特開2015-161076(P2015-161076A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-161076(P2015-161076A)
(43)【公開日】2015年9月7日
(54)【発明の名称】斜面の安定化方法及び受圧ユニット
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/20 20060101AFI20150811BHJP
【FI】
   E02D17/20 103H
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-35374(P2014-35374)
(22)【出願日】2014年2月26日
(71)【出願人】
【識別番号】000201490
【氏名又は名称】前田工繊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(72)【発明者】
【氏名】吉田 眞輝
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 章司
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 幸博
【テーマコード(参考)】
2D044
【Fターム(参考)】
2D044DB52
(57)【要約】
【課題】従来の方法よりも、軽量化、耐久性、安定性、施工性の観点のうち、少なくとも何れか一つの観点について性能向上に寄与しうる手段を提供すること。
【解決手段】本発明は、斜面に所定間隔を設けて打ち込む複数の補強材と、各補強材の露出部分に装着する上部受圧板及び下部受圧板からなる受圧ユニットと、前記補強材に螺合して、上部受圧板及び下部受圧板を押し下げる前記締結部材と、を用いる。まず、隣接する下部受圧板間に連結材を取付けて、緊張力を導入し、前記締結部材の螺合時に、前記上部受圧板でもって前記下部受圧板と前記連結材との係留部分を押圧固定する。前記連結材には、繊維製の帯状部材を用いる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
斜面の安定化に用いる受圧ユニットであって、
斜面に所定間隔を設けて定着した補強材の露出部分に、上下に積層するように装着する上部受圧板及び下部受圧板と、からなり、
前記下部受圧板は、隣接する他方の下部受圧板と繋ぐ帯状の連結材を係留する為の係留孔を複数有し、
前記上部受圧板の底部に、前記係留孔に係留した連結材を上方から押圧可能な固定部を設けたことを特徴とする、受圧ユニット。
【請求項2】
前記下部受圧板を金属製とし、前記下部受圧板を繊維製又は合成樹脂製としたことを特徴とする、請求項1に記載の受圧ユニット。
【請求項3】
斜面に所定間隔を設けて打ち込む複数の補強材と、各補強材の露出部分に装着する上部受圧板及び下部受圧板と、帯状の連結材と、前記補強材に螺合して、上部受圧板及び下部受圧板を押し下げる前記締結部材と、を用いる斜面の安定化方法であって、
隣接する下部受圧板間に前記連結材を取付けて、緊張力を導入し、
前記締結部材の螺合時に、前記上部受圧板が、前記下部受圧板と前記連結材との係留部分を押圧固定することを特徴とする、斜面の安定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、斜面に定着してアンカー機能を果たす補強材に装着する受圧ユニット、及び斜面の安定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
斜面の表層崩壊を抑止するための工法として、斜面上に所定間隔を設けて定着した補強材に受圧部材を設け、隣接する受圧板間を緊張部材で連結し、緊張力を導入することで、斜面の安定化を図る方法がある。
例えば、特許文献1に記載の斜面安定装置は、斜面の縦横に定着した複数の鋼棒と、前記鋼棒に装着する受圧板と、前記鋼棒の突出端に設けた取付手段と、前記取付手段同士を連結する緊張部材を設け、ナットのねじ込みによって受圧板を地山に押しつけて斜面を安定化させる構造及び方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4346044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の斜面安定化構造及び方法であっても、以下に記載するような観点のうち、少なくとも一つの観点において改良の余地が残されている。
(1)省力化の観点
本工法を実施する現場は急峻な斜面であったり、樹木の生い茂った場所であったりするため、部材の運搬に手間がかかる場合が多く、施工に用いる部材をさらに軽量化したい。
(2)耐久性の観点
従来の施工方法と同等或いはそれ以上の耐久性を確保できる構造としたい。
(3)安定性の観点
従来の施工方法よりも、地山との密着性をより確実に維持し続けることで斜面の安定性を確保したい。
(4)施工性の観点
前記した緊張部材は鉄棒であるため、対向する受圧板との位置がずれてしまうと、鉄棒と取付手段との取付の位置が合わずに手間がかかる場合がある。
【0005】
すなわち、本願発明は、従来の方法よりも、軽量化、耐久性、安定性、施工性の観点のうち、少なくとも何れか一つの観点について性能向上に寄与しうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決すべくなされた本願の第1発明は、斜面の安定化に用いる受圧ユニットであって、斜面に所定間隔を設けて定着した補強材の露出部分に、上下に積層するように装着する上部受圧板及び下部受圧板と、からなり、前記下部受圧板は、隣接する他方の下部受圧板と繋ぐ帯状の連結材を係留する為の係留孔を複数有し、前記上部受圧板の底部に、前記係留孔に係留した連結材を上方から押圧可能な固定部を設けたことを特徴とする、受圧ユニットを提供する。
また、本願の第2発明は、前記発明において、前記下部受圧板を金属製とし、前記下部受圧板を繊維製又は合成樹脂製としたことを特徴とする。
また、本願の第3発明は、斜面に所定間隔を設けて打ち込む複数の補強材と、各補強材の露出部分に装着する上部受圧板及び下部受圧板と、帯状の連結材と、前記補強材に螺合して、上部受圧板及び下部受圧板を押し下げる前記締結部材と、を用いる斜面の安定化方法であって、隣接する下部受圧板間に前記連結材を取付けて、緊張力を導入し、前記締結部材の螺合時に、前記上部受圧板が、前記下部受圧板と前記連結材との係留部分を押圧固定することを特徴とする、斜面の安定化方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本願発明によれば、以下に記載する効果のうち、少なくともいずれか一つの効果を得ることができる。
(1)軽量化の観点
斜面を加圧する受圧板のうち、直接斜面に接する下部受圧板のみを従来の素材(例:金属製)とし、その他の部材をより軽量な素材(例:繊維製、合成樹脂製など)で製作すれば、従来使用する受圧板から更なる軽量化が可能となる。したがって、部材の運搬等がより楽となる。
また、可撓性を備える繊維性の部材で構成すればさらなる軽量化も可能となる。
(2)耐久性の観点
受圧ユニットの製作にあたり、腐食しやすい金属製の部材を極力減らし、その他の部材を耐候性の高い部材で製作することで、部材全体の劣化を抑止することができる。
例えば、直接斜面に接する下部受圧板を金属製とし、上部受圧板を耐候性の高い部材で製作すれば、上部受圧板が下部受圧板の保護カバーとしても機能する。
(3)安定性の観点
下部受圧板に連結材を係留する構造とし、該係留部分を上部受圧板で押圧固定しておくことで、連結材の離脱を防止することができ、斜面の安定化機能をより長期に維持することができる。
また、連結材を、可撓性を備える繊維性の部材で構成すれば、地山への密着性が向上するため、斜面の安定化機能の向上に寄与する。
(4)施工性の観点
下部受圧板の係留孔に連結材を係留する構造とするため、一定の角度範囲内で、連結材の敷設方向のズレを係留部分でもって許容することができる。したがって、隣接する他の受圧ユニットの下部受圧板との相対位置を厳密に設定せずとも、連結材を簡単に連結することができる。
また、複数の係留孔から立木を避けるように連結材を配置できる係留孔を選択することで、立木の伐採作業を行う必要が無くなる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の斜面安定化構造を示す概略平面図。
図2】本発明の連結材を示す概略平面図。
図3】本発明の受圧ユニットを示す概略斜視図。
図4】本発明の安定体の連結態様を示す概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。
【実施例1】
【0010】
<1>全体構成
図1は、本発明の斜面安定化構造を示す概略平面図である。
本発明に係る斜面安定化構造は、斜面Xに所定間隔を設けて配置される複数の安定体Aと、隣接する安定体A間を互いに連結する連結材Bを少なくとも含んでなる。
説明の便宜上、連結材B、安定体Aの順に詳細について説明する。
【0011】
<2>連結材
図2は、連結材を示す概略平面図である。
連結材Bは、隣接する安定体A同士を繋げるための部材である。
連結材Bは、鋼棒等の剛性部材でも良いが、望ましくは、可撓性を備えた補強繊維製の帯状部材B1を用いることができる。
この連結材Bの両端には、フックB2を設けておき、後述する下部受圧板22の係留孔223に掛止することで、安定体Aを連結材に取り付けることができる。
その他、連結材Bには、該連結材Bの長さを伸縮可能な公知の機構を適宜設けておく。これは、安定体A間を接続した連結材Bの長さを縮めることで、該連結材Bに緊張力を導入するためである。
【0012】
<3>安定体
図3は、本発明の安定体を示す概略斜視図である。
安定体Aは、斜面Xに押圧力を導入するための部材である。
安定体Aは、斜面Xに所定間隔を設けて定着した補強材1と、該補強材1の露出部分に上下に積層するように装着する、上部受圧板21及び下部受圧板22からなる受圧ユニット2を少なくとも有してなる。
以下、各部材の詳細について説明する。
【0013】
<3.1>補強材
補強材1は、斜面Xに設けて引張力を導入するための部材である。
補強材1はロックボルトなどの公知のアンカー部材を用いることができ、詳細な説明を省略する。
【0014】
<3.2>受圧ユニット
受圧ユニット2は、斜面Xを押さえつけるための部材である。
受圧ユニット2は、上下に積層するように配する上部受圧板21及び下部受圧板22を少なくとも含んでなる。
前記上部受圧板21及び下部受圧板22は、前記補強材1の地表での露出端を差し込むための挿入孔211,221をそれぞれ設け、これらの挿入孔が211,221連通する状態で積層配置する形態を呈する。
【0015】
<3.2.1>下部受圧板
下部受圧板22は、直接斜面Xに接地して、押圧力を伝達するための機能を少なくとも備える部材である。
【0016】
[下部受圧板の形状]
下部受圧板22は、平板状の部材であり、底部に斜面に接する押圧面222を設けている。
なお、本実施例では、下部受圧板22の平面視形状を円形状としているが、特に限定するものではない。
【0017】
[係留孔]
下部受圧板22は、連結材Bを係留するために、上下に貫通した複数の係留孔223を設けている。隣接する安定体A(下部受圧板22)の数と係留孔223の数は必ずしも一致させておく必要はなく、係留孔223の数をより多く設けてあれば問題は生じない。
【0018】
本実施例に係る下部受圧板33は、挿入孔221を中心に放射状に均等に配した6箇所の係留孔223を備えている。これらの係留孔を全て利用して隣接する下部受圧板22と適宜連結材Bによって連結すれば、全体として略ハニカム構造の略中央と交点部分に安定体Aが配置され、各外辺並びに対角線部分に連結材Bが位置することになる。
【0019】
[下部受圧板の素材]
下部受圧板22は、従来の受圧板と同様、金属製とすることが望ましい。これは、上部受圧板21から導入される押圧力を斜面Xに確実に伝達するためである。
【0020】
<3.2.2>上部受圧板
上部受圧板21は、下部受圧板22に斜面Xへの押圧力を伝達する機能を少なくとも備える部材である。
【0021】
[上部受圧板の平面形状]
上部受圧板21の平面形状は特に限定しないが、本実施例では挿入孔211を中心とした円盤形状を呈している。これは、補強材1への装着時に上部受圧板21の向きを考慮する必要がない点が有益であることによる。
なお、上部受圧板21は、装着後、平面投影視して前記下部受圧板22を完全に覆う程度の大きさを備えていることが望ましい。これは、下部受圧板21の腐食等を極力防止するための保護カバーとしての機能を高める為である。
【0022】
[底部の構造]
上部受圧板21の底部には、下部受圧板22と接する伝達面212と、下部受圧板22に係留する前記連結材BのフックB2を押さえる固定部213を形成してある。
固定部213は、丸みを持たせた凸形状とするなど多様な形状を採用することができるが、前記した連結材BのフックB2の形状に上手くおさまるような形状とすれば、より強固に位置決めすることもできる。
【0023】
固定部213は、上部受圧板21の底部の外側全周に渡って形成することもできるし、下部受圧板22の係留孔223の配置にあわせて、間欠的に設けても良い。
【0024】
なお、固定部213を全周に渡って設けておけば、上部受圧板21の装着に際し、下部受圧板22の係留孔223の位置を考慮する必要が無い点で有益である。
【0025】
そのほか、上部受圧板の底部には、補強目的でリブ224を設けても良い。
【0026】
[上部受圧板の素材]
上部受圧板21の素材は特に限定されないため、軽量で、耐腐食性、耐光性を備えた部材(例:繊維製、合成樹脂製など)を用いることで、多くの利点を得ることができる。
ただし、必要強度が絶対的に不足する箇所について、部分的に金属製としてもよい。
例えば、耐候性を備えたプラスチック製とすることにより、従来の受圧板よりも大幅な軽量化が可能となる。
【0027】
<3.3>その他の部材
安定体Aを構成するその他の部材として、前記補強材1に螺合して、前記受圧ニットを下方に押し下げる締結部材3や、補強材に装着するシース41、座金42、ワッシャ43、保護キャップ44などがある。
これらの部材は、公知の部材を用いれば良く、詳細な説明は省略する。
【実施例2】
【0028】
次に、前記した各部材を用いた斜面の安定化工法の手順について図4を参照しながら説明する。
【0029】
<1>補強材の配置
まず、斜面Xに所定間隔を設けて補強材1を配置する。補強材の配置方法は公知の方法を用いることができる。例えば、斜面Xの穿孔箇所に補強材1を挿入し、当該穿孔箇所にグラウト材を注入して、補強材1を定着する方法などがある。
補強材1はシース41を設けつつ、その先端を地表面に露出しておく。
【0030】
<2>下部受圧板の設置
次に、前記補強材1の露出端に、挿入孔221を介して下部受圧板22を装着する。
この時点では、下部受圧板22は、斜面Xに置かれただけであるため、斜面Xを押さえつける力は作用していない。
【0031】
<3>連結材の係留、緊張力の導入
次に、隣接する下部受圧板22間に連結材Bを係留してから、該連結材Bの長さを縮めて緊張力を導入していく。
【0032】
<4>上部受圧板の装着
次に、上部受圧板21を装着し、さらに締結部材3を座金42及びワッシャ43を介しつつ補強材1に螺合して、各受圧板21,22を下方に押し下げていく。
このとき、上部受圧板21は下部受圧板22に斜面Xへの押圧力を伝達するだけでなく、下部受圧板22に係留している連結材Bを上方から押さえつけて位置決めする作用を生ずる。
【0033】
<5>頭部処理
補強材1の頭部に保護キャップ44を被せ、保護キャップ44の内部にグリースを充填して補強材1の頭部の保護処理を行う。
【0034】
<6>まとめ
これらの工程を順次行うことで、斜面Xの安定状態を維持した安定化構造を構築することができる。
【0035】
<7>機能・作用
本発明にかかる斜面の安定化工法によれば、下部受圧板22に係留した連結材Bの端部を上部受圧板21で固定することで、下部受圧板22からの連結材Bの離脱を防止しつつ該連結材Bの敷設方向を維持することとなり、地山の流動をさらに抑制することができる。
また、下部受圧板22に対して連結材をB点で連結するため、対向する下部受圧板22との連結材Bの敷設方向のズレを吸収することができる。
また、連結材Bに帯状部材B1を用いることで、地山を面で押さえる効果を得ることができる。
【0036】
<8>その他の手順
本発明に係る斜面の安定化方法は、連結材の緊張作業と、上部受圧板による連結材の係留部分の固定作業の手順を入れ換えて実施することもできる。
【符号の説明】
【0037】
A 安定体
B 連結材
X 斜面
1 補強材
2 受圧ユニット
21 上部受圧板
211 挿入孔
212 伝達面
213 固定部
214 リブ
22 下部受圧板
221 挿入孔
222 押圧面
223 係留孔
3 締結部材
41 シース
42 座金
43 ワッシャ
44 保護キャップ
図1
図2
図3
図4