られたcDNAを鋳型として、実施例1に記載のRPSAプライマー(QIAGEN製)及びRXRAプライマー(QIAGEN製)を用いて、Rotor−Gene SYBR Green PCR Kit(QIAGEN製)により製造業者の指示に従って定量リアルタイムPCRを行い、RPSA及びRXRAに対する各遺伝子の発現量を測定した。内在性コントロールとして、実施例1に記載のGAPDHプライマー(QIAGEN製)を用いた。
【0072】
RPSA及びRXRAに対する各遺伝子発現量の測定結果を
図4〜5に表わした。
図4〜5が示すように、いずれの受容体遺伝子も、EGCgの濃度依存的に発現量が亢進した。試験した中では、最大濃度である15μg/mLのEGCgは、各受容体遺伝子に対して顕著に増大した発現量をもたらした。
【0073】
(4)受容体発現亢進評価(2):FFAR2
10%(v/v)FBS含有RPMI1640培地を用いて継代培養した、ヒト急性リンパ芽球性白血病細胞MOLT4を、1.2×10
6cells/mLの細胞密度で1.5mLずつ6ウェルプレートに播種した。各ウェルに、被験組成物 1.5mLを添加し、EGCgの最終濃度を0.15、0.5及び1.5μg/mLとした。6ウェルプレートを37℃で2時間インキュベートした後、各ウェルから細胞を回収し、Rneasy Mini Kit(QIAGEN製)を用いてRNAの抽出を行った。
【0074】
抽出したRNAから、QuantiTect Reverse Transcription kit(QIAGEN製)を用いてcDNAを作成した。得られたcDNAを鋳型として、実施例1に記載のFFAR2プライマー(QIAGEN製)を用いて、Rotor−Gene SYBR Green PCR Kit(QIAGEN製)により製造業者の指示に従って定量リアルタイムPCRを行い、FFAR2に対する各遺伝子の発現量を測定した。内在性コントロールとして、実施例1に記載のGAPDHプライマー(QIAGEN製)を用いた。
【0075】
FFAR2に対する遺伝子発現量の測定結果を
図6に表わした。
図6が示すように、FFAR2受容体遺伝子の発現量は、EGCgの濃度が0.5μg/mLの場合に、顕著に亢進された。
【0076】
以上の結果から、
図1〜6が示すとおりに、茶エキス又はEGCgを含有する組成物は、RPSA、RXRA及びFFAR2の遺伝子発現を顕著に亢進させた。このことから、茶エキス及びEGCgはこれらの受容体の発現亢進剤として有用であることが示された。
【0077】
また、茶エキス又はEGCgを含有する組成物は、RPSA、RXRA及びFFAR2といった受容体の発現量を亢進することにより、受容体に結合する受容体結合因子の吸収を促進すること、受容体結合因子が受容体に結合して誘起される生理活性を増大させること、これらの受容体を発現するT細胞などの免疫細胞を賦活化すること、免疫細胞が賦活化することにより免疫系を調節することなどに有用であることが示された。
【0078】
さらに、茶エキス又はEGCgを含有する組成物は、受容体結合因子−受容体間の結合の促進を通じて、抗肥満効果、抗メタボリック効果、抗炎症効果などの薬理効果を示すことが明らかとなった。