【解決手段】ポリ乳酸樹脂(A)、ポリアルキレンエーテル(B)および重量平均分子量が50万以上であるアクリル系樹脂(C)を含有する樹脂組成物であって、ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対して、ポリアルキレンエーテル(B)を1〜10質量部、アクリル系樹脂(C)を0.3〜10質量部含有することを特徴とするポリ乳酸系樹脂組成物。
ポリ乳酸樹脂(A)、ポリアルキレンエーテル(B)および重量平均分子量が50万以上であるアクリル系樹脂(C)を含有する樹脂組成物であって、ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対して、ポリアルキレンエーテル(B)を1〜10質量部、アクリル系樹脂(C)を0.3〜10質量部含有することを特徴とするポリ乳酸系樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂(A)、ポリアルキレンエーテル(B)および特定分子量のアクリル系樹脂(C)を含有する。
まず、ポリ乳酸樹脂(A)について説明する。
本発明におけるポリ乳酸樹脂(A)としては、乳酸の構造単位がL−乳酸であるポリL−乳酸、構造単位がD−乳酸であるポリD−乳酸、L−乳酸とD−乳酸との共重合体であるポリDL−乳酸、またはこれらの混合体が挙げられる。
【0012】
本発明において、ポリ乳酸樹脂(A)として、結晶性ポリ乳酸樹脂および非晶性ポリ乳酸樹脂のいずれを用いてもよいが、成形体を得る際の操業性、さらに成形体に耐熱性を付与することを考慮すると、結晶性ポリ乳酸樹脂を使用することが好ましい。
なお、ここでいう結晶性ポリ乳酸樹脂とは、140〜175℃の範囲の融点を有するポリ乳酸樹脂を指し、非晶性ポリ乳酸樹脂とは、実質的に融点を有しないポリ乳酸樹脂を指す。
【0013】
ポリ乳酸樹脂(A)を結晶性ポリ乳酸樹脂とするためには、ポリ乳酸樹脂(A)中のD体含有量を5モル%以下とすることが好ましく、2モル%以下とすることがより好ましい。D体含有量が5モル%を超えると、ポリ乳酸樹脂の結晶性が低下して、結晶核剤を添加する必要があったり、結晶核剤を含有しない場合は、熱処理を施しても十分に結晶化しなくなり、成形体を得る際の操業性が低下し、得られる成形体は耐熱性に劣るものとなりやすい。
【0014】
ポリ乳酸樹脂(A)に、ポリアルキレンエーテル(B)と特定分子量のアクリル系樹脂(C)とを添加すると、ポリ乳酸樹脂(A)の結晶化を阻害することがある。しかしながら、ポリ乳酸樹脂(A)が結晶性ポリ乳酸樹脂であると、その阻害作用は小さくなり、さらには、ポリアルキレンエーテル(B)と特定分子量のアクリル系樹脂(C)を添加することによる耐衝撃性付与効果はより向上したものとなる。
【0015】
ポリ乳酸樹脂(A)の重量平均分子量は、10万〜30万であることが好ましく、12万〜20万であることがより好ましい。樹脂組成物の主成分であるポリ乳酸樹脂(A)の重量平均分子量が10万未満であると、得られる成形体は機械的特性に劣るものになりやすい。一方、重量平均分子量が30万を超えると溶融粘度が高くなりすぎて、成形体を得る際の溶融押出が困難となりやすい。
【0016】
また、ポリ乳酸樹脂(A)中の残留ラクチド量は、0.5質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることが最も好ましい。残留ラクチド量が0.5質量%を超えると、成形体を得る際、例えばシートやフィルム製膜時に、発煙が著しく、ダイス近辺の装置が汚染されて、製品の品位が低くなったり、操業性も低下しやすい。さらに、得られた成形体は、耐久性などが劣ることがある。
【0017】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂(A)を主成分とするものであり、ポリ乳酸樹脂(A)の含有量は、樹脂組成物全体の80〜99質量%であることが好ましく、85〜98質量%であることがより好ましく、90〜96質量%であることが最も好ましい。ポリ樹脂樹脂(A)の含有量が多くなりすぎると、ポリアルキレンエーテル(B)、アクリル系樹脂(C)の含有量が少なくなりすぎ、耐衝撃性の向上効果に乏しいものとなる。一方、ポリ乳酸樹脂(A)の含有量が少ないと、樹脂組成物の透明性が低下し、また生分解性樹脂の使用量が少なくなるため、環境配慮型樹脂組成物と言えないものとなる。
【0018】
本発明においては、ポリ乳酸樹脂(A)として、市販の各種ポリ乳酸樹脂を用いることができ、異なる種類のものを組み合わせて用いることもできる。また、乳酸の環状2量体であるラクチドを原料に用い、公知の溶融重合法で、あるいは、さらに固相重合法を併用して製造したものを用いることができる。
【0019】
次に、ポリアルキレンエーテル(B)について説明する。
本発明において、ポリアルキレンエーテル(B)としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられ、ポリ乳酸樹脂(A)との相溶性が良好であり、透明性を維持する効果も高いことから、ポリエチレングリコールが好ましい。
【0020】
本発明において、樹脂組成物の耐衝撃性向上効果を奏するものは、主として特定分子量のアクリル系樹脂(C)である。ポリアルキレンエーテル(B)は、潤滑剤や可塑剤のような働きをすることによって、アクリル系樹脂(C)の分散性を高めて、耐衝撃性向上効果を発現しやすくする役割を果たすと考えられる。
【0021】
本発明において、ポリアルキレンエーテル(B)の数平均分子量は、5000以上であることが好ましく、中でも、7000以上であることがより好ましく、8000〜30000であることがさらに好ましい。数平均分子量が5000未満である場合、耐衝撃性の向上効果が不十分となりやすく、またブリードアウトしたり、加工性が低下することがある。一方、数平均分子量が30000を超える場合、ポリ乳酸樹脂(A)との相溶性が低下し、耐衝撃性の向上効果が不十分になることがある。
【0022】
ポリアルキレンエーテル(B)の含有量は、ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対して、1〜10質量部であることが必要であり、中でも2〜8質量部であることが好ましく、3〜7質量部であることがより好ましい。ポリアルキレンエーテル(B)の含有量が1質量部未満では、上記したような耐衝撃性向上効果を発現しやすくする役割を果たすことができない。一方、ポリアルキレンエーテル(B)の含有量が10質量部を超えると、得られる樹脂組成物の透明性が低下する。
【0023】
次に、アクリル系樹脂(C)について説明する。
本発明におけるアクリル系樹脂(C)は、アクリル酸およびそのエステル、メタクリル酸およびそのエステルなどの単量体で構成されたものがよく、これら単量体1種のみの単独重合体、または2種以上の単量体の共重合体の何れでもよく、共重合体においてはブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、あるいはこれらの組み合わせによる共重合体であってもよい。中でも、ポリ乳酸樹脂との相溶性が良く、透明性を維持できることからアクリル酸エステルや、メタクリル酸エステルを用いることがより好ましい。
アクリル酸エステルや、メタクリル酸エステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸エチルヘキシル、アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸クロロエチル、(メタ)アクリル酸トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸ヘプタデカフルオロオクチルエチル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチルおよび(メタ)アクリル酸トリシクロデシニルなどが挙げられる。
また、スチレン、α−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、クロロスチレンなどの置換スチレンなどの単量体を共重合させることもできる。
【0024】
アクリル系樹脂(C)の重合方法としては、特に制限はなく、溶液重合、懸濁重合、塊状重合等の公知の方法が用いられる。
【0025】
アクリル系樹脂(C)は、重量平均分子量が50万以上であることが必要であり、中でも70万以上であることが好ましく、80万〜800万であることがより好ましい。アクリル系樹脂(C)の重量平均分子量が50万未満であると、耐衝撃性の向上効果を十分に奏することができない。一方、重量平均分子量が800万を超えると、得られる樹脂組成物の相溶性が損なわれたり、溶融粘度が高くなりすぎることから、耐衝撃性を十分に向上させることが困難となることがある。
【0026】
アクリル系樹脂(C)の市販品としては、例えば、三菱レイヨン社製メタブレンPシリーズや、ローム・アンド・ハース社製のPARALOID Kシリーズ、カネカ社製カネエースPAシリーズなどが挙げられる。
【0027】
アクリル系樹脂(C)の含有量は、ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対して0.3〜10質量部であることが必要であり、中でも1〜8質量部であることが好ましく、2〜6質量部であることがより好ましい。アクリル系樹脂(C)の含有量が0.3質量部未満では、耐衝撃性に優れた樹脂組成物を得ることが困難となる。一方、アクリル系樹脂(C)の含有量が10質量部を超えると、得られる樹脂組成物が透明性に劣るだけではなく、成形する際に流動性が大幅に低下し、操業性が低下する。
【0028】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物において、ポリアルキレンエーテル(B)とアクリル系樹脂(C)の質量比(B/C)は、80/20〜50/50であることが好ましい。このような比率で両成分を含有することにより、より効果的に耐衝撃性が付与される。
【0029】
透明性と耐衝撃性の両者ともに優れたポリ乳酸系樹脂組成物を得ることは、従来の技術では困難であった。しかしながら、本発明者らが検討する中で、ポリアルキレンエーテル(B)と、特定分子量のアクリル系樹脂(C)とを選択し、両者を併用し、かつ特定量を含有させることにより、ポリ乳酸樹脂(A)の透明性を維持したまま、耐衝撃性を十分に向上させる効果があることがわかった。そのメカニズムは不明であるが、ポリ乳酸樹脂(A)と各々の添加剤は相溶性に優れており、樹脂組成物中にこれらが良好に分散性しているためと想定される。
よって、ポリアルキレンエーテル(B)とアクリル系樹脂(C)とが樹脂組成物中に少量ずつ添加されていても、それぞれが奏する効果が十分に発揮される。その結果、ポリ乳酸樹脂(A)の透明性を損なうことなく、耐衝撃性が顕著に優れたポリ乳酸系樹脂組成物を得ることが可能となる。
【0030】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物を用いると、透明性、耐衝撃性に優れた成形体を得ることができる。本発明の樹脂組成物より得られる成形体のうち、厚み100〜500μmのシートの場合、透明性を示す指標であるヘイズ値(後述する実施例において測定方法を記載)を10%以下とすることが可能である。中でもヘイズ値は7%以下であることが好ましく、さらには6%以下であることが好ましい。ヘイズ値が10%を超えるシートは、透明性に劣り、例えば包装材として使用した場合、内容物を確認することが難しくなる。
また、厚み10〜100μmのフィルムの場合、ヘイズ値を5%以下とすることが可能である。中でもヘイズ値は4%以下であることが好ましく、さらには3%以下であることが好ましい。ヘイズ値が4%を超えるフィルムであると、透明性に劣り、例えば包装材で使用した場合、内容物の確認が難しくなる。
【0031】
本発明の樹脂組成物より得られる成形体のうち、厚み100〜500μmの未延伸シートの場合、耐衝撃性を示す指標である衝撃強度(後述する実施例において測定方法を記載)を0.3J以上とすることが可能である。中でも衝撃強度は、0.4J以上であることが好ましく、さらには、0.5J以上であることが好ましい。
また、厚み10〜100μmの延伸フィルムの場合、衝撃強度(後述する実施例において測定方法を記載)を0.6J/100μm以上とすることが可能である。中でも衝撃強度は、0.8J/100μm以上であることが好ましく、さらには、0.9J/100μm以上であることが好ましい。なお延伸配向により、未延伸であるシートより耐衝撃強度は上がっている。
【0032】
なお、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物においては、効果を損なわない範囲であれば、ポリ乳酸樹脂(A)以外の他の樹脂を含有してもよい。
【0033】
このような他の樹脂としては、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリ(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)共重合体、液晶ポリマー、ポリアセタールなどが挙げられる。
ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、などが挙げられる。
ポリアミドとしては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミド10Tなどが挙げられる。
ポリエステルとしては、各種脂肪族ポリエステル、各種芳香族ポリエステルをはじめ多くのものが挙げられる。脂肪族ポリエステルとしては、ポリブチレンサクシネート、ポリ(ブチレンサクシネート−乳酸)共重合体、ポリヒドロキシ酪酸などが挙げられる。芳香族ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリブチレンアジペートテレフタレートなどが挙げられ、さらに、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンイソフタレートコテレフタレート、ポリブチレンイソフタレートコテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、シクロヘキシレンジメチレンイソフタレートコテレフタレート、p−ヒドロキシ安息香酸残基とエチレンテレフタレート残基からなるコポリエステル、植物由来の原料である1,3−プロパンジオールからなるポリトリメチレンテレフタレート等などが挙げられる。
ポリ乳酸樹脂(A)とこれらの樹脂を混合する方法は特に限定されない。
【0034】
また、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物中には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、以下に示すような添加剤がさらに含有されていてもよい。例えば末端封鎖剤、紫外線防止剤、光安定剤、防曇剤、防霧剤、帯電防止剤、可塑剤、難燃剤、着色防止剤、酸化防止剤、充填材、顔料、離型剤、防湿剤、酸素バリア剤、結晶核剤等の各種添加剤が挙げられる。ただし、エポキシ基やアリル基等の反応性を有する官能基を含有する添加剤は好ましくない。樹脂組成物中にこのような添加剤が含まれると、その官能基がポリ乳酸樹脂(A)と反応し、ポリ乳酸樹脂(A)がゲル化しやすくなる。ポリ乳酸樹脂(A)がゲル化すると、得られる成形体にゲル化した部分が生じ、品位が低下するとともに透明性も低下しやすくなる。
【0035】
次に、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物の製造方法について説明する。
本発明の樹脂組成物を製造する方法は、特に限定されないが、例えば、工業的に最も簡便である溶融混練法が挙げられる。ポリ乳酸樹脂(A)とポリアルキレンエーテル(B)とアクリル系樹脂(C)とを溶融混練することで、本発明の樹脂組成物を得ることができる。溶融混練に際しては、単軸押出機、二軸押出機、ロール混練機、ブラベンダーなどの一般的な混練機を使用することができ、混練状態の向上のため、二軸の押出機を使用することが好ましい。ポリアルキレンエーテル(B)およびアクリル系樹脂(C)は、別フィーダーから添加してもよく、またポリ乳酸樹脂(A)とドライブレンドをしてホッパーから添加してもよい。シリンダー温度180〜230℃、ダイス温度190〜240℃に加熱し、これらの成分を溶融混練して押出して、ストランドを冷却後、ペレットサイズにカットする方法が好ましい。
【0036】
また、本発明の樹脂組成物の製造に際しては、ポリ乳酸樹脂(A)中にポリアルキレンエーテル(B)とアクリル系樹脂(C)とが高濃度に添加されたマスターバッチペレットを作製し、このマスターバッチペレットをポリ乳酸樹脂(A)で希釈することにより、樹脂組成物を得る方法を採用することもできる。具体的には、マスターバッチペレットとポリ乳酸樹脂(A)をドライブレンドした後、1軸押出機あるいは2軸押出機で溶融混練を行うことが好ましい。
【0037】
次に、本発明の成形体について説明する。
本発明の成形体は、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物を用いて成形されるものである。成形方法として、押出成形、射出成形、ブロー成形、インフレーション成形、インジェクションブロー成形、発泡シート成形、および、シート加工後の真空成形、圧空成形、真空圧空成形等が挙げられる。
【0038】
本発明の成形体として、押出成形してなるフィルムやシート、これらフィルムやシートを加工してなる成形体、射出成形してなる成形体、ビーズ発泡や押出発泡してなる成形体、ブロー成形してなる中空体、この中空体を加工してなる成形体などが挙げられる。
【0039】
中でも本発明の成形体は、本発明の樹脂組成物の透明性に優れるという利点を生かして、シート状成形体であることが好ましい。シート状成形体の具体例としては、押出成形してなるシートや、このシートを延伸してなるフィルムが挙げられる。押出成形してなるシートは、厚みが10〜500μm程度であることが好ましく、シートを延伸してなるフィルムは、厚みが200μm以下であることが好ましい。
【0040】
次に、シートやフィルムの製造方法について説明する。
シートの製造方法としては、Tダイ法、インフレーション法、カレンダー法等が挙げられる。中でも、Tダイ法、インフレーション法が好ましい。Tダイ法によりポリ乳酸系シートを製造する場合、製膜装置の押出機ホッパーに、予め作製したポリ乳酸系樹脂組成物を供給してよく、また、マスターバッチペレットとポリ乳酸樹脂(A)とを供給してもよい。押出機のシリンダー温度は150〜250℃、Tダイ温度は160〜250℃であることが好ましい。また、キャストロールは20〜50℃に制御されていることが好ましい。
【0041】
次に、フィルムの製造方法としては、上記方法で製造したポリ乳酸系シートを、一軸もしくは二軸延伸して製造する方法が好ましい。延伸方法としては、ロール法、テンター法等が挙げられ、一軸延伸法、逐次二軸延伸法あるいは同時二軸延伸法のいずれかを採用することが好ましい。延伸での面倍率は4〜16倍であることが好ましい。面倍率が4倍未満であると、得られるフィルムの機械物性、特に引張強度が低く、実用に耐えないことがある。また、面倍率が16倍を超えると、フィルムが延伸途中で延伸応力に耐えきれず破断してしまうことがある。延伸時のシート温度は、50〜110℃が好ましく、60〜90℃がさらに好ましい。延伸温度が50℃未満であると、延伸のための熱量不足により、フィルムが延伸初期で破断する傾向がある。また110℃を超えると、フィルムに熱が加わりすぎてドロー延伸となり、延伸斑を多発する傾向がある。
また、延伸フィルムに寸法安定性を付与する目的で、延伸後、熱弛緩処理を施してもよい。熱弛緩処理の方法としては、熱風を吹き付ける方法、赤外線を照射する方法、マイクロ波を照射する方法、ヒートロール上に接触させる方法等が選択でき、均一に精度良く加熱できる点で、熱風を吹き付ける方法が好ましい。その際、80〜160℃の範囲で1秒以上であることが好ましく、かつ、2〜8%のリラックス率の条件下で実施することが好ましい。
【実施例】
【0042】
次に実施例により本発明を具体的に説明する。実施例における各種の特性値の測定および評価は以下のように行った。
【0043】
(1)ポリ乳酸樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)
示差屈折率検出器(島津製作所社製、RID−10A)を備えたゲル浸透クロマトグラフィ装置(島津製作所社製)を用い、テトラヒドロフラン(THF)を溶離液として、流速1.0ml/min、40℃で測定した。カラムは、SHODEX KF−805L、KF−804L(昭和電工社製)を連結して用いた。ポリ乳酸樹脂(A)10mgをクロロホルム0.5mlに溶解後、THF5mlで希釈し、0.45μmのフィルターでろ過したサンプルを測定に供した。重量平均分子量はポリスチレン(Waters社製)を標準試料として換算した。
【0044】
(2)ポリ乳酸樹脂(A)の融点
示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製DSC装置 DSC7)を用い、ポリ乳酸樹脂(A)を20℃から250℃まで20℃/分で昇温させ、5分間保持した後、250℃から0℃まで20℃/分で冷却して、0℃で5分間保持し、さらに0℃から250℃まで20℃/分で再昇温して測定される融解ピーク温度(Tm)を融点とした。
【0045】
(3)ポリ乳酸樹脂(A)のD体含有量
ポリ乳酸樹脂(A)約0.3gを1N−水酸化カリウム/メタノール溶液6mlに加え、65℃にて充分撹拌し、ポリ乳酸樹脂を分解させた後、硫酸450μlを加えて、65℃にて撹拌し、乳酸メチルエステルとした。このサンプル5ml、純水3ml、および、塩化メチレン13mlを混合して振り混ぜた。静置分離後、下部の有機層を約1.5ml採取し、HPLC用ディスクフィルター(孔径0.45μm)でろ過し、ガスクロマトグラフィーで測定した。
ガスクロマトグラフィー(Hewlett Packard社製、HP−6890)は、ヘリウム(He)をキャリアガスとして、流速1.8ml/minで、オーブンプログラムは90℃で3分間保持し、50℃/minで220℃まで昇温し、1分間保持する条件で行った。カラムは、J&W社製DB−17(30m×0.25mm×0.25μm)を用い、検出器はFID(温度300℃)、内部標準法で測定した。乳酸メチルエステルの全ピーク面積に占めるD−乳酸メチルエステルのピーク面積の割合(%)を算出し、これをD体含有量(モル%)とした。
【0046】
(4)ポリ乳酸樹脂(A)の残留ラクチド量
ポリ乳酸樹脂(A)0.5gにジクロロメタン10ml、100ppmの2,6−ジメチル−γ−ピロン内部標準液を0.5ml加えてシェーカー(150rpm×40分)により攪拌し溶解させて測定用試料溶液を作成した。そこへシクロヘキサンを添加し、ポリマーを析出させ、HPLC用ディスクフィルター(孔径0.45μm)でろ過し、ガスクロマトグラフィーで測定した。標準物質は東京化成工業社製のL−ラクチドを用いた。
ガスクロマトグラフィー(Hewlett Packard社製、HP−6890)は、ヘリウム(He)をキャリアガスとして、流速2.5ml/minで、オーブンプログラムは80℃で1分間保持し、20℃/minで200℃まで昇温し、30℃/minで280℃まで昇温し、5分間保持する条件で行った。カラムは、J&W社製DB−17(30m×0.25mm×0.25μm)を用い、検出器はFID(温度300℃)、内部標準法で測定した。
【0047】
(5)ポリ乳酸系樹脂組成物の溶融粘度
東洋精機製作所社製メルトインデクサーF−B01を用いて、JIS K7210に準拠して測定した。試験温度190℃、試験荷重2.16kgfの条件で測定した。
【0048】
(6)ヘイズ(透明性)
得られたシートおよび延伸フィルムについて、JIS−K7105により、日本電色工業社製ヘーズメーターNDH2000を用いて測定した。このとき、それぞれサンプル数を5とし、これらの測定値の平均値をヘイズとした。
【0049】
(7)シートの耐衝撃性
得られたシートを用い、ASTM−2794に従って落錘衝撃試験をおこない、耐衝撃強度を測定した。すなわち、落下重錘300gf、撃心を1/8インチとして落錘高さ(cm)を変更しながら、試験回数5回毎の破壊状態を目視観察した。
全く破壊されない時の落錘高さ(m)×落下重錘0.3(kg)×9.8(m/s
2)=仕事量(J)の式により、仕事量を算出し、それを耐衝撃強度とした。
【0050】
(8)フィルムの耐衝撃性
得られた延伸フィルムを用い、東洋精機製作所社製フィルム衝撃試験機を使用し、20℃、65%RH雰囲気下において、緊張下で固定した延伸フィルムに振り子容量30kgf・cmの衝撃ヘッド(0.5インチ半球形)を打ち付け、フィルムの貫通に要したエネルギーを測定した(ASTM D3420)。そして、フィルムの厚みを100μmに換算した値として、耐衝撃強度を算出した。耐衝撃強度が0.6J/100μm以上あるものを耐衝撃性に優れているとした。
【0051】
次に、実施例、比較例において用いた各種原料を示す。
(1)ポリ乳酸樹脂(A)
A−1:ネイチャーワークス社製 4032D、D体含有量1.2モル%、残留ラクチド量0.2質量%、重量平均分子量(Mw)16万、融点165℃
A−2:ネイチャーワークス社製 4042D、D体含有量4.0モル%、残留ラクチド量0.2質量%、重量平均分子量(Mw)16万、融点150℃
【0052】
(2)ポリアルキレンエーテル(B)
B−1:ポリエチレングリコール、三洋化成工業社製 PEG−20000、数平均分子量(Mn)20000
B−2:ポリエチレングリコール、三洋化成工業社製 PEG−10000、数平均分子量(Mn)11000
B−3:ポリエチレングリコール、三洋化成工業社製 PEG−6000S、数平均分子量(Mn)8300
B−4:ポリエチレングリコール、三洋化成工業社製 PEG−4000S、数平均分子量(Mn)3400
【0053】
(3)アクリル系樹脂(C)
C−1:三菱レイヨン社製 メタブレンP−531A、重量平均分子量450万
C−2:三菱レイヨン社製 メタブレンP−501A、重量平均分子量80万
C−3:三菱レイヨン社製 メタブレンP−700、重量平均分子量50万
C−4:三菱レイヨン社製 メタブレンP−570A、重量平均分子量25万
【0054】
実施例1
〔ポリ乳酸系樹脂組成物〕
ポリ乳酸樹脂(A−1)を100質量部、ポリアルキレンエーテル(B−1)を5質量部、アクリル系樹脂(C−1)を5質量部用い、これらをドライブレンドしたものを、二軸押出機(池貝社製「PCM−30」、スクリュー径:29mm、L/D(押出機のシリンダの長さLと直径Dの比):30、ノズル直径:4mm、孔数:3、温度:230℃)中にホッパーより供給した。そして、溶融混練した後、押出し、ペレット状に加工し、乾燥して、ポリ乳酸系樹脂組成物を得た。
〔シート〕
上記のように得られたポリ乳酸系樹脂組成物を、口径90mmの単軸押出機にてTダイ温度230℃で溶融押出し、35℃に温度制御されたキャストロールに密着させて冷却し、本発明の樹脂組成物で成形された厚さ250μmのシートを得た。
〔延伸フィルム〕
得られたシートの端部を、テンター式同時二軸延伸機のクリップに把持し、81℃の予熱ゾーンを走行させた後、温度79℃でMDに3.0倍、TDに3.3倍の倍率で同時二軸延伸した。その後TDの弛緩率5%として、温度140℃で4秒間の熱処理を施した後、室温まで冷却して巻き取り、厚さ25μmの延伸フィルムを得た。
【0055】
実施例2〜12、比較例1〜9
ポリアルキレンエーテル(B)、アクリル系樹脂(C)の種類や含有量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、ポリ乳酸系樹脂組成物を得た。そして、得られたポリ乳酸系樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にしてシート、延伸フィルムを製造した。
【0056】
実施例1〜12および比較例1〜9で得られたポリ乳酸系樹脂組成物の組成、シートおよび延伸フィルムの特性値を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1から明らかなように、実施例1〜12で得られたポリ乳酸系樹脂組成物は、ポリアルキレンエーテル(B)、アクリル系樹脂(C)の含有量や、アクリル系樹脂(C)の重量平均分子量が本発明の範囲内のものであったため、得られたシート、延伸フィルムは、ともに透明性、耐衝撃性に優れたものであった。
一方、比較例1の樹脂組成物は、ポリアルキレンエーテル(B)、アクリル系樹脂(C)をともに含有しなかったため、得られたシート、延伸フィルムは耐衝撃性に劣るものであった。
比較例2の樹脂組成物は、ポリアルキレンエーテル(B)を含有するが、アクリル系樹脂(C)の重量平均分子量が本発明の範囲外であったため、また、比較例3、4の樹脂組成物はアクリル系樹脂(C)を含有しないか、含有量が少なすぎたため、得られたシート、延伸フィルムは、ともに耐衝撃性に劣るものであった。比較例5の樹脂組成物は、アクリル系樹脂(C)の含有量が多すぎたため、透明性に劣るものであった。
比較例6、7の樹脂組成物は、アクリル系樹脂(C)を含有するが、ポリアルキレンエーテル(B)を含有しないか、含有量が少なすぎたため、得られたシート、延伸フィルムは、ともに耐衝撃性に劣るものであった。比較例8の樹脂組成物は、ポリアルキレンエーテル(B)の含有量が多すぎたため、溶融粘度が低くなり、シート化をする際にドローダウンが起こり、シート化ができなかった。
比較例9の樹脂組成物は、ポリアルキレンエーテル(B)、アクリル系樹脂(C)の含有量がともに多すぎたため、得られたシート、延伸フィルムは、ともに透明性に劣るものであった。