【解決手段】糸外しレバー28は、紡績糸10に接触可能な接触面30を有するとともに、当該接触面30を待機位置と糸外し位置の間で移動させることが可能であり、当該接触面30を前記糸外し位置まで移動させることにより糸掛け部材22から紡績糸10を外す。接触面30は、第1部分31と、当該接触面30の移動方向で前記第1部分31よりも下流寄りに位置する第2部分32と、を有する。接触面30を前記糸外し位置まで移動させた状態において、第1部分31の少なくとも一部は、糸貯留ローラ21の下流側端部21aよりも糸の走行方向の下流寄りに位置している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明の一実施形態に係る精紡機(糸巻取機)について、図面を参照して説明する。
図1に示す糸巻取機としての精紡機1は、並設された多数の紡績ユニット(糸巻取ユニット)2と、糸継台車(作業台車)3を備えている。
【0024】
図1に示すように、各紡績ユニット2は、上流から下流へ向かって順に配置された、ドラフト装置7と、紡績装置9と、糸貯留装置12と、巻取装置13と、を備えている。本明細書において単に「上流」及び「下流」と言った場合は、紡績時での繊維束及び糸の走行方向における上流及び下流を意味する。各紡績ユニット2は、ドラフト装置7から送られてくる繊維束8を紡績装置9で紡績して紡績糸10を生成し、この紡績糸10を巻取装置13で巻き取ってパッケージ45を形成する。
【0025】
ドラフト装置7は、スライバ15を延伸して繊維束8にする。このドラフト装置7は
図2に示すように、上流側から順に、バックローラ対16、サードローラ対17、エプロンベルト18を装架したミドルローラ対19、及びフロントローラ対20の4つのローラ対を備えている。
【0026】
フロントローラ20のすぐ下流側には、紡績装置9が配置されている。ドラフト装置7からの繊維束8は、紡績装置9に供給される。紡績装置9は、ドラフト装置7から供給された繊維束8に撚りを加えて、紡績糸10を生成する。本実施形態では、旋回空気流を利用して繊維束8に撚りを与える空気式の紡績装置を採用している。
【0027】
紡績装置9の下流側には、巻取装置13が配置されている。巻取装置13は、支軸73まわりに揺動可能に支持されたクレードルアーム71を備える。このクレードルアーム71は、紡績糸10を巻回するためのボビン48を回転可能に支持することができる。
【0028】
前記巻取装置13は、巻取ドラム72と、トラバース装置75と、を備えている。巻取ドラム72は、前記ボビン48の外周面又はボビン48に紡績糸10を巻回して形成されるパッケージ45の外周面に接触して駆動される。トラバース装置75は、紡績糸10に係合可能なトラバースガイド76を備えている。巻取装置13は、トラバースガイド76を図略の駆動装置によって往復動させながら巻取ドラム72を図略の電動モータによって駆動することで、巻取ドラム72に接触するパッケージ45を回転させ、紡績糸10を綾振りしつつ巻き取る。
【0029】
紡績装置9と巻取装置13との間には、糸貯留装置12が設けられている。糸貯留装置12は、
図2に示すように、糸貯留ローラ21と、当該糸貯留ローラ21を回転駆動する電動モータ25と、を備えている。
【0030】
糸貯留ローラ21は、紡績糸10が外周面に巻き付けられた状態で回転駆動されるローラ状の部材である。これにより、走行する紡績糸10を、当該糸貯留ローラ21の周面に巻き付けて一時的に貯留することができる。このように、糸貯留装置12に紡績糸10を一時的に貯留することにより、当該糸貯留装置12を一種のバッファとして機能させることができる。これにより、紡績装置9における紡績速度と、巻取装置13における巻取速度と、が何らかの理由により一致しない場合の不具合(例えば紡績糸10の弛みなど)を解消することができる。
【0031】
紡績装置9と糸貯留装置12との間の位置には、ヤーンクリアラ(糸品質測定器)52が設けられている。紡績装置9で紡出された紡績糸10は、糸貯留装置12で巻き取られる前に前記ヤーンクリアラ52を通過する。ヤーンクリアラ52は、走行する紡績糸10を図略の光学式センサによって監視し、紡績糸10の糸欠陥(紡績糸10の太さなどに異常がある箇所)を検出した場合に、糸欠陥検出信号を図示しないユニットコントローラへ送信する。ヤーンクリアラ52は、静電容量式センサを備えていてもよく、糸欠陥として紡績糸10に含まれる異物の有無を検出してもよい。
【0032】
糸継台車3は、紡績ユニット2が並ぶ方向(
図1の左右方向)に走行可能である。
図1及び
図2に示すように、糸継台車3は、スプライサ(糸継装置)43と、糸捕捉部材44,46を備えている。糸継台車3は、ある紡績ユニット2で糸切れ又は糸切断が発生すると、当該紡績ユニット2まで走行する。そして、糸継台車3は、切れた紡績糸10の糸端を糸捕捉部材44,46によって吸引捕捉するとともに、当該糸端をスプライサ43に案内する。スプライサ43は、案内された糸端同士を接続する(糸継動作)。このスプライサ43による糸継動作が行われているときの様子を、
図10に示す。
【0033】
続いて、糸貯留装置12の構成について、
図2、
図3及び
図4等を参照してより詳しく説明する。
図2、
図3に示すように、糸貯留装置12は、前述の糸貯留ローラ21に加えて、糸掛け部材22と、下流側ガイド26と、糸外しレバー(糸外し部材)28と、を備えている。
【0034】
糸掛け部材22は、糸貯留ローラ21の、紡績糸10の走行方向下流側の端部に設けられている。なお、糸貯留装置12において、紡績糸10は、糸貯留ローラ21の周囲に巻き付いて走行するので、厳密に言えば、紡績糸10は螺旋状に走行する。本明細書において、糸貯留装置12に関する説明のなかで「紡績糸10の走行方向」と言った場合には、螺旋状に走行する紡績糸10の走行方向のうち、糸貯留ローラ21の軸線と平行な成分が向く方向を言う。例えば
図4(b)において、「紡績糸10の走行方向」は左向き(太線の矢印で示す方向)である。
【0035】
糸掛け部材22は、フライヤー軸33と、フライヤー38と、を備えている。
【0036】
フライヤー軸33は、基端部を中心として、糸貯留ローラ21の回転軸まわりで、当該糸貯留ローラ21に対して相対回転できるように構成されている。また、フライヤー軸33と、糸貯留ローラ21の回転軸との間には、所定の抵抗トルクが付与されている。従って、前記抵抗トルクに打ち勝つ力がフライヤー軸33に加わらない限り、糸掛け部材22は糸貯留ローラ21と一体的に回転する。
【0037】
フライヤー38は、フライヤー軸33の先端に固定されている。フライヤー38は、紡績糸10に係合する(引っ掛ける)ことが可能な形状に形成されている。より具体的には、フライヤー38は、フック状(鉤状)に形成されている。
図4(a)に示すように、糸貯留ローラ21の回転軸方向で見たときに、フック状のフライヤー38の先端38aは、糸貯留ローラ21の回転方向の下流側を向いている。
【0038】
また、
図4(b)に示すように、糸貯留ローラ21の回転軸に直交する方向で見たときに、フック状のフライヤー38の先端38aは、紡績糸10の走行方向の上流側を向いている。
図4(b)に示すように、本実施形態において、フライヤー38の先端38aは、糸貯留ローラ21の下流側端部21aよりも上流側に位置している。
【0039】
このように形成されたフライヤー38により、走行する紡績糸10を引っ掛けることができる。そして、フライヤー38に紡績糸10を引っ掛けた状態で、糸掛け部材22が糸貯留ローラ21と一体的に回転することにより、当該糸貯留ローラ21の周囲に紡績糸10を巻き付けていくことができる。
【0040】
一方、前述の抵抗トルクに打ち勝つような力が糸掛け部材22に加わった場合は、糸掛け部材22は糸貯留ローラ21に対して相対的に回転することになる。これにより、紡績糸10を引っ掛けたフライヤー38が、糸貯留ローラ21に対して相対回転するので、当該糸貯留ローラ21の下流側端部から紡績糸10を引き出すことができる。
【0041】
下流側ガイド26は、糸貯留ローラ21のやや下流側に配置されている。この下流側ガイド26は、回転するフライヤー38によって振り回される紡績糸10の軌道を規制する。これより、下流側ガイド26は、下流側の紡績糸10の走行経路を安定させて、紡績糸10を案内する。
【0042】
糸外しレバー28は、
図3に示すように、略水平に配置された細長い接触面30を有する略L字型の部材として形成されている。なお、本実施形態の糸外しレバー28は、
図3に示すように、板金部材を所定形状にカットして適宜折り曲げた形状となっている。前記接触面30は、前記板金部材の端面部分によって構成されており、当該接触面30は幅一定となっている。
【0043】
糸外しレバー28の基部は揺動軸29によって支持されている。糸外しレバー28は、前記揺動軸29を中心に回動することで、接触面30を、
図4に実線で示す待機位置と、
図4に鎖線で示す糸外し位置と、に移動させることができる。なお、接触面30が待機位置から糸外し位置に向けて移動する方向を、当該接触面30の「移動方向」と呼ぶ(
図4参照)。
【0044】
図4(b)に示すように、接触面30は、紡績糸10の走行方向における糸貯留ローラ21の下流側の端部21aの近傍に配置されている。接触面30が待機位置にあるとき、糸外しレバー28は、紡績糸10の糸道に接触しない状態にある。この状態から糸外しレバー28を回動させて、接触面30を糸外し位置まで移動させることにより、フライヤー38に引っ掛かっている紡績糸10を、当該フライヤー38から外すことができる。なお、フライヤー38から紡績糸10が外れる様子については、後ほど説明する。
【0045】
糸外しレバー28は、図略のバネ部材によって付勢されることにより、接触面30が待機位置に保持される。
【0046】
本実施形態において、糸外しレバー28は、糸継台車3が備える駆動源(本実施形態の場合は空気圧シリンダ49)によって駆動される。即ち、
図10に示すように、糸継台車3が空気圧シリンダ49を伸長させることにより、当該シリンダ49が糸外しレバー28を押す。これにより糸外しレバー28が回動して、接触面30が待機位置から糸外し位置まで移動する。
【0047】
このように、糸継台車3は、空気圧シリンダ49を伸長させて糸外しレバー28を回動させることにより、フライヤー38から紡績糸10を外すことができる。また、糸継台車3は、空気圧シリンダ49を縮退させることにより、上記バネ部材の付勢力によって糸外しレバー28を元の位置に回動させ、接触面30を待機位置に戻すことができる。これにより、紡績糸10は、再びフライヤー38に係合することができる。
【0048】
上記の構成によれば、糸継台車3は、前述の糸継動作時において糸外しレバー28を適宜回動制御できるので、任意のタイミングでフライヤー38から紡績糸10を外し、任意のタイミングでフライヤー38に紡績糸10を係合させることができる。これにより、糸継台車3は、糸継動作を適切に行うことができる。なお、糸継動作時における糸外しレバー28の制御は、例えば特許文献1にあるとおり公知であるから、詳細な説明は省略する。
【0049】
なお、本実施形態では上記のように、糸外しレバー28を回動させるための駆動源(空気圧シリンダ49)を糸継台車3が備えているので、各紡績ユニット2には、糸外しレバー28を回動させるための駆動源を設けていない。これにより、紡績ユニット2を安価に構成でき、精紡機1全体のコストを下げることができる。
【0050】
続いて、糸外しレバー28によってフライヤー38から紡績糸10を外す様子について説明する。
【0051】
接触面30が待機位置から糸外し位置まで移動する方向(移動方向)に糸外しレバー28を回動させると、当該接触面30が、フライヤー38の下流側の紡績糸10(フライヤー38と下流側ガイド26の間の紡績糸10)に接触する。当該接触面30に紡績糸10を接触させた状態で、糸外しレバー28を更に回動させることにより、前記接触面30によって紡績糸10を糸外し位置(
図4の上側)に向けて移動させることができる。なお、以下の説明では、分かり易さを考慮して、紡績糸10を糸外し位置に向けて移動させることを、単に「紡績糸10を押し上げる」と表現することがある(ただしこれは説明の便宜のための表現であり、紡績糸10を移動させる方向を上に限定する意図はない)。
【0052】
例えば
図5(a)において、フライヤー38の先端38aは、糸掛け部材22の回転軸方向で見たときに糸外し位置(
図5の場合は上側)を向いている。従って、この状態から、接触面30を糸外し位置まで移動させるように糸外しレバー28を回動させ、前記接触面30によって紡績糸10を押し上げることにより、当該紡績糸10をフライヤー38から外すことができる(
図5(b)の状態)。このように、フライヤー38の先端38aが、糸外し位置(
図5の場合は上側)を向いているときには、糸外しレバー28を回動させて、接触面30によって紡績糸10を押しあげることにより、当該紡績糸10をフライヤー38から外すことができる。
【0053】
しかしながら、糸掛け部材22は、糸貯留ローラ21とともに回転しているので、フライヤー38が常に
図5の位置にあるとは限らない。従って、フライヤー38の先端38aが向く方向も様々である。例えば
図6(a)において、フライヤー38の先端38aは、糸掛け部材22の回転軸方向で見たときに待機位置(
図6の場合は下側)を向いている。この状態では、接触面30によって紡績糸10を押し上げたとしても、当該紡績糸10をフライヤー38から外すことができない(
図6(b)の状態)。例えば
図6(b)では、接触面30によって紡績糸10を押し上げているにもかかわらず、当該紡績糸10はフライヤー38に引っ掛かったままの状態である。
【0054】
そこで、
図5及び
図6に示すように、糸掛け部材22の回転軸を通り、かつ接触面30の移動方向(
図5及び
図6の上向き)と平行な境界面Aを想定する。そして、境界面Aによって区画される2つの領域のうち、糸掛け部材22の回転軸方向で見たときに、フライヤー38の先端38aが糸外し位置側(接触面30の移動方向の下流側、即ち
図5及び
図6の上側)を向く領域を、糸外し可能領域と呼ぶ。また、境界面Aによって区画される領域のうち、糸掛け部材22の回転軸方向で見たときに、フライヤー38の先端38aが待機位置側(接触面30の移動方向の上流側、即ち
図5及び
図6の下側)を向く領域を、糸外し不能領域と呼ぶ。
【0055】
フライヤー38が糸外し可能領域にあるときは、接触面30によって紡績糸10を押し上げることにより、当該紡績糸10をフライヤー38から外すことができる(
図5)。
【0056】
フライヤー38が糸外し不能領域にあるときには、接触面30によって紡績糸10を押し上げたとしても、当該紡績糸10をフライヤー38から外すことができない(
図6)。ただし前述のように、糸掛け部材22は、糸貯留ローラ21とともに回転しているので、フライヤー38は常に移動している。従って、接触面30によって紡績糸10を押し上げたときに、フライヤー38がどの位置にあったとしても、最終的には紡績糸10をフライヤー38から外すことができる。この様子を、
図7を参照して説明する。
【0057】
例えば
図7(a)のように、接触面30によって紡績糸10を押し上げたときに、フライヤー38が糸外し不能領域にあった場合、紡績糸10はフライヤー38から外れない。この場合、当該フライヤー38は、紡績糸10を引っ掛けた状態のまま、糸掛け部材22の回転に伴って
図7(b)、
図7(c)と移動していく。
【0058】
このとき、移動するフライヤー38によって、前記紡績糸10が、糸外し可能領域(
図7の左側)に向けて引っ張られる。この結果、
図7(b)、
図7(c)、
図7(d)と示すように、紡績糸10は、接触面30上を第1部分31から第2部分32に向けて移動する(なお、第1部分31及び第2部分32については後述する)。
【0059】
そして、フライヤー38は、紡績糸10を引っ掛けた状態のまま、糸外し可能領域に入る(
図7(d))。このように、フライヤー38が糸外し可能領域に入ることにより、フライヤー38の先端38aが糸外し位置(
図7の上側)を向くので、当該フライヤー38から紡績糸10が外れる(
図7(d))。以上のように、接触面30によって紡績糸10を押し上げたときに、フライヤー38が糸外し不能領域にあったとしても、最終的にはフライヤー38から紡績糸10を外すことができる。
【0060】
続いて、本実施形態の特徴的な構成について説明する。
【0061】
図5等に示すように、接触面30のうち、糸外し不能領域に対応している部分を第1部分31と呼び、糸外し可能領域に対応している部分を第2部分32と呼ぶ。
【0062】
第2部分32は、第1部分31よりも、接触面30の移動方向の下流寄り(糸外し位置に近い位置、
図5の上寄り)に位置している。逆に言えば、第1部分31は、第2部分32よりも、接触面30の移動方向で上流寄り(待機位置に近い位置、
図5の下寄り)に位置している。
【0063】
従って、接触面30を糸外し位置まで移動させたときに、第2部分32は、第1部分31よりも高い位置まで紡績糸10を押し上げることができる。なお、ここで「高い」「低い」とは、糸貯留ローラ21の回転軸方向で見たときに、接触面30の移動方向(
図5及び
図6の上向き)の下流側(
図5及び
図6の上側)を上とした場合の高低を言うものとする(ただしこれは説明の便宜のための表現であり、接触面30の移動方向を上向きに限定する意図はない)。
【0064】
以上のように構成したので、フライヤー38が糸外し可能領域にあるときと、糸外し不能領域にあるときで、接触面30によって紡績糸10を押し上げる高さを異ならせることができる。
【0065】
フライヤー38が糸外し可能領域にあるときには、第2部分32によって紡績糸10を比較的高い位置まで押し上げることができる(
図5(b)参照)。これにより、当該紡績糸10を確実にフライヤー38から外すことができる。
【0066】
フライヤー38が糸外し不能領域にあるときには、紡績糸10を高く押し上げたとしても、当該紡績糸10をフライヤー38から外すことはできない。むしろ、フライヤー38が糸外し不能領域にあるときに、紡績糸10を高く押し上げ過ぎると、当該紡績糸10の挙動が不安定となり、糸掛け部材22に絡み付いてしまうなどの不具合の原因になるおそれがある。
【0067】
この点を考慮して、上記のように、接触面30において糸外し不能領域に対応した第1部分31を、第2部分32よりも低くした。従って、フライヤー38が糸外し可能領域にあるときには、紡績糸10は第2部分32によって比較的低い位置までしか押し上げられない(
図6(b)参照)。これにより、紡績糸10が不必要に高い位置まで押し上げられることがない。その結果、紡績糸10の挙動が不安定となることを防止し、当該紡績糸10が糸掛け部材22に絡み付いてしまうなどの不具合を未然に防ぐことができる。
【0068】
また、
図3及び
図4等に示すように、本実施形態の接触面30において、第1部分31と第2部分32とは、滑らかに接続されている。言い換えれば、接触面30は、全体的に曲面状(湾曲状)に形成されており、角(かど)が無いように形成されている。
【0069】
図7に示したように、フライヤー38が糸外し不能領域にある場合、紡績糸10は、第1部分31によって押し上げられる。そして当該紡績糸10は、回転するフライヤー38によって引っ張られることにより、接触面30上で第2部分32(
図7の左側)に向けて移動する。本実施形態では、接触面30において、第1部分31と第2部分32を滑らかに接続したので、紡績糸10を、接触面30上で第2部分32に向けてスムーズに移動させることができる。従って、紡績糸10が接触面30上を移動する際に、当該紡績糸10の挙動が不安定となることを防止できる。これにより、フライヤー38が糸外し可能領域に入ったときに、当該フライヤー38から確実に紡績糸10を外すことができる(
図7(d))。
【0070】
本実施形態においては、
図8に示すように、接触面30を糸外し位置まで移動させた状態では、第2部分32の少なくとも一部が、フライヤー38の先端38aよりも、紡績糸10の走行方向の上流寄りに位置する。
【0071】
前述のように、フライヤー38は、紡績糸10を引っ掛けることができるようにフック状に形成されており、当該フライヤー38の先端38aは、紡績糸10の走行方向の上流側を向いている(
図4(a)及び
図8参照)。従って、当該フライヤー38から紡績糸10を外すためには、当該紡績糸10を、フライヤー38の先端38aよりも紡績糸10の走行方向上流寄りの位置まで移動させる必要がある。
【0072】
本実施形態では上記のように、接触面30を糸外し位置まで移動させたときに、第2部分32の少なくとも一部が、フライヤー38の先端38aよりも紡績糸10の走行方向上流寄りに位置する。これにより、当該第2部分32によって押し上げた紡績糸10を、フライヤー38の先端38aよりも紡績糸10の走行方向上流寄りの位置に移動させる。その結果、当該紡績糸10を、フライヤー38から確実に外すことができる。
【0073】
本実施形態においては、
図8に示すように、接触面30を糸外し位置まで移動させた状態において、第1部分31の少なくとも一部が、糸貯留ローラ21の下流側端部21aよりも紡績糸10の走行方向下流寄りに位置する。
【0074】
この効果について説明するために、
図11に比較例を示す。
図11(a)に示すように、この比較例においては、接触面30を糸外し位置まで移動させた状態において、第1部分31の全域が、糸貯留ローラ21の下流側端部21aよりも紡績糸10の走行方向の上流寄りに位置している。
【0075】
図11の比較例では第1部分31が上記のように配置されているので、当該第1部分31によって紡績糸10が押し上げられた場合、当該第1部分31とフライヤー38の間の紡績糸10は、糸貯留ローラ21の周面に対して半径方向でオーバーラップする位置を通過する。従って、この状態では、糸掛け部材22が回転することにより、前記紡績糸10が糸貯留ローラ21の周囲に巻き付けられてしまう(
図11(b)に示す状態)。このように、
図11の比較例では、第1部分31によって紡績糸10を押し上げたときに、当該紡績糸10が糸貯留ローラ21に巻き付いてしまう場合があるので、当該紡績糸10をフライヤー38から外せなくなる可能性がある。
【0076】
本実施形態では、接触面30を糸外し位置まで移動させた状態において、第1部分31の少なくとも一部が、糸貯留ローラ21の下流側端部21aよりも紡績糸10の走行方向の下流寄りに位置している。従って、本実施形態では、第1部分31によって紡績糸10が押し上げられた場合、当該第1部分31とフライヤー38の間の紡績糸10は、糸貯留ローラ21に対して半径方向でオーバーラップしない。このため、本実施形態においては、第1部分31によって紡績糸10を持ち上げた状態で糸掛け部材22が回転したとしても、当該紡績糸10が糸貯留ローラ21の周囲に巻き付けられることはない(
図7を参照)。
【0077】
このように、本実施形態の構成によれば、接触面30によって押し上げられた紡績糸10が糸貯留ローラ21の周囲に巻き付けられることを防止できる。これにより、フライヤー38から紡績糸10を外せなくなってしまうことがないので、当該紡績糸10をフライヤー38から確実に外すことができる。
【0078】
なお、第2部分32によって紡績糸10が押し上げられた場合、当該紡績糸10は、すぐにフライヤー38から外れるので、当該紡績糸10が糸貯留ローラ21の周囲に巻き付けられてしまうことはない。従って、第2部分32については、糸貯留ローラ21の下流側端部21aよりも紡績糸10の走行方向の上流寄りに位置していても問題はない。本実施形態においては、
図8に示すように、接触面30を糸外し位置まで移動させた状態において、第2部分32の全域が、糸貯留ローラ21の下流側端部21aよりも紡績糸10の走行方向の上流寄りに位置している。
【0079】
以上のように、本実施形態では、糸外しレバー28の形状を工夫することにより、糸外しの確実性を向上させることができる。逆に言えば、糸外しレバー28の加工精度や、当該糸外しレバー28を駆動するための構成(空気圧シリンダ49)の駆動精度が低かったとしても、糸外しの確実性を十分に確保できる。このように、本実施形態の構成によれば、従来に比べて、糸外しレバー28や空気圧シリンダ49の精度が要求されない。これにより、糸外しレバー28及び/又は空気圧シリンダ49を安価に構成でき、精紡機1全体のコストを削減できる。
【0080】
続いて、接触面30の形状についてより詳しく説明する。
【0081】
図9に示すように、接触面30の移動方向(
図9の上向き)において、第1部分31の上流側の端部と、第2部分32の下流側の端部と、の距離をLとする。
【0082】
本願発明は、第1部分31よりも第2部分32を高くすることにより、紡績糸10をフライヤー38から外す際の確実性を向上させるという技術思想であるから、距離Lが小さ過ぎると発明の効果が十分に得られない。
【0083】
一方で、
図7を参照して説明したように、紡績糸10が第1部分31によって押し上げられた場合、当該紡績糸10は、接触面30上を第1部分31から第2部分32に向けて移動する場合がある。紡績糸10を第1部分31から第2部分32に向けてスムーズに移動させるという観点からすると、距離Lを過度に大きくすることはできない。
【0084】
このように、距離Lは、小さすぎても大きすぎても好ましくない。本願発明者の検討によれば、距離Lは、10mm以上20mm以下であることが好ましく、15mmとすれば特に好適である。そこで本実施形態では、距離Lを15mmとしている。
【0085】
以上で説明したように、本実施形態の糸貯留装置12は、糸貯留ローラ21と、糸掛け部材22と、糸外しレバー28と、を備えている。糸貯留ローラ21は、周囲に紡績糸10を巻き付けて回転する。糸掛け部材22は、糸貯留ローラ21と一体的に回転可能であり、紡績糸10に係合可能なフライヤー38を有する。糸外しレバー28は、紡績糸10に接触可能な接触面30を有する。糸外しレバー28は、当該接触面30を待機位置と糸外し位置の間で移動させることが可能であり、当該接触面30を前記糸外し位置まで移動させることにより糸掛け部材22から紡績糸10を外す。接触面30は、第1部分31と、第2部分32と、を有する。接触面30の移動方向において、第1部分31は第2部分32よりも上流寄りに位置している。接触面30を前記糸外し位置まで移動させた状態における第1部分31の少なくとも一部は、糸貯留ローラ21の下流側端部21aよりも紡績糸10の走行方向下流側に位置している。
【0086】
このように、糸外しレバー28の接触面30に、当該接触面30の移動方向での位置が異なる第1部分31及び当該第1部分31を設けた。従って、紡績糸10が接触面30に接触する位置に応じて、当該紡績糸10を押し上げる高さを異ならせることができる。これにより、確実な糸外しが可能となる。また上記のように、第1部分の少なくとも一部を、糸貯留ローラ21の下流側端部21aよりも下流寄りに位置させることで、第1部分31によって押し上げられた紡績糸10が糸貯留ローラ21に再度巻き付いてしまうことを防止できる。そして、このように糸外しレバー28の形状を工夫することで糸外しの確実性を向上させることができるので、従来ほど高い工作精度が要求されなくなり、コストダウンを達成することができる。
【0087】
本実施形態の糸貯留装置12では、糸外しレバー28の接触面30において、第1部分31と第2部分32が滑らかに接続している。
【0088】
これにより、第1部分31に接触した紡績糸10を、第2部分32までスムーズに移動させることができる。従って、紡績糸10が接触面30上を第1部分31から第2部分32に向けて移動する際に、当該紡績糸10の挙動が不安定となることを防止できる。
【0089】
本実施形態の糸貯留装置12において、第1部分31は、糸掛け部材22から紡績糸10を外すことができない糸外し不能領域に対応して設けられている。第2部分32は、糸掛け部材22から紡績糸10を外すことができる糸外し可能領域に対応して設けられている。
【0090】
上記のように、糸外し不能領域に対応して第1部分31を設けることにより、紡績糸10を外すことができない領域においては、紡績糸10を押し上げる位置を低くできる。これにより、紡績糸10が不必要に大きく移動させられて不安定になることを防ぎ、当該紡績糸10の絡みつきなどの不具合を防止できる。一方、糸外し可能領域に対応して第2部分32を設けることにより、紡績糸10を外すことができる領域においては、当該紡績糸10を押し上げる位置を高くできる。これにより、紡績糸10を糸掛け部材22から確実に外すことができる。
【0091】
本実施形態の糸貯留装置12において、接触面30は、待機位置にあるときには紡績糸10に接触しないように配置されている。当該待機位置から糸外し位置まで接触面30を移動させることにより、当該接触面30が紡績糸10に接触する。
【0092】
待機位置においては接触面30が紡績糸10に接触しないようにすることで、糸外しレバー28が紡績糸10の走行に影響を与えることがない。そして、当該待機位置から糸外し位置まで接触面30を移動させることで、当該接触面30によって紡績糸10を押し上げることができる。
【0093】
本実施形態の糸貯留装置12では、接触面30の移動方向において、第1部分31の上流側端部と、第2部分32の下流側端部と、の距離Lは、15mmである。
【0094】
本実施形態の紡績ユニット2は、糸貯留装置12と、繊維束8を供給するドラフト装置7と、繊維束8に撚りを加えて紡績糸10を生成する紡績装置9と、紡績糸10を巻き取る巻取装置13と、を備えている。糸貯留装置12は、紡績装置9と巻取装置13の間の紡績糸10を一時的に貯留する。
【0095】
これにより、糸貯留装置12を一種のバッファとして機能させ、紡績装置9による紡出速度と、巻取装置13による巻取速度と、が何らかの理由により一致しない場合の不具合(紡績糸10の弛みなど)を解消できる。従って、巻取装置13において、紡績糸10を安定して巻き取ることができる。
【0096】
本実施形態の精紡機1は、紡績ユニット2を複数備え、複数の紡績ユニット2の間を走行する糸継台車3を備える。糸継台車3は、接触面30を待機位置と糸外し位置の間で移動させる駆動源(空気圧シリンダ49)を有している。
【0097】
このように、糸継台車3に駆動源を設けることで、各紡績ユニット2に個別の駆動源を設ける必要がなくなる。これにより、精紡機1を安価に構成することができる。
【0098】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0099】
上記実施形態では、糸外しレバー28を、板金部材から構成しているので、接触面30の幅は一定となっている。しかし、糸外しレバー28は、板金部材に限らず、適宜の部材によって形成することができる。この場合、接触面30の幅は一定でなくても良い。
【0100】
また、糸外し部材(糸外しレバー28)の形状は、図面に示したものに限定されない。特に、本願発明の糸外し部材においては、糸に接触する接触面30が、第1部分と、当該第1部分よりも高い位置にある第2部分と、を有することが重要なのであり、他の部分の形状は何ら限定されず適宜変更可能である。
【0101】
上記実施形態において、糸外しレバー28は、揺動軸29を中心に回動する構成となっている。従って、接触面30は、円弧状に移動する。しかし、接触面30の移動方向はこれに限らず、例えば、接触面30を直線状に移動させてもよい。
【0102】
図4(a)に示すように、上記実施形態において、糸貯留ローラ21は、下流側から見て時計回りに回転駆動されるが、これに限らず、反時計回りであっても良い。ただしこの場合、フライヤー38の先端38aが向く向きは、
図4(a)とは反対になる。従ってこの場合、糸外しレバー28の形状も、
図4(a)とは左右逆になる。
【0103】
紡績ユニット2の構成は、適宜変更できる。例えば、紡績装置9と糸貯留装置12との間に、紡績糸10を挟み込んだ状態で回転駆動されることにより当該紡績糸10を搬送するデリベリローラ対を設けても良い。
【0104】
上記実施形態では、糸外しレバー28の接触面30を移動させるための駆動源(空気圧シリンダ49)を糸継台車(作業台車)3が備えているが、これに代え、あるいはこれに加えて、各紡績ユニット2に駆動源を設けることもできる。
【0105】
上記実施形態において、駆動源を設けるための作業台車は、糸継台車3としたが、これに限らず、複数の糸巻取ユニット間を走行する他の種類の作業台車に駆動源を設けることもできる。例えば、上記実施形態の糸継台車3に代え、あるいはこれに加えて玉揚台車を糸巻取機に設け、当該玉揚台車に駆動源を設けても良い。なお、玉揚台車とは、ある糸巻取ユニットの巻取装置13においてパッケージ45が完成した場合に、当該パッケージ45を前記巻取装置13から取り外すとともに、当該巻取装置13に対して新しい(空の)ボビン48を供給するように構成された作業台車である。
【0106】
本願発明の糸貯留装置は、紡績ユニットに限らず、糸を一時的に貯留する必要がある他の種類の繊維機械にも採用することができる。
【0107】
本願発明の糸貯留装置が貯留する「糸」は、紡績糸には特に限定されず、例えば粗糸など、糸状のものが広く含まれる。