(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-160748(P2015-160748A)
(43)【公開日】2015年9月7日
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブの製造方法及びカーボンナノチューブの製造装置
(51)【国際特許分類】
C01B 31/02 20060101AFI20150811BHJP
【FI】
C01B31/02 101F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-34721(P2014-34721)
(22)【出願日】2014年2月25日
(71)【出願人】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100176876
【弁理士】
【氏名又は名称】各務 幸樹
(72)【発明者】
【氏名】榊原 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 克典
(72)【発明者】
【氏名】奥宮 保郎
(72)【発明者】
【氏名】谷高 幸司
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 正浩
(72)【発明者】
【氏名】井上 翼
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA11
4G146BA12
4G146BA48
4G146BC09
4G146BC31A
4G146BC41
4G146DA03
4G146DA22
4G146DA40
(57)【要約】
【課題】長尺のカーボンナノチューブアレイを損傷なく容易かつ確実に得られるカーボンナノチューブの製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、表面に触媒を担持した1又は複数の基板上に原料ガスを供給し、化学気相成長法により基板上にカーボンナノチューブを成長させるカーボンナノチューブの製造方法であって、基板上に四塩化炭素又はトリクロロエチレンを供給する工程を備えることを特徴とする。また本発明は、表面に触媒を担持した1又は複数の基板上に原料ガスを供給し、化学気相成長法により基板上にカーボンナノチューブを成長させるカーボンナノチューブの製造装置であって、基板を装填し、化学気相成長法によりカーボンナノチューブを成長させる反応炉と、反応炉に原料ガスを供給する原料ガス供給手段と、反応炉に四塩化炭素又はトリクロロエチレンを供給する化合物供給手段とを備えることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に触媒を担持した1又は複数の基板上に炭素源を含む原料ガスを供給し、化学気相成長法により前記基板上にカーボンナノチューブを成長させるカーボンナノチューブの製造方法であって、
前記基板上に四塩化炭素又はトリクロロエチレンを供給する工程を備えることを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項2】
前記供給工程における四塩化炭素又はトリクロロエチレンの供給を前記原料ガスの供給と共に行う請求項1に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項3】
前記原料ガスの炭素源に対する前記四塩化炭素又はトリクロロエチレンの供給率が、5体積%以上10体積%以下である請求項2に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項4】
表面に触媒を担持した1又は複数の基板上に炭素源を含む原料ガスを供給し、化学気相成長法により前記基板上にカーボンナノチューブを成長させるカーボンナノチューブの製造装置であって、
前記1又は複数の基板を装填し、前記化学気相成長法によりカーボンナノチューブを成長させる反応炉と、
前記反応炉に原料ガスを供給する原料ガス供給手段と、
前記反応炉に四塩化炭素又はトリクロロエチレンを供給する化合物供給手段と
を備えることを特徴とするカーボンナノチューブの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカーボンナノチューブの製造方法及びカーボンナノチューブの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年炭素材料として着目されているカーボンナノチューブ(以下「CNT」ともいう)の製造方法としては、アーク放電法、レーザ蒸発法、化学気相成長法(CVD法)等があり、中でもCVD法がCNTの量産に適している。CVD法によるCNTの製造は、例えば次のような方法で行われる。まず、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)等の触媒を担持した基板を反応炉内に装填し、反応炉を500℃から1300℃に加熱する。次に、この反応炉にアセチレン(C
2H
2)等の炭化水素ガスを原料ガスとして供給する。原料ガスは、水素等のキャリアガスと共に供給するのが一般的である。この原料ガスが触媒に接触することでCNTが成長する。
【0003】
前記CNTの製造方法では、炭化水素の分解速度がCNTの成長速度よりも速い場合等に、過剰となった炭素が基板上にアモルファスカーボンとして堆積することがある。特にアモルファスカーボンは基板上に存在する触媒上に堆積しやすく、その結果、触媒がアモルファスカーボンに覆われ、触媒として機能しなくなる。これにより、早い段階でCNTの成長が止まってしまう。このため、例えば配向配列している多数のカーボンナノチューブから形成されるCNTアレイで2mmを超える長尺のものを得にくいという不都合がある。
【0004】
この不都合を解決する方法としては、キャリアガスである水素等の濃度を高めることで炭化水素の分解速度を制御し、アモルファスカーボンの堆積量を抑制する方法がある。この場合炭化水素の濃度が低下するため、CNT自体の成長速度も低下する。また、CNTの成長に寄与せず反応炉外に排出される原料ガスが増加し、原料ガスが無駄に消費されるという不都合がある。
【0005】
これに対し、CNTの成長速度を高速に保つため、堆積したアモルファスカーボンを塩素、塩酸等の塩化物を用いてエッチング除去する方法も提案されている(特開2007−254271号公報等)。この方法では、一定量のCNTが成長した段階で、反応炉内に塩化物を供給し、堆積したアモルファスカーボンをエッチング除去し、再度CNTの成長を継続することで、CNTの成長速度を高速に保つことができる。しかし、この従来方法では、CNTの成長を一度中断してエッチング処理を実施する工程を繰り返すため、その分、長尺のCNTアレイを得るまでに時間を要する。また、アモルファスカーボンのエッチングと同時にCNT自体もエッチングされ損傷を受ける場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−254271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、長尺のCNTアレイを損傷なく容易かつ確実に得られるCNTの製造方法及び製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するためになされた発明は、表面に触媒を担持した1又は複数の基板上に炭素源を含む原料ガスを供給し、化学気相成長法により前記基板上にカーボンナノチューブを成長させるカーボンナノチューブの製造方法であって、前記基板上に四塩化炭素又はトリクロロエチレンを供給する供給工程を備えることを特徴とする。
【0009】
当該カーボンナノチューブの製造方法は、基板上に四塩化炭素又はトリクロロエチレンを供給する工程を有している。供給された前記四塩化炭素又はトリクロロエチレンは反応炉内で熱分解され、炭素と塩素とが生成される。生成された塩素は主にアモルファスカーボンを減ずる。「アモルファスカーボンを減ずる」とは、アモルファスカーボンの成長率を下げること及びアモルファスカーボンを除去することを意味するが、塩素によってアモルファスカーボンの成長率を下げる効果のほうが支配的と考えられる。また、生成された炭素は触媒に供給されCNTの成長に寄与する。このため、当該カーボンナノチューブの製造方法は、CNTの成長速度を高速に保ちつつ連続してCNTを成長させることが可能となり、容易かつ確実に長尺のCNTアレイを得ることができる。
【0010】
前記供給工程における四塩化炭素又はトリクロロエチレンの供給は、前記原料ガスの供給と共に行うとよい。前記四塩化炭素又はトリクロロエチレンの供給を原料ガスの供給と共に行うことで反応炉内のガス濃度が定常状態に保たれるため、上述のアモルファスカーボンを減じつつ、一定の成長速度でCNTを成長させることができる。また成長速度が一定であるので、成長時間の制御のみで、容易に所望の長さのCNTを得ることができる。
【0011】
前記原料ガスの炭素源に対する前記四塩化炭素又はトリクロロエチレンの供給率としては、5体積%以上10体積%以下が好ましい。前記四塩化炭素又はトリクロロエチレンの供給率を前記範囲内とすることで、効果的にアモルファスカーボンを減ずることができ、その結果、CNTの成長速度を高速に保つことができる。
【0012】
前記課題を解決するためになされた別の発明は、表面に触媒を担持した1又は複数の基板上に炭素源を含む原料ガスを供給し、化学気相成長法により前記基板上にカーボンナノチューブを成長させるカーボンナノチューブの製造装置であって、前記1又は複数の基板を装填し、前記化学気相成長法によりカーボンナノチューブを成長させる反応炉と、前記反応炉に原料ガスを供給する原料ガス供給手段と、前記反応炉に四塩化炭素又はトリクロロエチレンを供給する化合物供給手段とを備えることを特徴とする。
【0013】
当該カーボンナノチューブの製造装置は、反応炉内に四塩化炭素又はトリクロロエチレンを供給する手段を備えている。このため、当該カーボンナノチューブの製造装置は、CNTの成長中に四塩化炭素又はトリクロロエチレンを供給し、反応炉内で前記四塩化炭素又はトリクロロエチレンを熱分解する。このように生成された塩素によってアモルファスカーボンを減ずることができる。また、生成された炭素が触媒に供給されCNTの成長に寄与する。従って、当該カーボンナノチューブの製造装置は、CNTの成長速度を高速に保つことが可能となり、容易かつ確実に長尺のCNTアレイを得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明のCNTの製造方法及びCNTの製造装置は、CNTの成長速度を高速に保ちつつ連続してCNTを成長させることが可能となり、容易かつ確実に長尺のCNTアレイを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第一実施形態に係るCNTの製造装置を示す模式的軸方向断面図である。
【
図2】
図1のCNTの製造装置を用いたCNTの製造方法を示すフロー図である。
【
図3】
図1のCNTの製造装置の作用を示す模式的説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を説明する。
【0017】
<CNTの製造装置>
図1のCNTの製造装置1は、表面に触媒を担持した1又は複数の基板X上に原料ガスを供給することでCVD法により前記基板X上にカーボンナノチューブを製造する装置である。当該CNTの製造装置1は、具体的には反応炉2、原料ガス供給手段3、化合物供給手段4、基板ホルダー5及び排気手段6を主に備えている。
【0018】
(基板)
前記基板Xは、平板形状を有し、表面に触媒を担持している。この触媒に原料ガスが接触することで、基板Xの表面に垂直に配向したCNTが成長する。
【0019】
基板Xの材質としては、特に限定されないが、例えば石英ガラス、酸化膜付きシリコン等を用いることができる。基板Xの形状としては、特に限定されないが、例えば円形のものを用いることができる。基板Xの大きさとしては、特に限定されない。円形の基板を用いる場合、基板Xの直径としては、例えば3インチ以上5インチ以下のものを用いることができる。
【0020】
前記触媒としては、例えば鉄、ニッケル、コバルト、チタン、白金等が挙げられる。前記触媒は、蒸着、スパッタリング、ディッピング等により基板X上に担持できる。触媒を基板X上に層状に形成してもよい。例えば基板上に触媒との反応を防止する反応防止層を設け、反応防止層の上に触媒層と、前記触媒層に含まれる触媒を分散させる分散層とを形成することができる。触媒は、基板Xの片面に担持してもよいし、両面に同種または面毎に異なる触媒を担持してもよい。
【0021】
(反応炉)
反応炉2は、その内部に1又は複数の基板を装填し、CVD法によりCNTを成長させる容器であり、チャンバー2a及びヒーター2bを備える。
【0022】
チャンバー2aは、基板Xを内部に収容することができ、原料ガス並びに四塩化炭素又はトリクロロエチレンを内部に導入できる。チャンバー2aの材質としては、使用する原料ガスに対する耐食性やチャンバー2aの加熱温度に耐えるものであれば特に限定されないが、例えば石英ガラス、セラミック、SiC等を用いることができる。チャンバー2aの形状としては、複数の基板Xを収容できる筒状であれば特に限定されないが、円筒状のものを用いることができる。チャンバー2aは、チャンバー2a内に導入されたガスが外に拡散しないように密閉されていることが好ましい。
【0023】
ヒーター2bは、チャンバー2aを加熱し、CNTが成長可能な温度を維持する。ヒーター2bとしては、例えば軸を通る平面で円筒を2分割した形状を有し、チャンバー2aの外側を上下から覆うように配設されているものを用いることができる。ヒーター2bの種類は特に制限されないが、例えば抵抗加熱式ヒーターが挙げられる。
【0024】
チャンバー2a内の加熱温度の上限としては、1300℃が好ましく、1000℃がより好ましく、900℃がさらに好ましい。一方、チャンバー2a内の加熱温度の下限としては、500℃が好ましく、700℃がより好ましく、800℃がさらに好ましい。チャンバー2a内の加熱温度が前記上限を超えると反応速度が速くなり、得られるCNTの密度が小さくなるおそれがある。逆に、チャンバー2a内の加熱温度が前記下限未満であると、CNTの成長速度が遅くなり生産性が劣るおそれがある。チャンバー2a内の加熱温度が前記範囲であることにより、CNTをより効率よく成長させることができる。
【0025】
(原料ガス供給手段)
原料ガス供給手段3は、CNTの成長に必要な原料ガスを反応炉2に供給する。前記原料ガスとしては、例えば炭素源を含む化合物が挙げられる。前記炭素源を含む化合物としては、例えばアセチレン(C
2H
2)、メタン(C
2H
4)等の有機化合物が挙げられ、アセチレンが好ましい。アセチレンを用いることで、酸素等の支燃性ガスを用いなくても熱分解反応が自発的に継続することができる。
【0026】
また、原料ガス供給手段3は、炭素源となる原料ガス以外に反応速度を制御するため窒素(N
2)、水素(H
2)等のキャリアガスを混合して供給する。このキャリアガスの供給量を調整することで原料ガスの分解速度を制御できる。また、キャリアガスを混合せず、原料ガスのみを供給することも可能である。この場合、原料ガスが分解し生成されるカーボンが過剰となり、基板XにCNTの成長を阻害するアモルファスカーボンが堆積しないように原料ガスの流量、CNTの成長時間等を調整する必要がある。
【0027】
原料ガスの供給量は反応炉2の大きさによるが、例えば4インチの基板を25枚装填できる反応炉2において、原料ガス供給量の下限としては、1000sccm(Standard cc per min、標準状態(25℃、1気圧)における体積流量)が好ましく、1600sccmがより好ましい。原料ガス供給量が前記下限未満である場合、炭素の供給量が不足し、CNTの成長速度が不十分となるおそれがある。一方、原料ガス供給量の上限としては、2500sccmが好ましく、2000sccmがより好ましい。原料ガス供給量が前記上限を超える場合、炭素の供給量が過剰となり、アモルファスカーボンを十分に減ずることができないおそれがある。
【0028】
原料ガスとキャリアガスとを加えた総供給量の上限としては、10000sccmが好ましく、5000sccmがより好ましく、3000sccmがさらに好ましい。一方、前記総供給量の下限としては、2000sccmが好ましく、2250sccmがより好ましく、2500sccmがさらに好ましい。前記総供給量が前記上限を超えると、原料ガスが反応炉2内に滞留しにくくなりCNTの成長が遅くなるおそれがある。逆に、前記総供給量が前記下限未満であると、原料ガスが少ないためにCNTの成長が遅くなるおそれがある。前記総供給量を前記範囲内とすることで、CNTの生産効率を高めることができる。
【0029】
また原料ガス供給量に対するキャリアガス供給量の下限としては、500体積%が好ましく、700体積%がより好ましい。キャリアガス供給量が前記下限未満である場合、原料ガスの分解速度が速くなりすぎ、原料ガス供給の上流側の基板と下流側の基板とで均質なCNTを得られないおそれがある。一方、キャリアガス供給量の上限としては、1000体積%が好ましく、900体積%がより好ましい。キャリアガス供給量が前記上限を超える場合、原料ガスの分解速度が遅くなりすぎ、CNTの成長速度が不十分となるおそれがある。
【0030】
原料ガス供給手段3は、原料ガス導入管23によってチャンバー2aの軸方向の一端側に接続されている。これにより原料ガス供給手段3は、反応炉2に原料ガスを供給することができる。
【0031】
原料ガス導入管23の材質としては、原料ガス等に対する耐食性や反応炉2の温度に耐える耐熱性を有する材料であれば特に限定されないが、例えば石英ガラス、SiC等が挙げられる。
【0032】
(化合物供給手段)
化合物供給手段4は、アモルファスカーボンを減ずる化合物である四塩化炭素(CCl
4)又はトリクロロエチレン(C
2HCl
3)を反応炉2に供給する。
【0033】
四塩化炭素及びトリクロロエチレンは常温で液体である。このような場合、化合物供給手段4は、四塩化炭素又はトリクロロエチレンを加熱する手段(図示していない)を有することで、蒸気圧を高めてガスとして供給を行うことができる。また、四塩化炭素又はトリクロロエチレンに対し常温でバブリングを行ってもよい。バブリングを行う気体としては、原料ガス供給手段3で用いるキャリアガスと同一の気体を用いるとよい。このようにキャリアガスと同一の気体を用いることで、キャリアガスの一部をバブリングに使うことができる。このため、キャリアガスの供給量の制御が容易であり、反応速度を制御しやすい。
【0034】
四塩化炭素又はトリクロロエチレンの供給率の下限としては、原料ガスの炭素源に対して5体積%が好ましく、7体積%がより好ましい。四塩化炭素又はトリクロロエチレンの供給率が前記下限未満である場合、アモルファスカーボンの除去が不十分となり長尺のCNTアレイを得られないおそれがある。一方、四塩化炭素又はトリクロロエチレンの供給率の上限としては、原料ガスの炭素源に対して10体積%が好ましく、8体積%がより好ましい。四塩化炭素又はトリクロロエチレンの供給率が前記上限を超える場合、塩素量が多くなりすぎ、CNT自体が損傷を受けるおそれがある。
【0035】
化合物供給手段4は、化合物導入管24によってチャンバー2aの軸方向の一端側に接続されている。これにより化合物供給手段4は、反応炉2に四塩化炭素又はトリクロロエチレンを供給することができる。化合物導入管24の材質としては、原料ガス導入管23と同じものを用いることができる。
【0036】
(基板ホルダー)
基板ホルダー5は、反応炉2のチャンバー2a内に配設され、1又は複数の基板Xを保持することができる。基板ホルダー5としては、例えば水平に配設された2本の平行な棒に溝が設けられ、その溝に垂直方向に基板Xを差し込み保持するものが挙げられる。
【0037】
基板Xを複数配設する場合、基板Xは略等間隔に保持される。基板Xの平均間隔dの上限としては、3cmが好ましく、2cmがより好ましく、1.7cmがさらに好ましい。一方、前記平均間隔dの下限としては、0.5cmが好ましく、1cmがより好ましく、1.3cmがさらに好ましい。前記平均間隔dが前記下限未満であると、原料ガスを基板X全体に十分に供給できないおそれがある。逆に、前記平均間隔dが前記上限を超えると、反応炉2内に配設できる基板Xの枚数が少なくなる。基板Xの平均間隔dを前記範囲とすることで、より多くの基板XでCNTを均一に成長させることができる。なお、基板Xの平均間隔dとは、隣接する基板Xの対向する面間の最小距離をいう。
【0038】
反応炉2内に装填する基板Xの枚数の下限としては、15枚が好ましく、25枚がより好ましい。一方、装填する基板Xの枚数の上限としては、50枚が好ましく、40枚がより好ましい。装填する枚数が前記下限未満であると、一度に得られるCNTの量が少なく、生産効率が向上しないおそれがある。逆に、装填する枚数が前記上限を超えると、全ての基板Xに原料ガスを均等に供給することが困難になり、均一なCNTを得られないおそれがある。
【0039】
(排気手段)
当該CNTの製造装置1は、反応炉2内のガスを排気するために排気手段6を有している。排気手段6は、排気管25を介してチャンバー2aに接続され、排気を行うことができる。前記排気手段6は、例えばロータリーポンプ等の真空ポンプを有してもよい。排気手段6により反応炉2からの排気量を調整することで、反応炉2内の圧力を制御することができる。
【0040】
<CNTの製造方法>
次に前記CNTの製造装置を使用した当該CNTの製造方法について、原料ガスとしてアセチレンガスを用い、アモルファスカーボンを減ずる化合物として四塩化炭素を用いる場合を説明する。なお、原料ガスとしてメタン等の他の炭化水素ガス、アモルファスカーボンを減ずる化合物としてトリクロロエチレンを用いても同様である。
【0041】
当該CNTの製造方法は、
図2に示すように、基板及び触媒装填工程(S1)、加熱工程(S2)、原料ガス供給工程(S3)並びに化合物供給工程(S4)を備えている。
【0042】
基板及び触媒装填工程(S1)では、表面に触媒を担持した1又は複数の基板Xを前記反応炉2に装填する。まず、基板Xの表面に触媒を担持させる。触媒が担持された基板Xを基板ホルダー5に装填することで、表面に触媒を担持した1又は複数の基板が前記反応炉2内に装填できる。
【0043】
加熱工程(S2)では、排気手段6を稼働し排気管25を通じて反応炉2内を排気しつつ、反応炉2のヒーター2bにより反応炉2を加熱する。CVD法に適した温度、すなわち原料ガス等が熱分解され、CNTが成長するに適した温度となったところで、温度を一定に保つようヒーター2bの出力を調節し、反応炉2内を加熱雰囲気下とする。
【0044】
原料ガス供給工程(S3)では、CNTの原料となるアセチレンガスをキャリアガスである水素等と共に反応炉2に供給する。供給されたアセチレンガスは、反応炉2内で基板X表面の触媒に接触し、CNTが成長する。
【0045】
化合物供給工程(S4)では、四塩化炭素を反応炉2に供給する。本工程は、四塩化炭素の供給をアセチレンガスの供給と共に行う。具体的には、四塩化炭素とアセチレンガスとを工程開始後から反応炉2に同時に供給し続け、連続してCNTを成長させる。
【0046】
反応炉2内に供給された四塩化炭素の作用について
図3を用いて説明する。
図3に示すようにアセチレンガスが熱によって分解されて生じた炭素によって基板X上に担持された触媒Y上にCNT101が成長する。アセチレンの分解によって生じた炭素のうちCNTの成長に寄与しない炭素は、主にCNT101の根本にアモルファスカーボン102として触媒Yを覆うように堆積する。このアモルファスカーボン102は、触媒Yの触媒機能を低下させ、CNT101の成長を妨げる。四塩化炭素は反応炉2内の加熱雰囲気下において熱分解され、塩素103と炭素104に分解される。塩素103は、アモルファスカーボン102を減じ、触媒Yを活性化させる。炭素104は、アモルファスカーボン102が減じられた結果、活性化されている触媒に接触し、CNT101に取り込まれる。
【0047】
(利点)
当該CNTの製造装置及びCNTの製造方法は、基板上に四塩化炭素又はトリクロロエチレンを供給することで、供給された前記化合物は反応炉2内で熱分解される。生成された塩素によってアモルファスカーボンを減ずることができる。また、生成された炭素が触媒に供給されCNTの成長に寄与する。このため、当該CNTの製造装置は、CNTの成長速度を高速に保ちつつ連続してCNTを成長させることが可能となり、容易かつ確実に長尺のCNTアレイを得ることができる。
【0048】
また、当該CNTの製造方法は、原料ガス供給工程(S3)と化合物供給工程(S4)とを共に行うことで反応炉2内のガス濃度が定常状態に保たれ、一定の成長速度でCNTが成長し、均質なCNTを得ることができる。また成長速度が一定となるので、成長時間の制御のみで、容易に所望の長さのCNTアレイを得ることができる。
【0049】
<その他の実施形態>
本発明は前記実施形態に限定されるものではない。例えば前記実施形態ではCNTの製造方法として、原料ガス供給工程(S3)と化合物供給工程(S4)とを工程開始後から共に行う方法を示したが、原料ガス供給工程(S3)から一定時間経過後に化合物供給工程(S4)を開始し、原料ガス供給工程(S3)と共に行ってもよい。
【0050】
前記実施形態では、原料ガス供給手段3とチャンバー2aとを接続する原料ガス導入管23及び化合物供給手段4とチャンバー2aとを接続する化合物導入管24を独立に設けたが、チャンバー2aの外部で原料ガス導入管23及び化合物導入管24を接続し、原料ガスと四塩化炭素又はトリクロロエチレンとを混合した後、反応炉2へ供給しても同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上のように、本発明のCNTの製造方法及びCNTの製造装置は、CNTの成長の阻害要因となるアモルファスカーボンを減ずる。これによりCNTの成長速度を高速に保ちつつ連続してCNTの成長が可能となり、短時間で長尺のCNTアレイを得ることができる。このため、歪みセンサ等の長尺のCNTアレイを必要とする応用分野に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0052】
1 CNTの製造装置
2 反応炉
2a チャンバー
2b ヒーター
3 原料ガス供給手段
4 化合物供給手段
5 基板ホルダー
6 排気手段
23 原料ガス導入管
24 化合物導入管
25 排気管
101 CNT
102 アモルファスカーボン
103 塩素
104 炭素
X 基板
Y 触媒