(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-161089(P2015-161089A)
(43)【公開日】2015年9月7日
(54)【発明の名称】可動スタンド
(51)【国際特許分類】
E04H 3/12 20060101AFI20150811BHJP
E04H 3/14 20060101ALI20150811BHJP
【FI】
E04H3/12 B
E04H3/14 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-35731(P2014-35731)
(22)【出願日】2014年2月26日
(71)【出願人】
【識別番号】309036221
【氏名又は名称】三菱重工メカトロシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(72)【発明者】
【氏名】二宮 昌三
(57)【要約】
【課題】前方に移動し建屋部と離隔したときに生じる隙間を迅速かつ簡易に塞ぐことが可能な可動スタンドを提供することを目的とする。
【解決手段】可動スタンド1は、階段状に複数の席が載置され、席の前後方向に移動可能な本体部2と、本体部2の後方かつ本体部2の上部の高さに位置し、本体部2の後方の建屋部20に設けられた固定部21に対して回転可能に結合された第1端部3aと、本体部2の席の下部に設けられた案内部4を相対移動する、第1端部3aに対して他側の第2端部3bとを有する梁材3とを備え、梁材3の第2端部3bは、本体部2の前後方向の移動とともに案内部4を上昇又は下降し、本体部2が前方に移動し、本体部2と固定部21が所定の間隔に離隔したとき、梁材3は、本体部2の上部と固定部21とを接続する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
階段状に複数の席が載置され、前記席の前後方向に移動可能な本体部と、
前記本体部の後方かつ前記本体部の上部の高さに位置し、前記本体部の後方の建屋部に設けられた固定部に対して回転可能に結合された第1端部と、前記本体部の前記席の下部に設けられた案内部を相対移動する、前記第1端部に対して他側の第2端部とを有する梁材と、
を備え、
前記梁材の前記第2端部は、前記本体部の前後方向の移動とともに前記案内部を上昇又は下降し、
前記本体部が前方に移動し、前記本体部と前記固定部が所定の間隔に離隔したとき、前記梁材は、前記本体部の上部と前記固定部とを接続する可動スタンド。
【請求項2】
前記固定部の下方に収納可能であり、前記梁材によって前記本体部の上部と前記固定部とが接続されたとき、前記梁材に載置される床材を備える請求項1に記載の可動スタンド。
【請求項3】
前記梁材の前記第1端部は、前記梁材の前記第2端部を垂直面内のみで円弧状に回転させる軸受、又は、前記梁材の前記第2端部を球面状に移動させる軸受を有する請求項1又は2に記載の可動スタンド。
【請求項4】
前記梁材の前記第2端部は、ローラが設けられ、
前記案内部は、前記ローラが摺動する請求項1から3のいずれか1項に記載の可動スタンド。
【請求項5】
前記案内部は、前記本体部の構造体を形成する構造部材間に設けられ、
前記案内部が設けられる前記構造部材間の距離は、他の前記構造部材間よりも広い請求項1から4のいずれか1項に記載の可動スタンド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多目的競技場等に設置される可動スタンドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
陸上競技及びサッカーやラグビー等の球技に兼用される競技場では、ピッチ(陸上ではフィールドともいう。)の周囲にトラックが設けられる。そのため、階段式の観覧席(スタンド)が固定式の場合、ピッチとスタンドがトラックを挟んで常に離れていることから、球技を観戦する観客は臨場感を得にくい。
【0003】
そこで、多目的競技場には、観覧席の前後方向に移動可能にした可動スタンドを備えるものがある。球技が行われる場合、可動スタンドをピッチ側へ移動(前進)させる。これにより、固定式のスタンドと比べ、観覧席をピッチに近づけることができる。
【0004】
下記の特許文献1では、観客席が台車によって移動可能に支持され、その台車が走行レールにより案内される技術が開示されている。特許文献2では、観覧席を増減するため、椅子の起倒動作を可動席ユニットの展開又は収納動作と連動させる椅子起倒機構が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−163847号公報
【特許文献2】特開平11−13298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
下段のスタンドをピッチ側へ移動させた場合、移動したスタンドとその後方の建屋部が互いに離れ、下段のスタンドの最上部後方部分と、建屋部の前方部分との間に空間(隙間)が発生してしまう。そこで、隙間を塞ぐため、従来、床板を隙間の下方からリフターによって上昇させ、その後、固定金具等によって床板をスタンドと建屋部に固定させている。しかし、床板は鋼構造で重量物のため、設置又は取り外しの際に、大容量の駆動装置が必要となるうえ、作業には危険を伴う。また、広い競技場において多数の床板を上昇させ固定するという作業は、リフターの数に応じて異なるが、リフターが多いと設備費や維持費が上昇し、リフターが少ないと陸上競技用と球技用の転換作業に時間がかかる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、前方に移動し建屋部と離隔したときに生じる隙間を迅速かつ簡易に塞ぐことが可能な可動スタンドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の可動スタンドは以下の手段を採用する。
すなわち、本発明に係る可動スタンドは、階段状に複数の席が載置され、前記席の前後方向に移動可能な本体部と、前記本体部の後方かつ前記本体部の上部の高さに位置し、前記本体部の後方の建屋部に設けられた固定部に対して回転可能に結合された第1端部と、前記本体部の前記席の下部に設けられた案内部を相対移動する、前記第1端部に対して他側の第2端部とを有する梁材とを備え、前記梁材の前記第2端部は、前記本体部の前後方向の移動とともに前記案内部を上昇又は下降し、前記本体部が前方に移動し、前記本体部と前記固定部が所定の間隔に離隔したとき、前記梁材は、前記本体部の上部と前記固定部とを接続する。
【0009】
この構成によれば、本体部が席の前後方向に移動することで、隣接する建屋部に対して離隔したり接近したりする。本体部と固定部が所定の間隔に離隔しているとき、梁材によって本体部の上部と固定部とが接続されることから、梁材に床材を載置することで本体部と建屋部の間に生じる隙間を塞ぐことができる。
【0010】
梁材は、第1端部が固定部に対して回転可能に結合されており、結合点を中心に回転する。本体部の席の下部には梁材の第2端部を移動させる案内部が設けられ、本体部が固定部に対して離隔する方向へ前進するとき、梁材の第2端部は、案内部に沿って上昇する。そして、本体部と固定部が所定の間隔に離隔し終えたとき、梁材は本体部の上部と固定部とを接続する。反対に、本体部と固定部が所定の間隔に離隔した状態から、本体部が固定部に対して接近する方向へ後進するとき、梁材の第2端部は、案内部に沿って下降する。本体部と固定部が接近し終えたとき、梁材は本体部の席の下部に全て収納される。
【0011】
上記発明において、前記固定部の下方に収納可能であり、前記梁材によって前記本体部の上部と前記固定部とが接続されたとき、前記梁材に載置される床材を備えてもよい。
この構成によれば、梁材に床材を載置する際、床材を固定部の下方から取り出せばよく、簡易に床材を載置できる。
【0012】
上記発明において、前記梁材の前記第1端部は、前記梁材の前記第2端部を垂直面内のみで円弧状に回転させる軸受、又は、前記梁材の前記第2端部を球面状に移動させる軸受を有してもよい。
【0013】
この構成によれば、第2端部を垂直面内のみで円弧状に回転させる軸受が梁材の第1端部に設けられることによって、梁材を回動させることができ、本体部が、スタンドの幅方向に対して垂直方向に移動するとき、滑らかに梁材を本体部の下部に収納できる。また、第2端部を球面状に移動させる軸受が梁材の第1端部に設けられることによって、梁材を回動させることができ、本体部がスタンドの幅方向に対して斜め方向に移動するとき、滑らかに梁材を本体部の下部に収納できる。
【0014】
上記発明において、前記梁材の前記第2端部は、ローラが設けられ、前記案内部は、前記ローラが摺動してもよい。
この構成によれば、ローラが案内部を摺動することにより、梁材の第2端部はスムーズに案内部を上昇したり下降したりすることができる。
【0015】
上記発明において、前記案内部は、前記本体部の構造体を形成する構造部材間に設けられ、前記案内部が設けられる前記構造部材間の距離は、他の前記構造部材間よりも広くてもよい。
この構成によれば、本体部の構造体が構造部材によって形成されるとき、案内部が設けられる構造部材間の距離が広いことから、案内部は、構造部材と干渉しないように、本体部の席の下方における構造部材の間に容易に設置される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、可動スタンドが前方に移動し建屋部と離隔したときに生じる隙間を迅速かつ簡易に塞ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る可動スタンドを示す縦断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る可動スタンドを示す縦断面図であり、本体部が建屋部に対し移動した状態を示す。
【
図3】本発明の一実施形態に係る可動スタンドを示す縦断面図であり、本体部が建屋部に対し移動し、本体部と建屋部の間に梁材が架けられた状態を示す。
【
図4】本発明の一実施形態に係る可動スタンドを示す縦断面図であり、梁材に床材が載置された状態を示す。
【
図5】本発明の一実施形態に係る可動スタンドの床材を示す部分拡大縦断面図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る可動スタンドを示す縦断面図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る可動スタンドを示す背面図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る可動スタンドを示す底面図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係る可動スタンドを示す縦断面図であり、本体部が建屋部に対し移動した状態を示す。
【
図10】本発明の一実施形態に係る可動スタンドを示す背面図であり、本体部が建屋部に対し移動した状態を示す。
【
図11】本発明の一実施形態に係る可動スタンドを示す縦断面図であり、本体部が建屋部に対し移動し、本体部と建屋部の間に梁材が架けられた状態を示す。
【
図12】本発明の一実施形態に係る可動スタンドを示す背面図であり、本体部が建屋部に対し移動し、本体部と建屋部の間に梁材が架けられた状態を示す。
【
図13】本発明の一実施形態に係る可動スタンドの変形例を示す底面図である。
【
図14】本発明の一実施形態に係る可動スタンドの変形例を示す底面図であり、本体部が建屋部に対し移動した状態を示す。
【
図15】本発明の一実施形態に係る可動スタンドの変形例を示す底面図であり、本体部が建屋部に対し移動し、本体部と建屋部の間に梁材が架けられた状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係る実施形態について、図面を参照して説明する。
本実施形態に係る可動スタンド1は、例えば多目的競技場に設置される。可動スタンド1は、ピッチとほぼ同一面上に設けられ、観客席の前後方向、すなわち、ピッチ側へ接近するように移動(前進)したり、ピッチ側から離れるように移動(後進)したりする。
【0019】
可動スタンド1の後方には、建屋部20が設けられ、可動スタンド1の上部にアクセスすることができる通路が建屋部20に設けられている。したがって、観客等は建屋部20と可動スタンド1の上部との間を移動できる。可動スタンド1が前進すると、可動スタンド1の本体部2と建屋部20との間には、隙間が発生する。そのため、観客等が建屋部20と可動スタンド1の上部との間を移動できるように、建屋部20と可動スタンド1の間に生じた隙間が、床材5によって塞がれる。
【0020】
可動スタンド1は、観覧席や観客の荷重を支持する本体部2と、本体部2と建屋部20の間に生じる隙間上部に架けられる梁材3と、本体部2に設けられる案内部4と、梁材3上に載置される床材5等を備える。
【0021】
本体部2は、トラス構造等の構造体によって形成され、伸縮する等の変形が行われることなく前後方向に移動する。本体部2は、車輪とレールを用いて移動可能としたり、圧縮空気によって浮上させることにより移動可能としたりするなど、本体部2の移動手段は限定されない。可動スタンド1の縦断面は、ほぼ直角三角形であり、斜面部分において階段状に観覧席が載置される。
【0022】
梁材3は、例えば断面形状がH型の鋼材である。梁材3は、本体部2と建屋部20の間に生じる隙間上部に架けられ、このとき、梁材3の上面には床材5が載置される。梁材3は、床材5や観客、観覧席が床材5上に載置される場合は観覧席等の荷重に耐えられる。
【0023】
梁材3は、建屋部20側の第1端部3aと、建屋部20とは反対側の第2端部3bとを有する。第1端部3aは、建屋部20に設けられた固定部21に対して回転可能であり、固定部21と結合されている。第1端部3aが固定部21に対して回転可能に結合されていることから、梁材3は結合点を中心に回転する。梁材3は、本体部2が前方に移動し、本体部2と建屋部20の固定部21が所定の間隔に離隔したとき、本体部2の上部と固定部21とを接続する。なお、建屋部20の固定部21は、可動スタンド1の本体部2の後方かつ本体部2のほぼ上面の高さに位置している。
【0024】
第2端部3bは、本体部2の前後方向の移動とともに案内部4を上昇又は下降し、案内部4を相対移動する。第2端部3bにはローラ6が設けられる。ローラ6が案内部4を摺動することにより、梁材3の第2端部3bはスムーズに案内部4を上昇したり下降したりすることができる。
【0025】
なお、梁材3の第1端部3aは、梁材3の第2端部3bを垂直面内のみで円弧状に回転させる軸受、又は、梁材3の第2端部3bを球面状に移動させる軸受を有する。
【0026】
第2端部3bを垂直面内のみで円弧状に回転させる軸受が梁材3の第1端部3aに設けられることによって、梁材3を回動させることができ、本体部2が、
図1から
図3、又は、
図6から
図12のように、可動スタンド1の幅方向に対して垂直方向に移動するとき、滑らかに梁材3を本体部2の下部に収納できる。また、第2端部3bを球面状に移動させる軸受が梁材3の第1端部3aに設けられることによって、梁材3を回動させることができ、
図13から
図15のように、本体部2が可動スタンド1の幅方向に対して斜め方向に移動するとき、滑らかに梁材3を本体部2の下部に収納できる。
【0027】
案内部4は、観覧席の下部に設けられ、本体部2の斜面部分に沿って観客席の前後方向に対して平行方向又は斜め方向に設置される。案内部4は、本体部2の構造体を形成する構造部材8間に設けられる。案内部4は、本体部2に対して固定されている。案内部4は、例えば互いに対向する2本のレール7を有し、レール7は、例えば断面形状がコの字状の溝型の鋼材である。レール7の溝内部を第2端部3bに設けられたローラ6が摺動する。
【0028】
図示しないが、案内部4が設けられる構造部材8間の距離を、他の構造部材8間よりも広くすることによって、案内部4は、構造部材8と干渉しないように、本体部2の観覧席の下方における構造部材8の間に容易に設置される。これは、案内部4が本体部2の斜面部分に沿って観客席の前後方向に対して斜め方向に設置されるときに望ましい構造である。
【0029】
床材5は、建屋部20の固定部21の下方に一部分が収納可能である。床材5は、梁材3によって本体部2の上部と固定部21とが接続されたとき、梁材3に載置される。床材5は、
図5に示すように、例えば複数のゴム製の帯板22と、各帯板22に沿って設けられる角形パイプ23と、角形パイプ23間に接続される蝶番24とを備える。床材5は、複数の帯板22及び角形パイプ23が互いに平行に配置され、蝶番24によって接続されていることで、荷重を支持できる構造を有しつつ、屈曲可能となっている。
【0030】
床材5は、梁材3上に載置される際、チェーンブロック等を用いて、固定部21の下方から引っ張り出すように取り出される。したがって、他所から床材を搬入してくる場合に比べて、迅速かつ簡易に床材5を載置できる。
【0031】
上述した構成を有する可動スタンド1によると、本体部2が固定部21に対して離隔する方向へ前進するとき、梁材3の第1端部3aが固定部21に結合されたまま、梁材3の第2端部3bは、案内部4に沿って上昇する。すなわち、梁材3を上昇させる駆動力を別途用いることなく、本体部2を移動させる力で梁材3を上昇させることができる。そして、本体部2と固定部21が所定の間隔に離隔し終えたとき、梁材3は本体部2の上部と固定部21とを接続する。その後、梁材3に床材5を載置することで本体部2と建屋部20の間に生じる隙間を塞ぐことができる。
【0032】
反対に、床材5を梁材3上から撤収した後、本体部2と固定部21が所定の間隔に離隔した状態から、本体部2が固定部21に対して接近する方向へ後進するとき、梁材3の第2端部3bは、案内部4に沿って下降する。すなわち、梁材3を下降させる駆動力を別途用いることなく、本体部2を移動させる力で梁材3を下降させることができる。本体部2と固定部21が接近し終えたとき、梁材3は本体部2の観覧席の下部に全て収納される。
【0033】
したがって、本実施形態によれば、梁材3を上下動する駆動力を別途用いることなく、本体部2を移動させるのと同時に梁材3を上下動させることができる。そして、床材5を梁材3上で水平方向に移動させるだけで、床材5の設置を完了させることができる。これにより、リフターを用いて、重量物である床材及び梁材が一体となった構造体を垂直方向に上下動させる従来の方法に比べて、安全に、迅速かつ簡易に本体部2と建屋部20間に生じた隙間を塞ぐことができる。
【符号の説明】
【0034】
1 可動スタンド
2 本体部
3 梁材
3a 第1端部
3b 第2端部
4 案内部
5 床材
20 建屋部
21 固定部