レーダ装置は、所定周期で周波数が変わる送信信号と、該送信信号に基づく送信波の物標からの反射波を受信した受信信号との差分周波数を示すピーク信号を、送信信号の周波数が上昇するアップ区間と、周波数が下降するダウン区間とで導出し、両区間におけるピーク信号を組合せの信頼度に基づいてペアリングすることで、ピーク信号に係る物標に関する情報を取得する。そしてレーダ装置は、最も高い信頼度を示す第1指標と、該第1指標よりも低い信頼度を示す第2指標とを導出し、第1指標と第2指標との比較結果に基づき、最も高い信頼度の組み合わせの妥当性を判定する。これによりレーダ装置は、複数の組合せの信頼度の比較結果に応じて、組合せの妥当性を判定でき、正しい組み合わせのペアデータを取得できる。
所定周期で周波数が変わる送信信号と、該送信信号に基づく送信波の物標からの反射波を受信した受信信号との差分周波数を示すピーク信号を、前記送信信号の周波数が上昇するアップ区間と、周波数が下降するダウン区間とで導出し、両区間におけるピーク信号を組合せの信頼度に基づいてペアリングすることで、前記ピーク信号に係る物標に関する情報を取得するレーダ装置であって、
最も高い信頼度を示す第1指標と、該第1指標よりも低い信頼度を示す第2指標とを導
出する導出手段と、
前記第1指標と前記第2指標との比較結果に基づき、前記最も高い信頼度の組み合わせの妥当性を判定する判定手段と、
を備えることを特徴とするレーダ装置。
所定周期で周波数が変わる送信信号と、該送信信号に基づく送信波の物標からの反射波を受信した受信信号との差分周波数を示すピーク信号を、前記送信信号の周波数が上昇するアップ区間と、周波数が下降するダウン区間とで導出し、両区間におけるピーク信号の組合せの信頼度に基づいてペアリングすることで、前記ピーク信号に係る物標に関する情報を取得するレーダ装置の信号処理方法であって、
最も高い信頼度の第1指標と、該第1指標よりも低い信頼度の第2指標とを導出する工程と、
前記第1指標と前記第2指標との比較結果に基づき、前記最も高い信頼度の組み合わせの妥当性を判定する工程と、
を備えることを特徴とする信号処理方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
【0020】
<第1の実施の形態>
<1.システムブロック図>
図1は、本実施形態に係る車両制御システム10の構成を示す図である。車両制御システム10は、例えば自動車などの車両に搭載されている。以下、車両制御システム10が搭載される車両を「自車両」という。図に示すように、車両制御システム10は、レーダ装置1と、車両制御装置2とを備えている。
【0021】
本実施の形態のレーダ装置1は、周波数変調した連続波であるFM−CW(Frequency Modulated Continuous Wave)を用いて、自車両の前方に存在する先行車などの物標に関する情報(以下、「物標情報」という。)を取得する。物標情報は例えば、物標から反射した反射波がレーダ装置1の受信アンテナに受信されるまでの距離(以下、「縦距離」という。)(m)、自車両に対する物標の相対速度(km/h)、自車両の左右方向(車幅方向)における物標の距離(以下、「横距離」という。)(m)などであり、レーダ装置1は取得したこのような物標情報を車両制御装置2に出力する。
【0022】
車両制御装置2は自車両のブレーキおよびスロットル等に接続され、レーダ装置1から出力された物標情報に基づいて自車両の挙動を制御する。例えば車両制御装置2は、自車両の前方を走行する他の車両との間の車間距離を保持しつつ、当該他の車両に追随する制御を行う。これにより、本実施の形態の車両制御システム10は、ACC(Adaptive Cruise Control)システムとして機能する。また車両制御装置2は、自車両と先行車とが衝突する可能性を有する場合に、自車両の乗員を保護する制御を行う。これにより本実施の形態の車両制御システム10は、PCS(Pre-Crash Safety System)として機能する。
【0023】
<2.レーダ装置ブロック図>
図2は、レーダ装置1の構成を示す図である。レーダ装置1は、例えば車両のフロントバンパー内に設けられ、車両外部に送信波を出力し物標からの反射波を受信する。またレーダ装置1は、送信部4と、受信部5と、信号処理装置6とを主に備える。
【0024】
送信部4は信号生成部41と、発振器42とを備えている。信号生成部41は三角波状に電圧が変化する変調信号を生成し、発振器42に供給する。発振器42は、信号生成部41で生成された変調信号に基づいて連続波の信号を周波数変調し、時間の経過に従って周波数が変化する送信信号を生成し、送信アンテナ40に出力する。
【0025】
送信アンテナ40は、発振器42からの送信信号に基づいて、送信波TWを自車両の外部に出力する。送信アンテナ40が出力する送信波TWは、所定の周期で周波数が上下するFM−CWとなる。送信アンテナ40から自車両の前方に送信された送信波TWは、他の車両などの物標で反射されて反射波RWとなる。
【0026】
受信部5は、アレーアンテナを形成する複数の受信アンテナ51と、その複数の受信アンテナ51に接続された複数の個別受信部52とを備えている。本実施の形態では受信部5は、例えば4つの受信アンテナ51と、4つの個別受信部52とを備えている。4つの個別受信部52は、4つの受信アンテナ51にそれぞれ対応している。各受信アンテナ51は物標からの反射波RWを受信し、各個別受信部52は対応する受信アンテナ51で得られた受信信号を処理する。
【0027】
各個別受信部52は、ミキサ53と、A/D変換器54とを備えている。受信アンテナ51で受信された反射波RWから得られた受信信号は、ローノイズアンプ(図示省略)で増幅された後にミキサ53に送られる。ミキサ53には送信部4の発振器42からの送信信号が入力され、ミキサ53において送信信号と受信信号とがそれぞれミキシングされる。これにより送信信号の周波数と、受信信号の周波数との差となるビート周波数を示すビート信号が生成される。ミキサ53で生成されたビート信号は、A/D変換器54でデジタルの信号に変換された後に信号処理装置6に出力される。
【0028】
信号処理装置6は、CPUおよびメモリ63などを含むマイクロコンピュータを備えている。信号処理装置6は、演算の対象とする各種のデータを、記憶装置であるメモリ63に記憶する。メモリ63は例えばRAMなどである。信号処理装置6は、マイクロコンピュータでソフトウェア的に実現される機能として、送信制御部61、フーリエ変換部62、および、データ処理部7を備えている。送信制御部61は、送信部4の信号生成部41を制御する。
【0029】
フーリエ変換部62は、複数の個別受信部52のそれぞれから出力されるビート信号を対象に、高速フーリエ変換(FFT)を実行する。これによりフーリエ変換部62は、複数の受信アンテナ51の各受信信号に係るビート信号を、周波数領域のデータである周波数スペクトラムに変換する。フーリエ変換部62で得られた周波数スペクトラムは、データ処理部7に入力される。
【0030】
データ処理部7は、複数の受信アンテナ51それぞれの周波数スペクトラムに基づいて、物標情報(縦距離、相対速度、および、横距離等)を導出する。データ処理部7は、導出した物標情報を車両制御装置2に出力する。データ処理部7には、自車両に設けられた車速センサ81、および、ステアリングセンサ82などの各種センサからの情報が入力される。データ処理部7は、車速センサ81から入力される自車両の速度、及び、ステアリングセンサ82から入力される自車両の舵角などを処理に用いることができる。
【0031】
<3.物標情報の取得>
次に、レーダ装置1が物標情報を取得する手法(原理)を説明する。
図3は、送信波TWと反射波RWとの関係を示す図である。説明を簡単にするため、
図3に示す反射波RWは理想的な一つの物標のみからの反射波としている。
図3においては送信波TWを実線で示し、反射波RWを破線で示す。また
図3の上部において、横軸は時間[msec]、縦軸は周波数[GHz]を示している。
【0032】
図に示すように、送信波TWは、所定の周波数を中心として所定の周期で周波数が上下する連続波となっている。送信波TWの周波数は、時間に対して線形的に変化する。以下では、送信波TWの周波数が上昇する区間を「アップ区間」といい、下降する区間を「ダウン区間」という。また送信波TWの中心周波数をfo、送信波TWの周波数の変位幅をΔF、送信波TWの周波数が上下する周期をfmとする。
【0033】
反射波RWは、送信波TWが物標で反射されたものであるため、送信波TWと同様に、所定の周波数を中心として所定の周期で周波数が上下する連続波となる。ただし反射波RWには、送信波TWに対して時間Tの時間遅延が生じる。この遅延する時間Tは、自車両に対する物標の距離(縦距離)Rに応じたものとなり、光速(電波の速度)をcとして次の数1で表される。
【0034】
【数1】
また、反射波RWには、自車両に対する物標の相対速度Vに応じたドップラー効果により、送信波TWに対して周波数fdの周波数偏移が生じる。
【0035】
このように、反射波RWには、送信波TWに対して、縦距離に応じた時間遅延とともに相対速度に応じた周波数偏移が生じる。このため
図3の下部に示すように、ミキサ53で生成されるビート信号のビート周波数(送信波TWの周波数と反射波RWの周波数との差の周波数)は、アップ区間とダウン区間とで異なる値となる。以下、アップ区間のビート周波数をfup、ダウン区間のビート周波数をfdnとする。
【0036】
ここで物標の相対速度が「0」の場合(ドップラー効果による周波数偏移がない場合)のビート周波数をfrとすると、この周波数frは次の数2で表される。
【0037】
【数2】
この周波数frは上述した遅延する時間Tに応じた値となる。このため、物標の縦距離Rは、周波数frを用いて次の数3で求めることができる。
【0038】
【数3】
また、ドップラー効果により偏移する周波数fdは、次の数4で表される。
【0039】
【数4】
物標の相対速度Vは、この周波数fdを用いて次の数5で求めることができる。
【0040】
【数5】
以上の説明では、理想的な一つの物標の縦距離および相対速度を求めたが、実際には、レーダ装置1は、複数の物標からの反射波RWを同時に受信する。このためフーリエ変換部62が、受信信号から得たビート信号をFFT処理した周波数スペクトラムには、それら複数の物標それぞれに対応する情報が含まれている。以下では、物標情報を取得する処理において、周波数スペクトラムに基づいて行われるピーク抽出、角度演算、および、ペアリングの処理について説明する。
【0041】
<3−1.ピーク抽出>
図4は、両区間の周波数スペクトラムの例を示す図である。
図4(a)はアップ区間における周波数スペクトラムを示し、
図4(b)はダウン区間における周波数スペクトラムを示す。図中において、横軸は周波数[kHz]、縦軸は信号のパワー[dB]を示している。
【0042】
図4(a)に示すアップ区間の周波数スペクトラムでは、2つの周波数fup1,fup2の位置にそれぞれピークPu1,ピークPu2が現れている。また
図4(b)に示すダウン区間の周波数スペクトラムでは、2つの周波数fdn1,fdn2の位置にそれぞれピークPd1,Pd2が現れている。相対速度を考慮しなければ、このように周波数スペクトラムにおいてピークが表れる位置の周波数は、物標の縦距離に対応する。
【0043】
このようにデータ処理部7のピーク抽出部71(
図2参照。)は、アップ区間およびダウン区間の双方の周波数スペクトラムに関して、所定の閾値thを超えるパワーを有するピーク(
図4では、ピークPu1,Pu2,Pd1,Pd2)が現れる周波数を抽出する。以下、このように抽出される周波数を「ピーク周波数」という。
【0044】
<3−2.方位演算>
図4に示すようなアップ区間、および、ダウン区間の双方の周波数スペクトラムは、一つの受信アンテナ51の受信信号から得られる。したがってフーリエ変換部62は、4つの受信アンテナ51の受信信号のそれぞれから
図4と同様のアップ区間、および、ダウン区間の双方の周波数スペクトラムを導出する。
【0045】
4つの受信アンテナ51は同一の物標からの反射波RWを受信しているため、4つの受信アンテナ51の周波数スペクトラムの相互間において、抽出されるピーク周波数は同一となる。ただし4つの受信アンテナ51の位置は互いに異なるため、受信アンテナ51ごとに反射波RWの位相は異なる。これにより同一のピーク周波数となる受信信号の位相情報は、受信アンテナ51ごとに異なる。
【0046】
また略同一の縦距離に複数の物標が存在する場合においては、周波数スペクトラムにおける一つのピーク周波数の信号(以下、「ピーク信号」という。)に、複数の物標の情報が含まれる。このためデータ処理部7の方位導出部72(
図2参照。)は、例えばESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)を用いた方位演算処理により、一つのピーク信号から当該信号に係る複数の物標の情報を分離し、それら複数の物標それぞれの角度を推定する。
【0047】
これにより方位導出部72は、略同じ縦距離の異なる角度に物標が存在する場合は、一つのピーク信号から複数の「角度」を導出する。また方位導出部72は、一つのピーク信号から、複数の角度それぞれの信号のパワーである「角度パワー」を分離して導出する。
【0048】
方位導出部72が用いるESPRITの分離可能数は、例えば「3」となっており、一つのピーク信号から最大3つの角度を導出する。方位導出部72はこのような角度の導出を、アップ区間及びダウン区間の双方の周波数スペクトラムにおける全てのピーク周波数に関して実行する。なお、以下では説明を簡単にするため、略同一の縦距離に存在する物標の数は「1」として説明を続ける。そのためピークPu1,Pu2,Pd1,Pd2それぞれに対して導出される角度は1つであり、それぞれの角度に対応する角度パワーは1つとなる。
【0049】
<3−3.ペアリング>
上述のようにピーク抽出部71の処理により複数の物標それぞれに対応するピーク信号が導出され、方位導出部72の処理によりピーク信号に対する角度および角度パワーが導出される。その結果、UP区間およびDOWN区間のそれぞれの区間におけるピーク信号は「ピーク周波数」、「角度」、および、「角度パワー」のパラメータ値を有することとなる。
【0050】
データ処理部7の物標情報導出部73(
図2参照。)は、ペアリング処理おいて、アップ区間のピーク信号と、ダウン区間のピーク信号とを組み合わせてペアデータを導出する。物標情報導出部73は、アップ区間におけるピーク信号のパラメータ値(角度および角度パワー)と、ダウン区間におけるピーク信号のパラメータ値(角度および角度パワー)とを用いて、ピーク信号の組み合わせの信頼度の指標となる「マハラノビス距離」を数6により算出する。具体的には数6に示すように、物標情報導出部73がアップ区間およびダウン区間のピーク信号の角度差θdを2乗して所定の係数aを乗算した値と、アップ区間およびダウン区間のピーク信号の角度パワー差θpを2乗して所定の係数bを乗算した値とを足し合わせ、マハラノビス距離MDを算出する。
【0051】
【数6】
そして、物標情報導出部73はマハラノビス距離MDに基づきペアリング処理を行う。
図5は、マハラノビス距離に基づくペアリング処理の一例を示す図である。
図5では、
図4に示したピークPu1,Pu2,Pd1,Pd2に対応するピーク信号の組み合わせについて説明する。物標情報導出部73はアップ区間のピーク信号と、ダウン区間のピーク信号との全ての組み合わせによるマハラノビス距離MDを算出する。物標情報導出部73は、アップ区間のピーク信号Pu1,Pu2からダウン区間のピーク信号Pd1,Pd2それぞれに対するマハラノビス距離MDを算出する。つまり物標情報導出部73は、全4通りの組み合わせに対するそれぞれのマハラノビス距離MDを算出する。
【0052】
その結果、ピーク信号Pu1とPd1との実線で示すマハラノビスの距離MD1(距離50)、ピーク信号Pu1とPd2との一点鎖線で示す距離MD2(距離52)が算出される。またピーク信号Pu2とPd1との二点鎖線で示す距離MD3(距離55)、ピーク信号Pu2とPd2との実線で示す距離MD4(距離51)が算出される。
【0053】
そして物標情報導出部73は、全ての組み合わせに基づくマハラノビス距離MDを算出した後、マハラノビス距離MDが最小値となる組合せを最も信頼度の高い組み合わせとし、この組合せをペアデータとして確定する。なお1つのペアデータが確定した場合は、そのペアデータに係るピーク信号を除いた残りのピーク信号の中でマハラノビス距離MDが最小値となる組合せが別のペアデータとして確定する。
【0054】
図5ではマハラノビス距離MDが最小値となる組合せは、ピーク信号Pu1とPd1との組合せである。しかしながら、これらのピーク信号による組合せが誤った組合せの場合がある。
【0055】
例えば、ピーク信号Pu1,Pu2,Pd1,Pd2が車道に設けられたガードレール等の静止物のピーク信号の場合、角度や信号のパワー等のパラメータ値が略同じ値となる。このようなピーク信号の組み合わせを、ピーク信号のパラメータに基づき決定する場合、マハラノビス距離MDが最小値(以下、「第1マハラノビス距離」ともいう。)であっても、ペアデータとして確定した組合せが実際に存在する物標の組み合わせと異なることがある。そのため物標情報導出部73は、ペアデータとして確定した組合せの一方のピーク信号を含む他の組み合わせの中で、マハラノビス距離MDが2番目に小さい値(以下、「第2マハラノビス距離」ともいう。)となる組合せのマハラノビス距離MDを、メモリ63に記憶する。そして物標情報導出部73は、確定したペアデータの第1マハラノビス距離、および、第2マハラノビス距離を用いて組合せの妥当性を判定する。組合せの妥当性の判定の詳細な処理については後述する。
【0056】
図6は、メモリ63に記憶されるペアデータと、ペアデータに係るマハラノビス距離の一例である。
図5において最小のマハラノビス距離となるピーク信号Pu1とPd1との組み合わせがペアデータP1として記載されている。このときの第1マハラノビス距離はMD1(距離50)である。また第2マハラノビス距離は、アップ側のピーク信号Pu1にとって2番目に小さいマハラノビス距離(
図5ではPu1とPd2のマハラノビス距離MD2(距離52))と、ダウン側のピーク信号Pd1にとって2番目に小さいマハラノビス距離(
図5ではPd1とPu2のマハラノビス距離MD3(距離55))の内小さい方、すなわちMD2(距離52)となる。
【0057】
そしてペアデータP1に係る第1マハラノビス距離MD1(距離50)と、第2マハラノビス距離MD2(距離52)とがメモリ63に記憶される。またメモリ63には、ペアデータP1以外の他のペアデータに係る第1マハラノビス距離、および、第2マハラノビス距離が記憶される。
【0058】
なお物標情報導出部73は、上述した数2および数3を用いて物標の縦距離Rを求めることができ、上述した数4および数5を用いて物標の相対速度Vを求めることができる。
【0059】
また物標情報導出部73は、アップ区間の角度をθup、ダウン区間の角度をθdnとして、次の数7により物標の角度θを求める。そして物標情報導出部73は、物標の角度θと縦距離Rとに基づいて、三角関数を用いた演算により物標の横距離を求めることができる。
【0060】
【数7】
<4.処理フローチャート>
次に、データ処理部7が実行する物標情報取得処理の全体的な流れについて説明する。この物標情報取得処理は、上述のピーク抽出、方位演算、および、ペアリングを含む処理であり、データ処理部7が物標情報を導出し車両制御装置2に出力する処理である。
図7は、物標情報取得処理の流れを示す図である。データ処理部7は、物標情報取得処理を、所定の時間周期(例えば、1/20秒周期)で時間的に連続して繰り返す。物標情報取得処理の開始時点では、4つの受信アンテナ51の全てに関してアップ区間、および、ダウン区間の双方の周波数スペクトラムが、フーリエ変換部62からデータ処理部7に入力されている。
【0061】
まずピーク抽出部71が、周波数スペクトラムを対象に、ピーク周波数を抽出する(ステップS11)。ピーク抽出部71は、アップ区間およびダウン区間のそれぞれの区間における周波数スペクトラムのうち、所定の閾値thを超える信号レベルを有するピークが現れる周波数をピーク周波数として抽出する。
図4の例ではピーク抽出部71は、ピーク信号Pu1,Pu2,Pd1,Pd2のそれぞれの周波数fup1,fup2,fdn1,fdn2をピーク周波数として抽出する。
【0062】
次に、方位導出部72が抽出されたピーク周波数に関して、ESPRITを用いた方位演算処理により物標の角度を推定する。これにより方位導出部72は、複数の物標それぞれの角度と、角度パワーとを導出する(ステップS12)。
【0063】
このような処理によりデータ処理部7は、自車両の前方に存在する複数の物標それぞれに対応するピーク信号を導出する。つまりデータ処理部7は、アップ区間およびダウン区間の双方で「ピーク周波数」、「角度」、および、「角度パワー」のパラメータ値を有するピーク信号を導出する。
【0064】
次に、データ処理部7の物標情報導出部73が、組み合わせの信頼度に基づいてアップ区間のピーク信号と、ダウン区間のピーク信号とをペアリングする(ステップS13)。具体的には物標情報導出部73は、アップ区間のピーク信号と、ダウン区間のピーク信号との全ての組み合わせに基づくマハラノビス距離MDを算出し、マハラノビス距離MDが最小値となる組み合わせをペアデータP1として導出する。また物標情報導出部73は、ペアデータに基づく第2マハラノビス距離を算出し、ペアデータP1に係る第1マハラノビス距離、および、第2マハラノビス距離を
図6に示したようにメモリ63に記憶する。
【0065】
そして物標情報導出部73は、導出したペアデータのそれぞれに関して、物標の縦距離、物標の相対速度、および、物標の横距離を物標情報として導出する。
【0066】
次に物標情報導出部73は、今回の物標情報取得処理(以下、「今回処理」という。)で導出したペアデータと、過去の物標情報取得処理(以下、「過去処理」という。)で導出したペアデータとの間における時間的な連続性を判定する(ステップS14)。
【0067】
物標情報導出部73は、過去処理におけるペアデータから、当該ペアデータに係る物標の今回処理における物標情報(縦距離、相対速度、および、横距離等)を予測する。これにより物標情報導出部73は、予測した物標情報を有する実データではないペアデータ(以下、「予測ペアデータ」という。)を導出する。
【0068】
そして物標情報導出部73は、今回処理の複数のペアデータから、予測ペアデータと物標情報に関する値が近似する一のペアデータを選択する。物標情報導出部73は、このように選択した一のペアデータが過去処理のペアデータと連続性を有し、過去処理のペアデータと同一の物標を示していると判断する。
【0069】
物標情報導出部73は、メモリ63に記憶された過去処理のペアデータの全てに関して連続性を判定する。このような判定において、予測ペアデータのパラメータ値に近似する今回処理のペアデータが存在しない場合は、過去処理のペアデータと連続性を有する今回処理のペアデータとして予測ペアデータを用いる。このように今回処理のペアデータとして予測ペアデータを用いて、仮想的に物標情報が導出されているようにする処理を「外挿」と呼ぶ。
【0070】
また物標情報導出部73は、今回処理のペアデータのうち、過去処理のペアデータとの連続性を判断できなかったペアデータは初めて導出された新規のペアデータ、つまり新規の物標を示していると判断する。
【0071】
そして物標情報導出部73は、今回処理で取得したペアデータと過去処理で取得したペアデータとの時間的な連続性が、所定回数以上続いているか否かを判定する(ステップS15)。物標情報導出部73は、連続性が3回以上続いている場合(ステップS15でYes)に物標情報を車両制御装置2に出力ずるためのフィルタ処理を行う(ステップS16)。
【0072】
連続性が3回続いている場合とは、例えば前々回の処理で初めてペアデータP1を導出し、前回の処理でペアデータP1に対応する物標と同一物標のペアデータを導出し、今回処理でペアデータP1に対応する物標と同一物標のペアデータを導出した場合をいう。なお連続性が3回未満の場合(ステップS15でNo)は、今回処理が終了した後、次回の物標情報取得処理以降の処理(以下、「次回以降の処理」という。)で連続性の回数が判定される。
【0073】
このようにデータ処理部7は、複数回の物標情報取得処理で同一物標のペアデータが継続的に導出されているか否かを判定することで、車両制御装置2へのミスペアデータの出力を防止する。過去処理におけるペアデータがミスペアデータの場合、当該ミスペアデータから予測された予測ペアデータに対して、物標情報に関する値が近似する今回処理のペアデータは導出されない。その結果、今回処理では外挿の処理が行われ、次回以降の処理でも外挿の処理が継続し、ミスペアデータはメモリ63から消去される。
【0074】
次に、物標情報導出部73は、連続性が所定回数以上のペアデータに対してフィルタ処理を行い、ペアデータの物標情報を時間軸方向に平滑化する(ステップS16)。具体的には物標情報導出部73は、今回処理で導出した瞬時値としてのペアデータの物標情報と、連続性の判定処理に用いた予測ペアデータの物標情報とを加重平均したデータ(以下、「フィルタデータ」という。)を、当該ペアデータの新たな物標情報として導出する。今回処理で導出したペアデータの物標情報の重みは例えば「0.25」とされ、予測ペアデータの物標情報の重みは例えば「0.75」とされる。瞬時値としてのペアデータの物標情報はノイズの影響などで異常な値となる可能性があるが、このようなフィルタ処理を行うことで異常な値となることを防止できる。
【0075】
次に物標情報導出部73は、移動物判定処理を行い、フィルタデータに移動物フラグ、および、先行車フラグを設定する(ステップS17)。物標情報導出部73は、まずフィルタデータの相対速度と、車速センサ81から得られる自車両の速度とに基づいて、フィルタデータが示す物標の絶対速度と走行方向とを導出する。
【0076】
そして物標情報導出部73は、フィルタデータが示す物標の絶対速度が所定の速度(例えば、1km/h)以上の場合は、当該物標は移動物であると判断し、移動物フラグを「オン」とし、フィルタデータが示す物標の絶対速度が所定の速度(例えば、1km/h)未満の場合は、当該物標は静止物であると判断し、移動物フラグを「オフ」とする。
【0077】
また物標情報導出部73は、フィルタデータが示す物標の走行方向が自車両と同一方向であり、かつ、絶対速度が所定の速度(例えば、18km/h)以上の場合は、先行車フラグを「オン」とし、フィルタデータが示す物標がこれらの条件を満足しない場合は、先行車フラグを「オフ」とする。
【0078】
次に物標情報導出部73は、フィルタデータに対応するペアデータの組み合わせの妥当性を判定するミスペア判定処理を行う(ステップS18)。以下、ミスペア判定処理について詳しく説明する。
【0079】
<5.ミスペア判定処理>
図7のステップS15以降の処理で、ペアデータがミスペアデータか否かを判定するために、ペアデータの連続性が所定回数以上か否かを判定し(ステップS15)、所定回数以上の場合(ステップS15でYes)に、車両制御装置2に出力するためにペアデータをフィルタ処理する(ステップS16)ことを説明した。しかしながら、ピーク信号のパラメータに基づきペアデータを確定する場合、アップ区間およびダウン区間のそれぞれの区間におけるピーク信号のパラメータ値が近似しているときは、誤った組合せによるミスペアデータが発生する可能性がある。
【0080】
そして今回処理のミスペアデータが、過去処理の予測ペアデータの予測範囲内となる場合は、ミスペアデータの連続性が所定回数以上となることがある。過去処理の予測ペアデータが正しい組み合わせのペアデータから予測された場合、今回処理のミスペアデータとは本来、同一物標として連続性ありとは判定されない。しかし予測ペアデータは、所定の予測範囲(縦距離範囲、横距離範囲、相対速度範囲等)を有しているため、ミスペアデータの物標情報がその予測範囲内となったときは連続性があるものと判定される。
【0081】
ここで、ミスペアデータか否かの判定をより精度よく行うために、単純に全てのペアデータに対する連続性の判定回数を増加させると、レーダ装置1の処理負荷が増加し、ペアデータに係る物標情報を早期に車両制御装置2に出力することができない。その結果、車両制御装置2の制御が遅れる可能性がある。
【0082】
そのため、以下で述べるミスペア判定処理によりピーク信号のパラメータに基づき組合せの妥当性を判定し、ミスペアデータの可能性の大きい(組合せの妥当性が低い)ペアデータのみ連続性の回数を増加させ、ミスペアデータの可能性が小さい(組合せの妥当性が高い)ペアデータの物標情報は、早期に車両制御装置2に出力する。
図8は、ミスペア判定処理の流れを示す図である。
【0083】
物標情報導出部73は、最初に今回処理のフィルタデータに対応する予測ペアデータの連続性判定処理(ステップS14)で、外挿処理が行われたか否か判定する(ステップS100)。外挿処理が行われていない場合(ステップS100でNo)、即ち予測ペアデータと時間的な連続性を有する今回処理のペアデータが存在する場合、物標情報導出部73は、今回処理のペアデータに係る第1および第2マハラノビス距離をメモリ63から読み出す(ステップS101)。例えば物標情報導出部73は、メモリ63からペアデータP1に係るマハラノビス距離MD1(距離50)と、マハラノビス距離MD2(距離52)とを読み出す。
【0084】
次に物標情報導出部73は、今回処理におけるペアデータの第1マハラノビス距離と第2マハラノビス距離との差を算出し、その差がペアリングの信頼度を示す所定値(例えば、距離10)以下か否かを判定する(ステップS102)。両者の差が所定値以下の場合(ステップS102でYes)、ペアリングの信頼度が低くミスペアデータの可能性があるとして、ペアデータに対応するフィルタデータの出力カウンタを「1」増加させる。また物標情報導出部73は、両者の差が所定値を超える場合(ステップS102でNo)は、ペアリングの信頼度が高くミスペアデータの可能性は小さいとして、フィルタデータの出力カウンタを「4」増加させる(ステップS105)。第1マハラノビス距離と第2マハラノビス距離との差が比較的小さい場合、ペアデータは誤った組合せでペアリングされた可能性がある。即ちペアデータの組合せの妥当性が低いと考えられるため、出力カウンタの増加割合を比較的小さくする。
【0085】
そして物標情報導出部73は、出力カウンタ値が所定値(例えば「4」)以上となる場合(ステップS104でYes)は、後述する履歴対象選択処理(ステップS19)を行う。そして物標情報出力部74(
図2参照。)は、履歴対象選択処理等が行われた物標情報を車両制御装置2に出力する。
【0086】
なお物標情報導出部73は、出力カウンタ値が所定値を下回る場合(ステップS104でNo)は処理を終了し、次回以降の処理でミスペア判定を行い、出力カウンタ値を判定する。つまりデータ処理部7は、出力カウンタ値が所定値を下回る場合は、フィルタデータの出力タイミングを遅らせる。これによりレーダ装置1は、複数の組み合わせの信頼度の比較結果に応じて、組合せの妥当性を判定でき、正しい組み合わせのペアデータを取得できる。
【0087】
ここで、出力カウンタ値の初期値は「0」、即ち初めてフィルタ処理が行われるペアデータの出力カウンタ値は「0」である。例えばペアデータP1に係るマハラノビス距離MD1とMD2との差(距離52−距離50=距離2)は、距離10以下となる(ステップS102でYes)。そのためペアデータP1に対応するフィルタデータの出力カウンタ値は、「0」から「1」に増加する(ステップS103)。増加後のペアデータP1に対応するフィルタデータの出力カウンタ値は「4」を下回る(ステップS104でNo)ため、車両制御装置2への物標情報の出力は行われず、次回以降の処理でカウンタ値に応じた処理が行われる。
【0088】
このように今回処理におけるフィルタデータの出力カウンタ値が「1」の場合は、車両制御装置2に出力されるまでには少なくともあと3回の物標情報取得処理が必要となる。なお、次回以降の処理で今回処理のフィルタデータと同一物標のペアデータが導出され、連続性が継続しても、次回以降の処理でペアデータの第1および第2マハラノビス距離の差が全て所定値以下のときは、カウンタ値は1ずつしか増加しない。そのため、このようなフィルタデータの物標情報が、車両制御装置2に出力されるまでにはあと3回の物標情報取得処理が必要となる。このようにペアリングの信頼度が低いペアデータに対して、出力を遅らせることでレーダ装置1は、複数の組み合わせのマハラノビス距離MDの差に応じて、組合せの妥当性を判定でき、正しい組み合わせのペアデータを取得できる。
【0089】
これに対して次回以降の処理の間、即ち物標情報の出力タイミングを遅らせている間に、第1および第2マハラノビス距離の差が所定値を超える場合(ステップS102でNo)は、出力カウンタ値は「4」増加し(ステップS105)、出力カウンタ値が「4」以上となる(ステップS104でYes)。その結果、物標情報導出部73が履歴対象選択処理(ステップS19)等の処理を行った後、物標情報出力部74は、出力を遅らせている物標情報を直ちに車両制御装置2に出力する。これによりレーダ装置1は、出力タイミングを遅らせている場合であっても、組合せの妥当性が高いと判定された車両制御に必要な物標情報を直ちに出力できる。
【0090】
また上述のように、今回処理においてステップS15で初めて連続性が所定回数以上と判定されたペアデータについて、第1マハラノビス距離と第2マハラノビス距離の差が所定値を超える場合、すなわちペアリング信頼度が高い場合は、ステップS105でカウンタ値が+4増加し、ステップS104でYESとなるため、遅延することなく物標情報として出力される。
【0091】
なお、今回処理のフィルタデータに対応するペアデータの組み合わせの妥当性が低く、ミスペアリングデータの可能性がある場合は、今回処理のフィルタデータに対して次回以降の処理で時間的な連続性を有するペアデータが導出されず、外挿処理が行われる可能性が大きくなる。
【0092】
ここでステップS100の処理に戻り、外挿処理が行われた場合(ステップS100でYes)、即ち予測ペアデータと時間的な連続性を有する今回処理のペアデータが存在しなかった場合、物標情報導出部73は、今回処理のフィルタデータの外挿処理が所定回数以上(例えば、3回以上)か否かを判定する。このように物標情報導出部73は、複数回の物標情報取得処理において、同一物標の外挿処理が所定回数以上行われたか否かを判定する。
【0093】
そして外挿処理が所定回数以上(ステップS106でYes)の場合、物標情報導出部73は、今回処理のフィルタデータと当該フィルタデータと同一物標の過去処理のデータをメモリ63から削除して(ステップS107)、次回の物標情報取得処理を最初から行う。これによりレーダ装置1が、ミスペアデータを車両制御装置2に出力することはなく、車両制御装置2は適正な車両制御を行える。
【0094】
なお、外挿処理が所定回数を下回る場合(ステップS106でNo)は、物標情報導出部73は、出力カウンタ値を増加させることなく、上述のステップS104の処理を行う。
【0095】
図7に戻り、物標情報導出部73は、全てのペアデー
タのうちから、次回以降の処理における履歴対象とする所定数(例えば、20個)のフィルタデータを選択する(ステップS19)。ここで履歴対象は、今回処理のフィルタデータの縦距離と横距離とを考慮して、自車両と同一の走行車線を走行し、かつ、自車両に近い物標に対応するフィルタデータを優先的に選択する処理である。言い換えると、移動物フラグ「オン」、および、先行車フラグ「オン」のフィルタデータを優先的に選択する処理である。物標情報導出部73は、ステアリングセンサ82から得られる自車両の舵角に基づいて走行車線の形状を把握し、物標が自車両と同一の走行車線を走行しているかを判断する。なお履歴対象となったフィルタデータは、次回以降の処理で時間的に連続するペアデータを導出するためのピーク抽出等の処理が、他のフィルタデータと比べて優先的に行われる。
【0096】
次に、物標情報導出部73は、結合処理(グルーピング)を行い、全てのフィルタデータのうち、同一の物体に係るフィルタデータ同士を一つに結合する(ステップS20)。例えば、自車両の前方を走行する車両で送信波TWが反射した場合には、通常、送信波TWは当該車両の複数の反射点で反射する。したがって、同一の車両の複数の反射点のそれぞれから反射波RWがレーダ装置1に到来するため、それら複数の反射点のそれぞれに係るフィルタデータが導出される。このような複数のフィルタデータが示す物標は同一の車両であるため、物標情報導出部73は、このようなフィルタデータ同士を一つに結合する。物標情報導出部73は、例えば相対速度が略同一で縦距離、および、横距離が近似した複数のフィルタデータ同士を一つに結合する。結合後のフィルタデータの物標情報は、例えば結合対象となった複数のフィルタデータの物標情報の平均値などを採用できる。
【0097】
次に、物標情報出力部74が、このように導出されたフィルタデータの物標情報(縦距離、相対速度、および、横距離等)を、車両制御装置2に出力する(ステップS21)。物標情報出力部74は、フィルタデータの数が多い場合は、所定数(例えば、8個)のフィルタデータを選択し、選択したフィルタデータのみの物標検知情報を出力する。物標情報出力部74は、フィルタデータの縦距離と横距離とを考慮して、自車両と同一の走行車線を走行し、かつ、自車両に近い物標を示すフィルタデータを優先的に選択する。
【0098】
以上説明したように、本実施の形態によれば、ペアデータが所定回数以上の連続性を有した時点で(ステップS15でYES)、そのペアデータのペアリング信頼度が高い場合は、ステップS105、S104の処理により直ちに物標情報が車両制御装置2に出力される。そしてペアリング信頼度が低い場合は、ステップS103、S104の処理により最大4回の物標情報取得処理の時間分、ペアデータの車両制御装置2への出力が遅延される。このとき、ペアデータのペアリング信頼度が低い状態(出力カウンタ値が3以下)から信頼度が高い状態に移行すると、ステップS105、S104の処理により直ちに物標情報が車両制御装置2に出力される。
【0099】
一方、ペアリング信頼度が低い状態でペアデータが外挿処理されることなく、ステップS15の所定回数の連続性以外にも更に4回の連続性を有することで、ミスペアデータではなく正しい組み合わせでペアリングされたペアデータと判定される。その結果、物標情報出力部74は、当該ペアデータの物標情報を車両制御装置2に出力できる。もしペアデータがミスペアリングによるものであれば、ステップS15の所定回数の連続性以外に更に4回連続性がとれる可能性が小さくなる。そのため4回に達する途中で外挿処理が行われ、出力カウンタ値は増加せず、外挿処理が所定回数以上行われる。その結果フィルタデータは、車両制御装置2に出力されることなく消去される。
【0100】
このように、ペアデータのペアリング信頼性が高い場合は、直ちに正しい物標情報を車両制御装置2に出力することができ、ペアリング信頼性が低い場合は、物標情報の車両制御装置2への出力を遅らせることで誤った物標情報を車両制御装置2に出力することを防止できる。
【0101】
<変形例>
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、この発明は上記実施の形態に限定されるものではなく様々な変形が可能である。以下では、このような変形例について説明する。上記実施の形態及び以下で説明する形態を含む全ての形態は、適宜に組み合わせ可能である。
【0102】
上記実施の形態では、ピーク信号の組み合わせの信頼度の指標として「マハラノビス距離」を用いる説明を行ったが、マハラノビス距離以外でもピーク信号のパラメータに基づいて組合せの信頼度を算出する手法であれば、例えば「線形判別得点(判別関数)」等の他の手法であってもよい。線形判別得点は、ペアデータの複数のパラメータ値に基づき判別得点を算出し、当該判別得点が最も高いペアデータを正しい組み合わせとする手法である。
【0103】
また上記実施の形態では、
図7のミスペア判定処理(ステップS18)は、本実施の形態で説明した処理順序以外の順序で処理を行ってもよい。例えば、物標情報導出部73は、ミスペア判定処理を連続性の回数判定処理(ステップS15)の後、フィルタ処理(ステップS16)の実施前に行ってもよい。これによりフィルタ処理が実施される前のペアデータに対してミスペア判定を行うことができ、物標情報導出部73の処理負荷の軽減が図れる。
【0104】
また上記実施の形態では、
図8のミスペア判定処理においてフィルタデータの出力カウンタ値が4以上となった場合に、物標情報出力部74が車両制御装置2に物標情報を出力すると説明した。これ以外に、出力カウンタ値が4以上となっても、第1マハラノビス距離と第2マハラノビス距離と差が10以下の場合は、物標情報を出力せず、出力カウンタ値が4以上、かつ、両者の差が10を超えた場合に物標情報を出力するようにしてもよい。これにより、出力カンウタ値の条件を充足してもペアデータのマハラノビス距離との差が比較的小さいマハラノビス距離の組み合わせが存在する場合は、ペアデータがミスペアデータである可能性があるとして車両制御装置2への出力をさらに遅らすことができる。なお、このような出力カウンタ値や第1および第2マハラノビス距離の差の値は一例であり、別の値であってもよい。
【0105】
また上記実施の形態では、レーダ装置1の送信アンテナ40の本数は1本、受信アンテナ51の本数は4本として説明した。このようなレーダ装置1の送信アンテナ40および受信アンテナ51の本数は一例であり、複数の物標情報を導出できれば他の本数であってもよい。
【0106】
また上記実施の形態では、レーダ装置1の角度推定方式は、ESPRITを例に説明したが、ESPRIT以外に、DBF(Digital Beam Forming)、PRISM(Propagator method based on an Improved Spatial-smoothing Matrix)、および、MUSIC(Multiple Signal Classification)等の角度推定方式を用いてもよい。
【0107】
また上記実施の形態では、レーダ装置1は車両の前部(例えばフロントバンパー内)に設けられると説明した。これに対してレーダ装置1は、車両外部に送信波を出力できる箇所であれば、車両の後部(例えばリアバンパー)、左側部(例えば、左ドアミラー)、および、右側部(例えば、右ドアミラー)の少なくともいずれか1ヶ所に設けてもよい。
【0108】
また上記実施の形態では、送信アンテナからの出力は、電波、超音波、光、および、レーザ等の物標情報を導出できる方法であればいずれを用いてもよい。
【0109】
また上記実施の形態では、レーダ装置1は車両以外に用いられてもよい。例えばレーダ装置1は、航空機および船舶等に用いられてもよい。
【0110】
また上記実施の形態では、プログラムに従ったCPUの演算処理によってソフトウェア的に各種の機能が実現されると説明したが、これら機能のうちの一部は電気的なハードウェア回路により実現されてもよい。また逆に、ハードウェア回路によって実現されるとした機能のうちの一部は、ソフトウェア的に実現されてもよい。