(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-160824(P2015-160824A)
(43)【公開日】2015年9月7日
(54)【発明の名称】サルファ剤およびキトサン剤を含む、発毛および/または育毛促進組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/49 20060101AFI20150811BHJP
A61Q 7/00 20060101ALI20150811BHJP
A61K 8/46 20060101ALI20150811BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20150811BHJP
【FI】
A61K8/49
A61Q7/00
A61K8/46
A61K8/73
【審査請求】有
【請求項の数】30
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-36449(P2014-36449)
(22)【出願日】2014年2月27日
(71)【出願人】
【識別番号】513325306
【氏名又は名称】株式会社グリーンエバー
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(74)【代理人】
【識別番号】100078662
【弁理士】
【氏名又は名称】津国 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100135873
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 圭子
(74)【代理人】
【識別番号】100116528
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 俊男
(74)【代理人】
【識別番号】100181102
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 孝明
(72)【発明者】
【氏名】園尾 美子
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AC761
4C083AC851
4C083AC852
4C083AC861
4C083AD321
4C083AD322
4C083CC37
4C083DD08
4C083DD17
4C083DD27
4C083DD47
4C083EE22
(57)【要約】 (修正有)
【課題】従来の育毛剤とは異なるおよび/または育毛促進組成物を提供する。
【解決手段】サルファ剤およびキトサン剤を含む、発毛および/または育毛促進組成物。また、該発毛および/または育毛促進組成物を含むキットおよび発毛および/または育毛促進組成物を適用する工程を含む方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サルファ剤およびキトサン剤を含む、発毛および/または育毛促進組成物。
【請求項2】
前記サルファ剤が、スルファモノメトキシン、アセチルスルファメトキサゾール、サラゾスルファピリジン、スルファジアジン、スルファジアジン銀、スルファジメトキシン、スルファチアゾール、スルファフェナゾール、スルファメトキサゾール、スルファメトキシピリダジン、スルファメトピラジン、スルファメトミジン、スルファメチゾール、スルファメラジン、スルフイソキサゾール、スルフイソミジン、スルフイソミジンナトリウム、ホモスルファミン、およびそれらの誘導体からなる群より選択される、請求項1記載の発毛および/または育毛促進組成物。
【請求項3】
前記サルファ剤が、スルファモノメトキシンまたはその誘導体である、請求項1または2記載の発毛および/または育毛促進組成物。
【請求項4】
前記キトサン剤が、高分子キトサンと低分子キトサンとの混合物である、請求項1〜3のいずれか一項記載の発毛および/または育毛促進組成物。
【請求項5】
前記キトサン剤が、キチン質を含む、請求項1〜4のいずれか一項記載の発毛および/または育毛促進組成物。
【請求項6】
前記サルファ剤と前記キトサン剤が、重量比20:1〜1:20の割合で混合されていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項記載の発毛および/または育毛促進組成物。
【請求項7】
前記サルファ剤と前記キトサン剤が、重量比5:1〜1:5の割合で混合されていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項記載の発毛および/または育毛促進組成物。
【請求項8】
剤型が、散剤または液剤である、請求項1〜7のいずれか一項記載の発毛および/または育毛促進組成物。
【請求項9】
前記発毛および/または育毛が、創傷由来脱毛症、老人性脱毛症、ストレス性脱毛症、男性型脱毛症、瘢痕性脱毛症、薬物由来脱毛症、および産後脱毛症からなる群より選択される脱毛症に対する発毛および/または育毛である、請求項1〜8記載のいずれか一項記載の発毛および/または育毛促進組成物。
【請求項10】
対象が、鳥類または哺乳動物である、請求項1〜9のいずれか一項記載の発毛および/または育毛促進組成物。
【請求項11】
前記対象が、イヌ、ネコ、ウマ、ヒツジ、ウシ、およびヒトからなる群より選択される哺乳動物である、請求項10記載の発毛および/または育毛促進組成物。
【請求項12】
サルファ剤とキトサン剤を混合する工程を含む、請求項1〜11のいずれか一項記載の発毛および/または育毛促進組成物の製造方法。
【請求項13】
対象の発毛および/または育毛を望む部位にキトサン剤と別々にまたは同時に適用するためのサルファ剤。
【請求項14】
対象の発毛および/または育毛を望む部位にサルファ剤と別々にまたは同時に適用するためのキトサン剤。
【請求項15】
サルファ剤、キトサン剤および場合により放散容器を含む、キット。
【請求項16】
前記放散容器がスポイト形状またはスプレー式である、請求項15記載のキット。
【請求項17】
対象の発毛および/または育毛を促進するための方法であって、工程
a)対象の発毛および/または育毛を望む部位にサルファ剤およびキトサン剤を、別々にまたは同時に適用する工程
を含む、方法。
【請求項18】
前記サルファ剤が、スルファモノメトキシン、アセチルスルファメトキサゾール、サラゾスルファピリジン、スルファジアジン、スルファジアジン銀、スルファジメトキシン、スルファチアゾール、スルファフェナゾール、スルファメトキサゾール、スルファメトキシピリダジン、スルファメトピラジン、スルファメトミジン、スルファメチゾール、スルファメラジン、スルフイソキサゾール、スルフイソミジン、スルフイソミジンナトリウム、ホモスルファミン、およびそれらの誘導体からなる群より選択される、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記サルファ剤が、スルファモノメトキシンまたはその誘導体である、請求項17または18記載の方法。
【請求項20】
前記キトサン剤が、高分子キトサンと低分子キトサンとの混合物である、請求項17〜19のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
前記キトサン剤が、キチン質を含む、請求項17〜20のいずれか一項記載の方法。
【請求項22】
適用される前記サルファ剤と前記キトサン剤が、重量比20:1〜1:20の割合であることを特徴とする、請求項17〜21のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
適用される前記サルファ剤と前記キトサン剤が、重量比5:1〜1:5の割合であることを特徴とする、請求項17〜22のいずれか一項記載の方法。
【請求項24】
適用される前記サルファ剤と前記キトサン剤が、予め混合されている、請求項17〜23のいずれか一項記載の方法。
【請求項25】
適用される前記サルファ剤及びキトサン剤の剤型が、散剤または液剤である、請求項17〜24のいずれか一項記載の方法。
【請求項26】
前記適用が、放散容器を用いて行われる、請求項17〜25のいずれか一項記載の方法。
【請求項27】
前記対象が、創傷由来脱毛症、老人性脱毛症、ストレス性脱毛症、男性型脱毛症、瘢痕性脱毛症、薬物由来脱毛症、および産後脱毛症からなる群より選択される脱毛症を患っている、請求項17〜26のいずれか一項記載の方法。
【請求項28】
前記対象が、鳥類または哺乳動物である、請求項17〜27のいずれか一項記載の方法。
【請求項29】
前記対象が、イヌ、ネコ、ウマ、ヒツジ、ウシ、およびヒトからなる群より選択される哺乳動物である、請求項28記載の方法。
【請求項30】
請求項17〜29記載の方法において用いるための、サルファ剤、キトサン剤および場合により放散容器を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サルファ剤およびキトサン剤を含む、発毛および/または育毛促進組成物に関する。また、本発明の発毛および/または育毛促進組成物を含むキットおよび本発明の発毛および/または育毛促進組成物を適用する工程を含む方法も提供する。
【背景技術】
【0002】
薄毛または脱毛症は、遺伝、加齢、炎症、ストレス、薬物による副作用等、様々な要因によって起こりうる。脱毛症は、外見上の印象を大きく左右し、社会的な影響が大きい。
【0003】
脱毛症の予防、低減または発毛・育毛促進には、様々な製品があり、例えば血行促進、毛母細胞の機能増強、頭皮保湿および男性ホルモン機能阻害を謳うものがある。男性型脱毛症に対しては、ミノキシジル、フィナステリド、塩化カルプロニウム、t−フラバノン、アデノシン、サイトプリン・ペンダデカンなどが用いられている。しかしながらこれら成分による育毛促進効果は十分でなく、性機能障害などの副作用を有するものもある。副作用が無く、効果に優れた育毛促進組成物の開発が望まれている。
【0004】
一方、古くからサルファ剤が創傷における感染症を予防・治療するために、使用されてきた。サルファ剤は、スルホンアミド基を持つ合成化合物の総称である。サルファ剤は、葉酸合成経路の必須酵素ジヒドロプテロイン酸合成酵素の基質であるパラアミノ安息香酸と拮抗阻害する。その結果、サルファ剤は、細菌中の葉酸合成および葉酸を必要とするDNA/RNA合成を阻害し、抗菌作用を示す。
【0005】
また、サルファ剤は炭酸脱水酵素を阻害することにより、重炭酸イオンの生成を防ぎ、血液pH低下作用を示す。このことにより、創傷部のpHを細菌の増殖至適pHよりも下げ、抗菌作用を示す。しかしながら、サルファ剤が発毛または育毛作用を有することは、従来全く知られていない。
【0006】
キトサン剤が、創傷治療によく用いられている。D−グルコサミン重合体を主成分とするキトサン剤は、創傷部に適用すると、繊維芽細胞を誘導し、肉芽形成を促し、創傷治癒を促進させる。しかしながら、キトサン剤が発毛または育毛作用を有することは、従来全く知られていない。
【0007】
サルファ剤とキトサン剤を含む、皮膚を回復させると共に細菌性皮膚感染を治療するための医薬クリーム剤が知られている(特許文献1)。しかしながら、上記医薬クリーム剤が発毛または育毛作用を有することは、全く知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2010−119369号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、新規な発毛および/または育毛促進組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は鋭意研究の末、サルファ剤およびキトサン剤を含む組成物が、発毛および育毛効果があることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は以下である
[1] サルファ剤およびキトサン剤を含む、発毛および/または育毛促進組成物。
[2] 前記サルファ剤が、スルファモノメトキシン、アセチルスルファメトキサゾール、サラゾスルファピリジン、スルファジアジン、スルファジアジン銀、スルファジメトキシン、スルファチアゾール、スルファフェナゾール、スルファメトキサゾール、スルファメトキシピリダジン、スルファメトピラジン、スルファメトミジン、スルファメチゾール、スルファメラジン、スルフイソキサゾール、スルフイソミジン、スルフイソミジンナトリウム、ホモスルファミン、およびそれらの誘導体からなる群より選択される、[1]記載の発毛および/または育毛促進組成物。
[3] 前記サルファ剤が、スルファモノメトキシンまたはその誘導体である、[1]または[2]記載の発毛および/または育毛促進組成物。
[4] 前記キトサン剤が、高分子キトサンと低分子キトサンとの混合物である、[1]〜[3]のいずれか記載の発毛および/または育毛促進組成物。
[5] 前記キトサン剤が、キチン質を含む、[1]〜[4]のいずれか記載の発毛および/または育毛促進組成物。
[6] 前記サルファ剤と前記キトサン剤が、重量比20:1〜1:20の割合で混合されていることを特徴とする、[1]〜[5]のいずれか記載の発毛および/または育毛促進組成物。
[7] 前記サルファ剤と前記キトサン剤が、重量比5:1〜1:5の割合で混合されていることを特徴とする、[1]〜[6]のいずれか記載の発毛および/または育毛促進組成物。
[8] 剤型が、散剤または液剤である、[1]〜[7]のいずれか記載の発毛および/または育毛促進組成物。
[9] 前記発毛および/または育毛が、創傷由来脱毛症、老人性脱毛症、ストレス性脱毛症、男性型脱毛症、瘢痕性脱毛症、薬物由来脱毛症、および産後脱毛症からなる群より選択される脱毛症に対する発毛および/または育毛である、[1]〜[8]記載の発毛および/または育毛促進組成物。
[10] 対象が、鳥類または哺乳動物である、[1]〜[9]のいずれか記載の発毛および/または育毛促進組成物。
[11] 前記対象が、イヌ、ネコ、ウマ、ヒツジ、ウシ、およびヒトからなる群より選択される哺乳動物である、[10]記載の発毛および/または育毛促進組成物。
[12] サルファ剤とキトサン剤を混合する工程を含む、[1]〜[11]のいずれか記載の発毛および/または育毛促進組成物の製造方法。
[13] 対象の発毛および/または育毛を望む部位にキトサン剤と別々にまたは同時に適用するためのサルファ剤。
[14] 対象の発毛および/または育毛を望む部位にサルファ剤と別々にまたは同時に適用するためのキトサン剤。
[15] サルファ剤、キトサン剤および場合により放散容器を含む、キット。
[16] 前記放散容器がスポイト形状またはスプレー式である、[15]記載のキット。
[17] 対象の発毛および/または育毛を促進するための方法であって、工程
a)対象の発毛および/または育毛を望む部位にサルファ剤およびキトサン剤を、別々にまたは同時に適用する工程
を含む、方法。
[18] 前記サルファ剤が、スルファモノメトキシン、アセチルスルファメトキサゾール、サラゾスルファピリジン、スルファジアジン、スルファジアジン銀、スルファジメトキシン、スルファチアゾール、スルファフェナゾール、スルファメトキサゾール、スルファメトキシピリダジン、スルファメトピラジン、スルファメトミジン、スルファメチゾール、スルファメラジン、スルフイソキサゾール、スルフイソミジン、スルフイソミジンナトリウム、ホモスルファミン、およびそれらの誘導体からなる群より選択される、[17]記載の方法。
[19] 前記サルファ剤が、スルファモノメトキシンまたはその誘導体である、[17]または[18]記載の方法。
[20] 前記キトサン剤が、高分子キトサンと低分子キトサンとの混合物である、[17]〜[19]のいずれか記載の方法。
[21] 前記キトサン剤が、キチン質を含む、[17]〜[20]のいずれか記載の方法。
[22] 適用される前記サルファ剤と前記キトサン剤が、重量比20:1〜1:20の割合であることを特徴とする、[17]〜[21]のいずれか記載の方法。
[23] 適用される前記サルファ剤と前記キトサン剤が、重量比5:1〜1:5の割合であることを特徴とする、[17]〜[22]のいずれか記載の方法。
[24] 適用される前記サルファ剤と前記キトサン剤が、予め混合されている、[17]〜[23]のいずれか記載の方法。
[25] 適用される前記サルファ剤及びキトサン剤の剤型が、散剤または液剤である、[17]〜[24]のいずれか記載の方法。
[26] 前記適用が、放散容器を用いて行われる、[17]〜[25]のいずれか記載の方法。
[27] 前記対象が、創傷由来脱毛症、老人性脱毛症、ストレス性脱毛症、男性型脱毛症、瘢痕性脱毛症、薬物由来脱毛症、および産後脱毛症からなる群より選択される脱毛症を患っている、[17]〜[26]のいずれか記載の方法。
[28] 前記対象が、鳥類または哺乳動物である、[17]〜[27]のいずれか記載の方法。
[29] 前記対象が、イヌ、ネコ、ウマ、ヒツジ、ウシ、およびヒトからなる群より選択される哺乳動物である、[28]記載の方法。
[30] [17]〜[29]記載の方法において用いるための、サルファ剤、キトサン剤および場合により放散容器を含む、キット。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、従来の育毛剤とは異なる発毛および/または育毛促進組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の発毛および/または育毛促進組成物による症例1の経過を示す。
【
図2】本発明の発毛および/または育毛促進組成物による症例2の経過を示す。
【
図3】本発明の発毛および/または育毛促進組成物による症例3の経過を示す。
【
図4】本発明の発毛および/または育毛促進組成物による症例4の経過を示す。
【
図5】本発明の発毛および/または育毛促進組成物による症例5の経過を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、サルファ剤およびキトサン剤を含む、発毛および/または育毛促進組成物を提供する。
【0015】
本発明の発毛および/または育毛促進組成物は、サルファ剤を含む。本発明において、サルファ剤は、スルホンアミド基を持つ、医薬に用いることが想定され得る任意の合成化合物を指す。具体的には、スルファモノメトキシン、アセチルスルファメトキサゾール、サラゾスルファピリジン、スルファジアジン、スルファジアジン銀、スルファジメトキシン、スルファチアゾール、スルファフェナゾール、スルファメトキサゾール、スルファメトキシピリダジン、スルファメトピラジン、スルファメトミジン、スルファメチゾール、スルファメラジン、スルフイソキサゾール、スルフイソミジン、スルフイソミジンナトリウム、ホモスルファミンが挙げられるがこれに制限されない。これらのサルファ剤は、誘導体、例えば銀塩等の塩の形態であってもよい。ある特定の態様では、サルファ剤は、スルファモノメトキシンまたはスルファジメトキシンである。また別の特定の態様では、サルファ剤は、スルファモノメトキシンである。
【0016】
本発明の発毛および/または育毛促進組成物は、キトサン剤を含む。本発明において、キトサン剤は、D−グルコサミンの直鎖型重合体であるキトサンを主成分とする混合物を指す。キトサン剤の重合度、分子量に特に制限はない。ある特定の態様では、本発明のキトサン剤は、高分子キトサン(分子量10,000以上)と低分子キトサン(分子量10,000未満)の混合物である。高分子キトサンと低分子キトサンの混合比に制限はないが、例えば、重量比1:9〜9:1の混合比が挙げられる。
【0017】
本発明におけるキトサン剤は、さらにキチン質を含んでいても良い。キチン質は、N−アセチルグルコサミンとグルコサミンの直鎖型重合体を指す。キチン質の重合度に特に制限はなく、オリゴ糖(重合度3〜10)であってもよい。本発明のキトサン剤にキチン質が含まれる場合、キチン質の含有量は好ましくは重量割合15%以下である。
【0018】
好ましい態様において、本発明の発毛および/または育毛促進組成物は、スルファモノメトキシンおよびキチン質を含むキトサン剤である。より好ましい態様においては、キチン質を含むキトサン剤における高分子キトサン:低分子キトサン:キチンオリゴ糖の比が、重量比39:59:2である。
【0019】
本発明の発毛および/または育毛促進組成物において、本発明のサルファ剤とキトサン剤の混合比に特に制限はなく、発毛および/または育毛の対象となる脱毛症の種類、程度に応じて自由に設定することが出来る。ある態様において、本発明のサルファ剤とキトサン剤が重量比20:1〜1:20の割合で混合されている。好ましい態様において、サルファ剤とキトサン剤が重量比5:1〜1:5の割合で混合されている。
【0020】
本発明の発毛および/または育毛促進組成物の剤型は、育毛の対象となる部位に適用出来れば特に制限はなく、液剤、散剤、ゲル剤、クリーム剤などが挙げられる。広範囲な部位にも適用する場合、剤型は液剤が好ましい。また別の態様において、創傷性脱毛症に対しては、創傷の治療とを兼ねるために、散剤としても良い。本明細書において、液剤は、サルファ剤とキトサン剤とが完全に溶解している必要は無く、懸濁液の状態を含む。液剤の溶媒に特に制限は無く、水、生理食塩水、アルコール、コーンオイルなどが挙げられる。
【0021】
本発明の発毛および/または育毛促進組成物は、本発明の効果が失われない限り、任意の薬学上許容可能な賦形剤、担体、希釈剤などを含んでいても良い。賦形剤等の具体例としては、乳糖、白糖、トウモロコシデンプン等が挙げられるがこれに限定されない。
【0022】
本発明の組成物は例えば、医薬品、医薬部外品または化粧品として提供することが出来る。
【0023】
本発明において、「発毛および/または育毛促進」なる用語は、本発明の属する技術分野において、発毛または育毛と呼ばれる毛量増加現象を広く含む。例えば発毛促進は、毛周期における休止期にある毛根を刺激して毛母細胞の細胞分裂を惹起し毛髪細胞を再生させることや、いままで毛穴が無かった部位に毛穴を生じさせることを含むが、これに限定されない。また、例えば育毛促進は、毛周期における成長期にある毛根が、退行期または休止期に移行することを抑制することを含むが、これに限定されない。本発明の組成物は、サルファ剤により毛根幹細胞周辺のpHを下げることにより、毛根幹細胞から毛母細胞への分化、または毛母細胞の細胞分裂を惹起し得る。また、実施例において詳述する症例1、症例3、症例4においては、正常皮膚より創傷皮膚に、より育毛効果が認められたことから、創傷という刺激とサルファ剤による局所酸化作用の相乗効果により毛母細胞への分化を惹起し得る。
【0024】
本発明の発毛および/または育毛促進組成物は、任意の脱毛症に対して用いることが出来る。脱毛症は、具体的には創傷由来脱毛症、老人性脱毛症、ストレス性脱毛症、男性型脱毛症、瘢痕性脱毛症、薬物脱毛症、および産後脱毛症が含まれる。これに関連して、創傷由来脱毛症は、創傷が現に進行している状態も含む。
【0025】
本発明の発毛および/または育毛促進組成物を適用する対象は、毛を有する任意の動物である。対象は、具体的には、鳥類、哺乳動物などが挙げられるが、これに限定されない。ある態様において、対象は、哺乳動物であり、例えばイヌ、ネコ、ウマ、ヒツジ、ウシ、およびヒトが挙げられる。
【0026】
本発明の発毛および/または育毛促進組成物を適用する方法に制限はない。ある態様において、本発明の発毛および/または育毛促進組成物を、直接適用部に塗布する。また別の態様において、本発明の発毛および/または育毛促進組成物を、放散容器を用いて、適用部に処置者が直接触れずに適用する。この場合用いられる放散容器は、本発明の発毛および/または育毛促進組成物を散布することができる任意の容器であり、例えば、点眼用スポイト容器やスプレー容器を転用しても良い。
【0027】
本発明はまた、サルファ剤とキトサン剤と必要に応じて賦形剤とを混合することを含む、本発明の発毛および/または育毛促進組成物の製造方法を提供する。
【0028】
本発明の製造方法において好適に用いられる原料は、本発明の発毛および/または育毛促進組成物において例示した各化合物等が挙げられる。
【0029】
本発明の製造方法において用いられる各原料の入手方法は、特に限定されない。キトサン剤については、キチン質を公知の方法で脱アセチル化することによって得ても良い。
【0030】
本発明の製造方法における混合方法は、サルファ剤とキトサン剤が均一に混合されれば特に制限は無い。ある態様において、混合容器に比重の軽いキトサン剤をまず初めにいれ、次に比重の重いサルファ剤を入れて撹拌混合する。この態様によって、より早く均一に混合される。
【0031】
本発明はまた、対象の発毛および/または育毛を望む部位にキトサン剤と別々にまたは同時に適用するための散剤のサルファ剤を提供する。
【0032】
本発明のサルファ剤は、具体的には本発明の発毛および/または育毛促進組成物において例示したサルファ剤が挙げられる。
【0033】
本発明はまた、対象の発毛および/または育毛を望む部位にサルファ剤と別々にまたは同時に適用するための散剤のキトサン剤を提供する。
【0034】
本発明の散剤のキトサン剤は、具体的には本発明の発毛および/または育毛促進組成物において例示したキトサン剤が挙げられる。
【0035】
本発明はまた、サルファ剤、キトサン剤および場合により放散容器を含む、発毛および/または育毛促進キットを提供する。
【0036】
ある態様において、本発明の発毛および/または育毛促進キットは、放散容器を含む。放散容器は、本発明の発毛および/または育毛促進組成物を散布することができる任意の容器であり、例えば、点眼用スポイト容器またはスプレー容器である。
【0037】
本発明の発毛および/または育毛促進キットにおいて好適なサルファ剤およびキトサン剤は、本発明の発毛および/または育毛促進組成物において例示した各化合物等が挙げられる。
【0038】
本発明は、対象の発毛および/または育毛を促進するための方法であって、工程
a)対象の発毛および/または育毛を望む部位にサルファ剤およびキトサン剤を、別々にまたは同時に適用する工程を含む、方法を提供する。
【0039】
この方法により、従来の育毛方法よりも簡便かつ効果的に発毛および/または育毛を促進することが出来る。
【0040】
本発明の方法において、サルファ剤およびキトサン剤は、別々に適用しても良いし、同時に適用しても良い。同時に適用する場合は、本発明の治療用組成物を用いることができ、好ましい。
【0041】
本発明の方法で適用されるサルファ剤およびキトサン剤は、本発明の治療用組成物において例示した各化合物が挙げられる。
【0042】
本発明の方法において、ある態様では、サルファ剤およびキトサン剤を、直接適用することができる。また別の態様においては、適用する際に放散容器を用いることができる。放散容器は、本発明の発毛および/または育毛促進組成物を噴霧することができる任意の容器であり、例えば、点眼用スポイト容器またはスプレー容器である。
【0043】
本発明の方法において、サルファ剤およびキトサン剤の適用時または適用後に、適用部位をパッティングしてもよい。パッティングの強さおよび頻度は、適用部位の状態に応じて任意に調節し得る。
【0044】
本発明の方法における脱毛症は、本発明の発毛および/または育毛促進組成物を適用することできる脱毛症である。
【0045】
本発明の方法における対象は、本発明の発毛および/または育毛促進組成物を適用することができる対象である。より好ましくは、ヒトを除く任意の動物、さらに好ましくは、ヒトを除く哺乳動物である。
【0046】
本発明の方法におけるサルファ剤およびキトサン剤の適用量は、本発明の効果を奏する限り制限はない。適用量は、例えば、本発明の発毛および/または育毛促進組成物が発毛および/または育毛を望む部位に触れる程度で十分である。
【0047】
本発明の方法の適用回数および頻度は、本発明の効果を奏する限り制限はない。ある態様において、適用する頻度は、1日に1、2、3、4、5回、または2日に1回、3日に1回、4日に1回、5日に1回、6日に1回、1週間に1回である。
【実施例】
【0048】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
[サルファ剤およびキトサン剤を含む合剤散剤(drug combination powder)および合剤懸濁液(drug combination suspension)の調製]
サルファ剤としてダイメトン散20%を用いた(Meiji Seikaファルマ、日本)。ダイメトン散は100g中に、スルファモノメトキシン20gを含有する散剤である。
キトサン剤として、高分子キトサン(フローナックH、日本水産株式会社、日本)、低分子キトサン(フローナック C−100M、日本水産株式会社、日本)、キチンオリゴ糖がそれぞれ重量比39:59:2で混合されている紛体を使用した(モリケンショウ、日本)。なお、高分子キトサンおよび低分子キトサンの精製度(脱アセチル化度)は共に約90%であり、脱アセチル化されていないキチン質が約10%含まれていると思われる。
【0050】
サルファ剤およびキトサン剤を含む合剤散剤を以下のように調整した:
合剤散剤 体積比1:1 10ml
ダイメトン散 3.5g(スルファモノメトキシン0.7g)
キトサン剤 1.5g
10ml点眼瓶にキトサン剤、ダイメトン散を順番に入れ、よく振り混ぜて混合した。
【0051】
サルファ剤およびキトサン剤を含む合剤液剤を、上記合剤散剤を水道水に1%(重量/容量)で懸濁することにより調製した。
【0052】
[症例1:ネコにおける合剤散剤による処置]
皮下組織に及ぶ創傷により皮膚欠損をした推定15歳の避妊済み雌三毛ネコを、合剤散剤で処置した。合剤散剤を、1日1回創傷部を覆うように塗布した。処置前の状態を
図1Aに示す。創傷部の周りは、処置が容易になるように剃毛した。処置開始から20日経過後、創傷部が再生治癒してくると、再生部から有色発毛が認められ、またその発毛速度は剃毛部よりも創傷治癒部の方が速かった(
図1B)。処置開始から27日経過すると、創傷部が全て上皮に覆われ、三毛模様の毛が認められた。更に処置を続け17日経過すると、完全に創傷部は完全に治癒し、元創傷部の毛並みは、通常の部位の毛並みと区別がつかなくなった(
図1D)。
【0053】
[治療例2:イヌにおける合剤液剤による処置]
脂漏性皮膚炎・甲状腺機能低下症を併発したことに起因して脱毛したと思われる推定6歳の去勢済み雄イヌを、合剤液剤で処置した。合剤液剤を、1日1回パッティングしながら全身に塗布した。また、週1回シャンプーを処置した。処置前の状態を
図2AおよびBに示す。全身の毛の充実度が低く(
図2A)、アンダーコートが喪失して剛毛のみとなっていた(
図2B)。処置開始から39日経過後、全身の毛量が増加した(
図2C)。また、アンダーコートが認められるようになった(
図2D)。更に処置を続け24日経過すると、皮膚炎が生じていたが、毛量は十分量に維持されていた(
図2E)。
【0054】
[治療例3:イヌにおける円形脱毛の合剤液剤による処置]
アレルギー性皮膚炎による発赤を伴う円形脱毛が生じた推定9歳の避妊済み雌イヌを、合剤液剤で処置した。合剤液剤を、5日に1回パッティングしながら全身に塗布した。また、10日に1回シャンプーを処置した。処置前の状態を
図3AおよびBに示す。トリミングを施し全身の毛を短く刈り込んだところ、背面に複数個所で皮膚炎発赤が認められ、発赤部分が円形に脱毛していることが認められた(
図3B)。処置開始から68日経過後、発赤が消失し、育毛が認められた(
図3CおよびD)。興味深いことに、処置前に刈り込んだ部分よりも、発赤があった箇所の方が、より濃く長い毛が認められた(
図3D)。更に23日経過後、発赤があった箇所が分からないほど、全身の毛が充実した(
図3EおよびF)。
【0055】
[治療例4:ネコにおける眼球摘出処置後の縫合部の合剤による処置]
眼窩膿腫の推定15歳の避妊済み雌ネコに、眼球摘出処置を施した。処置前の状態を
図4Aに示す。剃毛により、特に上まぶたに激しい炎症が認められた(
図4B)。眼球摘出処置において、眼球摘出後に眼窩に合剤散剤をふりかけ、腹部に有していた脂肪腫を眼窩に挿入後、縫合した。摘出処置後、合剤散剤を、1日1回縫合部周辺に塗布した。処置開始から28日経過後、縫合部周辺の剃毛部から、通常の育毛速度よりも早い速度で育毛している毛が認められた(
図4C)。合剤散剤処置を継続して更に7日経過後、炎症が激しかった上まぶた部分により多くの育毛が認められた(
図4DおよびE)。
【0056】
[治療例5:イヌにおける原因不明の脱毛の合剤液剤による処置]
原因不明の脱毛症状を有する推定5歳の避妊済み雌イヌを、合剤液剤で処置した。処置前の状態を
図5Aに示す。左背側部に広範に脱毛が認められるが、炎症症状は認められなかった。2日から3日に1回合剤液剤をパッティングしながら脱毛部位周辺に塗布した。処置開始から69日後、脱毛部位から発毛が認められた(
図5B)。処置を続けて更に34日経過後、元の脱毛部位が区別つかなくなるほど育毛し、毛並みが改善された(
図5C)。