【解決手段】サーモクロミック、サーモトロピックまたはサーモリフレクティブなフィルタ500は、サーモトロピック材502(例えば、液晶)と、屈折性または回折性を有する特徴物503を含むサブストレート501との間での屈折率ミスマッチ量に応じて動作する。低い動作温度では、フィルタ500が透過状態となるように、屈折率ミスマッチ量が減少させられるかまたは最小化される一方、高い動作温度では、入射角が適正である光について構造体の反射率が増加するように、屈折率ミスマッチ量が増加させられる。このフィルタ500は、窓、壁、屋根および他の建材に用いられる温度応答制御型「スマート・ミラー」としての特定の用途を有するが、これに限らない。
【発明を実施するための形態】
【0024】
この明細書の解釈上、「サーモリフレクティブ(thermoreflective)」という用語は、温度に応じて変化する反射率を有するいかなる物体、デバイスまたは材料をも意味する。同様に、「サーモアブソープティブ(thermoabsorptive)」および「サーモフルオレセント(thermofluorescent)」という用語は、それぞれ、温度に応じて変化する吸収率および蛍光度(蛍光光度、蛍光強度, fluorescence)を有するいかなる物体、デバイスまたは材料をも意味する。光の透過率は、光の反射率、吸収率および再放射率に応じて変化するため、上述の物体、デバイスおよび材料はいずれも、さらに、「サーモクロミック(thermochromic)」というより一般的な用語によって適切に説明することも可能である。
【0025】
図1は、サーモクロミックなフィルタ・デバイス100についての例示的な一実施形態を示す概略的な断面図である。このフィルタ・デバイス100は、「配向依存着色剤」すなわちODC材101が、透過性を有し、かつ、サーモトロピックであり、かつ、秩序提供型(order-providing)の担体材料102内に含有されて構成されている。低温(COLD STATE)では、ODC材101の複数の分子が、それら分子の長軸に対して直角な方向に進行する入射光との相互作用をより多く行うと仮定し、その入射光のうちの大部分(半分以上、a significant percentage)が、秩序提供型担体材料102を通過するとともに、含有ODC材101の配向が前記入射光に対して高い秩序を有する(規則正しく並んでいる)という理由で、含有ODC材101も通過する。「開放(open)」状態にあるシャッタまたはに日よけブラインド(venetian blind)の場合と同様に、ODC材101は、本質的には入射光に対して平行であり、よって、実質的には入射光の吸収も反射も行わない。高温(HOT STATE)では、入射光のうち、さらに増えた部分(more of the incoming light)が、複数の含有ODC材101の配向が秩序性を有しないために、遮断され、それら含有ODC材101のうちの多くの部分(半分以上、a large fraction of)は、入射光に対してもはや平行ではないため、その入射光の吸収、反射または他の相互作用を行うことが可能である。注記すべきことは、含有ODC材101が秩序状態にあるとき、フィルタ・デバイス100は、図示されている一つの方向以外の複数の方向からフィルタ・デバイス100に入射する光を偏光することが可能であり、よって、いくつかの用途については、フィルタ・デバイス100は、「サーモトロピック・ポラライザ」であると考えることが可能であるということである。
【0026】
別のポラライザまたは他の光学素子を、サーモクロミックなフィルタ・デバイス100の本質的特性を維持しつつ、異なる光学効果を実現するために、追加することが可能である。
【0027】
サーモトロピックな担体材料102は、サーモクロミックなフィルタ・デバイス100内において使用されるために種々の形態を取り得る。少なくとも複数の波長を有する光に対して透過性を有する多くの材料は、温度の変化につれて、それら材料の複数の分子の秩序度が変化すること(すなわち、それら分子の少なくとも一つのディレクタ(配向ベクトル)が変化すること)も経験する。特に、多くのサーモトロピック液晶は、液晶状態(すなわち、スメクティック状態)においては、高い(結晶に十分に近い)秩序度を有して光学的に透過性を有する一方、アイソトロピック状態においては、低い秩序度(例えば、不規則配列状態(無秩序状態)または規則配列状態(秩序状態)と不規則配列状態(無秩序状態)との中間の半規則配列状態(半秩序状態))を有して光学的に透過性を有する。
【0028】
液晶状態(例えば、ネマティック状態またはスメクティック状態)にある液晶分子のうち表面近傍にあるもののディレクタは、配向膜(アラインメント層, alignment layers)の使用によって影響を受け得る。垂直(ホメオトロピック、homeotropic)配向(alignment)および水平(ホモジニアス、homogeneous)配向(alignment)の双方が一般的であり、ここにおいては、前記液体のディレクタが、それぞれ、表面に対して垂直であるディレクタまたは表面に対して水平であるディレクタを有する。そのディレクタは、前記表面の表面エネルギーおよび化学組成によって影響され得る。一般に、高い表面エネルギーにより、水平配向(parallel alignment)が促進され、また、低い表面エネルギーにより、垂直配向(vertical alignment)が促進される。従来においては、例えば、ポリジメチルシロキサン(polydimethylsiloxane)が、垂直配向を促進するために一般的に用いられ、また、ラビング処理されたポリイミド(rubbed polyimide)が、水平配向を促進するために用いられる。種々の配向(alignments)および種々のプレチルト角(pre-tilt angles)(複数のプレチルト角の中間値、混成、組合せ)を促進する方法、および、液晶分子が、1つ、2つまたはそれ以上の数の表面の近傍に配置されるときに有用である最終生成構造が広く知られており、それらは、従来においてよく説明されており、当業者に馴染みがある。より複雑な配向状態も存在し、それら配向状態も説明されている。例えば、液晶の「ブルー相」においては、液晶分子のディレクタが、ある直線に対して直角であるいかなる軸線周りにらせん状に回転する。
【0029】
サーモトロピックな担体材料102が液晶(LC)の材料である場合には、フィルタ・デバイス100が使用されるべき環境と一致する耐環境仕様に適合することが必要である可能性がある。例えば、サーモクロミックな窓の用途の一例においては、液晶LCが、0℃と35℃との間、より望ましくは、20℃と30℃との間のクリアリング・ポイントと、−40℃以下の凝固点と、90℃以上の沸点と、太陽光が毎日照射される状態で30年間持続するために十分な強さの耐紫外線性(おそらく、前記サーモクロミックな窓という構造に本質的に存在するガラス、ポラライザ、UV遮蔽型接着剤および他の材料によって減衰される)を要求される可能性がある。他の要件も存在する可能性があり、そのような要件は、例えば、具体的なセル・ギャップ(膜厚)を横切るように目標のリタデーションを生み出すのに十分な複屈折を行うことである。特に、必要な液晶の量を最小化することを目的として、フィルタ・デバイス100が小さいセル・ギャップ(膜厚)を有することが望ましいかもしれない。このことは、今度は、目標の光学的効果を達成することを目的として、液晶の混合物を得るための最小の複屈折性を意味する。
【0030】
一般に、液晶の混合物については、複屈折性およびクリアリング・ポイントのような性質は、複数の個々の成分の重み付き平均値(加重平均値)に近似し、一方、耐紫外線性または耐化学性のような性質は、耐性値が最小である成分の耐性値によって制限されるか、またはそれにより強く依存するかもしれない。さらに、凝固点のような性質は、複数の個々の分子の相互作用に依存し、それら性質は、前記複数の分子間の非類似性が増すにつれて、結晶化への不適合性が増す。よって、2つの液晶成分が混合されると、その結果生成される混合物は、各成分それ自体の凝固点よりかなり低い凝固点を示す。また、異なる複数の液晶成分の可溶性(solubility)は、それら成分の分子構造に大きく依存して、互いに異なるが、その可溶度は、異なる複数の成分が混合物として存在するときに向上させることが可能であり、すなわち、2つの成分の混合物が第3の成分に溶解する程度は、各成分が個々に第3の成分に溶解する程度より大きくすることが可能である。
【0031】
例えば、7CB液晶は、約30℃の凝固点と、約41℃のクリアリング・ポイントとを有するが、同じ量ずつ、約23℃の凝固点と、約34℃のクリアリング・ポイントとを有する5CB液晶に混合されると、生成される液晶混合物は、約37℃のクリアリング・ポイントと、‐70℃よりはるかに低い凝固点とを有する。しかし、この混合物は、紫外線安定性(UV-stable)が、それぞれの成分より低いし、また、2つの成分の化学感受性(化学物質に対する感受性、chemical susceptibilities)が依然として前記混合物内に存在し、その理由は、2つの分子は、特に高温時に、有機溶剤として作用することが可能であり、よって、具体的な有機サブストレート材料を攻撃することが可能であるからである。
【0032】
多様な液晶成分であって、混合されると、具体的な熱的特性、物理的特性、化学的特性および光学的特性を生じさせるものの混合物(「共晶(eutectic)」混合物を含む)が広く知られている。おそらく、最もよく知られている市販の液晶混合物はE7であり、これは、ビデオ・ディスプレイ機器に一般的に使用されるとともに、5種類の液晶成分の混合物である。その主成分(dominant component)は5CB(クリアリング・ポイントが低く、可溶性が良好であり、かつ、複屈折性が弱い)であるが、この混合物は、さらに、7CB,8OCB,5OCBおよび5CT(クリアリング・ポイントが高く、可溶性が不良であり、かつ、複屈折性が強い)をそれぞれ、相当量含有している。この混合物は、広いネマティック範囲と、高いクリアリング・ポイントと、低い凝固点とを有するように設計されており、また、上記5CBの可溶性が高いことは、上記5CTの可溶性が低いことを克服するのに役立つ。上述のような液晶混合物についての原理および設計基準は、従来において十分に説明されている。
【0033】
従来技術においては、複数の色素分子が、ときどき、エレクトロクロミック・デバイス内の液晶に含有されてきており、そのようなエレクトロクロミック・デバイスは、例えば、Alexander V. Ivashchenko著の「Dichroic Dyes for Liquid Crystal Displays」に説明されている。この種のシステムは、しばしば、ゲスト−ホスト・システムと称され、また、そのデバイスは、二色性(ダイクロイック)デバイスと称される。ゲスト成分(すなわち、ODC)とホスト成分(すなわち、エレクトロトロピック担体材料)とが適切に選択されると、色素分子は、液晶分子のディレクタに(近似的に)従う(assume)。吸収および他の関連光学的効果が、しばしば、ODC分子のディレクタに「近い」角度に沿って発生し、また、そのディレクタと最大吸収角度との間にわずかな差(例えば、5度−10度)を発生させ得る。ポジ型(プレオクロイック型)およびネガ型の二色性色素が存在し、それら色素はそれぞれ、異なる分子軸方向に沿って光を吸収する。したがって、本明細書に記載されているいくつかの実施形態は、エレクトロクロミック・ゲスト−ホスト・システムに近似するものとして理解することが可能であるが、それら実施形態は、担体材料が、エレクトロトロピックではなく、サーモトロピック(例えば、Powersらが発明者である米国特許出願第12/172,156号であって発明の名称が「Thermally switched reflective optical shutter」であるものに記載されている)であるように設計される点では、エレクトロクロミック・ゲスト−ホスト・システムとは異なる。
【0034】
配向依存着色剤(ODC)の材料は、また、多数の形態を取り得る。例えば、プレオクロイック色素を用いるシステムにおいては、一般に、二色性比率(二色性色素の構成比率)および秩序パラメータ(秩序変数、order paremeters)が、ネガ型色素を用いるシステムより大きい。いくつかの実施形態であって、温度範囲(例えば、色バランスまたは色相を遷移させる)を横切るように互いに異なる複数の透過特性を変更することを目的として、ポジ型およびネガ型の二色性色素のうちのいずれか、または両者の組合せを用いるものを構成することが可能である。それら色素およびシステムの性能は、当該システム内の色素についての紫外光安定性、可溶性および秩序パラメータによって影響される。当該システムの性能は、また、液晶ホスト変数、粘性、秩序パラメータ、いくつかの物理状態の温度範囲、および複屈折性によっても影響される。注記すべきことは、液晶および二色性色素のためのゲスト−ホスト・システムがしばしば採用する仕組みは、同じクラスに属する複数の色素がソルベーティング(溶媒和、solvating)工程においてより良好であるということ、すなわち、類似する複数の色素の混合物の全体濃度(密度)が、いずれかの成分色素が取るであろう濃度より高い可能性があるということである。複数の色素についての化学的スキャフォールディング(足場掛け、scaffolding)によっても、それら色素の可溶性を増加させ得る(例えば、液晶分子を化学的に色素分子に結合すること)。
【0035】
それら種々の性質は、目標の透過特性を有するデバイスを設計するために用いることが可能である。例えば、具体的な色素が、可溶性の点では、目標のホスト(Host)において可溶性が低いというように、目標の特性を有しないが、それ以外の点では、目標の特性(例えば、高い紫外線安定性)を有する場合には、透過させられる光の減衰率を増加させるために、当該ゲスト−ホスト・システムの厚さを増加させることが可能である。加えて理解すべきことは、エレクトロクロミック・ゲスト−ホスト・デバイスに適合しない多くの色素(例えば、布色素(cloth dyes))は、デバイス動作が電場(electric fields)に依存しないという理由で、サーモトロピック・デバイスに適合する可能性があるということである。
【0036】
ゲスト−ホスト・システムのうちのゲストの吸収率または反射率を変更するかまたは改善するために、カイラル(ドーパント)分子を当該ゲスト−ホスト・システムに添加することも可能である。例えば、コントラスト比または他の光学的特性を変化させるために、この種の分子を用いることにより、複数のツイストを有するネマティック型液晶システムを構成することが可能である。光学的に活性である分子は、ゲスト−ホスト・システムのうちのゲストとして用いることも可能であり、また、円偏光成分(円偏光状態)を有する光との間で相互作用(例えば、反射)を行うシステムを構成するために用いることも可能である。
【0037】
赤外線の吸収および反射を行うゲスト−ホスト・システムを提供するために、半導体の特性を有する材料をゲストとして用いることも可能である。
【0038】
側鎖型液晶、ポリマ・ネマティック液晶およびネマティック側鎖型ポリマならびに他の同種のホスト・システムは、エレクトロクロミック・ゲスト−ホスト・デバイスに用いられると、エレクトロクロミック応答時間が遅い(長い)(またはエレクトロクロミック応答が存在しない)が、それらは、サーモトロピック・システムに特に適合する可能性がある。液晶を有する色素コポリマを、実効可溶性(可溶度の実効値, effective solubility)を改善するために採用することが可能である。埋め込まれたコポリマ色素を有する結晶性ポリマ液晶を、ネマティック状態も他の同種の状態も用いることなく、秩序状態の遷移(変化)を行うために採用することが可能である。この種のデバイスは、エレクトロクロミック的には機能しないが、サーモトロピック担体によって駆動することが可能である。液晶を有する、ドーピングされたポリアセチレン(polyacetylene)コポリマおよび/または液晶側鎖を有するポリアセチレン(polyacetylene)コポリマも、本明細書に開示されているシステムについての別のいくつかの実施形態である。
【0039】
ホスト・システムの秩序(すなわち秩序パラメータ)は、一般に、温度と共に変化し(例えば、S. Chandrasekar著の「Liquid Crystals Second Edition」に説明されているように)、また、そのホスト・システムの秩序と共に、ゲストすなわちODCの秩序(すなわち秩序パラメータ)が変化する。一般に、液晶ホスト化学構成または混合物の複数のクラスについては、クリアリング・ポイントが上昇するにつれて、具体的なゲストの秩序パラメータも同様に増加する。また、一般に、結果物としてのシステムのクリアリング・ポイントに近づくにつれて、秩序パラメータが減少する。秩序(または秩序パラメータ)のそれらの変化は、当該システムおよび温度範囲(使用温度範囲)に応じて、連続的なものであったり、離散的なものであったり、それらの双方であることが可能である。例えば、ゲスト−ホスト・ネマティック液晶システムにおいては、ホスト材の秩序パラメータが、クリアリング・ポイントに到達するまで、温度増加によって減少させられ、クリアリング・ポイントに到達すると、液晶はアイソトロピック状態になり、さらに、ゲストおよびホストの双方についての秩序が効果的に減少させられる可能性がある。
【0040】
理解すべきことは、この種のシステムにおける秩序のディレクタを、適切な配向材料および技術を用いて決定する(求める)ことが可能であるということである。さらに、与えられたゲスト材(すなわち、含有ODC材)についての秩序度(秩序パラメータ)は、選択されたホスト材および温度の関数であり、また、巧妙な材料選択および巧妙なシステム設計により、温度と秩序度との間において多種多様な関係を達成することが可能である。温度に関連する目標特性の一つは、ゲストの秩序パラメータが、当該デバイスの設計温度範囲にわたり、温度と共に単調に変化するというものである。別の目標特性は、温度との関係にヒステリシスを与えるというものである。例えば、ネマティック型サーモトロピック液晶ゲスト−ホスト・デバイスであって、ネマティック状態からアイソトロピック状態への遷移を用いるものにおいて、美観向上のために、当該デバイスがネマティック状態からアイソトロピック状態に遷移しようとするときの「遷移」温度が、当該デバイスがアイソトロピック状態からネマティック状態に遷移しようとするときの「遷移」温度より2,3度高温であることが望ましい可能性があり、その理由は、このようにすれば、当該デバイスの透過特性が遷移温度の近傍において急激に増減する可能性が軽減されることになるからである。
【0041】
ポリアセチレン(polyacetylene)は、導電性を増加させるために化学的に変質することが可能なポリマの一つである。このポリマおよび他の高導電性ポリマは、ワイヤ・グリッド・ポラライザにおけるように、反射に関して光との相互作用を強く行うものとすることが可能であり、また、その相互作用は、分子配向に依存するものとすることが可能である。導電性ポリマは、吸収に関して光との相互作用を行うことも可能であり、このときの相互作用も、同様に、分子配向に依存する。それら2つのポリマおよび色素分子は、ポリマ安定化ねじれネマティック(PSTN)構造にも、他のポリマ/液晶システムにも、組み込むことが可能である。ドーピングされたポリアセチレンの秩序パラメータを適切に選択すると、導電性ポリアセチレンを用いるデバイスについても、他の類似のODCゲストを用いて製作されるデバイスについても、前方散乱の、後方散乱に対する比率を選択することが可能となる。ポリアセチレン分子は、その分子の可溶性を高めるためにその分子に結合された化学的スキャフォールディング(足場掛け、scaffolding)分子を有することも可能である。
【0042】
ポリマ液晶がホストである状態でポリアセチレン・ポリマをゲストとして用い、その後、当該システムを、ポリアセチレン・ポリマが所定位置に固定されるまで冷却することにより、ポリアセチレン・ポリマから反射型ポラライザを製作することが可能である。PVA-iodine(ポリビニルアルコール・ヨウ素)型ポラライザを製作するために用いられる方法に似た方法で、ポリアセチレンから反射型ポラライザを製作することも可能である。
【0043】
人間の目は、可視光のうちの複数の範囲の相対量(relative amounts of several ranges、複数の可視光領域間の相対関係)に対して反応する。よって、多種多様なスペクトル分布(分光分布)は、人間の目には、互いに同一であるように見える。メタメリズム(条件等色、metamerism)は、物体のみかけの色が、異なる複数のスペクトル・パワー分布(分光分布)に一致することであり、このようにして互いに一致する複数の色は、メタマ(条件等色対、metamers)と称される。分子(例えば、色素分子)による光の吸収、透過、蛍光および反射という現象は、その現象に対して一つのスペクトル(周波数)成分を有する。複数の成分(例えば、複数の色素の組合せ)を適切に選択すると、透過および反射について認知される色相(hue)を選択したり、透過または反射が行われる具体的なスペクトルまたはエネルギー量であって、紫外光、可視光または赤外光を含むものを選択することが可能である。
【0044】
本明細書において論述されたかまたは列挙されたものを超えて、サーモトロピック担体(「ホスト」)の材料および配向依存着色剤(「ゲスト」)の材料についての他の多数の組合せを実現することが可能であり、また、本実施形態の主旨から逸脱することなく、それら組合せを採用することが可能である。
【0045】
図2は、サーモクロミック・フィルタ・デバイス200についての別の例示的な実施形態を示す概略的な断面図である。
図1に示す先の実施形態におけると同様に、含有ODC材料201が、秩序提供型サーモトロピック担体材料202の内部にある。偏光フィルム(ポラライザ)203が、入射光と、含有ODC材料201を含む秩序提供型サーモトロピック担体材料202との間に配置されている。しかしながら、含有ODC材料201の複数の分子が、それら分子の長軸に沿って、光との相互作用をより強く行うと仮定すると、秩序が、今回は、含有ODC材料201が、光のうちの一つの偏光(偏光成分)との相互作用を優先的に行うように提供される。ポラライザ203も、光のうちの、それと同じ偏光(偏光成分)との相互作用を行う。よって、低温状態では、含有ODC材料201の秩序状態(分子規則配列状態)によって形成される「サーモトロピック・ポラライザ」とポラライザ203とが一緒に、前記光の偏光作用を効率的に行う場合には、前記光のうちの約50%が、デバイス200により透過させられる。高温状態では、含有ODC材料201の秩序状態(分子規則配列状態)によって形成される「サーモトロピック・ポラライザ」が存在しない。ポラライザ203は、依然として、光のうちの一つの偏光状態との相互作用を行うが、今回は、含有ODC材料201は、光のうちの両方の偏光(偏光成分)との相互作用を行い、それにより、透過させられる光の量が50%より低い値に減少する。
【0046】
この構成は、ゲスト・ホスト・システムのコントラスト比を増加させるために有利であるか、または、他の望ましい光学効果を生じさせるために有利であり、そのような光学効果(例えば、具体的ないくつかの波長での吸収と、具体的ないくつかの波長での反射とについての具体的ないくつかの組合せ)は、ゲスト(ODC)およびホスト(担体)の材料だけでは達成することが困難であるものである。このレイヤの実際の構成は、デバイス200の機能を実質的に変更することなく、
図2に示すものから変更することが可能である。光学的に説明すれば、複数の光子が、まずポラライザ203を次にゲスト−ホスト・システムを通過するか、またはそれらを逆向きに通過するかについては、ほとんど重要ではない。種々のポラライザを使用することが可能であり、それらポラライザには、吸収性ポラライザ、反射性ポラライザ、拡散性ポラライザおよび回折性ポラライザが含まれる。さらに、2つ以上のポラライザを採用することが可能であり、また、任意に選択可能な種々の部品、例えば、サブストレート、接着剤、シーラント、可溶性プロモータ、バンドブロック・フィルタ、ロングパス・フィルタ、ショートパス・フィルタおよび固定色素(fixed tints)のようなものを、本実施形態の主旨から逸脱することなく、いなかる組合せ状態においても、追加することが可能である。
【0047】
しかし、注記すべきことは、リターダのフィルムもしくはレイヤ、ウェーブブロックのフィルムもしくはレイヤまたは複屈折補償用のフィルムもしくはレイヤが採用(追加)される場合に、前記複数のレイヤ(201,202,203および前記フィルム)の秩序(順序)が重要であるということである。例えば、直線偏光フィルムの偏光軸は、一般的には、その直線偏光フィルムの延伸方向に対して平行である。しかし、光がまずポラライザを、次にウェーブブロック・レイヤを通過する場合には、最終的に偏光された光は、それの偏光軸が前記延伸方向に対して45度(または、他の目標角度)で発生するように、「回転」が行われることが可能である。このことは、Powersらが発明者である米国特許出願第12/545,051号に記載されているように、いくつかの場合に、45度偏光が、より単純な製法を可能にするという点で有利である。これに代えて、Powersらが発明者である米国特許出願公開2009/0015902号に例えば記載されているように、45度よりわずかに大きいかまたはわずかに小さいある角度に補償することは、当該デバイス(サーモクロミック・フィルタ・デバイス)のコントラスト比が減少するとともにブロック時の光透過量が増加するように、複数のポラライザの向きを効果的に互いにずらす(effectively misaligning)ことによって前記フィルタ(サーモクロミック・フィルタ・デバイス)の光透過の「開口を増加させる(open up)」ために有用である。
【0048】
いくつかの状況において、ポラライザを2つ備えてデバイスにおいてそれら2つのポラライザのいずれにもウェーブブロックを設置するか、または、それより多数のポラライザを備えているデバイスにおいてそれらポラライザのすべてにウェーブブロックを設置するということが望ましい可能性がある。また、別のいくつかの状況において、この種の光学フィルムを1つのポラライザのみに設置することが望ましい可能性もある。例えば、それぞれが45度ずつ「回転させられた」2つのポラライザは、90度「回転させられた」1つのポラライザと、全く回転させられていない1つのポラライザとの組合せに匹敵する可能性がある。ウェーブブロックの数を減らすことにより、同じ機能を維持しつつ、最終製品のコストを低減させることが可能である。したがって、認識することが可能であることは、ウェーブブロック、リターダ、複屈折補償フィルム、具体的な厚さを有する複屈折材、または他の関連する材料もしくはデバイスであって極性を回転させるものを、この技術を実施する種々の態様において多様な方法で組み合わせることが可能であるということである。
【0049】
リターダ/ウェーブブロックまたは補償フィルムもしくは被膜によって実現される極性回転量は、複屈折度とウェーブブロック材の厚さとの双方に比例する。よって、直接的なことは、非常に高精度な極性回転量を達成するようにフィルムまたは被膜を設計することであり、これを行うためにいくつかの方法については、本明細書でのさらなる詳述を必要とはしないが、色収差を補正する波長板(色消し波長板, achromatic waveplates)を用いれば、一般に、色収差を補正しない波長板を用いる場合より、誘起される色異常の数が少ない点に注目すべきである。この実施態様は、いくつかの形態を含み、それら形態においては、標準的なポラライザとサーモトロピック・ポラライザとが、互いに直角である複数の偏光軸を有するか、そうでなければ、互いに非平行である複数の偏光軸を有し、ネガ型のダイクロイックス(二色性光学素子、ダイクロイック光学素子, dichroics)が水平配向を有し、通常のポラライザ(サーモトロピックではないポラライザ)を有するかまたは有せず、また、いくつかの形態においては、高温時に当該デバイスの反射性、吸収性または蛍光性が増加する。
【0050】
図3は、サーモクロミック・フィルタ・デバイス300についての別の例示的な実施形態を示す概略的な断面図である。
図1および
図2に示す先のいくつかの実施形態におけると同様に、含有ODC材料301が、秩序提供型サーモトロピック担体材料302の内部にある。低温状態においては、秩序提供型サーモトロピック担体材料302および含有ODC材料301がそれらへの入射光に対して規則正しく配向されている秩序状態にあるため、入射光のうちの所定の部分が、秩序提供型サーモトロピック担体材料302および含有ODC材料301を通過する。高温状態においては、含有ODC材料301の秩序度(規則度)が減少し(しかし、それの秩序パラメータはゼロではない)、その結果、含有ODC材料301が規則正しく配向されていない状態にあるため、前記入射光のうちの多くの部分が吸収されるかまたは反射する。よって、このデバイス300については、透過させられる光の減少が、
図1に示す実施形態についての減少より緩やかな勾配を有する。注記すべきことは、含有ODC材料301は、低温状態においても高温状態においても、秩序状態にあるため、このデバイス300は、いずれの温度状態においても、図示されている一つの方向以外の複数の方向からデバイス300に入射する光を偏光することが可能であり、よって、いくつかの用途については、このデバイス300は、「サーモトロピック・ポラライザ」であると考えることが可能であるということである。
【0051】
理解すべきことは、
図3に示す構造および配向(ODC材料301の配向)は、このデバイス300が取り得るいくつかの状態のみとして存在するか、または、いくつかの中間の状態として存在する可能性があるということである。例えば、本実施形態の主旨からも、本明細書全体としての開示事項の主旨からも逸脱することなく、ODC材料301およびサーモトロピックな担体材料302の具体的な構造は、極端な温度のもとでは、
図1に示す配向(ODC材料の配向)を作るが、より控えめな温度のもとでは、
図3に示す配向(ODC材料の配向)を作ることが可能である。
【0052】
図4は、サーモクロミック・フィルタ・デバイス400についての別の例示的な実施形態を示す概略的な断面図である。
図1、
図2および
図3に示す先のいくつかの実施形態におけると同様に、含有ODC材料401が、秩序提供型サーモトロピック担体材料402の内部にある。しかし、低温状態においては、秩序提供型サーモトロピック担体材料402および含有ODC材料401がそれらへの入射光に対して規則正しく配向されている秩序状態にあるため、入射光のうちの所定の部分が、秩序提供型サーモトロピック担体材料402および含有ODC材料401を通過する。さらに、高温状態においては、含有ODC材料401が規則正しく配向されていない状態にあるため、前記入射光のうちの多くの部分が吸収されるかまたは反射する。よって、このサーモクロミック・フィルタ・デバイス400については、透過させられる光の減少が、
図1に示す実施形態についての減少より緩やかな勾配を有する。反復するに、このサーモクロミック・フィルタ・デバイス400は、低温状態においても高温状態においても、
図4に図示されている一つの方向以外の複数の方向からデバイス400に入射する光を偏光する。しかし、含有ODC材料401のディレクタ(分子配向ベクトル)(当該システムによって決まる)は、このサーモクロミック・フィルタ・デバイス400にとって望ましい相互作用であって、入射する向きが変化する光(例えば、太陽エネルギーの場合と同様であり、その太陽エネルギーは、地球の自転という原因と季節という原因との双方により、入射する向きが変化する)との間で行われるものに応じて選択される。
【0053】
図4に示す構造および配向(ODC材料401の配向)は、このデバイス400が取り得るいくつかの状態のみとして存在するか、または、いくつかの中間の状態として存在する可能性があるということである。例えば、本実施形態の主旨からも、本明細書全体としての開示事項の主旨からも逸脱することなく、ODC材料401およびサーモトロピックな担体材料402の具体的な構造は、極端な温度のもとでは、
図1に示す配向(ODC材料の配向)を作るが、より控えめな温度のもとでは、
図4に示す配向(ODC材料の配向)を作ることが可能である。
【0054】
含有ODC材料401は、サーモトロピックな(例えば、ネマティックな)液晶担体材料内において色素、ロッド、粒子またはポリマを含む複数種類の材料のうちの少なくとも一つとすることが可能である。ODCゲスト材料が適切に選択されると、そのODCゲスト材料は、前記液晶(液晶材料)がネマティック状態(または、スメクティック状態のような他の液晶状態)にあるときにその液晶の秩序およびディレクタを示し、また、前記液晶(液晶材料)がアイソトロピック状態にあるときに当該ODCゲスト材料の秩序を幾分かまたは完全に喪失することになる。このとき、その液晶(液晶材料)が液晶状態(例えば、ネマティック状態)にあり、かつ、互いに平行な2枚の透過性表面間に垂直に配列される場合には、このデバイス400をそれの表面に直角な方向に通過して進行する光は、含有ODC材料401(例えば、正の二色性色素)に対する相互作用をほとんど行わなくなる。しかし、温度上昇につれて(例えば、アイソトロピック温度より高温に)、前記サーモトロピック液晶(液晶材料)は、配向秩序を有しなくなる。よって、その液晶(液晶材料)は、より不規則的に配向されるようになるとともに、含有ODC材料401に秩序を付与しなくなり、その含有ODC材料401も不規則的に配向され、よって、このデバイス400をそれの表面に直角な方向に通過して進行する光との相互作用をより強く行うことになる。ここで再度反復するに、そのゲスト材料(ODCゲスト材料)は、液晶(液晶材料)ではなくてもよい。
【0055】
本実施形態の別の実施例においては、含有ODC材料401を、導電性ポリマとすることが可能である。このような選択は、電気という性質自体を考えて行われるのではなく、目標の光学特性(吸収および反射)であって、導電性材料にとっては一般的であるものを考えて行われる。よって、光との相互作用を、反射的なものとしたり、吸収的なものとしたり、それらの組合せとすることが可能である。不規則的に配向された状態においては、反射光が鏡面反射光ではなく、むしろ、拡散反射光であり、この拡散反射光は、多くの用途において望ましい。
【0056】
本実施形態のいくつかの実施例においては、含有ODC材料401を、サーモトロピック担体材料(例えば、サーモトロピック液晶)の内部に配置されており、サーモトロピック担体材料は、それの表面(すなわち、平行に配列されている)に対して平行な方向にディレクタを提供し、よって、このデバイス400を通過するように進行する光が、ポラライザとしての含有ODC材料401(例えば、ポジ型の二色性色素)との間で相互作用を行う。このデバイス400に属する少なくとも一つのポラライザを、そのポラライザが、含有ODC材料401によって形成されるポラライザを通過して透過させられる光との間で相互作用を行わないように配向することが可能である。しかし、温度上昇につれて(すなわち、アイソトロピック温度より高温に上昇する)、前記材料(例えば、サーモトロピック液晶(液晶材料))は、配向秩序を有しなくなって、より不規則的に配向されるようになり、よって、前記材料は、含有ODC材料401に秩序を付与しなくなる。よって、その含有ODC材料401も不規則的に配向され、その含有ODC材料401は、前記ポラライザ(存在する場合に限る)によって透過させられた偏光(偏光成分)を有する光との相互作用をより強く行うことになり、さらに、透過させられる光の量を変化させるようになる。
【0057】
他のいくつかの実施例においては、含有ODC材料401のディレクタがその含有ODC材料401の表面に対して直角である場合には、含有ODC材料401が光との相互作用(例えば、光の吸収、反射または蛍光)を、前記ディレクタが前記表面(例えば、ネガ型の二色性光学素子(negative dichroics))に対して平行である場合より強く行うように、含有ODC材料401が光との相互作用を行う。
【0058】
いくつかの例示的な実施形態が本明細書において図示されるとともに文章によって説明されるが、理解すべきことは、特許請求の範囲の欄において定義されている本発明のいくつかの実施例は、上述の具体的な実施形態に限定されないということである。例えば、前記構造に採用される前記ポラライザ(存在する場合に限る)は、直線偏光または円偏光を行うものとしたり、吸収または反射を行うものとしたり、拡散または鏡面反射(specular)を行うものとしたり、温度によって性質が変化しない固定型(fixed)またはサーモトロピックなものとすることが可能である。当該デバイスにおいて用いられる少なくとも一つのポラライザは、スペクトル選択的であるものとしたり、高い偏光効率または低い偏光効率を有するように選択することが可能である。秩序提供材料は、サーモトロピック液晶、氷/水、相変化材料(相転移材料、phase change materials)、結晶構造体、または、含有ODC材料に秩序を提供するいなかる形態の物質とすることが可能である。サーモトロピック液晶を含む複数のポラライザは、相互の関係(相対位置関係)をいなかるものとすることが可能である。当該デバイスは、温度上昇につれて透過率が増加するように構成することが可能である。ネガ型およびポジ型の複数の二色性ODCを相互に組み合わせることも可能である。
【0059】
一方、理解すべきことは、いくつかの場合には、「ゲスト」機能および「ホスト」機能が、単一の材料であって慎重に選択されるかまたは構成されたものであるように、秩序およびディレクタを、ODC材料(例えば、結晶材料)自体によって提供することが可能である。例えば、ポリアセチレンの分子鎖は、電気的「ワイヤ」として作用することが可能であり、また、ODC「ゲスト」材料にとっての優秀な候補とすることが可能である。しかし、ポリアセチレン鎖は、さらに液晶の性質も示し、よって、「ホスト」の候補としても考えることが可能であり、また、ホストの一部(一成分)として考えることが可能である。
【0060】
それに代わるかまたはそれに加えて、含有ODC「ゲスト」材料および/またはサーモトロピック担体すなわち「ホスト」材料を、サブストレート材料の一部であるポリマまたはポリマ・ネットワークに結合させたり、それらポリマまたはポリマ・ネットワークによって拘束することが可能であり、また、サブストレートの複数の表面のうちの少なくとも一つに結合させることが可能である。
【0061】
上述のいくつかの実施形態についての別の変形例においては、ホスト材料の秩序、ひいては、含有ODC材料の秩序を、電気的な(電場による)「オーバーライド(override)」によって変化させることも可能である。電気的な(電場による)「オーバーライド」は、秩序提供材料について存在することが可能であり、その存在のために、例えば、電場によるトルキング(ねじり、torquing)の使用によってネマティック液晶の秩序およびディレクタを変化させることが行われる。これに代えて、ゲスト材料を、電気的な(電場による)「オーバーライド」の対象(活動中心、locus)とすることが可能である(例えば、粒子が浮遊しているデバイスにおけるのと同様に)。これは、ODC「ゲスト」またはサーモトロピックな「ホスト」が、上述の導電性ポリマにより構成されるか、またはその導電性ポリマを含む事例において、特に効果的なものとすることが可能である。
【0062】
含有材料を、透過、反射、蛍光および吸収に関する目標の特性、スペクトル、色相または美観を実現するか、または、透過、吸収および反射についての目標エネルギーを実現することを目的にして選択することが可能である。一方、複数のサーモトロピックなデバイスであって、形式がすべて同一であるか、または、形式が互いに異なるものを、美観、光学、熱、プライバシ、視覚コントラストまたは太陽熱利得に関する複数の特性であって互いに異なるものを実現するために、互いに組み合わせることが可能である。秩序度は、温度と共に、減少するのではなくむしろ、局部的にまたは全体的に増加することが可能であり、また、当該デバイスは、温度上昇につれて光の透過量が増加するように構成することが可能である。ゲスト混合物は、単色または黒色のもの、着色されたもの、蛍光性を有するものおよび/またはメタマーの関係(metameric)にあるものとすることが可能である。
【0063】
成立可能な別の実施例においては、当該デバイスは、サーモトロピック・ポリマが分散している液晶デバイスとすることも可能である。この用途のため、ゲスト−ホスト・システムは、前記ポリマ(サーモトロピック・ポリマ)内において低い可溶性を有するように選択したり、また、複屈折性が低いホスト(例えば、液晶)は、デバイス性能および光学的透明性(optical clarity)を向上させるために、前記ポリマ(サーモトロピック・ポリマ)の屈折率にマッチさせることが可能である。
【0064】
さらに理解すべきことは、上述のいくつかの実施形態およびそれのいくつかの変形例のいずれかまたはすべては、それらの本質的な特徴も機能も維持しつつ、多数の光学部品に組み合わせることが可能である。それら光学部品としては、サブストレート、固定色素、接着剤、シーラント、波長板(waveplates)、リフレクタ、パーシャル・リフレクタ、トランス・リフレクタ、低放射性材料、紫外光(UV)を吸収もしくは反射する材料、および/または赤外光(IR)を吸収もしくは反射する材料があるが、これらに限定されない。
【0065】
さらに、高温時に高い秩序を提供する材料、または温度によって異なる複数の秩序度を提供する材料が存在し、それら材料の変化は、例えば、ネマティック状態とスメクティック状態との双方を有するサーモトロピック液晶に生じる温度変化に伴う秩序およびディレクタの変化である。よって、デバイスは、温度変化に伴う秩序度の損失のみに基づくもののではなく、むしろ、温度変化に伴うディレクタまたは秩序の変化に基づくものとすることが可能である。さらに、含有ODC材料は、実際、秩序提供型担体材料内に全体的に溶解しているかまたは浮遊しているものではなく、むしろ、秩序提供型担体材料に単に近接しているものとすることが可能であり、また、秩序提供型担体材料が提供する秩序度が種々の温度で変化する現象を誘起するものとすることが可能である。
【0066】
図5は、「ラージ・スロー(large throw)」型光学フィルタ(すなわち、透過率が遮断状態と通過状態との間で50%以上変化するフィルタ)の一実施形態を示す概略図であり、そのフィルタは、低温でポラライザが「消失する」方式のサーモリフレクティブ・フィルタである。このデバイス500は、一対のポラライザ501を有し、それらポラライザ501は、互いに実質的に直交する向きに位置決めされるとともに、サーモトロピック材502の両側に配置されている。しかし、本実施形態においては、一方または双方のポラライザ501が、回折型ポラライザであり、その回折型ポラライザは、サブ波長サイズ(サブ波長構造)を有する特徴物503に依存し、その特徴物503は、リッジ(線状隆起部)、トレンチ(溝部)、ピット(穴部)またはマウンド(隆起部)を有するが、それらに限定されず、それらは、ある材料(例えば、透過性を有するポリマ)であって、周囲の媒体とは大きく異なる屈折率を有するものによって構成される。一般的には、回折型ポラライザは、例えば、ガラス表面に対してマイクロ・エッチングを行い(MEMS Optical, Inc.によって製造されるジェノプティック(Jenoptik)社の回折ポラライザの場合と同様に)、次いで、そのパターンニングされたガラスを、それよりはるかに大きいかまたは小さい屈折率を有する材料(例えば、透過性を有するポリマ)でオーバコート(被覆)することにより、構成することが可能である。
【0067】
しかし、本実施形態においては、ナノサイズでエンボス加工された特徴物503にとってのソリッド・オーバーコート(固体のまたは中実のオーバーコート層、solid overcoat)が存在しない。むしろ、それら特徴物503は、サーモトロピック材502(例えば、クリアリング・ポイントが低い液晶、すなわち、0℃と35℃との間にある複数の液相間のしきい温度を有するもの)である。一方、サーモトロピック材502は、それの低温状態(COLD STATE、例えば、クレアリング・ポイント/しきい温度より低温のネマティック状態、スメクティック状態、結晶状態またはアモルファス状態)において、それの屈折率が、前記回折型ポラライザにおける特徴物503の屈折率と同一であるか近似する。この状態においては、特徴物503において浮き彫り加工された表面における屈折率ミスマッチが存在しないため、特徴物503がかなり見え難い(largely invisible、光学的にほとんど識別できない)とともに、前記回折型ポラライザが機能しない。したがって、このデバイス500は、入射光を偏光せず、よって、高い透過率を有する。
【0068】
しかし、サーモトロピック・デポラライザ(サーモトロピック材502)は、それの高温状態(HOT STATE、例えば、クレアリング・ポイント/しきい温度より高温の液体状態またはアイソトロピック状態)において、それの屈折率が、前記回折型ポラライザの、浮き彫り加工された特徴物503とは大きく異なる。この状態においては、その屈折率ミスマッチのため、浮き彫り加工された特徴物503が見える(visible、光学的に識別できる)とともに、前記回折型ポラライザが機能する。よって、入射した光子は、このデバイス500を、互いに交差する一対のポラライザとして「見る(扱う、see)」とともに、遮断される(例えば、反射または吸収される)。
【0069】
それら挙動の全体的な効果は、このデバイス500の理論透過率が、低温状態では、100%に近く、一方、高温状態では、0%に近い可能性があるということである。残念ながら、回折型ポラライザの性質は、強い偏光効果が、それの表面に「かすめ角(glancing angle)」(例えば、前記回折構造(回折型ポラライザ)についての臨界角および/またはブリュースター角を超えている)で照射される光に対して作用するのみであるというものである。しかし、前記回折子(回折型ポラライザ)に入射する光を、その回折子の表面に対して「より直角な」方向から「より平行な」方向に、「プリ・ディレクト(光の進行方向を事前に変更、pre-direct)」できるいくつかの光学素子が存在する。屈折性または回折性を有する表面の形状および光学指数(optical index)を、液晶および他の部品の光学指数と共に、適切に選択すると、ある状態においては、所定の範囲内にある入射角を有する入射光のうちの大部分が反射する一方、別の状態においては、所定の範囲内にある入射角を有する入射光のうちの大部分が透過させられるという態様で、前記光をプリ・ディレクトすることが可能である。よって、十分なプリ・ディレクト機能を有する屈折性光学素子があれば、
図5に示すデバイス500のいくつかの実施形態は、サーモトロピックであり、かつ、偏光を行い、かつ、切換可能なミラーとして機能することが可能である。
【0070】
図6は、
図5に示すサーモトロピックなデバイスの複数の構成要素を組み込んだサーモトロピックなデバイス600を示している。本実施形態においては、サーモトロピックな液晶(液晶材料)602が、一対の屈折性要素(第1および第2の屈折性要素)603a,603bによって囲まれている(挟まれている)。液晶602のクリアリング・ポイントは、このデバイス600の動作温度の範囲内にあるように選択し、それにより、このデバイス600がサーモトロピック的に挙動するように、すなわち、低い動作温度では、液晶602がネマティック状態にあるが、高い動作温度では、液晶602がアイソトロピック状態にあるようにすることが可能である。
【0071】
屈折性要素603a,603bの屈折率は、n
gと称される。ネマティック状態においては、液晶602が、互いに直交する方向に沿って2つの屈折率n
e,n
o(n
e:異常光に対する屈折率、n
o:常光に対する屈折率)を有する複屈折材料であって、液晶材料602を通過する光子が経験する屈折率n
effが、その光子の進行方向と偏光状態との双方に依存するものである。アイソトロピック状態においては、液晶602が、単一の屈折率n
iを有する非複屈折材料である。さらに、液晶602は、n
i=n
gかつn
o<n
g<n
eであるように選択することが可能である。よって、アイソトロピック状態においては、このデバイス600を通過する光子が、複数の層を横切りながらも一様な屈折率に遭遇し(を経験し)、また、反射も屈折も拡散もしない。その結果、このデバイス600は、一般的なサーモリフレクティブなデバイスとは逆の方法で作動し、すなわち、高温で透過性を示し、低温で反射性を示す。
【0072】
この現象が発生する理由は、低温状態では、ネマティック状態にある液晶602が、光の2つの偏光(偏光成分)に対して高低間屈折率ミスマッチ(high-low refraction mismatch)を示し、よって、臨界角より浅い角度で入射する光子を反射する。ネマティック状態においては、一つの偏光状態を有する光子であって、第1の屈折性要素603aから通過して液晶602に進入するものが、n
gから、それより小さいn
oへの屈折率の低下に遭遇する(を経験する)。したがって、この光子が、第1の屈折性要素603aと液晶602との間の界面(第1の界面)604aへの入射角が、全反射(total internal reflection)のための臨界角より小さい場合には、この光子は反射する。同様に、反対の偏光状態を有する光子であって、第1の屈折性要素603aから通過して液晶602に進入するものは、n
gから、それより大きいn
effへの屈折率の上昇を経験する。屈折率ミスマッチが、高から低に、ではなく、低から高に、であるため、全反射(total internal reflection)のための条件が、第1の界面604において発生せず、また、その光子は反射しない。しかし、その光子が、液晶602と、より低い屈折性を有する屈折性要素(第2の屈折性要素)603bとの間の第2の界面604bに当たる場合に、その光子は、n
effから、それより小さいn
gへの屈折率の低下(高低間ミスマッチ)を経験する。その入射角が、全反射(total internal reflection)のための臨界角より小さい場合には、この光子は、この低い界面(第2の界面604b)から反射する。よって、ネマティック状態においては、このデバイス600が、入射光の2つの偏光(偏光成分)、すなわち、入射光のうちの100%に近いものを反射する能力を有する。
【0073】
屈折性要素603の形状は、広範囲の入射角についての複数の光子が高低間屈折性ミスマッチに、臨界角より大きいかすめ角で到達し、それにより、反射するように、選択することが可能である。しかし、高温状態においては、アイソトロピック状態の液晶602が屈折率ミスマッチを示さず、よって、反射が発生しない。このデバイス600に接近する光子は、入射角が直角であっても、上方に位置する屈折性要素603aの通過によって屈折させられ、その後、下方に位置する屈折性要素603bによって「ストレートニング(直線化、straightened)」され、その結果、このデバイス600は透明であるように見える。屈折性要素603a,603bが十分に小さい場合には、この屈折によって生成される像の横変位が、人間の目には見えないかもしれない。
【0074】
しかし、このデバイス600の別の実施形態においては、それの複数の屈折率を、n
o=n
gかつn
o<n
i<n
eであるように選択することが可能である。この設定においては、高温(アイソトロピック)状態により、このデバイス600に屈折率ミスマッチが発生し、2つの偏光(偏光成分)を有する光子であって、適当な入射角で接近するものについて100%反射を生じさせる。低温(ネマティック)状態により、光のうちの一つの極性についてであって、別の極性についてではないが、屈折率ミスマッチが発生し、よって、非偏光光源(例えば、太陽光)については、このデバイス600は、入射光のうちの約半分を反射する。
【0075】
図7は、
図6に示すデバイス600についての別の変形例を示しており、この例においては、サーモリフレクティブな挙動が完全に反転し、それにより、広範囲の入射角についいて、このデバイス700は、高温状態においては入射光のうちの約100%を反射することができる一方、低温状態においては入射光のうちの約100%を透過させることができる。例示的な一実施形態においては、この反転は、屈折性要素703a,703bを複屈折材料から製作するとともに液晶材料702および液晶配向層を、低温状態において、液晶702の屈折率n
eおよびn
oが屈折性要素703a,703bの屈折率n
geおよびn
goに一致するように選択することにより、達成される。よって、いずれかの偏光(偏光成分)を有する光であって、低温(ネマティック)状態にあるこのデバイス700を通過するものは、屈折率ミスマッチを見ず(経験せず、do not see)、よって、このデバイス700は透過性を有する。しかし、高温状態においては、液晶702の屈折率がn
iに変化し、これは、屈折性要素703a,703bの屈折率n
geおよびn
goのいずれにも一致しない。一般的に、一軸性の棒状(カラミティック、calamitic)液晶については、n
o<n
i<n
eである。よって、光のうちの一つの偏光(偏光成分)は、高低間屈折率ミスマッチを経験し、反射が上述の条件のもとで可能であり、他の偏光(偏光成分)は、屈折率ミスマッチを経験しない。よって、このデバイス700は、約50%の「スロー(落差、変化幅、レンジ、throw)」であって、低温状態でのほぼ100%の透過率から、高温状態でのほぼ50%の反射率およびほぼ50%の透過率への移行を有する。
【0076】
100%のスローを達成するために、第1のデバイスに第2のデバイスを、90度の向きで、かつ、同じ効果が、光のうちの別の偏光(偏光成分)について達成されるように、積層することが可能である。より一般的な意味においては、具体的ないくつかの偏光(偏光成分)について、具体的なレベルを有する透過、反射およびサーモトロピックな「スロー」を達成するために複数のデバイスを互いに異なる向きで積層することが有利である可能性がある。
【0077】
しかし、他のいくつかの実施形態であって、屈折性要素703を複屈折性を有するものとすることなく同じ効果を達成することが可能であるものが成立可能である。光学異方性(複屈折性、複屈折度、屈折率の異方性)が、通常、最大屈折率と最小屈折率との差として定義される。各一軸性液晶においては、1本の軸が他の軸とは異なっており、これが、n
eとして定義される。よって、ディスコテック液晶(円盤状液晶、円盤状分子、discotics)については、他より大きい値が、通常は、n
oであり、一方、カラミティック液晶(棒状液晶、棒状分子、calamitics)については、他より大きい値が、n
eである。一軸性棒状液晶(LCDビデオ・デバイスのような電気光学デバイスに用いられる液晶のうち、最も一般的である形式)についての正の光学異方性は、n
e=n
parallel>n
o=n
perpendicularを意味する。負の光学異方性は、n
o>n
eを意味する。円盤状液晶であって、前記液晶の「ディスク」の面内におけるいずれかの方向から接近する光についてはn
o=n
parallelを有する一方、前記平面に対して直角な方向に接近する光についてはn
e=n
perpendicularを有するものも存在する。円盤状液晶については、n
oおよびn
eが、円盤状液晶と棒状結晶との相違点を説明した文献においては、棒状液晶に対して逆転しており、その理由は、棒状液晶の「ディレクタ」は、液晶分子の長軸に沿っているのに対し、円盤状液晶の「ディレクタ」は、液晶分子の回転軸に沿っているからである。一方、二軸性液晶であって、3本の空間軸(一般的には、互いに直交することは必ずしも必要ではないが)の各々について互いに異なる屈折率を有するものが存在する。
【0078】
n
effは、ここでは重要なパラメータであり、その理由は、そのパラメータは、光の入射角および偏光状態と共に変化するからである。その角度が臨界角より大きい場合に、このパラメータに対する関心が最大となる。大きい角度については、垂直方向に配列された棒状液晶が、互いに大きく異なる2つの光学指数(屈折率)n
effおよびn
o(n
e〜(almost equal to)n
eff>>n
i>n
o)を有するが、同様に、水平方向(ホモジニアス)に配列された棒状液晶については、かすめ角で互いに同一である2つの光学指数(屈折率)n
effおよびn
oが非常に類似する(n
e>>n
i>n
eff〜n
o)。所定の指数が、ガラスまたは他の屈折性材料の指数(n
g)以上である場合に、そのような偏光(偏光成分)については、このデバイス700が透過性を有する(ファブリ−ペロ(Babry-Perot)の反射に起因するわずかな損失を伴って)。
【0079】
よって、温度管理を行う用途については、デバイスを、「低温」状態では、指数(屈折率)n
o,n
eのうちの一方または両方がn
g以上となり、一方、「高温」状態では、指数n
o,n
eのうちの一方または両方がn
gより小さくなるように設計することが望ましい。棒状(ロッド状)液晶については、溶解するかまたは不規則化してアイソトロピック状態になると、2つのn
eが「減少」してn
iとなるとともに、一つのn
oが「増加」してn
iとなる。よって、低温での透過および高温での反射を行うために、一つの低温状態時指数(屈折率)は、少なくとも、n
g以上であるという条件を満たすことが要求され、また、高温状態時「指数(屈折率)」は、n
i<n
gという条件を満たすことが要求される。よって、棒状液晶については、n
e>n
i>n
oとなり、低温(ネマティック)状態で光を透過させるサーモトロピック・デバイスについての指数(屈折率)範囲は、垂直に配列された棒状液晶(n
e=n
g,n
o<n
g)を必要とするが、デバイスごとに、たった50%のスローしか実現しない。これに代えて、円盤状(ディスク状)液晶については、複数の円盤状分子の、それぞれのエッジを下にした配列により、かすめ角で、n
o〜n
eff>n
i>>n
oという関係が招来され、また、積層すなわちコラム状(ロッド状)の配列により、n
o>n
i>>n
eff〜n
eという関係が招来される。よって、円盤状液晶については、固有の軸ディレクタを水平方向に配列すること(それぞれのエッジを下にした複数の円盤)が望ましい。これにより、(大きい入射角で、)S偏光およびP偏光が、低温状態においては、n
o=n
gという関係に遭遇する一方、高温状態においては、n
i<n
gという関係に遭遇することが可能となる。円盤状液晶については、n
o>n
i>>n
eという関係(n
oおよびn
eが反転することを思い出し、その理由は、定義により、n
eは、「単一」軸に関するパラメータであり、一方、n
oは、「2本の同一軸」に関するパラメータであるからである)、よって、これにより、理論的には、100%のスローが招来される。しかし、注記すべきことは、積層される形態またはコラム状の形態により、前述の他のいくつかの実施形態におけると同様に、100%の反射率に対して50%の反射率という性質を有するデバイスが招来される。
【0080】
ネマティック状態においては、棒状または円盤状の液晶を用いるデバイスが、入射角を共に変化する少なくとも一つの光学指数を有するという事実は、当該デバイスのいずれかの実施形態は、サーモトロピックなポラライザであるが、他の実施形態は、両方の偏光(偏光成分)についての反射率と透過率とが同等である場合に成立可能であるということを意味する。
【0081】
さらに、配向膜は、複数の液晶分子が、屈折性要素703a,703bの長軸に対して平行であるか直角であるかを問わず、また、屈折性要素703a,703bの間に挟まれるときの角度が何度であるかを問わず、屈折性要素703a,703bに対向するように平面状に横たわっている(lie flat against)(水平配向(ホモジニアス配向)または平面配向としても知られている)ように、構成することが可能である。配向膜は、垂直(ホメオトロピック)であり、それにより、複数の液晶分子が起立して立っているか、または、それら液晶分子が、サブストレートの面に対して0度−90度のプレチルト角を有するように出現するように、構成することも可能である。一方、液晶セルの上面および下面は、互いに異なる特性を有する複数の配向膜を有することが可能である。最も一般的な例は、ねじれネマティック・セルであり、このねじれネマティック・セルにおいては、上側配向膜および下側配向膜が、いずれも水平であるが、水平面内において、90度互いにずれるように配列されているか、または、デバイス設計の便宜上、他の角度で互いにずれるように配列されている。別の例は、いわゆる「パイ・セル(pi cell)」であり、これは、ある表面上には水平配向を有する一方、別の表面上には垂直配向または準垂直配向を有するものである。しかし、配向膜については、無数の他の形式および組合せが成立可能である。
【0082】
密接に関連する効果であってブリュースター角の効果およびファブリ・ペロの効果を、当該デバイスのサーモトロピックな切換可能ミラーとしての基本的性質を損なうことなく、前述の全反射の効果に追加するかまたはそれに代えて、当該デバイスに適合するように設計することが可能である。光学レイヤを、当該デバイスの本質的性質を損なうことなく、反射防止レイヤまたは屈折率マッチング・レイヤ(refraction matching layers)のような光学素子を改良するために追加することも可能である。さらに、当該デバイスについての多くの実施形態は、強い偏光依存効果を有するため、当該デバイスは、サーモクロミック・デバイス、サーモリフレクティブ・デバイスおよびエレクトロクロミック・デバイスを製作するために、別の光学素子の追加の有無を問わず、ポラライザとして、かつ、他のポラライザと組み合わせて取り扱うことが可能である。
【0083】
建材(例えば、スマート(高機能)窓システム、スマート(高機能)壁システムまたはスマート(高機能)屋根システム)として、いくつかの実施形態は、方向性(指向性)に関する利点も生じさせる。太陽は、暑い季節(例えば、北半球では、夏)の間、高い角度位置にあり、一方、寒い季節(例えば、北半球では、冬)の間、低い角度位置にあるため、当該デバイスの向きは、夏の太陽光は、当該デバイスへの入射角が全反射を行うほどに小さいため、遷移後に、当該デバイスによって遮断(reject)される一方、冬の太陽光は、当該デバイスへの入射角が全反射に必要な角度よりかなり大きいため、部分的にかまたは全体的に当該デバイスを通過するように、決定することが可能である。光学指数および臨界角のようなパラメータは、それらの効果を強調するかまたは抑制するように選択することが可能である。実際、当該デバイスは、それがサーモトロピックではないときでも、角度選択的トランスミッタとして認識する(扱う、see)ことが可能である。例えば、液晶層に代えてエア・ギャップが用いられる場合には、常時、大きな屈折率ミスマッチが存在することになるとともに、屈折性構造が、高い角度位置にある太陽の光が反射する一方、低い角度位置にある太陽からの光が部分的にまたは完全に透過させられるように、選択される可能性がある。
【0084】
当該デバイスの別の実施形態は、「低温」状態がセル・ギャップ(膜厚)内の、屈折率が前記屈折性構造とマッチした(refraction-matched)流体をある方法で用い、その方法は、前記セル・ギャップが「消失」するとともに当該デバイスが透過性を有するようになる方法である一方、「高温」状態が屈折率が前記屈折性構造とはマッチしない(non-refraction matched)流体、ガスまたは真空をある方法で用い、その方法は、前記セル・ギャップが高低間屈折率ミスマッチを示し、それにより、上述のように、約100%の反射率を生じさせるようになる方法である。当該デバイスに対するサーモトロピックな制御は、その状態で、流体リザーバによって達成することが可能であり、その流体リザーバのサイズは、前記流体の熱膨張係数により、しきい温度より高い状態では、前記セル・ギャップが前記流体で充填される一方、第2のしきい温度より低い状態では、前記セル・ギャップが空乏化されることを可能にするサイズであり、このことは、流体温度計(流体の熱膨張を利用した温度計、液体温度計, fluid-based thermometer)と同様である。したがって、この書類の解釈上、流体とガスの混合物または流体と真空の混合物(そのように構成された場合)は、流体分子およびガス分子がサーモトロピックな特性を本質的に示さなくても、サーモトロピック材として説明することが可能である。
【0085】
液晶構造の多数の変形例も採用することが可能であり、それら変形例は、アイソトロピック相およびネマティック相のみならず、スメクティック相、「ブルー相」、カイラルおよび/またはコレスティック液晶、強誘電性(ferroelectric)(バナナ形)液晶および他のものをも含んでいる。よって、比較的直接的なことは、液晶および配向膜を、液晶セルのうちのいずれも部分も、その液晶セル内の目標位置において、目標方向に沿って、目標屈折率を示すように選択することである。数千もの異なる液晶分子が知られており、それら分子を、単独で、または多重特異性(polyspecific)混合物内で用いることが可能であり、よって、物理的におよび化学的に存在し得るものの範囲内において、液晶および配向の、実に膨大な数の組合せが成立可能であり、それら組合せは、
図7に示す実施形態とは細部においては異なるかもしれないが、当該デバイス内において同一のまたは非常に似ている機能を果たす。他のいくつかのサーモトロピックな構造または材料であって、液晶によって構成されていないものを、同じ効果を果たすように用いることが可能であり、そのような他のいくつかのサーモトロピックな構造または材料は、サーモトロピックなクラウド・ジェル(cloud gel)、固体または液体の材料であって高い熱膨張係数を有するもの、およびサーモメカニカル(熱によって機械的性質が変化する、thermomechanical)微細構造(microstructures)を含むが、それらに限定されず、また、そのサーモメカニカル微細構造は、光学材料のサイズまたは密度を調整するかまたはファブリ−ペロのギャップのような光学構造を調整するものである。
【0086】
さらに、本明細書に記載されているいくつかの屈折性要素は、長手状であり、かつ、筒状の複数本のロッドであって三角形断面(すなわち、プリズム)を有するものであり、その理由の一部は、この構造を有するプリズム・フィルムが、手ごろな価格で市販されているからであるが、それに代えて、膨大な数の他の構造またはそれら構造の組合せ(フラクタルを含む)を使用することが可能であり、液晶の性質および配向膜の性質の選択を、屈折性構造の性質に合わせて行うか、これに代えて、屈折性構造の選択を、液晶セルの屈折性に基づいて行い、ひいては、異なる複数の入射角および異なる複数の偏光状態について観察される屈折率に基づいて行うことが可能である。さらにまた、光の「プリ・ベンド(当該デバイスへの到達前に光路を曲げること、pre-bend)」または「プリ・ステア(pre-steer)」を、一つの偏光(偏光成分)または双方の偏光(偏光成分)について行うために、別の光学構造を、それの入射角が、全反射のための臨界角に接近するかまたは臨界角から遠ざかるように追加することが可能である。
【0087】
さらに、任意に選択可能な部品を、本明細書に記載されているいくつかの実施形態のうちのいずれかまたはすべてに追加したり、本明細書に記載されていないがそこから明白に誘導可能な他の実施形態に追加することが可能である。任意に選択可能なこの種の任意に選択可能な部品は、例えば、プリズムおよび回折格子、被膜、フィルム、スペーサ、充填材、スタビライザ、ポリマ・ドーパント、ポリマ・ネットワークまたは支持構造であって、具体的な用途または具体的な製法の要求を満たすために追加されるものであるいくつかの光学デバイスであるが、これらに限定されず、また、ある部品を省略したり置換することにより、いくつかの実施形態の低級版を提供してもよい。前述の種々の層についての実際の構成(配列)は、本明細書に記載されているものとは異なるものとすることが可能であり、また、本発明の本質的な構造および機能を変更することなく、選択される材料および波長に応じて、互いに異なる複数の層(different layers)を、いくつかの単一層(single layers)、単一物体(single objects)、単一デバイス(single devices)または単一材料(single materials)として合体させることが可能である。
【0088】
上述の説明は、多くの具体的な事項および少なくとも一つの個別な実施形態についての言及を含むが、それらは、本発明の範囲を限定するものとして解釈すべきではなく、むしろ、具体的ないくつかの例示的な実施形態の説明を提供するものにすぎないと解釈すべきである。異なる材料を用い、かつ、異なる設定で本発明が実施される種々の可能性が存在し、当業者であれば、本発明の主旨からも範囲からも逸脱することなく、前述の開示されたいくつかの実施形態に対して多くの変更を加えることが可能である。
【0089】
さらに、以上、本発明の種々の実施形態を、ある程度の具体性と共に説明してきたが、方向についてのすべての言及、例えば、近位、遠位、上側、下側、内側、外側、上方向、下方向、左方向、右方向、横方向、前側、後側、上端、下端、上方に、下方に、垂直、水平、時計方向および反時計方向は、読者が本発明を理解することを助けるために、区別という目的においてのみ使用され、本発明を、特に、位置、向きまたは使用法に関して本発明を限定することはない。接続に関する言及、例えば、装着、連結、接続および接合は、広く解釈すべきであり、特記されない限り、集まった複数の要素間に介在する中間部材、および複数の要素間の相対運動を含むことが可能である。したがって、接続に関する言及は、2つの要素が直接的に接続されるとともに互いに一体的であることを必ずしも意味しない。本明細書に引用されたいくつかの具体的な数値であって、例えば、遷移温度、クリアリング・ポイント、および光の反射、透過または吸収について述べられた比率または部分(percentages)は、例示であって、何かを限定しようとするものではない。より一般的に説明するに、上述の文章による説明部に含まれているかまたは添付図面に図示されているすべての事項は、専ら例示的なものとして解釈すべきであり、何かを限定するものとして解釈すべきではない。細部または構造における変更を、後続する特許請求の範囲において定義される本発明の基本的な要素から逸脱することなく、行うことが可能である。