【課題】端子付電線及びモールド部を備えたワイヤーハーネスにおいて、絶縁被覆に食い込む部分がモールド部に形成されることを防ぐことが可能なワイヤーハーネスを提供すること。
【解決手段】ワイヤーハーネス1は、絶縁電線9と端子金具8とインサート成形によって形成されたモールド部6とを備え、モールド部6における端子金具8側に対し反対側の端面からモールド部6の絶縁電線9の絶縁被覆920に接触する被覆側内側面62に亘る後端側内縁面61が凸状の湾曲面である。
前記絶縁電線の前記絶縁被覆は、前記芯線の周囲を覆う非導電性の内側被覆及び前記内側被覆の外側面に全周に亘って接して形成され前記内側被覆よりも硬質かつ薄い非導電性の外皮層を含む2層構造を有する、請求項1又は請求項2に記載のワイヤーハーネス。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両において、ワイヤーハーネスは、電気の伝導を行う絶縁電線と絶縁電線の端部に接続された端子金具とを有する端子付電線を備える。端子金具は、一般的には、銅を主成分とする金属の部材である。
【0003】
車両に搭載される端子付電線においては、絶縁電線の絶縁被覆の部分から露出した芯線が、圧着又は超音波溶接などの溶接により端子金具の一部である被接続部に接続される。
【0004】
ところで、端子付電線において、絶縁電線の芯線と端子金具との接続部分に液体が侵入するとこの接続部分に腐食が生じてしまう。特に、絶縁電線の芯線がアルミニウム線である場合には、異種金属接触腐食による腐食が生じてしまう。
【0005】
そこで、絶縁電線の芯線と端子金具との接続部分の腐食を防止するため、例えば、特許文献1に示されるようなモールド部を備えたワイヤーハーネスが提案されている。モールド部は、絶縁電線の接続先の機器を収容する筐体の開口部において絶縁電線と筐体との隙間を塞ぎ、機器へ液体が侵入することを防ぐ役割も果たす。モールド部は、射出成形によって得られる合成樹脂の部材である。
【0006】
特許文献1に示されるワイヤーハーネスは、絶縁電線及び端子金具における絶縁電線の芯線と端子金具との接続部分から絶縁電線の絶縁被覆の一部(被覆端部)までに亘る領域を密封したモールド部を備える。この場合、絶縁電線と端子金具との接続部分がモールド部により止水され、腐食が防がれる。
【0007】
特許文献1に示されるようなワイヤーハーネスのモールド部は、モールド部の成形用のモールド金型とモールド金型内に溶融した合成樹脂を射出する射出装置とを用いたインサート成形によって作られる。
【0008】
モールド金型は、一般的には、上金型と下金型とで構成される。上金型及び下金型は、それらの一方又は両方が相互に対向する状態で接近すること及び離隔することが可能に支持されている。上金型と下金型とが最接近した状態のモールド金型においては、端子金具における止水領域以外の部分が収容される第一収容空間、端子付電線の止水領域の部分が収容される第二収容空間及び絶縁電線の端部における止水領域以外の部分が収容される第三収容空間がその順番で並んで形成される。
【0009】
射出装置は、溶融した合成樹脂をモールド金型の第二収容空間内に射出する装置である。ワイヤーハーネスのモールド部は、端子付電線における止水領域の部分がモールド金型の第二収容空間内に収容された状態で、第二収容空間内に射出された合成樹脂が固化することにより形成される。
【0010】
以下、ワイヤーハーネスのモールド部において、モールド金型の第二収容空間における第三収容空間との境界部分で成形される部分を後端と称する。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を具現化した一例であり、本発明の技術的範囲を限定する事例ではない。本明細書において、ワイヤーハーネスという用語は、便宜上、絶縁電線を1本のみ含む場合も複数の絶縁電線を含む場合も含む用語として用いられている。なお、本明細書におけるワイヤーハーネスを、モールド部付電線又は電線モジュールと称してもよい。
【0027】
<第1実施形態>
図1〜10を参照しつつ、第1実施形態に係るワイヤーハーネス1の構成について説明する。ワイヤーハーネス1は、絶縁電線9、端子金具8及びモールド部6を備える。ワイヤーハーネス1は、自動車などの車両に搭載される。
【0028】
図1は、ワイヤーハーネス1の端部の平面図である。
図2は、
図1のII−II平面におけるワイヤーハーネス1の断面図である。
【0029】
<絶縁電線>
図1,2に示されるように、端子金具8が取り付けられる対象となる絶縁電線9は、長尺な導体である芯線910と、その芯線910の周囲を覆う絶縁体である絶縁被覆920と、を有する電線である。通常、芯線910は、細い導体からなる複数の素線が撚り合わされた撚り線である。しかしながら、芯線910が単線であることも考えられる。
【0030】
端子金具8が取り付けられる絶縁電線9の端部は、予め一定の長さの分の芯線910の周囲から絶縁被覆920が剥がれた状態、即ち、一定の長さ分の芯線910が絶縁被覆920から伸び出た状態に加工されている。
【0031】
以下、絶縁電線9の端部において、絶縁被覆920の端から伸び出た芯線910を裸線部91と称する。また、絶縁電線9の絶縁被覆920における端部の一定の範囲(数ミリメートルから十数ミリメートル程度の長さの範囲)の部分を被覆端部92と称する。
【0032】
ワイヤーハーネス1において、絶縁電線9の芯線910は、例えば、銅を主成分とする金属の線材である。一方、絶縁電線9の絶縁被覆920は、例えば、ポリエチレン、塩化ビニル又はポリアミド系ナイロンなどを主成分とする合成樹脂の部材である。なお、芯線910が、アルミニウムを主成分とする金属の線材であることも考えられる。
【0033】
<端子金具>
図1,2に示されるように、端子金具8は、被接続部82を有する。本実施形態において、端子金具8は、さらに接点部81を有する。
【0034】
被接続部82は、絶縁電線9の端部の裸線部91が接続された部分である。
【0035】
本実施形態においては、被接続部82が、底板部821と2つの芯線かしめ部822とを有する。即ち、本実施形態は、被接続部82が圧着により絶縁電線9に接続される場合の事例である。
【0036】
被接続部82は、絶縁電線9に圧着される前の状態において、曲がって形成された板状の部分であり、絶縁電線9の裸線部91が挿入される溝を形成している。
【0037】
底板部821は、端子金具8が取り付けられる対象の絶縁電線9における裸線部91を一方の側から支える部分である。
【0038】
2つの芯線かしめ部822は、底板部821から裸線部91の両側へ起立して形成された部分である。なお、本実施形態における被接続部82は、2つの芯線かしめ部822が重ならない突き合わせタイプである。しかしながら、被接続部82が、2つの芯線かしめ部822が重ねられて裸線部91にかしめられる重ね合わせタイプであること、或いは、筒状に形成されたクローズドバレルタイプであることも考えられる。
【0039】
ワイヤーハーネス1において、絶縁電線9は、被接続部82が形成する溝の内側に挿入される。そして、起立した2つの芯線かしめ部822が、裸線部91の周囲に沿って曲げられ、底板部821に対向する向きへ折り曲げられて裸線部91にかしめられる。これにより、被接続部82が、裸線部91に対して圧着される。
【0040】
以下、端子金具8の被接続部82が裸線部91に接続された絶縁電線9を端子付電線90と称する。
【0041】
接点部81は、他の部材と接続可能な部分である。本実施形態においては、例えば端子固定台等の端子金具8の接続相手への固定用のネジが通される接続孔810が、接点部81に形成されている。接点部81は、底板部821に連なっている。
【0042】
端子金具8は、金属の板材の折り曲げ加工によって得られる。また、端子金具8を構成する金属の板材は、メッキが形成された板状の金属の母材に対する打ち抜き加工によって得られる。従って、端子金具8を構成する金属の板材は、基材と、その基材の表面に形成されたメッキとにより構成されている。
【0043】
例えば、端子金具8の基材は、銅又は銅の合金など、銅を主成分とする金属材料からなる部材である。この場合、メッキを含む端子金具8全体は、銅を主成分とする金属材料からなる。一方、メッキは、錫(Sn)もしくは錫に銀(Ag)、銅(Cu)、ビスマス(Bi)などが添加された錫合金など、錫を主成分とする金属材料からなる部材である。なお、銀(Ag)メッキ、又はニッケル(Ni)メッキも考えられる。
【0044】
<モールド部>
図1,2に示されるモールド部6は、絶縁電線9及び端子金具8における端子金具8の被接続部82から絶縁電線9の被覆端部92までの範囲にインサート成形によって形成された部分である。本実施形態において、モールド部6は、絶縁電線9及び端子金具8における端子金具8の接点部81と被接続部82との間の部分から絶縁電線9の被覆端部92までの範囲に形成されている。
【0045】
モールド部6は、合成樹脂の部材である。モールド部6を構成する合成樹脂は、例えば、PPS(ポリフェニレンスルファイド)樹脂、PPA(ポリフタルアミド)樹脂、LCP樹脂(液晶ポリマー)、フェノール系、ポリエステル系、ポリアミド系又はエポキシ系の樹脂である。
【0046】
以下、モールド部6に関し、端子金具8側の端のことを先端と称し、その反対側の端のことを後端と称する。また、モールド部6における後端側の端面からモールド部6の絶縁電線9の絶縁被覆920に接触する被覆側内側面62に亘る面のことを後端側内縁面61と称する。
図1,2に示されるように、後端側内縁面61は凸状の湾曲面である。
【0047】
本実施形態において、モールド部6における被覆側内側面62は絶縁電線9の中心線を中心とする円筒状の面である。
図2が示す例において、絶縁電線9におけるモールド部6からはみ出た部分の外周面(絶縁被覆920の外周面)は、モールド部6の被覆側内側面62の後端側への延長面に沿って形成されている。
【0048】
図2に示されるように、ワイヤーハーネス1において、モールド部6は、例えば、先端部分、即ち、端子金具8側の金具側内側面63において、端子金具8における接点部81と被接続部82との間の部分の外側面に対して全周方向に亘って密接している。
【0049】
また、ワイヤーハーネス1において、モールド部6は、例えば、後端側内縁面61に隣接する被覆側内側面62において、絶縁電線9の被覆端部92の外周面に対して全周方向に亘って密接している。そのため、絶縁電線9の裸線部91と端子金具8の被接続部82との接続部分に液体が侵入することが防がれる。
【0050】
また、本実施形態は、後端側内縁面61と被覆側内側面62との境界に角が形成されていない場合の事例である。即ち、本実施形態においては、モールド部6における被覆側内側面62と後端側内縁面61との両方に亘る範囲において角の無い滑らかな面が形成されている。
【0051】
<ワイヤーハーネスの製造工程>
次に、
図3〜10を参照しつつ、ワイヤーハーネス1を製造するための工程について説明する。
【0052】
ワイヤーハーネス1の製造において、モールド部6のインサート成形に補助金型7及び成形用金型5が使用される。補助金型7は、複数の単位型部材70が組み合わさることにより形成される。
図3(a)〜(c)は、それぞれ補助金型7の平面図、正面図及び側面図である。
図4は、単位型部材70の平面図である。
図5は、成形用金型5の断面図である。
【0053】
<ワイヤーハーネスの製造工程:補助金型及び成形用金型>
まず、
図3〜5を参照しつつ、補助金型7及び成形用金型5について説明する。
【0054】
補助金型7は、複数の単位型部材70が組み合わさることにより形成される筒状の型部材である。本実施形態は、補助金型7が2つの単位型部材70が組み合わさることにより円筒状に形成された型部材である場合の事例である。
【0055】
図3に示されるように、補助金型7における一方の端部の外縁部分の表面は、全周に亘る凹状の湾曲面である。
【0056】
以下、補助金型7における凹状の湾曲面が形成された側の端部を先端部71と称する。また、補助金型7における先端部71に対して反対側の端部を後端部72と称する。また、凹状の湾曲面である補助金型7の先端部71側の外縁部の表面を、先端側外縁面711と称する。
【0057】
図4に示されるように、本実施形態において、単位型部材70は半円筒状の型部材である。補助金型7は、2つの単位型部材70が組み合わさることにより構成される。
【0058】
以下、2つの単位型部材70を区別する場合には、
図3に示されるように、一方の単位型部材70を第一単位型部材70Aと称し、他方を第二単位型部材70Bと称する。
【0059】
次に、成形用金型5について説明する。成形用金型5は、ワイヤーハーネス1の製造において使用される型部材の一例である。成形用金型5は、
図5に示されるように上金型51と下金型52とを備える。上金型51及び下金型52は、不図示の支持機構により、それらの一方又は両方が相互に対向する状態で接近すること及び離隔することが可能に支持されている。
【0060】
成形用金型5には、モールド部6の成形用の合成樹脂で満たされる空間と合成樹脂で満たされない空間とが形成される。本実施形態においては、上金型51と下金型52とが最接近した状態の成形用金型5には、端子付電線90が収容される第一収容空間501、第二収容空間502及び第三収容空間503が形成されている。第二収容空間502は、モールド部6の成形用の合成樹脂で満たされる空間である。第一収容空間501及び第三収容空間503は、モールド部6の成形用の合成樹脂で満たされない空間である。
【0061】
図5に示されるように、上金型51には、第一成形部511、第二成形部512及び第三成形部513が並んで形成されている。同様に、下金型52にも、第一成形部521、第二成形部522及び第三成形部523が並んで形成されている。なお、本実施形態においては、上金型51における第三成形部513及び下金型52における第三成形部523の一部が盛り上がり、盛り上がった部分とそれ以外の部分との間に段差が形成されている。
【0062】
上金型51と下金型52とが最接近した状態において、上金型51における第一成形部511及び下金型52における第一成形部521に囲まれる空間は、端子付電線90の端子金具8におけるモールド部6が成形される範囲以外の部分、即ち、端子金具8の接点部81と被接続部82との間の部分から接点部81の先端部までの部分、が収容される第一収容空間501を形成する。
【0063】
また、上金型51と下金型52とが最接近した状態において、上金型51における第二成形部512及び下金型52における第二成形部522に囲まれる空間は、端子付電線90における端子金具8の接点部81と被接続部82との間の部分から被覆端部92までの範囲に該当する部分及び補助金型7の先端部71が収容される第二収容空間502を形成する。
【0064】
また、上金型51と下金型52とが最接近した状態において、上金型51における第三成形部513及び下金型52における第三成形部523に囲まれる空間は、端子付電線90における絶縁電線9の被覆端部92以外の部分の一部及び補助金型7の先端部71以外の部分が収容される第三収容空間503を形成する。
【0065】
<ワイヤーハーネスの製造工程:第1の工程〜第3の工程>
次に、
図6〜10を参照しつつ、ワイヤーハーネス1を製造するための各工程について説明する。
【0066】
図6〜10は、ワイヤーハーネス1の製造工程における一部の工程を示した断面図である。
図6は、端子付電線90を補助金型7及び成形用金型5の下金型52にセットする様子を表した断面図である。
図7は、補助金型7を伴う端子付電線90がセットされた下金型52に対し上金型51が近付けられる様子を表した断面図である。
図8は、モールド部6のインサート成形時の補助金型7、成形用金型5及び端子付電線90の断面図である。
図9は、モールド部6のインサート成形後、成形用金型5の下金型52から上金型51が離される様子を表した断面図である。
図10は、モールド部6が成形された端子付電線90が下金型52から取り出され、補助金型7が取り外される様子を表した断面図である。
【0067】
<ワイヤーハーネスの製造工程:第1の工程>
図6,7を参照しつつ、ワイヤーハーネス1の製造における第1の工程について説明する。
【0068】
第1の工程においては、端子付電線90における端子金具8の被接続部82から絶縁電線9の被覆端部92までの範囲に該当する部分と補助金型7における先端部71とが成形用金型5における第二収容空間502に収容される。また、端子付電線90における上記範囲以外の部分及び補助金型7における先端部71以外の部分が成形用金型5の第一収容空間501及び第三収容空間503に収容される。即ち、第1の工程は、端子付電線90を補助金型7及び成形用金型5にセットする工程である。
【0069】
第1の工程の開始前には、絶縁電線9への端子金具8の接続工程(圧着工程)が行われる。この接続工程により、端子付電線90が得られる。
【0070】
第1の工程においては、例えば、2つの単位型部材70の一方の第一単位型部材70Aが成形用金型5の下金型52の第三成形部523に設置される。なお、
図6に示されるように、本実施形態においては、下金型52の第三成形部523に段差が形成されている。この場合、この段差と第一単位型部材70Aの後端部72とが接触することにより、第一単位型部材70Aを下金型52に設置する際の位置決めを容易に行うことができる。
【0071】
第一単位型部材70Aが成形用金型5の下金型52の第三成形部523に設置された後、端子付電線90が下金型52及び第一単位型部材70Aにセットされる。下金型52及び第一単位型部材70Aにセットされた状態の端子付電線90においては、端子付電線90における端子金具8の接点部81と被接続部82との間の部分から接点部81の先端部までの部分が下金型52の第一成形部521に支持される。また、端子付電線90における被覆端部92は第三成形部523に設置された第一単位型部材70Aに支持される。
【0072】
そして、端子付電線90を支持する第一単位型部材70Aに第二単位型部材70Bが組み合わされる。被覆端部92を覆う第一単位型部材70A及び第二単位型部材70Bは、端子付電線90における被覆端部92の外周面にその全周に亘って接触する補助金型7を構成する。
【0073】
端子付電線90の被覆端部92が補助金型7により覆われた後、
図7に示されるように上金型51が下金型52に対向する状態で下金型52に近付けられる。これにより、端子付電線90は、成形用金型5が形成する第一収容空間501、第二収容空間502及び第三収容空間503に収容される。また、補助金型7は、成形用金型5が形成する第二収容空間502及び第三収容空間503に収容される。
【0074】
なお、先に補助金型7を端子付電線90の被覆端部92の外周面にセットし、その後、補助金型7を伴う端子付電線90を下金型52にセットしてもよい。
【0075】
<ワイヤーハーネスの製造工程:第2の工程>
次に、
図8を参照しつつ、ワイヤーハーネス1の製造における第2の工程について説明する。
【0076】
第2の工程は、成形用金型5の第二収容空間502に溶融した合成樹脂を射出し、端子付電線90における端子金具8の被接続部82から絶縁電線9の被覆端部92までの範囲にモールド部6をインサート成形する工程である。
【0077】
第2の工程の開始時において、成形用金型5の第一収容空間501には、端子付電線90の端子金具8の接点部81と被接続部82との間の部分から接点部81の先端部までの部分が収容されている。また、成形用金型5の第二収容空間502には、端子付電線90における端子金具8の接点部81と被接続部82との間の部分から被覆端部92までの範囲に該当する部分及び補助金型7の先端部71が収容されている。また、成形用金型5の第三収容空間503には、端子付電線90における絶縁電線9の被覆端部92以外の部分の一部及び補助金型7の先端部71以外の部分が収容されている。
【0078】
第2の工程においては、例えば、不図示の射出装置により溶融した合成樹脂が第二収容空間502内に射出される。
【0079】
第二収容空間502に射出された合成樹脂が固化することにより、端子付電線90における成形用金型5の第二収容空間502に収容されていた部分、即ち、端子付電線90における端子金具8の接点部81と被接続部82との間の部分から被覆端部92までの範囲に該当する部分及び補助金型7の先端部71、の周囲にモールド部6が隙間なく形成される。
【0080】
補助金型7は、モールド部6が絶縁電線9の絶縁被覆920側に食い込んで形成されることを防止する。また、補助金型7における先端部71の先端側外縁面711に沿う凸状の湾曲面がモールド部6に形成される。
【0081】
<ワイヤーハーネスの製造工程:第3の工程>
次に、
図9,10を参照しつつ、ワイヤーハーネス1の製造における第3の工程について説明する。
【0082】
第3の工程においては、成形用金型5から取り出された端子付電線90の被覆端部92の外周面にその全周に亘って接触する補助金型7を構成する単位型部材70が、モールド部6に形成された凸状の湾曲面、即ち、後端側内縁面61に沿って取り外される。
【0083】
例えば、
図9に示されるように上金型51が下金型52に対向する状態で下金型52から離される。
【0084】
そして、
図10に示されるようにモールド部6が形成された端子付電線90、即ち、ワイヤーハーネス1、が補助金型7を伴ったまま成形用金型5の下金型52から取り出される。
【0085】
成形用金型5から端子付電線90が取り出された後、補助金型7の取外し作業が行われる。補助金型7は、補助金型7を構成する2つの単位型部材70がモールド部6の後端側内縁面61に沿って離されることにより、端子付電線90から取り外される。これにより、
図1,2に示されるワイヤーハーネス1が得られる。
【0086】
<効果>
本実施形態においては、モールド部6における端子金具8側に対し反対側の端面からモールド部6の絶縁電線9の絶縁被覆920に接触する被覆側内側面62に亘る面が凸状の湾曲面である。この場合、絶縁被覆920に食い込む部分がモールド部6に形成されることを防ぐことができる。
【0087】
また、本実施形態においては、モールド部6における絶縁電線9の絶縁被覆920に接触する被覆側内側面62と後端側内縁面61との境界に角が形成されていない。従って、絶縁電線9がモールド部6付近で曲げられたときに、絶縁被覆920がモールド部6の角と接触することによってダメージを受けることを防止できる。
【0088】
また、本実施形態においては、絶縁電線9をモールド部6の後端側内縁面61に沿って曲げ易くすることもできる。
【0089】
ところで、モールド部6の後端側内縁面61が凸状の面であるため、後端側内縁面61を成形する金型を絶縁電線9の長手方向に対して交差する直線方向に沿って後端側内縁面61から引き離すことはできない。金型が凸状の後端側内縁面61に引っ掛かるからである。また、後端側内縁面61を成形する金型を絶縁電線9の長手方向に沿って後端側内縁面61から引き離すと、絶縁被覆920が金型で擦られることによってダメージを受けるという問題が生じ得る。
【0090】
ワイヤーハーネス1の製造に使用される補助金型7は、モールド部6の後端側内縁面61以外の部分を成形する成形用金型5から独立した複数の単位型部材70が組み合わさることにより構成される。また、補助金型7の先端側外縁面711は凹状の湾曲面である。本実施形態においては、補助金型7を構成する複数の単位型部材70が端子付電線90の被覆端部92の外周面にその全周に亘って接触した状態からモールド部6に形成された凸状の湾曲面(後端側内縁面61)に沿って離される。即ち、複数の単位型部材70は、直線的に移動する成形用金型5から独立した部材であるため、任意の経路に沿って後端側内縁面61から引き離すことが可能である。これにより、凸状の後端側内縁面61を成形するための金型の問題が解消される。
【0091】
<第2実施形態>
次に、
図11を参照しつつ、第2実施形態に係るワイヤーハーネス1Xの構成について説明する。
図11は、第2実施形態に係るワイヤーハーネス1Xの端部の平面図である。ワイヤーハーネス1Xは、ワイヤーハーネス1と比較して、複数の端子付電線90を有する点が異なっている。なお、
図11において、
図1〜10に示される構成要素と同じ構成要素は、同じ参照符号が付されている。
【0092】
以下、ワイヤーハーネス1Xにおけるワイヤーハーネス1と異なる点について説明する。
【0093】
図11に示されるように、ワイヤーハーネス1Xは、複数の端子付電線90を備える。本実施形態は、ワイヤーハーネス1Xが3本の端子付電線90を備えている場合の事例である。
【0094】
ワイヤーハーネス1Xは、例えば、
図3〜10と同様の製造工程を経て製造される。ワイヤーハーネス1Xにおいて、モールド部6は、並列に並ぶ複数の端子付電線90各々における端子金具8の被接続部82から絶縁電線9の被覆端部92までの範囲を一括して覆っている。本実施形態においては、モールド部6は、絶縁電線9及び端子金具8における端子金具8の接点部81と被接続部82との間の部分から絶縁電線9の被覆端部92までの範囲を一括して覆っている。
【0095】
<第3実施形態>
次に、
図12を参照しつつ、第3実施形態に係るワイヤーハーネス1Yの構成について説明する。
図12は、第3実施形態に係るワイヤーハーネス1Yの主要部の断面図である。ワイヤーハーネス1Yは、ワイヤーハーネス1,1Xと比較して、2層構造を有する絶縁被覆920Yを含む絶縁電線9Yを有する点が異なっている。なお、
図12において、
図1〜11に示される構成要素と同じ構成要素は、同じ参照符号が付されている。
【0096】
以下、ワイヤーハーネス1Yにおけるワイヤーハーネス1,1Xと異なる点について説明する。
【0097】
絶縁被覆920Yは、非導電性の内側被覆921Yと内側被覆921Yよりも硬質で薄い非導電性の外皮層922Yとを含む2層構造を有する。
【0098】
絶縁電線9Yにおける絶縁被覆920Yは、例えば、2つの異なる合成樹脂の材料を内層と外層との2層に重ねて押出成形することによって作られる。
【0099】
内側被覆921Yは、芯線910の外側面に全周に亘って接して形成されている。絶縁電線9Yの内側被覆921Yは、例えば、ポリエチレン、塩化ビニル又はポリアミド系ナイロンなどを主成分とする合成樹脂の部材である。
【0100】
外皮層922Yは、内側被覆921Yの外側面に全周に亘って接して形成されている。例えば、絶縁電線9の外皮層922Yは、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などのエンジニアリングプラスチック又は熱硬化性樹脂等を含む合成樹脂の層である。
【0101】
外皮層922Yは、内側被覆921Yの厚みよりも小さな厚みで形成されている。例えば、外皮層922Yは、内側被覆921Yの十分の一〜四分の一程度の厚みで形成されている。
【0102】
本実施形態において、モールド部6は、絶縁電線9Y及び端子金具8における端子金具8の接点部81と被接続部82との間の部分から絶縁電線9Yの被覆端部92Yまでの範囲に形成されている。また、モールド部6の被覆側内側面62は、絶縁電線9Yの被覆端部92Yの外皮層922Yの外周面に対してその全周方向に亘って密接している。
【0103】
本実施形態においては、内側被覆921Yの外側面に形成された硬質の外皮層922Yの存在によって、モールド部6が内側被覆921Yにより食い込みにくい形状に成形される。
【0104】
また、本実施形態においては、絶縁電線9Yの柔軟性を損なうことなく、絶縁被覆920Yにおける内側被覆921Yに食い込む部分がモールド部6に形成されにくいワイヤーハーネス1Yを提供することが可能となる。硬質で薄い外皮層922Yがより柔軟な内側被覆921Yを含む絶縁被覆920Y全体の柔軟性を損なうことなく、モールド部6が局部的に絶縁被覆920Yにおける内側被覆921Yに食い込む形状に成形されることを防ぐためである。
【0105】
また、絶縁電線9Yの絶縁被覆920Yにおける外皮層922Yが熱硬化性樹脂を含む場合、モールド部6のインサート成形時に外皮層922Yがモールド部6の成形用の合成樹脂から受ける熱によって軟化しない。これにより、モールド部6が絶縁被覆920Y、特に内側被覆921Yに食い込む度合をより確実に緩和することが可能となる。
【0106】
<第4実施形態>
次に、
図13を参照しつつ、第4実施形態に係るワイヤーハーネス1Zの構成について説明する。
図13は、第4実施形態に係るワイヤーハーネス1Zの主要部の断面図である。なお、
図13において、
図1〜12に示される構成要素と同じ構成要素は、同じ参照符号が付されている。
【0107】
以下、ワイヤーハーネス1Zにおけるワイヤーハーネス1,1X,1Yと異なる点について説明する。
【0108】
本実施形態は、芯線910が単線である場合の事例である。また、本実施形態は、芯線910の周囲を覆う絶縁被覆920Zが、収縮チューブが収縮した部材である場合の事例である。
【0109】
より具体的には、ワイヤーハーネス1Zにおける絶縁被覆920Zは、芯線910が通された収縮可能な収縮チューブが収縮した部材である。本実施形態において、絶縁被覆920Zは、絶縁電線9の全長に亘って形成されている。
【0110】
また、例えば、芯線910に装着される前、即ち、自然状態の収縮チューブの内径は、芯線910の外径よりも小さい場合が考えられる。例えば、複数の棒状の治具を収縮チューブの中に通し収縮チューブの内径を拡大させる力を加えた状態で、この収縮チューブの中に芯線910を通し、治具を抜くことによって収縮チューブの内径を拡大させる力を除去することにより、収縮チューブを芯線910に密着させることが考えられる。
【0111】
なお、絶縁被覆920Zを構成する収縮チューブとしては、ゴムチューブが考えられる。ゴムチューブの材料は、シリコンゴム等のゴム系材料である場合が考えられる。また、絶縁被覆920Zが、芯線910が通された熱収縮チューブが収縮した部材である場合も考えられる。
【0112】
本実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0113】
また、ワイヤーハーネス1Zにおける絶縁電線9の絶縁被覆920Zが、押出成形によって形成された部分と、収縮チューブが収縮した部材である部分と、を含む場合も考えられる。例えば、絶縁電線9の全長に亘って芯線910の周囲に押出成形によって形成された絶縁被覆のうち、絶縁電線9の端部の部分を除去した後、この絶縁被覆が除去された部分の芯線910に収縮チューブが装着される場合等である。なお、絶縁電線9の最も先端側では、芯線910が露出している。
【0114】
<応用例>
端子金具8の被接続部82がさらに絶縁電線9の絶縁被覆920に圧着される被覆圧着部を有していてもよい。また、端子金具8が超音波溶接などの溶接により絶縁電線9に接続されていてもよい。
【0115】
また、補助金型7が、3つ以上の単位型部材70により構成されている場合も考えられる。
【0116】
また、成形用金型5に第一収容空間501が形成されておらず、端子付電線90の端子金具8における接点部81と被接続部82との間の部分から接点部81の先端部までの部分が成形用金型5の外に出されている場合も考えられる。
【0117】
なお、本発明に係るワイヤーハーネスは、各請求項に記載された発明の範囲において、以上に示された各実施形態及び応用例を自由に組み合わせること、或いは各実施形態及び応用例を適宜、変形する又は一部を省略することによって構成されることも可能である。