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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-160843(P2015-160843A)
(43)【公開日】2015年9月7日
(54)【発明の名称】糖化反応阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/18 20060101AFI20150811BHJP
   A61K 36/48 20060101ALI20150811BHJP
   A61K 36/53 20060101ALI20150811BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20150811BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20150811BHJP
   A61K 8/97 20060101ALI20150811BHJP
【FI】
   A61K35/78 C
   A61K35/78 J
   A61K35/78 Q
   A61P43/00 111
   A61P17/00
   A61K8/97
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-38751(P2014-38751)
(22)【出願日】2014年2月28日
(71)【出願人】
【識別番号】398028503
【氏名又は名称】株式会社東洋新薬
(71)【出願人】
【識別番号】591065549
【氏名又は名称】福岡県
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 晃
(72)【発明者】
【氏名】川口 友彰
【テーマコード(参考)】
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4C083AA111
4C083AA112
4C083CC02
4C083EE11
4C088AB12
4C088AB59
4C088AB83
4C088AC01
4C088AC04
4C088MA52
4C088MA63
4C088NA14
4C088ZA89
4C088ZC41
(57)【要約】
【課題】優れた糖化反応阻害作用、特に糖化反応における中間体と、アミノ酸、ペプチド、タンパク質またはこれらの塩との反応を阻害する、糖化反応阻害剤を提供する。
【解決手段】本発明は、カニステル、アテモヤ、ソラマメ、ココヤシ、クミスクチンからなる群より選択される1種以上の植物又はその加工物を含有する、糖化反応阻害剤である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カニステル、アテモヤ、ソラマメ、ココヤシ、クミスクチンからなる群より選択される1種以上の植物又はその加工物を含有する、糖化反応阻害剤。
【請求項2】
糖化反応における中間体と、アミノ酸、ペプチド、タンパク質又はこれらの塩との反応を阻害する、請求項1に記載の糖化反応阻害剤。
【請求項3】
前記中間体が、メチルグリオキサールである、請求項1又は2に記載の糖化反応阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖化反応阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質は、生体内で種々の生理作用を担っている。しかしながら、生体内では、組織中のタンパク質やアミノ酸が糖化する、メイラード反応または糖化反応と言われる反応が生じており、場合によっては、異常タンパク質となって体内に蓄積される場合がある。たとえば、加齢による代謝機能の低下や糖尿病発症による高血糖状態が続くと、生体内で糖化反応が徐々に進行し、各組織におけるタンパク質の正常な機能が損なわれる。糖化反応が生じると、最終的には糖化最終生成物(AGE;Advanced Glycation End-products)と言われる不可逆的な化合物を形成し、各組織に沈着したり、血管内皮細胞に局在するAGE受容体と結合したりして、様々な疾患を引き起こすことが知られている。
【0003】
タンパク質の糖化が一因となり得ると考えられている疾患として、糖尿病合併症、腎症、網膜症、神経障害、アルツハイマー病、動脈硬化症、悪性腫瘍、骨疾患、神経変性疾患等が知られている。また、皮膚の老化もタンパク質の糖化が一因であると考えられている。
【0004】
さらに、タンパク質及び糖を含む飲食品においては、例えば、保存中に糖化反応により飲食品の褐変や沈殿等を生じるといった問題がある。したがって、タンパク質の糖化を阻害することは、これらの疾患や症状の予防・治療、また保存中の飲食品の変性を防止するのに有効であると考えられており、これまでに様々な研究がなされ、糖化反応阻害剤として種々の有効成分が知られている(特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−213021号公報
【特許文献2】特開2013−23487号公報
【特許文献3】特開2009−84214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
糖化反応の反応経路としては、グルコースなどの還元糖がタンパク質やアミノ酸と反応して、生成したアマドリ化合物が脱水や加水分解等することによって生じるメチルグリオキサール(MGO)、3−デオキシグルコソン(3−DG)などの中間体と、タンパク質やアミノ酸とが反応し、脱水・重合反応を経てAGEを生成する経路が知られている。また、グルコースの自動酸化物や分解産物によって生成されるグリオキサール(GO)などのカルボニル化合物が、タンパク質やアミノ酸と反応し、脱水・重合反応を経てAGEを生成する経路が知られている。AGEとしては、グルコース由来AGE、グリセルアルデヒド由来AGE、グリコールアルデヒド由来AGE、MGO由来AGE、GO由来AGE、3−DG由来AGEが知られている。
【0007】
特許文献1〜3などに記載されている、糖化反応を阻害する物質を探索するこれまでの多くの研究においては、糖化最終生成物(AGE)に着目し、糖化最終生成物(AGE)の生成量によって糖化反応の阻害効果を判定している。しかしながら、糖化反応の中間体の反応経路に着目して、かかる反応を阻害することにより糖化反応を阻害する物質を探索する研究はほとんどなされていない。
【0008】
本発明は、糖化反応における中間体と、タンパク質やアミノ酸との反応を阻害することにより糖化反応を阻害する糖化反応阻害剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決すべく、本発明者らが鋭意検討した結果、特定の植物抽出物が、糖化反応における、アミノ酸、ペプチド、タンパク質またはこれらの塩と、メチルグリオキサール(MGO)とが反応して糖化反応生成物を生成する反応を阻害することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、カニステル、アテモヤ、ソラマメ、ココヤシ、クミスクチンからなる群より選択される1種以上の植物又はその加工物を含有する、糖化反応阻害剤を提供する。
【0011】
上記糖化反応阻害剤は、糖化反応における中間体と、アミノ酸、ペプチド、タンパク質又はこれらの塩との反応を阻害する作用を有する。前記中間体としては、例えば、メチルグリオキサールが挙げられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、優れた糖化反応阻害作用を有する、糖化反応阻害剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[糖化反応阻害剤]
本発明において、糖化反応阻害とは、糖類がアミノ酸やこれを構成成分とするペプチドもしくはタンパク質及びこれらの塩(以下、「アミノ酸類」とも言う)と反応して生成したアマドリ化合物が酸化、脱水、縮合などの反応を経て、AGEを生成する反応を阻害することを意味する。本発明においては、糖化反応における中間体と、アミノ酸類との反応を阻害することによりAGEの生成を阻害する糖化反応阻害に着目する。糖化反応における中間体と、アミノ酸類との反応によりAGEを生成する反応としては、次のような反応が挙げられる。i)糖類がアミノ酸類と反応して生成したアマドリ化合物が、脱水や加水分解等することによって生成されるメチルグリオキサール(MGO)、3−デオキシグルコソン(3−DG)などの中間体が、アミノ酸類と反応し、脱水・重合反応を経てAGEを生成する反応、ii)グルコースの自動酸化物や分解産物によって生成されるグリオキサール(GO)などのカルボニル化合物を中間体とし、該中間体が、アミノ酸類と反応し、脱水・重合反応を経てAGEを生成する反応。ここで、糖類とは還元糖を意味し、例えば、グルコース、フルクトース、キシロース、アラビノース等の単糖類、マルトース、ラクトース等の二糖類などが挙げられる。
【0014】
本発明においては、特に、中間体であるメチルグリオキサール(MGO)と、アミノ酸類との反応を阻害する作用に優れた糖化反応阻害剤を提供する。
【0015】
(植物又はその加工物)
本発明の糖化反応阻害剤は、カニステル、アテモヤ、ソラマメ、ココヤシ、クミスクチンからなる群より選択される1種以上の植物又はその加工物を有効成分として含有する。
【0016】
本発明で使用する「カニステル」とは、アカテツ科の植物であり、カニステル(Pouteria campechiana Baehni)等を用いることができる。使用する部位としては、糖化反応阻害剤の有効成分として有用である限り限定されないが、種子等が好適に用いられる。
【0017】
本発明で使用する「アテモヤ」とは、バンレイシ科(Annonaceae)、バンレイシ属(Annona)の植物であり、アテモヤ(Annona atemoya)、その他、同属種のバンレイシ(A.squamosa L.)(別名:釈迦頭)、チェリモヤ(A.cherimola)、サワーソップ(A.muricata)(別名:トゲバンレイシ)、カスタードアップル(A.reticulata)(別名:ギュウシンリ)等を用いることができる。使用する部位としては、糖化反応阻害剤の有効成分として有用である限り限定されないが、果皮等が好適に用いられる。
【0018】
本発明で使用する「ソラマメ」とは、マメ科(Leguminosae)、ソラマメ属(Vicia)の植物であり、ソラマメ(Vicia faba)、その他、同属種のヤハズエンドウ(Vicia angustifolia)、スズメノエンドウ(Vicia hirsuta)、カスマグサ(Vicia tetrasperma)等を用いることができる。品種として大粒種、中粒種、小粒種があり、何れの種類のものも、またこれら任意の交配種のものも使用することができる。使用する部位としては、糖化反応阻害剤の有効成分として有用である限り限定されないが、果皮(豆果の皮)等が好適に用いられる。
【0019】
本発明で使用する「ココヤシ」とは、ヤシ科、ココヤシ属(Cocos L.)の植物であり、ココヤシ(C.nucifera L.)、ブラジルヤシ(C.australis、C.capitata)、ブラジルゾウヤシ(C.chilensis、C.lapidea)、オオミヤシ(C.maldivica)、ジョウオウヤシ(C.plumosa、C.romanzoffianum)、C.sclerocarpa、C.yatai等、またこれら任意の交配種のものを使用することができる。好適には、ココヤシ等一般的にココナツと呼ばれているものを用いることができる。使用する部位としては、糖化反応阻害剤の有効成分として有用である限り限定されないが、胚乳(コプラ)等が好適に用いられる。また、一般的にココナツミルクとして市販されているものを用いることもできる。
【0020】
本発明で使用する「クミスクチン」とは、シソ科、ネコノヒゲ属の植物であり、クミスクチン(Orthosiphon aristatus Bl.)等を使用することができる。使用する部位としては、糖化反応阻害剤の有効成分として有用である限り限定されないが、全草等が好適に用いられる。
【0021】
上記植物又はその加工物は、1種または2種以上で本発明の糖化反応阻害剤の有効成分として用いることができる。また、これらの植物は、間引きや摘果等による生産時の廃棄物や、その他加工時に出る廃棄物等を使用しても良い。
【0022】
本発明において植物又はその加工物とは、上記原料の各部位(全草、花、花茎、種子、種皮、果実、果皮、蔕、茎、芽、葉、枝、枝葉、幹、樹皮、樹液、根皮、根茎、根、又はこれらの部位の一部等)を、通常、乾燥後、その形態や目的とする剤型に応じて、粉砕処理、抽出処理、精製処理、濃縮処理、乾燥処理(スプレードライ処理、凍結乾燥処理を含む)等の種々の加工処理に供し、加工物として調製されたものを意味する。
【0023】
本発明における加工物としては、例えば、粉砕加工物(粗紛状、細紛状のいずれでもよい)、各種溶媒で抽出された抽出物、その乾燥物(乾燥抽出物)、さらにこれを粉末にした粉末乾燥抽出物等を挙げることができる。
【0024】
本発明における加工物が粉砕加工物である場合、その製造方法は限定されることはなく、従来公知の方法等により製造することができる。例えば、上記植物の各部位を恒温乾燥(恒温器等を用いた乾燥)、熱風乾燥、凍結乾燥等によって乾燥し、得られた乾燥物を粉砕器等に供し、粉砕加工物とすることができる。
【0025】
本発明における加工物が抽出物である場合、その製造方法は限定されることはなく、従来公知の方法等により製造することができる。例えば、上記植物の各部位をそのまま又は裁断、粉砕等したのち、搾取又は溶媒抽出によって抽出物を得ることができる。溶媒抽出の方法としては、当該技術分野において公知の方法を採用すればよく、例えば、水抽出、熱水抽出、温水抽出、アルコール抽出、超臨界抽出等の従来公知の抽出方法を利用することができる。
【0026】
溶媒抽出を行う場合、溶媒としては例えば水;メタノール、無水エタノール、エタノール等の低級アルコールや、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール等の多価アルコール等のアルコール類(無水、含水を問わない);アセトン等のケトン類、ジエチルエーテル、ジオキサン、アセトニトリル、酢酸エチルエステル等のエステル類、キシレン、ベンゼン、クロロホルム等が挙げられ、好ましくは水、エタノール等である。これらの溶媒を1種単独で用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
得られた抽出物をそのままの状態で使用してもよく、又は、乾燥させて粉末状にしたものを用いてもよい。また、必要に応じて得られた抽出物に精製、濃縮処理等を施してもよい。精製処理としては、濾過又はイオン交換樹脂や活性炭カラム等を用いた吸着、脱色といった処理を行うことができる。また、濃縮処理としては、エバポレーター等の常法を利用できる。
【0028】
または、得られた抽出物(又は精製処理物若しくは濃縮物)を凍結乾燥処理に供して粉末化する方法、デキストリン、コーンスターチ、アラビアゴム等の賦形剤を添加してスプレードライ処理により粉末化する方法等、従来公知の方法に従って粉末化し、本発明で用いる加工物としてもよい。また、該加工物を、必要に応じて純水、エタノール等に溶解して用いてもよい。
【0029】
本発明で用いられる植物由来の加工物として、簡便には、商業的に入手可能なものを用いてもよい。
【0030】
本発明の糖化反応阻害剤における加工物の配合量は、本発明の効果が奏される限り特に限定されないが、例えば、加工物の乾燥重量換算で0.0001〜100重量%、好ましくは0.001〜50重量%、より好ましくは0.01〜20重量%である。
【0031】
(その他の成分)
本発明の糖化反応阻害剤においては、上記有効成分を単独で使用することもできるが、上記成分以外に従来公知の油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、金属石鹸、pH調整剤、防腐剤、香料、粉体、紫外線吸収剤、増粘剤、色素、酸化防止剤、糖化反応阻害剤、キレート剤等の成分を配合することができる。
【0032】
(用途)
本発明の糖化反応阻害剤は、例えば、経口投与または摂取用の組成物や、皮膚外用組成物に含有させて使用することができる。本発明の糖化反応阻害剤の配合量は、配合される製品の種類、投与または摂取の対象の年齢、性別、体重、状態、投与時間、剤形、投与または摂取の方法、時期などに応じて適宜設定され得る。経口投与または摂取用の組成物や、皮膚外用組成物中の糖化反応阻害剤の有効成分である植物又はその加工物の含有量は、加工物の乾燥重量換算で0.0001〜100重量%、好ましくは0.001〜50重量%、より好ましくは0.01〜20重量%である。
【0033】
経口投与または摂取用の組成物は、需要者の嗜好に合わせて、ハードカプセル、ソフトカプセルのようなカプセル剤、錠剤、丸剤などの剤形、または粉末状、顆粒状、飴状などの形状に成形され得る。また、溶液、懸濁液、または乳液のような液状の剤形もしくは形状にも調製され得る。経口投与または摂取用の組成物は、医薬品、医薬部外品、特定保健用食品、栄養補助食品、その他の飲食品などとして用いる、あるいはこれらに配合して用いることができる。経口投与または摂取用の組成物は、剤形もしくは形状または好みに応じて、そのまま食されても良いし、水、湯、牛乳、豆乳、茶、ジュースなどに溶かして飲んでも良い。
【0034】
本発明の糖化反応阻害剤を含む組成物を日常的に摂取することによって、生体内でのアミノ酸類の糖化に起因する疾患又は症状の予防又は改善を期待できる。
【0035】
また、本発明の糖化反応阻害剤を含む組成物が、アミノ酸、ペプチド、タンパク質またはこれらの塩を含む場合には、糖化反応阻害剤を含むことにより、アミノ酸類の糖化反応が抑制され、飲食品において、褐変、沈殿等を抑制することができ、品質安定性を向上させることができる。
【0036】
皮膚外用組成物は、ローション剤、乳剤、ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤などの種々の形態に加工され得る。皮膚外用剤組成物は、化粧品、医薬品、医薬部外品などとして利用される。具体的には、本発明で使用する糖化反応阻害剤は、化粧水、化粧クリーム、乳液、クリーム、パック、ヘアトニック、ヘアクリーム、シャンプー、ヘアリンス、トリートメント、ボディシャンプー、洗顔剤、石鹸、ファンデーション、育毛剤、水性軟膏、スプレーに含有させて利用することができる。
【0037】
本発明の糖化反応阻害剤は、優れた糖化反応阻害作用を有することから、これを含む皮膚外用組成物は、皮膚におけるアミノ酸類の糖化を阻害し、シワ、シミ、たるみの発生等といった皮膚の老化を防止することができる。また、皮膚の老化を防止することによって、結果として皮膚のツヤやハリを良くする効果が期待できる。
【実施例】
【0038】
以下、試験例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0039】
[植物由来の加工物の調製]
下記表1に示される植物由来の加工物を、植物原料を凍結乾燥した後に、粉砕したものを抽出用植物原料として、水抽出、または熱水抽出により、植物抽出物を調製した。
【0040】
水抽出は、超純水20mLに抽出用植物原料1gを添加し、5分間超音波にかけた後、4℃の温度に保った状態で、一晩攪拌した後に遠心分離(回転数3000rpm、20分間)を行なった。その後、上清を回収した。また、沈殿物については、これを超純水10mLに添加して、再度遠心分離を行ない(回転数3000rpm、20分間)、その上清について、先の遠心分離で回収した上清に添加した。このようにして回収した上清を凍結乾燥した後に冷凍保存したものを植物抽出物とした。
【0041】
熱水抽出は、水抽出における、4℃の温度に保った状態で、一晩攪拌した後に遠心分離する工程を、95℃の温度に保った状態で1時間攪拌した後に、遠心分離(回転数3000rpm、20分間)する工程に代えた点以外は、水抽出と同様に行ない、回収した上清を凍結乾燥した後に冷凍保存したものを植物抽出物とした。
【0042】
[糖化反応阻害率算出方法]
糖化反応の一つの経路として、中間体であるメチルグリオキサール(MGO)とタンパク質とが反応してMGO−タンパク質結合体が形成される反応がある。その後、かかるMGO−タンパク質結合体は、酸化、脱水、縮合などを経て糖化最終生成物(AGE)を形成する。なお、MGO−タンパク質反応産物には蛍光を発するものがある。したがって、植物抽出物の添加によるMGO−タンパク質反応産物由来の蛍光強度の変化を測定することにより、MGO−タンパク質反応産物の生成の阻害率を算出することができ、MGOに由来する糖化反応阻害率を算出することができる。なお、植物抽出物には、蛍光を発するものや、光を吸収するものがあり、タンパク質に吸着するものがある。そのためMGO−タンパク質反応産物に吸着しない成分の影響はトリクロロ酢酸によりMGO−タンパク質反応産物を沈殿させて除去し、吸着する成分については植物抽出物に由来する消光率を測定し、見かけの阻害率から、消光率を減じることにより、真の阻害率を算出することができる。
【0043】
[糖化反応阻害試験]
(1)見かけの阻害率算出
下記表1に示される、水抽出または熱水抽出の植物抽出物を、40mg/mLとなるように0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)に溶解し植物抽出物溶液とした。エタノール抽出の植物抽出物はそのまま用いた。60mMメチルグリオキサール(MGO)50μLと、20mg/mL牛血清アルブミン(BSA)50μLと、植物抽出物溶液または植物抽出物を、植物抽出物が表1に記載の終濃度(1.7mg/mL、3.3mg/mL、6.7mg/mL、13.3mg/mL)となるように50μL添加して、37℃の温度で1週間放置し、反応させた。反応終了後、100%(w/v)トリクロロ酢酸溶液を17μL加えて攪拌し、遠心分離(回転数1800rpm、10分間)を行なった。その後、上清を吸引除去し、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)にて洗浄し、リン酸緩衝液を吸引除去した。その後、沈殿にアルカリ性リン酸緩衝液(pH10.0)を200μL加えて溶解し、これを測定試料とした。
【0044】
また、試料植物抽出物溶液または植物抽出物の代わりに0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)を50μL添加したものを対照物とした。
【0045】
蛍光プレートリーダー(装置名:ARVO−MX、パーキンエルマー社製)を用いて、励起フィルタを355/40nm、蛍光フィルタを460/25nmとして、各測定試料の蛍光強度(Is)、ブランクの蛍光強度(Ib)、および対照物の蛍光強度(Ic)を測定し、次の式1:
見かけの阻害率(%)=100−{(Is−Ib)/(Ic−Ib)}×100
により、見かけの阻害率を算出した。
【0046】
(2)消光率算出
0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)50μLに、かかる緩衝液で調製した60mMメチルグリオキサール(MGO)50μLと、20mg/mL牛血清アルブミン(BSA)50μLとを混合し37℃の温度で1週間放置して反応させた。その後、植物抽出物溶液または植物抽出物を、表1に記載の終濃度(1.7mg/mL、3.3mg/mL、6.7mg/mL、13.3mg/mL)となるように添加して、1日放置した後に、トリクロロ酢酸溶液17μLを加えて攪拌し、遠心分離(回転数1800rpm、10分間)を行なった。その後、上清を吸引除去し、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)にて洗浄し、リン酸緩衝液を吸引除去した。その後、沈殿にアルカリ性リン酸緩衝液(pH10.0)を200μL加えて溶解し、これを測定試料とした。
【0047】
また、試料植物抽出物溶液または植物抽出物の代わりに0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)を50μL添加したものを対照物とした。
【0048】
上記(1)と同様の方法により、各測定試料の蛍光強度(I’s)、対照物の蛍光強度(I’c)を測定し、次の式2:
消光率(%)={(I'c−I's)/(I'c)}×100
により、消光率を算出した。
【0049】
(3)真の阻害率算出
MGO−BSA反応産物の蛍光強度に基づく真の阻害率について、MGO−BSA反応産物以外の成分に由来する蛍光の発生または蛍光の消光の影響を排除する次の式3:
真の阻害率(%)=見かけの阻害率(%)−消光率(%)
により算出した。
【0050】
[結果]
上記にて測定・算出した各植物抽出物の真の阻害率を糖化反応阻害率として以下の表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1に示すように、表1に示される各植物抽出物はいずれもMGO−BSA結合体形成阻害作用、すなわち糖化反応阻害作用を示した。特に、ココヤシ(果実の胚乳(コプラ))、アテモヤ(皮)、カニステル(種)は、AGEsの生成阻害やカルボニル化合物の捕捉作用を有することが知られているアミノグアニジン3mMの阻害率(約30%)と同等乃至それ以上の阻害率を有しており、優れた糖化反応阻害作用を示した。優れた糖化反応阻害作用を示した。
【0053】
なお、ソラマメ、ココヤシ、アテモヤ、カニステルについて、表1に示す部位以外の部位を用いて、上記と同様に糖化反応阻害率を求める実験を行なったが、特に表1に示す部位が優れた糖化反応阻害作用を示した。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の糖化反応阻害剤は、特定の植物又はその加工物を含有することにより、優れた糖化反応阻害作用を有する。本発明の糖化反応阻害剤は、そのまま又は種々の成分を加えて、経口投与または摂取用の組成物や、皮膚外用組成物に含有させて好適に用いることができる。