【解決手段】アクチュエーター100は、金属材料で構成された導電性膜13,14と、前記導電性膜13,14上に設けられ、酸化還元反応によって分子構造が変形する刺激応答性化合物を含む材料で構成された変形材料層15とを有し、前記金属材料と前記刺激応答性化合物とが共有結合で結合していることを特徴とする。前記導電性膜13,14は、Auで構成されたものであるのが好ましい。
前記金属材料は、末端にビニル基を有するアルカンチオール構造を有する化合物による表面処理によって、前記刺激応答性化合物と結合している請求項1または2に記載のアクチュエーター。
前記刺激応答性化合物として、ビニル基と(メタ)アクリロイル基とのうちの少なくとも一方の官能基を有する化合物を用いる請求項11に記載のアクチュエーターの製造方法。
前記化学修飾工程では、前記金属材料に対し、末端にビニル基を有するアルカンチオール構造を有する化合物を用いた処理を施す請求項12に記載のアクチュエーターの製造方法。
前記共有結合形成工程において、前記刺激応答性化合物とともに、ポリシロキサン結合を有する化合物を、前記化学修飾が施された前記金属材料と反応させる請求項12または13に記載のアクチュエーターの製造方法。
前記ポリシロキサン結合を有する化合物として、メチルヒドロシロキサンとジメチルヒドロシロキサンとを構成成分として含むコポリマーを用いる請求項14ないし16のいずれか1項に記載のアクチュエーターの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、添付する図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細な説明をする。
【0043】
まず、本発明のアクチュエーターについて説明する。
《アクチュエーター》
ところで、近年、医療分野やマイクロマシン分野等において、小型のアクチュエーターの必要性が高まっている。
【0044】
このような小型のアクチュエーターは、小型であるとともに、低電圧で駆動することが求められている。このような低電圧化を実現するために種々の試みが行われている。
【0045】
しかしながら、従来のアクチュエーターでは、電圧の印加により変形する変形材料(刺激応答性化合物)と電極との密着性が不十分であり、アクチュエーターの変形に伴い、変形材料(刺激応答性化合物)と電極との間に剥離が生じる等の問題があった。このような問題は、アクチュエーターの変形量を大きくした場合により顕著に発生していた。
【0046】
このような問題を解決する目的で、本発明者は鋭意研究を行った結果、本発明に至った。
【0047】
すなわち、本発明のアクチュエーターは、金属材料で構成された導電性膜と、前記導電性膜上に設けられ、酸化還元反応によって分子構造が変形する刺激応答性化合物を含む材料(変形材料)で構成された変形材料層とを有し、前記金属材料と前記刺激応答性化合物とが共有結合で結合していることを特徴とする。このような構成により、変形材料(変形材料層)と電極(導電性膜)との密着性に優れ、耐久性に優れたアクチュエーターを提供することができる。なお、本発明において、「前記金属材料と前記刺激応答性化合物とが共有結合で結合している」ことに関しては、金属材料と刺激応答性化合物とが直接共有結合によって結合している場合に加え、金属材料と刺激応答性化合物との間に他の原子または原子団が介在しており、全体としてこれらが共有結合によって結合している場合をも含むものとする。言い換えると、共有結合以外の化学結合(例えば、水素結合を含む分子間力による結合、イオン結合等)を除外した場合であっても、金属材料と刺激応答性化合物との間に、少なくとも1個の他の原子が介在しているか否かにかかわらず、原子間に形成されたすくなくとも1つの共有結合によって金属材料と刺激応答性化合物とが結合していればよい。
【0048】
図1、
図2は、本発明のアクチュエーターの好適な実施形態を模式的に示す断面図、
図3は、刺激応答性化合物の一例についての、酸化還元反応前後の分子構造を説明するための図である。
【0049】
図1、
図2に示すように、本実施形態のアクチュエーター100は、第1の基材11と、第1の基材11の表面に設けられた第1の導電性膜(第1の電極)13と、第2の基材12と、第2の基材12の表面に設けられた第2の導電性膜(第2の電極)14と、第1の導電性膜13および第2の導電性膜14で挟持された変形材料層15とを有している。そして、駆動装置200は、アクチュエーター100と、直流の電源22と、アクチュエーター100への通電・切電を選択するスイッチ21とで構成されており、アクチュエーター100は、スイッチ21を介して、電源22に接続されている。
【0050】
図1に示す構成では、スイッチ21を介して、第1の導電性膜(第1の電極)13が正極となるように電源22に接続されており、第2の導電性膜(第2の電極)14が負極となるように電源22に接続されている。他方、
図2に示す構成では、スイッチ21を介して、第1の導電性膜(第1の電極)13が負極となるように電源22に接続されており、第2の導電性膜(第2の電極)14が正極となるように電源22に接続されている。
【0051】
以下、アクチュエーター100の構成について詳細に説明する。
≪基材(第1の基材、第2の基材)≫
第1の基材11は、第1の導電性膜13を保持する機能を有している。第2の基材12は、第2の導電性膜14を保持する機能を有している。第1の基材11、第2の基材12は、いずれも、可撓性を有するものである。
【0052】
このような基材(第1の基材11、第2の基材12)を有することにより、アクチュエーター100の耐荷重特性を特に優れたものとすることができ、アクチュエーター100に不本意な座屈が生じることを効果的に防止することができる。
【0053】
中でも、基材(第1の基材11、第2の基材12)がポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレートのうち少なくとも一方を含む材料で構成されたものである場合には、柔軟性を特に優れたものとし、変形量をより大きいものとすることができる。このような効果は、基材(第1の基材11、第2の基材12)がポリフッ化ビニリデンで構成されたものである場合により顕著に発揮される。
【0054】
また、基材(第1の基材11、第2の基材12)がエラストマーで構成されたものであると、アクチュエーター100が湾曲した状態から湾曲していない状態に移行する時間を効果的に短縮することができ、アクチュエーター100の動作性が特に優れたものとなる。
【0055】
また、基材(第1の基材11、第2の基材12)が液晶エラストマーで構成されたものである場合には、アクチュエーター100全体としての変形についての異方性を高めることができ、所望の方向への変形をより確実に実現することができる。
【0056】
また、基材(第1の基材11、第2の基材12)は、全体にわたって均一な組成を有するものであってもよいし、組成の異なる部位を有するものであってもよい。例えば、基材(第1の基材11、第2の基材12)は、異なる組成の層を複数有する積層体であってもよいし、傾斜的に組成が変化する傾斜材料で構成されたものであってもよい。
【0057】
本実施形態において、基材(第1の基材11、第2の基材12)は、シート状(膜状)をなすものである。これにより、アクチュエーター100の変形の異方性をより高いものとすることができる。
【0058】
基材(第1の基材11、第2の基材12)の厚さは、特に限定されないが、10μm以上500μm以下であるのが好ましい。これにより、アクチュエーター100をより低い電圧で駆動することができるものとしつつ、前述したような効果をより顕著に発揮させることができる。
【0059】
第1の基材11と第2の基材12とは、形状、厚さ、構成材料等の各種条件について、同一の条件のものであってもよいし、異なる条件のものであってもよい。
【0060】
≪導電性膜(第1の導電性膜、第2の導電性膜)≫
導電性膜(第1の導電性膜13、第2の導電性膜14)は、変形材料層15に電圧を印加する機能を有している。
【0061】
また、導電性膜(第1の導電性膜13、第2の導電性膜14)は、変形材料層15の変形に追従するために、湾曲性を備えている。
【0062】
導電性膜(第1の導電性膜13、第2の導電性膜14)は、金属材料で構成されたものである。金属材料は、一般に、導電性有機材料等に比べて、導電性に優れるとともに、耐久性に優れている。その一方で、アクチュエーターの製造時においては、後に詳述するような表面処理(化学修飾)により、刺激応答性化合物との間での強固な共有結合を容易かつ確実に形成することができる。
【0063】
導電性膜(第1の導電性膜13、第2の導電性膜14)を構成する金属材料としては、例えば、各種単体金属や、各種合金等を用いることができる。
【0064】
中でも、導電性膜(第1の導電性膜13、第2の導電性膜14)がAuで構成されたものである場合、導電性膜(第1の導電性膜13、第2の導電性膜14)の導電性、および、変形材料と導電性膜との密着性を、より高いレベルで両立することができる。また、Auは比較的化学的安定性に優れる材料であるため、アクチュエーターにおいて優れた導電性を長期間にわたって安定的に保持することができる一方で、アクチュエーターの製造時においては刺激応答性化合物との間に共有結合を形成するための、前処理としての化学修飾を好適に行うことができる材料である。したがって、アクチュエーターの信頼性、耐久性を特に優れたものとしつつ、アクチュエーターの生産性を特に優れたものとすることができる。
【0065】
導電性膜(第1の導電性膜13、第2の導電性膜14)を構成する金属材料は、化学修飾剤(表面処理剤)による化学修飾(表面処理)が施されたものであってもよい。これにより、変形材料と導電性膜との密着性を特に優れたものとし、アクチュエーター100の信頼性、耐久性を特に優れたものとすることができる。
【0066】
金属材料の表面処理(化学修飾)は、各種化学修飾剤(表面処理剤)により行うことができるが、末端にビニル基を有するアルカンチオール構造を有する化合物によるものであるのが好ましい。
【0067】
これにより、導電性膜の化学的安定性を特に優れたものとすることができ、アクチュエーター100の耐久性を特に優れたものとすることができる。特に、酸素や水に対する耐久性を特に優れたものとすることができ、アクチュエーター100の信頼性を特に優れたものとすることができる。また、アクチュエーター100の製造時においては、簡便、温和な条件(例えば、室温環境下で、化学修飾剤を含む液体を導電性膜に付与するという条件)で、高い反応性で金属材料と化学修飾剤とを反応させることができ、アクチュエーター100の生産性を特に優れたものとすることができる。
【0068】
また、導電性膜(第1の導電性膜13、第2の導電性膜14)は、全体にわたって均一な組成を有するものであってもよいし、組成の異なる部位を有するものであってもよい。例えば、導電性膜(第1の導電性膜13、第2の導電性膜14)は、異なる組成の層を複数有する積層体であってもよいし、傾斜的に組成が変化する傾斜材料で構成されたものであってもよい。
【0069】
導電性膜(第1の導電性膜13、第2の導電性膜14)の厚さは、特に限定されないが、10nm以上100nm以下であるのが好ましい。これにより、導電性膜(第1の導電性膜13、第2の導電性膜14)と変形材料層15との密着性、導電性膜(第1の導電性膜13、第2の導電性膜14)と基材(第1の基材11、第2の基材12)との密着性や、導電性膜(第1の導電性膜13、第2の導電性膜14)の導電性を十分に優れたものとしつつ、アクチュエーター100の柔軟性を特に優れたものとすることができる。
【0070】
第1の導電性膜13と第2の導電性膜14とは、厚さ、構成材料等の各種条件について、同一の条件のものであってもよいし、異なる条件のものであってもよい。
【0071】
導電性膜(第1の導電性膜13、第2の導電性膜14)を構成する金属材料のうち少なくとも一部は、変形材料層15を構成する刺激応答性化合物と共有結合により結合している。これにより、変形材料層15と導電性膜(第1の導電性膜13、第2の導電性膜14)との密着性に優れたものとすることができ、変形材料層15と導電性膜(第1の導電性膜13、第2の導電性膜14)との間での不本意な剥離等を防止することができ、アクチュエーター100全体としての耐久性を優れたものとすることができる。金属材料と刺激応答性化合物とを繋ぐ共有結合の形態については、後に詳述する。
【0072】
≪変形材料層≫
変形材料層15は、酸化還元反応により、分子構造が変わる刺激応答性化合物を含む変形材料で構成されたものである。
【0073】
変形材料層15は、例えば、固体状、ゲル状(半固体状)、液体状等、その形態はいかなるものであってもよいが、ゲル状(半固体状)をなすものが好ましい。これにより、変形材料の取り扱い性(取り扱いのし易さ)に優れるとともに、変形材料の適用範囲を広げることができる。また、柔軟に変形し、円滑に作動をするアクチュエーター100を提供することができる。
【0074】
<刺激応答性化合物>
刺激応答性化合物は、刺激によって、分子の立体構造を変形(変位)させる機能を有する化合物のことを指す。刺激応答性化合物は、アクチュエーターの駆動部を構成する化合物である。
【0075】
本発明において、刺激応答性化合物は、酸化還元反応により変形する変形部を有するものである。このような変形部を有することにより、酸化還元反応により、刺激応答性化合物の分子全体としての立体構造(コンフォメーション)が変化することとなる。その結果、電圧の印加により変形材料層全体を容易に変位させることができ、変形材料層の変位量(変形量)を印加する電圧の大きさにより容易に調整することができるものである。また、アクチュエーターの応答速度を優れたものとすることができ、変形の再現性にも優れている。また、アクチュエーターの軽量化を図ることができる。
【0076】
また、本発明において、刺激応答性化合物は、前述した導電性膜を構成する金属材料と共有結合を形成し得る反応基(反応部)を有するものであり、変形材料層中に含まれる刺激応答性化合物のうちの少なくとも一部は、導電性膜を構成する金属材料と共有結合により結合した状態で存在している。これにより、変形材料層と導電性膜との密着性に優れたものとすることができ、変形材料層と導電性膜との間での不本意な剥離等を防止することができ、アクチュエーター全体としての耐久性を優れたものとすることができる。
【0077】
なお、変形材料層15に含まれる刺激応答性化合物は、その少なくとも一部が、前記反応基で金属材料と反応(金属材料と刺激応答性化合物とが直接共有結合によって結合することに係る反応に加え、他の原子または原子団が介在した金属材料と刺激応答性化合物との共有結合によって結合することに係る反応を含む)していればよく、前記反応基が反応に寄与していない分子を含んでいてもよい。また、前記反応基は、導電性膜を構成する金属材料との間で共有結合を形成する反応に寄与するだけでなく、例えば、刺激応答性化合物同士(分子同士)が結合する反応(例えば、重合反応)に寄与するものであってもよい。このように、アクチュエーター100の変形材料層15中には、例えば、以下に述べるような分子の状態の刺激応答性化合物(前記反応基が反応していない状態の刺激応答性化合物)が含まれていてもよいし、これらの分子同士が反応した高分子が含まれていてもよい。本明細書では、これらを総称して、刺激応答性化合物という。
【0078】
以下の説明では、便宜上、刺激応答性化合物として、前記反応部が反応していない状態のものについて中心的に説明する。
【0079】
本発明において、刺激応答性化合物は、酸化還元反応により変形する変形部と、導電性膜を構成する金属材料との間で共有結合による結合を形成し得る反応基(反応部)とを有するものであれば、いかなるものであってもよいが、刺激応答性化合物としては、例えば、
図3に示す構成の化合物を好適に用いることができる。
図3中、○および□は官能基(原子団)を意味し、線は結合を意味する。
【0080】
図3に示す刺激応答性化合物は、1つの変形部と、2つの反応部とを有しており、変形部が、回転軸として機能する結合を有し、当該結合の一端に位置する第1の基(図中、A
1)と、結合の他端に位置する第2の基(図中、A
2)とを有するユニットAと、第1の基の第1の結合部位に配置された第1のユニットB(図中、B
1)と、第2の基の第2の結合部位に配置された第2のユニットB(図中、B
2)と、一方の反応部に連結する第1のユニットC(図中、C
1)と、他方の反応部に連結する第2のユニットC(図中、C
2)とを備えている。刺激応答性化合物がこのような構成を有することにより、アクチュエーター100は、より速くかつより円滑な変形(変位)が可能となり、さらに低電圧で駆動するものとなる。
【0081】
ユニットAは、回転軸として機能する結合を有しており、当該結合の両端にそれぞれ第1の基および第2の基が結合している。そして、当該結合を軸に回転可能となっている。このようなユニットを有することにより、刺激応答性化合物は、変形(変位)可能となっている。
【0082】
ユニットAとしては、例えば、2つの芳香環が結合した基を用いることができるが、中でも、下記式(1)、下記式(2)および下記式(3)からなる群から選択される1種の基であるのが好ましい。このような基をユニットAとして用いることにより、刺激応答性化合物は、より円滑な変形(変位)が可能となり、より低電圧で駆動するものとなる。
【0084】
第1のユニットBは、ユニットAの第1の基の第1の結合部位に結合している。また、第2のユニットBは、ユニットAの第2の基の第2の結合部位に結合している。
また、第1のユニットBおよび第2のユニットBは、ユニットB同士で還元反応によって結合を形成する基である。すなわち、第1のユニットBと第2のユニットBとは、
図3(b)に示すように、電子を受け取る(還元される)ことにより結合する。また、第1のユニットBと第2のユニットBとは、
図3(a)に示すように、電子を放出する(酸化される)ことで結合を解除する。このように、酸化還元反応により分子の立体構造を変化させることができる。このような酸化還元反応は、例えば、電圧を印加することにより、進行させることができ、電圧の印加を止めることで、酸化還元反応を止めることができる。
【0085】
ユニットB(第1のユニットBと第2のユニットB)としては、ユニットB同士(第1のユニットBと第2のユニットB)で還元反応によって結合を形成する基であれば、特に限定されないが、ユニットB(第1のユニットBと第2のユニットB)は、下記式(4)で表される基であるのが好ましい。これにより、反応条件を変更することで、第1のユニットBおよび第2のユニットB同士が、可逆的に結合を形成・切断することが容易となる。また、反応性が高いため、刺激応答性化合物は、より円滑で、かつ低電圧で変形が可能となる。
【0087】
ユニットCは、ユニットAおよびユニットBと、反応部とを繋ぐ機能を有するものである。
【0088】
本実施形態では、第1のユニットCは、ユニットAの第1の基の第3の結合部位に結合している。また、第2のユニットCは、ユニットAの第2の基の第4の結合部位に結合している。これにより、共有結合により結合された構造(例えば、金属材料等)と、ユニットAおよびユニットBとが、接近しすぎることによる立体障害によって、刺激応答性化合物の酸化還元反応が阻害されることをより効果的に防止することができる。その結果、刺激応答性化合物の応答速度を特に速いものとすることができ、また、アクチュエーターの駆動電圧をより低いものとすることが可能となる。
【0089】
また、第1のユニットCおよび第2のユニットCは、それぞれ、ユニットAが結合している箇所とは反対側の端部で、反応部と結合している。また、第1のユニットCおよび第2のユニットCは、それぞれ異なる反応部と結合している。
【0090】
ユニットC(第1のユニットCと第2のユニットC)としては、環構造を含むものが好ましい。これにより、刺激応答性化合物の化学的安定性をより優れたものとすることができる。
【0091】
環構造としては、例えば、芳香族性を有する環構造や、芳香族性を有しない脂環構造のものが挙げられる。また、炭化水素のみからなる環構造や、環を構成する元素が炭素だけでなく異原子を環内に含む複素環構造が挙げられる。また、単環構造、縮合環構造、架橋環構造、スピロ環構造、環集合構造等が挙げられる。このような、環構造としては、具体的には、シクロペンタン、シクロペンタン等のシクロパラフィン、シクロペンテン、シクロヘキセン等のシクロオレフィン、ベンゼン、チオフェン、ピロール、チアゾール、ピリジン、ピペリジン、テトラヒドロピラン、テトラヒドロチオピラン、ビフェニル、p−テルフェニル、2,2−ビチオフェン、アダマンタン、インデン、ナフタリン、テトラリン、インドール、キノリン等が挙げられる。
【0092】
これらの中でも特に、芳香族性を有する環構造を有するものが好ましく、ベンゼン、チオフェン、ピロール、チアゾール、ピリジンおよびピリジン等の単環式の芳香族性を有する環構造のものが好ましく、ベンゼンであるのがさらに好ましい。これにより、刺激応答性化合物の化学的安定性をより優れたものとすることができる。また、刺激応答性化合物の製造時において、変形部と反応部(前記共有結合の形成の反応に関与する部位)とを容易に結合することができる。また、酸化還元反応の際に、立体障害(回転障壁)が生じるのをより効果的に抑制することができる。その結果、刺激応答性化合物の運動速度がより速くなる。
【0093】
また、ユニットC(第1のユニットCと第2のユニットC)としては、ユニットAと結合することで、ユニットAとユニットCとで共役系を形成するものが好ましく、例えば、共役二重結合を有する環式構造のもの、1,3−ブタジエン等の共役二重結合を有する鎖式構造のもの、ジアセチレン等の共役三重結合を有する鎖式構造のもの等が挙げられる。これにより、刺激応答性化合物内での、電子の移動がよりスムーズとなることで、分子の立体構造をより容易に変化させることができる。
【0094】
ユニットCは、前記のような環構造に加え、エステル基、エーテル基、アミド基およびウレタン基よりなる群から選択される1種または2種以上を含むものであるのが好ましく、エーテル基を含むものであるのがより好ましい。これにより、刺激応答性化合物の製造時において、変形部と反応部とを容易に結合することができる。
【0095】
反応部は、共有結合により、前述した導電性膜(第1の導電性膜13、第2の導電性膜14)を構成する金属材料と刺激応答性化合物とを結合する反応に寄与する部位である。
【0096】
反応基(反応部)は、金属材料と刺激応答性化合物との間で共有結合を形成し得るものであればいかなるものであってもよいが、ビニル基および(メタ)アクリロイル基よりなる群から選択される1種または2種以上であるのが好ましい。
【0097】
これにより、形成される共有結合の化学的安定性を特に優れたものとすることができ、変形材料層と導電性膜との密着性を特に優れたものとし、アクチュエーターの耐久性、信頼性を特に優れたものとすることができる。また、アクチュエーターの製造時においては、共有結合を形成するための反応の効率を特に優れたものとすることができ、短時間で目的の反応を進行させることができ、アクチュエーターの生産性を優れたものとすることができるとともに、反応生成物の収率を高め、変形材料層と導電性膜との密着性を特に優れたものとし、アクチュエーターの耐久性、信頼性を特に優れたものとすることができる。
【0098】
特に、ユニットAが上記式(1)、上記式(2)および上記式(3)からなる群から選択される1種の基であり、ユニットB(第1のユニットBおよび第2のユニットB)が上記式(4)であり、ユニットC(第1のユニットCおよび第2のユニットC)がベンゼン環およびエーテル基を有するものであり、反応部がビニル基および(メタ)アクリロイル基よりなる群から選択される1種または2種以上である刺激応答性化合物であると、変形材料層と導電性膜との密着性を特に優れたものとしつつ、刺激応答性化合物の分子の立体構造をより容易にかつより大きく変化させることができ、刺激応答性化合物全体をより効率よく変形させることができ、変形材料層を低電圧でより大きく変位させることが可能となる。また、アクチュエーターの応答速度を特に優れたものとすることができ、変形の再現性にも優れている。また、アクチュエーターの軽量化を図ることができる。
【0099】
刺激応答性化合物の具体例としては、例えば、下記式(5)で表される化合物(還元した状態)を挙げることができる。このような化合物を用いることにより、前述したような効果をより顕著に発揮させることができる。
【0100】
【化3】
(式(5)中、m、nは、それぞれ独立に、1以上8以下の整数であり、R
1、R
2は、それぞれ独立に、水素原子またはCOOR
3であり、R
3は、炭素数が1以上4以下の炭化水素基である。)
【0101】
変形材料層15は、刺激応答性化合物を、高分子の構成成分(例えば、単量体成分、架橋成分等)として含むものであってもよい。これにより、アクチュエーター100の耐久性を特に優れたものとすることができる。
【0102】
変形材料層15が前記のような高分子を含むものである場合、刺激応答性化合物の重量平均分子量は、5000以上100000以下であるのが好ましく、10000以上50000以下であるのがより好ましい。これにより、変形材料層15の柔軟性を特に優れたものとしつつ、アクチュエーター100の耐久性を特に優れたものとすることができる。
【0103】
変形材料層15が前記のような高分子を含むものである場合、当該高分子は、刺激応答性化合物(前述したような重合前の状態の化合物)と、他の成分とを含むものであり、当該他の成分は、高分子の単量体成分として含まれるものであるのが好ましい。これにより、複数の変形部同士が、接近しすぎることによる立体障害によって、刺激応答性化合物の酸化還元反応が阻害されることをより効果的に防止することができる。その結果、刺激応答性化合物の応答速度を特に速いものとすることができ、また、アクチュエーター100の駆動電圧をより低いものとすることが可能となる。
【0104】
また、変形材料層15が前記のような高分子を含むものである場合、当該高分子は、刺激応答性化合物を架橋成分として含むものであるのが好ましい。
【0105】
これにより、ゴムのような弾性を持ちつつ、刺激により自発的に変形するという効果が得られる。
【0106】
前述したように、本発明においては、導電性膜を構成する金属材料と変形材料層を構成する刺激応答性化合物とが直接共有結合によって結合していてもよいし、導電性膜を構成する金属材料と変形材料層を構成する刺激応答性化合物との間に他の原子または原子団が介在しており、全体としてこれらが共有結合によって結合していてもよいが、前記金属材料と前記刺激応答性化合物とは、ポリシロキサン構造を有する化学構造を介して結合しているのが好ましい。これにより、金属材料と刺激応答性化合物との間に他の化学構造が介在することなく、これらが直接結合する場合に比べて、変形の自由度が高まるため、変形量、変形速度を向上させ、滑らかな変形を実現する上で有利である。また、ポリシロキサン構造は化学的安定性に優れているため、アクチュエーター100の信頼性、耐久性を向上させる上でも有利である。
【0107】
前記ポリシロキサン構造の構成成分(モノマー成分)としては、例えば、ジメチルシロキサン、メチルヒドロシロキサン、ジヒドロシロキサン等が挙げられる。
【0108】
特に、前記ポリシロキサン構造が、メチルヒドロシロキサンを構成成分として含むものである場合、ガラス転移温度が低く、室温で柔軟性を保っているという効果が得られる。なお、前記ポリシロキサン構造がメチルヒドロシロキサンを構成成分として含むものである場合、化合物としてのメチルヒドロシロキサンが有しているSiH基は、アクチュエーター100の変形材料層15中においては、他の化学構造と反応した結果、消滅していてもよい。
【0109】
また、前記ポリシロキサン構造が、ジメチルシロキサンを構成成分として含むものであると、有機溶媒への溶解性が上がり、加工が容易になるという効果が得られる。
【0110】
前記高分子が、刺激応答性化合物(前述したような重合前の状態の化合物)と、他の単量体成分との共重合体である場合、当該他の単量体成分は、下記式(B)で表されるものであってもよい。
【0111】
【化4】
(式(B)中、R
1は、水素原子またはメチル基、R
2は、炭素数が1以上4以下の炭化水素基である。)
【0112】
これにより、複数の変形部同士が、接近しすぎることによる立体障害によって、刺激応答性化合物の酸化還元反応が阻害されることをさらに効果的に防止することができる。その結果、刺激応答性化合物の応答速度をさらに速いものとすることができ、また、アクチュエーター100の駆動電圧をさらに低いものとすることが可能となる。また、変形材料層15の柔軟性を特に優れたものとすることができる。
【0113】
このような場合、変形材料層15中に含まれる刺激応答性化合物(前述したような重合前の状態の化合物)と前記他の単量体成分との含有率の比率は、モル比で、1:20以上1:5以下であるのが好ましく、1:20以上1:10以下であるのがより好ましい。このような関係を満足することにより、刺激応答性化合物の応答速度をさらに速いものとし、アクチュエーター100の駆動電圧をさらに低いものとしつつ、アクチュエーター100の変形量、変形力をより大きいものとすることができる。
【0114】
変形材料層15中における刺激応答性化合物(前述したような高分子を含むものである場合は、前述したような重合前の状態の化合物)の含有率は、10質量%以上80質量%以下であるのが好ましく、20質量%以上60質量%以下であるのがより好ましい。これにより、より低い電圧で、十分な変形量、変形力を得ることができる。
【0115】
<高分子材料>
変形材料層15を構成する変形材料は、前述したような刺激応答性化合物に加えて、高分子材料を含むものであってもよい。これにより、刺激応答性化合物の酸化還元反応による変形に伴い、高分子材料も変位することとなり、結果として、酸化還元反応による変形の度合いが増幅され、変形材料層15全体としての変形の度合いをより大きいものとすることができる。その結果、アクチュエーター100全体としての変形の度合いをより大きいものとすることができる。
【0116】
高分子材料としては、いかなるものを用いてもよいが、以下に述べるようなゲル化剤、液晶ポリマー等を好適に用いることができる。
【0117】
(ゲル化剤)
高分子材料としてのゲル化剤は、変形材料全体をゲル化することができる材料である。このようなゲル化剤を含むことにより、ゲル化剤の種類や配合量等の選択によって、変形材料全体をより好適に最適な硬さに調整することができる。
【0118】
特に、刺激応答性化合物がゲル化しにくいものである場合でも、ゲル化剤を含むことにより、変形材料全体をより好適に最適な硬さに調整することができる。また、刺激応答性化合物がそれ自体でゲル状をなさない場合に限らず、刺激応答性化合物がそれ自体でゲル状をなす場合であっても、同様にゲル化剤を用いることができる。
【0119】
変形材料を構成するゲル化剤としては、例えば、各種樹脂材料、寒天、ゼラチン、アルギン酸塩、ジェランガム等の材料が挙げられるが、変形材料は、ゲル化剤として、フッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン共重合体、(メタ)アクリル酸メチル、および、有機電解質オリゴマーよりなる群から選択される1種または2種以上を含むものであるのが好ましい。これにより、ゲル化剤の種類や配合量等の選択によって、変形材料全体をより好適に最適な硬さに調整することができる。また、変形材料を、より柔軟に変形し、円滑に作動をするものとすることができる。
【0120】
特に、変形材料が、フッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン共重合体を含むものである場合変形材料をより柔軟なものとすることができる。また、水分濃度の変動の影響を受けにくくすることができる。その結果、変形材料の不本意な吸湿等をより効果的に防止することができる。
【0121】
フッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン共重合体の重量平均分子量(Mw)は10,000以上1,000,000以下であるのが好ましく、100,000以上500,000以下であるのがより好ましい。これにより、前述したような効果がより顕著に発揮される。
【0122】
なお、フッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン共重合体の化学構造は、下記式(6)で表すことができる。
【0124】
式(6)中、aは、0<a<1の条件を満たすものであればよいが、0.60以上0.98以下であるのが好ましく、0.75以上0.95以下であるのがより好ましい。これにより、変形材料をより変形に適した柔軟性を有するものとすることができる。
【0125】
また、変形材料が、ポリ(メタ)アクリル酸メチルを含むものである場合、変形材料が変形する際に割れ等が生じることをより確実に防止することができる。
【0126】
ポリ(メタ)アクリル酸メチルの重量平均分子量(Mw)は、10,000以上100,000以下であるのが好ましく、10,000以上50,000以下であるのがより好ましい。前述したような効果がより顕著に発揮される。
【0127】
なお、ポリ(メタ)アクリル酸メチルの化学構造は、例えば、下記式(7)で表すことができる。
【0129】
また、変形材料が、有機電解質オリゴマーを含むものである場合、当該有機電解質オリゴマーが後に述べる電解質の機能も兼ねることができる。
【0130】
なお、有機電解質オリゴマーとしては、例えば、下記式(8)で表されるものを用いることができる。
【0131】
【化7】
(式(8)中、Xは、ハロゲン、(CF
3SO
2)N、PF
6、BF
4、SCN、または、CF
3SO
3、nは、3以上30以下の数である。)
【0132】
変形材料中におけるゲル化剤の含有率は、5質量%以上50質量%以下であるのが好ましい。これにより、刺激応答性化合物等の機能を十分に発揮させつつ、前述したような効果をより顕著に発揮させることができる。
【0133】
(液晶ポリマー)
また、変形材料は、液晶ポリマーを含むものであってもよい。
【0134】
液晶ポリマーは、前述したような刺激応答性化合物の立体構造による、分子の変形に有利なように、補助する機能を有するものが好ましい。
【0135】
液晶ポリマーは、液晶性を有する官能基を備えたモノマーを重合させることにより得ることができる。
【0136】
液晶性を有する官能基としては、複数の環構造を有する基、例えば、複数の芳香環(例えば、フェニル基)をエステル基で連結したもの、芳香環(例えば、ベンゼン環)若しくはシクロヘキサン環が直接連結したものが挙げられる。
【0137】
モノマーとしては、例えば、液晶性を有する官能基とアクリロイル基(アクリル基)とを備えたモノマー、液晶性を有する官能基とメタアクリロイル基(メタクリル基)とを備えたモノマー等を挙げることができる。
【0138】
このようなモノマーとしては、例えば、下記式(9)または式(10)で表される化合物を挙げることができる。
【0139】
【化8】
(式(9)、(10)中、nは6以上の整数、Rは炭素数が1以上のアルキル基を示す。)
【0140】
このようなモノマーを用いることにより、変形材料は、より速くかつより円滑に変形(変位)が可能となり、さらに低電圧で駆動するものとなる。
【0141】
変形材料が液晶ポリマーを含むものである場合、当該液晶ポリマーは、架橋剤により架橋されたものであるのが好ましい。これにより、変形材料をより好適に最適な硬さに調整することができる。その結果、変形材料全体としての形状の安定性、取り扱い性が特に優れたものとなる。また、これにより、変形材料は、異方的な伸縮をより好適に行うことができる。また、架橋構造を有することにより、変形材料はより好適な弾性を有するものとなる。
【0142】
架橋剤としては、上記モノマーで形成されるポリマーを架橋し得るものであれば、特に限定されず、いかなるものを用いてもよいが、下記式(11)で示す架橋剤を用いることにより、より確実に変形材料をゲル化することができる。
【0143】
【化9】
(式(11)中、mは4以上の整数を示す。)
【0144】
架橋剤としては、具体的には、例えば、ビスアクリロイルオキシヘキサン、N,N−メチレンビスアクリルアミド、エチレングリコールジメタクリレート等を挙げることができる。
【0145】
液晶ポリマーは、液晶性官能基を有するモノマー100molに対して、架橋剤を1mol以上10mol以下添加して架橋したものであるのが好ましい。これにより、刺激応答性化合物の伸縮にともなう変形材料全体の変位を効率よく増幅することができる。
【0146】
また、前記液晶ポリマーは、その分子内に、刺激応答性化合物が有する液晶性の官能基と同じ官能基を有しているものであるのが好ましい。これにより、変形材料の応答速度をより効果的に向上させることができる。また、刺激応答性化合物の伸縮にともなう変形材料全体の変位をさらに好適に増幅することができ、変形材料全体としての変位量をさらに大きいものとすることができる。また、変形材料は、より低い電圧での変形が可能となる。
【0147】
液晶ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、10,000以上100,000以下であるのが好ましく、10,000以上50,000以下であるのがより好ましい。これにより、前述したような効果がより顕著に発揮される。
【0148】
上述したような液晶ポリマーを用いることにより、変形材料の応答速度を効果的に向上させることができる。また、刺激応答性化合物の伸縮にともなう変形材料全体の変位をより好適に増幅することができ、変形材料全体としての変位量を特に大きいものとすることができる。
【0149】
また、変形材料が、ゲル化剤とともに、液晶ポリマーを含むものである場合、前述したような効果が得られるとともに、これらが相乗的に作用し合い、変形材料の強度をさらに優れたものとすることができるとともに、変位量をより大きいものとすることができる。
【0150】
変形材料中における液晶ポリマーの含有率は、3質量%以上50質量%以下であるのが好ましい。これにより、上述したような刺激応答性化合物等の機能を十分に発揮させつつ、前述したような効果がより顕著に発揮される。
【0151】
<電解質>
変形材料層15を構成する変形材料は、電解質を含むものであってもよい。
【0152】
電解質としては、各種酸、塩基、塩を用いることができるが、塩を用いるのが好ましい。これにより、変形材料の耐久性を特に優れたものとすることができる。電解質の塩としては、例えば、過塩素酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、六フッ化リン酸リチウム等の無機塩;テトラブチルアンモニウムテトラフルオロホウ素、1−ブチル−1−メチルピロリジニウム ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド(BMPTFSI)、メチル−トリオクチルアンモニウム ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド(MTOATFSI)、トリエチルスルフォニウム ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド(TESTFSI)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム トリフルオロメタンスルフォネート(EMICF
3SO
3)等の有機塩等を用いることができる。BMPTFSI、MTOATFSI、TESTFSI、および、EMICF
3SO
3の構造式は、それぞれ、下記式(12)、下記式(13)、下記式(14)、および、下記式(15)で表される。
【0157】
変形材料は、中でも、電解質として、過塩素酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、六フッ化リン酸リチウム、および、テトラブチルアンモニウムテトラフルオロホウ素よりなる群から選択される1種または2種以上を含むものであるのが好ましい。これにより、刺激応答性化合物(変形材料、アクチュエーター100)の応答速度をさらに効果的に向上させることができるとともに、刺激応答性化合物の伸縮にともなうアクチュエーター100全体の変位をさらに増幅することができる。
【0158】
前述したような電解質を含むことにより、電源22による安定的な通電が可能となる。また、刺激応答性化合物への電荷の受け渡しをより速やかに進行させることができ、変形材料層15の高速応答性を特に優れたものとすることができる。また、変形材料層15全体(特に、変形材料層15の厚さ方向全体)にわたって、変形材料層15を構成する刺激応答性化合物を効率よく伸縮させることができる。その結果、アクチュエーター100全体としての伸縮率を特に大きいものとすることができる。
【0159】
変形材料中における電解質の含有率は、3質量%以上80質量%以下であるのが好ましく、5質量%以上30質量%以下であるのがより好ましい。これにより、前述したような効果がより顕著に発揮される。
【0160】
<電子導電性物質>
また、変形材料層15を構成する変形材料は、変形材料中において電子を輸送する機能を有する電子導電性物質を含んでいてもよい。
【0161】
電子導電性物質としては、例えば、金属材料、炭素材料、それらの化合物、または有機材料などが挙げられる。具体例としては、例えば、グラファイト、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンナノ粒子、アセチレンブラック、活性炭等の各種炭素材料;ポリアニリン、ポリチオール、ポリピロール、Si系やGa系等の半導体材料、PEDOT:PSS(3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン−ポリスチレンスルフォン酸)等の導電性高分子;透明導電性酸化物材料(例えば、ITO(酸化インジウムスズ)等);各種金属ナノワイヤー等が挙げられる。その中でも特に、炭素材料が好ましく、カーボンナノ粒子がより好ましい。これにより、電子の輸送機能が向上し、比較的低い電圧で変形材料層15(アクチュエーター100)を大きく変位させることができる。
【0162】
また、炭素材料等の粒子の形態は特に限定されず、緻密質、多孔質、中空等いずれの形態であってもよい。また、例えば、電子導電性物質として、カーボンナノ粒子を用いる場合、中空シェル状構造を持つカーボンナノ粒子を用いるのが好ましい。このものは、電子の輸送機能が向上する。また、比較的低い電圧で変形材料全体を大きく変位させることができ、アクチュエーター100は、より速くかつより円滑に変形(変位)が可能となる。
【0163】
電子導電性物質として中空シェル状構造を持つカーボンナノ粒子を用いる場合、当該カーボンナノ粒子の空隙率(空孔率)は、90体積%以下であることが好ましく、30体積%以上90体積%以下であるのがより好ましく、60体積%以上90体積%以下であるのがさらに好ましい。これにより、カーボンナノ粒子(電子導電性物質)の形状の安定性を保持しつつ、上記のような効果をより顕著に発揮させることができる。その結果、長期間にわたって安定的に上記のような効果を発揮させることができるとともに、アクチュエーター100のロット間での特性の均一性を特に優れたものとすることができる。
【0164】
電子導電性物質は、変形材料中において、他の成分に溶解するものであってもよいが、変形材料中に不溶成分として存在しているものであるのが好ましく、特に、固体状で存在しているものが好ましい。
【0165】
電子導電性物質の形状は、例えば、粒子状、平板状、繊維状(例えば、チューブ状)等の様々な形状をなすものであるのが挙げられるが、特に、粒子状をなすものであることが好ましい。なお、粒子の形状は、球体、非球体(例えば、鱗片状、紡錘状、回転楕円体)のいずれのものでもよい。これにより、変形材料全体に均一に電子導電性物質を分散させることができ、比較的低い電圧で変形材料全体を均一に大きく変位させることができ、アクチュエーター100全体を均一に大きく変位させることができる。
【0166】
電子導電性物質が粒子状の場合、その平均粒径は、1nm以上10μm以下であるのが好ましく、2nm以上90nm以下であるのがより好ましい。これにより、変形材料全体に、必要な濃度の電子導電性材料を付与することにより、確実に変形材料中での電子の供給ができる。また、刺激応答性化合物への電子供給効率を特に優れたものとすることができ、アクチュエーター100は、より速くかつより円滑に変形(変位)が可能となる。これに対して、平均粒径が前記下限値未満であると、電子導電性材料が凝集してしまい、凝集を防止するための処理が加えて必要となる。一方、平均粒径が前記上限値を超えると、電子導電性材料の含有率を高める必要が生じ、前述したような効果のさらなる向上がみられない。
【0167】
なお、本明細書では、「平均粒径」とは、体積基準の平均粒径(体積平均粒径(D
50))のことを指すものとする。測定装置としては、例えば、レーザー回折・散乱式粒度分析計 マイクロトラックMT−3000(日機装社製)等が挙げられる。
【0168】
前述したような電子導電性材料を含むことにより、比較的低い電圧で変形材料層15全体を大きく変位させることができる。特に、変形材料層15の厚さが比較的大きい場合であっても、変形材料層15全体を効率よく変形させることができる。その結果、低電圧で、より大きな変位力、変位量を得ることができる。また、変形材料の厚さが比較的大きいものであっても、その表面付近と、中心部付近とでの変形量の差が小さくなるため、変形量の制御が容易となる。
【0169】
また、変形材料中における電子導電性物質の含有率は、10質量%以上90質量%以下であるのが好ましく、30質量%以上70質量%以下であるのがより好ましい。これにより、変形材料中における電子の輸送を好適に行うことができ、アクチュエーター100は、より速くかつより円滑に変形(変位)が可能となる。これに対して、電子導電性物質の含有率が前記下限値未満であると、変形材料中における電子の移動を補助する機能が減少する。一方、電子導電性物質の含有率が前記上限値を超えると、前述したような効果のさらなる向上がみられない。
【0170】
また、変形材料中の電子導電性物質の分散状態は、均一なものがよいが、変形材料中での電子導電性材料の濃度が、連続的、断続的(間欠的)に、変化するような部分があってもよい。変形材料中の電子導電性物質の分散状態が均一な場合、比較的低い電圧で変形材料全体を均一により大きく変位させることができる。特に、変形材料の厚さが比較的大きい場合であっても、より効率よく変形させることができる。
【0171】
<溶媒>
また、変形材料層15を構成する変形材料は、溶媒を含むものであってもよい。溶媒が上記高分子材料に取り込まれると、変形材料が好適にゲル化するため、容易に固形化することができるとともに、変形材料の取り扱い性を向上させることができ、さらには、変形材料層15を最適な硬さに調整でき、アクチュエーター100の柔軟性を特に優れたものとすることができる。また、単体で固体状をなす電解質を含む場合において、当該電解質を変形材料中において溶解することができ、好適に電離した状態にすることができる。
【0172】
溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、トルエン、ベンゼン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、アセトン、プロピレンカーボネイト、メチルペンタノン、エチルペンタノン、アセトニトリル等の有機溶媒を挙げることができる。
【0173】
変形材料中における溶媒の含有率は、20質量%以上80質量%以下であるのが好ましく、30質量%以上60質量%以下であるのがより好ましい。これにより、変形材料の取り扱い性をより高いものとすることができる。
【0174】
また、変形材料層15を構成する変形材料は、前述した以外の成分を含むものであってもよい。
【0175】
変形材料層15の導電率は、0.1S/cm以上であるのが好ましく、1S/cm以上であるのがより好ましい。これにより、アクチュエーター100の応答速度を特に優れたものとし、また、アクチュエーター100の小型化を図ることができる。
【0176】
変形材料層15の厚さは、特に限定されないが、5mm以下であるのが好ましい。これにより、駆動電圧を比較的低いものとしつつ、より大きな変位力を得ることができる。
【0177】
また、変形材料層15に電子導電性物質を含む場合、0.01mm以上10mm以下であるのが好ましく、0.03mm以上1mm以下であるのがより好ましい。これにより、アクチュエーター100の変形力をより大きなものとすることができる。
【0178】
本発明のアクチュエーターの用途は、特に限定されず、例えば、リハビリ支援用グローブ等の医療機器、マイクロポンプ用のアクチュエーター、電圧検知センサ等の各種工業機器等に用いることができる。
【0179】
次に、
図1、
図2に基づいて、アクチュエーター100(駆動装置200)の作動について説明する。
【0180】
変形材料層15を構成する刺激応答性化合物が酸化されることにより伸長(膨張)し、還元されることにより収縮することにより、アクチュエーター100(駆動装置200)全体としては、以下のような挙動を示す。
【0181】
すなわち、
図1に示す構成では、第1の電極13が、電源22の正極に接続されており、スイッチ21をオンすると、第1の電極13と変形材料層15と第2の電極14との間に通電がなされる。通電がなされると、変形材料層15の第1の電極13と接している側では、刺激応答性化合物が、第1の電極13に電子を受け渡して酸化状態となる。刺激応答性化合物が酸化されることで、刺激応答性化合物の分子鎖が伸長(膨張)する。その結果、第1の電極13と接している側の変形材料は伸長(膨張)する。一方、変形材料層15の第2の電極14と接している側では、刺激応答性化合物が、第2の電極14から電子を受け取り還元状態となる。刺激応答性化合物が還元されることで、刺激応答性化合物の分子鎖が収縮する。その結果、第2の電極14と接している側の変形材料は収縮する。このようなことから、アクチュエーター100全体は、第1の電極13側(
図1中の上側)に、凸となるように湾曲する。
【0182】
図2に示す構成では、
図1とは極性が反転しており、第1の電極13が、電源22の負極に接続されており、スイッチ21をオンにすると、第1の電極13と変形材料層15と第2の電極14との間に通電がなされる。通電がなされると、変形材料層15の第1の電極13と接している側では、刺激応答性化合物が還元されることで、刺激応答性化合物の分子鎖が収縮する。その結果、第1の電極13と接している側の変形材料は収縮する。一方、変形材料層15の第2の電極14と接している側では、刺激応答性化合物が酸化されることで、刺激応答性化合物の分子鎖が伸長(膨張)する。その結果、第2の電極14と接している側の変形材料は伸長(膨張)する。このようなことから、アクチュエーター100全体は、第2の電極14側(
図2中の下側)に、凸となるように湾曲する。
【0183】
このように、アクチュエーター100は、正極と負極との接続を変えることで、湾曲する方向を変えることができる。このような動作は可逆性がある。また、アクチュエーター100に印加する電流の特性を、連続的または断続的に反転させることにより、湾曲方向を交互に繰り返し変えることができ、反復継続させることができる。
【0184】
また、電極(第1の電極13、第2の電極14)と、変形材料層15との密着性が優れているため、湾曲方向を交互に繰り返し変えた場合であっても、電極(第1の電極13、第2の電極14)と、変形材料層15との密着状態を好適に保持することができ、湾曲動作の再現性に優れている。また、変形量を大きくした場合であっても、電極(第1の電極13、第2の電極14)と、変形材料層15との密着状態を好適に保持することができるため、可動域の大きいアクチュエーターを実現することができる。
【0185】
また、アクチュエーター100に印加する電圧値としては、例えば、0.1V以上10V以下であることが好ましく、1V以上5V以下であるのがより好ましい。これにより、より優れたアクチュエーター100の変形量が得られる。
【0186】
また、アクチュエーター100への通電は、前述したような直流電流を用いたものだけに限らず、交番電流等を用いたものも可能である。ここで、交番電流とは、例えば、正弦波交流や、パルス状の矩形電流等の、時間とともに周期的に大きさや向きが変化する電流を言う。
【0187】
交番電流の周波数は、特に限定されず、アクチュエーター100の応答性を考慮して決定すればよく、例えば、0.01Hz以上100Hz以下とすることができる。これにより、アクチュエーター100の応答性に適合した通電が可能となり、円滑な連続的な反転運動が可能となる。
【0188】
《アクチュエーターの製造方法》
次に、本発明のアクチュエーターの製造方法について説明する。
【0189】
本実施形態のアクチュエーターの製造方法は、可撓性を有する基材(第1の基材11および第2の基材12)の表面に、金属材料で構成された導電性膜(第1の導電性膜13および第2の導電性膜14)を形成する導電性膜形成工程(1a)と、金属材料で構成された導電性膜(第1の導電性膜13および第2の導電性膜14)に対し化学修飾を施す化学修飾工程(1b)と、酸化還元反応によって分子構造が変形する刺激応答性化合物を含む変形材料を、化学修飾が施された第1の導電性膜13および第2の導電性膜14の表面に付与する変形材料付与工程(1c)と、化学修飾が施された金属材料と刺激応答性化合物とを反応させることにより、導電性膜(第1の導電性膜13および第2の導電性膜14)を構成する金属材料と刺激応答性化合物との間に共有結合を形成する共有結合形成工程(1d)と、第1の導電性膜13上の変形材料と第2の導電性膜14上の変形材料とを貼り合わせる貼り合わせ工程(1e)とを有する。これにより、変形材料層15と導電性膜(第1の導電性膜13、第2の導電性膜14)との密着性に優れ、耐久性に優れたアクチュエーター100を生産性良く製造することができる。
【0190】
≪導電性膜形成工程≫
本工程では、第1の基材11の表面に第1の導電性膜13を形成し、第2の基材12の表面に第2の導電性膜14を形成する(1a)。
【0191】
第1の導電性膜13、第2の導電性膜14は、例えば、真空蒸着、スパッタリング等の気相成膜法、電解めっき、無電解めっき等の湿式めっき法、溶射等の方法により好適に形成することができる。
【0192】
また、基材(第1の基材11、第2の基材12)に対しては、成膜に先立って、密着性向上等の目的で表面処理を施してもよい。
【0193】
なお、第1の導電性膜13と第2の導電性膜14とで、形成方法、形成条件は同一であってもよいし、異なるものであってもよい。
【0194】
≪化学修飾工程≫
本工程では、第1の導電性膜13および第2の導電性膜14に対し化学修飾を施す(1b)。これにより、第1の導電性膜13および第2の導電性膜14のうち表面(基材に対向する面とは反対側の面)を構成する金属材料に、化学修飾による官能基が導入される。
【0195】
これにより、後に詳述する共有結合形成工程において、金属材料と刺激応答性化合物との間に共有結合を形成することができる。また、本工程で行う化学修飾により、一般に、導電性膜の表面は、疎水性(親油性)となる。一方、後の変形材料付与工程で付与される変形材料に含まれる刺激応答性化合物は、一般に、疎水性(親油性)のものである。このため、本工程で導電性膜に対し化学修飾を施すことにより、導電性膜と変形材料との親和性が向上し、後に詳述する変形材料付与工程の作業効率が向上する。また、導電性膜の表面での刺激応答性化合物の凝集等を効果的に防止し、変形材料を均一に付与することができる。これにより、最終的に形成される変形材料層の各部位での不本意な特性のばらつきの発生を効果的に防止することができる。
【0196】
化学修飾に用いることのできる物質(化学修飾剤)は、導電性膜の構成材料や、後の工程で反応すべき刺激応答性化合物が有する官能基等により異なる。
【0197】
例えば、導電性膜がAuを含む材料で構成されたものであり、かつ、ビニル基と(メタ)アクリロイル基とのうちの少なくとも一方の官能基を反応基として有する化合物を刺激応答性化合物として用いる場合には、末端にビニル基を有するアルカンチオール構造を有する化合物、アクリロイル基を有する化合物およびメタクリロイル基を有する化合物等を化学修飾剤として用いることができる。
【0198】
特に、導電性膜がAuを含む材料で構成されたものであり、かつ、ビニル基と(メタ)アクリロイル基とのうちの少なくとも一方の官能基を反応基として有する化合物を刺激応答性化合物として用いる場合には、化学修飾剤としては、末端にビニル基を有するアルカンチオール構造を有する化合物を特に好適に用いることができる。
【0199】
これにより、変形材料層15と導電性膜(第1の導電性膜13および第2の導電性膜14)との密着性を特に優れたものとし、アクチュエーター100の耐久性を特に優れたものとすることができる。また、簡便、温和な条件(例えば、室温環境下で、化学修飾剤を含む液体を導電性膜に付与するという条件)で、高い反応性で金属材料と化学修飾剤とを反応させることができる。その結果、最終的に得られるアクチュエーター100の生産性を特に優れたものとすることができるとともに、アクチュエーター100における導電性膜と変形材料層との結合力を特に優れたものとすることできる。
【0200】
末端にビニル基を有するアルカンチオール構造を有する化合物としては、例えば、下記式(50)で表されるものを用いることができる。
CH
2=CH(CH
2)
nSH (50)
(式(50)中、nは、1以上20以下の整数である。)
【0201】
式(50)中、nは、1以上20以下の整数であればよいが、2以上16以下であるのが好ましく、4以上12以下であるのがより好ましい。これにより、化学修飾剤による化学修飾の効率を特に優れたものとすることができ、アクチュエーター100の生産性を特に優れたものとすることができる。また、変形の自由度を特に高いものとすることができるため、変形量、変形速度をさらに向上させ、より滑らかな変形を実現する上で有利である。
【0202】
なお、本工程において、化学修飾剤として上記式(50)で表される化合物を用いた場合、導電性膜(第1の導電性膜13および第2の導電性膜14)の表面の金属材料は、下記式(51)で表される構造を有するものとなる。
−S(CH
2)
nCH=CH
2 (51)
また、本工程では、2段階以上の反応を行ってもよい。
【0203】
≪変形材料付与工程≫
本工程では、酸化還元反応によって分子構造が変形する刺激応答性化合物を含む変形材料を、化学修飾が施された第1の導電性膜13および第2の導電性膜14の表面に付与する(1c)。
【0204】
本工程における変形材料の付与方法は、特に限定されず、例えば、変形材料が流動性を有するものである場合には、刷毛塗り等の各種塗布方法、インクジェット法等の各種印刷方法、ディッピング等を採用することができる。また、本工程は、刺激応答性化合物を含む変形材料を、予めシート状等の所定の形状に成形しておき、これを、導電性膜(第1の導電性膜13、第2の導電性膜14)と接触させること(載置すること、貼り合わせること)により行ってもよい。また、これらの方法を組み合わせて行ってもよい。
【0205】
また、第1の導電性膜13に対する変形材料の付与方法と、第2の導電性膜14に対する変形材料の付与方法とは、同一であってもよいし、異なるものであってもよい。
【0206】
本工程で、第1の導電性膜13上に付与される変形材料と、第2の導電性膜14上に付与される変形材料とは、同一の組成を有するものであってもよいし、異なるものであってもよい。また、第1の導電性膜13に対する変形材料の付与量と、第2の導電性膜14に対する変形材料の付与量とは、同一の組成を有するものであってもよいし、異なるものであってもよい。
【0207】
本工程では、例えば、刺激応答性化合物を含む変形材料の粘度調整(塗工性の向上等)等の目的で、最終的なアクチュエーター100を構成する変形材料層15とは異なる組成の材料を用いてもよい。
【0208】
例えば、本工程で用いる変形材料は、本工程より後に、その少なくとも一部が除去される液体成分(溶媒等)を含むものであってもよい。
【0209】
また、本工程で用いる変形材料は、後の共有結合形成工程で反応に寄与する成分であって、その後、洗浄等により除去される成分(例えば、触媒等)を含むものであってもよい。
【0210】
また、本工程で用いる変形材料中に含まれる刺激応答性化合物は、最終的なアクチュエーター100に含まれる刺激応答性化合物とは異なる構造のものであってもよい。例えば、最終的なアクチュエーター100に含まれる刺激応答性化合物が高分子である場合において、本工程で用いる変形材料中に含まれる刺激応答性化合物は、最終的なアクチュエーター100に含まれる刺激応答性化合物よりも重合度の低いものであってもよい。
【0211】
また、金属材料と刺激応答性化合物とが、ポリシロキサン構造を有する化学構造を介して結合している構成を有するアクチュエーター100を製造する場合には、本工程で、刺激応答性化合物とともに、ポリシロキサン結合を有する化合物を用いてもよい。
【0212】
ポリシロキサン結合を有する化合物としては、例えば、メチルヒドロシロキサンを構成成分として含む高分子を用いることができる。
【0213】
これにより、刺激応答性化合物が、ビニル基と(メタ)アクリロイル基とのうちの少なくとも一方の官能基を有する化合物である場合に、ビニル基、(メタ)アクリロイル基がSiH基と効率よく反応することにより、強固な結合を形成することができるとともに、ポリシロキサン結合を有する化合物と導電性膜を構成する金属材料との間に強固な結合を容易に形成することができる。したがって、容易かつ確実に、アクチュエーター100の耐久性等を特に優れたものとすることができる。
【0214】
また、ポリシロキサン結合を有する化合物として、メチルヒドロシロキサンのホモポリマーを用いることができる。
【0215】
これにより、ポリシロキサン結合を有する化合物中における、刺激応答性化合物や金属材料との反応点が多く存在するものとなる。そのため、アクチュエーター100の耐久性等をさらに優れたものとすることができる。また、架橋成分として機能する刺激応答性化合物の配合比を調整することにより、刺激応答性化合物およびポリシロキサン結合を有する化合物(主鎖を構成する成分)を構成成分として含む高分子中における架橋度を容易かつ確実に調整することができる。
【0216】
また、ポリシロキサン結合を有する化合物として、メチルヒドロシロキサンとジメチルヒドロシロキサンとを構成成分として含むコポリマーを用いることができる。
【0217】
これにより、最終的に得られるアクチュエーター100の硬度、柔軟性を最適なものとすることができる。また、アクチュエーター100の製造後に、ポリシロキサン結合を有する化合物のSiH基(反応性官能基)が不本意に残存してしまうことをより確実に防止することができ、アクチュエーター100の耐久性、信頼性を特に優れたものとすることができる。また、本工程後に、ポリシロキサン結合を有する化合物の反応性官能基が不本意に残存してしまった場合に必要な後処理(反応性の高い部位を失活させるための後処理)を省略または簡略化することができるため、アクチュエーター100の生産性を特に優れたものとすることができる。
【0218】
≪共有結合形成工程≫
本工程では、化学修飾が施された金属材料と刺激応答性化合物とを反応させることにより、導電性膜(第1の導電性膜13および第2の導電性膜14)を構成する金属材料と刺激応答性化合物との間に共有結合を形成する(1d)。これにより、変形材料層15と導電性膜(第1の導電性膜13、第2の導電性膜14)との密着性に優れたものとすることができ、変形材料層15と導電性膜(第1の導電性膜13、第2の導電性膜14)との間での不本意な剥離等を防止することができ、アクチュエーター100全体としての耐久性を優れたものとすることができる。
【0219】
また、本工程では、刺激応答性化合物以外の成分が寄与する反応を行ってもよい。
例えば、本工程において、刺激応答性化合物とともに、ポリシロキサン結合を有する化合物を、化学修飾が施された金属材料と反応させてもよい。
【0220】
これにより、より効率よく、ポリシロキサン構造を有する化学構造を介して金属材料と刺激応答性化合物とを共有結合により結合することができ、変形の自由度が特に高く、変形量、変形速度が特に優れ、より滑らかな変形が可能なアクチュエーター100を得ることができる。また、ポリシロキサン構造は化学的安定性に優れているため、アクチュエーター100の信頼性、耐久性を向上させる上でも有利である。また、ポリシロキサン結合を有さないシロキサン化合物を用いることもできるが、ポリシロキサン結合を有する化合物を用いることにより、アクチュエーター100の生産性を特に優れたものとすることができる。
【0221】
本工程での反応条件は、刺激応答性化合物が有する反応基と化学修飾剤との組み合わせ等により異なるが、一般には、加熱により、金属材料と刺激応答性化合物との間に共有結合を形成する反応を好適に進行させることができる。
【0222】
本工程を加熱により行う場合、加熱温度は、50℃以上200℃以下であるのが好ましく、60℃以上150℃以下であるのがより好ましく、70℃以上130℃以下であるのがさらに好ましい。これにより、アクチュエーター100の構成成分の不本意な変性・劣化や、好ましくない副反応の進行等をより効果的に防止しつつ、目的とする反応の反応速度をより速いものとすることができる。
【0223】
本工程を加熱により行う場合、加熱時間は、30分以上48時間以下であるのが好ましく、1時間以上42時間以下であるのがより好ましく、4時間以上36時間以下であるのがさらに好ましい。これにより、アクチュエーター100の生産性を十分に高いものとしつつ、目的とする反応が十分に進行しないこと等による弊害をより効果的に防止することができ、変形材料層15と導電性膜(第1の導電性膜13および第2の導電性膜14)との密着性を特に優れたものとし、また、アクチュエーター100の信頼性を特に優れたものとすることができる。
【0224】
また、第1の導電性膜13上に付与された変形材料に対する反応条件と、第2の導電性膜14上に付与された変形材料に対する反応条件とは、同一であってもよいし、異なるものであってもよい。
【0225】
本工程では、少なくとも、金属材料と刺激応答性化合物との間に共有結合を形成する反応が進行すればよいが、この反応に加え、他の反応が進行してもよい。例えば、本工程においては、変形材料付与工程で付与された変形材料中に含まれる刺激応答性化合物の分子同士が重合する反応等が進行してもよい。
【0226】
例えば、刺激応答性化合物が有する反応基がビニル基と(メタ)アクリロイル基とのうちの少なくとも一方の官能基であり、化学修飾工程で用いた化学修飾剤が3−(2−ブロモイソブチリル)プロピルジメチルクロロシランである場合等には、本工程においては、金属材料と刺激応答性化合物との間に共有結合を形成する反応が進行するとともに、刺激応答性化合物の分子同士が重合する反応も進行する。このような反応は、ATRP(Atom Transfer Radical Polymerization)と呼ばれるものであり、このような反応では、分子量分布がシャープで、鎖の長さが整った高分子が得られる。これにより、変形材料層の各部位での不本意な特性のばらつきの発生を効果的に防止することができる。
【0227】
≪貼り合わせ工程≫
本工程では、第1の導電性膜13上の変形材料と第2の導電性膜14上の変形材料とを貼り合わせる(1e)。これにより、第1の基材11と、第2の基材12と、第1の導電性膜(第1の電極)13と、第2の導電性膜(第2の電極)14と、変形材料層15を有するアクチュエーター100が得られる。
【0228】
第1の導電性膜13上の変形材料と第2の導電性膜14上の変形材料との貼り合わせは、直接、これらが接触するようにして行ってもよいが、第1の導電性膜13上の変形材料の表面、第2の導電性膜14上の変形材料の表面のうちの少なくとも一方に、溶媒(例えば、変形材料の構成材料の少なくとも一部を可溶な溶媒、刺激応答性化合物をゲル化可能な溶媒、電解質を含む液状物質(電解質溶液、液状の高分子電解質等))等を付与してもよい。これにより、例えば、第1の導電性膜13上の変形材料と第2の導電性膜14上の変形材料との接合強度を特に優れたものとすることができ、アクチュエーター100の耐久性、信頼性を特に優れたものとすることができる。
【0229】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0230】
例えば、前述した実施形態では、駆動装置は、変形材料層を2つの電極で挟持した構造のアクチュエーターを備えたものとして説明したが、これに限定されるものではなく、駆動装置を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。例えば、駆動装置は、
図4に示すような構造のものであってもよい。すなわち、駆動装置200は、
図4に示すように、電源22と、電源22の入切を行うスイッチ21と、電源22に接続される第1の電極13、および、第1の電極13に密着している変形材料層15とを備えたアクチュエーター100と、電源22に接続される対向電極23と、変形材料層15と対向電極23との間に介在する電解液24と、容器25とを備えているものであってもよい。このように、本発明においては、アクチュエーターが導電性膜を1つのみ有するものであってもよい。また、3つ以上の導電性膜を有するものであってもよい。
【0231】
また、前述した実施形態では、刺激応答性化合物が、ユニットAと、第1のユニットBと第2のユニットBと第1のユニットCと第2のユニットCとを含むものである場合について中心的に説明したが、本発明において刺激応答性化合物は、酸化還元反応により、分子構造が変わるものであればよく、例えば、前記の各ユニットを全て備えたものに限定されない。また、刺激応答性化合物は、前述したようなユニットA、ユニットB、ユニットC以外のユニットを有するものであってもよい。
【0232】
また、前述した実施形態では、反応部は、ユニットC(第1のユニットCおよび第2のユニットC)の、ユニットAとは反対側の端部に結合したものとして説明したが、反応部の結合箇所は、これに限定されない。
【0233】
また、前述した実施形態では、反応部は、第1のユニットCおよび第2のユニットCに、それぞれ1つずつ結合したものとして説明したが、反応部の数は、刺激応答性化合物内に1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。
【0234】
また、前述した実施形態では、ポリシロキサン構造が、前記高分子中に前記他の成分として含まれている場合について中心的に説明したが、ポリシロキサン構造は、他の形態、例えば、高分子中において、架橋成分として含まれるものであってもよい。
【0235】
また、本発明のアクチュエーターは、前述した方法を用いて製造されたものでなくてもよい。例えば、貼り合わせ工程後に共有結合形成工程を行う等、前述した方法とは工程の順番が異なる方法を用いてもよい。また、前述した実施形態では、第1の導電性膜および第2の導電性膜の両方に対して、変形材料を付与するものとして説明したが、第1の導電性膜、第2の導電性膜のうち一方のみに変形材料を付与してもよい。また、第1の導電性膜と第2の導電性膜とが所定距離だけ離間した状態で対向するようにし、この状態で、これらの間に変形材料を注入する方法を採用してもよい(貼り合わせ工程を有していなくてもよい)。
【0236】
また、本発明の製造方法は、前述した工程に加えて他の工程(前処理工程、中間工程、後処理工程等)を有していてもよい。
【0237】
また、変形材料層の形状は、特に限定されず、繊維状、シート状、板状、棒状等の様々なものが挙げられ、変形材料の厚みが比較的大きいものであってもよい。
【実施例】
【0238】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0239】
[1]アクチュエーター、駆動装置の製造
(実施例1)
(導電性膜形成工程)
可撓性を有する基材として、Millipore社製のポリフッ化ビニリデン(PVdF)フィルター(膜厚:0.1mm、ポアサイズ:0.45μm)を用意し、配線接続用の貫通孔を形成した後、この基材の一方の面に、スパッタリングにより、厚さ40nmのAu膜(導電性膜)を形成した。
【0240】
次に、Au膜(導電性膜)が形成された基材を、超純水(MilliQ水):25mL、28質量%のアンモニア水:2mL、35質量%の過酸化水素水:2mLの混合溶液中で、85℃で加熱し、その後、超純水(MilliQ水)、メタノールで、順次洗浄し、室温で乾燥した。
【0241】
(化学修飾工程)
導電性膜が形成された基材をガラス管に入れ、ここに、トルエン:10mL、化学修飾剤としての上記式(50)で表される化合物(ただし、式(50)中のnが9である化合物):30mgを加え、20時間室温で放置した。これにより、導電性膜の表面に、Au−S−(CH
2)
9−CH=CH
2で表される構造が導入された。
その後、上記のような化学修飾が施された基材をジクロロメタンで洗浄し乾燥した。
【0242】
(変形材料付与工程)
化学修飾工程に供された基材について、化学修飾が施された導電性膜上に、それぞれ、下記式(17)で表される化合物(刺激応答性化合物):7.93mmol、アクリル酸メチル:24mmol、2−ブロモイソブチル酸エチル:0.25mmol、メチルヒドロシロキサンとジメチルヒドロシロキサンとのコポリマー:2mmol、および、N,N,N’,N’’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミン:0.25mmolを、アニソール:2.5mLに溶解した溶液(変形材料)をインクジェット法により付与した。
【0243】
【化14】
【0244】
上記式(17)で表される化合物(刺激応答性化合物)としては、以下のようにして合成したものを用いた。
【0245】
まず、下記式(18)で表される化合物とPd(PPh
3)
4の混合物をトルエン中で撹拌しているところへ4−tert−ブチルジメチルシリルオキシフェニルボロン酸のエタノール溶液と2.3M炭酸カリウム水溶液を加え17.5時間加熱、還流した。反応溶液を室温まで冷却し、有機層を分離した後、水層をジクロロメタンで抽出した。集めた有機層を水と飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥後濾過して濃縮した。その後、カラムクロマトグラフィーで精製し、下記式(19)で表される化合物を得た。
【0246】
【化15】
【0247】
【化16】
【0248】
次に、上記式(19)で表される化合物をTHFに溶解し、フッ化テトラブチルアンモニウムのTHF溶液(1M)を加えた。反応溶液を2時間撹拌したのち、塩酸で反応を停止し、ジクロロメタンで抽出し硫酸ナトリウムで乾燥後、濾過して濃縮した。得られた固体に、DMF、炭酸カリウム、および、下記式(20)で表される化合物を加え、80℃で加熱撹拌した。反応溶液をジクロロメタンで抽出し、水、飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで脱水した後、カラムクロマトグラフィーで精製し、下記式(21)で表される化合物を得た。なお、式(21)中、CH
2=CH−(CH
2)
4−(式(20)で表される構造のうちOTsを除く部分)は、Rで示す(後に示す式(22)、式(23)中についても同様)。
【0249】
【化17】
【0250】
【化18】
【0251】
次に、上記式(21)で表される化合物、p−トルエンスルホン酸、1,2−ベンゼンジチオールをベンゼン中で加熱還流した。反応溶液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、ジクロロメタンで抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムを濾過して濃縮した後、カラムクロマトグラフィーで精製し、下記式(22)で表される化合物を得た。
【0252】
【化19】
【0253】
次に、上記式(22)で表される化合物をジクロロメタンに溶解させ、(BrC
6H
4)
3NSbCl
6を加えて撹拌した。反応溶液にジエチルエーテルを250mL加え析出した固体を濾過し、ジクロロメタン、アセトニトリル、およびTHFの混合溶媒にとかし、亜鉛粉末を加えて室温で撹拌した。亜鉛粉末を濾過で除去し、濃縮した。その後、カラムクロマトグラフィーで精製し、下記式(23)で表される化合物を得た。
【0254】
【化20】
【0255】
また、メチルヒドロシロキサンとジメチルヒドロシロキサンとのコポリマーとしては、当該コポリマー中におけるメチルヒドロシロキサンとジメチルヒドロシロキサンとの比率がモル比で1:2であるものを用いた。
【0256】
(共有結合形成工程)
前記溶液が付与された基材を、100℃で24時間加熱した。これにより、重合反応が進行するとともに、導電性膜を構成するAu(金属材料)と刺激応答性化合物とが共有結合(ポリシロキサン構造を介した共有結合)により結合された。
その後、ジクロロメタンで洗浄し、乾燥した。
【0257】
(貼り合わせ工程)
その後、共有結合形成工程に供された基材を5mm×2cmの短冊状に切り、2枚の切片を電解質溶液に浸漬し、変形材料同士が接触し、基材が外側を向くように貼り合わせ、アクチュエーターを得た。電解質溶液としては、0.1Mに調整したテトラブチルアンモニウムテトラフルオロホウ酸のアセトニトリル溶液を用いた。
【0258】
その後、基材に設けられた貫通孔を介して、各導電性膜に配線を接続し、
図1、
図2に示すような駆動装置を得た。変形材料層の厚さは、0.1mmであった。
【0259】
(実施例2)
変形材料付与工程において、化学修飾工程に供された基材について、化学修飾が施された導電性膜上に、それぞれ、下記式(17)で表される化合物(刺激応答性化合物):7.93mmol、アクリル酸メチル:24mmol、2−ブロモイソブチル酸エチル:0.25mmol、メチルヒドロシロキサンのホモポリマー(重量平均分子量:2000):0.6mmol、および、N,N,N’,N’’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミン:0.25mmolを、アニソール:2.5mLに溶解した溶液(変形材料)をインクジェット法により付与した以外は、前記実施例1と同様にしてアクチュエーター、駆動装置を製造した。
【0260】
(実施例3)
可撓性を有する基材として、厚さ:0.1mmのポリエチレンテレフタレート(帝人デュポン社製)製のシート材を用いた以外は、前記実施例1と同様にしてアクチュエーター、駆動装置を製造した。
【0261】
(実施例4)
可撓性を有する基材として、厚さ:0.1mmのエラストマー(アロン化成社製、AR−760)製のシート材を用いた以外は、前記実施例1と同様にしてアクチュエーター、駆動装置を製造した。
【0262】
(実施例5)
刺激応答性化合物として、下記式(32)で表される化合物を用いた以外は、前記実施例1と同様にしてアクチュエーター、駆動装置を製造した。
【0263】
【化21】
【0264】
(実施例6)
刺激応答性化合物として、下記式(33)で表される化合物を用いた以外は、前記実施例1と同様にしてアクチュエーター、駆動装置を製造した。
【0265】
【化22】
【0266】
(実施例7)
導電性膜の化学修飾に用いる化合物(化学修飾剤)としての、上記式(50)で表される化合物(ただし、式(50)中のnが15である化合物)を用いた以外は、前記実施例1と同様にしてアクチュエーター、駆動装置を製造した。
【0267】
(実施例8)
変形材料層の構成成分としてのアクリル酸メチルの代わりに、メタクリル酸メチルを用いた以外は、前記実施例1と同様にしてアクチュエーター、駆動装置を製造した。
【0268】
(実施例9)
変形材料層の構成成分としてのアクリル酸メチルの代わりに、アクリル酸イソプロピルを用いた以外は、前記実施例1と同様にしてアクチュエーター、駆動装置を製造した。
【0269】
(比較例1)
化学修飾工程を省略し、導電性膜を構成するAu(金属材料)と刺激応答性化合物との間に共有結合を有さないものとした以外は、前記実施例1と同様にしてアクチュエーター、駆動装置を製造した。
【0270】
前記各実施例および比較例のアクチュエーターの構成を表1にまとめて示す。なお、表1中、ポリフッ化ビニリデンを「PVdF」、ポリエチレンテレフタレートを「PET」、エラストマー(アロン化成社製、AR−760)を「AR760」、化学修飾剤としての上記式(50)で表される化合物(ただし、式(50)中のnが9である化合物)を「50a」、化学修飾剤としての上記式(50)で表される化合物(ただし、式(50)中のnが15である化合物)を「50B」、上記式(17)で表される刺激応答性化合物を「C17」、メチルヒドロシロキサンのホモポリマーを「PS1」、メチルヒドロシロキサンとジメチルヒドロシロキサンとのコポリマーを「PS2」、上記式(32)で表される刺激応答性化合物を「C32」、上記式(33)で表される刺激応答性化合物を「C33」、アクリル酸メチルを「MA」、メタクリル酸メチルを「MMA」、アクリル酸イソプロピルを「IPA」で示した。また、表中、変形材料層についての、構成材料の欄には、重合に用いられた成分(構成成分)を示し、含有率の欄には、これらの配合比を示した。また、前記各実施例のアクチュエーターでは、変形材料層を構成する刺激応答性化合物(重合後の化合物)の重量平均分子量は、いずれも、3000以上10000以下の範囲内の値であった。また、前記各実施例のアクチュエーターでは、変形材料層の導電率は、いずれも、1S/cm以上であった。
【0271】
【表1】
【0272】
[2]アクチュエーターの評価
[2.1]変形量
25℃の環境下で、
図1に示す状態から
図2に示すように通電方向を逆転させ、レーザー変位計を用いて、アクチュエーターの図中右側の端部から2mm離れた箇所(アクチュエーターの中心点から図中右方向へ8mm離れた箇所)でのアクチュエーター湾曲方向(
図1、
図2中の上下方向)の変位を観測し、以下の基準に従い評価した。なお、印加電圧は3Vとした。
【0273】
A:変位量が10mm以上。
B:変位量が5mm以上10mm未満。
C:変位量が3mm以上5mm未満。
D:変位量が1mm以上3mm未満。
E:変位量が1mm未満。
【0274】
[2.2]導電性膜と変形材料層との密着性の評価
実施例および比較例のアクチュエーターについて、25℃の環境下で、印加電圧:10V、周波数:10Hzという条件で電圧を印加し、30分間連続して湾曲運動を繰り返し行った。
【0275】
その後、導電性膜と変形材料層との界面を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、導電性膜と変形材料層との密着状態を以下の基準に従い評価した。
【0276】
A:導電性膜と変形材料層とがしっかりと密着しており、浮き・剥がれが全く認め
られない。
B:導電性膜と変形材料層とが密着しており、浮き・剥がれがほとんど認められな
い。
C:導電性膜と変形材料層との間に、わずかに浮き・剥がれが認められる。
D:導電性膜と変形材料層との間に、はっきりと浮き・剥がれが認められる。
E:導電性膜と変形材料層との間に、顕著に浮き・剥がれが認められる。
これらの結果を表2にまとめて示す。
【0277】
【表2】
【0278】
表2から明らかなように、本発明のアクチュエーターは、低電圧印加時の変形量が十分に大きいものであるとともに、導電性膜と変形材料層との密着性に優れており、耐久性、信頼性の高いものであった。
【0279】
特に、ポリシロキサン結合を有する化合物として、メチルヒドロシロキサンのホモポリマーを用いた実施例では、ポリシロキサン結合を有する化合物中における、刺激応答性化合物や金属材料との反応点をより多いものとすることができ、アクチュエーターの耐久性等をさらに優れたものとすることができた。また、架橋成分として機能する刺激応答性化合物の配合比を調整することにより、刺激応答性化合物およびポリシロキサン結合を有する化合物(主鎖を構成する成分)を構成成分として含む高分子中における架橋度を容易かつ確実に調整することができた。
【0280】
また、ポリシロキサン結合を有する化合物として、メチルヒドロシロキサンとジメチルヒドロシロキサンとを構成成分として含むコポリマーを用いた実施例では、アクチュエーターの硬度、柔軟性を最適なものとすることができた。
【0281】
また、基材としてポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレートを用いた実施例では、柔軟性を特に優れたものとし、変形量をより大きいものとすることができた。このような効果は、基材がポリフッ化ビニリデンで構成された実施例においてより顕著に発揮された。
【0282】
また、基材としてエラストマーで構成されたものを用いた実施例では、アクチュエーターが湾曲した状態から湾曲していない状態に移行する時間をより効果的に短縮することができ、アクチュエーターの動作性が特に優れたものであった。また、特定の方向への変形性(変形のし易さ)を特に優れたものとすることができ、不本意な方向への変形をより効果的に防止することができた。
これに対し、比較例では、満足な結果が得られなかった。