(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-159787(P2015-159787A)
(43)【公開日】2015年9月7日
(54)【発明の名称】コンブの原産国判別方法並びにプライマー及びプライマーを含むキット
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/68 20060101AFI20150811BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20150811BHJP
【FI】
C12Q1/68 AZNA
C12N15/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-38204(P2014-38204)
(22)【出願日】2014年2月28日
(71)【出願人】
【識別番号】000173511
【氏名又は名称】公益財団法人函館地域産業振興財団
(71)【出願人】
【識別番号】310010575
【氏名又は名称】地方独立行政法人北海道立総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100093296
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100173901
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 一輝
(72)【発明者】
【氏名】清水 健志
(72)【発明者】
【氏名】八十川 大輔
【テーマコード(参考)】
4B024
4B063
【Fターム(参考)】
4B024AA11
4B024CA01
4B024CA09
4B024CA11
4B024CA20
4B024HA11
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA18
4B063QQ01
4B063QQ04
4B063QQ09
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS16
4B063QS25
4B063QS32
4B063QX01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】流通している食用コンブの原産国が、日本産、中国産、韓国産のいずれであるかを正確かつ迅速に行うことができる方法の提供。
【解決手段】Saccharina属に含まれる海藻のNAD5遺伝子の部分配列(1166番目〜1590番目、425bp)について、SaccharinaJaponicaの塩基配列の1166番目〜1590番目(425bp)との比較解析により、99%以上の一致率からマコンブ(マコンブ変種であるホソメコンブ、リシリコンブ、オニコンブを含む)であるか否かを判別する方法。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンブの原産国を判別する際に、Saccharina属に含まれる海藻のNAD5遺伝子の部分配列(1166番目〜1590番目、425bp)について、配列番号1の塩基配列の1166番目〜1590番目(425bp)との比較解析により、99%以上の一致率からマコンブ(マコンブ変種であるホソメコンブ、リシリコンブ、オニコンブを含む)であるか否かを判別することを特徴とするコンブの原産国判別方法。
【請求項2】
Saccharina属に含まれる海藻が、マコンブ(マコンブ変種であるホソメコンブ、リシリコンブ、オニコンブ含む)、ミツイシコンブ、ナガコンブ、ガッガラコンブ、チヂミコンブ、ガゴメ、トロロコンブであることを特徴とする請求項1に記載のコンブの原産国判別方法。
【請求項3】
マコンブ(マコンブ変種であるホソメコンブ、リシリコンブ、オニコンブ含む)の各原産国に特異的な4か所の一塩基多型(SNP)を指標に判別する際に、SNPの内、配列番号1に示した塩基配列の1182番目のシトシンが、チミンに置換されたSNP、あるいは1355番目のシトシンが、チミンに置換されたSNPの少なくとも1種を有するマコンブを中国産、1294番目のグアニンがチミンに置換されたSNP、あるいは1544番目のシトシンがチミンに置換されたSNPの少なくとも1種を有するマコンブを韓国産と判別することにより、中国産と韓国産のマコンブを判別することを特徴とするコンブの原産国判別方法。
【請求項4】
請求項1及び2に記載のコンブの原産国判別方法を実施するため、Saccharina属に含まれる海藻のNAD5遺伝子部分配列(1166番目〜1590番目、425bp)について、それぞれの塩基配列の違いを検出することを特徴とするプライマー及びプライマーを含むキット。
【請求項5】
請求項3に記載のコンブの原産国判別方法を実施するため、マコンブ(マコンブ変種であるホソメコンブ、リシリコンブ、オニコンブ含む)の各原産国に特異的な4か所の一塩基多型(SNP)の内、配列番号1に示した塩基配列の1182番目のシトシンがチミンに置換されたSNP、1294番目のグアニンがチミンに置換されたSNP、1355番目のシトシンがチミンに置換されたSNP、あるいは1544番目のシトシンがチミンに置換されたSNPの内の少なくとも1箇所を検出することを特徴とするプライマー及びプライマーを含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食用コンブの原産国を高精度に判別できる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、分子生物学的解析や交雑実験を基とした褐藻類の分類に関する再構築が行なわれており、食用とされるコンブのほとんどは、新たに設けられたSaccharina属に含まれることとなった(非特許文献1)。
【0003】
さらに、これまで独立した種として扱われていたマコンブ、ホソメコンブ、リシリコンブ、オニコンブについては、それぞれが種としての分化まで至っておらず、マコンブ及びその変種とすることが妥当と報告されており(非特許文献2)、国立生物工学情報センターが運営する公共データベースのTaxonomy databaseにも反映されている。
【0004】
Saccharina属の内、食用コンブとして流通している主な種に、マコンブ(S.japonica (Areschoug) C. Lane、 C. Mayes、 Druehl et G.W. Saunders)、ホソメコンブ(S. japonica (Areschoug) C. Lane、 C. Mayes、 Druehl et G.W. Saunders var. religiosa (Miyabe) Yotsukura、 Kawashima、 H. Kawai、 T. Abe et Druehl)、リシリコンブ(S. japonica (Areschoug) C. Lane、 C. Mayes、 Druehl et G.W. Saunders var. ochotensis (Miyabe) Yotsukura、 Kawashima、 H. Kawai、T. Abe et Druehl)、オニコンブ(S. japonica (Areschoug) C. Lane、 C. Mayes、 Druehl et G.W. Saunders var. diabolica (Miyabe) Yotsukura、 Kawashima、 H. Kawai、 T. Abe et Druehl)、ミツイシコンブ(S. angustata (Kjellman) C. Lane、 C. Mayes、 Druehl et G.W. Saunders)、ナガコンブ(S. longissima (Miyabe) C. Lane、 C. Mayes、 Druehl et G.W. Saunders)、ガッガラコンブ(S. coriacea (Miyabe) C. Lane、 C. Mayes、 Druehl et G.W. Saunders)及びガゴメ(S. sculpera (Miyabe) C. Lane、 C. Mayes、 Druehl et G.W. Saunders)が挙げられる.
【0005】
流通している食用コンブは日本産の他に中国産と韓国産があり、どちらもマコンブであるが、日本産のコンブに比べ安価に取引されている。このような生産地の違いによる価格差は、他の食品原料でも多く見られ、特にブランド力の高い日本産の農水畜産物は高値で取引されている。
【0006】
しかしながら、多くの農水畜産物は外観形状から原産国を識別することは困難である。そのため、近年、ブランド力を有する産地を他地域産の農水畜産物に表示して販売する、いわゆる表示偽装が社会的な問題となっている。このような背景から食品原料の産地表示の真偽を科学的に判別できる技術の開発は、ブランドの信頼性を確保するために重要となっている。
【0007】
近年、様々な食品原料で原産国を判別するための技術が開発されており(非特許文献3〜5)、コンブについても藻体内に含まれる無機元素組成を指標とした原産国判別技術が開発されている(非特許文献6)。
また、判別技術としてよく用いられるDNA分析に関しては、コンブ類の種判別が報告されているが(特許文献1)、原産国判別技術に関する報告はこれまでに知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許公開2006−000094、清水ら、2006年
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Lane、C.E.ら、J.Phycol.、第42巻、第493−512頁、2006年
【非特許文献2】N.Yotsukuraら、J.Jpn.Bot. 、第83巻、第165−176頁、2008年
【非特許文献3】水産学シリーズ149 水産物の原料・産地判別、恒星社厚生閣社、2006年
【非特許文献4】食品鑑定技術ハンドブック、サイエンスフォーラム社、第66−135頁、2005年
【非特許文献5】新・食品分析法II、光琳社、第231−413頁、1996年
【非特許文献6】服部賢志ら、日水誌、第75巻、第77−82頁、2009年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
多くの農水畜産物は外観形状から原産国を識別することは困難である。そのため、近年、ブランド力を有する産地を他地域産の農水畜産物に表示して販売する、いわゆる表示偽装が社会的な問題となっている。このような背景から食品原料の産地表示の真偽を科学的に判別できる技術の開発は、ブランドの信頼性を確保するために重要となっている。
【0011】
流通している食用コンブは日本産の他に中国産と韓国産があり、どちらもマコンブであるが、日本産のコンブに比べ安価に取引されている。このような生産地の違いによる価格差は、他の食品原料でも多く見られ、特にブランド力の高い日本産の農水畜産物は高値で取引されている。しかしながら、日本産の食用コンブについての判別技術がなく、コンブが混乱して流通しているのが現状である。本発明は、Saccharina属に含まれる海藻のミトコンドリアDNA上にあるNADH dehydrogenase subunit 5(NAD5)遺伝子の塩基配列の多型を用いて食用コンブの原産国判別を正確かつ迅速に行う手法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
1)コンブの原産国を判別する際に、Saccharina属に含まれる海藻のNAD5遺伝子の部分配列(1166番目〜1590番目、425bp)について、配列番号1の塩基配列の1166番目〜1590番目(425bp)との比較解析により、99%以上の一致率からマコンブ(マコンブ変種であるホソメコンブ、リシリコンブ、オニコンブ含む)であるか否かを判別することを特徴とするコンブの原産国判別方法。
【0013】
2)Saccharina属に含まれる海藻が、マコンブ(マコンブ変種であるホソメコンブ、リシリコンブ、オニコンブを含む)、ミツイシコンブ、ナガコンブ、ガッガラコンブ、チヂミコンブ、ガゴメ、トロロコンブであることを特徴とする上記1)に記載のコンブの原産国判別方法。
【0014】
3)マコンブ(マコンブ変種であるホソメコンブ、リシリコンブ、オニコンブ含む)の各原産国に特異的な4か所の一塩基多型(SNP)を指標に判別する際に、SNPの内、配列番号1に示した塩基配列の1182番目のシトシンがチミンに置換されたSNP、あるいは1355番目のシトシンがチミンに置換されたSNPの少なくとも1種を有するマコンブを中国産、1294番目のグアニンがチミンに置換されたSNP、あるいは1544番目のシトシンがチミンに置換されたSNPの少なくとも1種を有するマコンブを韓国産と判別することにより、中国産と韓国産のマコンブを判別することを特徴とするコンブの原産国判別方法。
【0015】
4)上記1)及び2)に記載のコンブの原産国判別方法を実施するため、Saccharina属に含まれる海藻のNAD5遺伝子部分配列(1166番目〜1590番目、425bp)について、それぞれの塩基配列の違いを検出することを特徴とするプライマー及びプライマーを含むキット。
【0016】
5)上記3)に記載のコンブの原産国判別方法を実施するため、マコンブ(マコンブ変種であるホソメコンブ、リシリコンブ、オニコンブ含む)の各原産国に特異的な4か所の一塩基多型(SNP)の内、配列番号1に示した塩基配列の1182番目のシトシンがチミンに置換されたSNP、1294番目のグアニンがチミンに置換されたSNP、1355番目のシトシンがチミンに置換されたSNP、あるいは1544番目のシトシンがチミンに置換されたSNPの内の少なくとも1箇所を検出することを特徴とするプライマー及びプライマーを含むキット。
【発明の効果】
【0017】
本願のコンブの原産国判別方法により、ミトコンドリアDNA上に存在するNAD5遺伝子(1986bp)の部分配列(1166番目〜1590番目、425bp)を用いて食用コンブを判別することが可能となり、これによって、流通している食用コンブの日本産、中国産、韓国産の区別が容易となる著しい効果を有する。従来は、日本産の食用コンブについての判別技術がなく、コンブが混乱して流通しているのが現状であったが、本発明により、コンブの判別を正確かつ迅速に行うことができる大きな効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】PCRに用いたプライマーペアの位置と増幅DNA断片のサイズを示す図である。
【
図2】比較解析に用いたNAD5遺伝子部分配列の位置とサイズを示す図である。
【
図3】食用コンブのそれぞれのDNAを鋳型として、NAD5遺伝子部分配列をPCRで増幅し、アガロースゲル電気泳動によりDNA断片を検出した図である。
【
図4】NJ法により食用コンブのそれぞれのNAD5遺伝子部分配列(425bp)を比較解析した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
(食用コンブの原産国判別方法について)
原産国の判別に良く用いられる科学的手法として、元素分析、DNA分析、安定同位体比分析が挙げられるが、これまでに食用コンブの原産国を判別できる技術は元素分析以外には報告されていない(非特許文献6参照)。
しかしながら、非特許文献6に開示されているコンブの原産国判別技術は、マコンブ、リシリコンブ(マコンブ変種)及びミツイシコンブの元素組成データから判別関数を構築しているため、3種以外のコンブを分析対象とすることができないという問題がある。
【0020】
また、別の問題点として、判別の指標である無機元素は生育環境中から藻体内に取り込まれるため、判別精度は環境変化により影響を受けることが挙げられる。これらの問題点を解決できる原産国判別手法の開発が課題となる。
そこで本発明者らは、食用コンブの原産国判別手法の開発について研究を重ねた結果、ミトコンドリアDNA上に存在するNADH脱水素酵素サブユニット5(NAD5)遺伝子(1986bp)の塩基配列が、食用コンブのそれぞれの種に特異的であることを確認した。
【0021】
さらに、日本、中国、韓国のそれぞれの地域のマコンブに特異的な一塩基多型(SNP)が存在することを見出した。本配列の種及び原産国に対する特異性を用いることで、食用コンブの原産国を高精度に判別可能なことを確認し、本発明を完成するに至った。
【0022】
(DNA分析による食用コンブの原産国判別方法)
函館市で採取された1個体のマコンブのNAD5遺伝子を参照配列として設定し、参照配列と乾燥コンブ7種(マコンブ(マコンブ変種であるホソメコンブ、リシリコンブ、オニコンブを含む)、ミツイシコンブ、ナガコンブ、ガッガラコンブ、チヂミコンブ、ガゴメ、トロロコンブ)の1166番目から1590番目までの部分配列(425bp)について比較解析を行い、原産国を判別した。
【0023】
その結果、参照配列と99%以上の一致率を示したのはマコンブだけであり、その他の6種のコンブ(ミツイシコンブ、ナガコンブ、ガッガラコンブ、チヂミコンブ、ガゴメ、トロロコンブ)は98%以下の一致率であった。
すなわち、本塩基配列の一致率を指標とすることで、日本産と中国産と韓国産が流通しているマコンブ(変種3種を含む)と日本産だけが流通している6種のコンブ(ミツイシコンブ、ナガコンブ、ガッガラコンブ、チヂミコンブ、ガゴメ、トロロコンブ)を識別できることが分かった。
【0024】
さらに日本産と中国産と韓国産が存在するマコンブについて、NAD5遺伝子部分配列(1166番目〜1590番目、425bp)に含まれる4箇所のSNP(1182番目、1294番目、1355番目、1544番目)を指標に原産国の判別を行った。その結果、中国産マコンブの中で1182番目のシトシンがチミンに置換されたSNP、あるいは1355番目のシトシンがチミンに置換されたSNPを保有する個体の割合は96.5%であった。一方で、日本産及び韓国産のマコンブでは、2箇所の塩基に置換が見られなかった。
【0025】
また、韓国産マコンブは、1294番目のグアニンがチミンに置換されたSNP、あるいは1544番目のシトシンがチミンに置換されたSNPを保有する個体の割合が94.7%であることが分かった。一方で,日本産及び中国産のマコンブでは、2箇所の塩基に置換が見られなかった。
すなわち、これらのSNPを指標にマコンブの原産国について判別を行ったところ、日本産の全てを日本産として、中国産の96.5%を中国産として、韓国産の94.7%を韓国産として、判別可能であった。
【0026】
これらの結果から、NAD5遺伝子部分配列(1166番目〜1590番目、425bp)を用いることにより、食用コンブの原産国を高精度に判別できることが確認できた。
以下、本願発明の背景(裏付)となる実験(試験)方法及び結果について説明するが、これは通常の実施例に相当するものである。
【0027】
(実験方法)
(使用した食用コンブ試料)
乾燥コンブ試料として、Saccharina属である日本産のマコンブ、ホソメコンブ(マコンブ変種)、リシリコンブ(マコンブ変種)、オニコンブ(マコンブ変種)、ミツイシコンブ、ナガコンブ、ガッガラコンブ、チヂミコンブ、ガゴメ、トロロコンブの他、中国産マコンブ、韓国産マコンブを試料として用いた。
また、外群としてSaccharina属以外の褐藻類であるスジメ(Costaria属)を用い、NJ法による系統樹を作成した。
【0028】
(DNAの調製)
乾燥コンブ試料から10〜20mgを採取し、市販のDNA抽出キットとDNA精製キット等を用いてミトコンドリアDNAを含む全DNAを調整した。
【0029】
(PCRによるNAD5遺伝子部分配列の増幅)
次いで、食用コンブ試料からNAD5遺伝子(1986bp)中の部分配列(1090番目〜1682番目、593bp)を増幅するために設計したプライマーペア(表1)と市販のDNA合成酵素(KOD FX、東洋紡績株式会社)を使用し、調製したDNAを鋳型としたPCRを行った(
図1参照)。
【0030】
PCRの反応条件は、94℃で2分間の前加熱の後、98℃で10秒間の変性工程、59℃で30秒間のアニーリング工程及び68℃で40秒間の伸長工程の3工程を40回繰り返した。PCR後の試料を1.5%アガロースゲルで電気泳動し、DNA断片の増幅及びサイズの確認を行った。
【0032】
(NAD5遺伝子部分配列の解読及び比較解析)
PCRにより得られた増幅DNA断片について、表1に示した1090F、1682Rの2種類のプライマーを用い、ダイレクトシーケンス法によりNAD5遺伝子の1166番目から1590番目までの部分配列(425bp)の塩基を解読した(
図2参照)。
【0033】
また、塩基配列の比較解析には、系統解析ソフトウェアであるMolecular Evolutionary Genetics Analysis (MEGA) software version 4.0.8を用い、近隣接合法(NJ法)及びマルチプルアライメント法にて行った。
【0034】
(原産国判別のための参照配列の設定)
函館市で採取したマコンブについて、NAD5遺伝子(1986bp)を解読し、比較解析に用いる参照配列とした(配列表)。
【0035】
この参照配列と日本産マコンブ、中国産マコンブ、韓国産マコンブ、マコンブ変種3種(ホソメコンブ、リシリコンブ、オニコンブ)、ミツイシコンブ、ナガコンブ、ガッガラコンブ、チヂミコンブ、ガゴメ、トロロコンブの各25個体について、NAD5遺伝子部分配列(1166番目〜1590番目、425bp)を指標に、マルチプルアライメント法による比較解析を行った。さらに、日本産(347個体)、中国産(201個体)、韓国産(75個体)のマコンブ内においてマルチプルアライメント法による比較解析を行い、原産国に特異的なSNPの探索及びSNPを指標とした原産国判別を行った。
【0036】
(結果と考察)
(NAD5遺伝子部分配列の増幅)
アガロースゲル電気泳動の結果、実験に使用した全ての試料から593bpのDNAの増幅が確認された(
図3参照)。
Costaria属であるスジメにおいても増幅が可能なことから、設計したプライマーペアは、Saccharina属に限らず多くの褐藻類のNAD5遺伝子部分配列(1090番目〜1682番目)の増幅に利用できると考えられた。
【0037】
(NAD5遺伝子部分配列の比較解析)
マコンブ(変種含む)、ミツイシコンブ、ナガコンブ、ガッガラコンブ、チヂミコンブ、ガゴメ、トロロコンブのNAD5遺伝子部分配列(1166番目〜1590番目、425bp)についてNJ法による比較解析を行ったところ、それぞれの種内において、個体間に僅かな塩基の違いが見られたものの、各種間の差は明確に識別できることが確認された(
図4参照)。
【0038】
この結果は、NAD5遺伝子部分配列(1166番目〜1590番目、425bp)が種特異性を保持していることを意味している。7種の食用コンブの内、マコンブ以外の6種は全て日本が原産国であることから、マコンブであるか否かの識別が可能な本配列は、原産国の判別に利用できることが分かった。
【0039】
さらに、マコンブ変種であるホソメコンブ、リシリコンブ、オニコンブを含む日本産マコンブ(347個体)と中国産マコンブ(201個体)及び韓国産マコンブ(75個体)について、NAD5遺伝子部分配列(1166番目〜1590番目、425bp)を解読し、マコンブ内における比較解析を行った。
【0040】
その結果、中国産マコンブは、1182番目(部分配列の17番目)のシトシンがチミンに置換されたSNP、あるいは1355番目(部分配列の190番目)のシトシンがチミンに置換されたSNPを保有する個体が多く見られた。一方で、日本産及び韓国産のマコンブでは、2箇所の塩基に置換が見られなかった。
【0041】
また、韓国産マコンブは、1294番目(部分配列の129番目)のグアニンがチミンに置換されたSNP、あるいは1544番目(部分配列の379番目)のシトシンがチミンに置換されたSNPを保有する個体が多く見られたが、日本産及び中国産のマコンブでは、2箇所の塩基に置換が見られなかった。
【0042】
これら結果から、NAD5遺伝子の1182番目、1294番目、1355番目、1544番目の4箇所のSNPの有無を調べることにより、マコンブの原産国を高精度に判別できると考えられた。
【0043】
(NAD5遺伝子部分配列を用いた食用コンブの原産国判別)
函館市で採取したマコンブのNAD5遺伝子を参照配列に設定し、参照配列と日本産マコンブ、中国産マコンブ、韓国産マコンブ、マコンブ変種3種(ホソメコンブ、リシリコンブ、オニコンブ)、ミツイシコンブ、ナガコンブ、ガッガラコンブ、チヂミコンブ、ガゴメ、トロロコンブの各25個体のNAD5遺伝子部分配列(1166番目〜1590番目、425bp)についてマルチプルアライメント法による比較解析を行い、原産国を判別した。
【0044】
その結果、参照配列と99%以上の一致率を示したものは日本産、中国産、韓国産マコンブ及びマコンブ変種3種であった。一方、流通市場において日本産しか見られないミツイシコンブ、ナガコンブ、ガッガラコンブ、チヂミコンブ、ガゴメ、トロロコンブの一致率は98%以下であることが分かった。
【0045】
この結果から、NAD5遺伝子の部分塩基配列における参照配列との一致率を99%以上とすることで、マコンブ(日本産、中国産、韓国産)とその他のコンブ(日本産)を判別することが可能と判断された(表2参照)。
すなわち、表2は、NAD5遺伝子部分配列(425bp)について、マコンブの参照配列と日本産、中国産、韓国産マコンブ、マコンブ変種3種、ミツイシコンブ、ナガコンブ、ガッガラコンブ、チヂミコンブ、ガゴメ、トロロコンブのそれぞれとを比較した例である。
【0046】
さらにマコンブ(変種3種及び日本産、中国産、韓国産を含む)の種内の比較解析により見出した4箇所の原産国特異的SNPの有無を指標に原産国を判別した結果、日本産の全てを日本産、中国産の96.5%を中国産、韓国産の94.7%を韓国産として判別できることを確認した(表3参照)。
すなわち、表3は、NAD5遺伝子部分配列(425bp)中のマコンブ原産国特異的SNPと原産国判別精度を示した例を示す。
【0047】
以上については、Saccharina属の7〜10種の乾燥コンブについて、原産国を判別した例(実験結果)を示したが、DNAを含んでいる試料であれば乾燥だけに限らず生のコンブや加工されたコンブ等でも同様の原産国判別できることは、自明のことと考えられる。
【0048】
また、比較解析の方法は、ダイレクトシーケンス法などのDNAシーケンサーを用いて解読した後の塩基配列を比較する方法に限らず、PCRによる増幅産物の有無、PCR−RFLP法、PCR−SSCP法、WAVE法、Rial−time PCR法など、遺伝子多型を検出できる方法を用いることができる。
【0049】
遺伝子多型の検出には、必要に応じて、PCR(polymerase chain reaction)技術によりDNAを増幅するためのプライマーを使用することができる。参考資料として「目的別で選べるPCR実験プロトコール 失敗しないための実験操作と条件設定」(実験医学別冊)2011年1月1日発行、P.16−17「PCRの原理」を挙げる。
この資料に示すように、プライマーは、短いDNAであり、分析対象試料から抽出したDNA(鋳型DNA)と結合(アニーリング)して目的のDNA断片を複製することができれば、塩基配列や塩基数は特に限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0052】
多くの農水畜産物は外観形状から原産国を識別することは困難である。そのため、近年、ブランド力を有する産地を他地域産の農水畜産物に表示して販売する、いわゆる表示偽装が社会的な問題となっている。このような背景から食品原料の産地表示の真偽を科学的に判別できる技術の開発は、ブランドの信頼性を確保するために重要となっている。本発明は、NADH dehydrogenase subunit 5(NAD5)遺伝子の塩基配列の多型を用いて食用コンブの原産国判別を正確かつ迅速に行う手法を提供することを課題とする。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]