【解決手段】棒状部に係合または離脱することでロックまたはロック解除する乗物用ラッチ装置1である。乗物用ラッチ装置1は、棒状部が入り込む進入溝(15A,15B,25)を有する筐体2と、筐体2内に収容されるとともに筐体2に回動可能に支持され、棒状部に係合可能な鉤状部33を有するラッチ30とを含む。筐体2は、ラッチを回動可能に支持する樹脂筐体10と、棒状部が入り込む補強板20とを備え、樹脂筐体10と補強板20とが互いに重なり合っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ラッチやラチェットと、これらを収容する筐体とを同一の材料、すなわち鋼材で構成すると、ラッチ装置が重くなりすぎるという問題があった。
一方、ラッチ装置の軽量化を図る場合、各構成部材の耐久性や剛性が不十分になるという問題もあった。
【0005】
また、鋼製のラッチやラチェットと鋼製の筐体が接触することにより、金属音が発生するという問題もあった。このような金属音は、ラッチ装置の作動時だけでなく、車体の振動によっても発生することになるので、ラッチ装置が設けられる箇所によってはあまり好ましくないことがある。
【0006】
また、ラッチ装置を組み立てる際は、生産性を向上させることが望ましい。そのため、ラッチ装置の部品点数の削減、組み立てを簡素化する部品形状が望まれる。
【0007】
本発明は、以上のような背景に鑑みてなされたものであり、乗物用ラッチ装置において、軽量化を図ることを目的とする。
また、軽量化した場合であっても、耐久性や剛性を確保するラッチ装置を提供することも目的とする。
【0008】
また、本発明は、乗物用ラッチ装置において、金属同士の接触を少なくし、良好な作動感を提供することも目的とする。
さらに、本発明は、乗物用ラッチ装置の生産性を向上させることも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した課題を解決する第1の発明は、乗物用ラッチ装置の筐体が第1部材と第2部材とを含んで構成される。
第1の発明は、棒状部に係合または離脱することでロックまたはロック解除する乗物用ラッチ装置であって、少なくとも一部が第1の材料からなる第1部材で構成され、前記棒状部が入り込む進入溝を有する筐体と、第2の材料からなり、前記棒状部に当接する第2部材と、を含み、前記第2の材料は、前記第1の材料よりも比重が大きく弾性係数が大きい構成を有する。
そして、前記筐体内に収容されるとともに前記筐体に回動可能に支持され、前記棒状部に係合可能な鉤状部を有するラッチをさらに備え、前記筐体は、前記第1部材と前記第2部材とを含んで構成され、前記進入溝が前記第2部材に形成されている。
【0010】
前記乗物用ラッチ装置のこのような構成によると、前記棒状部に当接する第2部材よりも比重が小さく弾性係数が小さい第1部材によって前記筐体の少なくとも一部が構成されるので、第2部材のみから筐体を構成する場合に比較して軽量化を図ることができる。
また、前記筐体が、第1の材料からなる第1部材と、第1の材料よりも比重が大きく弾性係数が大きい第2の材料からなる第2部材とを含んで構成されることで、第2の材料だけから筐体を構成する場合に比較して軽量化を図ることができる。また、第1の材料だけから筐体を構成する場合には、筐体の剛性が不十分になることがあるが、第2の材料を用いることで剛性を確保することができる。さらに、進入溝を、少なくとも第2部材で構成することで、進入溝の耐久性を確保することができる。
【0011】
第1の発明における第1の態様では、前記第1部材は、内側に突出する円筒状の第1軸を一体に有し、前記ラッチは、前記第1軸に嵌合する第1穴を有し、前記第1軸および前記第1穴の係合により前記ラッチが前記第1部材に回動可能に支持され、前記第1軸の筒の内部を貫通し、乗物用ラッチ装置を他の装置に固定するための第1固定部材をさらに備えることを特徴とする。
前記乗物用ラッチ装置のこのような構成によると、第1部材に形成された円筒状の第1軸の中に第1固定部材が入ることで第1軸の剛性を高くすることができる。
【0012】
第1の発明における第2の態様では、前記筐体内に収容されるとともに前記第1部材に回動可能に支持され、前記ラッチに係合することで、前記ラッチが前記棒状部に対して係合可能な閉状態および棒状部から離脱する開状態を維持するラチェットをさらに備え、前記第1部材は、内側に突出する円筒状の第2軸を一体に有し、前記ラチェットは、前記第2軸に嵌合する第2穴を有し、前記第2軸および前記第2穴の係合により前記ラチェットが前記第1部材に回動可能に支持され、前記第2軸の筒の内部を貫通し、乗物用ラッチ装置を他の装置に固定するための第2固定部材をさらに備えることを特徴とする。
前記乗物用ラッチ装置のこのような構成によると、第1部材に形成された円筒状の第2軸の中に第2固定部材が入ることで第2軸の剛性を高くすることができる。
【0013】
第1の態様における前記した乗物用ラッチ装置は、前記筐体内に収容されるとともに前記第1部材に回動可能に支持され、前記ラッチに係合することで、前記ラッチが前記棒状部に対して係合可能な閉状態および棒状部から離脱する開状態を維持するラチェットをさらに備え、前記第1部材は、内側に突出する円筒状の第2軸を一体に有し、前記ラチェットは、前記第2軸に嵌合する第2穴を有し、前記第2軸および前記第2穴の係合により前記ラチェットが前記第1部材に回動可能に支持され、前記第2軸の筒の内部を貫通し、乗物用ラッチ装置を他の装置に固定するための第2固定部材をさらに備えることが望ましい。
【0014】
前記乗物用ラッチ装置のこのような構成によると、第1部材に形成された円筒状の第2軸の中に第2固定部材が入ることで第2軸の剛性を高くすることができる。
【0015】
第1の態様における前記した乗物用ラッチ装置は、前記筐体内に収容されるとともに前記第1部材に回動可能に支持され、前記ラッチに係合することで、前記ラッチが前記棒状部に対して係合可能な閉状態および棒状部から離脱する開状態を維持するラチェットをさらに備え、前記第1部材は、内側に突出する円筒状の第2軸を一体に有し、前記ラチェットは、前記第2軸に嵌合する第2穴を有し、前記第2軸および前記第2穴の係合により前記ラチェットが前記第1部材に回動可能に支持され、前記第2軸の筒の内部を貫通し、乗物用ラッチ装置を他の装置に固定するための第2固定部材をさらに備え、前記棒状部からの荷重を受ける方向から見て、前記第1固定部材と前記第2固定部材の間に、前記棒状部からの荷重を受ける荷重受け部が設けられていることが望ましい。
【0016】
前記乗物用ラッチ装置のこのような構成によると、荷重受け部で受ける力を第1固定部材と第2固定部材とでバランス良く支持し、乗物用ラッチ装置に不要な回転モーメントが発生することがない。
【0017】
第1の態様における前記した乗物用ラッチ装置は、前記筐体内に収容されるとともに前記第1部材に回動可能に支持され、前記ラッチに係合することで、前記ラッチが前記棒状部に対して係合可能な閉状態および棒状部から離脱する開状態を維持するラチェットをさらに備え、前記第1部材は、内側に突出する円筒状の第2軸を一体に有し、前記ラチェットは、前記第2軸に嵌合する第2穴を有し、前記第2軸および前記第2穴の係合により前記ラチェットが前記筐体に回動可能に支持され、前記第2軸の筒の内部を貫通し、乗物用ラッチ装置を他の装置に固定するための第2固定部材をさらに備え、前記第1部材の、前記第1固定部材および前記第2固定部材が通る各孔の縁には前記第1部材の外側に突出して延びる位置決め突起が設けられ、前記第2部材は、前記位置決め突起のそれぞれに嵌合する位置決め孔を有することが望ましい。
【0018】
前記乗物用ラッチ装置のこのような構成によると、位置決め突起は、第1固定部材および第2固定部材が通る孔の縁に設けられているので、別途の位置決めの突起と孔を設けるのに比較して構成が簡易であり、また、位置決め突起と位置決め孔との係合が確実である。
【0019】
第1の発明における第3の態様では、前記した乗物用ラッチ装置は、前記棒状部からの荷重を受ける荷重受け部を有する樹脂製の荷重受け部材をさらに備え、前記第1部材は樹脂製であり、かつ、前記荷重受け部材と係合する係合穴を備え、前記第2部材は板金からなり、前記棒状部から前記荷重受け部材が受ける力を支持する支持部を有し、前記荷重受け部材は、前記第2部材を挟むように構成されるとともに、前記第1部材の前記係合穴に係合する係合突起を有する構成とすることを特徴とする。
前記乗物用ラッチ装置のこのような構成によると、荷重受け部材は、第2部材を挟むように構成され、第2部材の支持部に荷重を伝えるように第2部材と係合する。そして、荷重受け部材の固定は、荷重受け部材の係合突起と第1部材の係合穴との係合によりなされる。そのため、第2部材に係合用の穴を設ける必要が無く、樹脂製の第1部材に係合穴を設ければよいので、製造が容易である。
【0020】
第3の態様における前記した乗物用ラッチ装置において、前記支持部は、前記第2部材の輪郭における凹部に設けられることが望ましい。
【0021】
前記乗物用ラッチ装置のこのような構成によると、第2部材の小型化と材料取りの効率化を実現できる。
【0022】
第1の発明における第1軸を備えた前記した乗物用ラッチ装置において、前記樹脂筐体は、前記第1軸の周囲に、樹脂筐体内部に向かって突出する第1リブを有することが望ましい。
【0023】
前記乗物用ラッチ装置のこのような構成によると、筐体の内部に第1リブを設けることでラッチやラチェットと筐体の接触部分が少なくなるので、作動感をより滑らかにすることができる。
【0024】
第1の発明における前記した各乗物用ラッチ装置において、前記筐体の、前記ラッチの回動軸線方向の一方側の壁は、前記第1部材により構成され、他方側の壁は、少なくとも外側が前記第2部材により構成され、前記第2部材は、乗物用ラッチ装置が固定部材により他の装置に取り付けられるときに外側に位置して前記固定部材の固定力を受ける座面として機能する構成とすることができる。
【0025】
前記乗物用ラッチ装置のこのような構成によると、外側に第2部材が位置することで、第2部材で固定のための力を直接受けることができるとともに、外部からの衝撃などから第1部材を保護することができる。
【0026】
第1の発明における前記した各乗物用ラッチ装置において、前記第1の材料が樹脂であり、前記第1部材が樹脂筐体を形成し、前記第2部材が、当該樹脂筐体を補強する補強板を形成することが望ましい。
【0027】
前記乗物用ラッチ装置のこのような構成によると、比重が大きく弾性係数が大きい補強板によって、樹脂筐体が補強されることになるので、筐体の耐久性と剛性を確保しつつ、乗物用ラッチ装置の軽量化を図ることができる。
【0028】
前述した課題を解決する第2の発明は、乗物用ラッチ装置が、樹脂筐体と、金属製の鉤状部を有するラッチとを含んで構成される。
第2の発明は、棒状部に係合または離脱することでロックまたはロック解除する乗物用ラッチ装置であって、少なくとも一部が第1の材料からなる第1部材で構成され、前記棒状部が入り込む進入溝を有する筐体と、第2の材料からなり、前記棒状部に当接する第2部材と、を含み、前記第2の材料は、前記第1の材料よりも比重が大きく弾性係数が大きい構成を有する。
そして、前記筐体内に収容されるとともに前記筐体に回動可能に支持され、前記棒状部に係合可能な鉤状部を有するラッチをさらに備え、前記第2部材が、前記ラッチの鉤状部である。
さらに、前記第1の材料が樹脂であり、前記第1部材が樹脂筐体を形成し、前記第2の材料が金属である。
【0029】
前記乗物用ラッチ装置のこのような構成によると、前記棒状部に当接する第2部材よりも比重が小さく弾性係数が小さい第1部材によって前記筐体の少なくとも一部が構成されるので、第2部材のみから筐体を構成する場合に比較して軽量化を図ることができる。
また、ラッチの鉤状部を構成する鋼材よりも比重が小さく弾性係数が小さい材料、例えば、樹脂によって筐体を構成することで、金属同士の接触を少なくし、良好な作動感を提供することができる。
さらに、金属を使用してなるラッチを支持する筐体が樹脂製であるので筐体の内壁とラッチの側面(回動軸方向両端の面)の接触が、金属同士の接触ではなくなり、金属音を無くし、滑らかな作動感を得ることができる。
【0030】
第2の発明における第4の態様では、前記した乗物用ラッチ装置において、前記樹脂筐体は、内側に突出する第1軸を一体に有し、前記ラッチは、前記第1軸に嵌合する第1穴部を有し、前記第1軸および前記第1穴部の係合により前記ラッチが前記樹脂筐体に回動可能に支持されていることを特徴とする。
前記乗物用ラッチ装置のこのような構成によると、ラッチの第1穴部が樹脂で形成された筐体の第1軸に支持されることで金属音をより少なくし、より滑らかな作動感を得ることができる。
【0031】
第2の発明における第5の態様では、前記した乗物用ラッチ装置は、前記樹脂筐体内に収容されるとともに前記樹脂筐体に回動可能に支持され、前記ラッチに係合することで、前記ラッチが前記棒状部に対して係合可能な閉状態および棒状部から離脱する開状態を維持する金属製のラチェットをさらに備え、前記筐体は、内側に突出する第2軸を一体に有し、前記ラチェットは、前記第2軸に嵌合する第2穴部を有し、前記第2軸および前記第2穴部の係合により前記ラチェットが前記筐体に回動可能に支持されていることを特徴とする。
前記乗物用ラッチ装置のこのような構成によると、ラチェットの第2穴部が樹脂で形成された筐体の第2軸に支持されることで金属音をより少なくし、より滑らかな作動感を得ることができる。
【0032】
第4の態様における前記した乗物用ラッチ装置は、前記樹脂筐体内に収容されるとともに前記樹脂筐体に回動可能に支持され、前記ラッチに係合することで、前記ラッチが前記棒状部に対して係合可能な閉状態および棒状部から離脱する開状態を維持する金属製のラチェットをさらに備え、前記筐体は、内側に突出する第2軸を一体に有し、前記ラチェットは、前記第2軸に嵌合する第2穴部を有し、前記第2軸および前記第2穴部の係合により前記ラチェットが前記筐体に回動可能に支持されていることが望ましい。
【0033】
前記乗物用ラッチ装置のこのような構成によると、ラチェットの第2穴部が樹脂で形成された筐体の第2軸に支持されることで金属音をより少なくし、より滑らかな作動感を得ることができる。
【0034】
第4の態様における前記した乗物用ラッチ装置において、前記第1軸は、円筒状に形成され、前記第1軸の筒の内部を貫通し、乗物用ラッチ装置を他の装置に固定する金属製の第1固定部材をさらに備えることが望ましい。
【0035】
樹脂の軸でラッチを軸支する場合、樹脂軸を筒状にすると剛性が低くなるが、前記乗物用ラッチ装置のこのような構成によると、内部に固定部材を貫通させることで、軸の剛性を高くすることができる。また、固定のための部品に軸の補強としての機能も持たせることで、別途の補強部品を設ける場合に比較して部品点数の削減を図ることができる。さらに、軸を筐体と同等の肉厚で成形することが可能になるので、成形の精度向上を図ることができる。
【0036】
第2の発明における第2軸を備えた前記した乗物用ラッチ装置において、前記第2軸は、円筒状に形成され、前記第2軸の筒の内部を貫通し、乗物用ラッチ装置を他の装置に固定する金属製の第2固定部材をさらに備えることが望ましい。
【0037】
樹脂の軸でラッチやラチェットを軸支する場合、樹脂軸を筒状にすると剛性が低くなるが、前記乗物用ラッチ装置のこのような構成によると、内部に固定部材を貫通させることで、軸の剛性を高くすることができる。また、固定のための部品に軸の補強としての機能も持たせることで、別途の補強部品を設ける場合に比較して部品点数の削減を図ることができる。さらに、軸を筐体と同等の肉厚で成形することが可能になるので、成形の精度向上を図ることができる。
【0038】
第2の発明における第6の態様では、前記した乗物用ラッチ装置は、前記樹脂筐体内に収容されるとともに前記樹脂筐体に回動可能に支持され、前記ラッチに係合することで、前記ラッチが前記棒状部に対して係合可能な閉状態および棒状部から離脱する開状態を維持する金属製のラチェットと、前記ラッチに回動可能に支持され、前記ラチェットに係合していることで前記ラチェットの動作を前記ラッチに伝える金属製のレバー部材と、前記レバー部材と前記ラチェットとに係合する付勢部材とをさらに備え、前記樹脂筐体は、内側に突出する第2軸を一体に有し、前記ラチェットは、前記第2軸に嵌合する第2穴部と、当該第2穴部の周囲で当該穴の軸方向に突出したフランジとを有し、前記第2軸および前記第2穴部の係合により前記ラチェットが前記樹脂筐体に回動可能に支持されており、前記レバー部材は、前記ラッチが閉状態にあるときに、前記付勢部材の付勢力により前記フランジに当接していることを特徴とする。
樹脂の軸でラチェットを支持し、レバー部材の遊び防止のためにレバー部材を樹脂の軸に当接させる場合、樹脂の軸が摩耗するおそれがある。しかしながら、前記乗物用ラッチ装置のこのような構成によると、ラチェットの第2穴部の周囲に穴の軸方向に突出するフランジを設け、このフランジにレバー部材を当接させることで、樹脂の軸を採用した場合にも、レバー部材の遊びを防止し、かつ、樹脂の摩耗も防止することができる。
【0039】
第2の発明における第1軸を備えた前記した乗物用ラッチ装置において、前記樹脂筐体は、前記第1軸の周囲に、樹脂筐体内部に向かって突出する第1リブを有することが望ましい。
【0040】
前記乗物用ラッチ装置のこのような構成によると、筐体の内部に第1リブを設けることでラッチやラチェットと筐体の接触部分が少なくなるので、作動感をより滑らかにすることができる。
【0041】
第2の発明における前記した各乗物用ラッチ装置において、前記樹脂筐体は、2つの部材を合わせることで箱状に形成され、前記2つの部材は、ヒンジにより接続されて一体成形されてなることが望ましい。
【0042】
前記乗物用ラッチ装置のこのような構成によると、樹脂筐体を構成する2つの部材を、ヒンジにより接続して一体成形して構成すると、2つの部材を一度に成形することができ、コスト低減が可能であるとともに、2つの部材を合わせて箱状にする作業の際も、部材同士の向きを気にせず、合わせる作業が瞬時に行えるので生産性が非常に良好である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、添付の図面を参照しながら本発明に係る乗物用ラッチ装置の一実施形態について説明する。
図1に示すように、一実施形態の乗物用ラッチ装置1は、例えば、他の装置の一例である自動車などの乗物用シートのフレームSのうち、背もたれを構成するサイドフレームS1などに設けられる。一例として、サイドフレームS1は、板金からなるブラケットS2が溶接されており、乗物用ラッチ装置1は、このブラケットS2に固定された溶接ナットWNに、第1固定部材および第2固定部材の一例としてのボルト90により固定されている。
【0045】
乗物用ラッチ装置1は、筐体2にラッチ30などの機構部品が収納されて構成されている。筐体2には、
図1における右に開口する進入溝2Aが形成されており、ラッチ30は、鉤状部が、この進入溝2Aに進出または退避することで、閉状態または開状態となる。乗物用ラッチ装置1は、ラッチ30が開いたロック解除状態から乗物本体に固定されたストライカの棒状部(
図6参照)に押し付けられて係合することでロックできるようになっている。また、乗物用ラッチ装置1は、後に詳述するように、ロッド7を引っ張ることで、ラッチ30を閉状態から開状態へ操作してロック解除することができるようになっている。
【0046】
図2に示すように、乗物用ラッチ装置1は、筐体2と、ラッチ30と、ラチェット40と、レバー部材50と、ロッド70と、荷重受け部材80とを主に備えて構成されている。なお、以下の乗物用ラッチ装置1の構成の説明において、便宜上、上下、左右、前後は、
図2に矢印で示した上下、左右、前後の方向を用いるが、乗物用ラッチ装置1を任意の姿勢で使用できることは言うまでもない。
【0047】
筐体2は、第1の材料の一例としての樹脂からなる樹脂筐体10(第1部材)と、この樹脂よりも比重が重いが弾性係数が大きく丈夫な第2の材料の一例としての鋼製の板金からなる補強板20(第2部材)とを備えて構成されている。一般に、乗物などに採用される堅牢な乗物用ラッチ装置は、鋼板等の金属のベースに鋼鉄製のラッチなどの各部材が支持されて構成されているが、これらは非常に重いため、本実施形態の乗物用ラッチ装置1は、樹脂筐体10を採用することで大幅な軽量化を図るとともに、補強板20をも部分的に設けることで必要な剛性および強度を確保するように構成されている。
【0048】
樹脂筐体10は、一方側が開口したトレイ状の下ケース10Aと上ケース10Bとが、薄肉部により構成されたヒンジ19により接続されて一体に形成されている。このような樹脂筐体10は、一組の型で一体成形により形成することができる。上ケース10Bは、下ケース10Aに対しヒンジ19を中心に回動することができ、上ケース10Bと下ケース10Aのそれぞれの開口同士を合わせることで箱状となるようになっている。
【0049】
下ケース10Aは、平板状のベース部16Aと、ベース部16Aの外縁の一部において立ち上がる側壁部17Aとを備えてトレイ状に形成されている。ベース部16Aの下側の縁には進入溝2Aに対応する進入溝15Aが形成されている。また、ベース部16Aからは、進入溝15Aの左右両側に、進入溝15Aから上側に少し離れて円筒状の第1軸11および第2軸12が内側に延出している。第1軸11と第2軸12は、ともにベース部16Aと一体になっている。
【0050】
第1軸11は、その軸方向に沿って、断面円形の貫通孔であるボルト孔11Hが形成されている。第2軸12も、その軸方向に沿って、断面円形の貫通孔であるボルト孔12Hが形成されている。ボルト孔11Hおよびボルト孔12Hは、ともにボルト90の軸部91と略同じ直径を有している。
【0051】
ベース部16Aにおける第1軸11の周囲には、第1軸11を中心とする円弧状に2つの第1リブ14P,14Qが樹脂筐体10の内部に向かって突出して形成されている(
図3も参照)。第1リブ14P,14Qは、作動するラッチ30に対面する範囲に形成されている。ベース部16Aにおける第2軸12の周囲にも、第2軸12を中心とする円弧状に第2リブ14Rが樹脂筐体10の内部に向かって突出して形成されている(
図3も参照)。第2リブ14Rは、作動するラチェット40に対面する範囲に形成されている。
【0052】
下ケース10Aの外側には、
図5(a)に示すように、ボルト孔11H,12Hの縁に補強板20と上下左右方向の位置決めをするための位置決め突起11J,12Jが設けられている。また、進入溝15Aの最も奥の縁には、薄肉で形成されることで他の外表面より凹んだ凹部18が形成され、凹部18の上端部には、ベース部16Aを貫通する係合穴18Pが形成されている。
【0053】
上ケース10Bは、第1軸11および第2軸12が無い以外は、樹脂筐体10の内部については、ヒンジ19を基準として下ケース10Aと略対称に構成されている。
図2に示すように、上ケース10Bは、平板状のベース部16Bと、ベース部16Bの外縁の一部において立ち上がる側壁部17Bとを備えてトレイ状に形成されている。ベース部16Bの上側(組立後の下側)の縁には進入溝2Aに対応する進入溝15Bが形成されている。また、ベース部16Bは、進入溝15Bの左右両側に、進入溝15Aから下側(組立後の上側)に少し離れてボルト孔13P,13Qが、それぞれボルト孔11H,12Hに対応して形成されている。
【0054】
ベース部16Bにおけるボルト孔13Pの周囲には、第1リブ14P,14Qと対称に、ボルト孔13Pを中心とする円弧状に2つの第1リブ14S,14Tが樹脂筐体10の内部に向かって突出して形成されている。また、ベース部16Bにおけるボルト孔13Qの周囲にも、第2リブ14Rと対称に、ボルト孔13Qを中心とする円弧状に第2リブ14Uが樹脂筐体10の内部に向かって突出して形成されている。
【0055】
補強板20は、
図2および
図5(a)に示すように、下ケース10Aの外側のうち、上部の一部以外を覆うように形成され、平板状のベース部21と、ベース部21の外縁のうち左端および右端から内側に向けて立ち上がる側壁部27とを備えている。詳細は図示しないが、補強板20の側壁部27は、下ケース10Aの側壁部17Aと係合することで下ケース10Aと仮組みすることが可能となっている。
【0056】
ベース部21には、前記した下ケース10Aの位置決め突起11J,12Jと対応してこれらに嵌合する位置決め孔22,23が形成されている。また、ベース部21の下側の縁には、進入溝2Aに対応する進入溝25が形成されている。
【0057】
補強板20の外側には、
図5(a)に示すように、上側の縁に、外側に向けて曲げ起こされたフランジ28が形成されている。フランジ28は、荷重受け部材80と当接して、荷重受け部材80がストライカPの棒状部P1(
図6参照)から受ける力を支持する部分である。フランジ28は、第1軸11の軸方向から見て、つまり、ベース部21に対面して見て、補強板20の輪郭において上部に設けられた凹部29の底に設けられている。このような補強板20の凹部29を利用してフランジ28を設けることで、補強板20の小型化を図ることができ、補強板20の板取を効率的にすることができる。
【0058】
ラッチ30は、ストライカPの棒状部P1に係合・離脱して乗物用ラッチ装置1のロックまたはロック解除をする部材である。
図2に示すように、ラッチ30は、厚い金属板を打ち抜いて形成され、厚み方向に貫通する第1穴部31を有し、第1穴部31が第1軸11の外側に嵌合することで樹脂筐体10に回動可能に支持されている。ラッチ30は、詳細には、金属製のラッチ本体30Aと、ラッチ本体30Aの前側の面と側縁の一部を覆う樹脂製のカバー30Bとから構成されている。カバー30Bは、ラチェット40との摺動性を良くするために設けられている。
【0059】
ラッチ30は、棒状部P1に係合する溝32を有し、溝32の外側を形成する部分が鉤状部33となっている。また、ラッチ30は、
図6の姿勢において、右上の縁部に第1穴部31に近づくよう凹むロック凹部34が形成されている。ロック凹部34の左側に隣接する外周部分は、ラッチ30の開放時に、ラチェット40が当接してラッチ30の開状態を維持する開放当接面35である。開放当接面35は、外側に向けて凸曲面となっており、後述するラチェット40のロック係止部42Aが当接する全範囲において、外周の表面から曲率円の中心に向かう方向(
図6の矢印参照)が、ラッチ30の回動軸線に対して一方側、ここでは右側にずれている。このため、ラッチ30がロック係止部42Aから受ける力は、ラッチ30を時計回り方向、つまり、開状態へ向けて回転させるように働くようになっている。
また、ラッチ30は、レバー部材50を軸支するため、前側に突出するピン36が圧入されている。
【0060】
ラチェット40は、金属製の略板状の部材であり、厚み方向に貫通する第2穴部41が樹脂筐体10の第2軸12の外側に嵌合して、樹脂筐体10に回動可能に支持されている。ラチェット40の回動軸は、ラッチ30の回動軸と平行である。ラチェット40は、第2穴部41の左上方に略扇形の本体部42を有し、本体部42の左下の角がラッチ30に当接するロック係止部42Aとなっている。ロック係止部42Aは、ラッチ30の閉状態においてラッチ30のロック凹部34に入り込んでラッチ30の閉状態を維持するとともに、ラッチ30の開状態においては、開放当接面35に当接して開状態を維持するように機能する。
【0061】
本体部42の上部からは、さらに上方に細く延びるアーム43が形成され、アーム43の先端には、付勢部材の一例としての引張バネ75の右端が引っ掛けられるフック44が形成されている。引張バネ75の端部を、アーム43の先端の形状をフック状にしてなるフック44により係止することで、リベットなどの別部品をアーム43に固定することで引張バネ75の端部を係止する構造に比較して部品点数を削減することができる。また、アーム43には、
図2に示すように孔48が形成され、この孔48に乗物用ラッチ装置1をロック状態からロック解除状態に操作するロッド70が、リベット71により揺動可能に結合されている。
【0062】
図6に示すように、本体部42のうちロック係止部42Aの若干右側には、前側に突出するピン45が圧入されている。また、
図2に示すように、ラチェット40は、第2穴部41の周囲で穴の軸方向前側に突出したフランジ47を有している。フランジ47は、レバー部材50の厚みに対応した大きさで突出し、ラッチ30の閉状態において、レバー部材50が引張バネ75の付勢力によりフランジ47に当接することで、レバー部材50の遊びが防止されるようになっている。
【0063】
レバー部材50は、ラチェット40の動作をラッチ30と連動させるための操作機構である。レバー部材50は、細長い板状の部材であり、長手方向の略中央に形成された孔51がラッチ30のピン36に嵌合することでラッチ30に回動可能に支持されている。
【0064】
レバー部材50は、
図6の姿勢において回動軸から右下に向けて作動アーム52が延び、上方に向けて操作アーム53が延びている。作動アーム52には、変形の四角形のガイド孔52Aが形成されている。ガイド孔52Aにはラッチ30のピン45が入り込んでいる。作動アーム52の先端は、ラチェット40のフランジ47に当たってレバー部材50の遊びを防止するストッパ面52Bとなっている。操作アーム53の先端にはフック54が形成され、フック54に引張バネ75の左端が引っ掛けられている。引張バネ75の端部を、操作アーム53の先端の形状をフック状にしてなるフック54により係止することで、リベットなどの別部品を操作アーム53に固定することで引張バネ75の端部を係止する構造に比較して部品点数を削減することができる。
【0065】
なお、引張バネ75の取付け上、フック44とフック54とは、高さ(第1軸11の軸方向の位置)が一致しているのが好ましい。このようにフック44とフック54の高さを一致させるためには、フック44の部分の厚みをラチェット40の本体部42の厚みと異ならせたり、操作アーム53の先端付近を屈曲させることでフック54の高さ位置を調整したりするとよい。
【0066】
引張バネ75は、前記したようにラチェット40とレバー部材50に各端部が引っ掛けられ、ラチェット40の本体部42とレバー部材50の操作アーム53とを常時引き付けるように付勢力を与えている。この付勢力は、ラチェット40のロック係止部42Aをラッチ30に向けて付勢する力を与えるようにも働く。
【0067】
荷重受け部材80は、ストライカPの棒状部P1に当接してストライカPからの荷重を受ける樹脂製の部材である。
図4に示すように、荷重受け部材80は、末広がりの四角形の本体部81と、樹脂筐体10および補強板20との係合する係合爪82とを主に備えている。本体部81の末広がりの端部の端面81Aは、補強板20のフランジ28と当接してストライカPから受けた荷重を補強板20に伝える面となっている。本体部81の端面81Aと反対側の端部は、係合爪82と、略半円形の接続部83により接続されている。これにより、
図5(b)に示すように、荷重受け部材80は、本体部81、接続部83および係合爪82によりU字型の断面を有している。
【0068】
係合爪82の先端には、前記した下ケース10Aの係合穴18Pに係合する係合突起82Aが本体部81と反対側に突出している。また、係合爪82の基端には、接続部83と同様の略半円状の突起84が本体部81と反対側に突出している。接続部83の半円形状は、補強板20の進入溝25の最奥部の形状におよそ倣ったものであり、突起84の半円形状は、下ケース10Aの進入溝15Aの最奥部の形状におよそ倣ったものである。荷重受け部材80の端面81Aと反対側の端面には、摺動性に優れた樹脂シート89が張り付けられている。この樹脂シート89の表面がストライカPと当接する荷重受け部の一例としての荷重受け面89Aである。荷重受け面89Aは、棒状部P1からの荷重を受ける方向(
図6での下から上)から見て、2つのボルト90の間に配置されている。これにより荷重受け面89Aで受ける力を2つのボルト90でバランス良く支持し、乗物用ラッチ装置1に不要な回転モーメントが発生しないようになっている。
【0069】
図5(b)に示すように、下ケース10Aと、補強板20は、互いに密着したときに、下ケース10Aの凹部18があることにより、下ケース10Aと補強板20の間に隙間ができるようになっている。荷重受け部材80は、本体部81と係合爪82の間に補強板20を入れるようにしつつ、係合爪82を凹部18と補強板20の間の隙間に挿入していくことで、補強板20を挟むように配置される。係合爪82の先端の係合突起82Aは下ケース10Aの係合穴18Pに入り込んで係合する。そして、荷重受け部材80の端面81Aは、補強板20のフランジ28に当接して、荷重受け面89Aで受けたストライカPからの荷重を補強板20に伝えることが可能となっている。
【0070】
図7に示すように、下ケース10A、上ケース10Bは、ボルト90により互いに締結されて箱形状にされ、かつ、補強板20とともにブラケットS2に固定されている。ボルト90は、軸部91と、軸部91の先端に設けられたネジ部92と、基端に設けられたフランジ付ヘッド93とを有している。軸部91は、ネジ部92の山部よりも太く拡径しており、この拡径した段の部分で溶接ナットWNに締結したときの締結力を受けるようになっている。これにより、軸部91を太く形成するのに代えて金属製のカラーを用いる場合に比較してコストダウンを図ることができる。
【0071】
下ケース10Aと上ケース10Bは、ラッチ30などの各部材を内部に組み付けられた上でそれぞれの開口側を向かい合わせにして箱状にされ、
図5(a)に示した位置決め突起11J,12Jが補強板20の位置決め孔22,23にそれぞれ嵌合されている。こうして樹脂筐体10と補強板20が位置決めされた上で組み合わされている。このようにして組み上げられた乗物用ラッチ装置1は、
図7に示すように、ボルト孔11Hにボルト90の軸部91が挿通されて、ネジ部92をブラケットS2の溶接ナットWNに螺合することでブラケットS2に固定されている。なお、フランジ付ヘッド93と補強板20の間にはスプリングワッシャ95が介装されて、スプリングワッシャ95の弾性力によりブラケットS2とフランジ付ヘッド93の間で乗物用ラッチ装置1を挟持している。
【0072】
ここで、
図7を見て分かるように、筐体2の、ラッチ30の回動軸線方向の一方側の壁は、樹脂筐体10により構成され、他方側の壁は、外側が補強板20により構成されている。そして、補強板20は、乗物用ラッチ装置1がボルト90によりフレームSに取り付けられるときに外側に位置してボルト90の締結力を受ける座面として機能している。このようにして、外側に補強板20が位置することで、補強板20で締結のための力を直接受けることができるとともに、外部からの衝撃などから樹脂筐体10を保護することができるようになっている。なお、ここでは、
図7を参照して、ボルト90により第1軸11における締結状態を説明したが、ボルト90による第2軸12における締結も全く同様である。そのため、第2軸12における締結は、説明を省略する。
【0073】
以上のように構成された乗物用ラッチ装置1の動作について説明する。
図6の作動前の状態において、ストライカPの棒状部P1は、筐体2の進入溝2Aの最も奥に入り込んでおり、ラッチ30の鉤状部33が棒状部P1を下から抱え込んでいる。そして、ラッチ30のロック凹部34にはロック係止部42Aが入り込んでラッチ30の回動を規制している。すなわち、ラッチ30は閉状態であり、乗物用ラッチ装置1はロック状態にある。このとき、引張バネ75は引張力を発生しており、ラチェット40のロック係止部42Aがロック凹部34の底に当接している。また、ストライカPの棒状部P1は、荷重受け部材80の荷重受け面89Aに当接しており、ストライカPから乗物用ラッチ装置1に掛かる荷重は荷重受け部材80を介して補強板20のフランジ28(
図5(a),(b)参照)に伝わり、補強板20が受けている。
【0074】
図6の作動前の状態から、ロッド70を牽引すると、乗物用ラッチ装置1は、まず、
図8に示すように、ラチェット40が時計回りに回動し、ラチェット40のピン45がガイド孔52Aの右上縁を押して、引張バネ75を引き伸ばしながらレバー部材50を反時計回りに回動させる。
図8においては、
図6からほとんど変化が無いが、このレバー部材50に掛かる力がピン36を介してラッチ30を少しずつ時計回りに回転させようとする。
【0075】
ロッド70をさらに牽引すると、
図9に示すように、ラチェット40がさらに時計回りに回動して、ロック係止部42Aがロック凹部34から完全に離脱する。そして、ラッチ30がレバー部材50からピン36を介して受ける力により時計回りに回動し、ロック係止部42Aがラッチ30の開放当接面35に対面する。
【0076】
図9の状態から、引張バネ75の引張力にまかせてロッド70を戻していくと、
図10に示すように、ラチェット40のロック係止部42Aがラッチ30の開放当接面35に当接する。このとき、ラチェット40がラッチ30を押す力は、
図10に太い矢印で示したように、ロック係止部42Aと開放当接面35の接触点から開放当接面35の曲率中心に向かう。開放当接面35の曲率中心は、ロック係止部42Aと当接する範囲においてラッチ30の回動中心に対して右側にずれているため、引張バネ75の付勢力によりラチェット40がラッチ30を押す力は、ラッチ30を時計回り、すなわち開状態へ向けて回動させる力(回転モーメント)として働く。
【0077】
そこで、この回転モーメントにより開放当接面35がロック係止部42Aを滑りながらラッチ30が時計回りに回動すると、
図11に示すように、ラッチ30が開状態となり、ストライカPの棒状部P1が進入溝2Aから離脱することができる。すなわち、乗物用ラッチ装置1がロック解除状態となる。
【0078】
乗物用ラッチ装置1をロック解除状態からロック状態に戻す場合には、
図11に示す状態からストライカPの棒状部P1を進入溝2Aに進入させ、ラッチ30の溝32に押し当ててラッチ30を反時計回りに回動させる。すると、開放当接面35に当接していたロック係止部42Aが開放当接面35上を滑り、十分にラッチ30が回動したところで引張バネ75の付勢力によりロック係止部42Aがロック凹部34に入り込む。すなわち、
図6のロック状態に戻る。
【0079】
以上の動作の過程において、本実施形態の乗物用ラッチ装置1は、樹脂筐体10にラッチ30、ラチェット40およびレバー部材50が回動可能なように支持され、収納されているので、回動時にこれらの部品が筐体と擦れ合うことによる音が金属音とはならず、騒音を抑制することができる。また、樹脂筐体10とラッチ30、ラチェット40およびレバー部材50の摺動は、金属同士の擦れ合いではなく、金属と樹脂の擦れ合いであるので滑らかな作動感を得ることができる。
【0080】
特に、本実施形態の乗物用ラッチ装置1は、樹脂筐体10と一体に形成された第1軸11および第2軸12により、それぞれラッチ30の第1穴部31およびラチェット40の第2穴部41を支持しているので、金属同士の接触が無く、金属音を無くし、滑らかな作動感を得ることができる。また、樹脂筐体10の内面には、ラッチ30やラチェット40の回動方向に沿った第1リブ14P,14Q,14S,14Tや第2リブ14R,14Uが形成され、ラッチ30とラチェット40は、樹脂筐体10の内面とこれらのリブにより摺動するので、乗物用ラッチ装置1の作動音を小さくし、摺動抵抗を小さくして良好な作動感を得ることができる。さらに、ラッチ30には、ラチェット40と摺動する側に樹脂製のカバー30Bを有しているので、ラッチ30とラチェット40の金属同士の接触を抑制して金属音を抑制し、滑らかな作動感を得ることができる。
【0081】
また、樹脂筐体10は、従来のような鋼板で形成されたベースに比較して比重が小さいので、乗物用ラッチ装置1を軽量にすることができる。そして、前記した第1軸11および第2軸12は、円筒状とすることで樹脂筐体10の肉厚の変化を少なくして成形の精度が良くなっている。さらに、第1軸11および第2軸12が筒状になることによる強度低下を、その内部にボルト90の軸部91が嵌合していることで各軸を中実構造にして補強し、十分な剛性を確保することができる。そして、この中実構造を構成するための部材は、乗物用ラッチ装置1を他の装置であるフレームSに締結するために必要な部品であるボルト90を利用しているので、別途の部品を使用する場合に比較して部品点数を少なくしてコストダウンを図ることができるとともに乗物用ラッチ装置1の軽量化にも寄与する。
【0082】
また、レバー部材50の遊びを防止するために、金属製のレバー部材50をラッチ30やラチェット40を軸支する樹脂製の軸に直接当てる場合、軸が摩耗するおそれがある。本実施形態の乗物用ラッチ装置1は、ラチェット40の第2穴部41の周囲にフランジ47を設けてレバー部材50をこのフランジ47の外周に当てるようにしたので、樹脂軸の摩耗を防止するとともにレバー部材50の遊びを防止して不要な騒音が発生するのを防止するこができる。
【0083】
そして、本実施形態の乗物用ラッチ装置1は、ラチェット40のロック係止部42Aがラッチ30の開放当接面35に当接しているとき、この当接力がラッチ30を開状態に向けて回動させるように働くので、予期せぬ姿勢でラッチ30が停止してしまうことを防止することができる。
【0084】
また、補強板20は、棒状部P1を案内する進入溝2A(25)を構成しているので、乗物用ラッチ装置1の作動による進入溝2Aの摩耗を抑制して、樹脂筐体10を採用したことによる耐久性の低下を抑制することができる。また、樹脂筐体10を採用したことによる筐体2の剛性低下を、樹脂筐体10を部分的に覆う補強板20により補強して、必要な剛性も確保されている。
【0085】
そして、樹脂筐体10は、下ケース10Aと上ケース10Bとがヒンジ19により接続されて一体に形成されているため、これらの成形を一度に行うことができてコスト低減が可能である。また、乗物用ラッチ装置1の組立の際には、下ケース10Aと上ケース10Bのお互いの向きがヒンジ19により決定されているため、下ケース10Aに順次中身の部品を組み付けた上、上ケース10Bを、その向きを気にせず閉じるようにすればよいので生産性が非常に良好である。
【0086】
本実施形態の乗物用ラッチ装置1は、樹脂製の荷重受け部材80を備え、ストライカPの棒状部P1とは、直接には荷重受け部材80が接触しているので、ロック時においてストライカPからの荷重をソフトに受け、作動感を良好にすることができる。そして、荷重受け部材80は、補強板20および樹脂筐体10の両方と係合しているが、その係合爪82は、樹脂筐体10に設けられた係合穴18Pと係合しているので、係合穴18Pを鋼板からなる補強板20に形成する必要がなく、製造が容易である。また、荷重受け部材80の荷重受け面89Aは、第1軸11の軸方向から見て、ボルト90の中心同士を結ぶ方向におけるボルト90の中心の間に配置されているので、荷重受け面89Aが受ける力を2つのボルト90でバランス良く支持して、乗物用ラッチ装置1に不要な回転モーメントが発生するのを防止することができる。
【0087】
そして、本実施形態の乗物用ラッチ装置1は、樹脂筐体10に設けられた位置決め突起11J,12Jと補強板20の位置決め孔22,23との係合により、これらの位置決めがされており、位置決め突起11J,12Jは、ボルト90が通る孔の縁に設けられているので、別途の位置決めの突起と孔を設けるのに比較して構成が簡易であり、また、位置決め突起11J,12Jと位置決め孔22,23との係合が確実である。
【0088】
また、補強板20のフランジ28は、第1軸11の軸方向から見て補強板20の輪郭における凹部29に設けられているので、補強板20の小型化と板取りの効率化を実現できる。さらに、補強板20は、乗物用ラッチ装置1をフレームSに取り付けたときに、外側に位置するので、補強板20で締結のための力を直接受けることができるとともに、外部からの衝撃などから樹脂筐体10を保護することができる。
【0089】
次に、
図12〜
図15を参照して、変形例に係る乗物用ラッチ装置を説明する。なお、上述した実施形態と同様の構造部品には同一符号を付して、その説明を省略する。
【0090】
図12に示す下ケース102は、ベース部102Aから外側に膨出する膨出部103を備えている。膨出部103は、ベース部102Aとの段差を形成する壁面が位置決め突起11J,12Jを逃げるように湾曲した湾曲面103Aとなっている。
そして、凹部18の上端部には、貫通孔ではなく、凹んだ形状の係合穴18Qが形成されている。なお、下ケース102は、第1の材料の一例としての樹脂から構成されている。
【0091】
図12および
図13に示すように、補強板120は、下ケース102の外側のうち、膨出部103を除く略すべての領域を覆うように形成されている。補強板120は、樹脂よりも比重が大きく弾性係数が大きい第2の材料の一例としての鋼板をプレス加工することで成形され、平板状のベース部121と、ベース部121の外縁から内側に向けて立ち上がる側壁部127と、ベース部121から膨出部103の湾曲面103Aに沿って立ち上がるフランジ128とを備えている。フランジ128は、その中央部に、荷重受け部材80の端面81Aが当接する当接部129を備えている。
図13および
図14に示すように、補強板120の側壁部127は、下ケース102の側壁部102Bと係合することで下ケース102と仮組みすることが可能となっている。
【0092】
図15に示すように、上ケース104は下ケース102とは別体で形成され、膨出部103、第1軸11および第2軸12が設けられていないことを除くと、下ケース102と略対称に構成されている。なお、上ケース104は、第1の材料の一例としての樹脂から構成されている。
【0093】
図14に示すように、下ケース102の内面に立設された第1軸11の周囲には、第1軸11を中心とする円弧状に2つの第1リブ114P,114Qがベース部102Aの内面に突出して形成されている。第2軸12の周囲には、一端が側壁部102Bに接続され、他端が第2軸12を中心とする円弧状に延びる第2リブ114Rが、ベース部102Aの内面に突出して形成されている。
【0094】
さらに、ベース部102Aの内面には、膨出部103に囲まれた領域を除いて、第3リブ114Sが突出して形成されている。
第3リブ114Sは、第1リブ114P,114Qが形成された半面において、縦横に格子状に延びて形成されている。また、第2リブ114Rが形成された半面では、第3リブ114Sが第2リブ114Rから縦横に延びて形成されている。第3リブ114Sは、側壁部102B、膨出部103、第1リブ114P,114Qおよび第2リブ114Rと接続されるとともに、膨出部103に囲まれた領域を除くベース部102Aの内面全体に亘って延びることで、下ケース102の剛性を高めている。
【0095】
第1リブ114Pは、ラッチ30が回動する範囲に対応して形成されている。
第1リブ114Qは、レバー部材50が回動する範囲に対応して形成されている。
第2リブ114Rは、ラチェット40が回動する範囲に対応して形成されている。
【0096】
第1リブ114Pと第2リブ114Rは、同じ高さを有する。第1リブ114Pはラッチ30と接触可能であり、第2リブ114Rはラチェット40と接触可能である。第3リブ114Sは、第1リブ114Qと同じ高さに形成されている。そして、第1リブ114Pおよび第2リブ114Rは、第3リブ114Sよりも高く形成されている。このため、ラッチ30は、第1リブ114Pと摺接し、ラチェット40は、第2リブ114Rと摺接することが可能であるが、第3リブ114Sには接触せずにスムーズに回動することができる。なお、
図6および
図8〜
図11に示すように、レバー部材50は、ラッチ30とラチェット40に重なった状態で作動するため、レバー部材50が第1リブ114Qと接触することはなく、第1リブ114Qは、第3リブ114Sと共に樹脂筐体の剛性を高める役割を果たしている。
【0097】
図15に示すように、上ケース104は、ベース部104Aの外縁の一部において内側に立ち上がる側壁部104Bを備えている。
ベース部104Aにおけるボルト孔13Pの周囲には、下ケース102の第1リブ114P,114Qと対称位置に、2つの第1リブ114T,114Uが突出して形成されている。また、ベース部104Aにおけるボルト孔13Qの周囲にも、第2リブ114Rと対称位置に、第2リブ114Vが突出して形成されている。
さらに、ベース部104Aの内面には、縦横に格子状に延びる第3リブ114Wが全体に亘って突出して形成され、上ケース104の剛性を高めている。
【0098】
第1リブ114Tは、ラッチ30と接触する高さを有し、ラッチ30が回動する範囲に対応して形成されている。第2リブ114Vは、ラチェット40と接触する高さを有し、ラチェット40が回動する範囲に対応して形成されている。第1リブ114Tと第2リブ114Vは、同じ高さに形成されている。
第1リブ114Uは、ラッチ30と係合するレバー部材50が接触する高さを有し、レバー部材50が回動する範囲に対応して形成されている。第1リブ114Uは、第3リブ114Wと同じ高さに形成されている。
【0099】
このように構成された乗物用ラッチ装置を組み立てる際は、ラッチ30、ラチェット40、レバー部材50などを含む機構部品を収納した状態で、下ケース102と上ケース104を密着させて箱形状の樹脂筐体とする。そして、下ケース102の位置決め突起11J,12Jを補強板120の位置決め孔22,23にそれぞれ嵌合させ、補強板120のフランジ128をケース102の膨出部103の湾曲面103Aに当接させた状態で、樹脂筐体と補強板120を組み合わせる。さらに、補強板120の進入溝25から荷重受け部材80を挿入して、荷重受け部材80の端面81Aをフランジ128の当接部129に当接させる。そして、このようにして組み立てられた組立体を、ボルト90によりブラケットS2(
図1参照)に固定する。
このような乗物用ラッチ装置は、上述した乗物用ラッチ装置1と同様の動作を行う。
【0100】
以上に述べた変形例に係る乗物用ラッチ装置においても、上述した乗物用ラッチ装置1と同様の効果を奏する。
さらに、下ケース102に膨出部103を設けたことにより、樹脂筐体の剛性を高めることができる。
また、樹脂筐体の内面に形成された第1リブ114Q,114Uは、他の第1リブ114P,114Tや第2リブ114R,114Vよりも長さが短く形成されている。このように樹脂筐体の必要な剛性に応じて、第1リブ114Q,114Uの大きさを小さくすることで軽量化を図ることができる。
【0101】
以上に本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、前記した実施形態に限定されることなく適宜変形して実施することができる。
例えば、筐体は、補強板20,120を含まずに、樹脂筐体のみから構成されるものでもよい。この場合、例えば、ラッチ30の鉤状部33が、ストライカPの棒状部P1に当接する第2部材に対応することになる。
例えば、前記実施形態においては、ラッチ30またはラチェット40を軸支する軸を樹脂筐体と一体に構成したが、この軸自体は、金属製の軸であってもよい。また、樹脂軸を採用する場合も、ラッチ30またはラチェット40の一方のみに採用してもよい。
【0102】
前記実施形態においては、2つのボルト90による乗物用ラッチ装置1の具体的な固定構造の一例を示したが、固定構造は、例示したものには限られない。すなわち、固定部材は、ボルトではなく、リベットであってもよいし、固定部材が乗物用ラッチ装置を固定する部位も、例示したような樹脂軸の部分には限られない。
【0103】
前記実施形態において、下ケース10Aと上ケース10Bとは、ともにトレイ状に形成されていたが、一方がトレイ状で他方が平板状に形成されていてもよい。
【0104】
前記実施形態においては、第1の材料として樹脂、第2の材料として鋼材を例示したが、これは一例に過ぎず、例えば、第1の材料としてアルミニウム合金を用いてもよい。
【0105】
前記実施形態においては、棒状部P1をガイドするための進入溝2A(15A,15B,25)は、樹脂筐体と補強板の両方に設けられていたが、補強板20,120のみに設けられていてもよい。
【0106】
さらに、乗物用ラッチ装置1は、車両などの乗物用シートの背もたれに使用される場合だけでなく、乗物用シートの着座部や脚に設けられていてもよく、車両のトランクなどの開閉部分をロックする装置として使用することもできる。また、乗物用シートも、車両以外の船舶や飛行機のシートであってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、添付の図面を参照しながら本発明に係る乗物用ラッチ装置の一実施形態について説明する。
図1に示すように、一実施形態の乗物用ラッチ装置1は、例えば、他の装置の一例である自動車などの乗物用シートのフレームSのうち、背もたれを構成するサイドフレームS1などに設けられる。一例として、サイドフレームS1は、板金からなるブラケットS2が溶接されており、乗物用ラッチ装置1は、このブラケットS2に固定された溶接ナットWNに、第1固定部材および第2固定部材の一例としてのボルト90により固定されている。
【0031】
乗物用ラッチ装置1は、筐体2にラッチ30などの機構部品が収納されて構成されている。筐体2には、
図1における右に開口する進入溝2Aが形成されており、ラッチ30は、鉤状部が、この進入溝2Aに進出または退避することで、閉状態または開状態となる。乗物用ラッチ装置1は、ラッチ30が開いたロック解除状態から乗物本体に固定されたストライカの棒状部(
図6参照)に押し付けられて係合することでロックできるようになっている。また、乗物用ラッチ装置1は、後に詳述するように、ロッド
70を引っ張ることで、ラッチ30を閉状態から開状態へ操作してロック解除することができるようになっている。
【0032】
図2に示すように、乗物用ラッチ装置1は、筐体2と、ラッチ30と、ラチェット40と、レバー部材50と、ロッド70と、荷重受け部材80とを主に備えて構成されている。なお、以下の乗物用ラッチ装置1の構成の説明において、便宜上、上下、左右、前後は、
図2に矢印で示した上下、左右、前後の方向を用いるが、乗物用ラッチ装置1を任意の姿勢で使用できることは言うまでもない。
【0033】
筐体2は、第1の材料の一例としての樹脂からなる樹脂筐体10(第1部材)と、この樹脂よりも比重が重いが弾性係数が大きく丈夫な第2の材料の一例としての鋼製の板金からなる補強板20(第2部材)とを備えて構成されている。一般に、乗物などに採用される堅牢な乗物用ラッチ装置は、鋼板等の金属のベースに鋼鉄製のラッチなどの各部材が支持されて構成されているが、これらは非常に重いため、本実施形態の乗物用ラッチ装置1は、樹脂筐体10を採用することで大幅な軽量化を図るとともに、補強板20
を部分的に設けることで必要な剛性および強度を確保するように構成されている。
【0034】
樹脂筐体10は、一方側が開口したトレイ状の下ケース10Aと上ケース10Bとが、薄肉部により構成されたヒンジ19により接続されて一体に形成されている。このような樹脂筐体10は、一組の型で一体成形により形成することができる。上ケース10Bは、下ケース10Aに対しヒンジ19を中心に回動することができ、上ケース10Bと下ケース10Aのそれぞれの開口同士を合わせることで箱状となるようになっている。
【0035】
下ケース10Aは、平板状のベース部16Aと、ベース部16Aの外縁の一部において立ち上がる側壁部17Aとを備えてトレイ状に形成されている。ベース部16Aの下側の縁には進入溝2Aに対応する進入溝15Aが形成されている。また、ベース部16Aからは、進入溝15Aの左右両側に、進入溝15Aから上側に少し離れて円筒状の第1軸11および第2軸12が内側に延出している。第1軸11と第2軸12は、ともにベース部16Aと一体になっている。
【0036】
第1軸11は、その軸方向に沿って、断面円形の貫通孔であるボルト孔11Hが形成されている。第2軸12も、その軸方向に沿って、断面円形の貫通孔であるボルト孔12Hが形成されている。ボルト孔11Hおよびボルト孔12Hは、ともにボルト90の軸部91と略同じ直径を有している。
【0037】
ベース部16Aにおける第1軸11の周囲には、第1軸11を中心とする円弧状に2つの第1リブ14P,14Qが樹脂筐体10の内部に向かって突出して形成されている(
図3も参照)。第1リブ14P,14Qは、作動するラッチ30に対面する範囲に形成されている。ベース部16Aにおける第2軸12の周囲にも、第2軸12を中心とする円弧状に第2リブ14Rが樹脂筐体10の内部に向かって突出して形成されている(
図3も参照)。第2リブ14Rは、作動するラチェット40に対面する範囲に形成されている。
【0038】
下ケース10Aの外側には、
図5(a)に示すように、ボルト孔11H,12Hの縁に補強板20と上下左右方向の位置決めをするための位置決め突起11J,12Jが設けられている。また、進入溝15Aの最も奥の縁には、薄肉で形成されることで他の外表面より凹んだ凹部18が形成され、凹部18の上端部には、ベース部16Aを貫通する係合穴18Pが形成されている。
【0039】
上ケース10Bは、第1軸11および第2軸12が無い以外は、樹脂筐体10の内部については、ヒンジ19を基準として下ケース10Aと略対称に構成されている。
図2に示すように、上ケース10Bは、平板状のベース部16Bと、ベース部16Bの外縁の一部において立ち上がる側壁部17Bとを備えてトレイ状に形成されている。ベース部16Bの上側(組立後の下側)の縁には進入溝2Aに対応する進入溝15Bが形成されている。また、ベース部16Bは、進入溝15Bの左右両側に、進入溝15Aから下側(組立後の上側)に少し離れてボルト孔13P,13Qが、それぞれボルト孔11H,12Hに対応して形成されている。
【0040】
ベース部16Bにおけるボルト孔13Pの周囲には、第1リブ14P,14Qと対称に、ボルト孔13Pを中心とする円弧状に2つの第1リブ14S,14Tが樹脂筐体10の内部に向かって突出して形成されている。また、ベース部16Bにおけるボルト孔13Qの周囲にも、第2リブ14Rと対称に、ボルト孔13Qを中心とする円弧状に第2リブ14Uが樹脂筐体10の内部に向かって突出して形成されている。
【0041】
補強板20は、
図2および
図5(a)に示すように、下ケース10Aの外側のうち、上部の一部以外を覆うように形成され、平板状のベース部21と、ベース部21の外縁のうち左端および右端から内側に向けて立ち上がる側壁部27とを備えている。詳細は図示しないが、補強板20の側壁部27は、下ケース10Aの側壁部17Aと係合することで下ケース10Aと仮組みすることが可能となっている。
【0042】
ベース部21には、前記した下ケース10Aの位置決め突起11J,12Jと対応してこれらに嵌合する位置決め孔22,23が形成されている。また、ベース部21の下側の縁には、進入溝2Aに対応する進入溝25が形成されている。
【0043】
補強板20の外側には、
図5(a)に示すように、上側の縁に、外側に向けて曲げ起こされたフランジ28が形成されている。フランジ28は、荷重受け部材80と当接して、荷重受け部材80がストライカPの棒状部P1(
図6参照)から受ける力を支持する部分である。フランジ28は、第1軸11の軸方向から見て、つまり、ベース部21に対面して見て、補強板20の輪郭において上部に設けられた凹部29の底に設けられている。このような補強板20の凹部29を利用してフランジ28を設けることで、補強板20の小型化を図ることができ、補強板20の板取を効率的にすることができる。
【0044】
ラッチ30は、ストライカPの棒状部P1に係合・離脱して乗物用ラッチ装置1のロックまたはロック解除をする部材である。
図2に示すように、ラッチ30は、厚い金属板を打ち抜いて形成され、厚み方向に貫通する第1穴部31を有し、第1穴部31が第1軸11の外側に嵌合することで樹脂筐体10に回動可能に支持されている。ラッチ30は、詳細には、金属製のラッチ本体30Aと、ラッチ本体30Aの前側の面と側縁の一部を覆う樹脂製のカバー30Bとから構成されている。カバー30Bは、ラチェット40との摺動性を良くするために設けられている。
【0045】
ラッチ30は、棒状部P1に係合する溝32を有し、溝32の外側を形成する部分が鉤状部33となっている。また、ラッチ30は、
図6の姿勢において、右上の縁部に第1穴部31に近づくよう凹むロック凹部34が形成されている。ロック凹部34の左側に隣接する外周部分は、ラッチ30の開放時に、ラチェット40が当接してラッチ30の開状態を維持する開放当接面35である。開放当接面35は、外側に向けて凸曲面となっており、後述するラチェット40のロック係止部42Aが当接する全範囲において、外周の表面から曲率円の中心に向かう方向(
図6の矢印参照)が、ラッチ30の回動軸線に対して一方側、ここでは右側にずれている。このため、ラッチ30がロック係止部42Aから受ける力は、ラッチ30を時計回り方向、つまり、開状態へ向けて回転させるように働くようになっている。
また、ラッチ30は、レバー部材50を軸支するため、前側に突出するピン36が圧入されている。
【0046】
ラチェット40は、金属製の略板状の部材であり、厚み方向に貫通する第2穴部41が樹脂筐体10の第2軸12の外側に嵌合して、樹脂筐体10に回動可能に支持されている。ラチェット40の回動軸は、ラッチ30の回動軸と平行である。ラチェット40は、第2穴部41の左上方に略扇形の本体部42を有し、本体部42の左下の角がラッチ30に当接するロック係止部42Aとなっている。ロック係止部42Aは、ラッチ30の閉状態においてラッチ30のロック凹部34に入り込んでラッチ30の閉状態を維持するとともに、ラッチ30の開状態においては、開放当接面35に当接して開状態を維持するように機能する。
【0047】
本体部42の上部からは、さらに上方に細く延びるアーム43が形成され、アーム43の先端には、付勢部材の一例としての引張バネ75の右端が引っ掛けられるフック44が形成されている。引張バネ75の端部を、アーム43の先端の形状をフック状にしてなるフック44により係止することで、リベットなどの別部品をアーム43に固定することで引張バネ75の端部を係止する構造に比較して部品点数を削減することができる。また、アーム43には、
図2に示すように孔48が形成され、この孔48に乗物用ラッチ装置1をロック状態からロック解除状態に操作するロッド70が、リベット71により揺動可能に結合されている。
【0048】
図6に示すように、本体部42のうちロック係止部42Aの若干右側には、前側に突出するピン45が圧入されている。また、
図2に示すように、ラチェット40は、第2穴部41の周囲で穴の軸方向前側に突出したフランジ47を有している。フランジ47は、レバー部材50の厚みに対応した大きさで突出し、ラッチ30の閉状態において、レバー部材50が引張バネ75の付勢力によりフランジ47に当接することで、レバー部材50の遊びが防止されるようになっている。
【0049】
レバー部材50は、ラチェット40の動作をラッチ30と連動させるための操作機構である。レバー部材50は、細長い板状の部材であり、長手方向の略中央に形成された孔51がラッチ30のピン36に嵌合することでラッチ30に回動可能に支持されている。
【0050】
レバー部材50は、
図6の姿勢において回動軸から右下に向けて作動アーム52が延び、上方に向けて操作アーム53が延びている。作動アーム52には、変形の四角形のガイド孔52Aが形成されている。ガイド孔52Aにはラッチ30のピン45が入り込んでいる。作動アーム52の先端は、ラチェット40のフランジ47に当たってレバー部材50の遊びを防止するストッパ面52Bとなっている。操作アーム53の先端にはフック54が形成され、フック54に引張バネ75の左端が引っ掛けられている。引張バネ75の端部を、操作アーム53の先端の形状をフック状にしてなるフック54により係止することで、リベットなどの別部品を操作アーム53に固定することで引張バネ75の端部を係止する構造に比較して部品点数を削減することができる。
【0051】
なお、引張バネ75の取付け上、フック44とフック54とは、高さ(第1軸11の軸方向の位置)が一致しているのが好ましい。このようにフック44とフック54の高さを一致させるためには、フック44の部分の厚みをラチェット40の本体部42の厚みと異ならせたり、操作アーム53の先端付近を屈曲させることでフック54の高さ位置を調整したりするとよい。
【0052】
引張バネ75は、前記したようにラチェット40とレバー部材50に各端部が引っ掛けられ、ラチェット40の本体部42とレバー部材50の操作アーム53とを常時引き付けるように付勢力を与えている。この付勢力は、ラチェット40のロック係止部42Aをラッチ30に向けて付勢する力を与えるようにも働く。
【0053】
荷重受け部材80は、ストライカPの棒状部P1に当接してストライカPからの荷重を受ける樹脂製の部材である。
図4に示すように、荷重受け部材80は、末広がりの四角形の本体部81と、樹脂筐体10および補強板20
と係合する係合爪82とを主に備えている。本体部81の末広がりの端部の端面81Aは、補強板20のフランジ28と当接してストライカPから受けた荷重を補強板20に伝える面となっている。本体部81の端面81Aと反対側の端部は、係合爪82と、略半円形の接続部83により接続されている。これにより、
図5(b)に示すように、荷重受け部材80は、本体部81、接続部83および係合爪82によりU字型の断面を有している。
【0054】
係合爪82の先端には、前記した下ケース10Aの係合穴18Pに係合する係合突起82Aが本体部81と反対側に突出している。また、係合爪82の基端には、接続部83と同様の略半円状の突起84が本体部81と反対側に突出している。接続部83の半円形状は、補強板20の進入溝25の最奥部の形状におよそ倣ったものであり、突起84の半円形状は、下ケース10Aの進入溝15Aの最奥部の形状におよそ倣ったものである。荷重受け部材80の端面81Aと反対側の端面には、摺動性に優れた樹脂シート89が張り付けられている。この樹脂シート89の表面がストライカPと当接する荷重受け部の一例としての荷重受け面89Aである。荷重受け面89Aは、棒状部P1からの荷重を受ける方向(
図6での下から上)から見て、2つのボルト90の間に配置されている。これにより荷重受け面89Aで受ける力を2つのボルト90でバランス良く支持し、乗物用ラッチ装置1に不要な回転モーメントが発生しないようになっている。
【0055】
図5(b)に示すように、下ケース10Aと、補強板20は、互いに密着したときに、下ケース10Aの凹部18があることにより、下ケース10Aと補強板20の間に隙間ができるようになっている。荷重受け部材80は、本体部81と係合爪82の間に補強板20を入れるようにしつつ、係合爪82を凹部18と補強板20の間の隙間に挿入していくことで、補強板20を挟むように配置される。係合爪82の先端の係合突起82Aは下ケース10Aの係合穴18Pに入り込んで係合する。そして、荷重受け部材80の端面81Aは、補強板20のフランジ28に当接して、荷重受け面89Aで受けたストライカPからの荷重を補強板20に伝えることが可能となっている。
【0056】
図7に示すように、下ケース10A、上ケース10Bは、ボルト90により互いに締結されて箱形状にされ、かつ、補強板20とともにブラケットS2に固定されている。ボルト90は、軸部91と、軸部91の先端に設けられたネジ部92と、基端に設けられたフランジ付ヘッド93とを有している。軸部91は、ネジ部92の山部よりも太く拡径しており、この拡径した段の部分で溶接ナットWNに締結したときの締結力を受けるようになっている。これにより、軸部91を太く形成するのに代えて金属製のカラーを用いる場合に比較してコストダウンを図ることができる。
【0057】
下ケース10Aと上ケース10Bは、ラッチ30などの各部材を内部に組み付けられた上でそれぞれの開口側を向かい合わせにして箱状にされ、
図5(a)に示した位置決め突起11J,12Jが補強板20の位置決め孔22,23にそれぞれ嵌合されている。こうして樹脂筐体10と補強板20が位置決めされた上で組み合わされている。このようにして組み上げられた乗物用ラッチ装置1は、
図7に示すように、ボルト孔11Hにボルト90の軸部91が挿通されて、ネジ部92をブラケットS2の溶接ナットWNに螺合することでブラケットS2に固定されている。なお、フランジ付ヘッド93と補強板20の間にはスプリングワッシャ95が介装されて、スプリングワッシャ95の弾性力によりブラケットS2とフランジ付ヘッド93の間で乗物用ラッチ装置1を挟持している。
【0058】
ここで、
図7を見て分かるように、筐体2の、ラッチ30の回動軸線方向の一方側の壁は、樹脂筐体10により構成され、他方側の壁は、外側が補強板20により構成されている。そして、補強板20は、乗物用ラッチ装置1がボルト90によりフレームSに取り付けられるときに外側に位置してボルト90の締結力を受ける座面として機能している。このようにして、外側に補強板20が位置することで、補強板20で締結のための力を直接受けることができるとともに、外部からの衝撃などから樹脂筐体10を保護することができるようになっている。なお、ここでは、
図7を参照して、ボルト90により第1軸11における締結状態を説明したが、ボルト90による第2軸12における締結も全く同様である。そのため、第2軸12における締結は、説明を省略する。
【0059】
以上のように構成された乗物用ラッチ装置1の動作について説明する。
図6の作動前の状態において、ストライカPの棒状部P1は、筐体2の進入溝2Aの最も奥に入り込んでおり、ラッチ30の鉤状部33が棒状部P1を下から抱え込んでいる。そして、ラッチ30のロック凹部34にはロック係止部42Aが入り込んでラッチ30の回動を規制している。すなわち、ラッチ30は閉状態であり、乗物用ラッチ装置1はロック状態にある。このとき、引張バネ75は引張力を発生しており、ラチェット40のロック係止部42Aがロック凹部34の底に当接している。また、ストライカPの棒状部P1は、荷重受け部材80の荷重受け面89Aに当接しており、ストライカPから乗物用ラッチ装置1に掛かる荷重は荷重受け部材80を介して補強板20のフランジ28(
図5(a),(b)参照)に伝わり、補強板20が受けている。
【0060】
図6の作動前の状態から、ロッド70を牽引すると、乗物用ラッチ装置1は、まず、
図8に示すように、ラチェット40が時計回りに回動し、ラチェット40のピン45がガイド孔52Aの右上縁を押して、引張バネ75を引き伸ばしながらレバー部材50を反時計回りに回動させる。
図8においては、
図6からほとんど変化が無いが、このレバー部材50に掛かる力がピン36を介してラッチ30を少しずつ時計回りに回転させようとする。
【0061】
ロッド70をさらに牽引すると、
図9に示すように、ラチェット40がさらに時計回りに回動して、ロック係止部42Aがロック凹部34から完全に離脱する。そして、ラッチ30がレバー部材50からピン36を介して受ける力により時計回りに回動し、ロック係止部42Aがラッチ30の開放当接面35に対面する。
【0062】
図9の状態から、引張バネ75の引張力にまかせてロッド70を戻していくと、
図10に示すように、ラチェット40のロック係止部42Aがラッチ30の開放当接面35に当接する。このとき、ラチェット40がラッチ30を押す力は、
図10に太い矢印で示したように、ロック係止部42Aと開放当接面35の接触点から開放当接面35の曲率中心に向かう。開放当接面35の曲率中心は、ロック係止部42Aと当接する範囲においてラッチ30の回動中心に対して右側にずれているため、引張バネ75の付勢力によりラチェット40がラッチ30を押す力は、ラッチ30を時計回り、すなわち開状態へ向けて回動させる力(回転モーメント)として働く。
【0063】
そこで、この回転モーメントにより開放当接面35がロック係止部42Aを滑りながらラッチ30が時計回りに回動すると、
図11に示すように、ラッチ30が開状態となり、ストライカPの棒状部P1が進入溝2Aから離脱することができる。すなわち、乗物用ラッチ装置1がロック解除状態となる。
【0064】
乗物用ラッチ装置1をロック解除状態からロック状態に戻す場合には、
図11に示す状態からストライカPの棒状部P1を進入溝2Aに進入させ、ラッチ30の溝32に押し当ててラッチ30を反時計回りに回動させる。すると、開放当接面35に当接していたロック係止部42Aが開放当接面35上を滑り、十分にラッチ30が回動したところで引張バネ75の付勢力によりロック係止部42Aがロック凹部34に入り込む。すなわち、
図6のロック状態に戻る。
【0065】
以上の動作の過程において、本実施形態の乗物用ラッチ装置1は、樹脂筐体10にラッチ30、ラチェット40およびレバー部材50が回動可能なように支持され、収納されているので、回動時にこれらの部品が筐体と擦れ合うことによる音が金属音とはならず、騒音を抑制することができる。また、樹脂筐体10とラッチ30、ラチェット40およびレバー部材50の摺動は、金属同士の擦れ合いではなく、金属と樹脂の擦れ合いであるので滑らかな作動感を得ることができる。
【0066】
特に、本実施形態の乗物用ラッチ装置1は、樹脂筐体10と一体に形成された第1軸11および第2軸12により、それぞれラッチ30の第1穴部31およびラチェット40の第2穴部41を支持しているので、金属同士の接触が無く、金属音を無くし、滑らかな作動感を得ることができる。また、樹脂筐体10の内面には、ラッチ30やラチェット40の回動方向に沿った第1リブ14P,14Q,14S,14Tや第2リブ14R,14Uが形成され、ラッチ30とラチェット40は、樹脂筐体10の内面とこれらのリブにより摺動するので、乗物用ラッチ装置1の作動音を小さくし、摺動抵抗を小さくして良好な作動感を得ることができる。さらに、ラッチ30には、ラチェット40と摺動する側に樹脂製のカバー30Bを有しているので、ラッチ30とラチェット40の金属同士の接触を抑制して金属音を抑制し、滑らかな作動感を得ることができる。
【0067】
また、樹脂筐体10は、従来のような鋼板で形成されたベースに比較して比重が小さいので、乗物用ラッチ装置1を軽量にすることができる。そして、前記した第1軸11および第2軸12は、円筒状とすることで樹脂筐体10の肉厚の変化を少なくして成形の精度が良くなっている。さらに、第1軸11および第2軸12が筒状になることによる強度低下を、その内部にボルト90の軸部91が嵌合していることで各軸を中実構造にして補強し、十分な剛性を確保することができる。そして、この中実構造を構成するための部材は、乗物用ラッチ装置1を他の装置であるフレームSに締結するために必要な部品であるボルト90を利用しているので、別途の部品を使用する場合に比較して部品点数を少なくしてコストダウンを図ることができるとともに乗物用ラッチ装置1の軽量化にも寄与する。
【0068】
また、レバー部材50の遊びを防止するために、金属製のレバー部材50をラッチ30やラチェット40を軸支する樹脂製の軸に直接当てる場合、軸が摩耗するおそれがある。本実施形態の乗物用ラッチ装置1は、ラチェット40の第2穴部41の周囲にフランジ47を設けてレバー部材50をこのフランジ47の外周に当てるようにしたので、樹脂軸の摩耗を防止するとともにレバー部材50の遊びを防止して不要な騒音が発生するのを防止するこ
とができる。
【0069】
そして、本実施形態の乗物用ラッチ装置1は、ラチェット40のロック係止部42Aがラッチ30の開放当接面35に当接しているとき、この当接力がラッチ30を開状態に向けて回動させるように働くので、予期せぬ姿勢でラッチ30が停止してしまうことを防止することができる。
【0070】
また、補強板20は、棒状部P1を案内する進入溝2A(25)を構成しているので、乗物用ラッチ装置1の作動による進入溝2Aの摩耗を抑制して、樹脂筐体10を採用したことによる耐久性の低下を抑制することができる。また、樹脂筐体10を採用したことによる筐体2の剛性低下を、樹脂筐体10を部分的に覆う補強板20により補強して、必要な剛性も確保されている。
【0071】
そして、樹脂筐体10は、下ケース10Aと上ケース10Bとがヒンジ19により接続されて一体に形成されているため、これらの成形を一度に行うことができてコスト低減が可能である。また、乗物用ラッチ装置1の組立の際には、下ケース10Aと上ケース10Bのお互いの向きがヒンジ19により決定されているため、下ケース10Aに順次中身の部品を組み付けた上、上ケース10Bを、その向きを気にせず閉じるようにすればよいので生産性が非常に良好である。
【0072】
本実施形態の乗物用ラッチ装置1は、樹脂製の荷重受け部材80を備え、ストライカPの棒状部P1とは、直接には荷重受け部材80が接触しているので、ロック時においてストライカPからの荷重をソフトに受け、作動感を良好にすることができる。そして、荷重受け部材80は、補強板20および樹脂筐体10の両方と係合しているが、その係合爪82は、樹脂筐体10に設けられた係合穴18Pと係合しているので、係合穴18Pを鋼板からなる補強板20に形成する必要がなく、製造が容易である。また、荷重受け部材80の荷重受け面89Aは、第1軸11の軸方向から見て、ボルト90の中心同士を結ぶ方向におけるボルト90の中心の間に配置されているので、荷重受け面89Aが受ける力を2つのボルト90でバランス良く支持して、乗物用ラッチ装置1に不要な回転モーメントが発生するのを防止することができる。
【0073】
そして、本実施形態の乗物用ラッチ装置1は、樹脂筐体10に設けられた位置決め突起11J,12Jと補強板20の位置決め孔22,23との係合により、これらの位置決めがされており、位置決め突起11J,12Jは、ボルト90が通る孔の縁に設けられているので、別途の位置決めの突起と孔を設けるのに比較して構成が簡易であり、また、位置決め突起11J,12Jと位置決め孔22,23との係合が確実である。
【0074】
また、補強板20のフランジ28は、第1軸11の軸方向から見て補強板20の輪郭における凹部29に設けられているので、補強板20の小型化と板取りの効率化を実現できる。さらに、補強板20は、乗物用ラッチ装置1をフレームSに取り付けたときに、外側に位置するので、補強板20で締結のための力を直接受けることができるとともに、外部からの衝撃などから樹脂筐体10を保護することができる。
【0075】
次に、
図12〜
図15を参照して、変形例に係る乗物用ラッチ装置を説明する。なお、上述した実施形態と同様の構造部品には同一符号を付して、その説明を省略する。
【0076】
図12に示す下ケース102は、ベース部102Aから外側に膨出する膨出部103を備えている。膨出部103は、ベース部102Aとの段差を形成する壁面が位置決め突起11J,12Jを逃げるように湾曲した湾曲面103Aとなっている。
そして、凹部18の上端部には、貫通孔ではなく、凹んだ形状の係合穴18Qが形成されている。なお、下ケース102は、第1の材料の一例としての樹脂から構成されている。
【0077】
図12および
図13に示すように、補強板120は、下ケース102の外側のうち、膨出部103を除く略すべての領域を覆うように形成されている。補強板120は、樹脂よりも比重が大きく弾性係数が大きい第2の材料の一例としての鋼板をプレス加工することで成形され、平板状のベース部121と、ベース部121の外縁から内側に向けて立ち上がる側壁部127と、ベース部121から膨出部103の湾曲面103Aに沿って立ち上がるフランジ128とを備えている。フランジ128は、その中央部に、荷重受け部材80の端面81Aが当接する当接部129を備えている。
図13および
図14に示すように、補強板120の側壁部127は、下ケース102の側壁部102Bと係合することで下ケース102と仮組みすることが可能となっている。
【0078】
図15に示すように、上ケース104は下ケース102とは別体で形成され、膨出部103、第1軸11および第2軸12が設けられていないことを除くと、下ケース102と略対称に構成されている。なお、上ケース104は、第1の材料の一例としての樹脂から構成されている。
【0079】
図14に示すように、下ケース102の内面に立設された第1軸11の周囲には、第1軸11を中心とする円弧状に2つの第1リブ114P,114Qがベース部102Aの内面に突出して形成されている。第2軸12の周囲には、一端が側壁部102Bに接続され、他端が第2軸12を中心とする円弧状に延びる第2リブ114Rが、ベース部102Aの内面に突出して形成されている。
【0080】
さらに、ベース部102Aの内面には、膨出部103に囲まれた領域を除いて、第3リブ114Sが突出して形成されている。
第3リブ114Sは、第1リブ114P,114Qが形成された半面において、縦横に格子状に延びて形成されている。また、第2リブ114Rが形成された半面では、第3リブ114Sが第2リブ114Rから縦横に延びて形成されている。第3リブ114Sは、側壁部102B、膨出部103、第1リブ114P,114Qおよび第2リブ114Rと接続されるとともに、膨出部103に囲まれた領域を除くベース部102Aの内面全体に亘って延びることで、下ケース102の剛性を高めている。
【0081】
第1リブ114Pは、ラッチ30が回動する範囲に対応して形成されている。
第1リブ114Qは、レバー部材50が回動する範囲に対応して形成されている。
第2リブ114Rは、ラチェット40が回動する範囲に対応して形成されている。
【0082】
第1リブ114Pと第2リブ114Rは、同じ高さを有する。第1リブ114Pはラッチ30と接触可能であり、第2リブ114Rはラチェット40と接触可能である。第3リブ114Sは、第1リブ114Qと同じ高さに形成されている。そして、第1リブ114Pおよび第2リブ114Rは、第3リブ114Sよりも高く形成されている。このため、ラッチ30は、第1リブ114Pと摺接し、ラチェット40は、第2リブ114Rと摺接することが可能であるが、第3リブ114Sには接触せずにスムーズに回動することができる。なお、
図6および
図8〜
図11に示すように、レバー部材50は、ラッチ30とラチェット40に重なった状態で作動するため、レバー部材50が第1リブ114Qと接触することはなく、第1リブ114Qは、第3リブ114Sと共に樹脂筐体の剛性を高める役割を果たしている。
【0083】
図15に示すように、上ケース104は、ベース部104Aの外縁の一部において内側に立ち上がる側壁部104Bを備えている。
ベース部104Aにおけるボルト孔13Pの周囲には、下ケース102の第1リブ114P,114Qと対称位置に、2つの第1リブ114T,114Uが突出して形成されている。また、ベース部104Aにおけるボルト孔13Qの周囲にも、第2リブ114Rと対称位置に、第2リブ114Vが突出して形成されている。
さらに、ベース部104Aの内面には、縦横に格子状に延びる第3リブ114Wが全体に亘って突出して形成され、上ケース104の剛性を高めている。
【0084】
第1リブ114Tは、ラッチ30と接触する高さを有し、ラッチ30が回動する範囲に対応して形成されている。第2リブ114Vは、ラチェット40と接触する高さを有し、ラチェット40が回動する範囲に対応して形成されている。第1リブ114Tと第2リブ114Vは、同じ高さに形成されている。
第1リブ114Uは、ラッチ30と係合するレバー部材50が接触する高さを有し、レバー部材50が回動する範囲に対応して形成されている。第1リブ114Uは、第3リブ114Wと同じ高さに形成されている。
【0085】
このように構成された乗物用ラッチ装置を組み立てる際は、ラッチ30、ラチェット40、レバー部材50などを含む機構部品を収納した状態で、下ケース102と上ケース104を密着させて箱形状の樹脂筐体とする。そして、下ケース102の位置決め突起11J,12Jを補強板120の位置決め孔22,23にそれぞれ嵌合させ、補強板120のフランジ128を
下ケース102の膨出部103の湾曲面103Aに当接させた状態で、樹脂筐体と補強板120を組み合わせる。さらに、補強板120の進入溝25から荷重受け部材80を挿入して、荷重受け部材80の端面81Aをフランジ128の当接部129に当接させる。そして、このようにして組み立てられた組立体を、ボルト90によりブラケットS2(
図1参照)に固定する。
このような乗物用ラッチ装置は、上述した乗物用ラッチ装置1と同様の動作を行う。
【0086】
以上に述べた変形例に係る乗物用ラッチ装置においても、上述した乗物用ラッチ装置1と同様の効果を奏する。
さらに、下ケース102に膨出部103を設けたことにより、樹脂筐体の剛性を高めることができる。
また、樹脂筐体の内面に形成された第1リブ114Q,114Uは、他の第1リブ114P,114Tや第2リブ114R,114Vよりも長さが短く形成されている。このように樹脂筐体の必要な剛性に応じて、第1リブ114Q,114Uの大きさを小さくすることで軽量化を図ることができる。
【0087】
以上に本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、前記した実施形態に限定されることなく適宜変形して実施することができる。
例えば、筐体は、補強板20,120を含まずに、樹脂筐体のみから構成されるものでもよい。この場合、例えば、ラッチ30の鉤状部33が、ストライカPの棒状部P1に当接する第2部材に対応することになる。
例えば、前記実施形態においては、ラッチ30またはラチェット40を軸支する軸を樹脂筐体と一体に構成したが、この軸自体は、金属製の軸であってもよい。また、樹脂軸を採用する場合も、ラッチ30またはラチェット40の一方のみに採用してもよい。
【0088】
前記実施形態においては、2つのボルト90による乗物用ラッチ装置1の具体的な固定構造の一例を示したが、固定構造は、例示したものには限られない。すなわち、固定部材は、ボルトではなく、リベットであってもよいし、固定部材が乗物用ラッチ装置を固定する部位も、例示したような樹脂軸の部分には限られない。
【0089】
前記実施形態において、下ケース10Aと上ケース10Bとは、ともにトレイ状に形成されていたが、一方がトレイ状で他方が平板状に形成されていてもよい。
【0090】
前記実施形態においては、第1の材料として樹脂、第2の材料として鋼材を例示したが、これは一例に過ぎず、例えば、第1の材料としてアルミニウム合金を用いてもよい。
【0091】
前記実施形態においては、棒状部P1をガイドするための進入溝2A(15A,15B,25)は、樹脂筐体と補強板の両方に設けられていたが、補強板20,120のみに設けられていてもよい。
【0092】
さらに、乗物用ラッチ装置1は、車両などの乗物用シートの背もたれに使用される場合だけでなく、乗物用シートの着座部や脚に設けられていてもよく、車両のトランクなどの開閉部分をロックする装置として使用することもできる。また、乗物用シートも、車両以外の船舶や飛行機のシートであってもよい。