【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0021】
(参考例1)
ワイン中の各種成分について、肉の保水性に与える影響を調べた。具体的には、ワイン中のポリフェノールの1種であるエノシアニン(TPP)(1000ppm、3000ppm、5000ppm)、有機酸の一種であるリンゴ酸(酒石酸換算における滴定酸度で1.2g/100ml)、及びアルコール(5%、10%、15%)の各水溶液約50mlを調製し、ここに一定の大きさになるようにカットし、予め重量を測定した牛もも肉(約12g)を、肉が溶液中に完全に漬かるように浸漬した(20℃、30分)。浸漬後の肉を電子レンジで1枚ずつ加熱調理し(500W、30秒)、加熱後の重量を測定した。各肉に関して、保水率を、(加熱後の重量/加熱前の重量)×100で計算して求めた。加熱によって肉中の水分が失われると考えられるから、加熱前の重量に対する加熱後の重量の比(保水率)が高いことは、加熱によって肉中の水分が失われにくいこと(すなわち、肉の保水性が高いこと)を示す。また、一般に保水性が高い肉は、やわらかい食感となることが知られている。
【0022】
結果を
図1に示す。
図1の最左欄は、浸漬液として水を用いた結果を示す(対照)。
図1より、ポリフェノール(エノシアニン)やアルコールは、加熱調理後の肉の保水性を高める効果があまりない(対照と同等)ことがわかる。一方、有機酸であるリンゴ酸の水溶液を用いた場合には、肉の保水性は顕著に向上することがわかる。
【0023】
(参考例2)
ワイン中の各種有機酸について、肉の保水性に与える影響を調べた。具体的には、酒石酸換算における滴定酸度が1.2g/100mlとなる量の酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、酢酸、及び乳酸の各水溶液を調製し、約10gにカットした牛もも肉を用いて、参考例1と同じ方法で保水率を求めた。結果を
図2に示す。
図2の最左欄は、水を用いた際の結果を示す(対照)。最右欄は、同じ滴定酸度(酒石酸換算)となるリン酸を用いた結果を示す(比較)。
図2のグラフ中の黒塗りの棒は保水率を、白抜きの棒は各水溶液のpHを表す。この結果から、各種有機酸の中でも、乳酸が最も肉の保水性向上効果が高いこと、また、水溶液のpHと肉の保水率との間には関連がみられないことがわかる。
【0024】
(実施例1)
既存のワイン(白ワイン)に酒石酸及び乳酸を添加することにより、酒石酸の濃度を約1000ppmに調整し、また、乳酸の濃度を約1400ppm、2300ppm、3200ppmに調整したワインを作成した。このワインについて、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、酢酸の量を測定した。また、このワインを用いて参考例1と同様の方法(ただし、肉の重さは15g程度とし、1時間の浸漬とした。)で、肉の保水率を求めた。また、市販の調理用白ワイン(比較品1)についても同様に試験した。
【0025】
なお、ワイン中の各種有機酸の量は、高速液体クロマトグラフ(島津社製LC−10シリーズ)を用いて以下の方法で測定した:
使用機器:コントローラー(SCL−10A)、送液ポンプ(LC−10AD)、デガッサー(DGU−14A)、カラム槽(CTO−10AC)、オートサンプラー(SIL−10AD)、電気伝導度検出器(CDD−6A)、クロマトパック(C−R7Aplus)、カラム(Shim−pack SCR−102H(8mmI.D×300mmL)を2本直列)、ガードカラム(SCR−102H(6mmI.D×50mmL))
移動液:p−トルエンスルホン酸4.8gを1Lのメスフラスコに量り採り蒸留水にて定容し、それを使用時に5倍希釈し、0.45μmのメンブレンフィルターで濾過したものを移動液とした。また、カラムを通した後に反応させる液としてp−トルエンスルホン酸4.8gおよびEDTA150mgとBis−Tris20.9gを1Lのメスフラスコに量り採り蒸留水にて定容し、それを使用時に5倍希釈し、0.45μmのメンブレンフィルターを用いて濾過したものを用いた。
流量:1.6ml/分
検出:電気伝導度(Polarityは+に設定)
サンプル注入量:10μl
分析時間:30分
サンプル調製:各試料(ワイン)を10倍希釈したものを試験に供した。
【0026】
結果を表1に示す。表1の有機酸測定値の「合計」は、乳酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酢酸の量の合計値である。表1の結果から、乳酸の量が増加するにつれて、肉の保水率が向上することがわかる。
【0027】
【表1】
【0028】
(実施例2)
既存のワイン(白ワイン)に酒石酸及び乳酸を添加することにより、酒石酸の濃度を約1900ppmに調整し、また、乳酸の濃度を約500ppm、1400ppm、2300ppm、3200ppmに調整したワインを作成した。このワインについて、実施例1と同様の方法で、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、酢酸の量を測定した。また、このワインを用いて参考例1と同様の方法(ただし、肉の重さは15g程度とし、1時間の浸漬とした。)で、肉の保水率を求めた。結果を表2に示す。表2の結果から、乳酸の量が増加するにつれて、肉の保水率が向上することがわかる。
【0029】
【表2】
【0030】
(実施例3)
既存のワイン(白ワイン)に酒石酸及び乳酸を添加することにより、酒石酸の濃度を約3000ppmに調整し、また、乳酸の濃度を約500ppm、1400ppm、2400ppm、3400ppmに調整したワインを作成した。このワインについて、実施例1と同様の方法で、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、酢酸の量を測定した。また、このワインを用いて参考例1と同様の方法(ただし、肉の重さは15g程度とし、1時間の浸漬とした。)で、肉の保水率を求めた。結果を表3に示す。表3の結果から、乳酸の量が増加するにつれて、肉の保水率が向上することがわかる。
【0031】
【表3】
【0032】
(実施例4)
既存のワイン(赤ワイン)に乳酸及び酒石酸を添加することにより、酒石酸の濃度を約1000ppmに調整し、また、乳酸の濃度を約1400ppm、2300ppm、3200ppmに調整したワインを作成した。このワインについて、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、酢酸の量を実施例1に記載の方法で測定した。また、このワインを用いて、実施例1と同様の方法で肉(牛もも肉、厚さ約2mm、重量約2g)の保水率を求めた。また、市販の調理用赤ワイン(比較品4)についても同様に試験した。結果を表4に示す。表4の結果から、乳酸の量が増加するにつれて、肉の保水率が向上することがわかる。
【0033】
【表4】
【0034】
(実施例5)
既存のワイン(赤ワイン)に乳酸及び酒石酸を添加することにより、酒石酸の濃度を約2800ppmに調整し、また、乳酸の濃度を約500ppm、1400ppm、2200ppm、3200ppmに調整したワインを作成した。このワインについて、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、酢酸の量を実施例1に記載の方法で測定した。また、このワインを用いて、実施例1と同様の方法で肉(牛もも肉、厚さ約2mm、重量約2g)の保水率を求めた。結果を表5に示す。表5の結果から、乳酸の量が増加するにつれて、肉の保水率が向上することがわかる。
【0035】
【表5】
【0036】
(実施例6)
酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酢酸の量をそれぞれ約1000ppm、約240ppm、約800ppm、約320ppm、約210ppmに調整した白ワインに、乳酸を添加することにより、乳酸量の異なるワインを作成した。このワインを飲用した際のワインとしての味わいのバランスを、5名のパネルにより以下の基準で評価した:
5:ワインとして良いバランス
4:ワインとしてやや良いバランス
3:ワインとしての許容限界
2:ワインとしてややバランスが取れていない
1:ワインとしてバランスが取れていない。
【0037】
結果を表6に示す。官能評価において、3点以上がワインの味わいとして合格のラインである。表6の結果より、本発明の方法で得られたワインは、飲用した際にもワインとしての味わいを有することがわかる。
【0038】
【表6】
【0039】
(実施例7)
比較品1(市販の調理用白ワイン)と発明品2(白ワイン)のそれぞれを用いて、以下の手順で鶏もも肉を調理した:
各白ワイン100ml、サラダ油30ml、玉ねぎ1個をすりおろしたものをよく混ぜて調味液とした。鶏もも肉5枚分を一口大に切ったものを調味液に約24時間浸漬した。その後、ホットプレートでよく焼き、試験に供した。
【0040】
完成した料理について、「肉がやわらかい」、「食感が良い」、「肉がおいしい」と感じるかどうか、22名のパネルで以下の基準(1〜7点)で評価した:
1:そう思わない
4:どちらとも言えない
7:そう思う。
結果を
図3に示す。
図3の結果から、本発明で得られた調理用ワインは、比較のものに比べて、肉をやわらかくし、食感を良くして、肉をおいしく仕上げることがわかる。
【0041】
(実施例8)
比較品4(市販の調理用赤ワイン)と、発明品11(赤ワイン)のそれぞれを用いて、以下の手順で、牛もも肉を調理した:
各赤ワイン100mlを火にかけ、沸騰してから約1分間加熱を続け、アルコール分を飛ばした。その後、はちみつ大さじ2杯、砂糖30g、ざらめ糖40g、しょうゆ200ml、みそ小さじ1杯を加えて混ぜ、再び沸騰させ、ざらめ糖が溶けたら加熱をやめた。しばらく冷やした後、りんごのすりおろしを50ml、玉ねぎのすりおろしを50ml、にんにくのすりおろしを大さじ2杯、しょうがのすりおろしを大さじ1杯、ごま油大さじ2杯、すりごま大さじ3杯を加えてよく混ぜて調味液とした。この調味液100mlに牛もも肉を300gからませて約24時間5℃冷蔵庫で保管した。その後、ホットプレートで両面をよく焼き試験に供した。
【0042】
完成した料理について、「肉がやわらかい」、「食感が良い」、「肉がおいしい」、「まろやかである」と感じるかどうか、19名のパネルで実施例4と同様の基準(1〜7点)で評価した。結果を
図4に示す。
図4の結果から、本発明で得られた調理用ワインは、比較のものに比べて、肉をやわらかくし、食感を良くして、肉をおいしく、まろやかに仕上げることがわかる。