【実施例】
【0012】
図1は、本発明に係るロータリ圧縮機の実施例を示す縦断面図であり、
図2は、実施例の第1及び第2の圧縮部の上から見た横断面図である。
【0013】
図1に示すように、実施例のロータリ圧縮機1は、密閉された縦置き円筒状の圧縮機筐体10の下部に配置された圧縮部12と、圧縮機筐体10の上部に配置され、回転軸15を介して圧縮部12を駆動するモータ11と、を備えている。
【0014】
モータ11のステータ111は、円筒状に形成され、圧縮機筐体10の内周面に焼きばめされて固定されている。モータ11のロータ112は、円筒状のステータ111の内部に配置され、モータ11と圧縮部12とを機械的に接続する回転軸15に焼きばめされて固定されている。
【0015】
圧縮部12は、第1の圧縮部12Sと、第1の圧縮部12Sと並列に配置され第1の圧縮部12Sの上側に積層された第2の圧縮部12Tと、を備えている。
図2に示すように、第1及び第2の圧縮部12S,12Tは、第1及び第2側方張出部122S,122Tに、放射状に第1及び第2吸入孔135S,135T、第1及び第2ベーン溝128S,128Tが設けられた環状の第1及び第2シリンダ121S,121Tを備えている。
【0016】
図2に示すように、第1及び第2シリンダ121S,121Tには、モータ11の回転軸15と同心に、円形の第1及び第2シリンダ内壁123S,123Tが形成されている。第1及び第2シリンダ内壁123S,123T内には、シリンダ内径よりも小さい外径の第1及び第2環状ピストン125S,125Tが夫々配置され、第1及び第2シリンダ内壁123S,123Tと、第1及び第2環状ピストン125S,125Tとの間に、冷媒ガスを吸入し圧縮して吐出する第1及び第2作動室130S,130Tが形成される。
【0017】
第1及び第2シリンダ121S,121Tには、第1及び第2シリンダ内壁123S,123Tから径方向に、シリンダ高さ全域に亘る第1及び第2ベーン溝128S,128Tが形成され、第1及び第2ベーン溝128S,128T内に、夫々平板状の第1及び第2ベーン127S,127Tが、摺動自在に嵌合されている。
【0018】
図2に示すように、第1及び第2ベーン溝128S,128Tの奥部には、第1及び第2シリンダ121S,121Tの外周部から第1及び第2ベーン溝128S,128Tに連通するように第1及び第2スプリング穴124S,124Tが形成されている。第1及び第2スプリング穴124S,124Tには、第1及び第2ベーン127S,127Tの背面を押圧する第1及び第2ベーンスプリング(図示せず)が挿入されている。
【0019】
ロータリ圧縮機1の起動時は、この第1及び第2ベーンスプリングの反発力により、第1及び第2ベーン127S,127Tが、第1及び第2ベーン溝128S,128T内から第1及び第2作動室130S,130T内に突出し、その先端が、第1及び第2環状ピストン125S,125Tの外周面に当接し、第1及び第2ベーン127S,127Tにより、第1及び第2作動室130S,130Tが、第1及び第2吸入室131S,131Tと、第1及び第2圧縮室133S,133Tとに区画される。
【0020】
また、第1及び第2シリンダ121S,121Tには、第1及び第2ベーン溝128S,128Tの奥部と圧縮機筐体10内とを、
図1に示す開口部Rで連通して圧縮機筐体10内の圧縮された冷媒ガスを導入し、第1及び第2ベーン127S,127Tに、冷媒ガスの圧力により背圧をかける第1及び第2圧力導入路129S,129Tが形成されている。
【0021】
第1及び第2シリンダ121S,121Tには、第1及び第2吸入室131S,131Tに外部から冷媒を吸入するために、第1及び第2吸入室131S,131Tと外部とを連通させる第1及び第2吸入孔135S,135Tが設けられている。
【0022】
また、
図1に示すように、第1シリンダ121Sと第2シリンダ121Tの間には、中間仕切板140が配置され、第1シリンダ121Sの第1作動室130S(
図2参照)と第2シリンダ121Tの第2作動室130T(
図2参照)とを区画、閉塞している。中間仕切板140は、第1シリンダ121Sの上端部と第2シリンダ121Tの下端部を閉塞している。第1シリンダ121Sの下端部には、下端板160Sが配置され、第1シリンダ121Sの第1作動室130Sを閉塞している。また、第2シリンダ121Tの上端部には、上端板160Tが配置され、第2シリンダ121Tの第2作動室130Tを閉塞している。下端板160Sは、第1シリンダ121Sの下端部を閉塞し、上端板160Tは、第2シリンダ121Tの上端部を閉塞している。
【0023】
下端板160Sには、副軸受部161Sが形成され、副軸受部161Sに、回転軸15の副軸部151が回転自在に支持されている。上端板160Tには、主軸受部161Tが形成され、主軸受部161Tに、回転軸15の主軸部153が回転自在に支持されている。
【0024】
回転軸15は、互いに180°位相をずらして偏心させた第1偏心部152Sと第2偏心部152Tとを備え、第1偏心部152Sは、第1の圧縮部12Sの第1環状ピストン125Sに回転自在に嵌合し、第2偏心部152Tは、第2の圧縮部12Tの第2環状ピストン125Tに回転自在に嵌合している。
【0025】
回転軸15が回転すると、第1及び第2環状ピストン125S,125Tが、第1及び第2シリンダ内壁123S,123Tに沿って第1及び第2シリンダ121S,121T内を
図2の時計回りに公転し、これに追随して第1及び第2ベーン127S,127Tが往復運動する。この第1及び第2環状ピストン125S,125T及び第1及び第2ベーン127S,127Tの運動により、第1及び第2吸入室131S,131T及び第1及び第2圧縮室133S,133Tの容積が連続的に変化し、圧縮部12は、連続的に冷媒ガスを吸入し圧縮して吐出する。
【0026】
図1に示すように、下端板160Sの下側には、下マフラーカバー170Sが配置され、下端板160Sとの間に下マフラー室180Sを形成している。そして、第1の圧縮部12Sは、下マフラー室180Sに開口している。すなわち、下端板160Sの第1ベーン127S近傍には、第1シリンダ121Sの第1圧縮室133Sと下マフラー室180Sとを連通する第1吐出孔190S(
図2参照)が設けられ、第1吐出孔190Sには、圧縮された冷媒ガスの逆流を防止するリード弁型の第1吐出弁200Sが配置されている。
【0027】
下マフラー室180Sは、環状に形成された1つの室であり、第1の圧縮部12Sの吐出側を、下端板160S、第1シリンダ121S、中間仕切板140、第2シリンダ121T及び上端板160Tを貫通する冷媒通路136(
図2参照)を通して上マフラー室180T内に連通させる連通路の一部である。下マフラー室180Sは、吐出冷媒ガスの圧力脈動を低減させる。また、第1吐出弁200Sに重ねて、第1吐出弁200Sの撓み開弁量を制限するための第1吐出弁押え201Sが、第1吐出弁200Sとともにリベットにより固定されている。第1吐出孔190S、第1吐出弁200S及び第1吐出弁押え201Sは、下端板160Sの第1吐出弁部を構成している。
【0028】
図1に示すように、上端板160Tの上側には、上マフラーカバー170Tが配置され、上端板160Tとの間に上マフラー室180Tを形成している。上端板160Tの第2ベーン127T近傍には、第2シリンダ121Tの第2圧縮室133Tと上マフラー室180Tとを連通する第2吐出孔190T(
図2参照)が設けられ、第2吐出孔190Tには、圧縮された冷媒ガスの逆流を防止するリード弁型の第2吐出弁200Tが配置されている。また、第2吐出弁200Tに重ねて、第2吐出弁200Tの撓み開弁量を制限するための第2吐出弁押え201Tが、第2吐出弁200Tとともにリベットにより固定されている。上マフラー室180Tは、吐出冷媒の圧力脈動を低減させる。第2吐出孔190T、第2吐出弁200T及び第2吐出弁押え201Tは、上端板160Tの第2吐出弁部を構成している。なお、図示はしないが、ロータリ圧縮機が単シリンダ式である場合は、シリンダの上、下端部は、夫々端板により閉塞され、シリンダの下端部を閉塞する端板には、吐出弁部を設けなくともよい。
【0029】
第1シリンダ121S、下端板160S、下マフラーカバー170S、第2シリンダ121T、上端板160T、上マフラーカバー170T及び中間仕切板140は、複数の通しボルト175等により一体に締結されている。通しボルト175等により一体に締結された圧縮部12のうち、上端板160Tの外周部が、圧縮機筐体10にスポット溶接により固着され、圧縮部12を圧縮機筐体10に固定している。
【0030】
円筒状の圧縮機筐体10の外周壁には、軸方向に離間して下部から順に、第1及び第2貫通孔101,102が、第1及び第2吸入管104,105を通すために設けられている。また、圧縮機筐体10の外側部には、独立した円筒状の密閉容器からなるアキュムレータ25が、アキュムホルダー252及びアキュムバンド253により保持されている。
【0031】
アキュムレータ25の天部中心には、冷媒回路の蒸発器に接続するシステム接続管255が接続され、アキュムレータ25の底部に設けられた底部貫通孔257には、一端がアキュムレータ25の内部上方まで延設され、他端が、第1及び第2吸入管104,105の他端に接続される第1及び第2低圧連絡管31S,31Tが接続されている。
【0032】
冷媒回路の低圧冷媒をアキュムレータ25を介して第1及び第2の圧縮部12S,12Tに導く第1及び第2低圧連絡管31S,31Tは、吸入部としての第1及び第2吸入管104,105を介して第1及び第2シリンダ121S,121Tの第1及び第2吸入孔135S,135T(
図2参照)に接続されている。すなわち、第1及び第2吸入孔135S,135Tは、冷媒回路の蒸発器に並列に接続されている。
【0033】
圧縮機筐体10の天部には、冷媒回路と接続し高圧冷媒ガスを冷媒回路の凝縮器側に吐出する吐出部としての吐出管107が接続されている。すなわち、第1及び第2吐出孔190S,190Tは、冷媒回路の凝縮器に接続されている。
【0034】
圧縮機筐体10内には、およそ第2シリンダ121Tの高さまで潤滑油が封入されている。また、潤滑油は、回転軸15の下部に挿入される図示しないポンプ羽根により、回転軸15の下端部に取付けられた給油パイプ16から吸上げられ、圧縮部12を循環し、摺動部品の潤滑を行なうと共に、圧縮部12の微小隙間のシールをする。
【0035】
次に、
図3及び
図4を参照して、実施例のロータリ圧縮機1の特徴的な構成について説明する。
図3は、
図2の部分拡大図であり、
図4は、
図3の部分拡大図である。
図3及び
図4に示すように、第1及び第2ベーン127S,127Tが、背圧によるベーン押付け力Pにより、第1及び第2環状ピストン125S,125Tに押付けられると、次の(1)式及び(2)式で示される最大接触応力σ
maxが発生する。
【数1】
σ
max=2P/(πa)・・・・・(2)
ここで、σ
max:最大接触応力、a:接触幅、P:ベーン押付け力、R
v:ベーン先端曲率半径、R
ro:環状ピストン半径、E
v:ベーン弾性係数、E
ro:環状ピストン弾性係数、ν
v:ベーンポアソン比、ν
ro:環状ピストンポアソン比。
【0036】
また、第1及び第2ベーン127S,127Tの先端両側部の非摺動領域幅W
tは、次の(A)式で示される(
図4の相似三角形の寸法関係参照)。
W
t=(W/2)−e×R
v/(R
v+R
ro)・・・・・(A)
ここで、W
t:ベーン先端両側部の非摺動領域幅、W:ベーン幅、e:偏心部の偏心量。
【0037】
ロータリ圧縮機1が、過酷な運転条件下(例えば、低外気温暖房時など、冷媒ガスの低圧側と高圧側の圧力比が大きく、また、高圧側のガス温度が高く、ガス流量が少なくなる運転条件下)で、第1及び第2ベーン127S,127Tと第1及び第2環状ピストン125S,125Tとの接触応力が大きくなると、第1及び第2ベーン127S,127T及び第1及び第2環状ピストン125S,125Tに異常摩耗が生じるので、極力、(2)式で示される最大接触応力σ
maxを小さくする必要がある。
【0038】
最大接触応力σ
maxを小さくするためには、第1及び第2ベーン127S,127Tのベーン幅Wを小さくして、圧縮機筐体10内の冷媒ガスの背圧によるベーン押付け力Pを小さくすることが有効である{(2)式参照}。また、ベーン先端曲率半径R
vを大きくすれば、(1)式で示す、第1及び第2ベーン127S,127Tと第1及び第2環状ピストン125S,125Tとの接触幅a(接触幅aは、第1及び第2ベーン127S,127Tと第1及び第2環状ピストン125S,125Tとの接点での弾性変形による周方向の接触幅である。
図4では、接触点としか見えない。)を大きくすることができ、(2)式で示す最大接触応力σ
maxを下げることができる。
【0039】
しかしながら、ベーン先端曲率半径R
vを大きくしすぎると、(A)式で示す、第1及び第2ベーン127S,127Tの先端両側部の非摺動領域幅W
tが、0となり、
図3に示すベーン稜線部が、第1及び第2環状ピストン125S,125Tの外周面に当たり、最大接触応力σ
maxが増大して外周面の異常摩耗を引き起こす。
【0040】
そこで、第1及び第2ベーン127S,127Tの製作公差、第1及び第2ベーン溝128S,128Tの製作公差、第1及び第2ベーン127S,127Tの撓みなどがあっても、非摺動領域幅W
tが、0となって、ベーン稜線部が第1及び第2環状ピストン125S,125Tの外周面に当たることがないように、(A)式で定義される第1及び第2ベーン127S,127Tの先端両側部の非摺動領域幅W
tが、次の(B)式を満足する値となるように、ベーン幅W及びベーン先端曲率半径R
vを設定する。
0.3mm≦W
t≦0.6mm・・・・・(B)
非摺動領域幅W
tを、(B)式を満足する値(非摺動領域幅W
tが、背景技術に記載した従来値よりも10%以上狭い)とすることにより、ベーン幅Wが、従来よりも薄くなり、背圧によるベーン押付け力Pを20%小さくして、最大接触応力σ
maxを小さくすることができる。
【0041】
(A)式で定義される第1及び第2ベーン127S,127Tの先端両側部の非摺動領域幅W
tを、(B)式を満足するように設定することにより、ロータリ圧縮機1の信頼性を向上させるために最適なベーン幅W及びベーン先端曲率半径R
vを得ることができる。それにより、冷媒ガスの吐出温度が高温となる過酷な運転条件下で、ロータリ圧縮機1を使用することができる。
【0042】
本発明に係るロータリ圧縮機は、特に、R410A冷媒に対してガス密度が小さく、吐出温度が高温となるR32冷媒、若しくは、R32冷媒を少なくとも25重量%以上含む混合冷媒を使用する場合に有効である。