(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-166383(P2015-166383A)
(43)【公開日】2015年9月24日
(54)【発明の名称】ネラメキサン又はその塩を調製する方法
(51)【国際特許分類】
C07C 209/62 20060101AFI20150828BHJP
C07C 211/35 20060101ALI20150828BHJP
C07C 233/03 20060101ALI20150828BHJP
C07C 231/10 20060101ALI20150828BHJP
A61K 31/13 20060101ALN20150828BHJP
A61P 27/02 20060101ALN20150828BHJP
A61P 27/16 20060101ALN20150828BHJP
【FI】
C07C209/62
C07C211/35
C07C233/03
C07C231/10
A61K31/13
A61P27/02
A61P27/16
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
【外国語出願】
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-106988(P2015-106988)
(22)【出願日】2015年5月27日
(62)【分割の表示】特願2012-530174(P2012-530174)の分割
【原出願日】2010年9月24日
(31)【優先権主張番号】09012283.9
(32)【優先日】2009年9月28日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】61/277,691
(32)【優先日】2009年9月28日
(33)【優先権主張国】US
(71)【出願人】
【識別番号】512042433
【氏名又は名称】メルツ ファーマ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディト ゲゼルシャフト アウフ アクティーン
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100134784
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和美
(72)【発明者】
【氏名】マルクス−レネ ゴルト
(72)【発明者】
【氏名】バレルヤンス カウス
(72)【発明者】
【氏名】アイガルス イルゲンソンズ
【テーマコード(参考)】
4C206
4H006
【Fターム(参考)】
4C206AA04
4C206FA29
4C206KA01
4C206ZA33
4C206ZA34
4H006AA02
4H006AC52
4H006AC53
4H006BC10
4H006BE03
4H006BE06
4H006BJ20
4H006BU42
4H006BV15
(57)【要約】
【課題】1−アミノ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサン又は医薬的に許容し得るその塩を調製する方法において、1又は2以上の公知のリッター反応を改善することにより、経済的且つ工業規模で有利に実現可能な方法を提供すること。
【解決手段】1−アミノ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサン又は医薬的に許容し得るその塩(ネラメキサン)を調製する方法であって、工程(iv):酸、1−ホルムアミド−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサン及びシアン化水素を含む混合物を加水分解し、1−アミノ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサンを生成する工程を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1−アミノ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサン又は医薬的に許容し得るその塩を調製する方法であって、工程(iv):
(iv)酸、1−ホルムアミド−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサン及びシアン化水素を含む混合物を加水分解し、1−アミノ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサンを生成する工程、
を含む方法。
【請求項2】
工程(iv)の前に、工程(iii):
(iii)1−ヒドロキシ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサンを、前記酸の存在下でシアン化水素と反応させ、又は前記酸の存在下でシアン化水素を形成する化合物と反応させ、前記酸、1−ホルムアミド−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサン及びシアン化水素を含む混合物を生成する工程
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸の存在下でシアン化水素を形成する前記化合物が、シアン化水素の塩であるか、又はシアノ基含有ケイ素化合物である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記シアン化水素の塩がシアン化アンモニウム、シアン化ナトリウム及びシアン化マグネシウムから選択され、前記シアノ基含有化合物がシアン化トリアルキルシリルである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記シアン化トリアルキルシリルがシアン化トリメチルシリルである、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記酸が硫酸であるか硫酸を含む、請求項1〜5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
1モル当量の1−ヒドロキシ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサン当たり、1.5から2.5モル当量のシアン化ナトリウム又はシアン化マグネシウム、及び、3から7モル当量の硫酸を使用する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
1モル当量の1−ヒドロキシ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサン当たり、1から2モル当量のシアン化トリメチルシリル、及び、2から4モル当量の硫酸を使用する、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
工程(iv)において酸又は塩基を前記混合物に加える、請求項1〜8の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
工程(iii)及び(iv)をワンポット反応で実施する、請求項1〜9の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
工程(iii)の前記反応を−20℃から30℃の温度範囲内で行う、請求項1〜10の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
工程(iv)の前記加水分解を40℃から1−ホルムアミド−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサンを含む混合物の還流温度までの温度で行う、請求項1〜11の何れか1項に記載の方法。
【請求項13】
更に工程(v):
(v)工程(iv)で得られた1−アミノ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサンを医薬的に許容し得るその塩に変換する工程
を含む、請求項1〜12の何れか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記変換を塩酸又はメタンスルホン酸により行う、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
更に工程(vi):
(vi)工程(v)で形成された前記医薬的に許容し得る塩を結晶化させる工程
を含む、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
1−アミノ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサン又は医薬的に許容し得るその塩を調製する方法であって、工程(iii)及び(iv):
(iii)1−ヒドロキシ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサンを、酸の存在下でシアン化水素と反応させ、又は前記酸の存在下でシアン化水素を形成する化合物と反応させ、前記酸及び1−ホルムアミド−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサンを含む混合物を生成する工程;及び
(iv)工程(iii)の混合物を加水分解し、1−アミノ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサンを生成する工程
を含む方法。
【請求項17】
更に工程(vii):
(vii)工程(iii)から(vi)の何れかにおいて形成されたガス状の化合物をスクラバに供する工程
を含む、請求項1〜16の何れか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1−アミノ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサン(ネラメキサン:Neramexane)又は医薬的に許容し得るその塩を調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1−アミノ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサン(ネラメキサン)及び医薬的に許容し得るその塩は、耳鳴や眼振等の疾病及び状態を患う患者の持続的治療に有効な薬剤である。
【0003】
かかる薬剤を調製する方法は公知である。
【0004】
ある方法は、5つの工程を含む反応シークエンスにより市販のイソホリンをネラメキサンに変換する。その反応スキームを以下に示す(W. Danysz et al., Current Pharmaceutical Design, 2002, 8, 835-843)。
【0005】
本シークエンスの第1の工程では、CuCI触媒によるメチルヨウ化マグネシウムの共役付加により、イソホリン1を3,3,5,5−テトラメチルシクロヘキサノン2に変換する。
【0006】
第2の工程では、メチルヨウ化マグネシウムを用いたグリニャール反応により、3,3,5,5−テトラメチルシクロヘキサノン2を1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサノール3に変換する。
【0007】
第3の工程では、クロロアセトニトリルとのリッター反応により、前記シクロヘキサノール3を1−クロロアセトアミド−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサン6に変換する。
【0008】
第4の工程では、アミド6のクロロアセトアミド基を引き続きチオ尿素で開裂する。得られたアミンを、反応シークエンスの最終第5工程において、塩酸で酸性化することにより、ネラメキサン(1−アミノ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサン)7を塩酸塩の形態で取得する。
【化1】
【0009】
第3工程で用いるリッター反応は、以前から現在に至るまで、集中的な調査の対象となっている。本反応において、クロロアセトニトリル以外のニトリルを使用することが提案されてきた。
【0010】
ある手法によれば、アセトニトリルを用いて、対応する1−アセトアミド−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサンを形成する。塩基性条件下での開裂及びオクタノール中での長時間加熱により、1−アミノ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサンを得る(A. Jirgensons, The Synthesis of Carbocyclic アミンs - Potential NMDA Receptor Antagonists, Summary of Dissertation, University of Latvia, Riga, 2000)。
【0011】
別の手法によれば、シクロヘキサノール3をシアン化トリメチルシリル(trimethylsilyl cyanide:TMSCN)と反応させ、対応するホルムアミド化合物5を生成する。TMSCNがリッター反応条件下で分解し、実際にはシアン化水素がニトリル源として働くことが判明している。
【化2】
【0012】
5におけるホルムアミド基を酸性条件下で開裂し、ネラメキサンを得る(上述のA. Jirgensonsを参照)。
【0013】
更に別の手法によれば、シクロヘキサノール3をシアン化マグネシウムと反応させ、対応するホルムアミド化合物5を得る。5におけるホルムアミド基を酸性条件下で開裂し、ネラメキサンを得る(上述のA. Jirgensonsを参照)。
【0014】
これらのリッター反応の何れにおいても、シクロヘキサノール3等の3級アルコールから出発し、酸の存在下でカルボカチオンを原位置(in situ)生成し、これがニトリルの窒素原子、各シアン化水素等のシアン化物成分と反応することにより、対応する3級炭素原子にアミノ基が導入されるというのが、一般に認められている認識である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的の一つは、1−アミノ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサン又は医薬的に許容し得るその塩を調製する方法において、上述の反応シークエンスにおける1又は2以上の公知のリッター反応を改善することにより、経済的且つ工業規模で有利に実現可能な方法を提供することである。別の目的は、ネラメキサン又は医薬的に許容し得るその塩の製造時に発生する廃棄物及び/又は未使用化学物質の量を最小限に抑えることである。更に別の目的は、ネラメキサン又は医薬的に許容し得るその塩の収率及び/又は選択性及び/又は製品品質を最適化又は改善することである。斯かる改良法は、ネラメキサン又は医薬的に許容し得るその塩を経済的且つ工業規模で有利に製造するための必須条件の一つと看做すことも可能である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、1−アミノ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサン又は医薬的に許容し得るその塩を調製する方法に関する。具体的には、本発明は、上述の反応シークエンスの第3の工程における1又は2以上の公知のリッター反応を最適化する方法に関する。
【0017】
より具体的には、本発明は、1−アミノ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサン又は医薬的に許容し得るその塩を調製する方法であって、工程(iv):
(iv)酸、1−ホルムアミド−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサン及びシアン化水素を含む混合物を加水分解し、1−アミノ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサンを生成する工程
を含む方法に関する。
【0018】
一実施形態によれば、本発明の方法は、工程(iv)の前に、工程(iii):
(iii)1−ヒドロキシ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサンを、前記酸の存在下でシアン化水素と反応させ、又は前記酸の存在下でシアン化水素を形成する化合物と反応させ、前記酸、1−ホルムアミド−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサン及びシアン化水素を含む混合物を生成する工程
を含む。
【0019】
一実施形態によれば、前記酸の存在下でシアン化水素を形成する前記化合物は、シアン化水素の塩であるか、又はシアノ基含有ケイ素化合物である。
【0020】
一実施形態によれば、前記シアン化水素の塩は、シアン化アンモニウム、シアン化ナトリウム及びシアン化マグネシウムから選択される。
【0021】
一実施形態によれば、前記シアノ基含有ケイ素化合物はシアン化トリアルキルシリルである。
【0022】
一実施形態によれば、前記シアン化トリアルキルシリルはシアン化トリメチルシリルである。
【0023】
一実施形態によれば、前記酸は硫酸であるか、又は硫酸を含む。
【0024】
一実施形態によれば、1モル当量の1−ヒドロキシ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサン当たり、1.5から2.5モル当量のシアン化ナトリウム又はシアン化マグネシウム、及び、3から7モル当量の硫酸を使用する。
【0025】
一実施形態によれば、1モル当量の1−ヒドロキシ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサン当たり、1.0から2.0モル当量のシアン化トリメチルシリル、及び、2から4モル当量の硫酸を使用する。
【0026】
一実施形態によれば、工程(iv)において酸又は塩基を前記混合物に加える。
【0027】
一実施形態によれば、工程(iii)及び(iv)をワンポット反応で実施する。
【0028】
一実施形態によれば、工程(iii)の前記反応を、−20℃から30℃の温度範囲で実施する。
【0029】
一実施形態によれば、工程(iv)の前記加水分解を、40℃から、1−ホルムアミド−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサンを含む混合物の還流温度までの温度で実施する。
【0030】
一実施形態によれば、前記方法は、更に工程(v):
(v)工程(iv)で得られた1−アミノ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサンを、医薬的に許容し得るその塩に変換する工程
を含む。
【0031】
一実施形態によれば、前記変換を塩酸又はメタンスルホン酸により行う。
【0032】
一実施形態によれば、本製法は更に、工程(vi):
(vi)工程(v)で形成される前記医薬的に許容し得る塩を結晶化させる工程
を含む。
【0033】
一実施形態によれば、本発明は、1−アミノ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサン又は医薬的に許容し得るその塩を調製する方法であって、工程(iii)及び(iv):
(iii)1−ヒドロキシ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサンを、酸の存在下でシアン化水素と反応させ、又は前記酸の存在下でシアン化水素を形成する化合物と反応させ、前記酸及び1−ホルムアミド−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサンを含む混合物を生成する工程;及び
(iv)工程(iii)の混合物を加水分解し、1−アミノ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサンを生成する工程
を含む方法に関する。
【0034】
一実施形態によれば、本製法は更に、工程(vii):
(vii)工程(iii)から(vi)において形成されたガス状の化合物をスクラバに供する工程
を含む。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は、1−アミノ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサン又は医薬的に許容し得るその塩を調製する方法に関する。
【0036】
より具体的には、本発明は、1−アミノ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサン又は医薬的に許容し得るその塩を調製する方法であって、工程(iv):
(iv)酸、1−ホルムアミド−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサン及びシアン化水素を含む混合物を加水分解し、1−アミノ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサンを生成する工程
を含む方法に関する。
【0037】
一実施形態によれば、本発明の方法は、工程(iv)の前に、工程(iii):
(iii)1−ヒドロキシ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサンを、前記酸の存在下でシアン化水素と反応させ、又は前記酸の存在下でシアン化水素を形成する化合物と反応させ、前記酸、1−ホルムアミド−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサン及びシアン化水素を含む混合物を生成する工程
を含む。
【0038】
従来技術の方法とは異なり、形成された1−ホルムアミド−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサンを、工程(iv)内で直接使用することが可能である。すなわち、1−ホルムアミド−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサンは、工程(iii)の混合物から単離されず、精製もされず、単離精製もされない。
【0039】
工程(iii)のリッター反応において、実際のニトリル源として使用されるシアン化水素は、種々の供給源から供給可能である。
【0040】
一実施形態によれば、そのまま使用し得る。例えば、ガス状又は液体状の形態で、1−ヒドロキシ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサンを含む混合物に供給し得る。
【0041】
一実施形態によれば、シアン化水素は、1モル当量の1−ヒドロキシ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサンに対し、モル過剰で使用し得る。
【0042】
一実施形態によれば、1モル当量の1−ヒドロキシ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサン当たり、1.5から3モル当量のシアン化水素を使用し得る。
【0043】
別の実施形態によれば、シアン化水素は原位置(in situ)生成される。
【0044】
「原位置」(in situ)との語は、工程(iii)において、シアン化水素そのものの代わりに、前記酸の存在下でシアン化水素を生成する化合物、又はそれからシアン化水素が生成され得る化合物を使用することを意味する。
【0045】
前記シアン化水素の生成は、例えば前記化合物の分解、又は、例えば前記化合物における転移反応により達成し得る。
【0046】
一実施形態によれば、前記酸の存在下でシアン化水素を形成する前記化合物は、シアン化水素の塩、例えばアンモニア又はアルカリ金属との塩等である。
【0047】
一実施形態によれば、前記塩は、シアン化アンモニウム、シアン化ナトリウム及びシアン化マグネシウムからなる群より選択される。
【0048】
前記シアン化水素の生成は、弱酸であるシアン化水素よりも強い酸により、シアン化水素の塩において転移反応を生じさせることにより達成され得る。斯かるシアン化水素の塩における転移反応は、一般的には前記塩に作用する酸が、シアン化水素のpK
a値よりも低いpK
a値を有する場合に生じる。
【0049】
別の実施形態によれば、前記酸の存在下で少なくとも一部がシアン化水素を生じ得る、適切な有機又は有機金属化合物を使用することが可能である。
【0050】
一実施形態によれば、前記有機又は有機金属化合物は、シアノ基含有ケイ素化合物である。
【0051】
一実施形態によれば、前記シアノ基含有ケイ素化合物は、シアン化トリアルキルシリルである。一実施形態によれば、前記シアン化トリアルキルシリルは、シアン化トリメチルシリル(trimethylsilyl cyanide:TMSCN)である。
【0052】
また、有機ニトリルは、酸の存在下で少なくとも一部がシアン化水素を生じ、前記シアン化水素が工程(iii)において、前記酸の存在下で1−ヒドロキシ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサンと反応し、前記酸及び1−ホルムアミド−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサンを含む混合物を生じると考えられる。
【0053】
一実施形態によれば、工程(iii)のリッター反応において使用される前記酸は、硝酸、リン酸、硫酸、酢酸、メタンスルホン酸、又は前記酸の2種以上の混合物からなる群より選択される。
【0054】
一実施形態によれば、硫酸を用いて工程(iii)の前記リッター反応を実施する。
【0055】
一実施形態によれば、使用される硫酸は濃硫酸である。
【0056】
一実施形態によれば、使用される硫酸は、前記酸の総量に対して少なくとも95重量%である。
【0057】
別の実施形態によれば、硫酸及び酢酸の混合物を用いて、前記リッター反応を実施する。酢酸は、工程(iii)において使用される混合物よりも粘度が低いのが有利である。
【0058】
一実施形態によれば、工程(iii)のリッター反応で使用される酸は、1モル当量の1−ヒドロキシ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサンに対し、モル過剰で使用される。
【0059】
一実施形態によれば、1モル当量の1−ヒドロキシ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサンに対して、2から7モル当量の酸が使用される。
【0060】
一実施形態によれば、1モル当量の1−ヒドロキシ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサン当たり、シアン化水素を1から3モル当量、又は、前記酸の存在下でシアン化水素を形成する化合物を1から3モル当量使用する。
【0061】
更なる実施形態によれば、1モル当量の1−ヒドロキシ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサン当たり、1.5から2.5モル当量のシアン化ナトリウム又はシアン化マグネシウム、及び3から7モル当量の硫酸を使用する。
【0062】
特定の実施形態によれば、1モル当量の1−ヒドロキシ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサン当たり、約2モル当量のシアン化ナトリウム又はシアン化マグネシウム、及び約5モル当量の硫酸を使用する。
【0063】
別の実施形態によれば、1モル当量の1−ヒドロキシ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサン当たり、1から2モル当量のシアン化トリメチルシリル、及び2から4モル当量の硫酸を使用する。
【0064】
特定の実施形態によれば、1モル当量の1−ヒドロキシ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサン当たり、約1.3モル当量のシアン化トリメチルシリル、及び約3モル当量の硫酸を使用する。
【0065】
一実施形態によれば、工程(iii)のリッター反応の温度を制御する。副反応を避けるために、前記温度は高過ぎないようにすべきである。
【0066】
一実施形態によれば、工程(iii)のリッター反応は、−20℃から30℃,又は−15℃から20℃,又は−5℃から15℃の温度範囲で実施される。
【0067】
一実施形態によれば、使用される混合物が低温及び/又は高濃度により凝固するのを防ぐため、工程(iii)の反応混合物は適切な有機溶媒を含んでいてもよい。
【0068】
一実施形態によれば、使用される有機溶媒は酢酸エチルであるか、又は上述の酢酸である。
【0069】
一実施形態によれば、工程(iii)の反応は、1−ヒドロキシ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサンとシアン化水素又はシアン化水素を形成する化合物との混合物を供給し、任意により温度を前記温度範囲内で維持しながら、前記酸を前記混合物に加えることにより実施する。
【0070】
一実施形態によれば、工程(iii)の混合物における1−ホルムアミド−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサンの形成を、例えば一般的に使用されるクロマトグラフィー法により監視する。形成が完了した後に工程(iv)を実施してもよい。
【0071】
一実施形態によれば、工程(iv)の加水分解を実施するために、混合物に予め含有されている水、及び/又は、工程(iii)において生成された水を用いて、加水分解工程(iv)を実施し得る。
【0072】
別の実施形態によれば、更なる水を加えて、加水分解工程(iv)を実施する。
【0073】
一実施形態によれば、前記加水分解工程を酸触媒影響下で、即ち酸性条件下で実施する。
【0074】
一実施形態によれば、前記加水分解工程は、前記混合物に予め含有される工程(iii)の酸により触媒される。
【0075】
別の実施形態によれば、例えば上述の酸から選択される、更なる酸を加えることも可能である。
【0076】
別の実施形態によれば、前記加水分解工程(iv)は塩基性条件下で実施される。この実施形態では、酸及び1−ホルムアミド−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサンを含む混合物に対して、pH値を7超にするために塩基を加える。
適切な塩基は、例えば水酸化ナトリウムや水酸化マグネシウム等のアルカリ金属水酸化物等である。
【0077】
従って、一実施形態によれば、工程(iii)で得られた混合物を含む混合物に対して、工程(iv)において酸又は塩基を加える。
【0078】
更に、加水分解を促進するために、工程(iv)を昇温下で実施してもよい。
【0079】
一実施形態によれば、40℃から1−ホルムアミド−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサンを含む混合物の還流温度までの温度が使用される。
【0080】
一実施形態によれば、工程(iv)の加水分解の対象となる混合物は、工程(iii)において直接得られた混合物である。
【0081】
一実施形態によれば、工程(iii)を実施した後、工程(iii)に続いて直接工程(iv)を実施する。
【0082】
一実施形態によれば、工程(iv)は工程(iii)と同一の反応容器で実施される。
【0083】
従って、一実施形態によれば、工程(iii)及び(iv)はワンポット反応で実施される。
【0084】
当業者であれば容易に理解するように、斯かるワンポット反応によれば、特に有益な空時収量が得られる。
【0085】
加水分解工程(iv)を酸性条件下で実施する場合、例えば工程(iii)のリッター反応の酸性条件下で直接実施する場合、結果として得られる1−アミノ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサンは、混合物中で、対応する塩の形態で存在することになる。
【0086】
遊離アミンを単離するには、例えば前記混合物を引き続き、塩基でpH7超に調整すればよい。アミンは通常混合物から有機層の形で分離するので、それを分離すればよい。必要であれば、遊離アミンを塩化メチレン、エーテル、石油エーテル等の適切な有機溶媒を用いて中質紙手もよい。更に前記アミンを生成するために、蒸留に供してもよい。
【0087】
予想外にも、1−ホルムアミド−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサンの精製工程を省略しているにもかかわらず、工程(iii)及び(iv)の反応シークエンスによって、医薬的に許容し得る塩に変換するのに要求される品質の製品が得られる。これは工業的実施を考慮すれば有利である。
【0088】
更なる実施形態によれば、工程(iii)及び(iv)により調製される1−アミノ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサンを、適切な酸との反応により、その塩に変換する。斯かる反応は、例えば上述の反応スキームに示すように、本分野では周知である。
【0089】
従って、一実施形態によれば、本方法は更に工程(v):
(v)工程(iv)で得られた1−アミノ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサンを、医薬的に許容し得るその塩に変換する工程
を含む。
【0090】
医薬的に許容し得る塩としては、これらに限定されるものではないが、酸付加塩、例えば塩酸、メチルスルホン酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、過塩素酸、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、酪酸、ピルビン酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、炭酸、桂皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ヒドロキシエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、シクロヘキサンスルファミン酸、サリチル酸、p−アミノサリチル酸、2−フェノキシ安息香酸、及び2−アセトキシ安息香酸と形成される塩が挙げられる。これらの塩(又は他の同様の塩)はいずれも従来法により調製し得る。塩の性質は、毒性を有さず、所望の薬理作用に実質的に干渉するものでない限り、特に限定されない。
【0091】
「医薬的に許容し得る」(pharmaceutically acceptable)との句は、本発明の方法により調製される組成物との関連で使用される場合、斯かる組成物の分子等の成分であって、哺乳類(例えばヒト)に投与した場合に、生理的に許容し得るとともに、一般に有害な反応を生じないものを意味する。「医薬的に許容し得る」との用語は、哺乳類用として、とりわけヒト用として、連邦又は州政府の監督官庁により認められ、又は米国薬局方又は他の一般に認められる薬局方に収用されていることを意味する。
【0092】
一実施形態によれば、医薬的に許容し得る塩への変換は、塩酸又はメタンスルホン酸により行われる。
【0093】
一実施形態によれば、工程(v)において形成される前記医薬的に許容し得る塩は、更なる精製のために結晶化される。
【0094】
従って、本発明の方法は更に、工程(vi):
(vi)工程(v)で形成された前記医薬的に許容し得る塩を結晶化させる工程
を含む。
【0095】
適切な結晶化法は本分野で周知である。結晶化は、例えば工程(vi)の反応混合物の温度を低下させることにより、又は工程(vi)で使用した溶媒の一部を留去することにより、又はこれらの方法の組み合わせにより実施する。
【0096】
反応工程(iii)及び/又は(iv)において形成されるシアン化水素は、反応条件により、少なくとも一部が揮発し得る。これはすなわち、前記シアン化水素が溶解状態のみならず、気相に存在していてもよいことを意味する。
【0097】
すなわち、一実施形態によれば、工程(iii)及び(iv)において(更には任意により工程(vi)でも)形成された産物の安全な処理を容易にするべく、前記工程の何れかにおいて形成されたガス状の化合物をスクラバに供してもよい。好ましくは、本発明のプロセスからガス状のシアン化水素、又は有毒な他のガス状の化合物を除去するべく、前記スクラバを運転する際に、水酸化ナトリウム水溶液等の塩基水溶液を使用することが好ましい。
【0098】
従って、本発明のプロセスは更に、工程(vii):
(vii)工程(iii)から(vi)の何れかにおいて形成されたガス状の化合物をスクラバに供する工程
を含む。
【0099】
一実施形態によれば、本方法は、工程(iii)及び(iv):
(iii)1−ヒドロキシ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサンを、酸の存在下でシアン化水素と反応させ、又は前記酸の存在下でシアン化水素を形成する化合物と反応させ、前記酸及び1−ホルムアミド−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサンを含む混合物を生成する工程;及び
(iv)工程(iii)の混合物を加水分解し、1−アミノ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサンを生成する工程
を含む。
【実施例】
【0100】
実施例1
1−ヒドロキシ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサン(3.4g;20mmol)及びシアン化トリメチルシリル(2.58g;26mmol;1.3eq)を酢酸エチル(4ml)に溶解させた溶液を激しく攪拌しながら、95%硫酸(3.2ml;60mmol;3.1eq)を1時間かけて加える。温度は−10℃で15分間維持し、その後は混合物を大気温に復帰させる。大気温で15時間攪拌しながら、混合物を20mlの氷水で希釈する。その後、混合物を10時間攪拌しながら還流し、大気温に冷却し、40mlの水及び20mlのエーテルで希釈し、20%の水酸化ナトリウム水溶液でpH10になるまで中和する。有機相を分離、乾燥する。エーテルが酸性となるまで、乾燥塩化水素を溶液に通過させる。溶媒を除去し、残留物をエーテルで洗浄することにより、3.1gのネラメキサンがその塩酸塩の形態で得られる。
【0101】
実施例2
1−ヒドロキシ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサン(3.4g;20mmol)及びシアン化ナトリウム(1.96g;40mmol;2eq)及び5ml酢酸の溶液を激しく攪拌しながら、95%硫酸(5.3ml;100mmol;5.15eq)を1時間かけて加える。温度は10℃で30分間維持し、その後は混合物を大気温に復帰させる。大気温で17時間攪拌しながら、混合物を20mlの氷水で希釈する。その後、混合物を10時間攪拌しながら還流し、大気温に冷却し、40mlの水及び20mlのエーテルで希釈し、20%の水酸化ナトリウム水溶液でpH10になるまで中和する。有機相を分離、乾燥する。エーテルが酸性となるまで、乾燥塩化水素を溶液に通過させる。溶媒を除去し、残留物をエーテルで洗浄することにより、2.24gのネラメキサンがその塩酸塩の形態で得られる。
【外国語明細書】