【課題】所定の硬さを維持でき、時間的な経過に伴って美観を損なうことを防止でき、しかも反射防止機能を高精度に維持することが可能な反射防止膜およびその製造方法を提供する。
【解決手段】タッチパネル面に配置される反射防止膜20であって、光学基板21上に形成され、膜厚方向に屈折率が連続的に変化する傾斜膜22を有する。傾斜膜22は、硬さが、通常の単層反射防止膜または高屈折率の高屈折率層と低屈折率の低屈折率層を積層した多層反射防止膜により高い(硬い)。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ(LCD)等のフラットパネルディスプレイ(FPD)は、表示パネルが平面化したことによって、パネル表面における視認性向上のための反射防止機能の重要性が高まっている。
そして、タッチパネルの普及に伴って、ディスプレイは表示デバイス(出力)としての機能と共に、入力デバイスとしての機能を併せ持つにようになってきている。
【0003】
このようなタッチパネルは、駅や飲食店の券売機、小売店のキャッシュレジスターあるいは銀行の現金自動預け払い機などの産業分野から、携帯電話機、タブレット端末あるいは家電製品のコントローラーなどの民生分野に至るまで幅広く用いられている。
このような用途に応じた使用環境下において、タッチパネル等ではディスプレイの視認性を確保するために、パネル表面に対して反射防止膜が形成される。
【0004】
反射防止膜は、減反射コート(ARコート:Anti-Reflection coat)とも呼ばれる。
光学ガラス基板の表面では一面につき約4%の損失(ロス)が生じ、ARコートを配置することにより、ロスを1%、さらには0.5%以下に抑えることができきる。
換言すれば、ARコートは、一般に、ゴースト、ノイズの原因になる迷光や透過率の向上のために重要な役割を果たしている。
反射防止膜は、コーディングの層数や特性によって、単層反射防止膜と多層反射防止膜とに分けられる。
多層反射防止膜については、たとえば特許文献1,2に記載されている。
【0005】
図1は、多層反射防止膜の一例を示す概略図である。
図1の多層反射防止膜10は、ガラス基板11の一面11a側に、高屈折材料により形成されたる高屈折率層(H)12−1,12−2,12−3と低屈折材料により形成された低屈折率層(L)13−1,13−2,13−3がスパッタリングや蒸着等により交互に積層させて構成されている。
【0006】
図1の例では、高屈折率層12(−1〜−3)は屈折率n
Hが2.33の酸化ニオブ(Nb
2O
5)により形成され、低屈折率層13(−1〜−3)は屈折率n
Lが1.46の酸化シリコン(SiO
2)により形成される。ガラス基板11の屈折率n
Sは1.52である。
【0007】
この
図1の多層反射防止膜10は、層数が6となっているが、これは一例であり、層数は用途等に応じて適宜選択される。
このような構成を有する反射防止膜10は、2層以上の屈折率の異なる層によって反射光同士を光の干渉現象を用いて打ち消し合う。
【0008】
また、たとえばタッチパネル表面において、上述した反射防止処理のほかに、必要に応じて防汚機能や傷つき防止機能等を含むハードコート性を持つ防汚膜(AS膜)をパネル表面に付与する処理が行われる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述した従来のタッチパネル用反射防止膜は、以下の不利益がある。
従来の反射防止膜は、耐摩擦性(あるいは硬さ)が低いという不利益がある。
タッチパネル表面は、表示デバイス(出力)としての機能と共に、入力デバイスとしての機能を併せ持つというその機能上、ユーザにより毎日のように接触して操作されることから、時間が経過すると、その表面が徐々に削り取られていく。
その結果、タッチパネルの外観の見栄え悪くなる場合があり、美観を損なうことがある。
【0011】
また、反射防止膜の表面において、削り取られた箇所と削り取られていない箇所が生じる場合があり、さらに美観を損なうことがある。
【0012】
従来の反射防止膜は、反射防止膜を形成する場合、通常、
図1に示すように、最外層はSiO
2等の低屈折率層であるが、一旦最外層が削られると、いわゆる反射防止膜(AR膜)が高反射膜(HR膜)になってしまい、反射防止機能が著しく損なわれるという不利益がある。
【0013】
また、反射防止膜の表面において、削り取られた箇所と削り取られていない箇所が生じる場合、両箇所の反射率差が大きくなり、さらに反射防止機能が損なわれるという不利益がある。
【0014】
図2は、通常の反射防止膜の最外層が削られた箇所と削られていない箇所の光学特性を示す図である。
図2において、横軸は波長を示し、縦軸は反射率Rを示している。また、
図2において、曲線Aが反射防止膜の最外層が削られた箇所の光学特性を、曲線Bが反射防止膜の最外層が削られていない箇所の光学特性を、それぞれ示している。
【0015】
図2に示すように、反射防止膜の最外層が削られていない場合には、反射率が5%程度に抑えられているが、反射防止膜の最外層が削られた場合には反射率が14%から15%程度となってしまい、反射防止機能が損なわれる。
【0016】
本発明の目的は、所定の硬さを維持でき、時間的な経過に伴って美観を損なうことを防止でき、しかも反射防止機能を高精度に維持することが可能な反射防止膜およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の第1の観点は、タッチパネル面に配置される反射防止膜であって、光学基板上に形成され、膜厚方向に屈折率が連続的に変化する傾斜膜を有する。
【0018】
好適には、前記傾斜膜は、硬さが、単層反射防止膜または高屈折率の高屈折率層と低屈折率の低屈折率層を積層した多層反射防止膜により高い(硬い)。
また、前記傾斜膜の硬さは、所定の負荷に対して膜剥離が起こるか否かによる。
また、前記傾斜膜は、層と層との境界がない。
【0019】
好適には、前記傾斜膜は、成膜したターゲット膜に対して他の構成物の混合ガスに反応させて作製された膜である。
また、好適には、前記傾斜膜は、ターゲットと、他の構成物の混合ガスにプラズマを反応させて作製された膜である。
好適には、前記傾斜膜の屈折率は、前記他の構成物のガスの比率により調整されている。
【0020】
好適には、前記傾斜膜は、SiOxNyのルゲート膜により構成されている。
【0021】
好適には、前記傾斜膜は、NbxSiyOのルゲート膜により構成されている。
【0022】
本発明の第2の観点は、タッチパネル面に配置され、光学基板上に形成され、膜厚方向に屈折率が連続的に変化する傾斜膜を有する反射防止膜の製造方法であって、前記傾斜膜を、ターゲットと他の構成物の混合ガスに反応させて作製する。
【0023】
好適には、前記傾斜膜を、成膜したターゲット膜に対して他の構成物の混合ガスに反応させて作製する。
また、好適には、前記傾斜膜を、ターゲットと、他の構成物の混合ガスにプラズマを反応させて作製する。
好適には、前記他の構成物のガスの比率により調整する。
【0024】
また、好適には、前記ターゲットはSiであり、他の構成物のガスはO
2とN
2であり、前記傾斜膜は、SiOxNyのルゲート膜として作製する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、所定の硬さを維持でき、時間的な経過に伴って美観を損なうことを防止でき、しかも反射防止機能を高精度に維持することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明の実施形態について、図面に関連付けて説明する。
以下の実施形態においては、表示デバイス(出力)としての機能と共に、入力デバイスとしての機能を併せ持つディスプレイにおけるタッチパネルのパネル面(表面あるいは裏面)に配置される反射防止膜を例に説明する。
【0028】
タッチパネルは、駅や飲食店の券売機、小売店のキャッシュレジスターあるいは銀行の現金自動預け払い機などの産業分野から、携帯電話機、タブレット端末あるいは家電製品のコントローラーなどの民生分野に至るまで幅広く用いられている。
このような用途に応じた使用環境下において、タッチパネル等ではディスプレイの視認性を確保するために、パネル表面に対して反射防止膜が形成される。
【0029】
図3は、本発明の実施形態に係るタッチパネル表面に形成される反射防止膜の一構成例を示す図である。
【0030】
本実施形態に係る反射防止膜20は、光学ガラス基板21上に形成され、膜厚方向に屈折率が連続的かつ周期的に変化する傾斜膜(ルゲート(Rugate)膜)22を含んで構成されている。
傾斜膜22は、たとえばその屈折率が厚さ方向に正弦波状に連続的かつ周期的に変化し、通常の多層反射防止膜のように層と層との界面がない構造を有している。
傾斜膜22の厚さは、500nm程度で、可視光域に対応するように形成されている。
【0031】
なお、傾斜膜22の屈折率は連続的かつ周期的に変化(たとえば屈折率1.46〜2.10の間で連続的かつ周期的に変化)するが、ガラス基板11の屈折率n
Sは1.52である。
【0032】
傾斜膜22は、基本的に、シリコン(Si)やアルミニウム(Al)の材料を酸化物から窒化物に変化させる、あるいは窒化物から酸化物に変化させて製造することが可能である。
たとえば、Siターゲットを用いて、Ar等のガスにO
2を加えると酸化物であるが、徐々にO
2を減らしてN
2を加えていき、N
2に変わると窒化物となる。
傾斜膜22は、スパッタ装置、蒸着装置等により製造することが可能である。
本実施形態における傾斜膜22の製造方法については後述する。
【0033】
図3の傾斜膜22は、化学式で表すと、たとえばSiO
xN
yにより構成されている。
これは一例であって、たとえばNの変わりにニオブ(Nb)等を適用して成膜することも可能である。
たとえばNbを適用した場合の傾斜膜は、Nb
xSi
yOとして表すことができる。
【0034】
このように、傾斜膜22は、構成物(材料)を適宜選択して形成することが可能であるが、本実施形態では、時間的経過に伴い表面が接触して操作されても削り取られるおそれの少ない硬い成膜材料を選択している。
すなわち、本実施形態の傾斜膜22は、所定の硬さを維持でき、時間的な経過に伴って美観を損なうことを防止でき、しかも反射防止機能を高精度に維持することが可能な反射防止膜を実現できる材料が選択されて構成されている。
【0035】
具体的には、本実施形態のタッチパネル用反射防止膜20は、耐摩擦性(あるいは硬さ)が高く、時間的経過に伴い表面が接触して操作されても削り取られるおそれが極めて少ない。
タッチパネル表面は、表示デバイス(出力)としての機能と共に、入力デバイスとしての機能を併せ持つというその機能上、ユーザにより毎日のように接触して操作される。
本実施形態の反射防止膜20は、時間が経過したとしてもその表面が削り取られにくい硬さを有しており、タッチパネルの外観の見栄え悪くなることを防止し、美観を損なうことを防止することが可能に構成される。
【0036】
また、反射防止膜20の表面において、削り取られた箇所と削り取られていない箇所が生じるおそれが低くなり、それによってもさらに美観を損なうことが防止される。
【0037】
また、本実施形態の反射防止膜20において、傾斜膜22の表面(多層の最外層に相当)は、SiO
2等の低屈折率層ではなく、削り取られるおそれが少ないことから、いわゆる反射防止膜(AR膜)が高反射膜(HR膜)になってしまうおそれが極めて低く、反射防止機能が著しく損なわれるということも防止される。
【0038】
そして、反射防止膜の表面において、削り取られた箇所と削り取られていない箇所が生じにくいことから、反射率差が大きくなり、さらに反射防止機能が損なわれるということも防止される。
【0039】
本実施形態において、傾斜膜22は、硬さ(膜剥離耐性、耐摩擦性、硬度)が、通常の単層反射防止膜または高屈折率の高屈折率層と低屈折率の低屈折率層を積層したH/L構造の多層反射防止膜により高くなるように成膜材料が選択されて形成されている。
【0040】
以下、本実施形態の反射防止膜20の主構成要素である傾斜膜22の硬さ(膜剥離耐性、耐摩擦性、硬度)について、通常の単層反射防止膜(以下、単層膜という)またはH/L構造の多層反射防止膜(以下、多層膜という)を比較例として比較して考察する。
【0041】
[単層膜の硬さ(膜剥離耐性)およびその特性]
まず、比較例としての単層膜の硬さ(膜剥離耐性)およびその特性について考察する。
図4は、各種材料を用いて成膜した単層膜の硬さ(膜剥離耐性)を一例として示す図である。
図4は、5種類、SiO
2、Nb
2O
5、AlN、SiNx、NbSiOの単層膜(Single Layer)の膜剥離を起こさせる剥離閾値(Peeling threshold)を示している。
【0042】
図5(A)〜(E)は、各種材料を用いて成膜した単層膜のスクラッチテストの結果を示す図である。
図5(A)はSiO
2の単層膜のスクラッチテスト結果を、
図5(B)はNb
2O
5の単層膜のスクラッチテスト結果を、
図5(C)はAlNの単層膜のスクラッチテスト結果を、
図5(D)はSiNxの単層膜のスクラッチテスト結果を、
図5(E)はNbSiOの単層膜のスクラッチテスト結果をそれぞれ示している。
図5(A)〜(C)において、横軸は距離(Distance)を、縦軸は摩擦信号(Frictional Signal)および負荷(Load)をそれぞれ示している。
図5(D)および(E)において、横軸は時間(Time)を、縦軸は摩擦信号(Frictional Signal)および負荷(Load)をそれぞれ示している。
なお、
図5(A)〜(C)における横軸の距離(Distance)は
図5(D)および(E)における横軸の時間(Time)としてとらえることもできる。
また、
図5(A)〜(E)において、線FSが摩擦信号を示し、線LDが負荷を示している。
【0043】
図4および
図5に示すように、SiO
2の単層膜の剥離閾値は75mNであり、Nb
2O
5の単層膜の剥離閾値は70mNであり、AlNの単層膜の剥離閾値は171.4mNであり、SiNxの単層膜の剥離閾値は429.5mNであり、NbSiOの単層膜の剥離閾値はNA(測定不可:膜剥離なし)であった。
図4および
図5に示すように、5種類の単層膜中において、SiNx膜の硬さが最も高い。ただし、NbSiO膜は剥離することはない。
【0044】
[多層膜の硬さ(膜剥離耐性)およびその特性]
次に、比較例としての多層膜の硬さ(膜剥離耐性)およびその特性について考察する。
図6は、各種材料を用いて成膜したH/L構造の多層膜の硬さ(膜剥離耐性)を一例として示す図である。
図6は、3種類、Nb
2O
5/SiO
2、AlN/SiO
2、SiNx/SiO
2の多単層膜の膜剥離を起こさせる剥離閾値(Peeling threshold)を示している。
【0045】
図7(A)〜(E)は、各種材料を用いて成膜したH/L構造の多層膜のスクラッチテストの結果を示す図である。
図7(A)はNb
2O
5/SiO
2のH/L構造の多層膜のスクラッチテスト結果を、
図7(B)はAlN/SiO
2のH/L構造の多層膜のスクラッチテスト結果を、
図7(C)はSiNx/SiO
2のH/L構造の多層膜のスクラッチテスト結果をそれぞれ示している。
図7(A)〜(C)において、横軸は時間(Time)を、縦軸は摩擦信号(Frictional Signal)および負荷(Load)をそれぞれ示している。
また、
図7(A)〜(C)において、線FSが摩擦信号を示し、線LDが負荷を示している。
【0046】
図6および
図7に示すように、Nb
2O
5/SiO
2のH/L構造の多層膜の剥離閾値は140.7mNであり、AlN/SiO
2のH/L構造の多層膜の剥離閾値は179.2mNであり、SiNx/SiO
2のH/L構造の多層膜の剥離閾値は371.2mNであった。
図6および
図7に示すように、3種類のH/L構造の多層膜中において、SiNx/SiO
2膜の硬さが最も高い。
【0047】
[多層膜と本傾斜膜の硬さ(膜剥離耐性)およびその特性]
次に、比較例としての多層膜と本実施形態の傾斜膜22の硬さ(膜剥離耐性)およびその特性について考察する。
図8は、各種材料を用いて成膜したH/L構造の多層膜と本実施形態の傾斜膜(ルゲート膜)の硬さ(膜剥離耐性)を一例として示す図である。
図8は、2種類、Nb
2O
5/SiO
2、SiNx/SiO
2の多単層膜の膜剥離を起こさせる剥離閾値(Peeling threshold)、並びに、2種類,NbSiO、SiOxNyの傾斜膜の剥離閾値を示している。
【0048】
図9(A),(B)並びに
図10(A),(B)は、各種材料を用いて成膜したH/L構造の多層膜と本実施形態の傾斜膜のスクラッチテストの結果を示す図である。
図9(A)はNb
2O
5/SiO
2のH/L構造の多層膜のスクラッチテスト結果を、
図9(B)はNbxSiOyの傾斜膜のスクラッチテスト結果を、
図10(A)はSiNx/SiO
2のH/L構造の多層膜のスクラッチテスト結果を、
図9(B)はSiOxNyの傾斜膜のスクラッチテスト結果をそれぞれ示している。
図9(A),(B)において、横軸は距離(Distance)を、縦軸は摩擦信号(Frictional Signal)および負荷(Load)をそれぞれ示している。
図10(A),(B)において、横軸は時間(Time)を、縦軸は摩擦信号(Frictional Signal)および負荷(Load)をそれぞれ示している。
なお、
図9(A)、(B)における横軸の距離(Distance)は
図10(A)および(B)における横軸の時間(Time)としてとらえることもできる。
また、
図9(A),(B)並びに
図10(A),(B)において、線FSが摩擦信号を示し、線LDが負荷を示している。
【0049】
図8および
図9に示すように、Nb
2O
5/SiO
2のH/L構造の多層膜の剥離閾値は140.7mNであり、本実施形態によるNbxSiOyの傾斜膜の剥離閾値はNAであった。
また、
図8および
図10に示すように、SiNx/SiO
2のH/L構造の多層膜の剥離閾値は371.2mNであり、本実施形態によるSiOxNyの傾斜膜の剥離閾値は463.2より大きくNAであった。
った。
図8、
図9および
図10に示すように、本実施形態に係る傾斜膜22は、H/L構造の多層膜より硬さが高い。
【0050】
図11は、通常の反射防止膜および本実施形態の傾斜膜を有する反射防止膜の経時変化に伴う光学特性を示す図である。
図11において、横軸は波長を示し、縦軸は反射率Rを示している。
また、
図11において、曲線Aが本実施形態の第1の反射防止膜の光学特性を、曲線Bが本実施形態に係る第2の反射防止膜の光学特性を、曲線Cが通常の最外層が削られる箇所がある反射防止膜の光学特性を、それぞれ示している。
【0051】
図11に示すように、本実施形態の反射防止膜は、硬さが高いことかから、傾斜層表面層が削られるおそれが低く、反射率が5%程度に抑えられているが、通常の反射防止膜は高い確率で最外層が削られてしまうため反射率が14%から15%程度となってしまい、反射防止機能が損なわれる。
【0052】
したがって、本実施形態によれば、所定の硬さを維持でき、時間的な経過に伴って美観を損なうことを防止でき、しかも反射防止機能を高精度に維持することが可能な反射防止膜およびその製造方法を提供することができる。
【0053】
以上説明したように、本実施形態のタッチパネル用反射防止膜20は、その主構成要素である傾斜膜22が、耐摩擦性(膜剥離耐性あるいは硬さ)が高く、時間的経過に伴い表面が接触して操作されても削り取られるおそれが少ない。
本実施形態の反射防止膜20における傾斜膜は、時間が経過したとしてもその表面が削り取られにくい硬さを有しており、タッチパネルの外観の見栄え悪くなることを防止し、美観を損なうことを防止することが可能である。
【0054】
また、反射防止膜20の傾斜膜22の表面において、削り取られた箇所と削り取られていない箇所が生じるおそれが低くなり、それによってもさらに美観を損なうことが防止することができる。
【0055】
また、本実施形態の反射防止膜20において、傾斜膜22の表面(多層の最外層に相当)は、SiO
2等の低屈折率層ではなく、削り取られるおそれが少ないことから、いわゆる反射防止膜(AR膜)が高反射膜(HR膜)になってしまうおそれが低く、反射防止機能が著しく損なわれるということも防止できる。
【0056】
そして、反射防止膜の表面において、削り取られた箇所と削り取られていない箇所が生じにくいことから、反射率差が大きくなり、さらに反射防止機能が損なわれるということも防止できる。
【0057】
また、本実施形態の反射防止膜20は、タッチパネル表面において、上述した反射防止処理のほかに、必要に応じて防汚機能や傷つき防止機能等を含むハードコート性を持つ防汚膜(AS膜)をパネル表面に付与する処理が行われる。
ただし、本実施形態の反射防止膜20は、耐摩擦性(膜剥離耐性あるいは硬さ)が高く接触による摩擦力によって傷つくおそれが低いことから、場合によっては、傷つき防止機能等を含むハードコート性を持つ防汚膜(AS膜)をパネル表面に付与する処理を省略することもできる。
これにより、本実施形態によれば、タッチパネルの製造工程の簡略化を図れ、また、コスト低減を図ることもできるという利点を有する。
【0058】
[反射防止膜の傾斜膜の製造方法]
次に、上記特徴を有する反射防止膜における傾斜膜22の製造方法について説明する。 個々では、傾斜膜成膜装置として、スパッタ装置を用いた場合、蒸着装置を用いた場合、PECVD(Plasma-Enhanced Chemical Vapor Deposition)装置を用いた場合の、SiOxNyの傾斜膜の製造方法について説明する。
【0059】
<スパッタ装置による製造>
まず、スパッタ装置を用いて本実施形態に係る傾斜膜を製造する方法を説明する。
図12は、スパッタ装置を用いて本実施形態に係る傾斜膜を製造する方法を説明するためのフローチャートである。
図12に示すように、Si膜を原子層で成膜し(ステップST1)、その後誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma;ICP)源でO
2+N
2を導入して反応させる(ステップST2)。
この場合、O
2とN
2ガスに比率によるSiOxNy膜の屈折率を調整することにより、SiOxNyの傾斜膜を作製する(ステップST3、ST4)。
【0060】
<蒸着装置による製造>
次に、蒸着装置を用いて本実施形態に係る傾斜膜を製造する方法を説明する。
図13は、蒸着装置を用いて本実施形態に係る傾斜膜を製造する方法を説明するためのフローチャートである。
図13に示すように、EB(Electron Beam;電子線)、でSi膜を成膜し(ステップST11)、O
2とN
2ガスをイオンソース(Ion Source)に導入して反応させる(ステップST12)。
この場合、O
2とN
2ガスに比率によるSiOxNy膜の屈折率を調整することにより、SiOxNyの傾斜膜を作製する(ステップST13、ST14)。
【0061】
<PECVD装置による製造>
次に、PECVD装置を用いて本実施形態に係る傾斜膜を製造する方法を説明する。
図14は、PECVD装置を用いて本実施形態に係る傾斜膜を製造する方法を説明するためのフローチャートである。
図14に示すように、シラン(Silane)、O2、N2ガスをイオンソース(Ion Source)に導入して反応させる(ステップST21)。
この場合、O
2とN
2ガスに比率によるSiOxNy膜の屈折率を調整することにより、SiOxNyの傾斜膜を作製する(ステップST22、ST23)。
【0062】
以上、傾斜膜成膜装置として、スパッタ装置を用いた場合、蒸着装置を用いた場合、PECVD装置を用いた場合の、SiOxNyの傾斜膜の製造方法について説明した。
なお、図示しないが、生産性を上げるために、2ドアの装置を用いて、基板の搭載時間を低減することも可能である。
【0063】
本実施形態の反射防止膜の製造方法によれば、耐摩擦性(膜剥離耐性あるいは硬さ)ga
高く、反射防止率の高い傾斜膜を精度良く作製することができる。
【0064】
本発明は上記の説明に限定されない。
たとえば、実施形態においては傾斜膜の構造として、SiOxNyやNbxSiOyを例として説明したが、所望の硬さを保持し、反射防止率の高い傾斜膜を実現できる材料、たとえばNの代わりに、CやLi等を適用することも可能である。
【0065】
また、本実施形態のタッチパネルは、液晶表示装置(液晶ディスプレイ)に限らず、LED(発光ダイオード)表示装置、有機EL(Electro Luminescence)などのEL表示装置、VFD(蛍光表示管)表示装置、PDP(プラズマディスプレイパネル)などの液晶表示装置以外の表示装置に適用可能である。
その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。