【解決手段】(a)ショ糖脂肪酸エステル、(b)グリセリン有機酸脂肪酸エステルおよび(c)クエン酸塩および/またはリン酸塩を含有することを特徴とするUHT殺菌処理される乳成分含有飲料用のスケール抑制剤。
(a)ショ糖脂肪酸エステル、(b)グリセリン有機酸脂肪酸エステルおよび(c)クエン酸塩および/またはリン酸塩を含有することを特徴とするUHT殺菌処理される乳成分含有飲料用のスケール抑制剤。
(a)ショ糖脂肪酸エステル、(b)グリセリン有機酸脂肪酸エステルおよび(c)クエン酸塩および/またはリン酸塩を乳成分含有飲料に配合することを特徴とするUHT殺菌機熱交換配管内部に発生するスケールを抑制する方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明で用いられる(a)ショ糖脂肪酸エステルは、ショ糖と脂肪酸とのエステル化生成物であり、エステル化反応自体公知の方法により得ることができる。
【0009】
ショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、食用可能な動植物油脂を起源とする脂肪酸であれば特に制限はなく、例えば炭素数6〜24の直鎖の飽和脂肪酸(例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸など)および不飽和脂肪酸(例えば、パルミトオレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、γ−リノレン酸、α−リノレン酸、アラキドン酸、リシノール酸、縮合リシノール酸など)が挙げられ、好ましくは炭素数16〜18の飽和脂肪酸であり、より好ましくはパルミチン酸および/またはステアリン酸を約70質量%以上含有する脂肪酸の混合物である。
【0010】
ショ糖脂肪酸エステルのHLBとしては、HLBが約5より大きいものが好ましく、HLBが約15以上のものがさらに好ましい。HLBが5以上であると乳成分含有飲料をUHT殺菌処理する際に、UHT殺菌機熱交換配管内部に発生するスケールの付着を抑制する効果が十分に得られるため好ましい。ここで、ショ糖脂肪酸エステルのHLBは、各メーカーが公表している数値を採用することができる。
【0011】
本発明では、商業的に製造・販売されているショ糖脂肪酸エステルを用いることができ、例えば、リョートーシュガーエステルS−570(商品名;三菱化学フーズ社製 HLB5)、DKエステルF−50(商品名;第一工業製薬社製 HLB6)、リョートーシュガーエステルS−770(商品名;三菱化学フーズ社製 HLB7)、リョートーシュガーエステルS−970(商品名;三菱化学フーズ社製 HLB9)、リョートーシュガーエステルS−1170(商品名;三菱化学フーズ社製 HLB11)、DKエステルF−110(商品名;第一工業製薬社製 HLB11)、DKエステルF−140(商品名;第一工業製薬社製 HLB13)、リョートーシュガーエステルP−1570(商品名;三菱化学フーズ社製 HLB15)、DKエステルF−160(商品名;第一工業製薬社製 HLB15)およびリョートーシュガーエステルP−1670(商品名;三菱化学フーズ社製 HLB16)などが挙げられる。
【0012】
本発明で用いられる(b)グリセリン有機酸脂肪酸エステルは、通常グリセリンモノ脂肪酸エステルと有機酸との反応、若しくはグリセリンと有機酸と脂肪酸との反応などにより得られるものであり、反応自体公知の方法により得ることができる。
【0013】
本発明で用いられるグリセリン有機酸脂肪酸エステルとしては、例えば、グリセリン酢酸脂肪酸エステル(食品添加物)、グリセリン乳酸脂肪酸エステル(食品添加物)、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル(食品添加物)、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル(食品添加物)、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル(食品添加物)などが挙げられ、好ましくはグリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステルであり、より好ましくはグリセリンコハク酸脂肪酸エステルである。
【0014】
グリセリン有機酸脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、食用可能な動植物油脂を起源とする脂肪酸であれば特に制限はなく、例えば炭素数6〜24の直鎖の飽和脂肪酸(例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸など)および不飽和脂肪酸(例えば、パルミトオレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、γ−リノレン酸、α−リノレン酸、アラキドン酸、リシノール酸、縮合リシノール酸など)が挙げられ、好ましくは炭素数16〜18の飽和または不飽和脂肪酸であり、より好ましくは炭素数16〜18の飽和脂肪酸であり、さらに好ましくはパルミチン酸および/またはステアリン酸を約70質量%以上含有する脂肪酸の混合物である。
【0015】
グリセリンコハク酸脂肪酸エステルの製法の概略を例示すると以下の通りである。即ち、グリセリンモノ脂肪酸エステルを溶融し、これに無水コハク酸を加え、温度120℃前後(約110〜130℃)で約90分間反応する。グリセリンモノ脂肪酸エステルと無水コハク酸との比率は質量比で約1/1〜1/2が好ましい。さらに、反応中は生成物の着色、臭気を防止するために、反応器内を不活性ガスで置換するのが好ましい。得られたグリセリンモノ脂肪酸エステルと無水コハク酸との反応物は、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルの他に、コハク酸、未反応のグリセリンモノ脂肪酸エステル、その他を含む混合物である。
【0016】
本発明では、商業的に製造・販売されているグリセリン有機酸脂肪酸エステルを用いることができ、例えば、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルとしては、ポエムB−10(製品名;理研ビタミン社製)、ポエムB−30(製品名;理研ビタミン社製)、サンソフトNo.681SPV(製品名;太陽化学社製)およびステップSS(製品名;花王社製)などが挙げられる。グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステルとしては、ポエムW−60(製品名;理研ビタミン社製)、パノダンAMV/B(ダニスコ社製)などが挙げられる。
【0017】
本発明で用いられる(c)のクエン酸塩としては、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウムなどが挙げられ、好ましくはクエン酸ナトリウムである。クエン酸ナトリウムとしては、例えば、クエン酸一ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウムなどが挙げられる。
【0018】
本発明で用いられる(c)のリン酸塩としては、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸カルシウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウムなどが挙げられ、好ましくはリン酸カリウムである。リン酸カリウムとしては、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウムなどが挙げられる。
【0019】
スケール抑制剤に含まれる(a)ショ糖脂肪酸エステル、(b)グリセリン有機酸脂肪酸エステルおよび(c)クエン酸塩および/またはリン酸塩の配合比率は特に限定されないが、(a)ショ糖脂肪酸エステルと(b)グリセリン有機酸脂肪酸エステルの配合比率が好ましくは1:0.1〜10、より好ましくは1:0.1〜5であり、(a)ショ糖脂肪酸エステルと(c)クエン酸塩および/またはリン酸塩の配合比率が好ましくは1:1〜12であり、より好ましくは1:1〜10である。
【0020】
スケール抑制剤の製造方法は特に制限はなく、(a)ショ糖脂肪酸エステル、(b)グリセリン有機酸脂肪酸エステルおよび(c)クエン酸塩および/またはリン酸塩を均一に混合することにより作製され得る。製造に使用される混合装置は特に制限はなく、公知の混合装置を用いることができる。
【0021】
スケール抑制剤には、本発明の効果を妨げない範囲で他の物質を含むことができ、例えば、スケール抑制剤に用いられるショ糖脂肪酸エステルおよびグリセリン有機酸脂肪酸エステル以外の乳化剤、増粘安定剤、たんぱく質、酸化防止剤、酵素などが挙げられる。
【0022】
上記ショ糖脂肪酸エステルおよびグリセリン有機酸脂肪酸エステル以外の乳化剤としては、例えばグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチンなどが挙げられる。ここで、グリセリン脂肪酸エステルには、グリセリンと脂肪酸のエステルの外、例えば、ポリグリセリン脂肪酸エステルおよびポリグリセリン縮合リシノール酸エステルが含まれる。またレシチンとしては、例えば大豆レシチンおよび卵黄レシチンなど油分を含む液状レシチン、液状レシチンから油分を除き乾燥した粉末レシチン、液状レシチンを分別精製した分別レシチン並びにレシチンを酵素で処理した酵素分解レシチンおよび酵素処理レシチンなどが挙げられる。
【0023】
上記増粘安定剤としては、例えば、アラビアガム、カラギナン、キサンタンガム、グアーガム、ジェランガム、タマリンドシードガム、タラガム、ローカストビーンガム、セルロース、ペクチンなどが挙げられる。
【0024】
上記たんぱく質としては、例えば、カゼイン、カゼインナトリウムなどが挙げられる。
【0025】
上記酸化防止剤としては、例えば、ビタミンC、トコフェロール、茶抽出物などが挙げられる。
【0026】
上記酵素としては、例えば、ガラクトマンナナーゼ、マンナナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、キシラーゼなどが挙げられる。
【0027】
本発明における乳成分含有飲料としては、例えばミルク入りコーヒー、ミルク入り紅茶、ミルク入りココア、抹茶ミルクなどが挙げられる。乳成分含有飲料に使用される乳成分としては、例えば、生乳、生クリーム、バター、加糖煉乳、脱脂加糖煉乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、脱脂粉乳、全脂粉乳、チーズ、カゼインとその塩、ホエーパウダーなどが挙げられる。また、飲料に対する乳成分の含有量は、飲料の種類、嗜好などで異なり一様ではないが、通常乳固形分に換算して約0.4〜12.5質量%、好ましくは約0.5〜10.0質量%である。
【0028】
スケール抑制剤の乳成分含有飲料に対する添加量は、乳成分含有飲料100質量部に対して、(a)ショ糖脂肪酸エステルが約0.0001〜0.2質量部、好ましくは約0.001〜0.1質量部、(b)グリセリン有機酸脂肪酸エステルが約0.0001〜0.25質量部、好ましくは約0.005〜0.15質量部、(c)クエン酸塩および/またはリン酸塩が約0.0001〜2.0質量部、好ましくは約0.001〜0.3質量部となるように添加することが好ましい。
【0029】
スケール抑制剤は、飲料中や飲料を構成する成分に直接添加してもよく、また予め水分散液を調製して添加しても良い。さらには、澱粉や澱粉分解物、還元澱粉加水分解物などとあらかじめ混合し直接飲料に添加したり、または同混合品を用いてあらかじめ水分散液を調整して飲料に添加することもできる。
【0030】
乳成分含有飲料の製造方法に特に制限はないが、例えばコーヒー乳飲料の製法の概略は以下の通りである。例えば、焙煎されたコーヒー豆から約90〜98℃の精製水で抽出されたコーヒー抽出液を冷却後、酵素を添加して15分以上放置する。次に、酵素を添加したコーヒー抽出液に、牛乳、ホエー濃縮物、全粉乳または脱脂粉乳などの乳成分、砂糖、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル並びにクエン酸塩および/またはリン酸塩を含むスケール抑制剤を溶解し、所望により増粘安定剤、たんぱく質、酸化防止剤の水溶液を添加し、更に所望により炭酸水素ナトリウムの水溶液を添加してpHを約5〜7に調整する。次に、得られた調整した乳成分含有飲料を高圧式均質化処理機を用いて均質化する。高圧式均質化処理機としては、例えばAPVゴーリンホモジナイザー(APV社)、マイクロフルイダイザー(マイクロフルイデックス社)、アルティマイザー(スギノマシン社)、ナノマイザー(大和製罐社)などが挙げられる。均質化は、乳成分含有飲料を例えば温度約60〜70℃、圧力約15〜20MPaの条件で約1〜3回処理することにより行われ得る。
均質化された乳成分含有飲料の加熱殺菌方法としては、UHT(Ultra High Temperature)殺菌が用いられる。UHT殺菌としては、プレートやチューブなど表面熱交換器を用いる間接加熱方式などが挙げられる。プレート式殺菌装置を用いるUHT殺菌処理法は、通常約130〜150℃、殺菌時間が約1〜45秒の加熱条件で行われ得る。UHT殺菌処理された乳成分含有飲料は、滅菌されたPET容器やアセプティック紙容器(テトラブリック容器など)などに無菌的に充填され、密栓されるのが好ましい。
【0031】
斯くして、本発明のスケール抑制剤を用いれば、乳成分含有飲料をUHT殺菌処理する際、UHT殺菌機熱交換配管内部、具体的にはプレート殺菌機などの熱交換配管内部に発生するスケール(不溶性固形分の付着物)の付着を抑制することができる。
【0032】
(a)ショ糖脂肪酸エステル、(b)グリセリン有機酸脂肪酸エステルおよび(c)クエン酸塩および/またはリン酸塩を乳成分含有飲料に配合することによるUHT殺菌機熱交換配管内部に発生するスケールを抑制する方法も本発明の形態の1つである。
【0033】
乳成分含有飲料には、有効成分である(a)ショ糖脂肪酸エステル、(b)グリセリン有機酸脂肪酸エステルおよび(c)クエン酸塩および/またはリン酸塩を含むスケール抑制剤を配合しても良いし、前記有効成分を別々に配合してもよい。なお、乳成分含有飲料に前記スケール抑制剤または前記有効成分を配合するタイミングとしては、UHT殺菌処理する前に配合すれば特に制限はない。
【0034】
以下に本発明を実施例で説明するが、これは本発明を単に説明するだけのものであって、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0035】
<スケール抑制剤の作製>
(1)原材料
1)ショ糖脂肪酸エステル(商品名:リョートーシュガーエステルP−1670;三菱化学フーズ社製)
2)グリセリンコハク酸脂肪酸エステル(商品名:ポエムB−30;理研ビタミン社製 )
3)グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル(商品名:ポエムW−60;理研ビタミン社製)
4)クエン酸ナトリウム(商品名:クエン酸三ナトリウム;和光純薬工業社製)
5)リン酸カリウム(商品名:リン酸水素二カリウム:和光純薬工業社製)
【0036】
(2)配合
上記原材料を用いて作製したスケール抑制剤の配合組成を表1に示した。
【0037】
【表1】
【0038】
(3)スケール抑制剤の作製方法
表1に記載の等倍量の原材料を1L容ビニール袋に入れ、3分間手で振り混ぜて均一になるように混合してスケール抑制剤(実施例品1〜4、比較例品1)を作製した。
【0039】
<ミルク入りコーヒーの作製>
[試作品1]
焙煎コーヒー豆900gを95℃の精製水9000gで抽出し、コーヒー抽出液(Brix 3%)を得た。該コーヒー抽出液6000g、牛乳(乳脂肪3.5%以上、無脂乳固形分8.3%以上)1800g、グラニュー糖600gを配合し、これに精製水を加えて全量を12000gとし、さらにスケール抑制剤(実施例1)45.6g、炭酸水素ナトリウム18gを加えた。ウォーターバスを用いて70℃に達温後10分攪拌を行い溶け残りが無い事を確認した。高圧式均質化処理機(製品名:APVゴーリンホモジナイザー;APV社製)を用いて、液温約60〜70℃、第一段圧力約15MPa、第二段圧力5MPaの条件で均質化してミルク入りコーヒー(試作品1)を得た。
【0040】
[試作品2〜4]
前記ミルク入りコーヒー(試作品1)の作製の方法において、スケール抑制剤(実施例品1)をスケール抑制剤(実施例品2〜4)に替えた以外は同様の操作を行い、ミルク入りコーヒー(試作品2〜4)を得た。
【0041】
[試作品5]
前記ミルク入りコーヒー(試作品1)の作製の方法において、スケール抑制剤(実施例品1)45.6gをスケール抑制剤(比較例品1)9.6gに替えた以外は同様の操作を行い、ミルク入りコーヒー(試作品5)を得た。
【0042】
[試作品6]
前記ミルク入りコーヒー(試作品1)の作製の方法において、スケール抑制剤(実施例品1)を添加しない以外は同様の操作を行い、ミルク入りコーヒー(試作品6)を得た。
【0043】
<UHT殺菌時のプレート型間接熱交換機へのスケール抑制評価>
[試験区1〜6]
得られたミルク入りコーヒー(試作品1〜6)をそれぞれ小型連続式UHT殺菌装置(プレート型間接熱交換機;パワーポイントインターナショナル社製)を用い145℃30秒の加熱条件で殺菌して試験区1〜6とした。加熱殺菌処理した後、プレート型間接熱交換機を分解し、UHT殺菌機熱交換配管内部(プレート部分)に付着したスケールの状況を目視にて観察し、下記表2の評価基準で評価した。結果を表3に示す。
【0044】
【表2】
【0045】
【表3】
結果より、スケール抑制剤として実施例品1〜4を用いたミルク入りコーヒー(試作品1〜4)をUHT殺菌した際の熱交換配管内部(試験区1〜4のプレート面)は、スケール付着がほとんどない、または極わずかにある状態であり、スケール抑制効果があった。一方、スケール抑制剤として比較例品1を用いたミルク入りコーヒー(試作品5)をUHT殺菌した際の熱交換配管内部(試験区5のプレート面)は、スケール付着があり、スケール抑制効果がなかった。