【解決手段】 ヘミセルロース含有率が2〜10質量%である化学パルプ、好ましくはヘミセルロース含有率が2〜10質量%である溶解クラフトパルプを含有させることにより、柔らかく手触り感に優れ、しかも水分散性に優れる衛生用紙が得られる。
ヘミセルロース含有率が2〜10質量%である化学パルプの含有率が、全パルプの絶乾重量を基準として30〜100質量%である請求項1〜3のいずれかに記載の衛生用紙。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の衛生用紙は、ヘミセルロース含有率が2〜10質量%、好ましくは2.5〜6.5質量%である化学パルプを含有することが特徴である。ヘミセルロース含有率が10質量%を超える化学パルプを含有する衛生用紙では、柔軟性や手触り感が劣り、水分散性にも劣る。また、ヘミセルロース含有率が2質量%未満の化学パルプを含有する衛生用紙では強度の低下が顕著となる。
【0011】
ヘミセルロース含有率が2〜10質量%である化学パルプの製造方法としては、通常のクラフト蒸解で得られたクラフトパルプを強アルカリ処理や酵素処理を施すことによりヘミセルロース分を分解する方法、サルファイト法によって製造される溶解亜硫酸パルプ、水熱処理した木材チップをクラフト蒸解して得られる溶解クラフトパルプ等がある。溶解クラフトパルプは、クラフト蒸解を行なう前の木材チップに水熱処理を施すことによって、木材中のヘミセルロースを水溶性の糖にして遊離させることができるため、得られるパルプは、水熱処理を施さない通常のクラフトパルプ(KP)に比べて、ヘミセルロースの含有量が極めて低くなる。通常のクラフトパルプ(KP)のヘミセルロース含有量は、12〜30質量%程度であるが、本発明に用いる溶解クラフトパルプのヘミセルロース含有量は、用いる植物原料の種類にもよるが、2〜10質量%である。
【0012】
以下に、溶解クラフトパルプを製造する方法について説明する。
【0013】
溶解クラフトパルプ(DKP)とは、クラフト蒸解法(KP法)によって製造される溶解パルプであり、その原料は木材チップである。本発明においては、針葉樹材の木材チップを含むことが好ましく、そのサイズや樹種は特に制限されず、単一種類の木材のチップでも2種以上の木材が混合されたチップでもよい。本発明においては、比較的、蒸解や漂白が難しいとされる針葉樹材の樹種であっても、高品質な溶解パルプを効率良く製造することができる。本発明において使用される針葉樹材のチップとしては、例えば、カラマツ属やマツ属の木材チップを好適に使用することができる。カラマツ属に関しては、例えば、Larix(以下、L.と略す)leptolepis(カラマツ)、L. laricina(タマラック)、L. occidentalis(セイブカラマツ)、L. decidua(ヨーロッパカラマツ)、L. gmelinii(グイマツ)などが挙げられる。また、カラマツ属以外の針葉樹としては、例えば、マツ属に関しては、Pinus radiata(ラジアータマツ)など、トガサワラ属に関しては、Pseudotuga(以下、P.と略す)menziesii(ダクラスファー)、P. japonica(トガサワラ)など、スギ属に関しては、Cryptomeria japonicaなどを挙げることができる。
【0014】
本発明において広葉樹材の木材チップを原料として使用することもできる。広葉樹材の木材チップとしては、例えば、ユーカリ属木材チップを好適に使用することができる。ユーカリ属に関しては、Eucalyptus(以下、E.と略す) calophylla、E.citriodora、E.diversicolor、E.globulus、E.grandis、E.gummifera、E.marginata、E.nesophila、E.nitens、E.amygdalina、E.camaldulensis、E.delegatensis、E.gigantea、E.muelleriana、E.obliqua、E.regnans、E.sieberiana、E.viminalis、E.camaldulensis、E.marginataなどを挙げることができる。
【0015】
水熱処理工程
本発明ではクラフト蒸解を行う前の前処理として、チップに対して水熱処理を行って、木材チップ中のヘミセルロース分を水溶性の糖に分解して、除去する。前処理としての水熱処理(前加水分解)は、木材チップを高温の水で処理することによって実施される。添加する水は、熱水でも水蒸気の状態でもよい。加水分解の進行によって有機酸等が生成するので、処理液のpHは2〜5となるのが一般的である。
【0016】
水熱処理は、150〜180℃の温度範囲で行うことが好ましい。温度が150℃未満であれば、ヘミセルロースの除去が不十分となり、180℃を超えると加水分解が過剰となりα−セルロース分も低下してしまう。処理時間は特に制限されないが、15〜400分が好ましく、20〜250分がより好ましく、25〜150分がさらに好ましい。処理時間が短すぎると、ヘミセルロースの除去が不十分となり、ヘミセルロースを除去したことによる脱リグニン性の向上効果も少なくなる。一方、処理時間が長すぎると、加水分解が過剰となりα−セルロース分が減少してパルプ収率の低下を招くとともに、リグニンの縮合により、後に続くクラフト蒸解工程における蒸解性の悪化を招いてしまう。
【0017】
また、本発明における水熱処理は、Pファクター(Pf)を指標として、処理温度及び処理時間を設定することができる。Pファクターとは、前加水分解処理で反応系に与えられた熱の総量を表す目安であり、本発明では下記式によって表わされ、チップと水が混ざった時点から蒸解終了時点まで時間積分することで算出する。
【0018】
Pf=∫ln
−1(40.48−15106/T)dt
[式中、Tはある時点の絶対温度を表す]
本発明における水熱処理は、Pファクター(Pf)が50〜900の範囲で行うことが望ましく、150〜900が好ましく、500〜800がさらに好ましい。Pfが50未満であれば、ヘミセルロースの除去が不十分となり、ヘミセルロースを除去したことによる脱リグニン性の向上効果も少なくなり、後工程のクラフト蒸解後のパルプのヘミセルロースの含有率が10質量%を超えてしまう。また、Pfが900を超えると、加水分解が過剰となりα−セルロース分が減少してパルプ収率の低下を招くとともに、リグニンの縮合により、後に続くクラフト蒸解工程における蒸解性の悪化を招いてしまう。
【0019】
水熱処理工程は、木材チップと水を耐圧性容器(前加水分解釜)に入れて行うことができるが、容器の形状や大きさは特に制限されない。
【0020】
水熱処理釜(前加水分解釜)に木材チップと水を供給する際の比率は1〜2.3L/kgとすることが好ましい。前加水分解釜に供給する木材チップと水の比率は動的液比とも呼ばれ、木材チップ1kgあたりの水の量として示される。動的液比が1.0L/kg未満であると、木材チップに対して水が少なすぎるために加水分解が不十分となり、液比が2.3L/kgを超えると前加水分解釜の頂部において気相部が十分に確保できないので好ましくない。なお、水には木材チップと共に供給する水だけではなく、木材チップに含まれる水分、ドレン水等も含まれる。
【0021】
また、前加水分解釜内において木材チップと水の液比は、例えば、1.0〜5.0L/kgとすることができ、1.5〜4.5L/kgが好ましく、2.0〜4.0L/kgがさらに好ましい。液比が1.0L/kg未満であると、木材チップに対して水が少なすぎるために加水分解が不十分となり、液比が5.0L/kgを超えると容器の大きさが過大となるので好ましくない。また、必要に応じて、少量の鉱酸を添加してもよい。
【0022】
チップの洗浄・回収工程
次いで、前加水分解処理後の木材チップは、前加水分解液を除去し、チップを十分に水で洗浄して回収する。不十分な洗浄では、後続の蒸解工程において悪影響が生じる場合がある。
【0023】
加水分解液の洗浄、除去は、一般的な固液分離装置などを用いることによって行うことができる。例えば、前加水分解に用いる容器に抽出スクリーンや濾布などの固液分離装置を設け、容器下部から洗浄水を導入してスクリーンから抽出して向流洗浄することができる。
【0024】
クラフト蒸解工程
洗浄後のチップは、蒸解液と共に蒸解釜へ投入され、クラフト蒸解に供する。また、MCC、EMCC、ITC、Lo−solidなどの修正クラフト法の蒸解に供しても良い。また、1ベッセル液相型、1ベッセル気相/液相型、2ベッセル液相/気相型、2ベッセル液相型などの蒸解型式なども特に限定はない。すなわち、本願のアルカリ性水溶液を含浸し、これを保持する工程は、従来の蒸解液の浸透処理を目的とした装置や部位とは別個に設置してもよい。好ましくは、蒸解を終えた未晒パルプは蒸解液を抽出後、ディフュージョンウォッシャーなどの洗浄装置で洗浄する。洗浄後の未晒パルプのカッパー価は、7〜15にすることが好ましく、9〜13としてもよい。
【0025】
クラフト蒸解工程は、前加水分解処理した木材チップをクラフト蒸解液とともに耐圧性容器に入れて行うことができるが、容器の形状や大きさは特に制限されない。木材チップと薬液の液比は、例えば、1.0〜5.0L/kgとすることができ、1.5〜4.5L/kgが好ましく、2.0〜4.0L/kgがさらに好ましい。
【0026】
また、本発明においては、絶乾チップ当たり0.01〜1.5質量%のキノン化合物を含むアルカリ性蒸解液を蒸解釜に添加してもよい。キノン化合物の添加量が0.01質量%未満であると添加量が少なすぎて蒸解後のパルプのカッパー価が低減されず、カッパー価とパルプ収率の関係が改善されない。さらに、粕の低減、粘度の低下の抑制も不十分である。また、キノン化合物の添加量が1.5質量%を超えてもさらなる蒸解後のパルプのカッパー価の低減、及びカッパー価とパルプ収率の関係の改善は認められない。
【0027】
使用されるキノン化合物はいわゆる公知の蒸解助剤としてのキノン化合物、ヒドロキノン化合物又はこれらの前駆体であり、これらから選ばれた少なくとも1種の化合物を使用することができる。これらの化合物としては、例えば、アントラキノン、ジヒドロアントラキノン(例えば、1,4−ジヒドロアントラキノン)、テトラヒドロアントラキノン(例えば、1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノン、1,2,3,4−テトラヒドロアントラキノン)、メチルアントラキノン(例えば、1−メチルアントラキノン、2−メチルアントラキノン)、メチルジヒドロアントラキノン(例えば、2−メチル−1,4−ジヒドロアントラキノン)、メチルテトラヒドロアントラキノン(例えば、1−メチル−1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノン、2−メチル−1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノン)等のキノン化合物であり、アントラヒドロキノン(一般に、9,10−ジヒドロキシアントラセン)、メチルアントラヒドロキノン(例えば、2−メチルアントラヒドロキノン)、ジヒドロアントラヒドロアントラキノン(例えば、1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシアントラセン)又はそのアルカリ金属塩等(例えば、アントラヒドロキノンのジナトリウム塩、1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシアントラセンのジナトリウム塩)等のヒドロキノン化合物であり、アントロン、アントラノール、メチルアントロン、メチルアントラノール等の前駆体が挙げられる。これら前駆体は蒸解条件下ではキノン化合物又はヒドロキノン化合物に変換する可能性を有している。
【0028】
蒸解液は、木材チップが針葉樹の場合、対絶乾木材チップ重量当たりの活性アルカリ添加率(AA)を16〜22質量%とすることが好ましい。活性アルカリ添加率を16質量%未満であるとリグニンやヘミルロースの除去が不十分となり、22質量%を超えると収率の低下や品質の低下が起こる。ここで活性アルカリ添加率とは、NaOHとNa
2Sの合計の添加率をNa
2Oの添加率として換算したもので、NaOHには0.775を、Na
2Sには0.795を乗じることでNa
2Oの添加率に換算できる。また、硫化度は20〜35%の範囲が好ましい。硫化度20%未満の領域においては、脱リグニン性の低下、パルプ粘度の低下、粕率の増加を招く。
【0029】
クラフト蒸解は、120〜180℃の温度範囲で行うことが好ましく、140〜160℃がより好ましい。温度が低すぎると脱リグニン(カッパー価の低下)が不十分である一方、温度が高すぎるとセルロースの重合度(粘度)が低下する。また、本発明における蒸解時間とは、蒸解温度が最高温度に達してから温度が下降し始めるまでの時間であるが、蒸解時間は、60分以上600分以下が好ましく、120分以上360分以下がさらに好ましい。蒸解時間が60分未満ではパルプ化が進行せず、600分を超えるとパルプ生産効率が悪化するために好ましくない。
【0030】
また、本発明におけるクラフト蒸解は、Hファクター(Hf)を指標として、処理温度及び処理時間を設定することができる。Hファクターとは、蒸解過程で反応系に与えられた熱の総量を表す目安であり、下記の式によって表わされる。Hファクターは、チップと水が混ざった時点から蒸解終了時点まで時間積分することで算出する。
【0031】
Hf=∫exp(43.20−16113/T)dt
[式中、Tはある時点の絶対温度を表す]
本発明においては、蒸解後得られた未漂白(未晒)パルプは、必要に応じて、種々の処理に供することができる。例えば、クラフト蒸解後に得られた未漂白パルプに対して、漂白処理を行うことができる。
【0032】
一つの態様において、クラフト蒸解で得られたパルプに酸素脱リグニン処理を行うことができる。本発明に使用される酸素脱リグニンは、公知の中濃度法あるいは高濃度法がそのまま適用できる。中濃度法の場合はパルプ濃度が8〜15質量%、高濃度法の場合は20〜35質量%で行われることが好ましい。酸素脱リグニンにおけるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用することができ、酸素ガスとしては、深冷分離法からの酸素、PSA(Pressure Swing Adsorption)からの酸素、VSA(Vacuum Swing Adsorption)からの酸素等が使用できる。
【0033】
酸素脱リグニン処理の反応条件は、特に限定はないが、酸素圧は3〜9kg/cm
2、より好ましくは4〜7kg/cm
2、アルカリ添加率は0.5〜4質量%、温度は80〜140℃、処理時間は20〜180分、この他の条件は公知のものが適用できる。なお、本発明において、酸素脱リグニン処理は、複数回行ってもよい。
【0034】
酸素脱リグニン処理が施されたパルプは、例えば、次いで洗浄工程へ送られ、洗浄後、多段漂白工程へ送られ、多段漂白処理を行うことができる。本発明の多段漂白処理は、特に限定されるものではないが、酸(A)、二酸化塩素(D)、アルカリ(E)、酸素(O)、過酸化水素(P)、オゾン(Z)、過酸等の公知の漂白剤と漂白助剤を組み合わせるのが好適である。例えば、多段漂白処理の初段は二酸化塩素漂白段(D)やオゾン漂白段(Z)を用い、二段目にはアルカリ抽出段(E)や過酸化水素段(P)、三段目以降には、二酸化塩素や過酸化水素を用いた漂白シーケンスが好適に用いられる。三段目以降の段数も特に限定されるわけではないが、エネルギー効率、生産性等を考慮すると、合計で三段あるいは四段で終了するのが好適である。また、多段漂白処理中にエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)等によるキレート剤処理段を挿入してもよい。
【0035】
本発明において、全パルプ分に対するヘミセルロース含有率が2〜10質量%である化学パルプの配合率は特に限定は無いが、配合率が高いほど、柔軟で、水分散性に優れる衛生用紙が得られる。その観点から、全パルプの絶乾重量に対して5質量%以上が好ましく、30〜100質量%がより好ましく、60〜100質量%が更に好ましい。配合率が5質量%未満では柔らかさ、手触り感に変化が見られず、水分散性を向上させることができない。
【0036】
衛生用紙は1層若しくは複数層にて構成されるが、1層若しくは複数層をヘミセルロース含有率が2〜10質量%である化学パルプを単独で抄紙してもよく、また本発明の範囲内でヘミセルロース含有率が異なるパルプを混合して抄紙してもよく、更にはヘミセルロース含有率が2〜10質量%である化学パルプに従来のスラッシュパルプ、ドライパルプ、脱墨パルプ(DIP)を混合して抄紙してもよい。
【0037】
本発明の衛生用紙は、ヘミセルロース含有率が2〜10質量%である化学パルプ以外のパルプを含有してもよい。ヘミセルロース含有率が2〜10質量%である化学パルプ以外のパルプとして、ヘミセルロース含有率が10質量%を超える溶解クラフトパルプ、クラフトパルプ(針葉樹の晒クラフトパルプ(NBKP)または未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹の晒クラフトパルプ(LBKP))または未晒クラフトパルプ(LUKP)等)、機械パルプ(グラウンドウッドパルプ(GP)、リファイナーメカニカルパルプ(RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等)、脱墨パルプ(DIP)などのパルプを任意の割合で混合して使用してもよい。
【0038】
複数層からなる衛生用紙を2枚重ね合わせて積層する場合、ヘミセルロース含有率が2〜10質量%である化学パルプを含む層が外側になるように重ね合わせると、手触り感が一層向上する。また、ヘミセルロース含有率が2〜10質量%である化学パルプを含む層がヤンキードライヤーに圧接して乾燥され、この面が2枚重ね合わせした衛生用紙の外側になるように配置すると、より一層手触り感が向上する。
【0039】
本発明の衛生用紙は、公知の方法および装置により抄紙することができる。衛生用紙の抄紙機としては、例えば、円網、短網、ツインワイヤーなどのヤンキーマシンが使用できる。ヤンキーマシンとは、ヤンキードライヤーを有する抄紙機を意味し、ティシュペーパーなどの衛生用紙の製造に一般に用いられる。一般の印刷用紙は金属製の円筒が多数連なった多筒ドライヤーによって乾燥されるのに対し、衛生用紙の製造に用いられるヤンキードライヤーは、比較的直径の大きい円筒によって紙を乾燥させる。衛生用紙へのクレープの付与も一般的な方法により行うことができ、例えば、ヤンキードライヤー上でウェットクレープ又はドライクレープを付けるか、若しくは、ウェットクレープを付けてさらにドライクレープを付けてもよい。また、本発明の衛生用紙は、用途に応じて適当な大きさに裁断してもよく、紙を複数枚重ねた多プライの衛生用紙とすることもできる。本発明の衛生用紙にミシン目などの加工を加えることも自由である。好ましい態様において、2〜3枚重ねて衛生用紙をボックスに収納してボックス入りの衛生用紙とすることができる。
【0040】
抄紙方法としては、例えば、全パルプを混合して均一な1つの層として抄紙する方法、及び、いわゆる積層タイプの衛生用紙である2層以上を重ね合わせて1枚とする抄紙方法のいずれも適用することができる。なお、多層抄きによって衛生用紙を製造する場合、地合の観点から、2層の衛生用紙とすることが好ましい。3層以上を積層すると地合が悪くなって品質が低下する可能性がある。
【0041】
本発明の衛生用紙とは、衛生用途や生理用途に用いられる主に使い捨ての吸収性に優れた紙であり、例えば、トイレットペーパー、ティシュペーパー、紙タオル、ワッティング、ちり紙などを挙げることができる。一般にトイレットペーパーは、水への分散性が良好であり、ロール状に加工してあるものが多いが、本発明においては厚紙の芯を有するものであっても、芯が無く最後まで使いきれるもの(ノンコアロール)であってもよい。ティシュペーパーは、柔らかさや強度などの観点から多プライとされることが多く、厚紙などのボックスに入ったボックスティシュや、フィルムなどの容器に入ったポケットティシュなどが代表的である。一般にティシュペーパーはトイレットペーパーよりも耐水性が高い。また、紙タオルとしては、キッチンタオル、介護用タオル、ハンドタオル、テーブルナプキンなどが挙げられる。
【実施例】
【0042】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の%は特に断らない限り質量%を示す。
【0043】
以下の実施例及び比較例において調製したパルプを、ツインワイヤータイプの3層式のヤンキー抄紙機で抄紙した。クレープは、ドライクレープをドライヤー及び巻取りリールとの速度差をとることにより付与した。特に断らない限り、このティシュペーパー原紙のヤンキードライヤーと接触した面(YD面)が外側(使用者の手に触れる側)になるよう2枚重ねにし、この面が外側になるよう積層して、ヤンキードライヤーに接して乾燥された面をソフトカレンダー掛けした。
また、実施例および比較例において用いた評価法は下記の通りである。
・水分散性:JIS P 4501に従った。
・手触り感:パネラー10名により手の触感、及び肌触りの評価を行った。次の区分で表示した。
非常に良い;◎、良い;○、普通;△、悪い;×
・坪量の測定:JIS P 8124:1998(ISO 536:1995)に従った。
・ヘミセルロース量:NREL/TP510−42618に従って、測定した。
【0044】
<溶解クラフトパルプ1の調整>
ラジアータパインの木材チップを、篩い分け器(ジャイロシフター)を使用して篩い分けし、サイズが9.5〜25.4mmの木材チップを得た。
回転型オートクレーブを用い、この木材チップに液比3.2(L/kg)となるように水を加え、前加水分解温度170℃にて30分間、Pファクター=550で前加水分解を行った。
前加水分解終了後、チップと前加水分解液とを300メッシュ濾布で分離し、チップの15倍量の60℃温水で30秒間手もみ洗浄を行った。
続いて、再び回転型オートクレーブを用い、150℃、85分間、クラフト蒸解薬液の浸透を行った後、蒸解温度158℃で210分間、H−ファクター(Hf)=1500で蒸解を行った。薬液は、活性アルカリ添加率(AA)16.5%で、活性アルカリ105g/L(Na
2O換算値)、NaOH75.6g/L(Na
2O換算値)、Na
2S29.4g/L(Na
2O換算値)、硫化度28%の組成で、木材チップと蒸解薬液との液比は3.2(L/kg)とした。
蒸解終了後、得られた未漂白パルプについて酸素脱リグニン処理を行い、続いて、二酸化塩素処理(D
0)−アルカリ抽出/過酸化水素処理(Ep)−二酸化塩素処理(D
1)を行って漂白溶解クラフトパルプを得た。処理条件は以下の通りであり、薬品の添加量は対絶乾パルプ重量に対するものである。得られた漂白溶解クラフトパルプのヘミセルロース量は3.0%であった。
・酸素脱リグニン処理:パルプ濃度10%、酸素添加量3.5%、水酸化ナトリウム添加量3.0%、酸化マグネシウム添加量0.04%、温度98℃、60分間
・二酸化塩素処理(D
0):パルプ濃度10%、二酸化塩素添加量1.2%、温度55℃、60分間
・アルカリ抽出/過酸化水素処理(Ep):パルプ濃度10%、水酸化ナトリウム添加量0.93%、過酸化水素添加量1.03%、温度70℃、90分間
・二酸化塩素処理(D
1):パルプ濃度10%、二酸化塩素添加量0.66%、温度75℃、240分間
【0045】
<溶解クラフトパルプ2の調整>
前加水分解温度168℃にて3秒間、Pファクター=150で前加水分解を行った以外は、溶解クラフトパルプ1と同様にして漂白溶解クラフトパルプを製造した。得られた漂白溶解クラフトパルプのヘミセルロース量は6.1%であった。
<クラフトパルプ1の調整>
木材チップとして前加水分解処理を行わないものを使用した以外は、溶解クラフトパルプ1と同様にして漂白クラフトパルプを製造した。得られた漂白クラフトパルプのヘミセルロース量は13.9%であった。
【0046】
<クラフトパルプ2の調整>
市販の広葉樹クラフトパルプを使用した。ヘミセルロース量は18.5%であった。
【0047】
[実施例1]
ツインワイヤータイプの3層式のヤンキー抄紙機で抄紙した。3層のうち上層及び下層の原料については、溶解クラフトパルプ1を使用した。中層の原料については、クラフトパルプ1を使用した。クレープは、ドライクレープをドライヤー及び巻取りリールとの速度差をとることにより付与した。このティシュペーパー原紙のヤンキードライヤーと接触した面(YD面)が外側(使用者の手に触れる側)になるよう2枚重ねにし、この面が外側になるよう積層して、ヤンキードライヤーに接して乾燥された面をソフトカレンダー掛けし、ティシュペーパーを製造した。
【0048】
[実施例2]
上層及び下層の原料については、溶解クラフトパルプ2を使用した以外は、実施例1と同様にしてティシュペーパーを製造した。
【0049】
[比較例1]
上層及び下層の原料については、クラフトパルプ1を使用した以外は、実施例1と同様にしてティシュペーパーを製造した。
[比較例2]
上層及び下層の原料については、クラフトパルプ2を使用した以外は、実施例1と同様にしてティシュペーパーを製造した。
【0050】
【表1】
【0051】
表1に示されるように、実施例1、2のティシュペーパーは手触り感、水分散性のいずれもが良好であった。一方、比較例1のティシュペーパーは手触り感、水分散性のいずれも劣っており、比較例2のティシュペーパーは手触り感は実施例2と同等であるが、水分散性のいずれも劣っていた。すなわち、通常広葉樹に比べて手触り感が劣る針葉樹を原料としても、本発明の実施例においては手触り感に優れるティシュペーパーが得られる。