【解決手段】ある1つの香りを嗅いだ時の被験者の脳血流量の変化を測定する脳血流量測定工程と、脳血流量が増加した脳の部位に基づいて、被験者の香りに対する覚醒感を判定する覚醒感評価工程とによって、上記香りの覚醒感を評価する。覚醒感評価工程は、前頭眼野、前頭前野背外側部、前頭極、眼窩前頭野、下前頭回三角部及び下前頭前野からなる群から選ばれる1つ以上の領野内における脳血流量の増加を検出した場合に、前記被験者が前記香りをリフレッシュすると感じたと判定する。
前記脳の部位は、前頭眼野、前頭前野背外側部、前頭極、眼窩前頭野、上側頭回、中側頭回、下前頭回三角部及び下前頭前野からなる群から選ばれる1つ以上の領野内にある、請求項1に記載の香りの覚醒感評価方法。
前記覚醒感評価工程は、前頭眼野、前頭前野背外側部、前頭極、眼窩前頭野、下前頭回三角部及び下前頭前野からなる群から選ばれる1つ以上の領野内における脳血流量の増加を検出した場合に、前記被験者が前記香りをリフレッシュすると感じたと判定する工程である、請求項1又は2に記載の覚醒感評価方法。
前記覚醒感評価工程は、国際10−20法規格に基づいて配置されたチャンネル1〜4、7、9、11、22、29、30、37〜39、50のいずれかにより測定される部位からなる群から選ばれる1つ以上の部位における脳血流量の増加を検出した場合に、前記被験者が前記香りをリフレッシュすると感じたと判定する工程である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の覚醒感評価方法。
前記覚醒感評価工程は、国際10−20法規格に基づいて配置されたチャンネル2、29、37のいずれかにより測定される部位からなる群から選ばれる1つ以上の部位における脳血流量の増加を検出した場合に、前記被験者が前記香りをリフレッシュすると感じたと判定する工程である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の覚醒感評価方法。
前記覚醒感評価工程は、中側頭回及び上側頭回からなる群から選ばれる1つ以上の領野内における脳血流量の増加を検出した場合に、前記被験者が前記香りをリラックスすると感じたと判定する工程である、請求項1又は2に記載の覚醒感評価方法。
前記覚醒感評価工程は、国際10−20法規格に基づいて配置されたチャンネル45、46、47、52のいずれかにより測定される部位からなる群から選ばれる1つ以上の部位における脳血流量の増加を検出した場合に、前記被験者が前記香りをリラックスすると感じたと判定する工程である、請求項1、2、6のいずれか一項に記載の覚醒感評価方法。
前記覚醒感評価工程は、国際10−20法規格に基づいて配置されたチャンネル45により測定される部位における脳血流量の増加を検出した場合に、前記被験者が前記香りをリラックスすると感じたと判定する工程である、請求項1、2、6、7のいずれか一項に記載の覚醒感評価方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
製品の香りによってはリフレッシュ感又はリラックス感をもたらすものがある。このような覚醒感の強弱を評価するために、アンケートによる評価を行うことが考えられる。
【0006】
しかしながら、製品が有する香りから感じられる覚醒感を評価しようとする場合、従来のアンケートによる方法では、回答結果が感覚疲労、体調変化などの要因に影響されやすい。また、アンケートの回答に表れない被験者の無意識を探ることは難しい。さらに、主観的な判断であることから、定量的に評価を行うことは困難である。
【0007】
そこで、アンケートによる回答を要せずに、客観的に被験者の覚醒感に関するデータを収集することができる覚醒感評価方法が望まれている。
【0008】
本発明は、香りの覚醒感を客観的に判断することのできる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ある1つの香りを嗅いだ時の被験者の脳血流量の変化を測定する脳血流量測定工程と、脳血流量が増加した脳の部位に基づいて、被験者の上記香りに対する覚醒感を判定する覚醒感評価工程とを含む、香りの覚醒感評価方法を提供する。
【0010】
本発明者らは、ある香りを嗅いだ際に、その香りをリフレッシュすると感じるか、又はリラックスすると感じるかによって、血流量が増加する脳の部位が異なることを見出した。そして、嗅いだ香りに対する被験者の覚醒感アンケート結果と、特定の脳の部位における脳血流増加量との相関関係を統計的に解析した結果、脳血流量が増加した部位の相違を被験者のその香りに対する覚醒感の判定に利用できることを見出した。
【0011】
上記覚醒感評価方法では、脳の部位は、前頭眼野、前頭前野背外側部、前頭極、眼窩前頭野、上側頭回、中側頭回、下前頭回三角部及び下前頭前野からなる群から選ばれる1つ以上の領野内にあることが好ましい。
【0012】
上記覚醒感評価工程は、前頭眼野、前頭前野背外側部、前頭極、眼窩前頭野、下前頭回三角部及び下前頭前野からなる群から選ばれる1つ以上の領野内における脳血流量の増加を検出した場合に、上記被験者が上記香りをリフレッシュすると感じたと判定する工程とすることができる。
【0013】
上記覚醒感評価工程は、好ましくは、国際10−20法規格に基づいて配置されたチャンネル1〜4、7、9、11、22、29、30、37〜39、50のいずれかにより測定される部位からなる群から選ばれる1つ以上の部位における脳血流量の増加を検出した場合に、上記被験者が上記香りをリフレッシュすると感じたと判定する工程である。より好ましくは、上記覚醒感評価工程は、国際10−20法規格に基づいて配置されたチャンネル2、29、37のいずれかにより測定される部位からなる群から選ばれる1つ以上の部位における脳血流量の増加を検出した場合に、上記被験者が上記香りをリフレッシュすると感じたと判定する工程である。
【0014】
上記覚醒感評価工程は、中側頭回及び上側頭回からなる群から選ばれる1つ以上の領野内における脳血流量の増加を検出した場合に、上記被験者が上記香りをリラックスすると感じたと判定する工程とすることもできる。
【0015】
上記覚醒感評価工程は、好ましくは、国際10−20法規格に基づいて配置されたチャンネル45、46、47、52のいずれかにより測定される部位からなる群から選ばれる1つ以上の部位における脳血流量の増加を検出した場合に、上記被験者が上記香りをリラックスすると感じたと判定する工程である。より好ましくは、上記覚醒感評価工程は、国際10−20法規格に基づいて配置されたチャンネル45により測定される部位における脳血流量の増加を検出した場合に、上記被験者が上記香りをリラックスすると感じたと判定する工程である。
【0016】
上記脳血流量の変化は、近赤外分光分析法によって測定されることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、香りの覚醒感を客観的に評価することのできる方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施形態に限られるものではない。
【0020】
本発明の香りの覚醒感評価方法は、ある1つの香りを嗅いだ時の被験者の脳血流量の変化を測定する脳血流量測定工程と、脳血流量が増加した脳の部位に基づいて、上記被験者の上記香りに対する覚醒感を判定する覚醒感評価工程とを含む。
【0021】
(覚醒感評価)
本明細書で「香りの覚醒感評価」とは、評価対象である香りが被験者にとって「リフレッシュする」と感じられるものであるか、逆に「リラックスする」と感じられるものであるかを評価することをいう。本明細書では、「リフレッシュすると感じる」とは覚醒感が強いことを意味し、「リラックスすると感じる」とは覚醒感が弱いことを意味する。
【0022】
(領野名)
本明細書で用いている脳の各領野名は、大脳新皮質の解剖学的区分として一般的に用いられているコルビニアン・ブロードマンの区分(通称、「ブロードマンの脳地図」と呼ばれる。)による。ブロードマンの脳地図では、組織構造が均一である部分をひとまとまりの領域として区分して、1から52までの番号が振られている。この明細書において脳の領野名は、脳内の解剖学的位置を指すために用いられるものであって、必ずしも各領野で発揮されると考えられている脳の機能と関連付けられるものではない。
【0023】
(脳血流量の変化)
本明細書において脳血流量の変化とは、大脳表面付近の血液中のオキシヘモグロビン量の変化によって測定されるものである。血液中のオキシヘモグロビン量の変化は、例えば、近赤外分光分析法、機能的核磁気共鳴画像法(fMRI)、ポジトロン断層法(PET)などによって測定することができ、血液中のオキシヘモグロビン量の変化は、近赤外分光分析法により測定することが好ましい。近赤外分光分析法としては、機能的近赤外分光分析法(fNIRS)を用いてもよい。
【0024】
(近赤外分光分析法)
近赤外分光分析法装置により測定を行うには、被験者の頭表に送光プローブ、及び受光プローブを装着する。送光プローブは被験者の脳内へ近赤外光を照射し、被験者の脳内へ照射された近赤外光は大脳皮質などで反射されて頭表へ戻り、受光プローブによって検出される。脳血流に含まれるオキシヘモグロビンとデオキシヘモグロビンは近赤外波長領域の光に対してそれぞれ異なる吸収スペクトルを有するので、送光プローブから照射された近赤外光は脳血流に含まれるオキシヘモグロビン又はデオキシヘモグロビンによって吸収され、受光プローブによって検出される光量は、上記オキシヘモグロビンとデオキシヘモグロビンの量を反映して減少する。したがって、照射時と検出時の光量変化から、近赤外光が通過した部位の脳血流量やそれに含まれるオキシヘモグロビンとデオキシヘモグロビンの量を推定することができる。上記光量変化を経時的に計測することで、光照射部位の脳血流量やそれに含まれるオキシヘモグロビンとデオキシヘモグロビンの時間的変化を脳活動時系列データとして記録することができる。近赤外分光分析法装置としては、例えば、島津製作所社製のfNIRS計測装置「LABNIRS」を用いることができる。
【0025】
(チャンネル)
本明細書では、送光プローブ及び受光プローブの組み合わせによって脳血流量が実際に測定されるそれぞれの部位をチャンネルと呼ぶ。各チャンネルを被験者の頭部の任意の位置に設けて脳血流量を測定することができるが、測定の再現性のために、頭部の一定の位置にチャンネルを設けることが望ましい。
【0026】
各チャンネルは、国際10−20法規格に基づいて配置することができる。
図1に示すチャンネル配置は、島津製作所社製のfNIRS計測装置「LABNIRS」で用いられる前頭測定用のチャンネル配置の一例である。
図1に示すチャンネル配置は、チャンネル38とチャンネル39の中央が被験者頭部のFpzとなるように合わせ、FpzからCzの方向に向かう正中線上にチャンネル30、チャンネル13が位置するように配置されている。
図1に示すチャンネル配置では、各チャンネルの間に設置されているプローブが横一列に3cm間隔で設置され、上下に隣り合う列が3cm間隔で配置されている。上下に隣り合う列はプローブが1.5cmずつ横方向にずれるように配置されている。各チャンネルの番号は、測定者が任意に設定可能であり、
図1に示すチャンネル配置の番号とは異なっていてもよい。チャンネル番号は、
図1に示す番号に設定されることが好ましい。
【0027】
(香り)
本発明の覚醒感評価方法は、飲食品の香り、芳香剤の香りなど、任意の香りを対象として覚醒感を評価するために用いることができる。中でも飲料の香りに対する覚醒感を評価するために用いることに適しており、飲料の中でも特に、ビール、発泡酒等の発泡性アルコール飲料、発泡性ノンアルコールビールテイスト飲料などのビールテイスト飲料に用いることに更に適している。
【0028】
(ある1つの香り)
本実施形態に係る香りの覚醒感評価方法では、必ずしも基準品との比較は必要ではなく、対象となる香りの覚醒感を単独で絶対的に評価することが可能である。本明細書において、1つの香りとは、被験者が一度に嗅ぐことのできる香りを意味するものであって、必ずしも単一成分からなる香りを意味するものではなく、香りの原因物質である成分を複数含んでいてもよい。また、複数の製品から発せられる香りが混合されたものであってもよい。
【0029】
(脳血流量測定工程)
本実施形態に係る香りの覚醒感評価方法では、まず、ある1つの香りを嗅いだ時の被験者の脳血流量変化を測定する脳血流量測定工程が行われる。以下には、近赤外分光分析法によって測定する場合を説明する。
【0030】
脳血流量を測定するために、被験者の頭部に近赤外分光分析法用のプローブを装着する。全ての被験者の頭部において一定の位置に取り付けられるよう、プローブを上述のとおり国際10−20法規格に基づいて装着することが好ましい。
【0031】
近赤外分光分析法によって対象とする活動を行っている間の脳の活動状態を調べるためには、安静時の脳の血流量を測定し、活動時の脳の血流量と比較する必要がある。この脳を安静化させるための時間を「レスト期間」と呼び、刺激を与え脳を活動化させるための時間を「タスク期間」と呼び、タスク期間後、脳が安静化するまでの時間を「ポストタスク期間」と呼ぶ。脳血流量の測定は、レスト期間、タスク期間及びポストタスク期間を組み合わせて行われる。すなわち、レスト期間、タスク期間及びポストタスク期間中、脳血流量が継続して測定される。本実施形態に係る覚醒感評価方法では、目的の香りを呈示している時間がタスク期間に相当する。被験者に香りが呈示された時がタスク期間の開始時であり、その後任意の時間をタスク期間とすることができる。
【0032】
近赤外分光分析用のプローブを装着され、脳血流量の測定可能な状態とされた被験者に、評価対象である香りが呈示される。被験者が香りを嗅ぐ方法としては、官能試験に用いられる任意の方法を適用することができる。近赤外分光分析法においては、被験者が頭部を極力動かさないことが望ましいため、香りを被験者に供給する装置が、被験者が定位置のまま香りを嗅げるように設けられていることが好ましい。例えば、評価対象である香りを含む空気と、香りを含まない空気とを任意で切り替えて被験者に供給できる装置を用いることができる。複数の香りに対する覚醒感を比較する場合には、各香りの呈示時間は一定であることが望ましい。
【0033】
本実施形態に係る覚醒感評価方法は、評価対象である香りに対して別途対照品を設定する必要がないため、香りごとに覚醒感を絶対評価することができる。したがって、レスト期間、タスク期間及びポストタスク期間は、1つの香りについて1セット行われればよい。判定の精度を上げるために、複数セットを連続して行い、各セットの変化量の平均値によって後述する判定を行ってもよい。また、異なる香りを用いたセットが連続して行われてもよい。
【0034】
(覚醒感を判定する覚醒感評価工程)
次に、脳血流量が増加した脳の部位に基づいて、被験者の香りに対する覚醒感を判定する覚醒感評価工程が行われる。
【0035】
活動時の脳の血流量の分析を行う時間を「分析期間」と呼ぶ。上述の方法により測定された各チャンネルにおける分析期間の脳血流量を、レスト期間の脳血流量と比較することによって、分析期間の脳血流量の変化量を求める。具体的には、例えば、一定のレスト期間中の脳血流量の平均値と、一定の分析期間中の脳血流量の平均値とを比較することによって、香りを嗅いだ時の脳血流量の変化量を求めることができる。レスト期間と比較して脳血流量の変化量を算出するためには、分析期間は、全タスク期間及びポストタスク期間の脳血流量データを用いる必要はなく、タスク期間及びポストタスク期間中の任意の一部の期間の脳血流量データを用いることができる。タスク期間開始後、香りを10秒間(0−10秒後)にわたって被験者に呈示する場合には、例えば、香りの呈示後0−20秒後の分析期間の脳血流量データを用いることができる。香りの呈示後0−5秒後、5−10秒後、10−15秒後、0−10秒後又は5−15秒後の分析期間のデータを用いることが好ましく、10−15秒後の分析期間のデータを用いることがより好ましいが、これらに限定されるものではない。レスト期間との比較に用いる分析期間を香りの呈示後10−15秒後とすることで、覚醒感と脳血流増加量との相関が高まり、より信頼性の高い判定を行うことができる。
【0036】
次に、香りを嗅いだ時に脳血流量が増加した脳の部位を特定する。特定された脳の部位に基づいて、被験者が、嗅いだ香りをリフレッシュすると感じたのか、又はリラックスすると感じたのかを判定することができる。脳血流量の増加量は、オキシヘモグロビン増加量として0.001mM・cm以上であることが好ましい。
【0037】
前頭眼野、前頭前野背外側部、前頭極、眼窩前頭野、上側頭回、中側頭回、下前頭回三角部及び下前頭前野のいずれかの領野に含まれる部位で脳血流量の増加を検出することにより、被験者の香りに対する覚醒感を判定することができる。脳の部位は、上記領野の複数にまたがって含まれる部位であってもよい。
【0038】
本実施形態に係る覚醒感評価方法では、被験者が嗅いだ香りをリフレッシュすると感じたか、又はリラックスすると感じたかによって、脳血流量が増加する部位が含まれる領野が異なるため、脳血流量の増加が検出された脳の部位がどの領野に含まれるかによって、被験者が嗅いだ香りに対する覚醒感を判定することができる。
【0039】
具体的には、前頭眼野、前頭前野背外側部、前頭極、眼窩前頭野、下前頭回三角部及び下前頭前野のいずれかの領野内において脳血流量の増加が検出されたとき、被験者が嗅いだ香りをリフレッシュすると感じたと判定することができる。一方、上側頭回及び中側頭回のいずれかの領野内において脳血流量の増加が検出されたとき、被験者が嗅いだ香りをリラックスすると感じたと判定することができる。
【0040】
脳血流量の増加が検出される脳の部位は、被験者の頭部に配置された各チャンネルの位置によって特定することができる。島津製作所社製、fNIRS計測装置「LABNIRS」を用いて、
図1のとおりに配置されたチャンネルを用いる場合、各チャンネルにより測定される部位と脳の各領野との関係は表1に示すとおりである。領野番号はブロードマンの脳地図による。
【0042】
測定に用いる全チャンネルのうち、前頭眼野、前頭前野背外側部、前頭極、眼窩前頭野、下前頭回三角部又は下前頭前野の領野に対応するいずれかのチャンネルにおいて脳血流量の増加を検出することにより、被験者が香りをリフレッシュすると感じたと判定することができる。これらのチャンネルの中でも、
図1に示すチャンネル1〜4、7、9、11、22、29、30、37〜39、50のいずれかで脳血流量の増加を検出した場合に、被験者が嗅いだ香りをリフレッシュすると感じたと判定することが好ましい。脳血流量の増加を検出した場合にリフレッシュすると感じたと判定するチャンネルは、2、29、37のいずれかであることがより好ましい。チャンネル2、29、又は37において検出される脳血流量の増加は、香りに対して被験者がどの程度リフレッシュすると感じたかとより相関しているため、より精度の高い判定を行うことができる。
【0043】
一方、測定に用いる全チャンネルのうち、上側頭回又は中側頭回の領野に対応するいずれかのチャンネルにおいて脳血流量の増加を検出することにより、被験者が香りをリラックスすると感じたと判定することができる。これらのチャンネルの中でも、
図1に示すチャンネル45、46、47、52のいずれかで脳血流量の増加を検出した場合に、被験者が嗅いだ香りをリラックスすると感じたと判定することが好ましい。脳血流量の増加を検出した場合にリラックスすると感じたと判定するチャンネルは、45であることがより好ましい。チャンネル45において検出される脳血流量の増加は、香りに対して被験者がどの程度リラックスすると感じたかとより相関しているため、より精度の高い判定を行うことができる。
【0044】
本実施形態に係る香りの覚醒感評価方法では、脳血流量の増加が検出された脳の部位における脳血流の増加量の程度によって、覚醒感の度合いを判定することもできる。すなわち、リフレッシュすると感じたときに脳血流量が増加するとされるチャンネルにおいて、その増加量が大きいほど、より強くリフレッシュすると感じたと判定することができる。同様に、リラックスすると感じたときに脳血流量が増加するとされるチャンネルにおいて、その増加量が大きいほど、より強くリラックスすると感じたと判定することができる。
【0045】
近赤外分光分析法によって測定された脳血流量のデータについて、被験者の頭の大きさの違いによるバラつきを差し引くための補正処理を行ってもよい。なお、本実施形態に係る香りの覚醒感評価方法では、被験者の香りに対する覚醒感と特定の脳の部位における脳血流増加量とが十分な相関関係を示すため、上記補正を行わなくても十分に信頼性のある判定を行うことが可能である。
【実施例】
【0046】
以下の実験により、香りの覚醒感と脳血流量の相関関係を確認した。
【0047】
近赤外分光分析法による計測には、fNIRS計測装置LABNIRS(島津製作所社製)を用いた。
図1に示すとおりにチャンネルの配置及び番号付けを行った。チャンネルを一定の位置に配置するため、国際10−20法規格に基づいて頭部を計測し、
図1に示すチャンネル38とチャンネル39の中央を被験者頭部のFpzとし、FpzからCzに向かう正中線上にチャンネル30、チャンネル13が位置するようにチャンネルを配置した。各チャンネル間に設置するプローブを横一列に3cm間隔で配置し、上下に隣り合う列を3cm間隔で配置した。上下に隣り合う列はプローブが1.5cmずつ横方向にずれるように配置した。各チャンネル番号が属する脳の領野名は表1のとおりである。
【0048】
(香り)
香りの発生源として、13種類の異なるビールテイスト飲料を用いた。各種飲料の入った容器をチューブに接続し、飲料から自然に発せられる香りをチューブを介して嗅げる状態とした。チューブには、別途、香りを含まない通常の空気を流せる状態とし、香りを含む空気及び含まない空気とを任意で切り替えられるよう準備した。
【0049】
各試料につき3−7名の成人の男女を被験者とし、全試料で延べ59回の試行を実施した。レスト期間を10秒間、タスク期間を10秒間、ポストタスク期間を30秒間とし、タスク期間に被験者に試料となる香りを流した。レスト期間中及びポストタスク期間中には香りを含まない空気を流した。
【0050】
(香りの評価方法:アンケート)
被験者は、1つの香りを嗅ぐごとに、香りをリフレッシュすると感じる度合いを0〜+5の計6段階によって評価した。この実験例では絶対値が大きいほどよりリフレッシュすることを意味し、逆に、絶対値が小さいほどよりリラックスすることを意味する。
【0051】
(算出方法)
近赤外分光分析法により、レスト期間及びタスク期間及びポストタスク期間中の被験者の脳血流量をチャンネルごとに経時的に記録した。レスト期間10秒間の脳血流量の平均値を算出した。また、分析期間を、香りの呈示後0−5秒、5−10秒、10−15秒及び5−15秒の4区間とし、各チャンネルにおける脳血流量の変化量の平均値を算出した。分析期間の各区間の脳血流量の平均値からレスト期間の脳血流量の平均値を引いた値を求め、各区間の脳血流量の増加量とした。この増加量と、アンケートによる覚醒感評価との相関性をPearsonの相関分析により調べた。
【0052】
検定の結果、覚醒感アンケート結果と脳血流量増加量との相関が最もよく表れたのは分析期間のうち10−15秒の区間であった。
図2に、分析期間の10−15秒の区間において、覚醒感のアンケート結果と脳血流量の増加量との間に相関関係が現れたチャンネルを示す。
図2(a)では、覚醒感アンケート結果と脳血流量の増加との間に正の相関が見られたチャンネルが強調されている。正の相関とは、よりリフレッシュする程、より脳血流量が増加することを意味する。相関分析の結果、正の相関としてp値が0.05未満であったのはチャンネル2、29及び37であり、p値が0.05超0.1未満であったのはチャンネル1、4、11、38、39及び50であり、p値が0.1超0.2未満であったのはチャンネル3、7、9、22及び30であった。
【0053】
図2(b)では、覚醒感アンケート結果と脳血流量の増加との間に負の相関が見られたチャンネルが強調されている。負の相関とは、よりリラックスする程、より脳血流量が増加することを意味する。負の相関としてp値が0.1超0.2未満であったのはチャンネル45であった。
【0054】
分析期間のうち他の区間についても覚醒感のアンケート結果と脳血流量増加量との相関関係を分析したところ、正の相関が見られたチャンネルは、0−10秒、5−10秒、5−15秒の区間のいずれにおいても、10−15秒の区間で正の相関が見られたチャンネルと重複していた。負の相関が見られたチャンネルとしては、0−10秒の区間では、p値が0.05未満であったのはチャンネル45、46及び47であった。5−10秒の区間では、p値が0.05未満であったのはチャンネル45であり、p値が0.05超0.1未満であったのはチャンネル47であった。5−15秒の区間では、p値が0.05未満であったのはチャンネル52であり、p値が0.05超0.1未満であったのはチャンネル45であり、p値が0.1超0.2未満であったのはチャンネル46及び47であった。
【0055】
以上の結果から、ある香りを嗅いだ時の被験者の脳血流が、チャンネル1〜4、7、9、11、22、29、30、37〜39、50のいずれか1つ以上で増加することが検出されたとき、その被験者は当該香りをリフレッシュすると感じた可能性が高い。さらに、チャンネル2、29、37のいずれか1つ以上で脳血流が増加することが検出されたとき、リフレッシュすると感じた可能性がより高い。したがって、これらのチャンネルで脳血流の増加が検出されたとき、その被験者が当該香りをリフレッシュすると感じたと判定することができる。また、これらのチャンネルでの脳血流量増加量が大きい程、被験者が当該香りをより強くリフレッシュすると感じたと判定することができる。
【0056】
一方、ある香りを嗅いだ時の被験者の脳血流が、チャンネル45、46、47、52のいずれか1つ以上で増加することが検出されたとき、被験者が当該香りをリラックスすると感じた可能性が高く、チャンネル45で脳血流が増加することが検出されたとき、リラックスすると感じた可能性が特に高い。したがって、これらのチャンネルにおいて脳血流量の増加が検出されたとき、被験者は当該香りをリラックスすると感じたと判定することができる。