特開2015-156822(P2015-156822A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特開2015156822-搬送箱 図000003
  • 特開2015156822-搬送箱 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-156822(P2015-156822A)
(43)【公開日】2015年9月3日
(54)【発明の名称】搬送箱
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20150807BHJP
【FI】
   C12M1/00 G
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-32813(P2014-32813)
(22)【出願日】2014年2月24日
(11)【特許番号】特許第5652740号(P5652740)
(45)【特許公報発行日】2015年1月14日
(71)【出願人】
【識別番号】301049571
【氏名又は名称】八洲電業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000899
【氏名又は名称】特許業務法人新大阪国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 賢治郎
(72)【発明者】
【氏名】坂本 正義
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA12
4B029AA27
4B029BB01
4B029BB11
4B029CC01
4B029CC02
4B029DD06
4B029DG10
4B029GB04
4B029GB09
(57)【要約】
【課題】培養細胞等の搬送対象物を入れた容器内の温度を、目的とする温度に精度よく維持することができる軽量の搬送箱を提供する。
【解決手段】断熱機能を持つ箱4内に配設されたアルミ合金製の囲繞壁5の内側に搬送対象物1の培養下地1aと少なくとも比熱が同じ疑似対象物9を配設している。そして、疑似対象物9の温度を計測し、その出力値に応じて箱4内に設置されたペルチェ素子13、14を制御し、疑似対象物9の温度が目的の温度になるようにしている。これにより、搬送対象物9の培養施設から遠く離れた地にある医療機関に対しても、搬送対象物1の生物学的特性を損なうことなく、搬送できるようになり、全国における一般の医療機関においても生体医療を実施することができる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
断熱機能を持つ箱と、
前記箱の中に配置されたアルミ合金製の囲繞壁と、
前記囲繞壁の内側に配置された疑似対象物と、
前記疑似対象物の温度を測定する温度センサと、
前記箱の中に配置された温度調節手段と、
前記温度調節手段に電力を供給する電池と、
前記温度センサの出力に基づき、前記電力を制御する制御手段とを備え、
前記疑似対象物は搬送対象物の培養下地と少なくとも比熱が同じであり、
前記搬送対象物は前記囲繞壁の中に収納されることを特徴とする搬送箱。
【請求項2】
前記搬送対象物は、滅菌された一次容器である培養容器に封入され、前記培養容器は滅菌された二次容器である袋に収納され、前記温度調節手段は前記囲繞壁に取り付けられ、前記電池と、前記制御手段と、前記温度を表示する温度表示部とは前記箱の外側に取り付けられている請求項1に記載の搬送箱。
【請求項3】
ファンが前記囲繞壁の内側に取り付けられている請求項1又は2に記載の搬送箱。
【請求項4】
前記囲繞壁は二重になっており、ファンがその二重の囲繞壁の中に配置されている請求項1乃至3のいずれか一つに記載の搬送箱。
【請求項5】
前記培養容器の蓋及び前記袋が透明材料で形成されている請求項1乃至4のいずれか一つに記載の搬送箱。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生医療に用いられる培養細胞等の対象物を、その生物学的特性を壊さないように温度管理しながら製造施設から遠く離れた医療実施機関へも搬送することのできる搬送箱の技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
再生医療は、熱傷、創傷、擦過傷、皮膚潰瘍等の機能不全又は欠損を起こした細胞・組織・臓器の根本的な組織機能の回復を実現する医療であり、従来では治療困難であった疾患に対して新たな治療法を拓く医療として研究開発が進んでいる。
【0003】
組織や臓器が傷害された場合に、残存する細胞の中で分裂能力を有した特殊な細胞(幹細胞など)が増殖して、傷害またはそれにより欠損した部分を修復し、元の状態へと回復する現象、いわゆる組織や臓器の再生が行われる。再生医療分野では、各種臓器の発生過程を幹細胞を用いて再現させることにより、組織や臓器の再生を目指すこととしている。
【0004】
また再生医療分野では、可能な限り少量の細胞採取により、最大限に機能回復をもたらす細胞群を培養し、さらに、移植後のリスクも軽減するといった様々な条件を満たす組織の再生が現在進められてきている。
【0005】
細胞を培養する技術は、特殊な技術及び特殊で且つ大規模の機器設備を要するので普通の医療機関で行うことはできない。現在では、十分な機器設備が整い、熟練した培養技術を有した大学病院や大手の製薬会社等の専門施設でのみ、行われている。また培養された培養細胞を実際の患者に対して移植治療することも、培養した大学病院等の専門施設でのみ実施されているに過ぎない。
【0006】
然しながら、専門施設で培養作成された培養細胞をその生物学的特性を損なうことなく搬送する技術があれば、遠隔の地にある一般の手術設備のある医療機関でも広く再生医療の手術を行うことが可能となり、多くの患者が再生医療で機能不全等を起こした細胞・組織・臓器の根本的な機能回復を得ることが可能である。
【0007】
而して、従来の培養細胞を搬送する手段としては、培養下地を入れた容器に培養細胞を入れて、容器を更に外箱へ収容し、容器の周囲に蓄温剤を詰めて容器内の培養細胞の温度を人間の体温と同じ37℃程度の環境に保つようにして搬送するのが一般的であった。
【0008】
一方、特許文献1に示すような特殊な包装技術を用いた搬送方法も公知である。この特許文献1では、先ず、培養細胞の全面積よりもやや小さな面積を持つ第1支持シートを培養細胞に重ね合わせ、第1支持シートの周囲からはみ出た部分を第1支持シートに折り返し、培養細胞と第1支持シートとを一体化している。次に、これを二つ折りにした第2支持シートの間に挟み込み、更にその全体を巻き丸めて筒状体とし、これを輸送用培地を入れたコニカルチューブに挿入し、キャップを閉めて封入している。そして、更にコニカルチューブを外箱へ収容し、コニカルチューブの周辺に所定温度に維持するための蓄温剤を配置し、コニカルチューブの内部温度を所定温度に維持するようにして培養細胞を製造拠点から遠方の医療機関へ搬送するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−336344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、前記従来の一般的な搬送技術及び前記特許文献1に示す技術のいずれにおいても、培養細胞を入れた容器の周囲に蓄温剤を配置し、この蓄温剤によって培養細胞が入った容器内の温度を所定温度に維持するようにしている。このような蓄温剤を用いる温度制御方法では、温度制御が蓄温剤の材料の選択によるものであるため、自由に温度を変更することができない。そのため、37℃に維持したい場合は、37℃に蓄温することのできる主材料を選択し、また主材料及び副材料等の配合割合を個別に行う必要があった。
【0011】
しかも、温度制御は、蓄温剤自体の発熱温度であり、その周囲の温度を目的とする温度に制御するものではないので、容器内に収容した培養細胞が精度よく目的とする温度に維持されるものではなかった。そのため、培養細胞の生物学的特性が損なわれる虞があるという致命的な問題があった。
【0012】
更に、蓄温剤自体は、ゲル状或いは液体であるため相当な重量を呈するものであり、目的とする温度に維持するためには、大量の蓄温剤を配置しなければならない。そのため、搬送箱全体の重量がかなりの重さになり、飛行機の機内へ持ち込む場合等の取扱いが面倒でかなりの負担になるという欠点があった。しかも、機内へ持ち込む場合は、量的制限があり(液体は1Lに制限される等)、十分な温度管理ができなくなるという問題があった。
【0013】
本発明は、従来の前記問題点に鑑みてこれを改良除去したものであって、培養細胞等の搬送対象物を入れた容器内の温度を目的とする温度に精度よく維持することができる軽量の搬送箱を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するために本発明が採用した第1の本発明は、
断熱機能を持つ箱と、
前記箱の中に配置されたアルミ合金製の囲繞壁と、
前記囲繞壁の内側に配置された疑似対象物と、
前記疑似対象物の温度を測定する温度センサと、
前記箱の中に配置された温度調節手段と、
前記温度調節手段に電力を供給する電池と、
前記温度センサの出力に基づき、前記電力を制御する制御手段とを備え、
前記疑似対象物は搬送対象物の培養下地と少なくとも比熱が同じであり、
前記搬送対象物は前記囲繞壁の中に収納されることを特徴とする搬送箱である。
【0015】
第2の本発明は、前記搬送対象物は、滅菌された一次容器である培養容器に封入され、前記培養容器は滅菌された二次容器である袋に収納され、前記温度調節手段は前記囲繞壁に取り付けられ、前記電池と、前記制御手段と、前記温度を表示する温度表示部とは前記箱の外側に取り付けられている第1の本発明の搬送箱である。
【0016】
第3の本発明は、ファンが前記囲繞壁の内側に取り付けられている第1又は2の本発明の搬送箱である。
【0017】
第4の本発明は、前記囲繞壁は二重になっており、ファンがその二重の囲繞壁の中に配置されている第1乃至3のいずれかの本発明の搬送箱である。
【0018】
第5の本発明は、前記培養容器の蓋及び前記袋が透明材料で形成されている第1乃至4のいずれかの本発明の搬送箱である。
【発明の効果】
【0019】
第1の本発明にあっては、断熱機能を持つ(外)箱内に配設されたアルミ合金製の囲繞壁の内側に搬送対象物と少なくとも比熱が同じ疑似対象物を配設している。そして、前記疑似対象物の温度を温度センサで計測し、その出力値に応じて(外)箱内に設置された温度調節手段を制御し、疑似対象物の温度が例えば人間の体温とほぼ同じである37℃に維持するようにしている。温度設定は任意である。
【0020】
このように、培養細胞等の搬送対象物と同じ環境下にある疑似対象物の温度を計測してその温度管理を行うことで、搬送対象物を目的とする温度に長時間維持することが可能となった。そのため、搬送対象物の培養施設から遠く離れた地にある医療機関に対しても、搬送対象物の生物学的特性を損なうことなく、搬送することが可能となり、全国における一般の医療機関においても生体医療を実施することができ、その社会的貢献は絶大である。
【0021】
第2の本発明にあっては、前記搬送対象物は、滅菌された培養容器(一次容器)に封入されており、更にこの培養容器は滅菌された袋(二次容器)に収納されている。そして、前記温度調節手段は培養容器の外側の囲繞壁に取り付けられている。そのため、温度制御手段は搬送対象物が封入された培養容器とは、独立・遮断された環境にあり、当該温度制御手段が搬送対象物を汚染するということはない。
【0022】
また温度制御手段の温度表示部及び電池は、(外)箱の外側に取り付けられており、搬送者は箱を開けなくても、搬送対象物の温度状態を知ることが可能であり、安心である。電池の交換も箱を密閉した状態で行うことができ、電池交換の作業性においても優れている。
【0023】
第3の本発明にあっては、囲繞壁の内側にファンを取り付けており、囲繞壁内の空気を強制循環させることで、囲繞壁内の温度環境を均一にすることが可能である。従って、箱内に複数の搬送対象物を収容したとしても、これらの温度環境を均一にすることが可能である。
【0024】
第4の本発明にあっては、囲繞壁を二重にし、その中にファンを設置することで、最も内側に位置する搬送対象物が外部の環境に影響され難く、安定するようにしている。
【0025】
第5の本発明にあっては、培養容器の蓋及び培養容器を入れた袋を透明材料にしている。これは空港等の検査において、(外)箱を開けて内容物の確認を求められたときに、培養容器の蓋を開けなくても培養容器の内部が外部から視認できるようにしたものである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施の形態に係る搬送箱の蓋を取り除いた状態を示す平面図である。
図2】本発明の一実施の形態に係る搬送箱の囲繞壁を示す斜視図である。
図3】本発明の一実施の形態に係る培養容器(一次容器)と袋(二次容器)とを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明の構成を図1乃至図3に示す一実施の形態に基づいて説明すると次の通りである。図1に示すように、この実施の形態にあっては、培養細胞等の搬送対象物1を収容してなる一次容器としての培養容器2と、この培養容器2を収容する二次容器としての袋3と、該袋3を収容してなる三次容器としての断熱外箱4の三つの容器を用いている。培養細胞等の搬送対象物1は、十分な機器設備が整い、熟練した培養技術を有した大学病院や大手の製薬会社等の専門施設で作成される。
【0028】
一次容器としての培養容器2は、ガラス製やプラスチック製の滅菌処理されたものを使用する。また二次容器としての袋3は、無塵紙や不織布又はプラスチック製のものであり、使い捨ての容器である。更に、三次容器としての断熱外箱4は、発砲スチロールなど断熱性の高い材料を利用し、耐震構造を有する箱が適切である。
【0029】
なお、搬送対象物1としては、培養細胞以外に、培養組織、細胞懸濁液等がある。
【0030】
断熱外箱4内には、アルミ合金製の囲繞壁5及び6を二重になるように配置している。二重にした理由は、内側の囲繞壁5内の更に中央寄りの領域に、配置される培養細胞等の搬送対象物1が外部の環境に影響され難く、温度が安定するようにするためである。アルミ合金製にしたのは、軽量且つ熱伝導も充分だからであり、温度管理の容易性と持ち運び時の負担軽減、取扱いの容易性を考慮したものである。
【0031】
内側の囲繞壁5内には、図3に示すように、無塵紙や不織布又はプラスチック製の袋3に収容された培養容器2が複数個(図1では4個の場合を示す)配設されている。これらの培養容器2内には培養下地(培地)1aで保護された培養細胞等の搬送対象物が収容されている。搬送対象物1の培養容器2内への収容作業は、無菌実験台(クリーンベンチ)で行うようにしている。無菌実験台は、机の形の台に手前側が空いた形の囲いと屋根がついており、内側の天井ないし前方の壁から、フィルターを通して無菌化された風を送るように構成されたものが一般的である。
【0032】
前記培養容器2の蓋2Aと、袋3は、透明材料で構成されていることが望ましい。その理由は、空港等の検査において、断熱外箱4を開けて内容物の確認を求められたときに、袋3を破って更に培養容器2の蓋2Aを開けなくても培養容器2の内部が外部から視認できるようにするためである。
【0033】
この実施の形態では、前記4個の培養容器2が収容された袋3の中央位置に、前記培養容器2と同じ構造の疑似培養容器7及び袋3と同じ疑似袋8を配設している。これらの中央位置の疑似培養容器7及び疑似袋8は、前記培養細胞等の搬送対象物1が収容された培養下地1aと少なくとも比熱が同じである疑似対象物9が収容されている。さらにはこの疑似対象物9は培養下地1aと同じ材料、同じ容量が望ましい。
【0034】
そして、この疑似対象物9には、物体の内部温度を計測するセンサとして市販されている一般的な温度センサ10が挿し込まれている。
【0035】
このように、培養細胞等の搬送対象物1が収容された培養容器2とは別の疑似培養容器7において、疑似対象物9の温度を測定するようにしたのは、搬送対象物1が汚染されるのを防止することと、搬送対象物1と同じ環境で疑似対象物9の温度を測定することで、搬送対象物1の温度を出来るだけ正確に測定し、制御出来るようにするためである。
【0036】
なお、断熱外箱4内に配置された前記の袋3及び疑似培養容器7並びにアルミ合金製の囲繞壁5及び6は、これらの形状に応じた凹部を断熱外箱4の底部上面側に設ける等して、これらの収容された部材が不用意に移動することがないようにすればよい。
【0037】
温度センサ10は、断熱外箱(三次容器)4の外部に取り付けられたコンピュータ(マイコン)11に接続されている。コンピュータ11は、断熱外箱4の外部に取り付けられた電池12をON,OFF制御する。電池12は、内側の囲繞壁5の外周面に取り付けられた温度調節手段(ヒーターデバイス及びクールデバイス)としてのペルチェ素子13及び14に接続されている。また断熱外箱4の外部に取り付けられたコンピュータ11には、温度センサ10で検知された温度や設定温度等を表示する温度表示部15が設けられている。更に、内側の囲繞壁5の内周面側には、空気を強制循環させるためのファン16が取り付けられている。
【0038】
前記ペルチェ素子13及び14は、異なる金属を接合して、そこに電流を流すことで熱が金属間を移動する原理を利用した電子部品であり、一方側の面では冷却(吸熱)効果が得られ、他方側の面では自己発熱による放熱(加熱)が行われる。
【0039】
従って、季節や気温によっては、ペルチェ素子13及び14の双方が冷却を行うように取り付けてもよく、逆に双方が放熱による加熱を行うように取り付けてもよく、一方を冷却とし、他方を加熱とする等の取り付けも可能である。またペルチェ素子13及び14の設置数を二個以上の複数個とし、それぞれをヒーターデバイス又はクールデバイスとして使い分けるようにしてもよい。
【0040】
なお、ヒーターデバイス及びクールデバイスの温度調節手段は、ペルチェ素子13及び14以外にも、サーミスタ等を利用することが可能である。
【0041】
次に、このように構成された搬送箱の使用態様を説明する。先ず、十分な機器設備が整い、熟練した培養技術を有した大学病院や製薬会社等の専門施設で作成された培養細胞等の搬送対象物1を、無菌実験台において培養容器2に収容し、封入する。培養容器2には、無菌実験台において予め培養下地が充填されている。そして、無菌実験台において、培養容器2を更に透明な袋3に収容し、封緘している。
【0042】
続いて、このようにして製造された培養容器2入りの袋3を、図1に示すように、断熱外箱4内に配置されたアルミ合金製の囲繞壁5で囲まれた内部領域に、断熱外箱4の凹部を利用して嵌合配置している。そして、四つの袋3の中央寄りに疑似培養容器7を収容した疑似袋8を同様に嵌合配置し、この疑似培養容器7の疑似対象物9に温度センサ10を挿入している。
【0043】
然る後は、必要であれば、アルミ合金製の囲繞壁5及び6に透明な蓋(図示せず)をし、更に断熱外箱4の蓋17(図2参照)をする。
【0044】
このような状態からコンピュータ11の電源を投入すると、疑似培養容器7内の疑似対象物9の温度がコンピュータ11に送られる。また内側の囲繞壁5の内周面側に取り付けられたファン16が駆動し、囲繞壁5で囲まれた空間の空気を循環させる。これにより、囲繞壁5内の空間の温度が均一になる。
【0045】
コンピュータ11は、温度センサ10から出力される温度を設定値(温度表示部15の図示しない操作ボタンで任意に変更することが可能であり、例えば、37℃)と比較し、温度センサ10からの出力温度が低ければ温度調節手段としてのペルチェ素子13又は14の放熱を利用して加熱するか、サーミスタ等を動作させて加熱する。逆に、温度センサ10からの出力温度が高い場合は、ペルチェ素子13又は14の吸熱効果を利用して冷却する。このような温度制御は、コンピュータ11が電池12からの電力を温度調節手段としてのペルチェ素子13又は14へ供給したり、遮断したりすることで行われる。
【0046】
このように培養細胞等の搬送対象物1が収容された培養容器2と同じ構造の疑似培養容器7と、培養容器2内の培養下地1aと少なくとも比熱が同じ疑似対象物9を用いてその温度を測定することにより、搬送対象物1を汚染することなく、その温度を高精度で間接的に検知することができる。そのため、培養細胞等の搬送対象物1の生物学的特性を損なうことなく、長時間搬送することが可能となり、搬送対象物1の製造拠点から遠く離れた地域の医療機関においても、生体医療を実施することが可能となった。
【0047】
また、アルミ合金製の囲繞壁5を用いているので軽量な搬送箱が実現できた。
【0048】
ところで、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、適宜の変更が可能である。例えば、温度センサ10、ペルチェ素子13及び14、電池12、コンピュータ11及び温度表示部15は、フェールセーフの観点から複数セットを設置するようにしてもよい。
【0049】
またアルミ合金製の囲繞壁5内に設けたファン16は、囲繞壁5と6の間に配置してもよい。この場合は、アルミ合金製の囲繞壁5内の温度環境の均一化と安定を、その外周側の囲繞壁5と6の間の温度環境を均一にすることで実現するようにしている。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、培養細胞等の搬送対象物と同じ環境下にある疑似対象物の温度を計測してその温度管理を行うことで、搬送対象物を目的とする温度に長時間維持することが可能となった。そのため、搬送対象物の培養施設から遠く離れた地にある医療機関に対しても、搬送対象物の生物学的特性を損なうことなく、搬送することが可能となり、全国における一般の医療機関においても生体医療を実施することができ、その社会的貢献は絶大である。
【符号の説明】
【0051】
1 培養細胞等の搬送対象物
1a 培養下地
2 培養容器
3 袋
4 断熱外箱
5 内側の囲繞壁
6 外側の囲繞壁
7 温度測定用の疑似培養容器
8 温度測定用の疑似袋
9 疑似対象物
10 温度センサ
11 コンピュータ
12 電池
13,14 温度調節手段としてのペルチェ素子
15 温度表示部
16 ファン



図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2014年8月1日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
断熱機能を持つ箱と、
前記箱の中に配置されたアルミ合金製の囲繞壁と、
前記囲繞壁の内側の所定位置に配置された疑似対象物と、
前記疑似対象物の温度を測定する温度センサと、
前記箱の中に配置された温度調節手段と、
前記温度調節手段に電力を供給する電池と、
前記温度センサの出力に基づき、前記電力を制御する制御手段とを備え、
前記疑似対象物は搬送対象物の培養下地と少なくとも比熱が同じであり、
前記搬送対象物は前記囲繞壁の内側の、前記所定位置とは別の位置に前記疑似対象物と並んで収納され
前記制御手段は、前記温度センサで前記疑似対象物の温度を測定しながら前記電力の供給を制御しながら前記搬送対象物の温度を制御することを特徴とする搬送箱。
【請求項2】
前記搬送対象物は、滅菌された一次容器である培養容器に封入され、前記培養容器は滅菌された二次容器である袋に収納され、前記温度調節手段は前記囲繞壁に取り付けられ、前記電池と、前記制御手段と、前記温度を表示する温度表示部とは前記箱の外側に取り付けられている請求項1に記載の搬送箱。
【請求項3】
ファンが前記囲繞壁の内側に取り付けられている請求項1又は2に記載の搬送箱。
【請求項4】
前記囲繞壁は二重になっており、ファンがその二重の囲繞壁の中に配置されている請求項1乃至3のいずれか一つに記載の搬送箱。
【請求項5】
前記培養容器の蓋及び前記袋が透明材料で形成されている請求項1乃至4のいずれか一つに記載の搬送箱。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0014
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0014】
前記課題を解決するために本発明が採用した第1の本発明は、
断熱機能を持つ箱と、
前記箱の中に配置されたアルミ合金製の囲繞壁と、
前記囲繞壁の内側の所定位置に配置された疑似対象物と、
前記疑似対象物の温度を測定する温度センサと、
前記箱の中に配置された温度調節手段と、
前記温度調節手段に電力を供給する電池と、
前記温度センサの出力に基づき、前記電力を制御する制御手段とを備え、
前記疑似対象物は搬送対象物の培養下地と少なくとも比熱が同じであり、
前記搬送対象物は前記囲繞壁の内側の、前記所定位置とは別の位置に前記疑似対象物と並んで収納され
前記制御手段は、前記温度センサで前記疑似対象物の温度を測定しながら前記電力の供給を制御しながら前記搬送対象物の温度を制御することを特徴とする搬送箱である。