【解決手段】基材上に形成される金属薄膜の下塗り用のベースコート塗料組成物において、酸価が1mgKOH/g以上であるアルキッド樹脂と、活性エネルギー線硬化性樹脂と、ポリアミドアミンと、水素引き抜き型光重合開始剤とを含み、前記アルキッド樹脂と前記活性エネルギー線硬化性樹脂との質量比(アルキッド樹脂/活性エネルギー線硬化性樹脂)が20/80〜80/20であり、前記ポリアミドアミンの含有量が、前記アルキッド樹脂および前記活性エネルギー線硬化性樹脂の含有量の合計100質量部に対して、0.1質量部以上である、ベースコート塗料組成物。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
なお、本発明において、「(メタ)アクリロイル」とは、メタクリロイルとアクリロイルの両方を示し、「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレートとアクリレートの両方を示すものとする。
また、以下の明細書において、「光輝性複合塗膜」とは、基材上に本発明のベースコート塗料組成物を塗布して形成されたベースコート層と、該ベースコート層上に形成された金属薄膜とを少なくとも備えるものである。金属薄膜上には、保護用のトップコート層が形成されていてもよい。
【0011】
「ベースコート塗料組成物」
本発明のベースコート塗料組成物(以下、「塗料組成物」ともいう。)は、基材上に金属薄膜を形成する前に、下塗りとして塗膜(ベースコート層)を形成するために使用される、活性エネルギー線硬化型の金属薄膜用の下塗り塗料である。
本発明の塗料組成物は、アルキッド樹脂と、活性エネルギー線硬化性樹脂と、ポリアミドアミンと、水素引き抜き型光重合開始剤とを含む。
【0012】
<アルキッド樹脂>
アルキッド樹脂は、飽和多塩基酸または不飽和多塩基酸と多価アルコールとを、必要に応じて変性剤を用いて反応させることで得られる。
飽和多塩基酸としては、例えば無水フタル酸、テレフタル酸、コハク酸などが挙げられる。
不飽和多塩基酸としては、例えばマレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸などが挙げられる。
多価アルコールとしては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール等の二価アルコール;グリセリン、トリメチロールプロパン等の三価アルコールなどが挙げられる。
変性剤としては、例えば大豆油、アマニ油、ヤシ油、ステアリン酸等の油脂または油脂脂肪酸;ロジン、コハク等の天然樹脂などが挙げられる。
アルキッド樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0013】
アルキッド樹脂の酸価は、1mgKOH/g以上であり、5mgKOH/g以上が好ましい。アルキッド樹脂の酸価が1mgKOH/g以上であれば、光輝性複合塗膜の耐熱性試験によるニジの発生を抑制できる。
塗料組成物の貯蔵安定性を良好なものとする観点から、アルキッド樹脂の酸価は20mgKOH/g以下が好ましい。
なお、アルキッド樹脂の酸価とは、アルキッド樹脂1g中に含まれる酸を中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数のことであり、JIS K 2501:2003に準拠して測定される。
【0014】
酸価が1mgKOH/g以上であるアルキッド樹脂としては、市販品を用いることができ、例えばDIC株式会社製の「ベッコゾール1323−60EL」、「ベッコゾールES−5004−50」;荒川化学工業株式会社製の「アラキード8012」、「アラキード7104」などが好適である。
【0015】
<活性エネルギー線硬化性樹脂>
活性エネルギー線硬化性樹脂としては、分子内に少なくとも2個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物が好ましい。
光輝性複合塗膜に耐熱性試験を行ったときに、塗料組成物より形成される塗膜(ベースコート層)が伸びる(膨張する)と、金属薄膜やトップコート層がベースコート層の伸び(膨張)に追従できず、金属薄膜やトップコート層のワレの原因となる。(メタ)アクリロイル基が2個以上であれば、耐熱性試験を行っても伸びにくい(膨張しにくい)ベースコート層を形成できる塗料組成物がより得られやすくなる。
分子内に2個未満の(メタ)アクリロイル基を有する化合物を用いる場合は、その含有量が活性エネルギー線硬化性樹脂100質量%中、30質量%以下となるように用いるのが好ましい。
【0016】
分子内に2個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチルアシッドホスフェート、1,4ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、3−メチル−1,5ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバレートジ(メタ)アクリレート、1,3ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールジシクロペンタンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートが好ましい。
また、分子内に2個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、市販品を用いることができ、例えば新中村化学工業株式会社製の「NKエステルAPG−200」、「NKエステルA−HD−N」;三菱レイヨン株式会社製の「ダイヤビームUK−4101」、「ダイヤビームUK−6063」などが好適である。
【0017】
分子内に少なくとも3個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、例えばトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの中でも、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、およびジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが好ましい。
また、分子内に少なくとも3個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、市販品を用いることができ、例えば日本化薬株式会社製の「カヤラッドDPHA」;新中村化学工業株式会社製の「NKエステルA−TMM−T」、「NKエステルA−TMM−3L」;三菱レイヨン株式会社製の「ダイヤビームUK−4154」;日本合成化学工業株式会社製の「紫光UV−7510B」などが好適である。
【0018】
分子内に1個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロヘキシルペンタニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノール(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
なお、上述した活性エネルギー線硬化性樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
<ポリアミドアミン>
ポリアミドアミンは、分子構造中に一級アミノ基を有する高分子アミン化合物である。塗料組成物がポリアミドアミンを含むことで、光輝性複合塗膜の耐熱性試験によるニジおよびワレの発生を抑制できる。
【0020】
ポリアミドアミンは、ポリアミンとダイマー酸とを反応させることで得られる。
ポリアミンとしては、例えばエチレンジアミン、1,2−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノブタン等のアルキレンジアミン類;ジエチレントリアミン、トリエチレントリアミン等のポリアルキルポリアミン類;1,3−ジアミノメチルシクロヘキサン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン等の脂環式ポリアミン類;キシレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン等の芳香族ポリアミン類;2−メチルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−アミノプロピルイミダゾール等のイミダゾール類などが挙げられる。
ダイマー酸としては、例えばアジピン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、リノレイン酸、オレイン酸、リノール酸、コハク酸などが挙げられる。
ポリアミドアミンは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
ポリアミドアミンの活性水素当量は60〜160g/eqが好ましく、70〜125g/eqがより好ましい。ポリアミドアミンの活性水素当量が上記範囲内であれば、光輝性複合塗膜の耐熱性試験によるニジおよびワレの発生を抑制しやすくなる。特に、ポリアミドアミンの活性水素当量が125g/eq以下であれば、耐熱性試験によるニジの発生をより抑制しやすくなる。
なお、ポリアミドアミンの活性水素当量とは、活性水素1当量あたりの分子量のことである。
【0022】
活性水素当量が60〜160g/eqであるポリアミドアミンとしては、市販品を用いることができ、例えばDIC株式会社製の「エピクロンB−053」、「ラッカマイドTD−993」、「ラッカマイドTD−982」、「ラッカマイドEA−2020」;ハリマ化成グループ株式会社製の「ニューマイド500」、「ニューマイド522」などが好適である。
【0023】
<水素引き抜き型光重合開始剤>
光重合開始剤には、分子内開裂型光重合開始剤と、水素引き抜き型光重合開始剤とがある。
分子内開裂型光重合開始剤は、それ自身が開裂して2つのラジカルを生させる光重合開始剤である。
一方、水素引き抜き型光重合開始剤は、活性エネルギー線の照射によって励起することにより、他の物質(本発明ではポリアミドアミン)の水素を引き抜き、ラジカルを発生させる光重合開始剤である。
本発明の塗料組成物では、光重合開始剤として水素引き抜き型光重合開始剤を用いる。水素引き抜き型光重合開始剤を用いることで、光輝性複合塗膜の耐熱性試験によるニジの発生を抑制できる。
【0024】
水素引き抜き型光重合開始剤としては、ベンゾフェノン、4−メチルベンゾフェノン、2,4−ジメトキシベンゾフェノン、2,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン類;2,4−ジエチルチオキサントン、エチルチオキサントン、メチルチオキサントン、クロロチオキサントン等のチオキサントン類;2−エチルアントラキノン、2−イソプロピルアントラキノン等のアントラキノン類などが挙げられる。
水素引き抜き型光重合開始剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
<任意成分>
塗料組成物は、必要に応じて各種溶剤を含有してもよい。
溶剤としては、例えばトルエン、キシレン、ソルベントナフサ、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の炭化水素系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸エチレングリコールモノメチルエーテル等のエステル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン等のケトン系溶剤;エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、1−ブチルアルコール、2−ブチルアルコール、2−メチル−1−プロパノール、2−メチル−2−プロパノール等のアルコール系溶剤などが挙げられる。
溶剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
また、塗料組成物は、上述したアルキッド樹脂および活性エネルギー線硬化性樹脂以外の樹脂(他の樹脂)を含んでいてもよい。他の樹脂を含むことで、ベースコート層の基材や金属薄膜に対する付着性が向上したり、塗料組成物に含まれる各成分との相溶性が良好となったりする傾向にある。
他の樹脂としては、例えばポリエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂などが挙げられる。
ポリエステル樹脂としては、例えば飽和ポリエステル、不飽和ポリエステルなどが挙げられる。また、ポリエステル樹脂に(メタ)アクリル変性やエポキシ変性、ウレタン変性、無水マレイン酸変性、ロジン変性、脂肪酸等の変性品も挙げられる。
(メタ)アクリル樹脂としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを共重合したものが例示でき、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸などが挙げられる。また、これらのアクリルモノマーと共重合可能なモノマーを共重合させてもよい。共重合可能なモノマーとしては、マレイン酸、フタル酸、イタコン酸、酢酸ビニル、スチレンなどが挙げられる。
ポリウレタン樹脂としては、ポリオールとポリイソシアネート化合物とを反応させたものが例示できる。ポリオールとしては、例えばポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、多価アルコールなどが挙げられる。ポリイソシアネート化合物としては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネートの3量体、水添キシリレンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0027】
また、塗料組成物は、レベリング性向上のための表面調整剤の他、酸化防止剤、ラジカル補足剤、可塑剤、顔料沈降防止剤など、通常の塗料に用いられる添加剤や、艶消し剤、染料、顔料を適量含んでいてもよい。
【0028】
<組成>
アルキッド樹脂と活性エネルギー線硬化性樹脂との質量比(アルキッド樹脂/活性エネルギー線硬化性樹脂)は20/80〜80/20であり、30/70〜70/30が好ましく、40/60〜60/40がより好ましい。アルキッド樹脂の割合が少なくなると、基材に対する付着性が低下する傾向にある。また、光輝性複合塗膜に耐熱性試験を行うとニジが発生したり、基材に対する付着性が低下したりする。一方、アルキッド樹脂の割合が多くなると、耐熱性試験後の金属薄膜やトップコート層にワレが発生する傾向にある。
【0029】
ポリアミドアミンの含有量は、アルキッド樹脂および活性エネルギー線硬化性樹脂の含有量の合計100質量部に対して、0.1質量部以上であり、0.3質量部以上が好ましく、0.4質量部以上がより好ましい。ポリアミドアミンの含有量が0.1質量部以上であれば、光輝性複合塗膜の耐熱性試験によるニジおよびワレの発生を抑制できる。
ポリアミドアミンの含有量が多くなるほど、特にニジの発生を抑制しやすくなる傾向にあるが、塗料組成物の貯蔵安定性が低下する傾向にもある。よって、塗料組成物の貯蔵安定性を良好なものとする観点から、ポリアミドアミンの含有量は、アルキッド樹脂および活性エネルギー線硬化性樹脂の含有量の合計100質量部に対して、1.0質量部以下が好ましく、0.8質量部以下がより好ましく、0.6質量部以下が特に好ましい。
【0030】
水素引き抜き型光重合開始剤の含有量は、アルキッド樹脂および活性エネルギー線硬化性樹脂の含有量の合計100質量部に対して、0.3〜5.0質量部が好ましく、0.5〜1.5質量部がより好ましい。水素引き抜き型光重合開始剤の含有量が0.3質量部以上であれば、ベースコート層の基材に対する付着性および耐熱性がより向上する。一方、水素引き抜き型光重合開始剤の含有量が5.0質量部以下であれば、光輝性複合塗膜の耐熱性試験によるニジの発生をより抑制できる。
【0031】
他の樹脂の含有量は、アルキッド樹脂および活性エネルギー線硬化性樹脂の含有量の合計100質量部に対して、50質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましい。
【0032】
<塗料組成物の製造方法>
塗料組成物は、上述したアルキッド樹脂と、活性エネルギー線硬化性樹脂と、ポリアミドアミンと、水素引き抜き型光重合開始剤と、必要に応じて溶剤、他の樹脂、添加剤等の任意成分とを、所定の割合にて混合することにより調製できる。
【0033】
<作用効果>
以上説明した本発明の塗料組成物は、特定の質量比のアルキッド樹脂および活性エネルギー線硬化性樹脂と、特定量のポリアミドアミンと、水素引き抜き型光重合開始剤とを含む。本発明の塗料組成物より形成される塗膜(ベースコート層)は耐熱性に優れるため、光輝性複合塗膜に耐熱性試験を行っても伸びにくい(膨張しにくい)。
上述したように、ベースコート層が伸びる(膨張する)と、金属薄膜やトップコート層がベースコート層の変化に追従できず、金属薄膜やトップコート層のワレの原因となる。また、膨張したベースコート層が冷やされて収縮するときに、ベースコート層の表面に微細なシワが発生し、このシワによって光が干渉することで、ニジと呼ばれる外観不良を引き起こす。
【0034】
しかしながら、本発明の塗料組成物であれば、耐熱性試験を行っても伸びにくいベースコート層を形成できるので、金属薄膜やトップコート層が割れたり、ニジが発生したりしにくい。本発明の塗料組成物が耐熱性に優れるベースコート層を形成できる理由は以下のように考えられる。
上述したように、水素引き抜き型光重合開始剤は、活性エネルギー線の照射によって励起することにより、ポリアミドアミンの水素を引き抜き、ラジカルを発生させる。水素が引き抜かれラジカルが発生したポリアミドアミンが重合反応の開始点となり、水素引き抜き型光重合開始剤自体は二量体化するか、失活して重合反応の開始点にはなりにくいと考えられる。重合反応の開始点となるポリアミドアミンは高分子アミン化合物であるため、重合反応が開始される前からすでに分子量が大きい。よって、重合反応により塗膜(ベースコート層)が高分子化しやすく、その結果、耐熱性が向上するものと考えらえる。
【0035】
なお、ポリアミドアミンの代わりに、例えばメラミンおよびその誘導体や、3級アミン等の他のアミン化合物を用いた場合でも、水素引き抜き型光重合開始剤により他のアミン化合物から水素を引き抜いてラジカルを発生させることはできる。しかし、他のアミン化合物はポリアミドアミンに比べて低分子量であるため、塗膜が高分子化しにくく、耐熱性が向上しにくいものと考えられる。
また、水素引き抜き型光重合開始剤の代わりに、分子内開裂型光重合開始剤を用いた場合でも、塗膜を形成することは可能である。しかし、分子内開裂型光重合開始剤は、それ自身が開裂して2つのラジカルを生させるため、塗膜が高分子化しにくく、耐熱性が向上しにくいものと考えられる。
【0036】
よって、本発明の塗料組成物であれば、耐熱性試験を行ってもニジおよびワレが発生しにくい光輝性複合塗膜が得られる。
本発明の塗料組成物は、例えば自動車の反射鏡等の自動車部品など、耐熱性と金属調の意匠が要求される用途に好適に用いられる。
【0037】
「光輝性複合塗膜」
本発明の光輝性複合塗膜は、基材上に本発明の塗料組成物を塗布して形成されたベースコート層と、該ベースコート層上に形成された金属薄膜とを備える。また、金属薄膜上にはトップコート層が形成されていてもよい。
【0038】
光輝性複合塗膜は、本発明の塗料組成物を用いて基材上にベースコート層を形成し、ついでベースコート層の上に金属薄膜を形成し、さらに必要に応じて金属薄膜上にトップコート層を形成することで得られる。
【0039】
基材としては、プラスチック基材が挙げられる。
基材の材料としては、例えばBMC(バルクモールディングコンパウンド)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PBT/PET(ポリブチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートのアロイ樹脂)等の耐熱素材が使用できる。
【0040】
ベースコート層を形成する場合には、まず、例えばスプレー塗装法、刷毛塗り法、ローラ塗装法、カーテンコート法、フローコート法、浸漬塗り法等の塗布方法により、本発明の塗料組成物を基材上に塗布する。この際、硬化後のベースコート層の厚さが好適には10〜30μmとなるように塗布する。
ついで、熱風乾燥炉等で、乾燥温度40〜100℃程度、乾燥時間5〜20分程度の条件にて加熱乾燥し、溶剤を除去するとともに、熱硬化する。
さらにその後に、100〜3000mJ/cm
2程度(日本電池株式会社製「UVR−N1」による測定値)の活性エネルギー線をヒュージョンランプ、高圧水銀灯、メタルハライドランプ等を用いて照射して光硬化し、塗膜を形成する。活性エネルギー線としては、紫外線の他、電子線、ガンマ線等も使用できる。
【0041】
ベースコート層の上には、公知の蒸着法、スパッタリング法、湿式メッキ法などにより、金属薄膜を形成する。
金属薄膜の材質としては、例えばアルミニウム、鉄、ニッケル、クロム、銅、銀、亜鉛、スズ、インジウム、マグネシウム、これらの酸化物、およびこれらの合金などが挙げられる。
金属薄膜の厚さは、10〜500nmが好ましく、50〜200nmがより好ましい。
金属薄膜の厚さが10nm以上であれば、反射率の低下を抑制し、十分な光輝感が得られる。一方、金属薄膜の厚さが500nm以下であれば、外観の白化等の発生を抑制できる。
【0042】
トップコート層は、金属薄膜を被覆して腐食を防止するものであり、トップコート層用塗料を用いて形成される。
トップコート層用塗料としては、金属薄膜の光輝感を損なうことのないクリヤー塗料が好ましく、例えばアクリル系ラッカー塗料等の常温乾燥型一液塗料;アクリルメラミン硬化系クリヤー塗料、アルミキレート硬化型アクリル系塗料、アクリルウレタン硬化系塗料等の熱硬化型のトップクリヤー塗料;活性エネルギー線硬化型のトップクリヤー塗料などが挙げられる。
トップコート層を形成する場合には、まず、上述した塗布方法により、トップコート層用塗料を金属薄膜上に塗布する。この際、乾燥後または硬化後のトップコート層の厚さが好適には1〜10μmとなるように塗布する。
ついで、トップコート層用塗料が熱硬化型の塗料の場合は、100〜120℃で加熱乾燥させてトップコート層を形成し、活性エネルギー線硬化型の塗料の場合は、活性エネルギー線を照射してトップコート層を形成する。
【0043】
また、トップコート層は、ケイ素有機系化合物ガスをプラズマ化することでも形成できる。プラズマ化の方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、本発明の塗料組成物よりなるベースコート層および金属薄膜が順次形成された基材をプラズマ重合装置に備え、減圧下、ヘキサメチレンジシロキサンガスと酸素ガスを通気しながら放電させてプラズマを発生させることで、金属薄膜上にトップコート層が形成される。放電の際の圧力や電力等は特に制限されないが、トップコート層の厚さが10〜300μmになるように、圧力や電力等を調整するのが好ましい。
【0044】
以上説明した本発明の光輝性複合塗膜は、本発明の塗料組成物より形成されるベースコート層を備えているので、耐熱性試験を行ってもニジおよびワレが発生しにくい。
【0045】
本発明の光輝性複合塗膜の用途としては特に限定されないが、例えば耐熱素材上に光輝性複合塗膜が形成された光輝性部品であれば、ヘッドランプ、タールランプ、サイドランプ等の自動車反射鏡などに好適に用いることができる。特に比較的大光量が必要なヘッドランプ用として好適である。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
「実施例1」
<塗料組成物および試験片の製造>
表1に示す固形分比率(質量比)でアルキッド樹脂と、活性エネルギー線硬化性樹脂と、ポリアミドアミンと、水素引き抜き型光重合開始剤と、溶剤とを混合して、液状の塗料組成物を調製した。
基材として5.0cm×10.0cmのBMC板(昭和電工株式会社製、「リゴラックBMC」)上に、硬化後の膜厚が20μmになるように塗料組成物をスプレーガンでスプレー塗装し、80℃で10分間乾燥して溶剤を除去した。その後、高圧水銀灯により300mJ/cm
2(日本電池株式会社製「UVR−N1」による測定値。)の紫外線を2〜3分照射して、基材上にベースコート層を形成した。
ついで、蒸着装置(株式会社アルバック製、「EX−200」)に、ベースコート層が形成された基材をセットし、真空度が1.3×10
−2Paになるまで減圧した後、アルミニウムを700℃に加熱することで、ベースコート層上にアルミニウムを真空蒸着させ、金属薄膜(アルミニウム蒸着膜)を形成した。該アルミニウム蒸着膜の厚さは300nmであった。
【0048】
別途、ユピカコート3002A(日本ユピカ株式会社製)を20質量部と、トルエンを35質量部と、ソルベッソ#100を40質量部と、n−ブタノールを5質量部とを混合してクリヤー塗料を調製した。
金属薄膜の表面に、乾燥後の膜厚が7μmになるように得られたクリヤー塗料をスプレーガンでエアースプレー塗装し、120℃×10分の条件で焼き付けて、金属薄膜上にトップコート層を形成し、基材上にベースコート層、金属薄膜、およびトップコート層からなる光輝性複合塗膜が形成された試験片を得た。
このようにして得られた試験片について以下に示す条件にて、初期付着性を評価し、耐熱性試験を行った。また、塗料組成物について以下に示す条件にて、貯蔵安定性を評価した。これらの結果を表1に示す。
【0049】
<初期付着性の評価>
試験片のトップコート層上に、1mm幅で10×10の碁盤目状にカッターナイフで切れ目を入れ、碁盤目状のマス部分にテープを貼着した後、急速に剥がす操作を行い、以下の評価基準にて評価した。なお、テープとしてはセロハンテープ(ニチバン株式会社製)を用いた。
○:全く剥離が認められないか、マス目の線に沿った部分またはマスの角部分にわずかな剥離が認められるが、実用上問題はない。
△:1マスのうち半分以上剥離したマスが認められず、実用上問題はない。
×:半分以上剥離したマスが1マス以上認められる。
【0050】
<耐熱性試験>
試験片を230℃の熱風循環式乾燥炉の中で96時間放置した後、取り出し、室温まで放冷し、耐熱性試験を実施した。耐熱性試験後の試験片の外観状態(ワレ、ニジの有無)について、以下に示す条件にて評価した。また、耐熱性試験後の試験片の付着性について、初期付着性と同様にして評価した。
【0051】
(外観評価)
(1)ワレ
試験片のトップコート層側の表面状態を目視にて観察し、以下の評価基準にて評価した。なお、表面のうち、縦横の各辺から2mmまでの領域を「表面の周縁部分」といい、縦横の各辺から5mmより内側の領域を「表面の中心部分」という。
○:表面にワレが認められない。
○△:表面の周縁部分に微細なワレが認められるが、実用上問題はない。
△:表面の周縁部分以外に微細なワレが認められる、および/または、中心部分以外に細いワレが1本認められるが、実用上問題はない。
×:表面の中心部分以外に細いワレが2本以上認められる、および/または、表面の中心部分に1本以上の細いワレが認められる。
【0052】
(2)ニジ
試験片のトップコート層側の表面状態を目視にて観察し、以下の評価基準にて評価した。
○:表面にニジが認められない。
○△:表面の周縁部分にごく薄いニジが認められるが、実用上問題はない。
△:表面の周縁部分以外にごく薄いニジが認められるが、中心部分にはニジは認められず、実用上問題はない。
×:表面の中心部分にごく薄いニジが認められる、および/または、表面のいずれかの部分にニジがはっきりと認められる。
【0053】
<貯蔵安定性の評価>
塗料組成物を密閉した金属缶に入れ、50℃で240時間保持し、その後、室温において放置した。室温になった後、塗料組成物の外観、粘度を目視で評価した。
○:塗料組成物の外観、粘度に変化なし。
○△:多少の変色または増粘が認められる。
△:多少の変色および増粘が認められる。
×:塗料組成物のゲル化や明らかな変色が認められる。
【0054】
「実施例2〜24」
表1〜3に示す固形分比率(質量比)で各成分を混合した以外は、実施例1と同様にして、液状の塗料組成物および試験片を製造し、各評価を実施した。結果を表1〜3に示す。
【0055】
「比較例1〜11」
表4、5に示す固形分比率(質量比)で各成分を混合した以外は、実施例1と同様にして、液状の塗料組成物および試験片を製造し、各評価を実施した。結果を表4、5に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
【表4】
【0060】
【表5】
【0061】
表1〜5中、「アルキッド樹脂/活性エネルギー線硬化性樹」は、これらの質量比であり、「ポリアミドアミンの含有量」は、アルキッド樹脂および活性エネルギー線硬化性樹脂の含有量の合計100質量部に対するポリアミドアミンの含有量(質量部)である。
また、初期付着性および耐熱性試験後の付着性の評価における「△1」、「×1」は基材とベースコート層との間で剥離した場合を意味し、「○△」は基材とベースコート層との間でわずかに剥離した場合を意味する。
【0062】
また、表1〜5中の略号は下記化合物を示す。
・ベッコゾール1323−60EL:アルキッド樹脂(DIC株式会社製、酸価6mgKOH/g)。
・ベッコゾールES−5004−50:アルキッド樹脂(DIC株式会社製、酸価9mgKOH/g)。
・アラキード8012:アルキッド樹脂(荒川化学工業株式会社製、酸価16mgKOH/g)。
・アラキード7104:アルキッド樹脂(荒川化学工業株式会社製、酸価26mgKOH/g)。
・ハリフタール601:アルキッド樹脂(ハリマ化成グループ株式会社製、酸価0mgKOH/g)。
・NKエステルAPG−200:トリプロピレングリコールジアクリレート(新中村化学工業株式会社製)。
・NKエステルA−HD−N:1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(新中村化学工業株式会社製)。
・ダイヤビームUK−4003:ポリエステルアクリレート(三菱レイヨン株式会社製)。
・ダイヤビームUK−6074:ウレタンアクリレート(三菱レイヨン株式会社製)。
・エピクロンB−053:ポリアミドアミン(DIC株式会社製、活性水素当量77g/eq)。
・ラッカマイドTD−993:ポリアミドアミン(DIC株式会社製、活性水素当量73g/eq)。
・ラッカマイドTD−982:ポリアミドアミン(DIC株式会社製、活性水素当量123g/eq)。
・ラッカマイドEA−2020:ポリアミドアミン(DIC株式会社製、活性水素当量114g/eq)。
・ニューマイド500:ポリアミドアミン(ハリマ化成グループ株式会社製、活性水素当量95g/eq)。
・ニューマイド522:ポリアミドアミン(ハリマ化成グループ株式会社製、活性水素当量160g/eq)。
・サイメル303:メチル化メラミン樹脂(日本サイテックインダストリーズ株式会社製)。
・デスモフェン800:ポリエステルポリオール(住化バイエルウレタン株式会社製)。
・LH101:ポリメチルメタクリレート(藤倉化成株式会社製)。
・KAYACURE DETX−S:2,4−ジエチルチオキサントン(日本化薬株式会社製)。
・IRGACURE651:2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン(BASFジャパン株式会社製)。
・DAROCUR1173:2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(BASFジャパン株式会社製)。
・IRGACURE819:ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド(BASFジャパン株式会社製)。
・DAA:4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン。
【0063】
表1〜3から明らかなように、各実施例の塗料組成物を用いて製造した各試験片は、耐熱性試験を行ってもニジおよびワレが発生しにくかった。また、各実施例の塗料組成物より形成された塗膜(ベースコート層)は、耐熱素材からなるプラスチック基材との付着性にも優れていた。
特に、酸価が20mgKOH/g以下であるアルキッド樹脂を用い、ポリアミドアミンの含有量が、アルキッド樹脂および活性エネルギー線硬化性樹脂の含有量の合計100質量部に対して、1.0質量部以下である実施例1〜22の塗料組成物は、貯蔵安定性にも優れていた。
【0064】
対して、表4、5から明らかなように、各比較例の塗料組成物を用いて製造した各試験片は、耐熱性試験後の外観状態が悪かった。具体的には以下の通りである。
アルキッド樹脂を含まない塗料組成物を用いた比較例1、2の場合、ニジが発生した。
酸価が0mgKOH/gであるアルキッド樹脂を含む塗料組成物を用いた比較例3の場合、ニジが発生した。
アルキッド樹脂と活性エネルギー線硬化性樹脂との質量比が90/10である塗料組成物を用いた比較例4の場合、ワレが発生した。
アルキッド樹脂と活性エネルギー線硬化性樹脂との質量比が10/90である塗料組成物を用いた比較例5の場合、ニジが発生した。また、該塗料組成物より形成された塗膜(ベースコート層)は、耐熱素材からなるプラスチック基材との付着性にも劣っていた。
ポリアミドアミンを含まない塗料組成物を用いた比較例6の場合、ワレおよびニジが発生した。
ポリアミドアミンを含まず、その代わりにメチル化メラミン樹脂またはトリエタノールアミン(3級アミン)を含む塗料組成物を用いた比較例7、8の場合、ワレおよびニジが発生した。
水素引き抜き型光重合開始剤を含まず、その代わりに分子内開裂型光重合開始剤を含む塗料組成物を用いた比較例9〜11の場合、ニジが発生した。