(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-156699(P2015-156699A)
(43)【公開日】2015年8月27日
(54)【発明の名称】補聴器におけるビームフォーミング
(51)【国際特許分類】
H04R 25/00 20060101AFI20150731BHJP
H04R 3/00 20060101ALI20150731BHJP
G10K 11/178 20060101ALI20150731BHJP
H04S 1/00 20060101ALI20150731BHJP
【FI】
H04R25/00 D
H04R25/00 E
H04R3/00 320
G10K11/16 H
H04S1/00 L
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【外国語出願】
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2015-79819(P2015-79819)
(22)【出願日】2015年4月9日
(62)【分割の表示】特願2010-288110(P2010-288110)の分割
【原出願日】2010年12月24日
(31)【優先権主張番号】09180883.2
(32)【優先日】2009年12月29日
(33)【優先権主張国】EP
(71)【出願人】
【識別番号】503021401
【氏名又は名称】ジーエヌ リザウンド エー/エス
【氏名又は名称原語表記】GN RESOUND A/S
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グラン カール−フレドリック ジョハン
【テーマコード(参考)】
5D061
5D162
5D220
【Fターム(参考)】
5D061FF02
5D162CD30
5D220BA06
5D220BB04
5D220BC05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】使用者に指向性モード及び無指向性モードの双方の利点を同時にもたらすことが可能な補聴器システムを提供する。
【解決手段】アダプティブバイノーラルビームフォーミング実行機能を有する補聴器システム2は、電気入力信号を提供する第1のマイクロホン4及び第2のマイクロホン6、少なくとも一部において電気入力信号に基づき、指向性の空間特性を有する第1のオーディオ信号8を提供するビームフォーマ12を含む。ビームフォーマ12は、少なくとも一部において電気入力信号に基づき、第1のオーディオ信号8とは別の空間特性を有する第2のオーディオ信号10を提供するようにさらに構成される。補聴器システム2は、使用者に聞こえる出力信号を提供するため第1のオーディオ信号8と第2のオーディオ信号10とを混合するように構成されるミキサ18をさらに含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気入力信号を提供する第1のマイクロホン及び第2のマイクロホンと、
少なくとも一部において前記電気入力信号に基づき、指向性の空間特性を有する第1のオーディオ信号(ビーム)を提供するビームフォーマと、
を備えており、
前記ビームフォーマが、少なくとも一部において前記電気入力信号に基づき、前記第1のオーディオ信号とは別の空間特性を有する第2のオーディオ信号を提供するようにさらに構成されることを特徴とする補聴器システムであって、
前記補聴器システムが、
使用者に聞こえる出力信号を提供するために前記第1のオーディオ信号と前記第2のオーディオ信号とを混合するように構成されるミキサをさらに備えている、補聴器システム。
【請求項2】
聴覚障害補正アルゴリズムに従い前記混合信号を処理するように構成されるプロセッサをさらに備えている、請求項1に記載の補聴器システム。
【請求項3】
前記第1のオーディオ信号と前記第2のオーディオ信号とを混合する前に、聴覚障害補正アルゴリズムに従い前記第1のオーディオ信号を処理するように構成されるプロセッサをさらに備えている、請求項1に記載の補聴器システム。
【請求項4】
前記ビームフォーマはアダプティブ型である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の補聴器システム。
【請求項5】
前記補聴器システムは、前記第1のオーディオ信号と前記第2のオーディオ信号との混合を制御するために、前記ミキサに操作可能に接続されたユーザ操作インタフェースを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の補聴器システム。
【請求項6】
前記ユーザ操作インタフェースは、無線リンクを介して前記ミキサに操作可能に接続される別個の遠隔制御装置に配置される、請求項5に記載の補聴器システム。
【請求項7】
前記ユーザ操作インタフェースは、手動操作可能なスイッチを含む、請求項5に記載の補聴器システム。
【請求項8】
前記補聴器システムは、通信リンクを介して互いに相互接続される第1の補聴器と第2の補聴器とを備えている両耳補聴器システムであり、前記第1のマイクロホンは前記第1の補聴器に位置し、前記第2のマイクロホンは前記第2の補聴器に位置する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の補聴器システム。
【請求項9】
前記第1の補聴器及び前記第2の補聴器の各々は、前記ビームフォーマに接続される追加のマイクロホンを備えている、請求項8に記載の補聴器システム。
【請求項10】
前記手動操作可能なスイッチは、前記第1の補聴器及び/又は前記第2の補聴器に配置される、請求項5に従属する、請求項8又は9に記載の補聴器システム。
【請求項11】
両耳補聴器システムの一部を形成する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の補聴器システム。
【請求項12】
前記第1のオーディオ信号及び前記第2のオーディオ信号の空間特性は、実質的に相補的である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の補聴器システム。
【請求項13】
前記第2のオーディオ信号の空間特性は、実質的に無指向性である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の補聴器システム。
【請求項14】
前記第1のオーディオ信号及び前記第2のオーディオ信号の空間特性は、結果として得られる前記混合オーディオ信号の空間特性を実質的に無指向性とするように生成される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の補聴器システム。
【請求項15】
指向性オーディオ信号と無指向性オーディオ信号とを提供するマイクロホンと、
前記マイクロホンに操作可能に接続されており、使用者に聞こえる聴覚障害補正出力信号を提供するように構成されたプロセッサと、を備えており、
前記指向性オーディオ信号と前記無指向性オーディオ信号とを混合し、それによって混合オーディオ信号を提供するミキサをさらに備えていることを特徴とする、補聴器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、ビームフォーミング機能を有する補聴器システムに関し、特に、アダプティブバイノーラルビームフォーミングに関する。
【背景技術】
【0002】
現代の補聴器にとって最も重要な課題の一つは、雑音の存在下における音声了解度の向上を提供することである。これを目的として、干渉雑音を抑圧するためのビームフォーミング、特にアダプティブビームフォーミングが広く利用されている。伝統的に、補聴器の使用者は、補聴器の指向性モードと無指向性モードとの間を切り換えることが可能である(例えば、使用者は単に補聴器上のトグルスイッチを倒したり、又はボタンを押したりすることにより処理モードを切り換え、特定の環境で直面する聴取条件に従い装置を好ましいモードにする)。最近では、指向性モードと無指向性モードとの間を切り換えるための自動切り換え手順までもが、補聴器に用いられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
無指向性処理及び指向性処理の双方とも、具体的な聴取状況次第で他方のモードと比べて有利となる。比較的静かな聴取状況については、典型的には指向性モードより無指向性処理が好ましい。これは、存在するいかなる背景雑音も振幅が相当に低い状況では、無指向性モードは周囲環境の全音域に対してより高いアクセスを提供するはずであり、従って環境との「つながり」の感覚、すなわち外界とつながっている感覚をより強め得るためである。信号源が聴取者の側方又は後方にあるときは、一般に無指向性処理が好ましいと予想され得る。無指向性処理は、聴取者がその時点で顔を向けていない方にある音源に対してより高いアクセスを提供することにより、そうした位置から到達するスピーチ信号(例えば、飲食店において給仕者が聴取者の後方又は側方から話す場合)に対する認識を向上させ得る。聴取者の前方以外の位置から到達するターゲット信号に対する無指向性処理のこの利点は、静かな聴取状況及び騒がしい聴取状況の双方で認められ得る。聴取者が信号源(例えば、対象とする送話者)の方を向いている騒がしい聴取条件については、前方から到来する信号に対して指向性処理により提供されるSNRが高いことから、指向性処理が好ましい可能性が高い。以上に述べた聴取条件の各々(静寂下、雑音下、補聴器使用者が送話者の方を向いている、又は向いていない)は、聴覚障害をもつ聴取者の日常経験のなかでしばしば起こる。このように、補聴器使用者は、無指向性モードより指向性処理が好ましい状況、及びその逆の聴取状況に度々直面する。
【0004】
補聴器の無指向性モードと指向性モードとを手動で切り換える手法の問題点は、聴取者が能動的にモードを切り換えない限り、所与の聴取状況においてモードを変更すれば有利であろうことに聴取者が気付かない場合があり得ることである。加えて、聴取環境によっては最も適した処理モードはかなり頻繁に変化することもあり、聴取者が、かかる動的な聴取条件に対処して都合良くモードを手動切り換えできないこともある。最後に、多くの聴取者は、2つのモードを手動で切り換えたり、能動的に比較したりすることを煩雑で不便と感じ得る。結果として聴取者は、自身の装置を初期状態の無指向性モードのままにしておくこととなり得る。
【0005】
しかしながら、指向性マイクロホンが聴取者によって手動で選択されようと、又は補聴装置によって自動的に選択されようと、指向性処理は音のロッシー符号化により行われる。基本的に、指向性処理は空間フィルタリングからなり、ここでは一つの音源が強調され(通常0度からの)、他の音源は全て減衰される。結果的に、空間キューが無効となる。この情報は、一度取り除かれると、それ以降補聴器又は聴取者によって利用したり、又は回復させたりすることはできない。従って、指向性モードと無指向性モードとの間を手動又は自動で切り換えるかかる方法の主な問題点の一つは、補聴装置が指向性モードに切り換わるときに起こる情報の消去であり、それは聴取者にとって重要であり得る。
【0006】
指向性モードの目的は、対象とする信号についてより優れた信号対雑音比を提供することであるが、どの信号を対象とするかを決定するのは、最終的に聴取者の選択であり、補聴装置によって決定することはできない。対象とする信号は信号の聴取者の目視方向に生じることが仮定されるため、聴取者の目視方向以外で生じる信号は、いずれも指向性処理によって除去することができ、及び除去されることになる。これは臨床経験に合致するものであり、現在市販されている自動切り換えアルゴリズムが広範な支持を得ていないことが示唆される。患者は、概してこうしたアルゴリズムの決定に頼るより、手動でのモード切り換えを好む。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従って、本発明の目的は、使用者に指向性モード及び無指向性モードの双方の利点を同時にもたらすことが可能な補聴器システムを提供することである。
【0008】
本発明に従えば、上述の、及び他の目的は、補聴器システムに関する本発明の第1の態様によって達成され、この補聴器システムは、電気入力信号を提供する第1のマイクロホン及び第2のマイクロホンと、少なくとも一部において電気入力信号に基づき、指向性の空間特性を有する第1のオーディオ信号(ビーム)を提供するビームフォーマとを備えており、ビームフォーマは、少なくとも一部において電気入力信号に基づいて、第1のオーディオ信号とは別の空間特性を有する第2のオーディオ信号を提供するようにさらに構成されており、この補聴器システムは、使用者に聞こえる出力信号を提供するため第1のオーディオ信号と第2のオーディオ信号とを混合するように構成されるミキサをさらに備えている。
【0009】
使用者に聞こえる混合出力信号を提供するために指向性オーディオ信号を別の空間特性を有するオーディオ信号と混合することにより、使用者は指向性処理の利点(例えば対象とする信号のより良好な了解度)を得ると同時に、他の1つ又は複数の方向からの音を聞くことができる。混合比、すなわちどの程度の第2のオーディオ信号を第1のオーディオ信号と混合するかに応じて、及び第2のオーディオ信号の空間特性に応じて、使用者は指向性処理の利点を有する出力信号を受けると同時に、周囲の音環境とよりつながっているように感じる。
【0010】
補聴器システムは、好ましい実施形態に従えば、聴覚障害補正アルゴリズムに従い混合信号を処理するように構成されるプロセッサをさらに備えていてもよい。これにより、混合信号は、使用者に聞こえ得るレベル及び周波数特性を有することが確実となる。好ましくは、補聴器システムには、混合オーディオ信号をサウンド信号に変換するための、スピーカ(レシーバとも称される)などの出力トランスデューサが用いられる。
【0011】
本発明の第1の態様に係る補聴器システムは、或いは、第1のオーディオ信号と第2のオーディオ信号とを混合する前に聴覚障害補正アルゴリズムに従い第1のオーディオ信号を処理するように構成されるプロセッサをさらに備えていてもよい。通常、使用者に主に有益となるのは指向性特性を有する第1のオーディオ信号であるため、この代替的実施形態によれば、少なくともこの、使用者にとって最も有益となるオーディオ信号が、前記使用者の聴覚障害に従い処理されることが実現される。
【0012】
本発明の一実施形態に従えば、ビームフォーマは1つの好ましい方向を有していてもよい。例えば、補聴器システムの使用者の「前方目視」方向によって定義すると、すなわち本発明の一実施形態に従えば、第1のオーディオ信号の指向性特性は、「前方目視」方向にあるものとして事前に定義される方向を有していてもよい。従って、「前方目視」方向のビームが定義される。代替的実施形態に従えば、ビーム方向を固定したままビームの「幅」又は第1のオーディオ信号の空間的な指向性特性の形状を適応させることが可能であり、又は少なくとも調整することが可能であってもよい。
【0013】
ビームフォーマは、好ましくはアダプティブ型であり、すなわちビームフォーマは、特定の状況に従い信号対雑音比を最適化する。
【0014】
適応可能なビームフォーマを用いることにより、非常に柔軟な解決策が実現され、ここでは、補聴器システムの使用者が動いている間、動いている音源に焦点を合わせることも、又は動いていない音源に焦点を合わせることも可能である。さらに、周囲の雑音条件の変化(例えば、新しい音源の出現、雑音源の消失又は補聴器システムの使用者に対する雑音源の移動)に一層適切に対処することが可能である。
【0015】
本発明の第1の態様に係るさらに好ましい実施形態においては、補聴器システムは、第1のオーディオ信号と第2のオーディオ信号との混合を制御するための、ミキサに操作可能に接続されたユーザ操作インタフェースを備えていてもよい。これにより、使用者が周囲の音場をどの程度聞いてもよいかを決定し、ひいては周囲と「つながっている」感覚の程度を強めたり弱めたりすることができるという大きな利点が実現される。例えば、本発明の補聴器システムの使用者が夕食の宴席の場にいて、自分の向かい側に座っている人と会話している一方、数多くの他の参加者が互いに話し合っている場合、その使用者は、マルチトーカバブル雑音又は単にバブル雑音と称されることの多い音環境に置かれ得る。かかる状況では、本発明の補聴器システムの使用者は指向性処理の明らかな利点を享受できるものの、宴席にいる他の一群の人々から取り残されているように感じ得る。しかし、インタフェースを使用して第2のオーディオ信号を一部混入させることにより、使用者は、他で行われている会話を自身が選択し得るだけ聞こえるようにすることが可能となり、それと同時に、使用者が現在会話をしている相手に関しては指向性処理の利点を享受できる。
【0016】
使用者による制御に代えて、又はそれに加えて、第1のオーディオ信号と第2のオーディオ信号との混合は、周囲の音環境の分類に従い実行されてもよい。これは、補聴器システムにおけるオーディオ信号処理が、特定の音環境又は雑音環境に対処して最適化され得るという利点を有している。
【0017】
好ましくは、ユーザ操作インタフェースは、例えばテレビを操作するための遠隔制御装置と同様の、無線リンクを介してミキサに操作可能に接続される別個の遠隔制御装置に配置されていてもよい。
【0018】
或いは、ユーザ操作インタフェースは、補聴器システムのハウジング構造内又はハウジング構造上に配置され得る手動操作可能なスイッチを備えていてもよい。このスイッチは、トグルスイッチか、又は当該技術分野において公知の補聴器の音量ホイールに類似したスイッチであってもよい。或いは、スイッチは近接センサとして具体化されてもよく、これは、前記センサに近接した手又は指の動きを記録することが可能である。かかる近接センサは、例えば静電容量センサとして具体化されてもよい。さらに代替的実施形態において、スイッチは、リードスイッチ、磁気抵抗、巨大磁気抵抗、異方性磁気抵抗又は異方性巨大磁気抵抗スイッチなどの磁気スイッチであってもよい。
【0019】
多くの聴覚障害者は両耳に聴力損失を抱え、従って実際には2つの補聴器を使用するが、ほとんどの両耳補聴器システムは各補聴器で独立してデータを処理し、情報を交換することはない。しかしながら、近年、補聴器間に無線通信が導入され、データを一方の補聴器から他方の補聴器に送ることができるようになっている。従って、本発明の好ましい実施形態によれば、補聴器システムは、通信リンクを介して互いに相互接続された第1の補聴器と第2の補聴器とを備えている両耳補聴器システムであってもよく、ここで第1のマイクロホンは第1の補聴器に位置し、第2のマイクロホンは第2の補聴器に位置する。これにより、バイノーラルビームフォーミングを容易にする補聴器システムが実現される。これには、とりわけビームフォーマの空間分解能が増加するという利点がある。なぜなら、耳内に、又は耳に第1の補聴器と第2の補聴器とを装用している平均的な大人の耳間の距離は、およそ可聴範囲の音の波長程度であるためである。従って、これにより、空間的に近接して位置する音源間を区別することが可能となる。しかしながら、こうした利点は別として、バイノーラルビームフォーミングに関する一つの懸念は、ビームフォーマが1つの信号しか生成せず、雑音についての両耳間時間差(ITD)、及び両耳間レベル差(ILD)などのバイノーラルキューが全て事実上無効になることである。これらのバイノーラルキューは、人が音源を定位したり、及び/又は音源間を区別したりすることを可能にするためには不可欠である。しかしながら、第1のオーディオ信号と第2のオーディオ信号とを混合することにより、バイノーラルキューを維持すると同時に、使用者に指向性処理の利点を提供し得る。シミュレーションによれば、本発明に係る補聴器システムでは、これらのバイノーラルキューは大部分が維持されることが示されている(例えば、シミュレーション結果の節を参照のこと)。両耳補聴器システム又は使用者は、所与の状況に望ましいであろう混合レベル又は混合比を決定することができる。
【0020】
両耳補聴器システムの好ましい実施形態に従えば、第1の補聴器及び第2の補聴器の各々は、ビームフォーマに接続される追加のマイクロホンを備えている。それにより、いくつかの雑音源に一度に対処することができる両耳補聴器システムが実現され、結果的により良好な雑音抑圧が実現される。
【0021】
両耳補聴器の好ましい実施形態に従えば、第1のオーディオ信号と第2のオーディオ信号との混合を制御するための手動操作可能なスイッチが提供され、これは、第1の補聴器及び/又は第2の補聴器、例えば第1の補聴器及び/又は第2の補聴器のハウジング構造に配置されていてもよい。
【0022】
さらに別の好ましい実施形態に従えば、本明細書の記載に係る補聴器システムは、両耳補聴器システムの一部を形成する単一の補聴器であってもよい。
【0023】
好ましい実施形態に従えば、ビームフォーマによって生成される第1のオーディオ信号及び第2のオーディオ信号の空間特性は、実質的に相補的であってもよい。しかしながら、それらは実質的に相補的でありながら、さらにある程度重複していてもよい。この実施形態の大きな利点は、第1のオーディオ信号と混合する第2のオーディオ信号分を増やすと、混合信号は実質的に指向性のオーディオ信号から実質的に無指向性のオーディオ信号に変わることである。従って、混合比に従い、システム又は使用者は、実質的に指向性の処理と実質的に無指向性の処理との間の移行(例えばソフトスイッチング)を行うことができ、従って任意の所与の状況下における所望の程度に応じて、双方の利点を有する。
【0024】
或いは、第2のオーディオ信号の空間特性は実質的に無指向性であってもよい。これにより、ビームフォーマは指向性の空間特性を有するオーディオ信号を1つ提供するだけでよいため、計算を単純に実行できるシステムが実現される。
【0025】
代替的な好ましい実施形態に従えば、第1のオーディオ信号及び第2のオーディオ信号の空間特性は、好ましくは好適に選択された混合比、例えばβ=1の混合比(後に図面の詳細な説明に基づいて説明する)が用いられるときに、すなわち第1のオーディオ信号と第2のオーディオ信号とが同量で混合されるときに、結果として得られる混合オーディオ信号の空間特性が実質的に無指向性となるように(ビームフォーマによって)生成される。
【0026】
混合それ自体は、使用者の第1の耳及び/又は第2の耳の聴力損失に従い、又は周囲の音環境の分類に従い行われてもよい。
【0027】
本発明によれば、上述の、及び他の目的は、補聴器に関する本発明の第2の態様によって達成され、この補聴器は、指向性オーディオ信号と無指向性オーディオ信号とを提供するマイクロホンと、マイクロホンに操作可能に接続されており、使用者に聞こえる聴覚障害補正出力信号を提供するように構成されたプロセッサとを備えており、指向性オーディオ信号と無指向性オーディオ信号とを混合し、それによって混合オーディオ信号を提供するミキサをさらに備えている。
【0028】
本発明の第2の態様に係る実施形態は、さらに、ミキサに操作可能に接続されたユーザ操作インタフェースを備えており、従って、混合が使用者により制御され得る、補聴器に関する。
【0029】
聴覚障害補正出力信号は、本発明の第2の態様の実施形態に従えば、混合オーディオ信号又は指向性オーディオ信号又は無指向性オーディオ信号に基づいていてもよい。
【0030】
本発明の第2の態様の実施形態に係る補聴器は、両耳補聴器システムの一部を形成するように構成されていてもよい。
【0031】
本発明に従えば、上述の、及び他の目的は、両耳補聴器システムに関する本発明の第3の態様によって達成され、この両耳補聴器システムは、指向性オーディオ信号を提供する指向性マイクロホンシステムと第1の聴覚障害補正出力信号を提供するプロセッサとを有する第1の補聴器と、無指向性オーディオ信号を提供する無指向性マイクロホンシステムと第2の聴覚障害補正出力信号を提供するレシーバとを有する第2の補聴器とを備えており、第1の補聴器と第2の補聴器との間の双方向通信リンクを介して、第1の補聴器は、無指向性オーディオ信号に基づくオーディオ信号を受け取るように構成されており、第2の補聴器は、指向性オーディオ信号に基づくオーディオ信号を受け取るように構成されており、第1の補聴器は、第1の混合信号を提供するため無指向性オーディオ信号に基づく信号と指向性オーディオ信号に基づく信号とを混合する第1のミキサをさらに備えており、第2の補聴器は、第2の混合信号を提供するため無指向性オーディオ信号に基づく信号と指向性オーディオ信号に基づく信号とを混合する第2のミキサをさらに備えている。
【0032】
本発明の第3の態様に係る実施形態において、第1のミキサ及び/又は第2のミキサによって行われる混合は、無指向性マイクロホンシステム及び/又は指向性マイクロホンシステムから得られた信号の分類に基づいていてもよい。
【0033】
本発明の第3の態様に係る別の実施形態において、混合は、無指向性マイクロホンシステム及び/又は指向性マイクロホンシステムから得られた信号の目標信号対雑音比(SNR)及び/又は信号圧力レベル(SPL)に従い行われてもよい。
【0034】
本発明の第3の態様に係る両耳補聴器システムは、第1のミキサ及び/又は第2のミキサに操作可能に接続されるユーザ操作インタフェースをさらに備えていてもよい。
【0035】
本発明の第3の態様に係る両耳補聴器システムのさらに別の実施形態に従えば、第1の聴覚障害補正出力信号は、少なくとも一部において第1の混合信号に基づいていてもよい。それに加えて、又は代えて、第2の聴覚障害補正出力信号は、少なくとも一部において第2の混合信号に基づいていてもよい。
【0036】
第1の混合信号と第2の混合信号とは、本発明の第3の態様の実施形態に従えば、実質的に同一であってもよく、又は混合が同一の混合比に従い行われてもよい。
【0037】
本発明の第3の態様に係る好ましい実施形態において、第1の聴覚障害補正出力信号は、使用者の第1の耳に関連する聴力損失に従い生成されてもよく、第2の聴覚障害補正出力信号は、使用者の第2の耳に関連する聴力損失に従い生成されてもよい。
【0038】
本発明の第2の態様又は第3の態様の実施形態に従えば、混合は、使用者の第1の耳及び/又は第2の耳の聴力損失に従って行われてもよい。
【0039】
本発明の3つの態様のいくつかの実施形態を上記に説明したが、3つの態様のうちの1つの実施形態のいずれの特徴も、他の2つの態様のうちの一方又は双方の実施形態に含まれ得ることが理解されるべきであり、及び本明細書において「実施形態」と称するとき、それは本発明の3つの態様のうちのいずれか1つに係る実施形態であり得ることが理解される。
【0040】
以下では、本発明の好ましい実施形態が図面を参照してより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】本発明の一態様に係る補聴器システムの実施形態を示す。
【
図2】本発明の一態様に係る補聴器システムの代替的実施形態を示す。
【
図3】本発明の一態様に係る補聴器システムのさらなる代替的実施形態を示す。
【
図4】本発明の一態様に係る両耳補聴器システムを示す。
【
図5】本発明の一態様に係る両耳補聴器システムの代替的実施形態を示す。
【
図6】
図4に示される実施形態に対する両耳補聴器システムの代替的実施形態を示す。
【
図7】
図5に示される実施形態に対する両耳補聴器システムの代替的実施形態を示す。
【
図8A】指向性の空間特性を有する第1のオーディオ信号と、第1のオーディオ信号の空間特性とは異なる空間特性を有する別のオーディオ信号との混合を示す。
【
図8B】指向性の空間特性を有する第1のオーディオ信号と、第1のオーディオ信号の空間特性とは異なる空間特性を有する別のオーディオ信号との混合を示す。
【
図8C】指向性の空間特性を有する第1のオーディオ信号と、第1のオーディオ信号の空間特性とは異なる空間特性を有する別のオーディオ信号との混合を示す。
【
図9】本発明のいくつかの態様に係る補聴器システムと、シミュレーションにおける周波数依存性能を示す。
【
図10】本発明のいくつかの態様に係る補聴器システムの、シミュレーションにおける角度依存性能を示す。
【
図11】それぞれ、単一の雑音源及び複数の雑音源について、入射角の関数としての両耳間時間差における誤差を示す。
【
図12】入射角の関数としての推定両耳間レベル差を示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
ここで、本発明の例示的実施形態を示す添付の図面を参照して、本発明を以下により詳しく説明する。しかしながら、本発明は異なる形態で具体化されてもよく、ここに示す実施形態に限定されるものと解釈されてはならない。むしろ、これらの実施形態は、本開示を徹底した完全なものとし、且つ本発明の範囲を当業者に完全に伝えるために提供される。同様の参照符号は、全体を通じて同様の要素を指す。従って、各図の説明に関して、同様の要素は詳細には説明しない。
【0043】
図1は、本発明の一態様に係る補聴器システムの実施形態を示す。例示される補聴器システムは補聴器2として具体化され、これは、それぞれ電気入力信号8及び電気入力信号10を提供する2個のマイクロホン4及びマイクロホン6を備えている。例示される補聴器2はまた、指向性の空間特性を有する第1のオーディオ信号14(ビームと称されることもある)を提供するように構成されたビームフォーマ12も備えている。第1のオーディオ信号14は、少なくとも一部において電気入力信号8及び電気入力信号10に基づくとともに、第2のオーディオ信号16もまた、少なくとも一部において電気入力信号8及び10に基づいていてもよい。ビームフォーマ12はまた、第1のオーディオ信号14の空間特性とは異なる空間特性を有する第2のオーディオ信号16を提供するようにも構成される。第1のオーディオ信号14と第2のオーディオ信号16とは、混合オーディオ信号20を提供するためにミキサ18で混合される。補聴器2は、聴覚障害補正アルゴリズムに従い混合オーディオ信号20を処理するように構成される圧縮器22をさらに備えている。聴覚障害補正混合オーディオ信号は、続いて例示されるレシーバ24によりサウンド信号に変換される。ビームフォーマ12、ミキサ18及び圧縮器22は、好ましくは、デジタル信号プロセッサ(DSP)26などの信号プロセッサに備えられている。ユニット、すなわち、ビームフォーマ12、ミキサ18又は圧縮器22のいずれか、又は全てが、ソフトウェアに実装されてもよいことが理解される。さらに、ユニット12、18及び22の一部がソフトウェアに実装されてもよく、一方、他の部分はASICなどのハードウェアに実装されてもよい。ほとんどの聴力障害は周波数依存性であるため、圧縮器22は、好ましくは、聴覚障害補正アルゴリズムに従って混合オーディオ信号20の周波数依存処理を実行するように構成されていてもよい。この聴覚障害補正アルゴリズムは、好ましくは、補聴器2の使用者についての推定又は計測された特定の聴覚障害に従い選択又は作成される。
【0044】
また、
図1には(任意選択の)ユーザ操作インタフェース28も示され、これは制御リンク30を介してミキサ18に操作可能に接続される。一実施形態において、例示されるユーザ操作インタフェース28は、音量ホイールのように、補聴器2のハウジング構造(図示せず)上にあるアクチュエータ又はセンサ(図示せず)を備えていてもよい。従って、これにより使用者は、自身の手又は指でアクチュエータ又はセンサを手動作動させることにより、第1のオーディオ信号14と第2のオーディオ信号16との混合を制御することが可能となる。別の実施形態において、例示されるユーザインタフェース28は遠隔制御装置の一部を形成し、この遠隔制御装置から無線制御信号30が補聴器2に送受信されることにより、ミキサ18における第1のオーディオ信号14と第2のオーディオ信号16との混合が制御されてもよい。この実施形態では、補聴器2は遠隔制御装置から無線制御信号を受信するための手段を備えることが理解され、しかしながら
図1にはそれらの機構は明示的に図示していない。
【0045】
さらに、例示される補聴器2は、耳掛型補聴器、挿耳型補聴器、完全外耳道挿入型補聴器、又はレシーバ挿耳型補聴器(すなわち、
図1に示される機構のうち、レシーバ24を除く全てが、使用者の耳の後ろに配置されるように構成されたハウジング構造に配置されるタイプの補聴器であり、ここでレシーバ24は、使用者の外耳道又は耳甲介腔内に配置されるように構成されたイヤピース(これは、例えばイヤモールドであってもよい)に配置される)であってもよいことが理解される。
【0046】
図2は、
図1に示される本発明の一態様に係る補聴器システムの代替的実施形態を示す。
図1に示される実施形態と
図2に示される実施形態との唯一の違いは、分類器32である。分類器32を含めることにより、補聴器2に第1のオーディオ信号14と第2のオーディオ信号16との自動混合を実行させることが可能となり、この混合は、種々の聴取状況に対して最適化されてもよい。例えば、使用者が対象とするものと思われる1つの音源を別として、周囲の音環境が静かな場合、混合は、結果として得られる混合オーディオ信号20が実質的に無指向性となるように実行されてもよい。
【0047】
しかしながら、可能なあらゆる聴取状況を事前に考慮することは不可能で、従って可能性のあるいかなる聴取状況においても使用者に最適となるように混合を最適化することは可能ではないため、使用者が分類器32により制御される自動混合を棄却してもよい。使用者は、ユーザ操作インタフェース28を作動させることによってそれを行ってもよい。
【0048】
図2に示される補聴器2のより単純化した実施形態では、混合は、分類器32による周囲の音環境の分類に従い実行されるだけである。そのため、かかる実施形態は、ユーザ操作インタフェース28を備えていない。従って、この単純化した実施形態では、使用者は、分類器32により制御される混合を棄却することはできない。
【0049】
図3は、本発明の一態様に係る補聴器システムの代替的実施形態を示す。例示される補聴器システムは補聴器2として具体化され、多くの点で
図1又は
図2に例示される実施形態と類似している。従って、それらの実施形態と異なる点のみを詳細に説明する。例示される実施形態において、圧縮器22は、聴覚障害補正出力信号34を提供するために、聴覚障害補正アルゴリズムに従って第1のオーディオ信号14を処理するように構成される。ビームフォーミングされたオーディオ信号14は、通常、使用者が対象とする音源に向かって方向付けられるため、これは特定の状況下で有利となり得る。従って使用者にとっては、その特定の音源を自身に都合が良い程度に大きく且つ明瞭に聞くという利点があり得る。しかしながら、使用者が他の方向からの音も同様に聞こえ、従って周囲の音環境とつながっているように感じることを可能にするためには、レシーバ24で音声に変換される混合出力信号36を提供するように信号34が第2のオーディオ信号16と混合される。例示されるとおり、補聴器システムはまた(任意選択の)ユーザ操作インタフェース28を備えていてもよく、それにより使用者が、上記の記載と同じようにして混合を制御してもよい。
【0050】
本発明の代替的実施形態において、
図1〜
図3のいずれに例示される補聴器2も、1個又は2個の追加のマイクロホンを含んでもよく、従って合計で3個又は4個のマイクロホン、又はさらに4個より多いマイクロホンを含んでもよい。
【0051】
別の実施形態において、
図1〜
図3に示される実施形態のいずれに関して記載される補聴器2も、補聴器をもう一つ備えた両耳補聴器システムの一部を形成するように構成されてもよい。両耳補聴器システムの一部を形成する2つの補聴器における信号処理は、さらに互いに連係してもよい。
【0052】
図4は本発明の別の実施形態に係る補聴器システムを示し、この補聴器システムは両耳補聴器システムであり、1個のマイクロホン4を備える第1の補聴器2と、第2のマイクロホン6を備える第2の補聴器38とを備えている。第2の補聴器38は、圧縮器40とレシーバ42とをさらに備えている。例示される両耳補聴器システムにおいて、ビームフォーミングは補聴器2においてのみ行われる。従って、第2の補聴器38により提供される電気入力信号10は、破線矢印44によって示されるとおり、第1の補聴器2のビームフォーマ12に送られる。補聴器2における電気入力信号8及び電気入力信号10のさらなる処理は、オーディオ信号14及びオーディオ信号16の混合を含めて、
図1〜
図3に示される実施形態に関する上記の説明と同様に行われる。しかしながら、重要な違いは、混合出力信号20が、破線矢印46によって示されるとおり、第2の補聴器38の圧縮器40にも送られることである。好ましくは、圧縮器40は、使用者の第2の耳の聴覚障害を補償するために、聴覚障害補正アルゴリズムに従って混合オーディオ信号を処理する。次に圧縮器40からの出力信号は第2のレシーバ42に供給され、この第2のレシーバ42は、圧縮器の出力信号を使用者に聞こえるサウンド信号に変換するように構成される。聴覚に障害をもつ多くの人は両耳に聴力損失を抱え、さらに左右の耳の聴力損失度が異なることが多いため、好ましくは、圧縮器22は、使用者の第1の耳の聴力損失を軽減するために、聴覚障害補正アルゴリズムに従って混合オーディオ信号20を処理するように構成され、一方、第2の補聴器38の圧縮器40は、使用者の第2の耳の聴力損失を軽減するために、聴覚障害補正アルゴリズムに従い混合オーディオ信号20を処理するように構成される。
【0053】
明示的には示さないが、入力信号10は補聴器38において追加の信号処理に供されてもよい。
【0054】
破線矢印44及び46によって示されるとおりの、2つの補聴器2と補聴器38との間での信号10及び信号20の転送は、当該技術分野で公知のとおりの有線又は無線リンク(例えば双方向リンク)によって容易となるであろう。
【0055】
図5は、本発明の一態様に係る代替的な補聴器システムを示し、これは、ここでは第1の補聴器2と第2の補聴器38とを備える両耳補聴器システムとして具体化される。例示される補聴器2、38の各々は、マイクロホン4、6と、ビームフォーマ12、48と、ミキサ18、50と、圧縮器と、レシーバ24、42とを備えている。補聴器2において、ビームフォーマ12、ミキサ18及び圧縮器22は、デジタル信号プロセッサ(DSP)26などの信号処理ユニットの一部を形成する。それに対応して、補聴器38において、ビームフォーマ48、ミキサ50及び圧縮器40は、デジタル信号プロセッサ(DSP)54などの信号処理ユニットの一部を形成する。
【0056】
第1の補聴器2のマイクロホン4は電気入力信号8を提供し、これはビームフォーマ12に供給されるとともに、破線矢印62によって示されるとおり、第2の補聴器38のビームフォーマ48にも送られる。同様に、第2の補聴器38のマイクロホン6は電気入力信号10を提供し、これは、ビームフォーマ48に供給されるとともに、破線矢印60によって示されるとおり、第1の補聴器2のビームフォーマ12にも送られる。従って、ビームフォーマ12及び48の各々は、双方のマイクロホンによって提供される電気信号を受け取る。補聴器2、38の各々における電気入力信号8、10のさらなる処理は、
図1〜
図3に示される実施形態に関する上記の記載と同様に行われる。破線矢印62、60によって示されるとおりの補聴器2、38間の入力信号8、10の転送は、例えば、双方向有線又は無線リンクによって容易となるであろう。
【0057】
図5に例示される両耳補聴器システムの一実施形態において、第1の補聴器2及び第2の補聴器38のビームフォーマ12、48は、オーディオ信号14とオーディオ信号56とを実質的に同一とし、及び/又はオーディオ信号16とオーディオ信号58とを実質的に同一とするような方法で連係したビームフォーミングを実行するように構成されてもよい。このようにして、2つの補聴器におけるミキサ18、50への入力信号を同様とすることが実現される。上記で
図4に関して説明したとおり、圧縮器22及び40は、使用者の第1の耳及び第2の耳のそれぞれの聴力損失に従い混合オーディオ信号20及び64を処理するように構成される。
【0058】
また、
図5には(任意選択の)ユーザ操作インタフェース28も示される。例示されるユーザ操作インタフェース28は、破線矢印30および破線矢印52によって示されるとおり、第1の補聴器2のミキサ18と、第2の補聴器38のミキサ50との双方に操作可能に接続される。好ましい実施形態において、ユーザ操作インタフェース28は遠隔制御装置の一部を形成し、従ってユーザ操作インタフェース28と補聴器2及び38との間の操作可能な接続は、制御信号を2つの補聴器2及び38の各々に送信し得る無線リンクによって容易となるであろう。好ましい実施形態において、使用者は、ユーザ操作インタフェース28を好適に作動させることにより、2つの補聴器2及び38の各々における混合を互いに独立して制御することができる。別の実施形態において、ユーザ操作インタフェース28は、2つの補聴器2及び38の各々において連係した同様の量の混合を提供するように構成される。さらに代替的実施形態において、ユーザ操作インタフェース28は、補聴器2及び38の一方又は双方のハウジング構造(図示せず)に配置されたスイッチング構造に備えられる。前記スイッチング構造は、例えば、機械的なアクチュエータ又は近接センサ又は本発明の概要に説明されるとおりの任意の他のタイプのスイッチング構造を含み得る。別の実施形態において、ユーザ操作インタフェース28は2つの別個の部品からなってもよく、一つは補聴器2における混合を制御し、一つは補聴器38における混合を制御する。ここで、ユーザ操作インタフェース28はまた、2つの別個のスイッチング構造部品(図示せず)を備えていてもよいことが理解され、その各々が2つの補聴器2又は38の各々に配置されていてもよい。従って、このようにして補聴器2における混合が補聴器2のスイッチ(図示せず)により制御されていてもよく、補聴器38における混合が補聴器38のスイッチ(図示せず)により制御されていてもよい。
【0059】
図6は、
図4に示されるものと同様の両耳補聴器システムを例示するが、ここで補聴器2、38の各々は、それぞれ1個の追加のマイクロホン5及び7を備えている。従って、
図6に示される実施形態と
図4に示される実施形態との違いについてのみ説明する:補聴器2の追加のマイクロホン5は電気入力信号9を提供し、これはビームフォーマ12に供給され、及び補聴器38の追加のマイクロホン7は電気入力信号11を提供し、これは破線矢印45によって示されるように、有線又は無線リンクを介して補聴器2のビームフォーマ12に送られる。これによりビームフォーマ12は4つのマイクロホン信号を取り扱い、従ってより正確且つ精密なビームフォーミングが可能となる(以下に説明するとおり)。
【0060】
破線矢印44、45及び46によって示されるとおり、2つの補聴器2と補聴器38との間の信号10、11及び20の転送は、当該技術分野で公知のとおりの有線又は無線リンク(例えば双方向リンク)によって容易となるであろう。
【0061】
同様に、
図7は、
図5に示されるものと同様の両耳補聴器システムを例示するが、ここで補聴器2、38の各々は、それぞれ1個の追加のマイクロホン5及び7を備えている。従って、
図7に示される実施形態と
図5に示される実施形態との違いについてのみ説明する:補聴器2の追加のマイクロホン5は電気入力信号9を提供し、これはビームフォーマ12に供給されるとともに、好ましくは有線又は無線リンクを介して、破線矢印61によって示されるとおり補聴器38に送られ、それ(9)は補聴器38のビームフォーマ48に供給される。同様に、補聴器38の追加のマイクロホン7は電気入力信号11を提供し、これはビームフォーマ48に供給されるとともに、破線矢印63によって示されるように、(好ましくは無線)リンクを介して補聴器2のビームフォーマ12に送られる。これによりビームフォーマ12及びビームフォーマ48の双方が4つのマイクロホン信号を取り扱い、従ってより正確且つ精密なビームフォーミングが可能となる(以下に説明するとおり)。2つのビームフォーマ12及び48によって実行されるビームフォーミングは、さらに互いに連係してもよい。
【0062】
破線矢印60、61、62及び63によって示されるとおり、補聴器2と補聴器38との間の入力信号8、9、10及び11の転送は、例えば、双方向有線又は無線リンクによって容易となるであろう。
【0063】
図1〜
図7のいずれに示されるビームフォーマ12、48も、好ましくは、アダプティブ型であることが理解される。さらに、
図3〜
図7のいずれに例示される補聴器2、38の各々も、
図2に関して記載したとおりの分類器(図示せず)を含み得ることが理解される。
【0064】
図8A〜
図8Cは、混合信号を提供するための、指向性の空間特性66を有する第1のオーディオ信号と、第1のオーディオ信号の空間特性66とは異なる空間特性68を有する別のオーディオ信号との混合を示す。
【0065】
図8A〜
図8Cに例示される空間特性は、実質的に水平な平面における角度の関数としての周囲音場の増幅を示す極座標プロットとして示される。
図8Aに例示される混合は、対象とする送話者が使用者に対して角度0度に位置し、且つ干渉雑音源が角度90度に位置する状況を示す。空間特性66は、ビームフォーマにより提供される音声推定(speech estimate)であり、空間特性68は、ビームフォーマにより提供される雑音推定(noise estimate)である。
図8Aに例示される空間特性の最後列は、様々な値の係数βについて結果として得られる混合信号の空間特性を示す(さらなる詳細については、例えば以下の式(16)を参照のこと)。係数βは、どの程度の雑音推定が音声推定と混合されるかを示す。従って、β=1の値は、雑音推定の全てが音声推定と混合され、結果として無指向性の混合信号が生じる状況に対応し、もう一方の極端な状況であるβ=0の値は、雑音推定が一切音声推定と混合されず、ひいては音声推定の空間特性に等しい空間特性を有する混合信号が生じる状況に対応する。また、
図8Aの最後列には、β=0.3及びβ=0.7についての混合信号の空間特性を示す2つの中間的な状況も例示される。本発明の好ましい実施形態において、混合係数βは使用者が制御可能であり、従って使用者は、聞いてもよいと思う雑音推定の程度を決定し、それによって周囲の音環境との「つながり」を制御してもよい。
【0066】
図8B及び
図8Cには、
図8Aを参照する上記の記載と同様の状況が例示され、ただし
図8Bでは干渉雑音源が角度110度に位置し、及び
図8Cでは干渉雑音源が角度180度に位置する点が異なる。
【0067】
図8A〜
図8Cのいずれに例示される混合も、
図1〜
図7のいずれかに例示される混合ユニット18又は50により実行することのできる混合の2つの単純な例を示すに過ぎない。
図8A〜
図8Cに示されるとおりの単なる加算以外の他の種類の混合、例えば何らかの好適な重み付け(weighing)及び乗算を想定することもでき、異なる空間特性を呈する他のオーディオ信号の混合もまた可能である。従って、用いられる混合比、すなわち第1の信号と第2の信号とが互いに対してどの程度重み付けされるかに応じて、且つ作成された第1のオーディオ信号と第2のオーディオ信号との空間特性に応じて、混合信号の任意の所望の空間特性が実現されてもよい。
【0068】
以下に、
図1〜
図7のいずれかに例示されるとおりのビームフォーマ12及び/又は48のいずれかによって実行されるビームフォーミング方法の一例について、数学的に説明する。
【0069】
次式により表される時間tにおける入射音波の波動場を考える。
【数1】
【0070】
式中、s(t)は、スローネス(slowness)α(太字)(本発明の好ましい実施形態に従えば、スローネスは、媒体中の音速で除した伝搬方向として定義される)の対象の伝搬平面波であり(すなわち使用者が対象とする信号を表す)、w(r(太字),t)は干渉雑音場を表す。波動場の引数にr(太字)及びtが含まれていることは、それらが空間及び時間に依存することを示す。入射波動場はM個の空間的な位置においてサンプリングされ(M個の空間的なマイクロホン位置に対応する)、従ってM個の時間信号が生成される。
【数2】
【0071】
次にビームフォーマは、対象とする信号が同相となるように、計測された応答を整列させる。
【数3】
【0072】
式中、w
m(t)=w(r
m(太字),t+α(太字)・r
m(太字))である。対応するサンプリングされた信号モデルは、次式のように記述することができる。
【数4】
【0073】
次に、M−1個の雑音チャネルが生成される。
【数5】
【0074】
雑音チャネルはベクトル形式で記述され、Nタップのチャネル特有フィルタを用いてフィルタ処理され、その出力が、遅延信号基準(第1のチャネル)から減算される。
【数6】
【0075】
式中、(・)
Tは(・)の転置であり、及び以下のようになる。
【数7】
【0076】
式(6)は、簡略化すると、次式のように記述することができる。
【数8】
【0078】
フィルタは平均二乗誤差を最小にするように選択される。
【数10】
【0079】
これは、LMS(最小二乗平均)のような更新スキームを用いてオンラインで行われてもよく、又はフィルタは、ある装着状況で計算され、特定の雑音状況に対して固定されてもよいことが理解される。
【0080】
対象とする信号が雑音と無相関であると仮定すれば(対象とする信号は、通常干渉雑音とは無関係なスピーチ信号であるため、これはほとんどの状況において妥当である)、このようなフィルタの選択方法で雑音過程の推定w
0(n)が得られる:
【数11】
【0081】
この結果から、以下のようになる。
【数12】
【0083】
雑音過程w
0(n)を十分な精度で推定することができると仮定するならば、他の4つの信号もまた、(14)及び(15)に示すとおり導き出すことができる。
【0084】
ここで、個々のチャネルについての修正推定を、以下によって求めることができる。
【数14】
【0085】
式中、β
mは、種々のチャネルの信号対干渉比、すなわちどの程度の雑音推定が音声推定と混合されるかを制御するパラメータである。
【0086】
(シミュレーション結果)
この方法をシミュレーションで試験し、ここでは本発明の態様に係る両耳補聴器システム(以下、バイノーラルビームフォーマと称する)を、未処理信号及び本発明の別の態様に係るモノラルアダプティブビームフォーマと比較した。シミュレーションでは自由音場モデルを使用するとともに、遠距離音場での伝搬を仮定し、すなわち音響モデルは遠距離音場近似に基づいた。アレイは、頭部の各側に2個ずつ、4個のマイクロホンを有した。これはすなわち、前部マイクロホンと後部マイクロホンとの2個のマイクロホンを各々が備える2個の補聴器を含む本発明の態様に係る両耳補聴器システムに対応する。個々の補聴器におけるマイクロホン間の距離は1cmであり、2個の前部マイクロホン間の距離は14cmであり、一方、2個の後部マイクロホン間の距離は15cmであった。音速は342m/sと仮定し、両耳補聴器システム全体のサンプリング周波数は16kHzとした。特定の雑音チャネルh
m(太字)に関連するフィルタは21タップを有し、結果として処理遅延はターゲット信号の10サンプルであった。スピーチ信号は0度から再生した。熱雑音は空間的及び時間的にガウス分布白色雑音であると仮定した。雑音のレベルは、SNRが30dB(60dBの音圧レベル及び30dBのマイクロホン雑音レベルに対応する)となるように調整した。
【0087】
(周波数依存性能)
このシミュレーションでは、1つの干渉源のみを用いた。干渉源は、この場合、帯域制限された指向性の雑音成分であった。入射角はマイクロホンアレイに対して90度とした。雑音成分の帯域幅は1kHzであり、前方から到来するターゲット信号とは無相関であった。雑音成分の中心周波数は500Hz〜7.5kHzまで変化させた。パラメータβは、この場合、雑音の最大の減衰を与えるように選択した(β
m=0)。結果は
図9に見ることができる。曲線78は(無指向性)マイクロホンのいずれかにおける未処理信号を表し、曲線80は片耳補聴器のSNRを示し、曲線82は両耳補聴器システムの結果である。両耳補聴器システムは、低い周波数では片耳補聴器より優れた性能を有するが、より高い周波数ではその差異は小さくなる。
【0088】
(角度依存性能)
このシミュレーションにおいても、1つの干渉源のみを用いた。干渉源は、この場合、帯域制限された指向性の雑音成分であった。雑音の中心周波数は2kHzとし、雑音成分の帯域幅は1kHzとして、前方から到来するターゲット信号とは無相関であった。入射角は0〜90度まで変化させた。パラメータβは、この場合もまた、雑音の最大の減衰を与えるように選択した(β
m=0)。結果は
図10に見ることができる。曲線84はマイクロホンのいずれかにおける未処理信号を表し、曲線86は片耳補聴器のSNRを示し、曲線88は両耳補聴器システムの結果である。両耳補聴器は、0〜90度の角度について片耳補聴器よりはるかに優れた性能を有するが、後半球においては2つのシステムは同様の性能を示す。
【0089】
(複数雑音源)
より多くのマイクロホンを有することによる利点の一つは、ビームフォーマがより高い自由度でそれらと連動することである。従って、多音源についての性能の違いを示すため、さらなるシミュレーションを実施した。このシミュレーションでは、3つの干渉源を90度、120度及び180度から入射させた。全ての雑音源について中心周波数は2kHzとなるように選択し、帯域幅は1kHzとした。雑音源は相互に無相関で、且つターゲット信号と無相関であった。3つのテストケースについてのSNRを表1に見ることができる。ここで、片耳補聴器が8dBのSNR上昇を示したに過ぎないのに対し、SNRゲインが約29dBであった両耳補聴器システムの優位性は明らかである。
【0091】
(拡散性雑音における性能)
拡散性雑音における性能は、会議室、飲食店又はカフェテリアなどの高残響状況下でかかる雑音場に直面することが多いため、補聴器用途にとっては極めて関心が高い。従って、拡散性雑音についてのシミュレーションも実施し、ここで拡散性雑音場は以下のとおりシミュレートした。
【数15】
【0092】
式中、g(t)は、ゼロ平均及びガウス分布の白色の確率論的な時間信号であるp(t)の遅延バージョンと畳み込み積分されたカットオフ周波数が6kHzの線形位相ローパスフィルタである。変数α
i(太字)は以下によって示される。
【数16】
【0093】
式中、θ
iは、区間[0,2π]で一様分布する確率論的な入射角であり、cは音速である。波の数はI=2000となるように選択した。拡散波の波動場をマイクロホンの各位置において評価し、サンプリングして離散的な時間雑音系列を作成した。種々のテストケースの結果は表2に見ることができる。
【0095】
両耳補聴器及び片耳補聴器の双方について、指向性雑音状況と比べて性能ゲインがはるかに低いことは注目に値する。SNRゲインは片耳補聴器について約4dB、及び両耳補聴器システムについて6dBである。
【0096】
重要な定位キューは両耳間時間差(ITD)及び両耳間レベル差(ILD)である。従って、これらのバイノーラルキューもまた、シミュレーションにより調べた:
【0097】
(両耳間時間差)
初めに、シミュレーションにより、指向性雑音源の正確なITDを再現する能力について調べた。第1のシミュレーションでは、波動場に単一の雑音成分が存在した。雑音の中心周波数は2kHzとなるように選択し、雑音成分の帯域幅は1kHzとなるように選択して、前方から到来するターゲット信号とは無相関であった。入射角は10〜350度まで変化させた。右耳のチャネルと左耳の対応するチャネルと間のITDを計算した。これは、2つの異なるチャネルの雑音推定の相互相関関数における補間ピークを求めることにより実現した。この値を指向性雑音成分の真のITDと比較した。マイクロ秒単位の誤差が
図11に曲線90として示される。調査対象の2個のマイクロホンは線形アレイ配置であったため、この誤差は0度及び180度に関して対称である。
【0098】
それに対応するシミュレーションを実施し、ここでは2つの他の無相関な干渉源もまた有効であった。雑音源は90度及び180度から入射させ、調査対象の雑音源と同じスペクトル特性を有した。この場合もまた、推定されるITDと音源の真のITDとの間のITD誤差を計算した。結果は
図11に曲線92として示される。ITD誤差は単一の雑音源状況と比較して、複数の雑音の場合についてより大きいことが見て分かる。しかしながら、ミリ秒のオーダーである耳間の真のITDと比較して誤差はなお極めて小さい。
【0099】
(両耳間レベル差)
また、ILDに関しても、このビームフォーミング方法を検証した。波動場には単一の雑音成分が存在した。雑音の中心周波数は2kHzとなるように選択し、雑音成分の帯域幅は1kHzとして、前方から到来するターゲット信号とは無相関であった。入射角は10〜350度まで変化させた。スピーチ信号とノイズ信号とを結合する前に、頭部右側のノイズ信号に2分の1を乗じた。頭部の各側の雑音成分を抽出し、それぞれの自己相関関数の最大値の比を計算することにより、ILDを推定した。
図12では、推定したILDを曲線94により示し、真のILDを直線96により示す。このシミュレーションは、ビームフォーミング方法が波動場の正確なILDを再現可能であることを示している。
【0100】
本明細書では、頭部の反対側にある補聴器間のバイノーラル結合を伴う補聴器用のアダプティブビームフォーミングアルゴリズムについて記載している。しかしながら、非アダプティブビームフォーミングアルゴリズムも同様に用い得ることは理解されるべきである。バイノーラルアルゴリズムを設計するときに重要な考慮事項の一つは、ビームフォーマは不要な指向性干渉を抑圧するべきであるが、本発明に係る補聴器システムの使用者がターゲットの定位に利用し得る干渉のバイノーラルキューを無効にするべきではないということである。
【0101】
提案されるアルゴリズムは、ターゲット方向(通常、0度で不変であるように選択される)から入射する信号の推定値を求め、さらに全てのマイクロホンに関する雑音成分の推定値も与える。出力に現れる信号(これは次に、補聴器でのさらなる処理に送られる)は、ターゲット信号と雑音との適切な混合である。混合比は、使用者による遠隔制御によって調整されてもよく、又はその時点での音響環境を所与として補聴器により決定されてもよい。
【0102】
本明細書に提供されるシミュレーションは、指向性雑音の抑圧性能のみ、すなわちターゲット信号が雑音と混合しない場合のみに関し、それを、アダプティブビームフォーミングを伴う単一の補聴器の混合と比較している。指向性雑音源が1つのみ存在したとき、モノラル補聴器はビームフォーミングが適用されない場合より性能が良いことが示され、さらに、両耳補聴器システムはあらゆる角度について、特に前半球において、片耳補聴器より著しく性能が良いことも示された。種々の周波数の雑音について同じことが該当した。ここで、性能ゲインは低周波数において最大であった。波動場に3つの指向性雑音源が存在したとき、片耳補聴器の性能ゲインは8dBであった。これは、アレイ中のマイクロホンが少数であると(僅か2個)、この数の音源を適切に抑圧することができないという結果である。しかしながら、バイノーラルアレイは(4個のマイクロホンを備える)、28dBのSNRゲインを実現した。また、拡散性雑音場についてもシミュレーションを行った。しかしながら、ビームフォーミングアルゴリズムの性能は低下し、SNRゲインは、それぞれ、片耳補聴器について4dB、及び両耳補聴器システムについて6dBであった。
【0103】
提案されるアルゴリズムが干渉雑音のITD及びILDを再現する能力についてもまた評価した。推定ITDにおける誤差は、単一の干渉状況並びに複数の干渉雑音源の場合の双方について、マイクロ秒程度であることが示された。真のITDはミリ秒の範囲であるため、これは小さいと考えなければならない。また、単一の干渉源が頭部の両側で異なる圧力レベルを生じるとき、ILDが正しく再現されることも示された。
【0104】
従って、上記に示すとおり、ビームフォーミング及びオーディオ信号の混合は、補聴器システムにおいて使用するのに実現可能で、且つ有利である。しかしながら、当業者は理解するであろうとおり、本発明は、本発明の趣旨又は本質的特徴から逸脱することなく、上記に記載され、且つ図面に例示されるもの以外の特定の形態で具体化されてもよく、及び様々な異なるアルゴリズムのいずれを利用してもよい。例えば、アルゴリズムの選択は、典型的には用途に特有であり、その選択は、予想される処理の複雑性及び計算負荷を含め、様々な要因に依存する。従って、本明細書の開示及び記載は、添付の特許請求の範囲に示される本発明の範囲を例示することを意図しており、それを限定することは意図していない。
【手続補正書】
【提出日】2015年5月8日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
両耳補聴器システムであって、
指向性オーディオ信号を提供する指向性マイクロホンシステムと第1の聴覚障害補正出力信号を提供するプロセッサとを備える第1の補聴器と、
無指向性オーディオ信号を提供する無指向性マイクロホンシステムと第2の聴覚障害補正出力信号を提供するレシーバとを備える第2の補聴器と、を備え、
前記第1の補聴器は、前記第1の補聴器と前記第2の補聴器との間の双方向通信リンクを介して、前記無指向性オーディオ信号に基づくオーディオ信号を受け取るように構成されており、
前記第2の補聴器は、前記第1の補聴器と前記第2の補聴器との間の前記双方向通信リンクを介して、前記指向性オーディオ信号に基づくオーディオ信号を受け取るように構成されており、
前記第1の補聴器は、さらに、前記無指向性オーディオ信号に基づく信号と前記指向性オーディオ信号に基づく信号とを混合して、第1の混合信号を提供する第1のミキサを備え、
前記第2の補聴器は、さらに、前記無指向性オーディオ信号に基づく信号と前記指向性オーディオ信号に基づく信号とを混合して、第2の混合信号を提供する第2のミキサを備える両耳補聴器システム。
【請求項2】
前記第1のミキサ及び/又は前記第2のミキサによって行われる前記混合は、前記無指向性マイクロホンシステム及び/又は前記指向性マイクロホンシステムから得られる信号の分類に基づく、請求項1に記載の両耳補聴器システム。
【請求項3】
前記混合は、前記無指向性マイクロホンシステム及び/又は前記指向性マイクロホンシステムから得られる信号の目標信号対雑音比(SNR)及び/又は信号圧力レベル(SPL)に従って行われる、請求項1又は2に記載の両耳補聴器システム。
【請求項4】
前記両耳補聴器システムは、さらに、前記第1のミキサ及び/又は前記第2のミキサに操作可能に接続されるユーザ操作インタフェースを備える、請求項1から3のいずれか一項に記載の両耳補聴器システム。
【請求項5】
前記第1の聴覚障害補正出力信号は、少なくとも一部において前記第1の混合信号に基づく、請求項1から4のいずれか一項に記載の両耳補聴器システム。
【請求項6】
前記第2の聴覚障害補正出力信号は、少なくとも一部において前記第2の混合信号に基づく、請求項1から5のいずれか一項に記載の両耳補聴器システム。
【請求項7】
前記第1の混合信号と前記第2の混合信号とは、実質的に同一である、請求項1から6のいずれか一項に記載の両耳補聴器システム。
【請求項8】
前記混合は、同一の混合比に従って行われる、請求項1から6のいずれか一項に記載の両耳補聴器システム。
【請求項9】
前記第1の聴覚障害補正出力信号は、使用者の第1の耳に関連する聴力損失に従って生成される、請求項1から8のいずれか一項に記載の両耳補聴器システム。
【請求項10】
前記第2の聴覚障害補正出力信号は、使用者の第2の耳に関連する聴力損失に従って生成される、請求項1から9のいずれか一項に記載の両耳補聴器システム。
【請求項11】
前記混合は、使用者の第1の耳の聴力損失に従って行われる、請求項1から10のいずれか一項に記載の両耳補聴器システム。
【請求項12】
前記混合は、使用者の第2の耳の聴力損失に従って行われる、請求項1から11のいずれか一項に記載の両耳補聴器システム。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0104
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0104】
従って、上記に示すとおり、ビームフォーミング及びオーディオ信号の混合は、補聴器システムにおいて使用するのに実現可能で、且つ有利である。しかしながら、当業者は理解するであろうとおり、本発明は、本発明の趣旨又は本質的特徴から逸脱することなく、上記に記載され、且つ図面に例示されるもの以外の特定の形態で具体化されてもよく、及び様々な異なるアルゴリズムのいずれを利用してもよい。例えば、アルゴリズムの選択は、典型的には用途に特有であり、その選択は、予想される処理の複雑性及び計算負荷を含め、様々な要因に依存する。従って、本明細書の開示及び記載は、添付の特許請求の範囲に示される本発明の範囲を例示することを意図しており、それを限定することは意図していない。
以下は、本願の出願時の特許請求の範囲に記載されている技術である。
(項目1)
電気入力信号を提供する第1のマイクロホン及び第2のマイクロホンと、
少なくとも一部において前記電気入力信号に基づき、指向性の空間特性を有する第1のオーディオ信号(ビーム)を提供するビームフォーマと、を備えており、
前記ビームフォーマが、少なくとも一部において前記電気入力信号に基づき、前記第1のオーディオ信号とは別の空間特性を有する第2のオーディオ信号を提供するようにさらに構成されることを特徴とする補聴器システムであって、
前記補聴器システムが、
使用者に聞こえる出力信号を提供するために前記第1のオーディオ信号と前記第2のオーディオ信号とを混合するように構成されるミキサをさらに備えている、補聴器システム。
(項目2)
聴覚障害補正アルゴリズムに従い前記混合信号を処理するように構成されるプロセッサをさらに備えている、項目1に記載の補聴器システム。
(項目3)
前記第1のオーディオ信号と前記第2のオーディオ信号とを混合する前に、聴覚障害補正アルゴリズムに従い前記第1のオーディオ信号を処理するように構成されるプロセッサをさらに備えている、項目1に記載の補聴器システム。
(項目4)
前記ビームフォーマはアダプティブ型である、項目1〜3のいずれか一項に記載の補聴器システム。
(項目5)
前記補聴器システムは、前記第1のオーディオ信号と前記第2のオーディオ信号との混合を制御するために、前記ミキサに操作可能に接続されたユーザ操作インタフェースを含む、項目1〜4のいずれか一項に記載の補聴器システム。
(項目6)
前記ユーザ操作インタフェースは、無線リンクを介して前記ミキサに操作可能に接続される別個の遠隔制御装置に配置される、項目5に記載の補聴器システム。
(項目7)
前記ユーザ操作インタフェースは、手動操作可能なスイッチを含む、項目5に記載の補聴器システム。
(項目8)
前記補聴器システムは、通信リンクを介して互いに相互接続される第1の補聴器と第2の補聴器とを備えている両耳補聴器システムであり、前記第1のマイクロホンは前記第1の補聴器に位置し、前記第2のマイクロホンは前記第2の補聴器に位置する、項目1〜7のいずれか一項に記載の補聴器システム。
(項目9)
前記第1の補聴器及び前記第2の補聴器の各々は、前記ビームフォーマに接続される追加のマイクロホンを備えている、項目8に記載の補聴器システム。
(項目10)
前記手動操作可能なスイッチは、前記第1の補聴器及び/又は前記第2の補聴器に配置される、項目5に従属する、項目8又は9に記載の補聴器システム。
(項目11)
両耳補聴器システムの一部を形成する、項目1〜7のいずれか一項に記載の補聴器システム。
(項目12)
前記第1のオーディオ信号及び前記第2のオーディオ信号の空間特性は、実質的に相補的である、項目1〜11のいずれか一項に記載の補聴器システム。
(項目13)
前記第2のオーディオ信号の空間特性は、実質的に無指向性である、項目1〜11のいずれか一項に記載の補聴器システム。
(項目14)
前記第1のオーディオ信号及び前記第2のオーディオ信号の空間特性は、結果として得られる前記混合オーディオ信号の空間特性を実質的に無指向性とするように生成される、項目1〜11のいずれか一項に記載の補聴器システム。
(項目15)
指向性オーディオ信号と無指向性オーディオ信号とを提供するマイクロホンと、
前記マイクロホンに操作可能に接続されており、使用者に聞こえる聴覚障害補正出力信号を提供するように構成されたプロセッサと、を備えており、
前記指向性オーディオ信号と前記無指向性オーディオ信号とを混合し、それによって混合オーディオ信号を提供するミキサをさらに備えていることを特徴とする、補聴器。
【外国語明細書】