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特開2015-162655加熱処理容器、加熱処理容器集合体、及び、半導体素子製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-162655(P2015-162655A)
(43)【公開日】2015年9月7日
(54)【発明の名称】加熱処理容器、加熱処理容器集合体、及び、半導体素子製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/302 20060101AFI20150811BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20150811BHJP
   C30B 29/36 20060101ALI20150811BHJP
   C30B 33/08 20060101ALI20150811BHJP
   H01L 21/324 20060101ALI20150811BHJP
【FI】
   H01L21/302 201A
   H01L21/265 602A
   C30B29/36 A
   C30B33/08
   H01L21/265 602C
   H01L21/324 X
   H01L21/324 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-38715(P2014-38715)
(22)【出願日】2014年2月28日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り イノベーションジャパン2013、平成25年8月30日
(71)【出願人】
【識別番号】000222842
【氏名又は名称】東洋炭素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】鳥見 聡
(72)【発明者】
【氏名】矢吹 紀人
(72)【発明者】
【氏名】野上 暁
【テーマコード(参考)】
4G077
5F004
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AA03
4G077BE08
4G077CG10
4G077EA02
4G077EA05
4G077EB02
4G077ED06
4G077EE03
4G077EG04
4G077EG16
4G077EG25
4G077FD03
4G077FD05
4G077FG04
4G077FG17
4G077FK02
4G077FK18
4G077GA07
4G077HA06
4G077HA12
4G077QA73
5F004AA11
5F004BB19
5F004BB26
5F004BB29
5F004BC05
5F004DB19
5F004FA02
(57)【要約】
【課題】SiC基板に効率的に加熱処理を行うことができるとともに、コンパクトな加熱用容器を提供する。
【解決手段】加熱処理容器は、少なくとも表面が単結晶SiCで構成されるSiC基板40をSi蒸気圧下で加熱処理するための容器である。容器部30と、基板支持部50と、を備える。容器部30は、Si蒸気圧を実現するための内部空間33を有し、当該内部空間33の一部が開放される。基板支持部50は、SiC基板40を支持可能であり、当該SiC基板40を支持することで容器部30の開放された部分が覆われて内部空間33が密閉空間となる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面が単結晶SiCで構成されるSiC基板をSi蒸気圧下で加熱処理するための加熱処理容器において、
Si蒸気圧を実現するための内部空間を有し、当該内部空間の一部が開放された容器部と、
前記SiC基板を支持可能であり、当該SiC基板を支持することで前記容器部の開放された部分が覆われて前記内部空間が密閉空間となる基板支持部と、
を備えることを特徴とする加熱処理容器。
【請求項2】
請求項1に記載の加熱処理容器であって、
前記容器部は、前記内部空間の上方が開放されており、
前記基板支持部が前記SiC基板を支持することで、前記内部空間の上方が覆われることを特徴とする加熱処理容器。
【請求項3】
請求項2に記載の加熱処理容器であって、
別の加熱処理容器の下面を支持する容器支持部が上面に設けられていることを特徴とする加熱処理容器。
【請求項4】
請求項3に記載の加熱処理容器であって、
前記基板支持部には貫通孔が形成され、当該基板支持部は前記貫通孔の外側の縁部で前記SiC基板を支持し、
前記容器部は、第1ステップと、当該第1ステップより上方にある第2ステップと、を備えており、
前記第1ステップは、前記基板支持部の外縁を支持し、前記貫通孔から露出する前記SiC基板を前記内部空間に対面させ、
前記第2ステップは、前記容器支持部に該当し、別の加熱処理容器の下面を支持することを特徴とする加熱処理容器。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載の加熱処理容器であって、
少なくとも前記容器部は、タンタル金属を含み、当該タンタル金属の内部空間側に炭化タンタル層が設けられ、当該炭化タンタル層の更に内部空間側にタンタルシリサイド層が設けられることを特徴とする加熱処理容器。
【請求項6】
請求項5に記載の加熱処理容器であって、
前記容器部の前記内部空間を形成する壁面の全体にわたって前記タンタルシリサイド層が設けられていることを特徴とする加熱処理容器。
【請求項7】
請求項1から6までの何れか一項に記載の加熱処理容器であって、
前記容器部と前記基板支持部が分離可能であり、前記基板支持部が交換可能であることを特徴とする加熱処理容器。
【請求項8】
請求項1から7までの何れか一項に記載の加熱処理容器を複数連結して構成される加熱処理容器集合体。
【請求項9】
請求項1から8までの何れか一項に記載の加熱処理容器を備えることを特徴とする半導体素子製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主要には、SiC基板をSi蒸気圧下で加熱してエッチングを行うための加熱処理容器に関する。
【背景技術】
【0002】
SiCは、Si等と比較して耐熱性及び電気的特性等に優れるため、新たな半導体材料として注目されている。
【0003】
特許文献1は、このSiC基板の表面を平坦化する表面処理方法を開示する。この表面処理方法では、SiC基板を収納容器(加熱処理容器)に収納した状態で加熱処理を行う。この収納容器は、嵌合可能な上容器及び下容器から構成される。収納容器は、上容器と下容器とを嵌合することで密閉空間が実現できる。加熱処理は、上容器と下容器とを嵌合した状態であって、収納容器内にSiペレットを配置した状態で行われる。この加熱処理を行うことにより、収納容器の内部のSiC基板がエッチングされ、分子レベルに平坦なSiC基板を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−16691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の収納容器を用いて加熱処理を行う場合、SiC基板を下容器に配置した後に、下容器に上容器を嵌め込む必要がある。この嵌合処理は、SiC基板1枚毎に行う必要があるので、SiC基板に効率的に加熱処理を行うことができず、ひいては半導体素子の製造効率が低下してしまう。
【0006】
なお、収納容器の内部にSiC基板を配置する場合、下容器に支持台を設ける必要がある。この場合、収納容器の上下方向のサイズが大きくなってしまう。
【0007】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、SiC基板に効率的に加熱処理を行うことができるとともに、コンパクトな加熱用容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0009】
本発明の第1の観点によれば、少なくとも表面が単結晶SiCで構成されるSiC基板をSi蒸気圧下で加熱処理するための加熱処理容器において、以下の構成が提供される。即ち、この加熱処理容器は、容器部と、基板支持部と、を備える。前記容器部は、Si蒸気圧を実現するための内部空間を有し、当該内部空間の一部が開放される。前記基板支持部は、前記SiC基板を支持可能であり、当該SiC基板を支持することで前記容器部の開放された部分が覆われて前記内部空間が密閉空間となる。
【0010】
これにより、SiC基板を基板支持部に支持させるだけで密閉空間が実現できるので、別途蓋部を設ける構成と比較して、加熱処理を行う際の工程を簡単にすることができる。従って、半導体素子の製造効率を向上させることができる。
【0011】
前記の加熱処理容器においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記容器部は、前記内部空間の上方が開放されている。前記基板支持部が前記SiC基板を支持することで、前記内部空間の上方が覆われる。
【0012】
これにより、SiC基板の下面に加熱処理が行われることとなるので、微小な不純物が落下して付着することを防止できる。従って、高品質なSiC基板を製造することができる。
【0013】
前記の加熱処理容器においては、別の加熱処理容器の下面を支持する容器支持部が上面に設けられていることが好ましい。
【0014】
これにより、加熱処理容器同士を重ねることができるので、加熱処理容器を重ねた状態でまとめて加熱処理を行うことで、SiC基板に効率的に加熱処理を行うことができる。
【0015】
前記の加熱処理容器においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記基板支持部には貫通孔が形成され、当該基板支持部は前記貫通孔の外側の縁部で前記SiC基板を支持する。前記容器部は、第1ステップと、当該第1ステップより上方にある第2ステップと、を備えている。前記第1ステップは、前記基板支持部の外縁を支持し、前記貫通孔から露出する前記SiC基板を前記内部空間に対面させる。前記第2ステップは、前記容器支持部に該当し、別の加熱処理容器の下面を支持する。
【0016】
これにより、基板支持部がSiC基板の縁を支持することで、SiC基板の縁以外の部分について加熱処理を行うことができる。従って、SiC基板の表面を有効に活用して半導体(半導体素子)を製造することができる。
【0017】
前記の加熱処理容器においては、少なくとも前記容器部は、タンタル金属を含み、当該タンタル金属の内部空間側に炭化タンタル層が設けられ、当該炭化タンタル層の更に内部空間側にタンタルシリサイド層が設けられることが好ましい。
【0018】
従来のように収納容器の内面にSiを固着させてSiを供給する構成は、Siが溶融して落下することでSiC基板に悪影響を与えることがある。この点、上記のように、タンタルシリサイド層によって内部空間にSiを供給することで、その悪影響を防止できる。
【0019】
前記の加熱処理容器においては、前記容器部の前記内部空間を形成する壁面の全体にわたって前記タンタルシリサイド層が設けられていることが好ましい。
【0020】
これにより、内部空間内のSiの圧力を均一にすることができるので、SiC基板の加熱処理を均一に行うことができる。
【0021】
前記の加熱処理容器においては、前記容器部と前記基板支持部が分離可能であり、前記基板支持部が交換可能であることが好ましい。
【0022】
これにより、前記基板支持部を交換することで、様々な形状及びサイズのSiC基板に対して加熱処理を行うことができる。
【0023】
本発明の第2の観点によれば、前記の加熱処理容器を複数連結して構成される加熱処理容器集合体が提供される。
【0024】
これにより、複数枚のSiC基板に対してまとめて加熱処理を行うことができるので、SiC基板を効率的に処理することができる。
【0025】
本発明の第3の観点によれば、前記の加熱処理容器を備える半導体素子製造装置が提供される。
【0026】
これにより、上記の効果を発揮できる半導体素子製造装置が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の表面処理方法に用いる高温真空炉の概要を説明する図。
図2】加熱処理容器集合体の斜視図。
図3】加熱処理容器集合体の端面図。
図4】加熱処理容器の分解斜視図。
図5】SiC基板、基板支持部、及び容器部の平面図。
図6】加熱処理容器の壁面の組成を示す概略図。
図7】各工程におけるSiC基板の様子を概略的に示す図。
図8】加熱処理後のSiC基板の位置に応じたシート抵抗を測定した図。
図9】本実施形態の加熱処理後のSiC基板と、従来の加熱処理後のSiC基板と、でシート抵抗を比較する図。
図10】加熱処理前後のSiC基板の表面の純度を示す図。
図11】SiC基板の位置に応じたエッチング速度を測定した図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0029】
初めに、図1を参照して、本実施形態の加熱処理で用いる高温真空炉(半導体素子製造装置)10について説明する。図1は、本発明の表面処理方法に用いる高温真空炉の概要を説明する図である。
【0030】
図1に示すように、高温真空炉10は、本加熱室21と、予備加熱室22と、を備えている。本加熱室21は、少なくとも表面が単結晶SiCで構成されるSiC基板を1000℃以上2300℃以下の温度に加熱することができる。予備加熱室22は、SiC基板を本加熱室21で加熱する前に予備加熱を行うための空間である。
【0031】
本加熱室21には、真空形成用バルブ23と、不活性ガス注入用バルブ24と、真空計25と、が接続されている。真空形成用バルブ23により、本加熱室21の真空度を調整することができる。不活性ガス注入用バルブ24により、本加熱室21内の不活性ガス(例えばArガス)の圧力を調整することができる。真空計25により、本加熱室21内の真空度を測定することができる。
【0032】
本加熱室21の内部には、ヒータ26が備えられている。また、本加熱室21の側壁や天井には図略の熱反射金属板が固定されており、この熱反射金属板によって、ヒータ26の熱を本加熱室21の中央部に向けて反射させるように構成されている。これにより、SiC基板40を強力且つ均等に加熱し、1000℃以上2300℃以下の温度まで昇温させることができる。なお、ヒータ26としては、例えば、抵抗加熱式のヒータや高周波誘導加熱式のヒータを用いることができる。
【0033】
また、SiC基板40は、加熱処理容器集合体3に収容される。加熱処理容器集合体3は、加熱処理容器3a〜3fから構成されている。加熱処理容器3a〜3fは、それぞれ1枚ずつSiC基板40を支持する。また、加熱処理容器集合体3は、処理台27に載せられている。処理台27は、図略の駆動装置及び伝達機構によって、少なくとも予備加熱室から本加熱室まで移動可能に構成されている。
【0034】
SiC基板40を加熱処理する際には、初めに、図1の鎖線で示すように加熱処理容器集合体3を高温真空炉10の予備加熱室22に配置して、適宜の温度(例えば約800℃)で予備加熱する。次に、予め設定温度(例えば、約1800℃)まで昇温させておいた本加熱室21へ加熱処理容器集合体3を移動させる。その後、適宜の環境下でSiC基板40を加熱する。なお、予備加熱を省略しても良い。
【0035】
次に、加熱処理容器集合体3について説明する。図2及び図3に示すように、加熱処理容器集合体3は、加熱処理容器3a〜3fを上下方向に重ねることで構成されている。加熱処理容器3a〜3fは、全て同一形状なので、以下では代表して加熱処理容器3aについて説明する。
【0036】
図4に示すように、加熱処理容器3aは、SiC基板40を支持するとともに、当該SiC基板40をSi蒸気圧下で加熱するための容器である。加熱処理容器3aは、容器部30と、基板支持部50と、を備えている。
【0037】
容器部30は、図4等に示すように、軸方向の長さが短い有底筒状の容器である。容器部30は、底面部31と、側面部32と、を備えている。底面部31の内側である底面側内壁面31aと、側面部32の内側である側面側内壁面32aと、により内部空間33が形成される。なお、この内部空間33は上方が開放された空間である。
【0038】
また、側面部32には、第1ステップ34と、第2ステップ35と、第3ステップ36と、が形成されている。
【0039】
第1ステップ34は、容器部30の全周にわたって形成されている。第1ステップ34は、基板支持部50の外縁部分を支持する。
【0040】
第2ステップ35は、第1ステップ34より高い位置に形成されている。第2ステップ35は、間隔が均等となるように3箇所に形成されている。換言すれば、第2ステップ35は、全周ではなく一部にのみ形成されている。第2ステップ35は、加熱処理容器3aの上側に加熱処理容器3bを重ねる際に、当該加熱処理容器3bの容器部30を支持する。
【0041】
第3ステップ36は、第1ステップ34及び第2ステップ35より高い位置に形成されている。第3ステップ36は、第2ステップ35の上側に形成されているので、間隔が均等となるように3箇所に形成されている。第3ステップ36は、上側に重ねた加熱処理容器3bが加熱処理容器3aに対して水平方向に移動しないように、当該加熱処理容器3bの位置を規制する。
【0042】
SiC基板40は、図4に示すように、略円板状である。SiC基板40は、被処理面41と、その反対側の裏面42と、が形成されている。本実施形態では、被処理面41が下側を向くようにSiC基板40を配置する。
【0043】
また、SiC基板40には、第1オリエンテーションフラット43と、第2オリエンテーションフラット44と、が形成されている。これらは、結晶軸方位を示すために円板を切り欠いた部分(直線部)であり、またSiC基板40の取扱い時における表裏の誤りを防止するためのものである。
【0044】
基板支持部50は、SiC基板40を支持し、被処理面41を内部空間に対面させる(露出させる)ための部材である。基板支持部50は、略円板状の部材であるベース部51を備えている。
【0045】
ベース部51の外縁には、切欠き52が形成されている。切欠き52は、間隔が均等となるように3箇所に形成されている。基板支持部50は、切欠き52が第2ステップ35に入り込むようにして、容器部30に取り付けられる(図2)。この構成により、ボルト等で固定することなく、容器部30に対する基板支持部50の水平移動及び回転移動を規制することができる。
【0046】
また、ベース部51の中央には、貫通孔53及び縁部(ザグリ部)54が形成されている。貫通孔53はSiC基板40を内部空間に対面させるために形成されている。縁部54は、貫通孔53のすぐ外側であって、ベース部51の上面より低い高さのステップである。また、縁部54には、上述の第1オリエンテーションフラット43に対応する第1直線部54aが形成されるとともに、第2オリエンテーションフラット44に対応する第2直線部54bが形成されている。この第1直線部54a及び第2直線部54bが目印となることで、SiC基板40の表裏を誤ることなく、所望の面を処理することができる。
【0047】
縁部54は、SiC基板40の外縁と接触することで、このSiC基板40を支持することができる。また、縁部54はベース部51より低い位置に形成されているので、基板支持部50に対するSiC基板40の水平移動を規制することができる。
【0048】
ここで、縁部54の形状(矩形か円形か)及びサイズはSiC基板40に対応していることが好ましい。詳細には、縁部54のサイズはSiC基板40の外径より少しだけ大きくして、SiC基板40の着脱を容易とする必要がある。また、上述のように、基板支持部50と容器部30とは、ボルト等を使うことなく簡単に分離可能である。従って、貫通孔53の形状及びサイズが異なる他の基板支持部50を交換して用いることで、加熱処理容器3aを様々なSiC基板40に対応させることができる。
【0049】
SiC基板40を基板支持部50に載せ、この基板支持部50を容器部30に載せることで、SiC基板40の被処理面41を、貫通孔53を介して、内部空間33に対面させることができる(図2)。これにより、基板支持部50及びSiC基板40によって、内部空間33の上方の開放部分を覆うことができるので、内部空間33を密閉空間とすることができる。従って、従来のように上容器を下容器に嵌合させる手間を省略できる。なお、本願において「密閉空間」とは、気体の移動が完全に遮られる程度の密閉度まで要求されず、気体がある程度密閉されていれば良いものとする。
【0050】
次に、容器部30及び基板支持部50の組成について図6を参照して説明する。図6は、加熱処理容器の壁面の組成を示す概略図である。
【0051】
容器部30及び基板支持部50は、少なくとも内部空間33の壁面を構成する部分において、図6に示す組成となっている。具体的には、外側から内部空間33側の順に、タンタル層(Ta)、タンタルカーバイド層(TaC及びTa2C)、及びタンタルシリサイド層(TaSi2)から構成されている。
【0052】
タンタル層及びタンタルカーバイド層から構成される坩堝は従来から知られているが、本実施形態では、更にタンタルシリサイド層が形成されている。このタンタルシリサイド層は、内部空間33をSi蒸気圧にするためのものであり、特許文献1におけるSiペレットに該当する。
【0053】
以下、タンタルシリサイド層の形成方法について簡単に説明する。タンタルシリサイド層は、溶融させたSiを坩堝の内壁面に接触させて、1800℃以上2000℃以下程度で加熱することで形成される。これにより、TaSi2から構成されるタンタルシリサイド層が実現できる。なお、本実施形態では、30μmから50μm程度のタンタルシリサイド層を形成するが、内部空間の体積等に応じて、例えば1μmから300μmの厚みであっても良い。
【0054】
以上のように処理を行うことで、タンタルシリサイド層を形成することができる。なお、本実施形態ではタンタルシリサイドとしてTaSi2が形成される構成であるが、他の化学式で表されるタンタルシリサイドが形成されていても良い。また、複数のタンタルシリサイドが重ねて形成されていても良い。
【0055】
本実施形態では、内部空間33を構成する壁面(側壁、底面、及びSiC基板40以外の上面)の全体にわたって、タンタルシリサイド層が形成されている。これにより、内部空間33内のSiの圧力を均一にすることができるので、SiC基板40の加熱処理を均一に行うことができる。
【0056】
次に、上記で説明した高温真空炉10及び加熱処理容器集合体3を利用してSiC基板40から半導体素子を製造する処理について図7を参照して説明する。図7は、各工程における基板の様子を概略的に示す図である。
【0057】
初めに、図7(a)に示すように、SiC基板40にエピタキシャル層45を形成する。エピタキシャル層を形成する方法は、任意であり、公知の気相エピタキシャル法や準安定溶媒エピタキシャル法等を用いることができる。更には、SiC基板40がOFF基板である場合、ステップフロー制御によってエピタキシャル層を形成するCVD法を用いることもできる。
【0058】
次に、図7(b)に示すように、エピタキシャル層45が形成されたSiC基板40にイオン注入を行う。このイオン注入は、対象物にイオンを照射する機能を有するイオンドーピング装置を用いて行う。イオンドーピング装置によって、エピタキシャル層45の表面の全面又は一部に選択的にイオンが注入される。そして、イオンが注入されたイオン注入部分46に基づいて半導体素子の所望の領域が形成されることになる。
【0059】
また、イオンが注入されることによって、図7(c)に示すように、イオン注入部分46を含むエピタキシャル層45の表面が荒れた状態になる(SiC基板40の表面が損傷し、平坦度が悪化する)。
【0060】
次に、注入したイオンの活性化、及び、イオン注入部分46等へのエッチングを行う(図7(d)を参照)。本実施形態では、両方の処理を1つの工程で行うことができる。具体的には、Si蒸気圧下で1500℃以上2200℃以下、望ましくは1600℃以上2000℃以下の環境で加熱処理(アニール処理)を行う。これにより、注入されたイオンを活性化することができる。また、SiC基板40の表面がエッチングされることで、イオン注入部分46の荒れた部分が平坦化されていく(図7(e)を参照)。
【0061】
以上の処理を行うことで、SiC基板40の表面が、十分な平坦度及び電気的活性を有することになる。このSiC基板40の表面を利用して、半導体素子を製造することができる。
【0062】
次に、本実施形態の加熱処理容器集合体3を用いて行われた加熱処理を評価するために行った実験を説明する。以下の実験は、3つの加熱処理容器を重ねた加熱処理容器集合体3を用い、オフ角が4°の4インチのSiC基板40を被処理物としている。初めに、SiC基板40に約10μmのエピタキシャル成長を行い、次に、SiC基板の表面から500nmの距離からAlイオンをドーズ量5.6E+14/cm2にて注入した後に加熱処理を行った。
【0063】
図8は、加熱処理後のSiC基板について、位置に応じたシート抵抗を測定した図である。なお、イオンを注入する工程において、SiC基板40の全体にイオンを注入している。図8(a)のグラフの横軸が測定点であり、図8(b)の数字に対応している。図8(a)の縦軸はシート抵抗である。また、得られた結果を元に平均値、最大値、最小値、3σ、変動係数(σ/μ)を計算した。この変動係数は4.54%であり、イオン注入のバラツキが5%程度であることを考慮すると、表面に均一に処理が行われたことが分かる。
【0064】
図9は、本実施形態の加熱処理後のSiC基板と、従来の加熱処理後のSiC基板と、でシート抵抗を比較する図である。図9のグラフに示すように、本実施形態による方法は、1600℃及び1700℃の両方において、同温度の他の方法よりシート抵抗が低いため、品質が高いSiC基板40が得られたことが分かる。特に1700℃において、他の何れよりも低いシート抵抗を示すため、品質が非常に高いSiC基板が得られたことが分かる。
【0065】
図10は、加熱処理前後のSiC基板の表面の純度を示す図である。図10(a)は、SiC基板40の表面の計測点(Center及びEdge)の位置を示している。図10(b)は、加熱処理前後における、他の不純物の含有量を示している。図10(b)に示すように、不純物は殆ど検出されておらず、加熱処理前に検出された不純物は、加熱処理によるエッチングで除去されたことが分かる。
【0066】
図11は、SiC基板の位置に応じたエッチング速度を測定した図である。図11(a)は、SiC基板40の表面の計測点の位置を示している。図11(b)は、各位置における温度毎のエッチング速度を示している。何れの温度においてもエッチング速度は略同じ値になっているため、SiC基板40の位置に関係なく均一にエッチングが行われていることが分かる。なお、若干の変化が見られるが、例えば温度のバラツキ等に起因するものと考えられる。
【0067】
以上に説明したように、本実施形態の加熱処理容器3a〜3fは、容器部30と、基板支持部50と、を備える。容器部30は、Si蒸気圧を実現するための内部空間33を有し、当該内部空間33の一部が開放される。基板支持部50は、SiC基板40を支持可能であり、当該SiC基板40を支持することで容器部30の開放された部分が覆われて内部空間33が密閉空間となる。
【0068】
これにより、SiC基板40を基板支持部50に支持させるだけで密閉空間が実現できるので、別途蓋部を設ける構成と比較して、加熱処理を行う際の工程を簡単にすることができる。従って、半導体素子の製造効率を向上させることができる。また、従来のように下容器内に支持台が不要なので、加熱処理容器の上下方向のサイズを低減できる。
【0069】
また、本実施形態の加熱処理容器3a〜3fにおいて、容器部30は、内部空間33の上方が開放されている。基板支持部50がSiC基板40を支持することで、内部空間33の上方が覆われる。
【0070】
これにより、SiC基板40の下面に加熱処理が行われることとなるので、微小な不純物が落下して付着することを防止できる。従って、高品質なSiC基板40を製造することができる。
【0071】
また、本実施形態の加熱処理容器3a〜3fは、上面に設けられ、別の加熱処理容器3a〜3fの下面を支持する第2ステップ(容器支持部)35を備える。
【0072】
これにより、加熱処理容器同士を重ねることができるので、加熱処理容器を重ねた状態でまとめて加熱処理を行うことで、SiC基板に効率的に加熱処理を行うことができる。
【0073】
また、本実施形態の加熱処理容器3a〜3fにおいて、少なくとも容器部30は、タンタル金属を含み、当該タンタル金属の内部空間33側に炭化タンタル層が設けられ、当該炭化タンタル層の更に内部空間33側にタンタルシリサイド層が設けられることが好ましい。
【0074】
従来のように収納容器の内面にSiを固着させてSiを供給する構成は、Siが溶融して落下することでSiC基板に悪影響を与えることがある。この点、上記のように、タンタルシリサイド層によって内部空間33にSiを供給することで、その悪影響を防止できる。
【0075】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0076】
なお、本実施形態では、加熱処理容器3a〜3fをイオン注入後のエッチングのために用いたが、均一なエッチング等が要求される工程であれば、様々な工程に上記の制御を適用することができる。
【0077】
例えば、エピタキシャル成長を行う前の基板(結晶欠陥等を有する基板)を平坦化する方法として、炭化層及び犠牲成長層を形成して犠牲成長層をエッチングする方法が知られている。この犠牲成長層のエッチングを行う際に本実施形態の加熱処理容器3a〜3fを用いることができる。この場合、犠牲成長層を均一に除去することができる。
【0078】
タンタルシリサイド層を形成する方法は上記実施形態で示した方法に限られず、上記で説明した構成(組成)の加熱処理容器が形成できるのであれば、任意の方法を用いることができる。
【0079】
加熱処理容器3a〜3fの形状は任意であり、適宜変更できる。例えば容器部30と基板支持部50とが一体的に形成されていても良い。この場合、基板支持部50を交換することはできないが、加熱処理容器3aの形状を単純にすることができる。また、内部空間33は、円柱状であっても良いし、立方体状又は直方体状であっても良い。
【0080】
本実施形態では、容器部30を基板支持部50に載せることで、SiC基板40及び基板支持部50が内部空間33の開放部分を覆うが、殆どSiC基板40のみによって内部空間33の開放部分を覆っても良い。
【0081】
内部空間の壁面にタンタルシリサイド層を形成する代わりに、固体のSiペレットを配置しても良い。また、壁面にSiを固着しても良い。
【0082】
加熱処理容器集合体3を構成する加熱処理容器の積層数は任意であり、処理するSiC基板40の枚数、高温真空炉10の大きさ等に応じて変化させることができる。
【0083】
本実施形態では、内部空間33の上方が開放されているため、SiC基板40の下面が被処理面41となる。これに代えて、内部空間33の下方が開放されていても良い。この場合、SiC基板40の上方が被処理面41となる。また、内部空間の側方等が開放されていても良い。
【0084】
積層される加熱処理容器の底面を省略し、加熱処理容器の内部空間が連結される構成であっても良い。この場合、Si供給源となるシリサイドは、側面部32の内部空間33側や、基板支持部50の上面又は下面に形成しておけば良い。この様な構成により、SiC基板40の上方及び下方がSi蒸気圧下になるため、SiC基板40の両面を同時に処理することができる。
【0085】
処理を行った環境及び用いた単結晶SiC基板等は一例であり、様々な環境及び単結晶SiC基板に対して適用することができる。
【符号の説明】
【0086】
3 加熱処理容器集合体
3a〜3f 加熱処理容器
10 高温真空炉(半導体素子製造装置)
21 本加熱室
22 予備加熱室
30 容器部
31 底面部
32 側面部
34 第1ステップ
35 第2ステップ(容器支持部)
36 第3ステップ
40 SiC基板
41 被処理面
50 基板支持部
51 ベース部
52 切欠き
53 貫通孔
54 縁部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11