【解決手段】本発明のスカンジウムの分離方法は、スカンジウムを含有し、pHが4未満の酸性水溶原液を準備する工程(ステップS1)と、酸性水溶原液とアルカリとを混合して、pHを4以上7以下の範囲に調整することにより、第1酸性水溶液を生成する工程(ステップS2)と、第1酸性水溶液と、カルボン酸及び/またはカルボン酸塩を抽出剤として含む有機溶媒とを接触させて、第1酸性水溶液中のスカンジウムを前記有機溶媒に移動することにより、スカンジウム含有有機溶媒を生成する工程(ステップS3)と、スカンジウム含有有機溶媒と、第2酸性水溶液とを接触させて、スカンジウム含有有機溶媒中のスカンジウムを第2酸性水溶液に移動することにより、スカンジウム含有水溶液を生成する工程(ステップS4)とを備える。
前記酸性水溶原液は、チタン、ジルコニウム、バナジウム及びスカンジウム以外の希土類元素から選ばれる少なくとも一種の金属イオンをさらに含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載のスカンジウムの分離方法。
前記酸性水溶原液は、スカンジウムを含む水性スラリーと酸とを混合して、pHを2以下に調整した水溶液である、請求項1〜10のいずれか1項に記載のスカンジウムの分離方法。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0027】
(実施の形態1)
図1及び
図2を参照して、本発明の実施形態1のスカンジウムの分離方法について説明する。
【0028】
(準備工程)
まず、
図1及び
図2に示すように、スカンジウムを含有し、pHが4未満の酸性水溶原液を準備する(ステップS1:準備工程)。酸性水溶原液は、スカンジウムを含有していれば特に限定されず、例えばスカンジウムイオンを含む酸性水溶液、水酸化スカンジウム、酸化スカンジウムを含むスラリー等のスカンジウムを含む酸性水溶液等である。また、酸性水溶原液のpHは4未満であり、品質の安定性の観点から3以下が好ましく、2以下がさらに好ましく、1以下がさらに一層好ましい。酸性水溶原液中において、スカンジウムはイオンとして安定的に存在する。
【0029】
酸性水溶原液には、スカンジウムのほかに、スカンジウム以外の希土類元素(イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム)を含んでいてもよく、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀等の遷移金属元素を含んでいてもよく、トリウム、ウラン等の放射性元素を含んでいてもよく、そのほかのアルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、亜鉛、カドミウム等の周期表第12族元素、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム等の周期表第13族元素、ケイ素、ゲルマニウム、スズ等の周期表第14族元素、リン、ヒ素、アンチモン、ビスマス等の周期表第15族元素、セレン、テルル等の周期表第16族元素、フッ素、塩素等の周期表第17族元素等の典型元素を含んでいてもよい。スカンジウムのほかにチタン、ジルコニウム、バナジウム及びスカンジウム以外の希土類元素から選ばれる少なくとも一種の金属イオンを含む酸性水溶原液は、効果が得られやすいため好適に用いられる。
【0030】
酸性水溶原液中のスカンジウムの濃度には特段の制限はなく、収量の関係では高いものが好ましく、500〜50000mg/L程度がより好ましい。なお、スカンジウム濃度は低くてもよく、例えば10〜500mg/L程度でも本実施の形態の分離方法においてスカンジウムを分離することができる。
【0031】
酸性水溶原液中のスカンジウム以外の元素(不純物)の濃度にも特段の制限はないが、スカンジウムの分離をしやすくするためには不純物成分が少なく、その濃度が低いものが好ましい。酸性水溶原液がチタン、ジルコニウム及びバナジウムを含んでいる場合には、それぞれ1000mg/L以下程度がより好ましく、0mg/Lであることがより一層好ましい。さらに、酸性水溶原液がスカンジウム以外の希土類元素を含んでいる場合には、それぞれ1000mg/L以下程度がより好ましく、0mg/Lであることがより一層好ましい。
【0032】
酸性水溶原液は、スカンジウムを含む酸性水溶液を用いたり、その溶液を粗精製処理した酸性水溶液を用いたり、水酸化スカンジウム、酸化スカンジウム等を含むスラリーに酸を混合して酸性水溶液を調製することにより準備できる。酸性水溶原液として、例えば、次のような酸性水溶液を用いることができ、スカンジウムを多く含む観点から、鉱石を酸で溶解した水溶液及び/または鉱石の残滓を酸で溶解した水溶液が好ましく、スカンジウムを含む水性スラリーと酸とを混合して、pHを2以下に調整した水溶液がより好ましい。
(1)スカンジウムを含む鉱石等の材料を酸で溶解した酸性水溶液
(2)スカンジウムを含む鉱石等の材料を酸で溶解した液を加水分解または中和して他の金属成分を精製した後の酸性水溶液、あるいは他の金属成分を精製した後の残滓を酸で溶解した酸性水溶液
(3)スカンジウムを含む鉱石等の材料を予めアルカリで溶解することにより不純物を低減した後に、不純物を低減した材料に酸を混合した酸性水溶液
(4)上記(1)〜(3)の酸性水溶液に含まれるスカンジウムをイオン交換樹脂で吸着溶離したり、沈殿分離するなどしてスカンジウムを粗精製した後の酸性水溶液
(5)上記(1)〜(3)の酸性水溶液に含まれるスカンジウムをイオン交換樹脂で吸着溶離したり、沈殿分離するなどしてスカンジウムを粗精製した水酸化スカンジウム、酸化スカンジウム等を含むスラリーに酸を混合して得られた酸性水溶液
スカンジウムを含む材料としては、水溶性であってもよく、難溶性(不溶性を含む)であってもよく、例えば、種々の鉱石、鉱石から他の金属成分を精錬した後の残滓の他に、スカンジウムを含むアルミニウム合金、ニッケル・アルカリ蓄電池の陽極、メタルハライドランプ、固体酸化物燃料電池の電解質、スカンジア安定化ジルコニア等のセラミックス等の各種材料や廃棄物を使用することができる。
【0033】
鉱石としては、例えば、トルトベイト石、金鉱石、銀鉱石、銅鉱石、鉛鉱石、ビスマス鉱石、スズ鉱石、アンチモン鉱石、水銀鉱石、亜鉛鉱石、鉄鉱石、クロム鉱石、マンガン鉱石、タングステン鉱石、モリブデン鉱石、ヒ素鉱石、ニッケル鉱石、コバルト鉱石、ウラン鉱石、トリウム鉱石、リン鉱石、硫黄鉱石、バリウム鉱石、カルシウム鉱石、マグネシウム鉱石、ストロンチウム鉱石、ベリリウム鉱石、アルミニウム鉱石、チタン鉱石等が挙げられ、鉄鉱石、ニッケル鉱石、チタン鉱石、マンガン鉱石、スズ鉱石、アルミニウム鉱石等のスカンジウムを多く含んでいる鉱石が好ましい。
【0034】
鉱石等の材料を溶解する酸あるいは酸性に調整する酸は、制限なく用いることができ、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸、王水等の無機酸や酢酸等の有機酸を用いることができる。また、鉱石等の材料を酸で溶解した液を加水分解したり中和したりして他の金属成分を精錬した後の液を、鉱石等の材料を溶解する酸あるいは酸性に調整する酸として用いることもできる。このような他の金属成分を精錬した後の液として、例えば、ラテライト鉱のニッケル酸化鉱に硫酸を添加して加圧浸出することによって得られる浸出液、その浸出液からニッケル成分を取り出した後の液を用いることができる。また、ルチル鉱、チタン鉄鉱等のチタン鉱石や鉄鉱石に硫酸、塩酸、硝酸、フッ酸、王水等の無機酸、酢酸等の有機酸の酸で溶解した溶解液、その溶解液を加水分解、中和してチタン成分、鉄成分を取り出した後の液等を、鉱石等の材料を溶解する酸あるいは酸性に調整する酸として用いることができる。また、鉱石中の他の金属を塩素化し気体として取り出した後の残滓を酸で溶解した液を、鉱石等の材料を溶解する酸あるいは酸性に調整する酸として用いることができ、例えば、ルチル鉱、チタン鉄鉱等のチタン鉱石や鉄鉱石を塩素ガスで塩素化し塩化チタン、塩化鉄を取り出した後の残滓を硫酸、塩酸、硝酸、フッ酸、王水等の無機酸、酢酸等の有機酸の酸で溶解した溶解液、その溶解液を加水分解してチタン成分、鉄成分を取り出した後の液等を用いることができる。
【0035】
一方、鉱石等の材料をアルカリで溶解する場合は、スカンジウムはアルカリには溶解し難く、ほとんどが固体成分として残るため、そのアルカリ性溶解液、または、そのアルカリ性溶解液を加水分解や中和して他の金属を取り出した後のアルカリ性液等から、スカンジウムを含む固体成分を分離し、当該固体成分に酸を混合してpHを酸性にして酸性水溶原液とすることができる。鉱石等の材料を溶解するアルカリは、制限なく用いることができ、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、アンモニア、アミン類等を用いることができる。鉱石等の材料をアルカリで溶解した後にpHを酸性に調整する酸は、制限なく用いることができ、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸、王水等の無機酸や酢酸等の有機酸を用いることができ、上記の鉱石等の材料を溶解した酸性水溶液を用いてもよい。
【0036】
スカンジウムの粗精製は、上述した酸性水溶液を用いて、それに含まれるスカンジウムを従来の方法で、例えば、イオン交換樹脂で吸着し、次いで、イオン交換樹脂から溶離によって、あるいは、pH調整などして沈殿分離処理して得られた水酸化スカンジウム、酸化スカンジウム等を水に分散するなどして、スカンジウムの濃度を高めることができる。このように粗精製した液と酸とを加えて4未満にpH調整した溶液も酸性水溶原液として用いることができる。
【0037】
(pH調整工程)
次に、
図1及び
図2に示すように、酸性水溶原液とアルカリとを混合して、pHを4以上7以下の範囲に調整することにより、第1酸性水溶液を生成する(ステップS2:pH調整工程)。この工程(ステップS2)を実施することで得られる第1酸性水溶液は、
図2に示すように、水酸化物として存在するSc(OH)
3及びイオンとして存在するSc
3+と、酸性水溶原液からの不純物とを含む。
【0038】
この工程(ステップS2)においてpHを4以上7以下にすることによって、後述する有機溶媒抽出工程(ステップS3)においてスカンジウムが主に抽出されると共に、不純物の抽出を低減できる。pHが4未満であると、スカンジウムの抽出量が大幅に減少し、分離できるスカンジウムの収率が低下する。pHが7より高いと、後述する有機溶媒抽出工程(ステップS3)において不純物の抽出量が増加し、スカンジウムの分離効率が低下する。この観点から、pHを5以上7以下の範囲に調整することが好ましく、詳細には、pHを5.0以上6.5以下の範囲に調整することが好ましく、6.0以上6.5以下の範囲に調整することがさらに好ましい。
【0039】
pHを調整するためのアルカリとしては、アルカリ性を呈するものであれば制限なく用いることができ、固体であっても液体であってもよい。このようなアルカリは、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム等のアルカリ土類金属水酸化物、アンモニア、アミン類等を用いることができる。
【0040】
(有機溶媒抽出工程)
次に、
図1及び
図2に示すように、第1酸性水溶液と、カルボン酸及び/またはカルボン酸塩(以下、カルボン酸系抽出剤とも言う)を抽出剤として含む有機溶媒とを接触させて、第1酸性水溶液中のスカンジウムを有機溶媒に移動することにより、スカンジウム含有有機溶媒を生成する(ステップS3:有機溶媒抽出工程)。具体的には、このステップS3では、カルボン酸及び/またはその塩を抽出剤として含む有機溶媒と、第1酸性水溶液とを混合して、スカンジウムと抽出剤とから形成される錯体を有機溶媒に抽出する。
【0041】
ステップS3を実施することにより、スカンジウムを含有する有機溶媒(スカンジウム含有有機溶媒)と、スカンジウムを含有しなくなった第1酸性水溶液(抽出後の第1酸性水溶液)とが生成される。有機溶媒中のスカンジウムとカルボン酸系抽出剤とがカルボン酸スカンジウムの錯体を形成し、この錯体は有機溶媒に可溶であるので、錯体が有機溶媒に移動する。つまり、スカンジウム含有有機溶媒は、有機溶媒中の抽出剤と第1酸性水溶液中のスカンジウムイオンとにより生成されたカルボン酸スカンジウムと、不純物とを含有する。しかし、不純物の多くは抽出後の第1酸性水溶液中に残り、スカンジウム含有有機溶媒中に移動する不純物は、pH調整工程(ステップS2)における第1酸性水溶液中の不純物よりも少ない。
【0042】
カルボン酸は、カルボキシ基を有する有機化合物であり、カルボン酸塩は、ナトリウム、カリウム、アンモニウム等の塩と、カルボン酸のカルボキシル基とが反応してなる。カルボン酸系抽出剤は、スカンジウムと錯体を形成するものであれば特に限定されず、例えば、ネオデカン酸(バーサティック酸系)、ナフテン酸系、オレイン酸系、ラウリン酸系等の公知の抽出剤を用いることができ、スカンジウムをより効果的に抽出できる観点から、ナフテン酸及び/またはネオデカン酸が好ましく用いられる。
【0043】
カルボン酸系抽出剤の割合は適宜設定することができ、有機溶媒に対して1〜50質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましい。
【0044】
また、有機相(スカンジウム含有有機溶媒)と水相(抽出後の第1酸性水溶液)との界面に第三相が生成することを抑制するために、有機溶媒に改質剤を添加してもよい。改質剤としては、ノニルフェノール、1−デカノール、イソデカノール、1−オクタノール、2−エチルヘキサノール等の長鎖アルキル化合物や、リン酸トリブチル(TBP)、トリオクチルホスフェート(TOP)、トリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)等のリン酸アルキル化合物、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、第4級アンモニウム塩等のアミン類等が一例として挙げられる。第三相生成が抑制できるだけでなく、後述する逆抽出工程(ステップS4)でスカンジウムの回収率を向上することができるため、リン酸トリブチルが好ましく用いられる。改質剤の添加量は適宜設定することができ、有機溶媒に対して1〜50質量%が好ましく、5〜40質量%がより好ましい。
【0045】
スカンジウムの溶媒抽出操作は、任意の液液接触装置を用いて、カルボン酸系抽出剤や必要に応じて改質剤を含む有機溶媒と酸性水溶原液とを適当な温度で一定時間、公知の手順で液液接触させ、次いで静置分離または遠心分離によって抽出剤相と水溶液相とに分離することにより行うことができる。液液接触装置としては、例えば遠心抽出機、ミキサー、振とう機、分液漏斗、多段式の液液接触装置、より具体的には向流多段のミキサーセトラー抽出装置が挙げられ、連続法及び回分法のいずれであってもよい。また、処理温度は、抽出操作前の酸性水溶原液及び抽出剤の温度を保持するように設定することが好ましいが、有機溶媒の引火点、相分離速度、抽出剤相の安定性などの点から、20〜70℃に保つのが好ましい。溶媒抽出は1回に限ることはなく、数回に分けて行ってもよい。
【0046】
有機溶媒としては特に制限なく用いることができ、例えば、トルエン、ベンゼン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、アミルベンゼン、ジアミルベンゼン、アミルトルエン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、o−ジクロロベンゼン、o−クロロトルエン、p−クロロトルエン等の芳香族系炭化水素化合物類;ケロシン、n−ペンタン、n−ヘキサン、イソヘキサン、n−ヘプタン、イソヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、n−デカン、n−ドデカン、シクロヘキサン、クロロホルム、テトラクロロメタン、クロロエタン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、2−クロロプロパン、1,2−ジクロロプロパン、1,2,3−トリクロロプロパン、1−クロロヘキサン、石油エーテル、石油ベンジン、リグロイン、n−パラフィン等の脂肪族系炭化水素化合物類;アイソパー(エクソン モービル コーポレーション社の登録商標)、ソルベッソ(エクソン モービル コーポレーション社の登録商標)、エクソール(エクソン モービル コーポレーション社の登録商標)等の工業用希釈剤などが一例として挙げられる。また、これらの有機溶媒は1種または2種以上を混合して使用してもよい。
【0047】
(逆抽出工程)
次に、
図1及び
図2に示すように、スカンジウム含有有機溶媒と、第2酸性水溶液とを接触させて、スカンジウム含有有機溶媒中のスカンジウムを第2酸性水溶液に移動することにより、スカンジウム含有水溶液を生成する(ステップS4:逆抽出工程)。具体的には、このステップS4では、有機溶媒抽出工程(ステップS3)で抽出したスカンジウムを含む有機溶媒(スカンジウム含有溶媒)と第2酸性水溶液とを混合して、スカンジウムを第2酸性水溶液に逆抽出して精製と濃縮とを行う。ステップS4を実施することにより、スカンジウムを含有する第2酸性水溶液(スカンジウム含有水溶液)と、スカンジウムを含有しなくなった有機溶媒(逆抽出後の有機溶媒)とが生成される。スカンジウム含有水溶液は、第2酸性水溶液によってスカンジウム含有有機溶媒中のスカンジウムから生成されるスカンジウムイオンと、スカンジウム含有有機溶媒中の一部の不純物とを含有する。このスカンジウム含有水溶液中の不純物は、有機溶媒抽出工程(ステップS3)のスカンジウム含有有機溶媒中の不純物よりも少ない、または同程度である。つまり、スカンジウム含有水溶液中の不純物は、準備工程(ステップS1)における酸性水溶原液及びpH調整工程(ステップS2)における第1酸性水溶液中の不純物よりも少ない。
【0048】
第2酸性水溶液は、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸、酢酸等の有機酸を用いることができる。スカンジウムの逆抽出操作は、液液接触装置を用いて、有機溶媒と第2酸性水溶液とを適当な温度で一定時間、公知の手順で液液接触させ、次いで静置分離または遠心分離によって水溶液相(スカンジウム含有水溶液)と有機相(逆抽出後の有機溶媒)とに分離することにより行うことができる。液液接触装置としては、例えば遠心抽出機、ミキサー、振とう機、分液漏斗、多段式の液液接触装置、より具体的には向流多段のミキサーセトラー抽出装置や遠心抽出機が挙げられ、連続法及び回分法のいずれであってもよい。逆抽出は1回に限ることはなく、数回に分けて行ってもよい。また、有機溶媒抽出工程(ステップS3)及び逆抽出工程(ステップS4)は1回に限ることはなく、数回繰り返することによりスカンジウムの濃度を高めることができるため好ましい。このようにして、有機溶媒抽出工程(ステップS3)及び逆抽出工程(ステップS4)を行うと、スカンジウムの純度は例えば99.0質量%以上となり、好ましくは99.5質量%以上とすることができる。
【0049】
(析出工程)
次に、
図1及び
図2に示すように、スカンジウム含有水溶液と、析出剤とを接触させて、スカンジウム化合物を析出する(ステップS5:析出工程)。具体的には、逆抽出工程(ステップS4)において逆抽出したスカンジウム含有水溶液と析出剤を含有する水溶液とを混合することによりスカンジウムを析出させ、スカンジウムを沈殿物として回収する。このステップS5を実施することにより、スカンジウム含有水溶液中のスカンジウムと析出剤とが反応して、沈殿物としてのスカンジウム化合物が生成される。混合溶液中には、スカンジウム含有水溶液中の不純物は維持されるが、スカンジウム含有水溶液中に含有される不純物は低減されているので、沈殿物中に含有される不純物を低減できる。なお、不純物は、基本的には混合溶液中にイオンとして存在する。
【0050】
析出剤は、スカンジウムを析出するものであれば特に限定されないが、スカンジウムの析出が容易である観点から、カルボン酸及び/またはカルボン酸塩(以下、カルボン酸系析出剤とも言う)であることが好ましい。また、スカンジウム含有水溶液と接触させる析出剤は、固体の状態で用いてもよく、析出剤を含む水溶液として用いてもよい。
【0051】
カルボン酸系析出剤として、例えば、ギ酸(メタン酸)、酢酸(エタン酸)、プロピオン酸(プロパン酸)、酪酸(ブタン酸)、吉草酸(ペンタン酸)、カプロン酸(ヘキサン酸)、エナント酸(ヘプタン酸)、カプリル酸(オクタン酸)等の脂肪酸、乳酸(2−ヒドロキシプロパン酸)、リンゴ酸(2−ヒドロキシブタン二酸)、クエン酸(2−ヒドロキシプロパントリカルボン酸)等のヒドロキシ酸、シュウ酸(エタン二酸)、マロン酸(プロパン二酸)、コハク酸(ブタン二酸)グルタル酸(ペンタン二酸)、アジピン酸(ヘキサン二酸)、フマル酸((E)−ブタ−2−エン二酸)、マレイン酸((Z)−ブタ−2−エン二酸)等のジカルボン酸等やそれらの塩を用いることができ、シュウ酸等のジカルボン酸及び/またはその塩が好ましい。
【0052】
なお、析出剤は、カルボン酸系析出剤に特に限定されず、炭酸ガス、炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム等の炭酸塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム等のアルカリ塩であってもよい。
【0053】
スカンジウムに対するカルボン酸系析出剤の割合は、1.0〜5.0モルが好ましく、1.5〜3.0モルがより好ましい。
【0054】
スカンジウムの析出操作は、析出装置を用いて、スカンジウムと析出剤とを適当な温度で一定時間、公知の手順で接触させて反応させる。得られた沈殿物はスカンジウム化合物であり、カルボン酸系析出剤を用いる場合の沈殿物はカルボン酸スカンジウムの化合物である。このスカンジウム化合物は、必要に応じて分別して回収する。分別操作は通常の装置で行うことができ、濾過機、静置分離機、遠心分離機等を用いることができる。
【0055】
このようにして、有機溶媒抽出工程(ステップS3)、逆抽出工程(ステップS4)及び析出工程(ステップS5)を行うと、スカンジウムの純度を例えば99.3質量%以上とすることができ、好ましくは99.7質量%以上、より好ましくは99.9質量%とすることができる。特に、トリウム、ウラン等を含む酸性水溶原液から、高純度にスカンジウムを分離することができる。
【0056】
(乾燥/焼成工程)
次に、
図1に示すように、スカンジウム化合物を乾燥及び/または焼成する(ステップS6:乾燥/焼成工程)。この工程(ステップS6)では、析出工程(ステップS5)で得られた沈殿物を乾燥及び/または焼成することにより、酸化スカンジウム等の粉末として回収することができる。なお、この工程(ステップS6)は省略されてもよい。
【0057】
乾燥条件及び/または焼成条件は適宜設定することができ、例えば、乾燥温度は80〜150℃程度が適当であり、乾燥時間は1〜24時間程度が適当である。また、例えば、焼成温度は300〜1200℃程度であり、焼成時間は1〜24時間程度が適当である。
【0058】
続いて、本実施の形態のスカンジウムの分離方法において、pH調整工程(ステップS2)及び有機溶媒抽出工程(ステップS3)での反応機構について説明する。
【0059】
pH調整工程(ステップS2)において、酸性水溶原液とアルカリとを混合して、pHを4以上7以下に調整すると、下記の化学式1の右側への析出反応が起こる。
Sc
3++3OH
-⇔Sc(OH)
3・・・・(化学式1)
【0060】
化学式1は平衡状態であるので、第1酸性水溶液中の全てのスカンジウムがSc(OH)
3として沈殿しているのではなく、第1酸性水溶液中に溶解するSc
3+としても存在している。
【0061】
有機溶媒抽出工程(ステップS3)におけるカルボン酸系抽出剤を用いたスカンジウムの抽出では、下記の化学式2に示すように、スカンジウムイオンとカルボン酸系抽出剤とが錯体を形成する。
Sc
3++3HA⇔ScA
3+3H
+・・・・(化学式2)
なお、化学式2中、HAはプロトン(H
+)を有する抽出剤であり、Aは炭素を含むアルキル基であり、ネオデカン酸の場合のA
-はC
9H
19COO
-である。
【0062】
この錯体(ScA
3)は有機溶媒に可溶であるので、
図2のS3に示すように、錯体が有機相に移動する。化学式2の右側への反応が促進されることによって、第1酸性水溶液中のスカンジウムを有機溶媒に移動することができる。
【0063】
ここで、化学式2において平衡が右に移動し、スカンジウムの抽出が起こるためには、抽出剤のプロトンが解離している必要がある。
【0064】
有機溶媒中ではプロトンは解離せず、有機溶媒抽出工程(ステップS3)において、抽出剤(HA)と第1酸性水溶液中のSc
3+とが接触した時点で、下記の化学式3の反応が生じる。
HA⇔A
-+H
+・・・・(化学式3)
【0065】
化学式3において、pHが高いほど平衡は右に移動し、スカンジウムイオンと錯体を形成できるA
-が多くなる。pH調整工程(ステップS3)において酸性水溶原液のpHを4未満とすると、プロトンの解離が十分でなく、スカンジウムの抽出量が低下する。つまり、準備工程(ステップS1)で準備した第1酸性水溶液のpHが4未満の場合、第1酸性水溶原液と有機溶媒とを接触させると、プロトンの解離が十分でないため、スカンジウムの抽出量が低下する。このため、本実施の形態では、pH調整工程(ステップS2)において、第1酸性水溶原液とアルカリとを混合して、第1酸性水溶液のpHを4以上に調整することにより、化学式2において右側への反応を促進している。
【0066】
なお、pHが7を超える酸性水溶原液と有機溶媒とを接触させると、スカンジウムの抽出量が増えると共に、スカンジウム以外の不純物の抽出量の増えてしまう。このため、本実施の形態では、pH調整工程(ステップS2)において、第1酸性水溶原液とアルカリとを混合して、第1酸性水溶液のpHを7以下に調整している。
【0067】
化学式2で溶解しているSc
3+が有機溶媒に抽出されると、系内のSc
3+が減少し、化学式1の平衡が左へ移動する。このため、化学式1における左側の反応、つまり、Sc(OH)
3の一部が溶解してSc
3+が生じる反応が起こる。したがって、化学式2の右側への反応が促進され続けるとともに、pH調整工程(ステップS2)で水酸化物として存在するスカンジウムも有機溶媒に抽出されるので、高精度にスカンジウムの錯体(カルボン酸スカンジウム)を生成できる。
【0068】
以上説明したように、本実施の形態におけるスカンジウムの分離方法は、スカンジウムを含有し、pHが4未満の酸性水溶原液を準備する工程(ステップS1)と、酸性水溶原液とアルカリとを混合して、pHを4以上7以下の範囲に調整することにより、第1酸性水溶液を生成する工程(ステップS2)と、第1酸性水溶液と、カルボン酸及び/またはカルボン酸塩を抽出剤として含む有機溶媒とを接触させて、第1酸性水溶液中のスカンジウムを有機溶媒に移動することにより、スカンジウム含有有機溶媒を生成する工程(ステップS3)と、スカンジウム含有有機溶媒と、第2酸性水溶液とを接触させて、スカンジウム含有有機溶媒中のスカンジウムを第2酸性水溶液に移動することにより、スカンジウム含有水溶液を生成する工程(ステップS4)とを備えている。
【0069】
本実施の形態におけるスカンジウムの分離方法によれば、準備工程(ステップS1)においてスカンジウムを含む原料として、pHが4未満の酸性水溶原液を準備している。このため、難溶性のスカンジウム原料を用いても、酸性水溶原液中にスカンジウムイオンとして溶解させることができるので、酸性水溶原液中のスカンジウムの含有量の低下を抑制できる。このスカンジウムの含有量の低下を抑制した酸性水溶原液を用いて、有機溶媒抽出工程(ステップS3)前に、アルカリを用いてpHを4以上7以下の範囲に調整し、抽出剤としてナフテン酸、ネオデカン酸等のカルボン酸及び/またはその塩を用いて溶媒抽出することにより、チタン、ジルコニウム、バナジウムなど、及びスカンジウム以外の希土類元素等の不純物の抽出を低く抑えることができる。この効果は、本発明者らが鋭意検討した結果、上述したpH調整工程(ステップS2)及び有機溶媒抽出工程(ステップS3)での反応機構の知見に想到し、見出した効果である。このため、特許文献1のようにスクラビング工程を実施しなくても、不純物を低減してスカンジウムを分離できる。また、抽出したスカンジウムを含有するスカンジウム含有有機溶媒と、硫酸、塩酸等の第2酸性水溶液とを接触させることにより、スカンジウムを第2酸性水溶液に移動することができる。したがって、生産性を向上してスカンジウムを分離することができる。
【0070】
また、本実施の形態のスカンジウムの分離方法において好ましくは、スカンジウム含有水溶液と、析出剤とを接触させて、スカンジウム化合物を析出する工程(ステップS5)をさらに備える。これにより、逆抽出工程(ステップS4)で得られたスカンジウム含有水溶液に、シュウ酸等のカルボン酸及び/またはその塩等を析出剤として混合しスカンジウム化合物を析出させることができるので、生産性を向上してスカンジウムを分離することができる。
【0071】
また、本実施の形態のスカンジウムの分離方法において好ましくは、スカンジウム化合物を乾燥及び/または焼成する工程(ステップS6)をさらに備える。これにより、酸化スカンジウム等の粉末として回収することができる。
【0072】
逆抽出工程(ステップS4)を実施することにより分離されたスカンジウム含有水溶液と、ジルコニウム水溶液との混合により共沈殿物を形成させ、それを焼成してスカンジア安定化ジルコニアを製造することができる。また、乾燥/焼成工程(ステップS6)を実施することにより分離されたスカンジウムが水酸化スカンジウム、酸化スカンジウム等の粉末であれば、この粉末を、酸化ジルコニウムと混合し焼成してスカンジア安定化ジルコニアを製造することができる。本実施の形態におけるスカンジウムの分離方法によれば、生産性を向上しつつ、不純物を低減して純度が高くなるようにスカンジウムを分離することができる。つまり、本実施の形態におけるスカンジウムの分離方法によれば、高効率かつ簡便にスカンジウムを精製することができる。したがって、本実施の形態により得られたスカンジウムを用いたスカンジア安定化ジルコニアは固体酸化物燃料電池の電解質に有用であり、また、酸化スカンジウムを還元して金属にすることができ、また、ヨウ化してヨウ化スカンジウム等の化合物として用いることもできる。
【0073】
(実施の形態2)
図3及び
図4を参照して、本発明の実施形態2のスカンジウムの分離方法について説明する。
【0074】
まず、
図3及び
図4に示すように、スカンジウムを含有し、pHが4未満の酸性水溶原液を準備する(ステップS1:準備工程)。このステップS1は、実施の形態1と同様であるので、その説明を繰り返さない。
【0075】
次に、
図3及び
図4に示すように、酸性水溶原液とアルカリとを混合して、pHを4以上7以下の範囲に調整することにより、第1酸性水溶液を生成する(ステップS2:pH調整工程)。このステップS2は、実施の形態1と同様であるので、その説明を繰り返さない。
【0076】
次に、
図3及び
図4に示すように、第1酸性水溶液と、カルボン酸及び/またはカルボン酸塩を抽出剤として含む有機溶媒とを接触させて、第1酸性水溶液中のスカンジウムを有機溶媒に移動することにより、スカンジウム含有有機溶媒を生成する(ステップS3:有機溶媒抽出工程)。
【0077】
本実施の形態では、実施の形態1の逆抽出工程(ステップS4:逆抽出工程)を省略し、次に、
図3及び
図4に示すように、スカンジウム含有有機溶媒と、析出剤とを接触させて、スカンジウム化合物を生成する(ステップS5:析出工程)。具体的には、抽出したスカンジウムを含む有機溶媒と析出剤とを混合して、スカンジウムを析出させる。このステップS5を実施することにより、スカンジウム含有有機溶媒中のスカンジウムと析出剤とが反応して、スカンジウム化合物が得られる。本実施の形態の逆抽出工程(ステップS4)は、析出剤と接触させる対象がスカンジウム含有有機溶媒である点において実施の形態1と異なり、それ以外は実施の形態1と同様である。
【0078】
次に、
図3に示すように、スカンジウム化合物を乾燥及び/または焼成する(ステップS6:乾燥/焼成工程)。このステップS6は、実施の形態1と同様であるので、その説明を繰り返さない。なお、このステップS6は省略されてもよい。
【0079】
以上の工程(ステップS1〜S3、S5、S6)を実施することにより、生産性を向上してスカンジウムを分離することができる。このように、有機溶媒抽出工程(ステップS3)の後に、逆抽出工程(ステップS4)を実施せずに、析出工程(ステップS5)を行っても、スカンジウムの純度を例えば99.0質量%以上、好ましくは99.5質量%以上とすることができる。
【実施例】
【0080】
以下、本発明を実施例及び比較例により説明するが、本発明はそれらの実施例に限定されるものではない。
【0081】
(実施例1)
まず、準備工程(ステップS1)として、不純物を含む水酸化スカンジウムを水に分散させ、硫酸を加えてpH1.0に調整し、90℃、3時間加熱することでスカンジウムを溶解させた酸性水溶原液を得た。
【0082】
次に、pH調整工程(ステップS2)として、この酸性水溶原液に水酸化ナトリウムを加えてpH6.5に調整した(第1酸性水溶液:試料A)。
【0083】
次に、有機溶媒抽出工程(ステップS3)として、この酸性水溶原液(水相)100mLと、ネオデカン酸(抽出剤)及びリン酸トリブチル(改質剤)をそれぞれ10質量%及び30質量%の濃度となるようケロシンに溶解させた有機溶剤100mLとを500mL分液漏斗に入れ、20分間縦型振とう機で混合し、スカンジウムを抽出した。振とう後、分液漏斗を静置し、有機相(スカンジウム含有有機溶媒)と水相(抽出後の第1酸性水溶液)とに分離させた。
【0084】
次いで、逆抽出工程(ステップS4)として、スカンジウムを抽出した有機相(スカンジウム含有有機溶媒)80mLと2M硫酸(第2酸性水溶液)20mLとを500mL分液漏斗に入れ、20分間縦型振とう機で混合し、スカンジウムを逆抽出した。振とう後、分液漏斗を静置し、有機相(逆抽出後の有機溶媒)と水相(スカンジウム含有水溶液:試料B)とを分離させた。
【0085】
pH調整工程(ステップS2)後または有機溶媒抽出工程(ステップS3)前の第1酸性水溶液(試料A)及び逆抽出工程(ステップS4)後のスカンジウム含有水溶液(試料B)の各元素濃度を誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES)及び誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)でそれぞれ分析した。その結果をそれぞれ表1及び表2に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
表1及び表2に示すように、有機溶媒抽出工程(ステップS3)及び逆抽出工程(ステップS4)の実施によって、不純物元素が分離され、スカンジウムを高精度に分離できることが分かった。以上より、実施例1のスカンジウムの分離方法によれば、生産性を向上できることが確認できた。
【0089】
(実施例2)
まず、準備工程(ステップS1)として、不純物を含む水酸化スカンジウムを水に分散させ、塩酸を加えてpH1.0に調整し、90℃、3時間加熱することでスカンジウムを溶解させた酸性水溶原液を得た。
【0090】
次に、pH調整工程(ステップS2)として、その水溶液に水酸化ナトリウムを加えてpH6.0に調整した。
【0091】
次に、実施例1と同様に、有機溶媒抽出工程(ステップS3)及び逆抽出工程(ステップS4)を実施して、スカンジウムの抽出及び逆抽出を行い、抽出前の水相(第1酸性水溶液:試料C)及び逆抽出後の水相(スカンジウム含有水溶液:試料D)を得た。
【0092】
pH調整工程(ステップS2)後または有機溶媒抽出工程(ステップS3)前の水相、すなわち第1酸性水溶液(試料C)及び逆抽出工程(ステップS4)後のスカンジウム含有水溶液(試料D)の各元素濃度を誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES)及び誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)でそれぞれ分析した。その結果をそれぞれ表3及び表4に示す。
【0093】
【表3】
【0094】
【表4】
【0095】
表3及び表4に示すように、有機溶媒抽出工程(ステップS3)及び逆抽出工程(ステップS4)の実施によって、不純物元素が分離され、スカンジウムを高精度に分離できることが分かった。以上より、実施例2のスカンジウムの分離方法によれば、生産性を向上できることが確認できた。
【0096】
(実施例3)
実施例3では、析出工程(ステップS5)をさらに実施した。具体的には、実施例1の試料B及び実施例2の試料Dのスカンジウム含有水溶液と、析出剤としてのシュウ酸(スカンジウムに対して1.5モル倍)とを反応槽で混合しスカンジウム化合物としてのシュウ酸スカンジウムを析出させた。
【0097】
次に、スカンジウム化合物を含有する水溶液を濾過し、乾燥し、900℃の温度で焼成して酸化スカンジウムを回収した(試料E及びF)。
【0098】
試料E及びFの各元素濃度を誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES)及び誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)で分析した結果、スカンジウムの純度は99.9質量%であることが分かった。以上より、実施例3のスカンジウムの分離方法によれば、生産性を向上できることが確認できた。
【0099】
さらに、実施例3で得られたシュウ酸スカンジウム沈殿物、その乾燥物、及び焼成した酸化スカンジウムを公知の方法により処理してスカンジア安定化ジルコニアを製造することができることを確認した。さらに、それらは固体酸化物燃料電池の電解質として作用することを確認した。
【0100】
(実施例4)
まず、準備工程(ステップS1)として、不純物を含む水酸化スカンジウムを水に分散させ、硫酸を加えてpH0.5に調整し、スカンジウムを溶解させた。次いでアンモニア水を加えてpH2.5に調整し、90℃、1時間加熱し、チタンなどの不純物を水酸化物として析出させた。これをろ過し、ろ液を回収することで酸性水溶原液を得た。
【0101】
次に、pH調整工程(ステップS2)として、この酸性水溶原液にアンモニア水を加えてpH6.5に調整した(第1酸性水溶液:試料G)。
【0102】
次に、有機溶媒抽出工程(ステップS3)として、この酸性水溶原液(水相)15mLと、ネオデカン酸(抽出剤)及びリン酸トリブチル(改質剤)をそれぞれ10質量%及び30質量%の濃度となるようケロシンに溶解させた有機溶剤15mLとを50mL遠沈管に入れ、20分間縦型振とう機で混合し、スカンジウムを抽出した。振とう後、遠沈管を静置し、有機相(スカンジウム含有有機溶媒)と水相(抽出後の第1酸性水溶液:試料H)とに分離させた。
【0103】
次いで、逆抽出工程(ステップS4)として、スカンジウムを抽出した有機相(スカンジウム含有有機溶媒)10mLと0.4N塩酸(第2酸性水溶液)10mLとを50mL遠沈管に入れ、20分間縦型振とう機で混合し、スカンジウムを逆抽出した。振とう後、遠沈管を静置し、有機相(逆抽出後の有機溶媒)と水相(スカンジウム含有水溶液:試料I)とを分離させた。
【0104】
試料G、試料H及び試料Iの各元素濃度を誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES)で分析した。その結果を表5に示す。
【0105】
【表5】
【0106】
実施例1及び2と同様、有機溶媒抽出工程(ステップS3)及び逆抽出工程(ステップS4)の実施によって、不純物元素が分離され、スカンジウムを高精度に分離できることが分かった。また逆抽出工程でのスカンジウム回収率は90%程度と高い値であった。
【0107】
(実施例5)
有機溶媒抽出工程(ステップS3)において、有機溶剤としてネオデカン酸(抽出剤)のみを10質量%の濃度となるようケロシンに溶解させたものを用いる以外は、実施例4と同様にして準備工程(ステップS1)、pH調整工程(ステップS2)、有機溶媒抽出工程(ステップS3)、逆抽出工程(ステップS4)を実施し、抽出後の第1酸性水溶液(試料J)及び逆抽出後のスカンジウム含有水溶液(試料K)を得た。
【0108】
試料J及び試料Kの各元素濃度を誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES)で分析した。その結果を表6に示す。
【0109】
【表6】
【0110】
有機溶媒に改質剤(リン酸トリブチル)を添加しない場合でも、逆抽出工程(ステップS4)後のスカンジウム含有水溶液中の不純物は低減していたが、実施例5の試料Kは実施例4の試料Iに比べるとスカンジウム濃度は低いことが分かった。実施例5と実施例4の結果から、有機溶媒への改質剤(リン酸トリブチル)の添加は、逆抽出工程(ステップS4)での回収効率の向上に寄与していることが分かった。しかしながら、実施例5の改質剤(リン酸トリブチル)を使用しない場合は、逆抽出工程を複数回繰り返すことによりスカンジウム濃度は高くなり、回収は可能であることを確認した。
【0111】
(比較例1及び2)
実施例1及び2において、それぞれ得た酸性水溶原液をそのpHのまま有機溶媒抽出を行ったこと以外は、実施例1及び2と同様にして、
図2の逆抽出工程(ステップS4)の右側の「Sc含有水溶液」で表した相に対応する相として、比較例1の試料L及び比較例2の試料Mを得た。つまり、比較例1及び2では、pH調整工程(ステップS2)を実施しなかったので、pHが1.0の酸性水溶原液と、カルボン酸系抽出剤を含む有機溶媒とを接触させた。
【0112】
(比較例3及び4)
実施例1及び2において、抽出剤として2−エチルヘキシルホスホン酸−モノ−2−エチルヘキシルを使用したこと以外は実施例1及び2と同様にして、
図2の逆抽出工程(ステップS4)の右側の「Sc含有水溶液」で表した相に対応する相として、比較例3の試料N及び比較例4の試料Oを得た。つまり、比較例3及び4では、pH調整工程(ステップS2)を実施した第1酸性水溶液と、カルボン酸系抽出剤を含まない有機溶媒とを接触させた。
【0113】
逆抽出工程後の水相(試料L〜O)の各元素濃度を誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES)及び誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)でそれぞれ分析した。
【0114】
その結果、比較例1及び2の試料L及びMからはスカンジウムも不純物も検出されず、比較例3及び4の試料N及びOからはスカンジウムは検出されなかったが、イットリウムなどの不純物が検出された。これは、比較例1及び2では水相のpHが低く、スカンジウム及び不純物が有機相(
図2の有機溶媒抽出工程(ステップS3)の右側の「Sc含有有機溶媒」で表した相に対応する相)に抽出されなかったことを示していると考えられる。一方、比較例3及び4ではスカンジウムは不純物と共に有機相(
図2のS3の「Sc含有有機溶媒」で表した相に対応する相)に抽出されたものの、第2酸性水溶液でスカンジウムが逆抽出できなかったことを示していると考えられる。