【課題】メッキ液(例えば、無電解ニッケルメッキ液)から不要なイオン成分を除去しつつ所定のイオン成分を効率よく得るための電気透析装置及びこの電気透析装置を使用した電気透析方法並びにメッキ処理システムを提供する。
【解決手段】陽極20が配置されている陽極室2と陰極30が配置されている陰極室3との間に設けられる中間室4が、1価選択性アニオン交換膜11と、標準アニオン交換膜12と、1価選択性カチオン交換膜13と、バイポーラ膜14と、1価選択性アニオン交換膜11、標準アニオン交換膜12、1価選択性カチオン交換膜13又はバイポーラ膜14へ所定の溶液を分配するための4種類の室枠(15乃至18)と、からなる構成を複数有し、陽極室2から陰極室3に向かって、1価選択性アニオン交換膜11、標準アニオン交換膜12、1価選択性カチオン交換膜13及びバイポーラ膜14がこの順に配置され、前記構成が、4流路を有する。
前記NaOH液室枠において、前記バイポーラ膜が有するアニオン交換層によって生成される水酸化物イオンと、前記無電解ニッケルメッキ液に含まれ前記1価選択性カチオン交換膜を通過して前記NaOH液室枠へ移動したナトリウムイオンと、が、前記NaOH液室枠の中に滞留することによってNaOHが生成され、
前記NaOH液室枠にて生成されるNaOHを、前記廃液室枠を循環する液に添加するための流路をさらに有することを特徴とする、請求項3又は4に記載の電気透析装置。
前記流路を用いて、前記廃液室枠を循環する液に前記NaOH液室枠にて生成されたNaOHを添加することにより、前記廃液室枠を循環する液のpHを8.5以上にすることを特徴とする、請求項3乃至5のいずれか一項に記載の電気透析装置。
前記1価選択性アニオン交換膜と前記標準アニオン交換膜との間に配置される廃液室枠に水酸化物イオンを導入して廃液室枠内のpHを8.5以上にするpH調整プロセスをさらに有し、
前記廃液室枠に移動した陰イオンの内、1価の亜リン酸イオンを2価の亜リン酸イオンに変換させ、
廃液室枠に含まれる硫酸イオン及び2価の亜リン酸イオンを廃液室枠内に滞留させると共に、1価の亜リン酸イオンを1価選択性アニオン交換膜に透過させてから回収液室枠へ移動させることを特徴とする、請求項9に記載の電気透析方法。
【背景技術】
【0002】
化学メッキの一種である化学ニッケルメッキは、電極を用いることなく金属ニッケルをメッキすることができ、その特徴として、不導体にもメッキが付くこと、耐食性がよいこと、均一なメッキ膜が得られること等の特徴を有している。このため、化学ニッケルメッキは、プラスチック、セラミック、金属等の素材に電導性を付与したり、当該素材の耐食性、耐摩耗性もしくは硬度を向上させたり、はんだ付け性もしくは接着性を改善したりする等の目的で幅広く利用されている。
【0003】
ところで、化学ニッケルメッキに使用される、次亜リン酸イオン(H
2PO
2-)を還元剤として含む無電解ニッケルメッキ液においては、使用の度に次亜リン酸イオンが酸化され消費される。この次亜リン酸イオンの酸化によって亜リン酸イオン(H
2PO
3-)が生成される。また無電解ニッケルメッキ液においては、使用の度にニッケルイオン(Ni
2+)が消費されるため、ニッケルイオンを補充する目的で随時硫酸ニッケルが補充される。これによりメッキ液中に硫酸イオン(SO
42-)が蓄積される。さらに無電解ニッケルメッキ液においては、メッキ液の使用によって消費される次亜リン酸イオンを補給したりメッキ液のpHを調整したりする目的で水酸化物イオン(OH
-)を適宜補給する必要がある。このときこの水酸化物イオンの対イオン(例えば、ナトリウムイオン(Na
+))がメッキ液中に蓄積される。ここで、亜リン酸イオン、硫酸イオン、ナトリウムイオン等の水酸化物イオンの対イオンがメッキ液中に蓄積されると、これらイオンが金属ニッケルの析出速度の低下や、メッキ液の分解性を高める等の劣化要因となる。このため、メッキ液を長期間安定的に使用するためにはメッキ液を劣化させるイオン(阻害イオン)を随時除去する必要がある。
【0004】
従来、上記阻害イオンを除去するために電気透析法が提案され、その具体例として、特許文献1に記載の方法があった。しかし、特許文献1の方法では、阻害イオンの除去と同時に、メッキ液中に含ませるべきイオンである次亜リン酸イオンやニッケルイオンといった有効イオンが多く損失するため経済的損失が大きかった。また近年では資源の枯渇問題を背景としてメッキ液を調製する際に使用されるニッケルやリン鉱石が高騰している。このような状況から、電気透析法を利用する際には有効イオンの損失を軽減することが要求された。
【0005】
ここで、上記要求を満たすと考えられる方法として、電気透析装置を少なくとも2組用意し、これら装置を組み合わせて使用する2段階電気透析法が提案された。
【0006】
特許文献2では、補助電気透析装置を含めて2台以上の電気透析装置を用いてメッキ液を処理する方法が提案されている。ここで特許文献2にて提案されている処理方法は、下記(a1)乃至(a3)の工程を有している。
(a1)カチオン交換膜及びアニオン交換膜を備えた一台目の電気透析槽の脱塩室にて一次電気透析を行い亜リン酸H
2PO
3-の濃縮液を得、その濃縮液中のニッケルイオンの濃度が1.5g/L未満になるまで繰り返し補助電気透析処理を行う工程。
(a2)ニッケルイオンの濃度が1.5g/L未満の濃縮液のpHを6乃至10に調整する工程。
(a3)上記工程(a2)の後、一価選択性カチオン交換膜と一価選択性アニオン交換膜を備えた2台目の電気透析槽の脱塩室にて二次電気透析を行い、脱塩液と濃縮液に分離させ1次透析により濃縮液に移動した次亜リン酸イオンと有機酸を回収する工程。
【0007】
また特許文献3でも、特許文献2と同様に少なくとも2台の電気透析装置を利用する電気透析方法が提案されている。ここで特許文献3にて提案された方法とは、所定の電気透析装置が有する濃縮室と他の電気透析装置が有する脱塩室とを連結する方法である。例えば、1台目の電気透析装置(第1電気透析装置)が有する濃縮室と2台目の電気透析装置(第2電気透析装置)が有する脱塩室とを連結し、第2電気透析装置が有する濃縮室と第1電気透析装置が有する脱塩室とを連結する。また特許文献3によると、第1電気透析装置には、陰イオン交換膜(第1陰イオン交換膜)と、陽イオン交換膜(第1陽イオン交換膜)と、が交互に配置されている。ここで第1陰イオン交換膜は、1価の次亜リン酸イオンや亜リン酸イオン、2価の硫酸イオンや有機酸等の陰イオンの一部を透過する陰イオン交換膜である。一方、第1陽イオン交換膜は、1価のイオン(ナトリウムイオン等)は透過するが2価のニッケルイオン(Ni
2+)は透過しない陽イオン交換膜である。さらに特許文献3によると、第2電気透析装置にも、陰イオン交換膜(第2陰イオン交換膜)と、陽イオン交換膜(第2陽イオン交換膜)と、が交互に配置されている。ここで第2陰イオン交換膜は、1価の次亜リン酸イオンや有機酸を透過し、2価の亜リン酸イオンや硫酸イオンを透過しない陰イオン交換膜である。一方、第2陽イオン交換膜は、水素イオンを透過するが他の陽イオン(例えば、ナトリウムイオン)を透過しない水素選択性能を有する陽イオン交換膜である。尚、特許文献3において、第2電気透析装置の脱塩室の室内は弱アルカリ性(PH=8.5)に調整され、第2電気透析装置の脱塩室に含まれる1価の亜リン酸イオンは2価の亜リン酸イオンに変換される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態にかかる電気透析装置は、陽極と陰極との間においてアニオン交換膜及びカチオン交換膜で画成される中間室が設けられ、この中間室内をバイポーラ膜で仕切った構造を有する。本発明の電気透析装置の一形態としては、例えば、陽極が配置されている陽極室と、陰極が配置されている陰極室と、陽極室と陰極室との間に設けられる中間室と、を有する。また、この電気透析装置は、陽極室と中間室との間、陰極室と中間室との間、及び中間室内にそれぞれイオン交換膜が配置されている。
【0020】
本発明の一実施形態にかかる電気透析装置において、例えば、中間室は、4種類のイオン交換膜と、4種類の室枠と、からなる構成を複数有している。ここで4種類のイオン交換膜とは、具体的には、1価選択性アニオン交換膜、標準アニオン交換膜、1価選択性カチオン交換膜及びバイポーラ膜である。また上記室膜は、上述した4種類のイオン交換膜(1価選択性アニオン交換膜、標準アニオン交換膜、1価選択性カチオン交換膜、バイポーラ膜)のうちのいずれかへ所定の溶液を分配するために設けられている。尚、本実施形態において、中間室とは、複数のイオン交換膜と、複数の室枠と、から構成されるユニットであって、その形状については特に限定されるものではない。また室枠は、イオン交換膜とイオン交換膜との間に設けられる部材である。
【0021】
本発明において、例えば、中間室内に設けられる4種類のイオン交換膜は、所定の規則に従って配列されている。具体的には、陽極室から陰極室に向かって、1価選択性アニオン交換膜、標準アニオン交換膜、1価選択性カチオン交換膜及びバイポーラ膜がこの順に配置されている。
【0022】
また本発明において、例えば、上述した構成(4種類のイオン交換膜と、4種類の室枠と、からなる構成)は、4流路を有する。本発明において、例えば、n流路(nは、自然数)とは、電気透析装置が有する複数の室枠をそれぞれ流れる流体の種類がn個であることを意味する。即ち、本発明において、例えば、任意の室枠(陽極室又は陰極室に該当する室枠を除く。)を流れる流体の種類が4個であることを意味する。
【0023】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0024】
図1は、本発明の電気透析装置における実施形態の例を示す模式図である。
図1の電気透析装置1は、陽極20を有する陽極室2と、陰極30を有する陰極室3と、陽極室2と陰極室3との間にある中間室4と、から構成される。尚、本実施形態において、陽極室2及び陰極室3の形状は、長さ、高さ及び奥行を有する3次元的空間を有する形状に限定されるものではなく、上述した室枠と同じ形状であってもよい。
【0025】
図1の電気透析装置1において、陽極室2と中間室4との間には、標準カチオン交換膜10が設けられる。即ち、陽極室2と中間室4との間に設けられる標準カチオン交換膜10は、陽極室2と中間室4とを区画する部材である。また
図1の電気透析装置1において、陰極室3と中間室4との間には、標準カチオン交換膜10が設けられる。即ち、陰極室3と中間室4との間に設けられる標準カチオン交換膜10は、陰極室3と中間室4とを区画する部材である。
【0026】
図1の電気透析装置1中の中間室4には、回収液室枠15、1価選択性アニオン交換膜11、廃液室枠16、標準アニオン交換膜12、メッキ液室枠17、1価選択性カチオン交換膜13、NaOH液室枠15及びバイポーラ膜14からなる構成を複数有する。
図1に示されるように、4種類のイオン交換膜(11、12、13、14)と、4種類の室枠(15、16、17、18)と、からなる構成は、中間室4内に複数配置される。また中間室4内に配置される4種類のイオン交換膜(11、12、13、14)及び4種類の室枠(15、16、17、18)の配置順は決められており、具体的には、下記に示される順に配置される。
(陽極室2/・・・/)回収液室枠15/1価選択性アニオン交換膜11/廃液室枠16/標準アニオン交換膜12/メッキ液室枠17/1価選択性カチオン交換膜13/NaOH液室枠15/バイポーラ膜14(/・・・/陰極室3)
【0027】
また
図1の電気透析装置1は、所定の溶液を貯蔵するための槽、具体的には、回収液槽5、廃液槽6、メッキ液槽7、NaOH液槽8、陽極槽21及び陰極槽31を有する。
図1の電気透析装置1において、これらの槽にそれぞれ貯蔵されている溶液は、所定の液循環系統により、槽と室又は室枠との間を循環している。
【0028】
具体的には、陽極槽21に貯蔵されている溶液は、陽極液循環系統22により、陽極槽21と陽極室2との間を循環している。陰極槽31に貯蔵されている溶液は、陰極液循環系統32により、陰極槽31と陰極室3との間を循環している。
【0029】
またメッキ液槽7に貯蔵されている使用済メッキ液は、メッキ液循環系統47により、メッキ液槽7とメッキ液室枠17との間を循環している。廃液槽16に貯蔵されている廃液は、廃液循環系統46により、廃液槽6と廃液室枠16との間を循環している。回収液槽5に貯蔵されている回収液は、回収液循環系統45により、回収液槽5と回収液室枠15との間を循環している。NaOH液槽8に貯蔵されているNaOH溶液(NaOH水溶液)は、NaOH液循環系統48により、NaOH液槽8とNaOH液室枠18との間を循環している。このように、
図1の電気透析装置1には、陽極液循環系統22及び陰極液循環系統32の他に4種類の循環器系統を備えている。このため、
図1の電気透析装置1は、4つの流路(4流路)を有している。
【0030】
一方、
図1の電気透析装置1には、上述した流路・液循環系統の他に、下記(i)乃至(iv)に示される流路が設けられている。
(i)廃液槽6と陰極槽31との間に設けられる、陰極槽31に貯蔵されている溶液を廃液槽6へ輸送するための流路41
(ii)メッキ液槽7と陰極槽31との間に設けられる、陰極槽31に貯蔵されている溶液をメッキ液槽7へ輸送するための流路42
(iii)NaOH液槽8と廃液槽6との間に設けられる、NaOH液槽8に貯蔵されている溶液を廃液槽6へ輸送するための流路43
(iv)メッキ液槽7とNaOH液槽8との間に設けられる、NaOH液槽8に貯蔵されている溶液をメッキ液槽7へ輸送するための流路44
【0031】
尚、上記4種類の流路(41、42、43、44)の詳細については、後述する。また
図1の4流路の電気透析装置1において、上述した構成部材(室枠、イオン交換膜、槽)をまとめる機器として、市販品(例えば、旭硝子エンジニアリング社製、DW1・3・5型)を用いることができる。
【0032】
次に、本実施形態の電気透析装置を用いて行われる電気透析方法について説明する。本実施形態の電気透析方法は、少なくとも下記(a)のプロセスを有する。好ましくは、下記(b)及び(c)のプロセスのいずれかをさらに有する。より好ましくは、下記(a)乃至(c)の3つのプロセスを全て有する。
(a)標準アニオン交換膜と1価選択性カチオン交換膜の間に配置されるメッキ液室枠に無電解ニッケルメッキ液を導入して電圧を印加する電圧印加プロセス
(b)1価選択性アニオン交換膜と標準アニオン交換膜との間に配置される廃液室枠に水酸化物イオンを導入して廃液室枠内のpHを8.5以上にするpH調整プロセス
(c)バイポーラ膜と1価選択性カチオン交換膜との間に配置されるNaOH液室枠にてNaOHを生成するNaOH生成プロセス
【0033】
図2は、
図1の電気透析装置における所定の室内におけるイオンの挙動を示す図である。ここで
図2(a)は、中間室内におけるイオンの挙動を示す図であり、
図2(b)は、陽極室近傍におけるイオンの挙動を示す図であり、
図2(c)は、陰極室近傍におけるイオンの挙動を示す図である。以下、
図1及び
図2を参照しながら、無電解ニッケルメッキ液の再生を具体例として、
図1の電気透析装置1を用いた電気透析方法について説明する。ただし、本発明を適用することができるメッキ液は無電解ニッケルメッキ液に限定されるものではない。
【0034】
(電圧印加プロセス)
メッキ液槽7に貯蔵されている組成変化した無電解ニッケルメッキ液(使用済メッキ液)は、メッキ液循環系統47を経由してメッキ液室枠17に導入される。このとき組成変化した無電解ニッケルメッキ液には、陰イオンとして、次亜リン酸イオン(H
2PO
2-)と、亜リン酸イオン(H
2PO
3-)と、硫酸イオン(SO
42-)と、が含まれている。ここで次亜リン酸イオンは、無電解ニッケルメッキ液に導入される還元剤に含まれるイオンである。亜リン酸イオンは、上記還元剤が酸化することにより生成されるイオンである。硫酸イオンは、ニッケルイオン(Ni
2+)の対イオンとして存在するイオンである。
【0035】
ここで、組成変化した無電解ニッケルメッキ液に含まれる次亜リン酸イオン、亜リン酸イオン及び硫酸イオンの価数は、それぞれ1価、1価、2価である。尚、亜リン酸は2塩基酸であるが、無電解ニッケルメッキ液のpHが4乃至5の酸性領域であるため、1価のイオン(H
2PO
3-)として存在する。
【0036】
また、組成変化した無電解ニッケルメッキ液には、上述した陰イオン(H
2PO
2-、H
2PO
3-、SO
42-)に加えて、陽イオンであるニッケルイオン(Ni
2+)及びナトリウムイオン(Na
+)が含まれている。ここでナトリウムイオンは、次亜リン酸イオンや亜リン酸イオンの対イオンとして存在するイオンである。
【0037】
ここで、陽極20と陰極30との間に電流及び電圧を印加すると、メッキ液室枠17に導入された、組成変化した無電解ニッケルメッキ液に含まれる陰イオン(H
2PO
2-、H
2PO
3-、SO
42-)は、陽極20側へ移動する。そして、陽極20側に設置されている標準アニオン交換膜12を透過して廃液室枠16へ移動する。このときの各陰イオンの移動量は、イオンの価数とは関係なく、使用するイオン交換膜に対する各イオンの固有の移動係数により決定される。
【0038】
一方で、陽極20と陰極30との間に電流を印加すると、メッキ液室枠17に導入された、組成変化した無電解ニッケルメッキ液に含まれる陽イオン(Ni
2+、Na
+)は、陰極30側へ移動する。そして、陰極30側に設置されている1価選択カチオン交換膜13に到達する。ここで、1価選択カチオン交換膜13は、1価の陽イオンを透過する一方で1価でない陽イオンを透過しにくい性質を有するカチオン交換膜である。ここでメッキ液室枠17内に存在し得る陽イオンのうち、1価の陽イオンはナトリウムイオンのみである。このため、ナトリウムイオンは、1価選択性カチオン交換膜13を透過してNaOH液室枠18へ移動するが、1価の陽イオンではないニッケルイオンはNaOH液室枠18へ移動せずにその大半がメッキ液室膜17内に滞留する。尚、1価選択性カチオン交換膜13における各陽イオンの通過とブロックとの割合は、使用される1価選択性カチオン交換膜13の固有の移動係数により決定される。
【0039】
またNaOH液室枠18に移動したナトリウムイオンは、さらに陰極30側に移動し、陰極30側に設置されているバイポーラ膜14(のアニオン交換層14a)に到達する。ここでアニオン交換層14aは、陽イオンを透過しないため、NaOH液室枠18内に存在するナトリウムイオンは、バイポーラ膜14には到達するもののバイポーラ膜14を透過しないでNaOH室液枠18内に滞留する。
【0040】
以上をまとめると、無電解ニッケルメッキ液に含まれる陽イオンは、メッキ液室枠17に留まるイオン(Ni
2+)と、NaOH液室枠18へ移動するイオン(Na
+)と、に振り分けられる。言い換えると、組成変化した無電解ニッケルメッキ液に含まれ、再生したメッキ液にとって不要なイオンであるナトリウムイオンをメッキ液から取り除いたことになる。
【0041】
(pH調整プロセス)
ところで、廃液室枠16内は、アルカリ性に制御されている。ここで廃液室枠16内をアルカリ性に制御するためには、廃液室枠16にアルカリ性の水溶液を適宜導入する必要がある。廃液室枠16にアルカリ性の水溶液を導入する方法としては、電気透析装置1に含まれアルカリ性の水溶液を有する槽から導入する方法、電気透析装置1に含まれない外部系統から導入する方法等が挙げられるが、特に限定されるものではない。好ましくは、上記(i)、(iii)に示される流路41及び流路43のいずれかを用いて廃液層6へアルカリ水溶液を導入する。このように、
図1中の流路41及び流路43のいずれかを用いるのは、陰極槽31及びNaOH液槽8にそれぞれ貯蔵されている溶液がアルカリ性のNaOH水溶液であるためである。尚、陰極槽31及びNaOH液槽8においてNaOH水溶液が貯蔵されるメカニズムについては、後述するNaOH生成プロセスにて説明する。
【0042】
以上説明したように、廃液室枠16内はアルカリ性に制御されることが望ましいが、ここでいうアルカリ性とは、好ましくは、pHが8.5以上であることをいう。ただしアルカリ性が強すぎると、廃液室枠16そのものが損傷することがあるため、廃液室枠16内は、より好ましくは、pHを8.5以上10以下に制御する。ここで廃液室枠16内をアルカリ性に制御する方法としては、例えば、廃液槽6の近傍にpH制御装置9を設置し、このpH制御装置9に表示されるpH値を参照しながら、流路41及び流路43のいずれかを用いてNaOH水溶液を廃液槽6に導入する。
【0043】
以上説明したように、廃液室枠16内をアルカリ性に制御することにより、亜リン酸イオンは、1価のイオン(H
2PO
3-)から2価のイオン(HPO
32-)に変換される。尚、次亜リン酸イオン(H
2PO
2-)はこの変換が起こらない。
【0044】
ところで廃液室枠16内の陰イオンは、電流印加時において1価選択性アニオン交換膜11に到達する。ここで1価選択性アニオン交換膜11は、1価の陰イオンを選択的に透過する一方で1価でない陰イオンを透過しにくい性質を有するアニオン交換膜である。ここで廃液室枠16内に存在し得る陰イオンのうち、1価の陰イオンは次亜リン酸イオンのみである。このため、次亜リン酸イオンは、1価選択性アニオン交換膜11を透過して回収室枠15へ移動するが、他の陰イオン(HPO
32-、SO
42-)は回収室枠15へ移動しにくくなり、その大半が廃液室枠16内に滞留する。尚、1価選択性アニオン交換膜11における各陰イオンの通過とブロックとの割合は、使用される1価選択性アニオン交換膜11の固有の移動係数により決定される。
【0045】
また回収液室枠15に移動した次亜リン酸イオンは、さらに陽極20側に移動し、陽極20側に設置されているバイポーラ膜14に到達する。ここで回収液室枠15内に存在する次亜リン酸イオンは、バイポーラ膜14には到達するもののバイポーラ膜14を透過しないで回収液室枠15内に滞留する。
【0046】
図3(a)は、バイポーラ膜の構成を示す断面模式図であり、
図3(b)は、バイポーラ膜の特性を示す概略図である。
図3(a)に示されるように、バイポーラ膜14は、アニオン交換層14aとカチオン交換層14bとを張り合わせてなるイオン交換膜である。
図1の電気透析装置1において、バイポーラ膜14の設置態様は特に限定されないが、好ましくは、陽極側(陽極20側)にアニオン交換膜14aが配置され陰極側(陰極30側)にカチオン交換膜14bが配置される態様である。このようにバイポーラ膜14を設置すると、回収液室枠15に移動した次亜リン酸イオンは、カチオン交換膜14bに接近することになる。ここでカチオン交換膜14bは陰イオンを透過しないため、次亜リン酸イオンは回収液室枠15内に滞留する。
【0047】
以上をまとめると、組成変化した無電解ニッケルメッキ液に含まれる陰イオンは、回収液室枠15(H
2PO
2-)と、廃液室枠16(HPO
32-、SO
42-)と、に振り分けられる。言い換えると、無電解ニッケルメッキ液において必要とされる次亜リン酸イオンを他の陰イオンと分離させた状態で回収したことになる。尚、回収液室枠15には、次亜リン酸イオンと、バイポーラ膜14を構成するカチオン交換層14bから発生した水素イオン(H
+)と、が含まれている。このため、回収液室枠15へ移動した1価の次亜リン酸イオンは、バイポーラ膜14(又は陽極室21)から生成されたプロトンによって亜リン酸へ変換され、この亜リン酸は、回収液室枠16にて滞留している。
【0048】
(NaOH生成プロセス)
ところで、バイポーラ膜14に到達した水分子(の一部)は、バイポーラ膜14を構成する各イオン交換層(14a、14b)の特性から、
図3(b)に示されるように、水素イオンと水酸化物イオンとに転化される。具体的には、バイポーラ膜14を構成するアニオン交換層14aから水酸化物イオン(OH
-)が発生し、バイポーラ膜14を構成するカチオン交換層14bから水素イオン(H
+)が発生する。ここでアニオン交換層14aにて発生した水酸化物イオンは、NaOH液室枠18内を陽極20側へ向けて移動し、1価選択カチオン交換膜13に到達する。ただし水酸化物イオンは1価選択カチオン交換膜13にブロックされてNaOH液室枠18内に滞留する。従って、NaOH液室枠18の中においては、NaOH液室枠18へ移動したナトリウムイオン及びNaOH液室枠18にて生成された水酸化物イオンが滞留していることから、NaOH液室枠18内においてNaOHが水溶液の態様で生成される。NaOH液室枠18内で生成したNaOHは、一旦NaOH液槽8に貯蔵される。ここで
図1に示されるように、NaOH液槽8と廃液槽6との間に流路43を設けることで、NaOH液槽8に貯蔵されているNaOHを上述したpH調整プロセスに利用することができる。即ち、廃液室枠16(廃液室枠16内を流れる液)のpHを8.5以上に調整するために必要なアルカリ源(NaOH)をNaOH液槽8から調達することができる。またNaOH液槽8とメッキ液槽7との間に流路44を設ける。これにより、メッキ液槽7内に貯蔵される無電解ニッケルメッキ液のpHを調整するために必要なアルカリ源(NaOH)をNaOH液槽8から調達することができる。
【0049】
ところで、陰極室3に最も近い室枠(NaOH液室枠18)においては、
図2(b)に示されるように、陰極30側に標準カチオン交換膜10が設置されている。このため、当該室枠(NaOH液室枠18)内にあるナトリウムイオンの一部は、標準カチオン交換膜10を透過して陰極室3に移動する。一方、陰極室3内においては、陰極室における電極反応、即ち、水と電子との化学反応によって水酸化物イオンが生成される。このため、陰極室3内においてもNaOHが生成される。ここで
図1に示されるように、陰極液槽31と廃液槽6との間に流路41を設けることで、陰極液槽31に貯蔵されているNaOHを上述したpH調整プロセスに利用することができる。即ち、廃液室枠16(廃液室枠16内を流れる液)のpHを8.5以上に調整するために必要なアルカリ源(NaOH)を陰極液槽31から調達することができる。また陰極液槽31とメッキ液槽7との間に流路42を設ける。これにより、メッキ液槽7内に貯蔵される無電解ニッケルメッキ液のpHを調整するために必要なアルカリ源(NaOH)をNaOH液槽8から調達することができる。
【0050】
一方、陽極室2に最も近い室枠(回収液室枠15)においては、
図2(c)に示されるように、陽極20側に標準カチオン交換膜10が設置されている。また陽極室2内では水と正孔との化学反応によって水素イオンが生成される。一方で、当該室枠(回収液室枠15)内にある次亜リン酸イオンは陰イオンであるため、標準カチオン交換膜10に接近してもこのイオン交換膜を透過することはできずに当該室枠(回収液室枠15)内に滞留する。
【0051】
以上説明したように、本発明の電気透析装置は、組成変化した無電解ニッケルメッキ液から無電解ニッケルメッキ液に必要な物質、即ち、次亜リン酸及びニッケルイオンを含有する溶液を純度が良好な状態で得ることができる。
【0052】
尚、中間室4内にそれぞれ複数含まれる4種類のイオン交換膜(11、12、13、14)は、それぞれ市販品を使用することができる。標準アニオン交換膜12として、例えば、旭硝子エンジニアリング社のセレミオンAMVやアストム社のネオセプタAM1やAM3等を使用することができる。また1価選択性カチオン交換膜13として、例えば、旭ガラスエンジニアリング社のセレミオンCSOやアストム社のネオセプタCMS等を使用することができる。1価選択性アニオン交換膜12として、例えば、旭硝子エンジニアリング社のセレミオンASVやアストム社のネオセプタACS等を使用することができる。バイポーラ膜14として、例えば、アストム社のネオセプタBP−1E等を使用することができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0054】
[実施例1]
図1に示される4流路を有する電気透析装置(旭硝子エンジニアリング社製、DW−1)を用いて無電解ニッケルメッキ液の電気透析処理を行った。
【0055】
まず10g/Lの硫酸カリウム液10Lを陽極槽21に投入し、5g/Lの硫酸カリウム液10Lを陰極槽31に投入した。また回収液槽5、廃液槽6、メッキ液槽7及びNaOH液槽8に、所定のイオンを有する水溶液をそれぞれ40L投入した。尚、回収液槽5、廃液槽6、メッキ液槽7及びNaOH液槽8にそれぞれ投入した水溶液の成分を下記表1に示す。尚、メッキ液槽7に投入した水溶液は、劣化した無電解ニッケルメッキ液である。
【0056】
【表1】
【0057】
尚、本実施例(実施例1)では、無電解ニッケルメッキ液に含まれるナトリウムイオン(Na
+)が電気透析中にていかなる挙動を示すのかを明確にするために、無電解ニッケルメッキ液以外の水溶液をナトリウムイオンが含まれない水溶液にした。より具体的には、カリウムイオン(K
+)を含んだ水溶液を使用した。
【0058】
次に、電気透析装置(の中間室4)内に配置させる室枠を、陽極20から陰極30に向かって、回収液室枠15/廃液室枠16/メッキ液室枠17/NaOH液室枠18となるように配置した。本実施例では、回収液室枠15/廃液室枠16/メッキ液室枠17/NaOH液室枠18の順に配置される4つの室枠の組合せを20組用意し、これらを直列的に配置した。次に、室枠と室枠との間に所定の電気透析膜(イオン交換膜)を設置した。ここで、本実施例で使用した電気透析膜を、配置位置と共に下記表2に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
次に、陽極室2として用いられる室枠と、この室枠の隣にある回収室枠15との間に、標準カチオン交換膜10(旭硝子エンジニアリング社製、セレミオンCMV)を設置した。また陰極室3として用いられる室枠と、この室枠の隣にあるNaOH液室枠18との間にも、標準カチオン交換膜10(旭硝子エンジニアリング社製、セレミオンCMV)を設置した。
【0061】
尚、本実施例で使用した室枠及び電気透析膜は、いずれもDW−1型に用いられる部材であり、また使用した電気透析膜において、電気透析膜有効面積は、5dm
2である。
【0062】
次に、
図1に示されるように、各室枠(2、3、15、16、17、18)と対応する液槽(21、31、5、6、7、8)と、をそれぞれ対応する循環系(22、32、45、46、47、48)を用いて接続した。尚、各循環系(22、32、45、46、47、48)には、対応する液槽(21、31、5、6、7、8)に投入されている水溶液を循環するためのポンプ(不図示)がそれぞれ設けられている。
【0063】
また、下記(i)乃至(iv)に示される4種類の流路を設置した。尚、流路41及び流路43は、透析中の廃液槽6のpH調整のために使用され、流路42及び流路44は、透析終了後の無電解ニッケルメッキ液のpH調整のために使用される。
(i)廃液槽6と陰極槽31との間に設けられる、陰極槽31に貯蔵されている溶液を廃液槽6へ輸送するための流路41
(ii)メッキ液槽7と陰極槽31との間に設けられる、陰極槽31に貯蔵されている溶液をメッキ液槽7へ輸送するための流路42
(iii)NaOH液槽8と廃液槽6との間に設けられる、NaOH液槽8に貯蔵されている溶液を廃液槽6へ輸送するための流路43
(iv)メッキ液槽7とNaOH液槽8との間に設けられる、NaOH液槽8に貯蔵されている溶液をメッキ液槽7へ輸送するための流路44
【0064】
次に、陽極20と陰極30との間に、定電流(2A/dm
2の直流電流、総電流20A)を5時間流した。また廃液槽6においては、1価の亜リン酸(H
2PO
3-)を2価の亜リン酸(HPO
32-)に変換させるために、水溶液のpHを8.5に調整した。本実施例では、透析時におけるナトリウムイオン(Na
+)の挙動を評価するために、廃液槽6のpH調整は、別途調整したKOHを外部から適宜添加することで行った。ここで外部から添加したKOHにおいて、カリウムイオン(K
+)の濃度は2.0g/Lであり、水酸化物イオン(OH
-)の濃度は0.8g/Lであった。
【0065】
電気透析が終了した後、各液槽(5、6、7、8)に貯蔵されている水溶液について、キャピラリー電気泳動測定装置(アジレント・テクノロジー社製)及び塩分(Na)濃度計(HORIBA社製)を用いて、水溶液中のイオン濃度を測定・評価した。結果を下記表3に示す。
【0066】
【表3】
【0067】
また電気透析処理後の無電解ニッケルメッキ液と、電気透析処理後において回収槽5に貯蔵されている液と、を混合した混合溶液(最終無電解ニッケルメッキ液)の成分について評価を行った。具体的には、電気透析処理前の無電解ニッケルメッキ液の各成分を基準(100%)にしたときの濃度比率を用いて評価した。評価結果を下記表4に示す。
【0068】
【表4】
【0069】
ところで、表3に示されるように、回収液槽15に貯蔵されている溶液からはナトリウムイオンやカリウムイオンが検出されなかった。このことから、回収液槽15へ移動した次亜リン酸イオン(H
2PO
2-)は、バイポーラ膜14(のカチオン発生層14b)から発生した水素イオン(H
+)と結合して次亜リン酸(H
3PO
2)として存在していると考えられる。従って、電気透析が終了した後に、回収液槽15に貯蔵されている水溶液は、メッキ液槽7に貯蔵されている無電解ニッケルメッキ液と合流させても支障がないことがわかる。尚、本実施例において、各バイポーラ膜14(のアニオン発生層14a)から発生しNaOH液槽に集まったことによるNaOH液槽内の水酸化物イオンの濃度上昇は1.52g/Lであった。これは、各バイポーラ膜14(のアニオン発生層14a)における化学反応(H
2O→H
++OH
-)によって水酸化物イオンが60.8g増加したといえる。
【0070】
以上より、本実施例の電気透析装置を用いることにより、無電解ニッケルメッキ液の有効成分であるニッケルイオン(Ni
2+)及び次亜燐酸イオン(H
2PO
2-)を高効率で回収できた。また無電解ニッケルメッキ液にとって不純物となる亜リン酸イオン(H
2PO
3-)、硫酸イオン(SO
42-)及びナトリウムイオン(Na
+)を高効率で除去することができた。
【0071】
[比較例1]
図4に示される2流路を有する電気透析装置(旭硝子エンジニアリング社製DW−1)を2台使用して無電解ニッケルメッキ液の電気透析処理を行った。
【0072】
まず10g/Lの硫酸カリウム液10Lを陽極槽121に投入し、5g/Lの硫酸カリウム液10Lを陰極槽131に投入した。また回収液槽105、第一廃液槽106、メッキ液槽107及び第二廃液槽108に、所定のイオンを有する水溶液をそれぞれ40L投入した。尚、回収液槽105、第一廃液槽106、メッキ液槽107及び第二廃液槽108にそれぞれ投入した水溶液の成分を下記表5に示す。尚、メッキ液槽107に投入した水溶液は、劣化した無電解ニッケルメッキ液である。
【0073】
【表5】
【0074】
尚、本比較例(比較例1)では、実施例1と同様の目的で、無電解ニッケルメッキ液以外の水溶液として、カリウムイオン(K
+)を含んだ水溶液を使用した。
【0075】
次に、第一電気透析装置(の中間室104a)内に配置させる室枠を、陽極120aから陰極130aに向かって、メッキ液室枠117/第一廃液室枠116となるように配置した。本比較例では、メッキ液室枠117/第一廃液液室枠116の順に配置される2つの室枠の組合せを10組用意し、これらを直列的に配置した。
【0076】
また、第二電気透析装置(の中間室104b)内に配置させる室枠を、陽極120から陰極130に向かって、第二廃液室枠118/回収液室枠115となるように配置した。本比較例では、第二廃液室枠118/回収液室枠115の順に配置される2つの室枠の組合せを10組用意し、これらを直列的に配置した。
【0077】
次に、室枠と室枠との間に所定の電気透析膜(イオン交換膜)を設置した。ここで、本比較例で使用した電気透析膜を、配置位置と共に下記表6に示す。
【0078】
【表6】
【0079】
次に、陽極室(102a、102b)として用いられる室枠と、この室枠の隣にある室枠との間に、標準カチオン交換膜110(旭硝子エンジニアリング社製、セレミオンCMV)を設置した。また陰極室(103a、103b)として用いられる室枠と、この室枠の隣にある室枠との間にも、標準カチオン交換膜110(旭硝子エンジニアリング社製、セレミオンCMV)を設置した。
【0080】
尚、本比較例で使用した室枠及び電気透析膜は、いずれもDW−1型に用いられる部材であり、また使用した電気透析膜において、電気透析膜有効面積は、5dm
2である。
【0081】
次に、各室枠(102、103、115、116、117、118)と対応する液槽(121、131、105、106、107、108)と、をそれぞれ対応する循環系(122、132、145、146、147、148)を用いて接続した。
図4には、その循環系の全部又は一部が示されている。尚、各循環系(122、132、145、146、147、148)には、対応する液槽(121、131、105、106、107、108)に投入されている水溶液を循環するためのポンプ(不図示)がそれぞれ設けられている。また第一廃液槽106と第二廃液槽108との間には、第一廃液槽106に収容されている水溶液を第二廃液槽108へ投入するための流路141が設けられている。
【0082】
次に、陽極120と陰極130との間に、定電流(2A/dm
2の直流電流、総電流20A)を5時間流した。また第二廃液槽106においては、1価の亜リン酸(H
2PO
3-)を2価の亜リン酸(HPO
32-)に変換させるために、実施例1と同様の方法で水溶液のpHを8.5に調整した。
【0083】
電気透析が終了した後、各液槽(105、106、107、108)に貯蔵されている水溶液について、実施例1と同様の方法により、水溶液中のイオン濃度を測定・評価した。結果を下記表7に示す。
【0084】
【表7】
【0085】
また実施例1と同様の方法により、最終無電解ニッケルメッキ液の成分について評価を行った。評価結果を下記表8に示す。
【0086】
【表8】
【0087】
表8より、本比較例の電気透析装置は、ニッケルイオン及び次亜リン酸イオンの回収効率、及び亜リン酸イオン及び硫酸イオンの除去効率は実施例1とほぼ同じであったが、ナトリウムイオンの除去効率という観点で実施例1よりも劣っていた。このように、ナトリウムイオンの除去効率が悪かった理由として、水素選択性カチオン交換膜113におけるイオン選択性が充分でなかったことが挙げられる。
【0088】
[実施例2]
実施例1において、陽極槽21に投入する水溶液を10g/Lの硫酸ナトリウム液10Lとし、陰極槽31に投入する水溶液を5g/LのNaOH液10Lとした。これらを除いては、実施例1と同様の方法により電気透析を行った。ここで本実施例(実施例2)において回収液槽5、廃液槽6、メッキ液槽7及びNaOH液槽8にそれぞれ投入した水溶液の成分を下記表9に示す。
【0089】
【表9】
【0090】
また陰極槽31に投入されている水溶液の成分は、ナトリウムイオン2.9g/L、水酸化物イオン2.1g/Lであった。
【0091】
次に、電気透析を行った後、実施例1と同様の方法により、各液槽に収容されている溶液の成分を分析した。分析結果を表10に示す。
【0092】
【表10】
【0093】
尚、陰極槽31において、水酸化物イオンが3.0g/L増加した。即ち、電気透析の結果、水酸化物イオンが3.0g/L生成され、これが陰極槽31に導入されたことがわかる。
【0094】
ここで、電気透析前後においてNaOH液槽8及び陰極室31に貯蔵されている水溶液について水酸化物イオン(OH
-)の濃度を測定することにより、電気透析によって生成した水酸化物イオンを定量的に評価した。評価結果を下記表11に示す。
【0095】
【表11】
【0096】
また廃液槽6に貯蔵されている廃液のpHを調整するのに必要となる水酸化物イオンの量及びメッキ液槽7に貯蔵されている無電解ニッケルメッキ液のpHを調整に必要とされた水酸化物イオンの量をそれぞれ評価した。結果を下記表12に示す。
【0097】
【表12】
【0098】
表11より、電気透析を行うことにより、NaOH液槽8では水酸化物イオンが28.0g生成された。また表11より、廃液槽6において、水酸化物イオン濃度が32.0g増加した。このため、バイポーラ膜14におけるイオン交換反応により、合計60.8gの水酸化物イオンが生成された。一方、表11より、電気透析を行うことにより、陰極室31では水酸化物イオンが30.0g生成された。従って、本実施例において生成された水酸化物イオンは90.8gであった。
【0099】
また表12より、廃液槽6でのpH調整(pH7.5からpH8.5への調整)に必要な水酸化物イオンは36.0gであり、またメッキ液槽7でのpH調整(pH4.2からpH5.6への調整)に要した水酸化物イオンは105.0gであった。このため、廃液槽6及びメッキ液槽7のそれぞれにおいてpH調整に必要な水酸化物イオンの合計は141.8gであることがわかる。
【0100】
以上より、本実施例における電気透析処理により得られた水酸化物イオンの量は、廃液槽6でのpH調整で必要となる水酸化物イオン量よりも十分に多いものであった。具体的には、廃液槽6でのpH調整で必要とされる水酸化物イオン(1価の亜リン酸イオンを2価の亜リン酸イオンに転化させるために必要な水酸化物イオン)を電気透析処理により得られた水酸化物イオンでまかなうことができる。またメッキ層6でのpH調整で必要とされる水酸化物イオンの約52%を、電気透析処理により得られた水酸化物イオンのうち廃液槽6でのpH調整で使用されなかった水酸化物イオンでまかなうことができる。
【0101】
尚、本発明は、上述した各実施例に限定されず、陽極と陰極との間にアニオン交換膜及びカチオン交換膜で画成される中間室を設け、この中間室内をバイポーラ膜で仕切った構成を有する無電解メッキ液の電気透析装置に特徴がある。即ち、本発明は、バイポーラ膜で中間室を仕切ることによって、中間室内における所定のイオン成分の移動を実質的に制限し、仕切られた中間室内の空間(アニオン交換膜及びバイポーラ膜の隙間、あるいはカチオン交換膜及びバイポーラ膜の隙間)からの所定のイオン成分の除去効率、回収効率を格段に向上することができる。また、本発明は、バイポーラ膜によって所定のイオン成分の除去、回収を行えるため、例えば、使用済みのメッキ液中から所定のイオン成分を取り出し、取り出した所定のイオン成分をメッキ液の成分として再利用するためのメッキ液再生装置、メッキ液再生システムとしても適用することができる。具体的には、無電解メッキ装置等のメッキ装置に対して本発明の再生装置(電気透析装置)を接続し、更に本発明の再生装置から回収される所定のイオン成分を、再びメッキ装置にメッキ液の成分として戻す(再利用する)、メッキ液の再生システム、またはメッキ液再生循環システムとして本発明を適用することができる。