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特開2015-156813発泡性アルコール飲料およびその製造方法ならびに泡付着性改善剤およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-156813(P2015-156813A)
(43)【公開日】2015年9月3日
(54)【発明の名称】発泡性アルコール飲料およびその製造方法ならびに泡付着性改善剤およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12C 7/00 20060101AFI20150807BHJP
【FI】
   C12C7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-32106(P2014-32106)
(22)【出願日】2014年2月21日
(71)【出願人】
【識別番号】303040183
【氏名又は名称】サッポロビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064414
【弁理士】
【氏名又は名称】磯野 道造
(74)【代理人】
【識別番号】100111545
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 悦夫
(72)【発明者】
【氏名】蛸井 潔
(72)【発明者】
【氏名】小杉 隆之
(72)【発明者】
【氏名】小泉 智洋
(72)【発明者】
【氏名】石原 武雄
(57)【要約】
【課題】プリン体の含有量が低減されるとともに、泡付着性が改善された発泡性アルコール飲料およびその製造方法ならびに泡付着性改善剤およびその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明に係る発泡性アルコール飲料は、麦汁を分子量分画処理して得られた高分子画分と低分子画分とのうち、前記高分子画分を添加したことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
麦汁を分子量分画処理して得られた高分子画分と低分子画分とのうち、前記高分子画分を添加したことを特徴とする発泡性アルコール飲料。
【請求項2】
前記分子量分画処理とは、分画分子量が5,000〜100,000の限外ろ過処理であることを特徴とする請求項1に記載の発泡性アルコール飲料。
【請求項3】
麦由来のエキス分が0.72[g/100cm]以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の発泡性アルコール飲料。
【請求項4】
前記高分子画分の濃縮倍率をn(=前記麦汁の液量/前記高分子画分の液量)とした場合に、前記高分子画分を0.3/n[v/v%]以上添加したことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の発泡性アルコール飲料。
【請求項5】
麦汁を高分子画分と低分子画分とに分画し、前記高分子画分を得る分子量分画工程と、
前記高分子画分を添加する添加工程と、
を含むことを特徴とする発泡性アルコール飲料の製造方法。
【請求項6】
前記分子量分画工程では、分画分子量が5,000〜100,000の限外ろ過処理を行うことを特徴とする請求項5に記載の発泡性アルコール飲料の製造方法。
【請求項7】
麦由来のエキス分が0.72[g/100cm]以下であることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の発泡性アルコール飲料の製造方法。
【請求項8】
前記添加工程では、前記高分子画分の濃縮倍率をn(=前記麦汁の液量/前記高分子画分の液量)とした場合に、前記高分子画分を0.3/n[v/v%]以上添加することを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれか1項に記載の発泡性アルコール飲料の製造方法。
【請求項9】
麦汁を分子量分画処理して得られた高分子画分と低分子画分とのうち、前記高分子画分であることを特徴とする泡付着性改善剤。
【請求項10】
前記分子量分画処理とは、分画分子量が5,000〜100,000の限外ろ過処理であることを特徴とする請求項9に記載の泡付着性改善剤。
【請求項11】
麦汁を高分子画分と低分子画分とに分画し、前記高分子画分を得る分子量分画工程、
を含むことを特徴とする泡付着性改善剤の製造方法。
【請求項12】
前記分子量分画工程では、分画分子量が5,000〜100,000の限外ろ過処理を行うことを特徴とする請求項11に記載の泡付着性改善剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡性アルコール飲料およびその製造方法ならびに泡付着性改善剤およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の健康志向の高まりにより、高尿酸血症や痛風などを引き起こすと考えられているプリン体の含有量を低減する技術について、発泡性飲料の分野においても、様々な研究開発が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、発酵麦芽飲料の製造工程において、平均細孔直径が1.8〜2.4nmである活性炭を用いて、発酵麦芽飲料中の総プリン体化合物の少なくとも90%以上を選択的に吸着、除去する技術が開示されている。
また、特許文献2には、プリン体を除去する工程が、予め珪藻土及び活性炭をプリコートしたフィルターを用いて、珪藻土および活性炭を添加した発酵麦芽飲料をろ過する工程を含む技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3730935号公報
【特許文献2】特許第4073342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2に提案されている技術は、活性炭を用いてプリン体を除去しているが、活性炭を用いる場合、プリン体だけでなく、色素、香味に影響する成分も除去されてしまう。その結果、特許文献1、2に提案されている技術によると、プリン体を除去した後に、色素や香味を調整する必要があった。
【0006】
また、プリン体を確実に低減させるためには、特許文献1、2に提案されている技術と組み合わせて(または、単独で)、麦の使用比率を低くするという手段を採用してもよいが、麦の使用比率を低くすると、泡品質が低下してしまう。
【0007】
そして、この泡品質の中でも、特に、グラスに注がれた発泡性飲料を飲んだ後に、グラスの壁面に泡が付着して残る特性(以下、適宜「泡付着性」という)の良い飲料が、クオリティーの高い発泡性飲料であると消費者に判断され、好まれる傾向がある。
【0008】
そこで、本発明は、プリン体の含有量が低減されるとともに、泡付着性が改善された発泡性アルコール飲料およびその製造方法ならびに泡付着性改善剤およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題に鑑み、発明者らは、まず、プリン体を低減する方法を検討したところ、特許文献1、2とは全く異なるアプローチとして、麦汁に対して分子量分画処理を行うという方法を見出した。その結果、プリン体を低減できるだけでなく、泡付着性をも向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
前記課題は、以下の手段により解決することができる。
(1)麦汁を分子量分画処理して得られた高分子画分と低分子画分とのうち、前記高分子画分を添加したことを特徴とする発泡性アルコール飲料。
(2)前記分子量分画処理とは、分画分子量が5,000〜100,000の限外ろ過処理であることを特徴とする前記(1)に記載の発泡性アルコール飲料。
(3)麦由来のエキス分が0.72[g/100cm]以下であることを特徴とする前記(1)または前記(2)に記載の発泡性アルコール飲料。
(4)前記高分子画分の濃縮倍率をn(=前記麦汁の液量/前記高分子画分の液量)とした場合に、前記高分子画分を0.3/n[v/v%]以上添加したことを特徴とする前記(1)乃至前記(3)のいずれか1つに記載の発泡性アルコール飲料。
(5)麦汁を高分子画分と低分子画分とに分画し、前記高分子画分を得る分子量分画工程と、前記高分子画分を添加する添加工程と、を含むことを特徴とする発泡性アルコール飲料の製造方法。
(6)前記分子量分画工程では、分画分子量が5,000〜100,000の限外ろ過処理を行うことを特徴とする前記(5)に記載の発泡性アルコール飲料の製造方法。
(7)麦由来のエキス分が0.72[g/100cm]以下であることを特徴とする前記(5)または前記(6)に記載の発泡性アルコール飲料の製造方法。
(8)前記添加工程では、前記高分子画分の濃縮倍率をn(=前記麦汁の液量/前記高分子画分の液量)とした場合に、前記高分子画分を0.3/n[v/v%]以上添加することを特徴とする前記(5)乃至前記(7)のいずれか1つに記載の発泡性アルコール飲料の製造方法。
(9)麦汁を分子量分画処理して得られた高分子画分と低分子画分とのうち、前記高分子画分であることを特徴とする泡付着性改善剤。
(10)前記分子量分画処理とは、分画分子量が5,000〜100,000の限外ろ過処理であることを特徴とする前記(9)に記載の泡付着性改善剤。
(11)麦汁を高分子画分と低分子画分とに分画し、前記高分子画分を得る分子量分画工程、を含むことを特徴とする泡付着性改善剤の製造方法。
(12)前記分子量分画工程では、分画分子量が5,000〜100,000の限外ろ過処理を行うことを特徴とする前記(11)に記載の泡付着性改善剤の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る発泡性アルコール飲料は、麦汁を分子量分画処理して得られた高分子画分を添加したものであることから、プリン体の含有量を低減できるとともに、泡付着性を改善することができる。
【0012】
本発明に係る発泡性アルコール飲料の製造方法は、高分子画分を得る分子量分画工程と、当該高分子画分を添加する添加工程を含むことから、プリン体の含有量が低減されるとともに、泡付着性が改善された発泡性アルコール飲料を製造することができる。
【0013】
本発明に係る泡付着性改善剤は、麦汁を分子量分画処理して得られた高分子画分であることから、当該泡付着性改善剤を飲料に添加した場合、分子量分画処理を行っていない麦汁を飲料に添加した場合と比較して、プリン体の含有量を大幅に増加させることなく、泡付着性を改善することができる。
【0014】
本発明に係る泡付着性改善剤の製造方法は、高分子画分を得る分子量分画工程を含むことから、プリン体の含有量を大幅に増加させることなく、泡付着性を改善することができる泡付着性改善剤を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る発泡性アルコール飲料の製造方法を説明するフローチャートである。
図2】本発明の他の実施形態に係る発泡性アルコール飲料の製造方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る発泡性アルコール飲料およびその製造方法ならびに泡付着性改善剤およびその製造方法を実施するための形態(本実施形態)について説明する。
【0017】
[発泡性アルコール飲料]
本実施形態に係る発泡性アルコール飲料は、麦汁を分子量分画処理して得られた高分子画分と低分子画分とのうち、高分子画分を添加したことを特徴とする。
本実施形態に係る発泡性アルコール飲料に対しては、任意の香料や酸味料などの添加材料を添加して、任意のテイストを付与することができる。
【0018】
任意のテイストとしては、例えば、ビールテイストが挙げられる。つまり、本実施形態に係る発泡性アルコール飲料の好ましい態様としては、例えば、ビールテイスト飲料が挙げられる。なお、ビールテイスト飲料とは、ビール様(風)飲料とも称され、ビールのような味わいを有し、ビールを飲用したような感覚を飲用者に与える飲料をいう。
【0019】
また、本実施形態に係る発泡性アルコール飲料は、アルコール発酵させないものであってもよいし、アルコール発酵させたものであってもよい。以下、アルコール発酵させない発泡性アルコール飲料を「発泡性非発酵アルコール飲料」といい、アルコール発酵させた発泡性アルコール飲料を「発泡性発酵アルコール飲料」という。また、これらの中でも、ビールテイストである発泡性非発酵アルコール飲料を「発泡性非発酵ビールテイストアルコール飲料」といい、ビールテイストである発泡性発酵アルコール飲料を「発泡性発酵ビールテイストアルコール飲料」という。
【0020】
「発泡性非発酵アルコール飲料」は、例えば、飲用水に麦汁、糖類、香料及びエタノールなどを加えて製造することができる。つまり、発泡性非発酵アルコール飲料は、アルコール発酵を行う発酵工程を経ないで製造される。
【0021】
「発泡性発酵アルコール飲料」は、例えば、麦、麦芽、麦芽エキスなどの麦を由来とする原料(麦由来原料)とともに、その他の発酵原料を用いて発酵前液(一般的に「麦汁」などと呼ばれている。)を調製し、これをアルコール発酵させる発酵工程を経ることにより製造することができる。
【0022】
「発泡性非発酵ビールテイストアルコール飲料」は、例えば、前記した発泡性非発酵アルコール飲料において、ビールテイストを付与する香料などの添加材料を添加することにより製造することができる。
【0023】
「発泡性発酵ビールテイストアルコール飲料」は、例えば、前記した発泡性発酵アルコール飲料を製造する過程において、ホップを用いて発酵前液を調製し、これを発酵させる発酵工程を経ることにより製造することができる。なお、発泡性発酵ビールテイストアルコール飲料は、発酵工程前、発酵工程中、発酵工程後の少なくとも1つの段階において、ビールテイストを付与するための添加材料を添加してビールテイストを調整・増強することができる。
【0024】
本実施形態に係る発泡性アルコール飲料は、発酵原料として麦を使用しないものであってもよいし、麦を使用したものであってもよい。麦を使用する場合は、発酵原料として用いる麦の使用比率を5%以下とするのが好ましい。発酵原料として用いる麦の使用比率を5%以下とすることにより、確実にプリン体を低減することができる。ここで、プリン体とは、プリン骨格と呼ばれる共通の構造を有する物質の総称であり、例えば、アデニン(Adenine)、グアニン(Guanine)、ヒポキサンチン(Hypoxanthine)、キサンチン(Xanthine)などのプリン塩基が該当する。
【0025】
発泡性発酵アルコール飲料や発泡性発酵ビールテイストアルコール飲料を製造するために用いる発酵前液は、(1)少なくとも麦由来原料と水(好ましくは湯)とを混合することにより調製されるものであってもよいし、(2)少なくとも麦由来原料と水(好ましくは湯)を混合した後、糖化、ろ過、煮沸、冷却等を行うことにより調整されるものであってもよい。
【0026】
発酵前液が(1)の場合、少なくとも麦由来原料と水(好ましくは湯)とを混合し、当該麦由来原料に含まれる成分を抽出することにより調製すればよい。
発酵前液が(2)の場合、少なくとも麦由来原料と水(好ましくは湯)とを混合し、得られた混合液の糖化を行うことにより調製すればよい。なお、糖化は、麦由来原料及び水を含む混合液を、当該麦由来原料に含まれる消化酵素(例えば、デンプン分解酵素、タンパク質分解酵素)が働く温度(例えば、30〜80℃)に維持することにより行うという公知の方法で行えばよい。
【0027】
なお、麦由来原料の形態は問わない。麦由来原料の形態としては、麦、麦芽及びこれらのエキスなどが挙げられ、これらは単独で又は複数併用して用いることができる。
麦、麦芽及びこれらのエキスはそれぞれ、大麦、小麦、ライ麦、燕麦などを適宜に加工することにより得ることができる。これらの麦は、発泡性発酵アルコール飲料や発泡性発酵ビールテイストアルコール飲料の味と香りに大きな影響を与えるとともに、アルコール発酵させる場合は、酵母が資化可能な窒素源及び炭素源ともなる。
【0028】
なお、麦由来原料として用いられる麦とは、大麦、小麦、ライ麦、燕麦などを発芽させないものをいい、脱穀してもよいし、穀粒をそのままの状態又は適宜の大きさに粉砕等した状態で用いることができる。
麦由来原料として用いられる麦芽とは、大麦、小麦、ライ麦、燕麦などを所定の条件で発芽させたものをいい、発芽させた状態又はこれを適宜の大きさに粉砕等した状態で用いることができる。
麦由来原料として用いられる麦又は麦芽由来のエキスとは、麦又は麦芽を水及び/又は有機溶剤等を用いて所定の成分を抽出等し、これを濃縮させたものをいう。
前記したそれぞれの麦は、消費者のニーズに応じ、焙燥して使用することができる。麦の焙燥は麦の焙燥条件を適宜に調節することによって任意に行うことができる。
【0029】
(麦由来のエキス分)
なお、前記したように、本発明においては、後に詳述する「高分子画分(濃縮液)」を除き、麦由来原料を用いていなくてもよいし、用いていてもよい。麦由来原料を用いている場合であっても、麦由来のエキス分は0.72g/100cm以下であるのが好ましく、0.30g/100cm以下であるのが特に好ましい。
ここで、エキス分とは、糖分(炭水化物)、タンパク質、アミノ酸、苦味質、不揮発性有機酸、ミネラル、ポリフェノール、色素成分などからなる不揮発性固形分をいう。
麦由来のエキス分が0.72g/100cmを超える場合、発酵原料として用いる麦の使用比率が高いことを意味する。つまり、もとより泡品質(泡付着性)の良い発泡性アルコール飲料となるので、分子量分画処理を施した麦汁を含有させて泡付着性を向上させる意義が薄れる。また、この場合、発泡性アルコール飲料に含まれるプリン体の含有量が多くなるので、プリン体の摂取に抵抗のある消費者が飲み難いものとなってしまう。従って、前記したように麦由来のエキス分を0.72g/100cm以下に規制するのが好ましく、0.30g/100cm以下であるのが特に好ましい。
なお、ここでの「麦由来のエキス分」には、当然、後に詳述する「高分子画分(濃縮液)」由来のエキス分も含まれる。
【0030】
エキス分は、日本国の国税庁所定分析法に準拠して比重及びアルコール度を測定し、算出した値、すなわち、温度15℃において原容量100立方センチメートル中に含有する不揮発性成分のグラム数(g/100cm3)で定めることができる。
【0031】
麦由来のエキス分を0.72g/100cm3以下とする手法については、特に限定されないが、例えば、麦使用量を一般的なビールを製造する場合の1/20以下に制限して麦汁(発酵前液)を製造し、かかる麦汁をアルコール発酵させるか、又は一般的なビールを製造する麦使用量にて麦汁を製造し、かかる麦汁をアルコール発酵させた後、これを前記した麦由来のエキス分となるように希釈してもよい。
【0032】
なお、「発泡性」とは、20℃におけるガス圧が0.049MPa(0.5kg/cm2)以上であることをいう。発泡性は、発酵前液を発酵させることにより得ることができるが、発泡性が十分でない場合は、カーボネーションや炭酸ガス含有水を用いることで所望のガス圧を得ることができる。
【0033】
(分子量分画処理)
分子量分画処理とは、高分子画分(所定の分子量以上の物質を含む溶液)と低分子画分(所定の分子量未満の物質を含む溶液)とに分画する処理であって、限外ろ過処理、透析処理などの膜分離処理が該当する。
この分子量分画処理を麦汁に施すことにより、プリン体が低分子画分側に移行し、高分子画分中のプリン体の含有量を低減できるとともに、泡付着性を改善する成分を高分子画分側に濃縮することができる。なお、分子量分画処理は、適切に分子量を分画できる方法であれば、これらの処理に限定されない。
【0034】
そして、分子量分画処理の中でも、限外ろ過処理は、連続的な分画処理が可能であるため、大量生産が前提となる発泡性アルコール飲料の製造に好適に適用することができる。
ここで、限外ろ過処理とは、限外ろ過膜(以下、適宜「UF膜」という)を用いて行うろ過処理であって、当該UF膜の表面に対象液を流し続けることにより、UF膜を隔てて、所定分子量以上の高分子画分である溶液(濃縮液)と、所定分子量未満の低分子画分である溶液(ろ過液、ろ液)とに分画する処理である。
なお、限外ろ過処理は、全量ろ過方式(対象液の全量をろ過する方式)でも、クロスフロー方式(膜面に対して略平行に対象液を流す方式)でもよいが、ろ過処理時にUF膜が閉塞するような状態を回避できるクロスフロー方式が好ましい。
【0035】
そして、分子量分画処理は、分画分子量が5,000〜100,000の分画処理、つまり、麦汁を分子量5,000〜100,000以上の高分子画分と、処理に用いた膜の分画分子量未満の低分子画分とに分画する処理であるのが好ましい。分子量5,000〜100,000を基準に麦汁を分画することにより、高分子画分中のプリン体を適切に低減できるとともに、泡付着性を改善する成分を高分子画分側に確実に濃縮することができる。
なお、分画分子量は5,000〜100,000が好ましいが、5,000〜40,000の間であれば、高分子画分中のプリン体の低減、および泡付着性を改善する成分の濃縮という効果をより確実に確保することができる。特に好ましくは、分画分子量は、5,000である。
【0036】
(高分子画分の添加量)
麦汁を分子量分画処理して得られた高分子画分(濃縮液)の添加量については、発泡性アルコール飲料全量に対して0.3/n[v/v%]以上であることが好ましい。
ここで、「n」は、高分子画分の濃縮倍率であり、分子量分画処理において処理した麦汁の液量をXとし、当該処理により得られた高分子画分の液量をYとした場合、n=X/Yで算出できる値である。
【0037】
高分子画分の添加量を0.3/n[v/v%]以上とすることにより、泡付着性を改善するという効果を確実なものとすることができる。より好ましくは、高分子画分の添加量は1.0/n[v/v%]以上である。
なお、高分子画分の添加量の上限は特に制限されないが、前記した「麦由来のエキス分」の含有量の上限を考慮して決定すればよい。
【0038】
(麦汁)
分子量分画処理の対象は、麦汁である。
そして、麦汁とは、前記した発酵前液と同様のものであればよく、(1)少なくとも麦由来原料と水(好ましくは湯)とを混合することにより調製されるものであってもよいし、(2)少なくとも麦由来原料と水(好ましくは湯)を混合した後、糖化、ろ過、煮沸、冷却等を行うことにより調整されるものであってもよい。
【0039】
(アルコール度数)
本実施形態に係る発泡性アルコール飲料のアルコール度数は、例えば、1〜8容量/容量%(「v/v%」や、一般的には単に「%」とも表される。)とするのが好ましく、3〜7%などとするとより好ましい。なお、アルコール度数はこの範囲に限定されるものではなく、8%超とすることもできる。なお、本明細書においてアルコールとは、特に明記しない限り、エタノールのことをいう。
【0040】
アルコール度数は、アルコールを添加することによって調節することができる。添加するアルコールは、飲用アルコールであればよく、種類、製法、原料などは限定されない。例えば、焼酎、ブランデー、ウォッカなどの各種スピリッツ、原料用アルコールなどを1種又は2種以上を組み合わせて添加することができる。なお、麦を発酵させて得られたアルコールの濃度が高い場合は、所望のアルコール度数となるように希釈することもできることはいうまでもない。
【0041】
(その他)
また、本実施形態においては、麦以外の発酵原料として、例えば、トウモロコシ、コメ、ダイズなどを用いることができるが、これら以外の原料を用いることも可能である。なお、これらの発酵原料も発泡性アルコール飲料の味と香りに影響を与え、アルコール発酵させる場合には、酵母が資化可能な窒素源及び炭素源となる。
【0042】
さらに、本実施形態においては、麦以外の原料として、例えば、ホップやホップ加工品を用いることができる。ホップやホップ加工品を用いることにより、発泡性アルコール飲料にビール特有の味と香り、苦味などを付与することができる。
【0043】
ホップとしては、例えば、予め粉砕してペレット状に加工したホップペレット、かかる加工に際して予めルプリン粒をふるいわけ、ルプリンを多く含んだホップペレット、また、ルプリンの苦味質、精油などを抽出したホップエキスなどを用いることができる。
なお、ホップの添加方法としては、例えば、ケトルホッピング、レイトホッピング、ドライホッピングを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。ここで、ケトルホッピングとは、発酵前液(麦汁)の昇温中又は煮沸初期にホップを投入したものをいい、レイトホッピングとは、煮沸の終了間際にホップを投入することをいう。また、ドライホッピングとは、発酵工程開始以降にホップを投入することをいう。
【0044】
また、ホップ加工品としては、例えば、ローホップ、ヘキサホップ、テトラホップ、イソ化ホップエキスなどを用いることができる。
【0045】
本実施形態に係る発泡性アルコール飲料においては、本発明の所望の効果が阻害されない範囲で飲料として通常配合される着色料、甘味料、高甘味度甘味料、酸化防止剤、香料、酸味料、塩類など(これらを単に「任意添加材料」ということがある。)を添加することもできる。着色料としては、例えば、カラメル色素、クチナシ色素、果汁色素、野菜色素、合成色素などを用いることができる。甘味料としては、例えば、果糖ぶどう糖液糖、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトース、グリコーゲンやデンプンなどを用いることができる。高甘味度甘味料としては、例えば、ネオテーム、アセスルファムK、スクラロース、サッカリン、サッカリンナトリウム、リチルリチン酸二ナトリウム、チクロ、ズルチン、ステビア、グリチルリチン、ソーマチン、モネリン、アスパルテーム、アリテームなどを用いることができる。酸化防止剤としては、例えば、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノールなどを用いることができる。酸味料としては、例えば、アジピン酸、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL−酒石酸、L−酒石酸、DL−酒石酸ナトリウム、L−酒石酸ナトリウム、乳酸、乳酸ナトリウム、氷酢酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、DL−リンゴ酸、DL−リンゴ酸ナトリウム、リン酸などを用いることができる。塩類としては、例えば、食塩、酸性りん酸カリウム、酸性りん酸カルシウム、りん酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、メタ重亜硫酸カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硝酸カリウム、硫酸アンモニウムなどを用いることができる。
これらの任意添加材料及び前記した麦、飲用アルコール、分子量分画する前の麦汁などは、一般に市販されているものを使用することができる。
【0046】
本実施形態に係る発泡性アルコール飲料は容器に入れて提供することができる。容器は密閉できるものであればよく、金属製(アルミニウム製又はスチール製など)のいわゆる缶容器・樽容器を適用することができる。また、容器は、ガラス容器、ペットボトル容器、紙容器、パウチ容器等を適用することもできる。容器の容量は特に限定されるものではなく、現在流通しているどのようなものも適用することができる。なお、気体、水分及び光線を完全に遮断し、長期間常温で安定した品質を保つことが可能な点から、金属製の容器を適用することが好ましい。
【0047】
以上説明したように、本実施形態に係る発泡性アルコール飲料は、麦汁を分子量分画処理して得られた高分子画分を添加したものであることから、プリン体の含有量を低減できるとともに、泡付着性を改善することができる。
【0048】
[発泡性アルコール飲料の製造方法]
次に、本実施形態に係る発泡性アルコール飲料の製造方法について説明する。
本実施形態に係る発泡性アルコール飲料の製造方法は、麦汁を高分子画分と低分子画分とに分画し、高分子画分を得る分子量分画工程と、高分子画分を添加する添加工程と、を含むことを特徴とする。
まず、本実施形態に係る発泡性アルコール飲料の製造方法の分子量分画工程と、添加工程とを説明する。
【0049】
(分子量分画工程)
分子量分画工程とは、麦汁を高分子画分と低分子画分とに分画し、高分子画分を得る工程であり、当該工程で行う分子量分画処理は、前記のとおり、限外ろ過処理、透析処理などの膜分離処理が該当する。
【0050】
そして、分子量分画工程において、プリン体が低分子画分側に移行し、高分子画分中のプリン体の含有量を低減できるとともに、泡付着性を改善する成分を高分子画分側に濃縮することができる。
【0051】
なお、前記のとおり、分子量分画工程における分子量分画処理は、連続処理が可能であるという観点より、限外ろ過処理であるのが好ましく、適切なプリン体の低減および確実な泡付着性改善の観点より、分画分子量が5,000〜100,000である分子量分画処理であるのが好ましい。
【0052】
(添加工程)
添加工程とは、分子量分画工程で得られた高分子画分(濃縮液)である高分子画分を添加する工程である。
なお、前記のとおり、添加工程では、確実な泡付着性改善の観点より、高分子画分の濃縮倍率をnとした場合、高分子画分の添加量は発泡性アルコール飲料全量に対して0.3/n[v/v%]以上であることが好ましい。
【0053】
次に、本実施形態に係る発泡性アルコール飲料の製造方法について、「アルコール発酵を行わない製造方法」と「アルコール発酵を行う製造方法」とに場合を分けて説明する。
(アルコール発酵を行わない製造方法)
一実施形態に係る発泡性アルコール飲料の製造方法は、アルコール発酵を行わないで前記した本発明に係る発泡性アルコール飲料を製造する方法である。つまり、前記した発泡性非発酵アルコール飲料や発泡性非発酵ビールテイストアルコール飲料を製造するための製造方法である。図1は、本発明の一実施形態に係る発泡性アルコール飲料の製造方法を説明するフローチャートである。
【0054】
図1に示すように、本実施形態に係る発泡性アルコール飲料の製造方法は、原料を混合して混合液を製造する混合工程S11を含み、この混合工程S11において、分子量分画工程で得られた麦汁の高分子画分を添加(添加工程)すればよい。混合工程S11の後には、図1に示すように後処理工程S12を行い、製品化するのが好ましい。後処理工程S12については後述する。
【0055】
(混合工程)
混合工程S11は、例えば、混合タンクに飲用水、任意添加材料、飲用アルコールなどとともに、麦汁の高分子画分を添加して混合後液を製造する工程である。
【0056】
(後処理工程)
後処理工程S12としては、例えば、混合後液のろ過(いわゆる一次ろ過に相当)、混合後液の精密ろ過(いわゆる二次ろ過に相当)、加熱殺菌、容器への充填などの処理を必要に応じて選択的に行う工程などが挙げられる。
【0057】
混合工程S11及び後処理工程S12にて行われる各処理は、Ready To Drink(RTD)飲料などを製造するために一般的に用いられている設備にて行うことができる。
【0058】
(アルコール発酵を行う製造方法)
他の実施形態に係る発泡性アルコール飲料の製造方法は、アルコール発酵を行って前記した本発明に係る発泡性アルコール飲料を製造する方法である。つまり、前記した発泡性発酵アルコール飲料や発泡性発酵ビールテイストアルコール飲料を製造するための製造方法である。図2は、本発明の他の実施形態に係る発泡性アルコール飲料の製造方法を説明するフローチャートである。
【0059】
図2に示すように、本実施形態に係る発泡性アルコール飲料の製造方法は、発酵前工程S21と、発酵工程S22と、アルコール発酵を行った後の発酵後工程S23と、を含む。
【0060】
(発酵前工程)
発酵前工程S21は、アルコール発酵を行う前の工程である。発酵前工程S21では、具体的には、アルコール発酵させる発酵前液を調製する。また、発酵前工程S21として、前記した分子量分画工程を行ってもよい(図2において図示せず。)。
【0061】
発酵前液は、例えば、麦の使用比率100%のビールを製造する場合の1/20以下に制限して調製したものを用いることができる。また、発酵前液は、麦の使用比率100%にて調製したものを用いることができる。いずれによっても、麦の使用比率を5%以下とすることができる。ただし、後者の場合は、後記する発酵工程S22中、又は発酵工程S22にてアルコール発酵させた発酵後液の濃度が1/20以下となるように希釈するとよい。なお、これらのようにすると、高分子画分(濃縮液)を添加したとしても、麦由来のエキス分を0.72g/100cm3以下、さらには0.30g/100cm以下とすることができる。
【0062】
(発酵工程)
発酵工程S22は、発酵前液を所定の条件でアルコール発酵させる工程である。アルコール発酵の条件は、例えば、ビールやビールテイスト飲料を製造する際に行われる一般的な条件とすればよい。
【0063】
(発酵後工程)
発酵後工程S23は、アルコール発酵を行った後の工程である。発酵後工程S23では、例えば、発酵後液のろ過(いわゆる一次ろ過に相当)、発酵後液の精密ろ過(いわゆる二次ろ過に相当)、加熱殺菌、容器への充填などの処理を必要に応じて選択的に行う。
【0064】
本実施形態に係る発泡性アルコール飲料の製造方法においては、発酵前工程S21、発酵工程S22、及び発酵後工程S23のうちの少なくとも1つの工程で、麦汁の高分子画分を添加(添加工程)することができる。
【0065】
発酵前工程S21から発酵後工程S23において行われる各処理は、発泡性発酵ビールテイストアルコール飲料を含む発泡性発酵アルコール飲料を製造するために一般的に用いられている設備にて行うことができる。
【0066】
なお、発酵後液のアルコール度数が1%未満である場合は、前記したように飲用アルコールを添加してアルコール度数を1〜8%に調整するとよい。また、発酵後液のアルコール度数が8%を超える場合はそのまま製品化することもできるが、8%以下にしたい場合は、飲用水又は炭酸ガス含有水で希釈するとよい。
さらに、製造した発泡性アルコール飲料の発泡性が所望の値(例えば、20℃におけるガス圧が0.049MPa(0.5kg/cm2))に満たない場合は、発酵後液に炭酸ガス含有水を加えたり、カーボネーションを行ったりするなどして所望の発泡性を有するようにしてもよい。
【0067】
以上説明したように、本実施形態に係る発泡性アルコール飲料の製造方法は、高分子画分を得る分子量分画工程と、当該高分子画分を添加する添加工程を含むことから、プリン体の含有量が低減されるとともに、泡付着性が改善された発泡性アルコール飲料を製造することができる。
【0068】
[泡付着性改善剤]
次に、本実施形態に係る泡付着性改善剤について説明する。
本実施形態に係る泡付着性改善剤は、麦汁を分子量分画処理して得られた高分子画分と低分子画分とのうち、高分子画分であることを特徴とする。
【0069】
なお、前記のとおり、本実施形態に係る泡付着性改善剤の分子量分画処理も、連続処理が可能であるという観点より、限外ろ過処理であるのが好ましく、適切なプリン体の低減および確実な泡付着性改善の観点より、分画分子量が5,000〜100,000である分子量分画処理であるのが好ましい。
【0070】
そして、本実施形態に係る泡付着性改善剤は、麦汁を分子量分画処理して得られた高分子画分(濃縮液)をそのまま液体状の剤として用いてもよいが、当該高分子画分を粉末剤、顆粒剤、錠剤にして用いてもよい。
【0071】
また、本実施形態に係る泡付着性改善剤は、前記した発泡性アルコール飲料だけでなく、発泡性の飲料に広く適用することができる。
【0072】
以上説明したように、本実施形態に係る泡付着性改善剤は、麦汁を分子量分画処理して得られた高分子画分であることから、当該泡付着性改善剤を飲料に添加した場合、分子量分画処理を行っていない麦汁を飲料に添加した場合と比較して、プリン体の含有量を大幅に増加させることなく、泡付着性を改善することができる。
【0073】
[泡付着性改善剤の製造方法]
次に、本実施形態に係る泡付着性改善剤の製造方法について説明する。
本実施形態に係る泡付着性改善剤の製造方法は、麦汁を高分子画分と低分子画分とに分画し、高分子画分を得る分子量分画工程を含むことを特徴とする。
そして、本実施形態に係る泡付着性改善剤の製造方法は、分子量分画工程の後に、高分子画分(濃縮液)を粉末剤、顆粒剤、錠剤などに製剤化する製剤化工程を含んでもよい。
【0074】
なお、前記のとおり、本実施形態に係る泡付着性改善剤の製造方法の分子量分画処理も、連続処理が可能であるという観点より、限外ろ過処理であるのが好ましく、適切なプリン体の低減および確実な泡付着性改善の観点より、分画分子量が5,000〜100,000である分子量分画処理であるのが好ましい。
【0075】
以上説明したように、本実施形態に係る泡付着性改善剤の製造方法は、高分子画分を得る分子量分画工程を含むことから、プリン体の含有量を大幅に増加させることなく、泡付着性を改善することができる泡付着性改善剤を製造することができる。
【0076】
なお、本実施形態に係る発泡性アルコール飲料およびその製造方法ならびに泡付着性改善剤およびその製造方法において、明示していない特性や条件については、従来公知のものであればよく、前記特性や条件によって得られる効果を奏する限りにおいて、限定されないことは言うまでもない。
【実施例】
【0077】
次に、本発明の要件を満たす実施例とそうでない比較例とを例示して、本発明に係る発泡性アルコール飲料およびその製造方法ならびに泡付着性改善剤およびその製造方法について説明する。
【0078】
[サンプルの用意]
表1に示す「麦汁(未処理)」について、限外ろ過装置(アルファラバル社製M20(プレート&フレーム膜モジュール))を用いてろ過処理を行った。なお、使用した「麦汁(未処理)」は、麦由来原料と水とを混合した後、糖化を行ったもの(前記の(2)の態様)である。
詳細には、使用した限外ろ過装置は、クロスフロー式のろ過装置であって、異なる分画分子量のプリン体除去への効果を同時に確認するため、以下の構成とした。すなわち、分画分子量100,000のUF膜によりろ過する第1部分、分画分子量20,000のUF膜によりろ過する第2部分、分画分子量10,000のUF膜によりろ過する第3部分、分画分子量5,000のUF膜によりろ過する第4部分、を備えており、各々独立している。そして、この装置内部に投入された麦汁は、第1部分、第2部分、第3部分、第4部分を並行して通過することとなる。この装置の各部分において、UF膜の示す分画分子量未満のものは「ろ過液」として回収され、UF膜の示す分画分子量以上のものが、原液のタンクに戻りクロスフローで循環し、ろ過が進行するに従い濃縮される。原液タンクに濃縮された液を「濃縮液」とする。この構成により、同じ麦汁から各部分ごとに異なる分子量分画をなされた「ろ過液」が独立して得られる。さらに試験の進行に従い、各々の部分からのろ過液を分析に必要な所定量分取した後は、順次、その後のろ過液を原液のタンクに戻すこととした。限外ろ過においては分画分子量が大きい方がろ過速度が速いため第1部分の「ろ過液」が最も早く所定量に達し、その後の「ろ過液」は原液タンクに戻し入れる。その後、第2部分、第3部分の順で同様の戻し入れを行なう。すなわち、初期の構成では最大で分子量100,000未満の画分が「ろ過液」側にろ過され、100,000以上の画分が「濃縮液」側に濃縮されているが、第1部分の「ろ過液」の分取終了、戻し入れ後は最大で分子量20,000未満の画分がろ過、20,000以上の画分が濃縮される。第2部分以後も同様であるが、最終的に、途中で分析用に分取したろ過液を除いた全麦汁は、第4部分において、分子量5,000未満の画分がろ過され、5,000以上の画分が「濃縮液」として回収される。今回の実施例では、最終的に得られる「濃縮液」(分子量5,000以上の高分子画分を含む麦汁)の濃縮倍率が2倍となるまで(つまり、装置に投入した最初の麦汁の液量に対して1/2の液量の濃縮液が得られるまで)、限外ろ過処理を行った。
この結果、「ろ過液」については各々の膜の分画分子量未満の画分を含む液が4種得られ、「濃縮液」については第1部分から第3部分の戻し入れ前に分子量10,000〜100,000の範囲の高分子画分が一部「ろ過液」側に移行しているものの、最終的には分子量5,000以上の画分が含まれる「濃縮液」が得られた。なお、得られた「濃縮液」の成分については、表1に「麦汁(濃縮液)」として示す。
【0079】
そして、市販のビール(麦芽使用比率100%、アルコール度数5%、プリン体約11mg/100mL、麦由来のエキス分4g/100cm)と、炭酸ガス含有水と、原料用アルコールと、表1に示す「麦汁(未処理)」または「麦汁(濃縮液)」と、を用いてサンプルを用意した。
なお、サンプルはいずれも前記市販のビールの量が1/20となるように希釈(20倍希釈)して用いるとともに、原料用アルコールを添加してアルコール度数を5%とした。
そして、混合したサンプルを350ml缶に充填し、巻締機にて蓋をし、泡付着性の測定に供した。なお、サンプルのガス圧は全て約0.235MPaであった。また、サンプルの麦由来のエキス分は0.20〜0.25g/100cm程度であった。
【0080】
[泡付着性の測定]
泡付着性の測定は、NIBEM Cling Meter(NIBEM−CLM、Haffmans社)を用いて測定した。
詳細には、まず、発泡性アルコール飲料に係るサンプル1〜10について、NIBEM Cling Meterに付属するINPACKフォームフラッシャーを用いて円筒グラス(内径60mm、内高120mm)内に強制的に注いで起泡させた。そして、ビール液面が10mm降下したときから40mmまで降下するまでの時間を、電極を用いて測定し、参考値としてNIBEM値(単位:sec)を測定した。なお、ここまでのNIBEM値の測定は、欧州醸造協会(European Brewery Convention:EBC)において公定法とされているNIBEM法により行った。
そして、NIBEM値測定後直ちに、NIBEM Cling Meterを用いて、グラス上端10mmから40mmまでのグラス内壁面をスキャンし、当該スキャンした総面積に対する泡で覆われている面積の割合(%:=スキャンした面積のうち泡で覆われている面積/スキャンした総面積×100)を算出した。
なお、「泡で覆われている面積の割合」が大きい程、泡付着性が良いと判断することができる。
【0081】
[プリン体の測定]
プリン体の測定はHPLC(Agilent1100、アジレントテクノロジー社)を用いて測定した。
詳細には、表3に示すサンプルA〜Fの「Adenine」、「Guanine」、「Hypoxanthine」、「Xanthine」の含有量を、BCOJビール分析法(日本醸造学会誌, 2014, 108:893−901)のK.Kanekoらの方法(Biomedical Chromatography,2009,23:858−864)に準じて測定した。そして、前記した4つの化合物の含有量を合計し、「総プリン体」の含有量を求めた。
なお、サンプルAは、前記した限外ろ過処理を行っていないもの(表1の「麦汁(未処理)」)であり、サンプルFは、前記した限外ろ過処理を行い濃縮倍率が2倍の「濃縮液」として得られたもの(表1の「麦汁(濃縮液)」)である。そして、サンプルB〜Eは、前記した限外ろ過処理の過程で、限外ろ過装置の各部分において得られた「ろ過液」である。
【0082】
以下、表1には、前記した限外ろ過処理を行っていない「麦汁(未処理)」と前記した限外ろ過処理を行った「麦汁(濃縮液)」との「麦由来のエキス分」、「全窒素」、「FAN」を示す。なお、「FAN」とは遊離アミノ態窒素のことであり、BCOJビール分析法(改訂 BCOJビール分析法, 2013年改訂版CD−R, 第8章18)に準じて分析を実施した。
また、表2には、サンプル1〜10の「アルコール度数」、「添加麦汁」、「泡付着性評価」を示す。
また、表3には、サンプルA〜Fの「総プリン体の含有量」、「プリン体各成分の含有量」を示す。
なお、表2中における「−」は、含有していない、または、濃縮していないことを示す。そして、表3中における「(数値)カット ろ過液」とは、当該(数値)のUF膜により限外ろ過されたろ過液を示す。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
【表3】
【0086】
表1の「麦汁(濃縮液)」を添加したサンプル6〜10は、2倍に濃縮した麦汁を用いていることから、添加量に濃縮倍率を乗じた値(添加量×濃縮倍率)と対応する添加量のサンプル2〜5とを比較して評価を行った。つまり、サンプル2とサンプル6、サンプル3とサンプル7、サンプル4とサンプル8、サンプル5とサンプル9、を比較して評価を行った。
【0087】
泡付着性評価において、サンプル2とサンプル6とでは、差異は見られなかったが、サンプル3とサンプル7とを比較すると「0.3%→2.9%」となっており、サンプル4とサンプル8とを比較すると「0.4%→18.6%」となっており、サンプル5とサンプル9とを比較すると「25.9%→34.0%」となっており、いずれの対比においても泡付着性が大幅に向上している(改善されている)ことがわかった。
つまり、0.15v/v%(=0.30/2)以上の「麦汁(濃縮液)」を添加することで、確実に泡付着性を改善できることがわかった。
【0088】
なお、サンプル1〜10については、前記のとおり参考としてNIBEM値(泡持ち性)も測定していたが、サンプル2とサンプル6、サンプル3とサンプル7、サンプル4とサンプル8、サンプル5とサンプル9との間に、NIBEM値に大きな差異は見られなかった。
このことから、泡付着性改善剤である「麦汁(濃縮液)」は、泡品質の中でも、泡付着性を特異的に改善することがわかった。
【0089】
表3に示すように、限外ろ過を行わなかったサンプルAの総プリン体の含有量は13.9mg/100mlであった。このサンプルAを単純に2倍に濃縮した場合、プリン体の含有量は、27.8(=13.9×2)mg/100mlとなるはずである。しかしながら、前記した限外ろ過処理を行ったサンプルFの総プリン体の含有量は17.0mg/100mlとなり、27.8mg/100mlを大きく下回っている。
このことから、麦汁に限外ろ過処理を行うことにより、麦汁のプリン体を大幅に低減できることがわかった。
【0090】
以上より、本発明に係る泡付着性改善剤によると、通常の麦汁を用いる場合と比較し、プリン体をあまり増加させることなく、飲料の泡付着性を改善できることがわかった。
また、本発明に係る発泡性アルコール飲料によると、本発明に係る泡付着性改善剤である「麦汁(濃縮液)」を添加したことを特徴としていることから、通常の麦汁を添加する場合と比較し、プリン体を低減できるとともに、泡付着性に優れることが確認された。
【符号の説明】
【0091】
S11 混合工程
S12 後処理工程
S21 発酵前工程
S22 発酵工程
S23 発酵後工程
図1
図2