特開2015-167900(P2015-167900A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士シリシア化学株式会社の特許一覧

<>
  • 特開2015167900-ヒ素除去剤及びヒ素除去方法 図000005
  • 特開2015167900-ヒ素除去剤及びヒ素除去方法 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-167900(P2015-167900A)
(43)【公開日】2015年9月28日
(54)【発明の名称】ヒ素除去剤及びヒ素除去方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/02 20060101AFI20150901BHJP
   B01D 15/00 20060101ALI20150901BHJP
   C02F 1/28 20060101ALI20150901BHJP
   B01J 20/06 20060101ALI20150901BHJP
   C01B 33/159 20060101ALI20150901BHJP
   A23L 1/015 20060101ALI20150901BHJP
【FI】
   B01J20/02 A
   B01D15/00 N
   C02F1/28 B
   B01J20/06 A
   C01B33/159
   A23L1/015
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-43823(P2014-43823)
(22)【出願日】2014年3月6日
(71)【出願人】
【識別番号】000237112
【氏名又は名称】富士シリシア化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】小原 裕輝
(72)【発明者】
【氏名】小川 光輝
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 伸樹
【テーマコード(参考)】
4B035
4D017
4D624
4G066
4G072
【Fターム(参考)】
4B035LC06
4B035LG01
4B035LK19
4B035LP21
4B035LP59
4D017AA01
4D017AA20
4D017BA04
4D017BA13
4D017CA06
4D017CB01
4D017DA01
4D017DA07
4D624AA01
4D624AB04
4D624AB17
4D624BA14
4D624BB08
4D624BC01
4D624BC04
4G066AA22C
4G066AA27B
4G066AA39B
4G066BA23
4G066BA25
4G066BA26
4G066BA38
4G066CA46
4G066DA07
4G066DA20
4G072AA28
4G072BB05
4G072CC10
4G072GG02
4G072HH19
4G072JJ09
4G072JJ28
4G072JJ33
4G072MM23
4G072MM31
4G072QQ06
4G072QQ09
4G072TT09
4G072UU11
4G072UU30
(57)【要約】
【課題】ヒ素を除去する効果が高いヒ素除去剤及びヒ素除去方法を提供することを目的とする。
【解決手段】平均細孔径が10〜1000nmであるシリカゲルと、前記シリカゲルに担持された鉄イオンと、を含むことを特徴とするヒ素除去剤。前記鉄イオンの単位面積当りの担持量は、0.1〜1個/nm2であることが好ましい。ヒ素除去剤の用途は、例えば、食品に含まれるヒ素の除去とすることができる。前記食品としては、例えば、魚介類、藻類、海藻類、及びそれらの抽出液から成る群から選ばれる1種以上が挙げられる。本発明のヒ素除去方法は、上述したヒ素除去剤と、ヒ素を含む被処理物とを接触させることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均細孔径が10〜1000nmであるシリカゲルと、
前記シリカゲルに担持された鉄イオンと、
を含むことを特徴とするヒ素除去剤。
【請求項2】
前記鉄イオンの単位面積当りの担持量が0.1〜1個/nm2であることを特徴とする請求項1に記載のヒ素除去剤。
【請求項3】
食品に含まれるヒ素の除去を用途とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のヒ素除去剤。
【請求項4】
前記食品が、魚介類、藻類、海藻類、及びそれらの抽出液から成る群から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項3に記載のヒ素除去剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のヒ素除去剤と、ヒ素を含む被処理物とを接触させることを特徴とするヒ素除去方法。
【請求項6】
前記ヒ素除去剤を含む固定床に対し前記被処理物を含む液体を通液することを特徴とする請求項5に記載のヒ素除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒ素除去剤及びヒ素除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄系化合物又はアルミニウム系化合物による凝集沈澱や、アルミナによる化学吸着を利用したヒ素除去方法が排水処理に利用されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−260030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のヒ素除去方法は、食品の製造等において使用することが好ましくない成分(鉄系化合物、アルミニウム系化合物、アルミナ等)を多量に使用する必要があった。本発明は以上の点に鑑みなされたものであり、上述した課題を解決できるヒ素除去剤及びヒ素除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のヒ素除去剤は、平均細孔径が10〜1000nmであるシリカゲルと、前記シリカゲルに担持された鉄イオンと、を含むことを特徴とする。本発明のヒ素除去剤は、鉄イオンの担持量が必ずしも多くなくても、ヒ素を除去する効果が高い。
【0006】
本発明のヒ素除去方法は、上記のヒ素除去剤と、ヒ素を含む被処理物とを接触させることを特徴とする。本発明のヒ素除去方法は、ヒ素除去剤における鉄イオンの担持量が必ずしも多くなくても、被処理物からヒ素を除去する効果が高い。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】鉄イオンの単位面積当りの担持量と、ヒ素除去率との関係を表すグラフである。
図2】ひじきの煮汁及びヒ素除去剤の攪拌時間と、ヒ素除去率との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施形態を説明する。本発明のヒ素除去剤は、平均細孔径が10〜1000nmであるシリカゲルを含む。平均細孔径は、20〜100nmの範囲が一層好ましい。この範囲内であることにより、ヒ素を除去する効果が一層高い。平均細孔径は、以下の方法で測定できる。シリカゲルにおける全ての細孔を円筒形細孔と仮定する。このときシリカゲルの比表面積をS、細孔容積をVとすると、平均細孔径Xは以下の式(1)で表される。
【0009】
式(1):X=(4V/S)×1000
ここで、式(1)における比表面積Sは、S. Brunauer, P. H. Emmett, E. Teller, J. Am. Chem. Soc. 60(1), 309 (1938)に記載された理論に基づく、一点法と呼ばれる簡便測定法にて測定できる。比表面積Sの測定装置としては、柴田科学器械工業社製の迅速表面積測定装置SA-1100型を使用する。
【0010】
また、式(1)における細孔容積Vは、以下の方法で測定できる。まず、水分を蒸発・除去した試料(シリカゲル)をバイアル瓶に入れ、ビュレットを用いてイオン交換水を滴下する。滴下しながら瓶をゴム板にて数回軽くたたき、瓶底より試料が落下しなくなる滴下量を終点とする。終点までの水の量、および初期の試料重量から試料中の細孔容積Vを算出する。
【0011】
また、本発明のヒ素除去剤は、シリカゲルに担持された鉄イオンを含む。鉄イオンの単位面積(シリカゲルの表面の単位面積)当りの担持量は、0.1〜1個/nm2であることが好ましい。この範囲内であることにより、ヒ素を除去する効果が一層高い。
【0012】
鉄イオンの単位面積当りの担持量は、以下の方法で算出できる。まず、水分を蒸発・除去した試料(鉄を担持したシリカゲル)をフッ酸で処理し、ケイ素を揮発させる。次に、残渣を焼成して酸化鉄とし、その重量および初めの試料重量から試料1g中の鉄個数を算出する。この鉄個数及び一点法で求めたシリカゲルの比表面積から鉄イオンの単位面積当りの担持量を算出する。
【0013】
本発明のヒ素除去剤は、例えば、食品(例えば液状の食品)に含まれるヒ素の除去を用途とすることができる。食品としては、例えば、魚介類、藻類、海藻類、及びそれらの抽出液等が挙げられる。
【0014】
本発明のヒ素除去剤は、例えば、以下の浸漬法、又は中和法により製造できる。
(浸漬法)
調製した鉄溶液(鉄の塩の水溶液)にシリカゲルを含浸させ、シリカゲルに鉄イオンを吸着(担持)させる。その後、鉄イオンを担持したシリカゲルを、鉄イオンの溶出がなくなるまで水洗する。最後に、鉄イオンを担持したシリカゲルを、水分がなくなるまで乾燥させる。
(中和法)
調製した鉄溶液(鉄の塩の水溶液)にシリカゲルを含浸させ、シリカゲルに鉄イオンを吸着(担持)させる。次に、重炭酸アンモニウム水溶液を加えてシリカゲルごと溶液を中和する。次に、鉄イオンを担持したシリカゲルを、鉄イオンの溶出がなくなるまで水洗する。最後に、鉄イオンを担持したシリカゲルを、水分がなくなるまで乾燥させる。
【0015】
本発明のヒ素除去方法は、上述したヒ素除去剤と、ヒ素を含む被処理物とを接触させることを特徴とする。本発明のヒ素除去方法によれば、被処理物に含まれていたヒ素がヒ素除去剤に吸着され、結果として、被処理物からヒ素が除去される。
【0016】
本発明のヒ素除去方法において、例えば、ヒ素除去剤を含む固定床(例えばカラムに充填されたヒ素除去剤)に対し被処理物を含む液体を通液することができる。この場合、被処理物を含む液体からヒ素除去剤を除く工程が必須ではなくなるので、被処理物からのヒ素の除去が一層容易になる。
【0017】
本発明のヒ素除去方法において、例えば、ヒ素除去剤と、被処理物を含む液体とを混合し、被処理物に含まれていたヒ素をヒ素除去剤に吸着させた後、フィルター等を用いて被処理物をヒ素除去剤から分離することができる。
【0018】
前記被処理物としては、例えば、食品(例えば液状の食品)が挙げられる。食品としては、例えば、魚介類、藻類、海藻類、及びそれらの抽出液等が挙げられる。
被処理物に含まれるヒ素は、無機物であってもよいし、有機ヒ素(例えばジメチルアルシン酸等)であってもよい。
(実施例1)
1.ヒ素除去剤の製造
基本的なヒ素除去剤の製造方法は以下のとおりである。まず、塩化第ニ鉄六水和物水溶液170gに、100gのシリカゲルを含浸し、2時間攪拌する。次に、シリカゲルを塩化第ニ鉄六水和物水溶液から取り出し、鉄イオンの溶出がなくなるまで水洗する。最後に、150℃で2時間乾燥させ、ヒ素除去剤を得る。このヒ素除去剤は、シリカゲルと、そのシリカゲルに担持された鉄イオンとから成る。
【0019】
上記の基本的な製造方法において、シリカゲルの種類と、塩化第ニ鉄六水和物水溶液の濃度とを、表1に示すとおり種々に変えて、ヒ素除去剤1A、1B、1C、1D、1E、1Fをそれぞれ製造した。用いたシリカゲルは、それぞれ、表1に示す比表面積、細孔容積、及び平均細孔径を有する。
【0020】
【表1】
表1において、「仕込み鉄溶液濃度」とは、シリカゲルを含浸させる前の調製した鉄溶液濃度を意味する。また、表1において、「鉄担持率」は、ヒ素除去剤の全重量に対する、鉄の重量の比率(wt%)である。「鉄担持率」は、以下のように算出できる。まず、水分を蒸発・除去したヒ素除去剤の重量(処理前の重量)を測定しておく。次に、ヒ素除去剤をフッ酸で処理し、ケイ素分を揮発させる。次に、残渣を焼成して酸化鉄とする。次に、この酸化鉄の重量と、ヒ素除去剤の処理前の重量とから、鉄担持率を算出する。
【0021】
また、表1において「鉄イオン担持量」は、シリカゲルの表面における単位面積当りに担持された鉄イオンの量を表し、単位は個/nm2である。
2.ヒ素除去方法
ヒ素除去剤1A、1B、1C、1D、1E、1Fを用いて、以下に示すようにヒ素除去方法を実施した。まず、ヒ素の濃度が50ppbであるヒ素水溶液50mlに、ヒ素除去剤(ヒ素除去剤1A、1B、1C、1D、1E、1Fのうちのいずれか一つ)を0.50g添加し、6時間攪拌した。次に、ICPを用いてヒ素水溶液における上澄みのヒ素濃度(残留濃度C)を測定した。そして、以下の式(2)により、ヒ素除去率Yを算出した。
【0022】
式(2):Y=((Ci−C)/Ci)×100
ここで、式(2)におけるCiは、ヒ素水溶液におけるヒ素の初期濃度(ヒ素除去剤を添加する前の濃度)であって、その値は50ppbである。また、残留濃度Cの単位もppbである。
【0023】
ヒ素除去率を上記表1に示す。シリカゲルの平均細孔径が10nm以上であるヒ素除去剤1C〜1Fを使用した場合、鉄イオンの担持量が少なくても、特にヒ素除去率が高かった。シリカゲルの平均細孔径が10nm以上であるヒ素除去剤を用いた場合にヒ素除去率が高い理由は、ヒ素化合物がシリカゲル粒子細孔内に迅速に拡散するためであると推測できる。
【0024】
また、鉄イオンの単位面積当りの担持量と、ヒ素除去率との関係を図1に示す。図1から明らかなように、鉄イオンの単位面積当りの担持量が0.1個/nm2である場合、特にヒ素除去率が高かった。
(実施例2)
1.ヒ素除去剤の製造
基本的なヒ素除去剤の製造方法は以下のとおりである。まず、塩化第ニ鉄六水和物水溶液170gに、100gのシリカゲルを含浸し、2時間攪拌する。次に、塩化第ニ鉄六水和物水溶液に、炭酸水素アンモニウム水溶液(炭酸水素アンモニウム10gをイオン交換水で溶解し、全量を400mlとした水溶液)400mlを加える。このとき、シリカゲルの細孔内の鉄が不溶化する。次に、シリカゲルを塩化第ニ鉄六水和物水溶液から取り出し、150℃で2時間乾燥させ、ヒ素除去剤を得る。このヒ素除去剤は、シリカゲルと、そのシリカゲルに担持された鉄イオンとから成る。
【0025】
上記の基本的な製造方法において、シリカゲルの種類と、塩化第ニ鉄六水和物水溶液の濃度とを、表2に示すとおり種々に変えて、ヒ素除去剤2A、2D、2E、2F、2Gをそれぞれ製造した。用いたシリカゲルは、それぞれ、表2に示す比表面積、細孔容積、及び平均細孔径を有する。
【0026】
【表2】
2.ヒ素除去方法(その1)
ヒ素除去剤2A、2D、2E、2F、2Gを用いて、以下に示すようにヒ素除去方法を実施した。まず、ヒ素の濃度が0.80ppbである井戸水50mlに、ヒ素除去剤(ヒ素除去剤2A、2D、2E、2F、2Gのうちのいずれか一つ)を0.50g添加し、攪拌した。次に、ICPを用いてヒ素水溶液における上澄みのヒ素濃度(残留濃度C)を測定した。そして、上記式(2)により、ヒ素除去率Yを算出した。ヒ素除去率は、攪拌時間が10分間の場合、30分間の場合、60分間の場合のそれぞれにおいて算出した。
【0027】
ヒ素除去率を図2に示す。シリカゲルの平均細孔径が10nm以上であるヒ素除去剤2D、2E、2F、2Gを使用した場合、鉄イオンの担持量が少なくても、特に、短時間の攪拌時間でヒ素除去率が高くなった。
【0028】
3.ヒ素除去方法(その2)
濃度が100ppbであるジメチルアルシン酸溶液50mlに、ヒ素除去剤2Eを0.50g添加し、1時間攪拌した。そして、ヒ素除去率を測定したところ、27%であった。
【0029】
4.ヒ素除去方法(その3)
韓国産ひじきの煮汁を用意した。この煮汁におけるヒ素濃度は440ppbであった。煮汁50mlに、ヒ素除去剤2Eを0.50g添加し、1時間攪拌した。そして、ヒ素除去率を測定したところ、25%であった。
図1
図2