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特開2015-163677熱可塑性樹脂組成物、マスターバッチおよび成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-163677(P2015-163677A)
(43)【公開日】2015年9月10日
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物、マスターバッチおよび成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20150814BHJP
   C08L 15/00 20060101ALI20150814BHJP
   C08J 9/32 20060101ALI20150814BHJP
   C08J 3/22 20060101ALI20150814BHJP
【FI】
   C08L101/00
   C08L15/00
   C08J9/32CER
   C08J3/22CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-242561(P2014-242561)
(22)【出願日】2014年11月28日
(31)【優先権主張番号】特願2014-13854(P2014-13854)
(32)【優先日】2014年1月29日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】510192983
【氏名又は名称】オーイソ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139996
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 洋子
(72)【発明者】
【氏名】磯村 齊
【テーマコード(参考)】
4F070
4F074
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA53
4F070AC73
4F070AE12
4F070FA07
4F070FB03
4F070FB08
4F074AA28
4F074AA78
4F074BA03
4F074BA04
4F074BA13
4F074BA14
4F074BA16
4F074BA17
4F074CB63
4F074DA35
4F074DA36
4J002AC081
4J002AC112
4J002BB001
4J002BB031
4J002BB121
4J002BC031
4J002BC061
4J002BD031
4J002BD101
4J002BN071
4J002BN151
4J002CF001
4J002CF061
4J002CF071
4J002CK021
4J002CL001
4J002GC00
4J002GN00
(57)【要約】      (修正有)
【課題】成形した成形品の表面に適度な粘着性、良好な湿潤滑り抵抗、耐摩耗性および耐衝撃性を発揮し、且つ、その作業性を向上することのできる熱可塑性樹脂組成物、マスターバッチおよびこれらの製造方法、並びにこれらを用いて成形した成形品の提供。
【解決手段】(A)数平均分子量が2,000から3,500の水素化ブタジエン系重合体と、(B)(A)成分以外の熱可塑性重合体とを含む原料を混合してなる発泡体用組成物であって、前記水素化ブタジエン系共重体(A)を180℃から200℃に加熱溶融させて前記原料に混合することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。前記水素化ブタジエン系重合体は、1,2−ビニル結合を50%以上有し、両末端に水酸基を有するもので、その配合量は2〜10重量%である熱可塑性樹脂組成物
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)数平均分子量が2,000から3,500の水素化ブタジエン系重合体と、(B)(A)成分以外の熱可塑性重合体とを含む原料を混合してなる熱可塑性樹脂組成物であって、
前記水素化ブタジエン系共重体(A)を180℃から200℃に加熱溶融させて前記原料に混合することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記水素化ブタジエン系重合体(A)の配合量は熱可塑性樹脂組成物全量に対して2重量%から10重量%であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記水素化ブタジエン系重合体(A)は、1,2−ビニル結合を50%以上有し両末端に水酸基を有する重合体であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記原料は(C)発泡剤を含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記発泡剤(C)は、マイクロカプセル型発泡剤であることを特徴とする請求項4に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物を用いて成形されることを特徴とする成形品。
【請求項7】
(A)数平均分子量が2,000から3,500の水素化ブタジエン系重合体と、(B)(A)成分以外の熱可塑性重合体とを含む原料を混合して熱可塑性樹脂組成物を製造する方法であって、
前記水素化ブタジエン系共重体(A)を180℃から200℃に加熱溶融させて前記原料に混合することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
(A)数平均分子量が2,000から3,500の水素化ブタジエン系重合体と、(B)(A)以外の熱可塑性重合体とを含む原料を混合して熱可塑性樹脂組成物を調製する工程と、
調製した前記熱可塑性樹脂組成物を用いて成形品を成形する工程とを含み、
前記熱可塑性樹脂組成物を調製する工程において前記水素化ブタジエン系共重体(A)を180℃から200℃に加熱溶融させて前記原料に混合することを特徴とする成形品の成形方法。
【請求項9】
(A)数平均分子量が2,000から3,500の水素化ブタジエン系重合体と、(B)(A)成分以外の熱可塑性重合体とを含むマスターバッチ原料を混合してなるマスターバッチであって、
前記水素化ブタジエン系共重体(A)を180℃から200℃に加熱溶融させて前記マスターバッチ原料に混合することを特徴とするマスターバッチ。
【請求項10】
請求項9に記載のマスターバッジと、(C)発泡剤とを用いて成形されることを特徴とする成形品。
【請求項11】
(A)数平均分子量が2,000から3,500の水素化ブタジエン系重合体と、(B)(A)成分以外の熱可塑性重合体(B)とを含むマスターバッチ原料を混合してマスターバッチを調製する工程と、
調製したマスターバッチを用いて成形品を成形する工程とを含み、
前記水素化ブタジエン系共重体(A)を180℃から200℃に加熱溶融させて前記マスターバッチ原料に混合することを特徴とすることを特徴とする成形品の成形方法。
【請求項12】
前記マスターバッジを用いて成形品を成形する工程において、前記マスターバッジと(C)発泡剤とを混合し、これを発泡させて成形品を成形することを特徴とする請求項11に記載の成形品の成形方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、適度な粘着性を有すると共に湿潤滑り抵抗、加工性、耐摩耗性および耐衝撃性に優れ、計量化を図ることのできる熱可塑性樹脂組成物、マスターバッチおよびこれらの製造方法、並びにこれらを用いて成形した成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用品、工業部品、スポーツ用品、および靴底のような製品の主原料としては天然ゴムおよび合成ゴム等が広く用いられており、これらゴムに架橋剤や発泡体を混合したものを架橋または発泡することにより成形品が成形されていた。このように架橋・発泡されたゴム製成形品は良好な柔軟性と弾性回復性を有する。しかし所謂一般的なゴムは架橋によって熱可塑性が阻害されるため、これを用いて成形する成形品はその加工性、および再利用性が悪いという問題があった。そこでこのような問題を解決する原料として、近年では熱可塑性樹脂および熱可塑性エラストマーといった熱可塑性重合体が用いられている。
【0003】
また成形品に良好な湿潤滑り抵抗性を付与する目的で、当該成形品の原材料として1,2−ポリブタジエンや水素化ブタジエン系重合体が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−8836号
【特許文献2】特開2012−21063号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示される平均分子量が1万以上と大きい1,2−ポリブタジエンは、少量の添加により重合体(組成物)に耐摩耗性を付与することができる。しかしながらこのような平均分子量の大きい1,2−ポリブタジエンは粘度が高い。そのため組成物に十分に混合させるためには例えば油展や乳化が必要となり、加工性、生産性の低下を招く。またこのような平均分子量が大きい1,2−ポリブタジエンの粘着性成分は成形品の表面に浮き出難くなるため、成形品への良好な湿潤滑り抵抗性を付与し難い。
【0006】
一方、平均分子量が1,500未満と小さい1,2−ポリブタジエンは、十分な耐摩耗性を実現するためには樹脂組成物にこれを多量に添加する必要がある。更にこのような1,2−ポリブタジエンは粘度が低いため、樹脂組成物および成形品の加工時にべたつきが生じ易く、また1,2−ポリブタジエンの粘着性成分が成形品表面に浮き出易くなるため、成形品に触れたものにこの粘着性成分が付着してしまうという問題が生じる。
【0007】
特許文献2に開示されるような数平均分子量が2,500以上の水素化ブタジエン系重合体であっても、数平均分子量が大きいものについては上述のような加工性の問題が生じる。
【0008】
また数平均分子量が2,000から3,500程度の水素化ブタジエン系重合体は、これと熱可塑性重合体と混合するに際して加工性に劣り、作業性に悪影響を与える。
【0009】
本発明は上記の問題を解決するものであり、成形した成形品の表面に適度な粘着性、良好な湿潤滑り抵抗、耐摩耗性および耐衝撃性を発揮するものである。特に数平均分子量2,000から3,500の水素化ブタジエン系共重合体と熱可塑性重合体とを効率よく混合することで熱可塑性樹脂組成物やマスターバッチの生産性を向上した熱可塑性樹脂組成物、マスターバッチおよびこれらの製造方法、並びにこれらを用いて成形した成形品を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明の熱可塑性樹脂組成物は、(A)数平均分子量が2,000から3,500の水素化ブタジエン系重合体と、(B)(A)成分以外の熱可塑性重合体とを含む原料を混合してなり、前記水素化ブタジエン系共重体(A)を180℃から200℃に加熱溶融させて前記原料に混合することをその特徴とする。
【0011】
(2)前記(1)に記載の構成にあって、前記水素化ブタジエン系重合体(A)の配合量は熱可塑性樹脂組成物全量に対して2重量%から10重量%であることをその特徴とする。
【0012】
(3)前記(1)または(2)に記載の構成にあって、前記水素化ブタジエン系重合体(A)は、1,2−ビニル結合を50%以上有し両末端に水酸基を有する重合体であることをその特徴とする。
【0013】
(4)前記(1)から(3)のいずれかに記載の構成にあって、前記原料は(C)発泡剤を含むことをその特徴とする。
【0014】
(5)前記(4)に記載の構成にあって、前記発泡剤(C)は、マイクロカプセル型発泡剤であることをその特徴とする。
【0015】
(6)本発明の成形品は、前記(1)から(5)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を用いて成形されることをその特徴とする。
【0016】
(7)本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、(A)数平均分子量が2,000から3,500の水素化ブタジエン系重合体と、(B)(A)成分以外の熱可塑性重合体とを含む原料を混合する方法であって、前記水素化ブタジエン系共重体(A)を180℃から200℃に加熱溶融させて前記原料に混合することをその特徴とする。
【0017】
(8)本発明の成形品の成形方法は、(A)数平均分子量が2,000から3,500の水素化ブタジエン系重合体と、(B)(A)以外の熱可塑性重合体とを含む原料を混合して熱可塑性樹脂組成物を調製する工程と、調製した前記熱可塑性樹脂組成物を用いて成形品を成形する工程とを含み、前記熱可塑性樹脂組成物を調製する工程において前記水素化ブタジエン系共重体(A)を180℃から200℃に加熱溶融させて前記原料に混合することをその特徴とする。
【0018】
(9)本発明のマスターバッジは、(A)数平均分子量が2,000から3,500の水素化ブタジエン系重合体と、(B)(A)成分以外の熱可塑性重合体とを含むマスターバッチ原料を混合してなり、前記水素化ブタジエン系共重体(A)を180℃から200℃に加熱溶融させて前記マスターバッチ原料に混合することをその特徴とする。
【0019】
(10)本発明の成形品は、前記(9)に記載のマスターバッジと、(C)発泡剤とを用いて成形されることをその特徴とする。
【0020】
(11)本発明の成形品の成形方法は、(A)数平均分子量が2,000から3,500の水素化ブタジエン系重合体と、(B)(A)成分以外の熱可塑性重合体(B)とを含むマスターバッチ原料を混合してマスターバッチを調製する工程と、調製したマスターバッチを用いて成形品を成形する工程とを含み、前記水素化ブタジエン系共重体(A)を180℃から200℃に加熱溶融させて前記マスターバッチ原料に混合することを特徴とすることをその特徴とする。
【0021】
(12)上記(11)に記載の構成にあって、前記マスターバッジを用いて成形品を成形する工程において、前記マスターバッジと(C)発泡剤とを混合し、これを発泡させて成形品を成形することをその特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の発泡体用組成物が2,000から3,500の水素化ブタジエン系共重合体(A)と(A)以外の熱可塑性重合体(B)とを効率よく混合し得る理由は定かではないが、以下の理由からであると推測される。
即ち、本発明の熱可塑性樹脂組成物に用いられる前記水素化ブタジエン系共重合体(A)を180℃から200℃に加熱溶融させて前記原料に混合すると、前記熱可塑性重合体(B)が前記水素化ブタジエン系重合体(A)を被覆するように反応および結合するものと推測される。このため、前記原料を効率よく混合することができるものと考える。
またこのような熱可塑性樹脂組成物を用いて成形した成形品の表面には、成形品の成形時に適度に前記水素化ブタジエン系重合体(A)由来の粘着性成分が浮き出るため、適度な粘着性と良好な湿潤滑り抵抗を発揮することができる。
【0023】
また本発明の発泡体用組成物の製造方法においても前記水素化ブタジエン系重合体(A)を180℃から200℃に加熱溶融させて前記原料に混合することから、当該製造方法により製造された熱可塑性樹脂組成物も上記効果を奏することができる。
【0024】
また本発明のマスターバッチにおいても、マスターバッチ原料の混合時において前記原料を効率よく混合することができる。
【0025】
そして本発明の熱可塑性樹脂組成物およびマスターバッチを用いて成形した成形品は、適度な粘着性と良好な湿潤滑り抵抗、耐摩耗性および耐衝撃性に優れる。またこれに更に発泡剤(C)を混合して成形された成形品は、上記効果に加え、計量化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の実施例に係わり、摩擦係数の計測に用いる測定機器の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の一実施形態を詳述する。
【0028】
(A)数平均分子量が2,000から3,500の水素化ブタジエン系重合体
数平均分子量が2,000から3,500の水素化ブタジエン系重合体(A)とは、ブタジエンを重合して得られるブタジエン重合体に対して水素添加を行った水素化ブタジエン系重合体を指す。
【0029】
前記水素化ブタジエン系重合体(A)としては、シス−1,4−結合、トランス−1,4−結合、または1,2−結合を含むブタジエン重合体を水素化した水素化ブタジエン系重合体を用いることができる。この中でも特に、1,2−結合を50%以上、更に好ましくは70%以上有する水素化ブタジエン系重合体が好ましく用いられる。このように1,2−結合の含有量の高い水素化ブタジエン系重合体は反応性が高く、保存安定性に優れる。またポリマーの骨格が炭素と水素で構成されることから、耐水性、耐薬品性および機械的強度にも優れる。
【0030】
前記ブタジエン重合体は、例えば溶液中にてブタジエンを触媒の存在下で重合させることにより製造される。重合開始剤としては例えばアルカリ金属または有機アルカリ金属が挙げられ、重合開始剤とカリウム塩を添加してブタジエンをアニオン重合することにより製造されることが好ましい。このような方法により、主として1,2−結合を有するブタジエン重合体を製造することができる。
前記ブタジエン重合体は、ブタジエンに対する重合開始剤およびカリウム塩のモル比を調整することにより、水素添加後の数平均分子量を2,000から3,500の範囲とすることができる。
【0031】
このように製造された前記ブタジエン重合体に水素添加をすることで、本実施形態の水素化ブタジエン系重合体が得られる。また、水素添加後のブタジエン重合体の両末端に水酸基、カルボキシル基等を導入しても良い。このうち、両末端に水酸基を有する前記水素化ブタジエン系重合体を用いることで、熱可塑性樹脂組成物およびマスターバッチの安定性を向上することができる。
【0032】
前記水素化ブタジエン系重合体(A)は、数平均分子量を2,000から3,500の範囲に調整したことにより、所定の条件下にて本実施形態の熱可塑性重合体(B)と混合することによって当該熱可塑性重合体(B)が前記水素化ブタジエン系重合体(A)を被覆するように反応および結合するものと推測される。そして、これを用いて成形される成形品においては、成形品の成形時にその表面に適度に粘着性成分が浮き出るため、適度な粘着性と良好な湿潤滑り抵抗を発揮することができる。
【0033】
前記水素化ブタジエン系重合体(A)としては、例えば登録商標「NISSO−PB」シリーズ BI−2000、BI−3000、GI−2000、GI−3000(以上、日本曹達(株)製)、Krasol LBH2000、LBH3000、LBH−P2000、LBH−P3000(以上、クレイバレー社製)、KLP−L2203(以上、シェル・ケミカル社製)等が用いられる。
これらの中でも特に液状の末端に水酸基を有する水素化ポリブタジエンであるGI−2000、GI−3000が好ましく用いられる。
【0034】
更に前記水素化ブタジエン系重合体(A)の配合量は、熱可塑性樹脂組成物全量に対して2重量%から10重量%であることが好ましい。特に好ましい配合量は、2重量%から5重量%である。
【0035】
(B)(A)以外の熱可塑性重合体
(A)以外の熱可塑性重合体(B)としては、例えば熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー等が挙げられる。これらは単独で、または複数を組み合せて用いることができる。
【0036】
前記熱可塑性樹脂としては、例えばポリスチレン、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、ナイロン、スチレン−ブタジエンゴム等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独または複数種を組合せて用いることができる。本発明で用いる熱可塑性樹脂は特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル系樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体等のスチレン系樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂、ポリアミド系樹脂等が挙げられる。これらは単独で、または複数を組み合せて用いることができる。
【0037】
前記熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系エラストマー(TPS)、オレフィン系エラストマー(TPO)、ポリウレタン系エラストマー(TPU)、塩ビ系エラストマー(TPVC)、ウレタン系エラストマー(PU)、ポリエステル系エラストマー(TPEE)およびアミド系(TPAE)等が挙げられる。
【0038】
これらの中でも特に、熱可塑性エラストマーが好ましく用いられる。使用される熱可塑性エラストマーは、成形品が特に求められる機能によって適宜変更することができる。例えば、機械的特性、耐摩耗性が求められる成形品においては、ポリウレタン系エラストマーが好ましく用いられる。このようなポリウレタンエラストマーとしては、登録商標「エラストラン」(BASF社製)が好ましく用いられる。登録商標「エラストラン」は、ポリウレタン系エラストマーの中でも特に耐摩耗性に優れることから、これを配合した熱可塑性樹脂組成物およびマスターバッチを用いて成形した成形品は優れた耐摩耗性を有し、また引き裂き強度、引っ張り強度にも優れ、更に低温下および高温下においてもその特性変化が少ないという効果を奏する。
また、例えば機械的特性や耐候性が求められる成形品においては、ポリエステル系エラストマーが好ましく用いられる。このようなポリエステル系エラストマーとしては、登録商標「プリマロイ」 Aシリーズ(三菱化学(株)製)が好ましく用いられる。
【0039】
これらの熱可塑性エラストマーは、単独で、または複数を組み合わせて用いることができる。
【0040】
(C)発泡剤
発泡剤(C)としては、例えば無機発泡剤または有機発泡剤を用いることができる。このような発泡剤としては、例えば重炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、アゾジカルボンアミド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、ジニトロソテレフタルアミド、アゾビスイソブチロニトリル、アゾジカルボン酸バリウム、トルエンスルホニルヒドラジドなどのスルホニルヒドラジド類等が挙げられる。
前記発泡剤(C)の発泡(膨張)開始温度は180℃以上であることが好ましい。更に好ましい発泡(膨張)開始温度は200℃から250℃である。
前記発泡剤(C)の配合量は、熱可塑性樹脂組成物全量に対して0.1重量%から10重量%であることが望ましい。なお当該発泡剤(C)の配合量は、成形品の用途によって適宜変更することができる。
【0041】
また前記発泡剤(C)として、熱膨張性マイクロカプセル型発泡剤を用いることが好ましい。
この熱膨張性マイクロカプセル型発泡剤とは、揮発性の液体膨張剤を熱可塑性樹脂からなる外壁面で包み込んだものであり、これを加熱すると、熱可塑性樹脂からなる外壁面が軟化すると共に内部の液体膨張剤は揮発し、カプセルが膨張・発泡する仕組みとなる。この熱膨張性マイクロカプセル型発泡剤は、加熱により均一に膨張し、均質な発泡体を成形することができ、効率的に発泡体の計量化を図ることができる。
このような熱膨張性マイクロカプセル型発泡剤としては、例えばEPD−03(永和化成工業(株)製)が挙げられる。
前記熱膨張性マイクロカプセル発泡剤の粒径は、10μmから100μmであることが好ましく、更に好ましい粒径は20μmから50μmである。
【0042】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、熱可塑性以外の樹脂、エラストマーおよびゴム、無機充填剤、着色剤、酸化防止剤、加工助剤、難燃剤、老化防止剤、架橋剤等の添加剤を配合しても良い。
【0043】
<熱可塑性樹脂組成物>
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、(A)数平均分子量が2,000から3,500の水素化ブタジエン系重合体と、(B)(A)成分以外の熱可塑性重合体とを含む原料を混合してなる。また成形する成形品を軽量化したい場合には、発泡剤(C)を更に原料に含めても良い。
熱可塑性樹脂組成物の調製は、例えば前記水素化ブタジエン系重合体(A)を180℃から200℃に加熱溶融した上で前記原料と混合することにより行われる。このように前記水素化ブタジエン系重合体(A)を一定温度に加熱して混合しない場合、前記水素化ブタジエン系重合体(A)と他の原料とが上手く混合せず、作業効率が下がる虞がある。
また前記原料の混合にあたっては、混練機、ロール、ミキサーまたは押出機等を用いて行うことができる。前記混合時における前記原料の温度は180℃から200℃に保つことが好ましい。
【0044】
熱可塑性樹脂組成物の調製にあたっては、前記発泡剤(C)を原料に含む場合にも全ての原料を混練機にて混合することにより調製しても良い。但しこの場合、原料の温度と前記発泡剤(C)の発泡開始温度とに注意する必要がある。
また前記発泡剤(C)を原料に混合する場合、これ以外の原料を混練機にて混合した後に、ロールを用いて前記発泡剤(C)を混練して調製しても良い。
【0045】
上記のような方法にて前記原料を混合することにより、その詳細なメカニズムは不明であるが、前記水素化ブタジエン系重合体(A)と前記熱可塑性重合体(B)とが、前記熱可塑性重合体(B)が前記水素化ブタジエン系重合体(A)を被覆するように結合するものと推測される。これにより、前記原料を効率よく混合することができ、その作業性を向上することができる。
【0046】
<マスターバッチ>
本実施形態のマスターバッジは、(A)数平均分子量が2,000から3,500の水素化ブタジエン系重合体と、(B)(A)成分以外の熱可塑性重合体とを含むマスターバッジ原料を混合してなる。また成形する成形品を軽量化したい場合には、発泡剤(C)を更に原料に含めても良い。
マスターバッチは、例えば前記水素化ブタジエン系重合体(A)を180℃から200℃に加熱溶融した上で前記マスターバッチ原料と混合し、混合したものを冷却してペレット、顆粒、粒子、チップ状、棒状、箔片、シート状にすることにより製造される。
前記マスターバッチ原料の混合にあたっては、混練機、ロール、ミキサーまたは押出機等を用いることができる。また混合時の前記マスターバッチ原料の温度は180℃から200℃に保つことが好ましい。
【0047】
このような方法にて前記マスターバッチ原料を混合することにより、前記マスターバッチ原料を効率よく混合することができ、その作業性を向上することができる。特に一旦冷却し固形化されたマスターバッチにおいては、前記熱可塑性重合体(B)が、より前記水素化ブタジエン系重合体(A)を被覆するように結合し易くなるものと推測され、成形品の成形時の加工性および作業の効率性をより向上することができる。
【0048】
前記マスターバッチの製造においては、前記発泡剤(C)をマスターバッジ原料に含む場合にも全てのマスターバッチ原料を纏めて混合しても良い。但しこの場合、マスターバッジ原料の温度と前記発泡剤(C)の発泡開始温度とに注意する必要がある。また前記発泡剤(C)をマスターバッジ原料に混合する場合、前記発泡剤(C)以外のマスターバッジ原料を混合した後に、ロールを用いて前記発泡剤(C)を混練して調製しても良い。
【0049】
<成形品>
成形品は熱可塑性樹脂組成物または前記マスターバッチを用いて成形される。
【0050】
先ず、前記熱可塑性樹脂組成物を用いて成形品を成形する場合、前記熱可塑性樹脂組成物を調製した後、これを射出成形、プレス成形、シート成形、押出成形、ブロー成形、回転成形、スラッシュ成形、パウダースラッシュ成形、ディッピング成形等の成形手段を用いて成形品とすることができる。
例えば、調製した前記熱可塑性樹脂組成物を所定の金型内に注入し、これを冷却させることにより成形品を得ることができる。なお、前記原料に発泡剤(C)を混合する場合には、例えば調製した前記熱可塑性樹脂組成物を所定の金型内に注入し、これを加熱することにより前記発泡剤(C)を発泡させて、所望の成形品(発泡体)体を得ることができる。
【0051】
またこの方法以外にも、例えば調製した前記熱可塑性樹脂組成物を押出機を用いて所望の形状に成形する方法や、前記原料に発泡剤(C)を混合する場合には、押出機により所望の形状となったものを加熱オーブンを用いて加熱することにより前記発泡剤(C)を発泡させて、所望の成形品(発泡体)を得ることができる。
【0052】
次に、前記マスターバッチを用いて成形品を成形する場合、これを射出成形、プレス成形、シート成形、押出成形、ブロー成形、回転成形、スラッシュ成形、パウダースラッシュ成形、ディッピング成形等の成形手段を用いて成形品とすることができる。なお、発泡体である成形品を製造する場合であって、前記マスターバッチに前記発泡剤(C)が含まれない場合には、当該マスターバッチと前記発泡剤(C)とを混合した後、上記に挙げた成形手段を用いて成形品(発泡体)を得る。
【0053】
また成形品は200℃以上の温度下で成形されることが好ましい。このような条件にて成形品を成形することにより、成形品の表面に適度に粘着性成分が浮き出易くなり適度な粘着性と良好な湿潤滑り抵抗を発揮することができる。
なお、発泡剤(C)を用いて成形品を成形する場合、混合する発泡剤(C)の発泡開始温度以上の温度にて加熱する。この加熱温度と加熱する時間は、前記発泡剤(C)の種類および配合量により調整することができる。
【0054】
また特に前記マスターバッチをペレット状とし、これを200℃以上、好ましくは220℃から240℃の温度条件下で射出成形により成形された成形品は、前記水素化ブタジエン系重合体(A)由来の粘着性成分が成形品の表面により適度に浮き出るため、特に良好な粘着性、湿潤滑り抵抗、耐摩耗性および耐衝撃性を発揮し得る。
【0055】
このように成形された成形品は、自動車用品、工業部品、スポーツ用品、および靴底等、表面の適度な粘着性、良好な湿潤滑り抵抗、耐摩耗性および耐衝撃性が求められる幅広い部材および製品に好適に使用することができる。
即ち、本実施形態の成形品は、前記水素化ブタジエン系重合体(A)の数平均分子量が2,000から3,500の範囲にあり、また一定の温度条件下で原料またはマスターバッジ原料を混合することにより、当該水素化ブタジエン系重合体(A)由来の粘着性成分が成形品の表面により適度に浮き出やすくなる。そのため、例えば当該成形品を例えばテニスラケットのグリップテープ、ゴルフクラブのラバーグリップに使用した場合、試合等の途中で汗によりグリップが濡れたとしても、当該成形品が持つ良好な湿潤滑り抵抗により、このような環境下でもグリップが滑り難いという効果を発揮し得る。また特に発泡剤(C)を用いて成形された成形品は上記性能に加え計量化を図ることができ、例えばこのような成形品を靴底に使用することにより、滑り難く、摩耗に強く、軽い靴を提供することができる。このように、本実施形態の成形品は様々な用途に使用することができる。
【0056】
また前記発泡剤(C)を用いて成形された成形品(発泡体)は、当該発泡剤(C)の発泡によってその表面に適度な凹凸を有している。この凸凹は、前記成形品(発泡体)表面が物体や人体に接した際にあたかも複数の小さな吸盤のような働きをするものと推測される。特にこの吸盤のような働き、即ち湿潤滑り抵抗は前記成形品(発泡体)の表面が濡れている場合により発揮し得るものと考えられる。
【実施例】
【0057】
原料としてGI−2000(日本曹達(株)製 水素化ポリブタジエン重合体) 3重量%を180℃に加熱し、これとポリウレタン系熱可塑性エラストマー 93重量%とブチレンゴム 3重量%とを混練機で混合し、熱可塑性樹脂組成物を得た。なお、混合時の上記原料の温度を180℃以上とするように混練機内の温度を調整した。
【0058】
次いで、上記熱可塑性樹脂組成物を、金型(2mm×70mm×150mmの平板)を用い、樹脂温度180℃から200℃、金型温度70℃から90℃、射出速度13秒、ピーク圧85MPa、保圧50MPaで射出成形して成形品を得た。
この成形品を4時間乾燥させた後に縦4cm×横4cmにカットし、これを縦4cm×横4cm、重さ88gのアルミニウムの片面に貼り付けて試験片を作成した。
縦10cm×横10cmの人工皮革(商品名:サプラーレ、出光興産(株)製)を用意し、前記成形品が下面となるように前記試験片をこの人工皮革上に載置した。そして、以下の3つの条件下において、JIS規格に準じて試験片を7cm水平に引っ張る動作を3回繰り返し、各回の最大値(但し引っ張り始めを除く)を平均化して摩擦力を算出した。
即ち、図1に示すように人工皮革30上に、貼り付けた成形品100が下面となるようにアルミニウム20を載置した。ワイヤー42をアルミニウム20に取り付けた後、滑車44を介してアルミニウム20を水平に引っ張り、ロードセル46を用いて摩擦力の変化を計測した。
その結果を表1に示す。
条件1:ドライ(成形品も人工皮革も乾いている)
条件2:ウェット(成形品は乾いているが、人工皮革は濡らしている)
条件3:水滴(成形品の表面に霧吹きで細かな水滴を付けているが、人工皮革は乾いている)
【0059】
【表1】
【0060】
このように本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いて成形された成形品は、その原料を効率よく混合することができその作業性を向上できると共に、成形した成形品の表面に適度な粘着性、良好な湿潤滑り抵抗を発揮することができる。特に成形品の表面またはこれが接するものが濡れている場合には非常に良好な、乾いている場合よりも優れた滑り抵抗を発揮することができる。

図1