【課題】 炭化水素油の水素化処理触媒として、従来以上に優れた水素化処理(水素化、脱硫、脱窒素)性能を有する触媒と、その触媒を用いる炭化水素油の水素化処理方法の提供にある。
【解決手段】 周期表第2族金属酸化物を含むシリカ−アルミナアを主体とする無機多孔質担体に酸化物触媒基準で10〜40質量%の周期表第6族元素の少なくとも1種、0.5〜15質量%の周期表第8〜10族元素の少なくとも1種および、周期表第6族と第8〜10族元素の合計モル数に対して0.05〜3倍量の有機添加物を含有してなる触媒である。
アルミナとシリカに加えて、周期表第2族金属から選ばれる少なくとも1種の金属を含む無機多孔質担体に、周期表第6族金属から選ばれる少なくとも1種の金属、周期表第8〜10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属および有機添加物が担持されている炭化水素油の水素化処理触媒。
周期表第2族金属から選ばれる少なくとも1種の金属の含有量が酸化物触媒基準で0.3〜2質量%であり、シリカの含有量が酸化物触媒基準で3〜12質量%、平均細孔直径が9〜20nm、比表面積が100〜170m2/g、全細孔容積が0.3〜0.6ml/gである請求項1に記載の水素化処理触媒。
周期表第2族金属がマグネシウム又はカルシウムであり、周期表第6族金属がモリブデン又はタングステンであり、周期表第8〜10族金属がコバルト及び又はニッケルである請求項1〜3のいずれか1項に記載の水素化処理触媒。
有機添加物が、多価アルコール類とそれらのエーテル類、多価アルコール類またはエーテル類のエステル類、糖類、カルボン酸類やそれらの塩類、アミノ酸類やそれら塩類、及びキレート剤からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜5のいずれか1項に記載の水素化処理触媒。
アルミナとシリカに加えて周期表第2族金属から選ばれる少なくとも1種の金属を含む水和物を730〜860℃でか焼して得られた無機多孔質担体に、周期表第6族金属から選ばれる少なくとも1種の金属、周期表第8〜10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属および有機添加物を含む含浸液を含浸し、質量減少割合が3〜60質量%となるように有機添加物が触媒上に残存する条件で乾燥することを特徴とする炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法。
周期表第2族金属がマグネシウム又はカルシウムであり、周期表第6族金属がモリブデン又はタングステンであり、周期表第8〜10族金属がコバルト及び又はニッケルである請求項7に記載の水素化処理触媒の製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年、世界的な大気環境改善の動向を踏まえて、主要燃料となる留出油の水素化精製を行なう水素化処理触媒のより一層の性能向上が強く求められている。
通常、炭化水素油の水素化処理触媒としては、アルミナ、シリカ等の無機耐熱性担体に、モリブデンとコバルトやニッケル等の水素化活性金属成分を焼成担持したものが一般的である。
しかしながら、近年、触媒性能の更なる向上を図るため、以下に例示するように、担体の改質や触媒金属の担持方法などに様々な工夫や提案がなされている。
【0003】
特許文献1は、アルカリ土類金属の酸化物を0.1〜10重量%含有するアルカリ土類金属酸化物−シリカ−アルミナ担体上に周期律表6B族、8族元素から選ばれる活性成分を担持してなる水素化処理触媒を提案している。
しかしながら、当該触媒の比表面積は200m
2/g以上と高いことからその平均細孔直径は狭く、炭化水素分子の触媒細孔内の拡散が不十分となることで、広範囲な沸点範囲を有する留出油の脱硫には十分に対応できないという問題点が残されている。
【0004】
特許文献2では、炭化水素油の超深度脱硫を行なう触媒として、慣用の酸化物担体に第VIB族金属、第VIII族金属、リンと有機添加剤を存在させた触媒が提案されている。
しかしながら、特許文献2は担体改質や触媒の物理性状などの最適化に係わる具体的な情報に乏しく、この文献の記載を基にして脱硫、脱窒素活性を最適化させた触媒の開発は困難である。
【0005】
特許文献3には、シリカ、マグネシア、アルミナを含む酸化物担体に周期律表第VIa族金属、第VIII族金属および二価アルコールを担持した水素化脱硫脱窒素用触媒が提案されている。
しかしながら、当該触媒に含まれるマグネシアは担体基準で12〜35重量%(計算値)と非常に多く、シリカやアルミナを基体とした担体の細孔物性や酸性度の制御が難しいという欠点を有する。
【0006】
特許文献4は、非晶質のシリカ−アルミナ触媒支持体に少なくとも1種の金属、改質剤を含む炭素質供給原料の水素化処理触媒を提案している。
ここで適用可能な触媒支持体として、シリカ−アルミナ−ジルコニア、シリカ−アルミナ−酸化トリウム、シリカ−アルミナ−酸化チタンやシリカ−アルミナ−酸化マグネシウム等の例示があるものの、このような三元系担体の具体的な製法、組成については何も開示されていない。従って、この文献の記載を基にして脱硫、脱窒素活性を最適化させた触媒の開発は困難である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(1)担体
以下、本発明について詳細に説明する。本発明の触媒に用いられる担体は、シリカ−アルミナを基体として、特定量の周期表第2族金属酸化物を含有するものである。
シリカ原料としては、各種のケイ素化合物、例えばアルカリ金属ケイ酸塩、アルコキシシラン、四塩化ケイ素、オルトケイ酸エステル、シリコーン、シリカゾル、シリカゲルなどを用いることができる。
また、アルミナ原料では、アルミニウムの水酸化物(バイヤライト、ギブサイト、ダイアスポア、ベーマイト、擬ベーマイト等)、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、アルコキシド、アルミン酸アルカリ金属塩、その他の無機塩、有機塩やアルミナゾルを用いることができる。
一方、周期表第2族金属酸化物の原料物質としては、酸化物、ハロゲン化物(フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、以下同様)、水酸化物、水素化物、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、有機酸塩等が挙げられる。周期表第2族元素としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムが適用できるが、マグネシウム、カルシウムが好ましく、活性の観点から特に好ましいのはマグネシウムである。
【0016】
シリカ−アルミナ−周期表第2族金属酸化物担体は、共沈法や混練法などで調製された第2族金属を含むシリカ−アルミナ水和物を焼成することで得られる。
前記水和物は、シリカ、アルミナの原料と第2族金属化合物との共沈、アルミナ水和物、ケイ素化合物と第2族金属化合物との混練、アルミナ−第2族金属の水和物とケイ素化合物との混合や、ケイ素化合物−第2族金属の混合物とアルミナ水和物の混練などの種々の方法で調製できる。
シリカ−アルミナ−周期表第2族金属酸化物担体に水素化活性金属や有機添加物を担持して触媒化した後のシリカ成分は、酸化物触媒基準で3〜12質量%、好ましくは5〜10質量%、より好ましくは6〜9質量%である。
一方、周期表第2族金属酸化物は、酸化物触媒基準で0.3〜2質量%、好ましくは0.4〜1.8質量%、より好ましくは0.5〜1.5質量%である。
【0017】
周期表第2族金属含有のシリカ−アルミナ水和物は、必要に応じて細孔構造の制御のために塩酸、硫酸、硝酸、有機酸(ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、グルコン酸など)、アンモニア、水酸化ナトリウム等の水溶液を添加して解膠操作を行ない、成形性の向上のため混練した後、所望の形状(ペレット、球、押出物など)に成形する。
成形物は、通常、空気中、730〜860℃(雰囲気温度ではなく、成形物の物質温度として)、好ましくは740〜850℃、より好ましくは750〜840℃の温度で0.1〜3時間、好ましくは0.5〜2時間のか焼し担体とする。
【0018】
上記工程で得られた担体に、水素化活性成分と有機添加物を添加して、乾燥処理を施すことでこれらを担持する。
添加方法に特に制限は無く、例えば含浸法、塗布法、吹付け法などの様々な工業的な手法を適用できるが、作業性や添加効率の観点から含浸法が好ましい。 含浸法の手法である吸着法、平衡吸着法、ポアフィリング法、Incipient Wetness法、蒸発乾固法、スプレー法等は何れも本願発明に適用可能であるが、作業性の観点からはポアフィリング法が好ましい。
水素活性成分や有機添加物の添加の順序も特に限定されることなく、逐次、あるいは同時に添加することができる。含浸法の場合、各成分を各種極性有機溶媒、水や水−極性有機溶媒混合物に溶解した溶液が使用できるが、最も好ましい溶媒は水である。
【0019】
(2)担持成分
担持する水素化活性成分のうち周期表第6族元素としては、クロム、モリブデン、タングステンから選ばれる少なくとも1種である。これらの元素は単独でも使用でき、その場合、経済性や活性の観点から、モリブデン、タングステン、特にモリブデンが好ましい。
また、原料油の反応性や反応装置の操業条件に応じて、組合せて使用してもよい。組合せを行なう場合、クロム−モリブデン、クロム−タングステン、モリブデン−タングステン、クロム−モリブデン−タングステンが例示できる。
担持量は全ての周期表第6族元素酸化物の合計として酸化物触媒基準で10〜40質量%、好ましくは15〜35質量%、更に好ましくは20〜30質量%である。10質量%未満では触媒活性が低く、40質量%を超えても活性の増分は無い。
周期表第6族元素の原料としては、クロム酸塩、モリブデン酸塩、タングステン酸塩、三酸化物、ハロゲン化物、ヘテロポリ酸、ヘテロポリ酸塩などが挙げられる。
【0020】
水素化活性成分の周期表第8〜10族元素は、鉄、コバルト、ニッケルが挙げられる。これらの元素それぞれ単独で使用でき、経済性や活性の観点から、コバルト、ニッケルが好ましい。
さらに原料油の反応性、反応装置の操業条件に応じて、組合せて使用することもできる。組合せの場合、鉄−コバルト、鉄−ニッケル、コバルト−ニッケル、鉄−コバルト−ニッケルが例示できる。
担持量は全ての周期表第8〜10族元素酸化物の合計として酸化物触媒基準で0.5〜15質量%、好ましくは1〜10質量%、更に好ましくは2〜6質量%である。担持量が0.5質量%未満では触媒活性が不十分であり、15質量%を超えても活性の増加はない。
担持に使用する鉄、コバルト、ニッケルの化合物としては、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、有機酸塩などが使用できる。
水素化活性成分の含浸溶液を調製する場合、周期表第6族元素、周期表第8〜10族元素でそれぞれ単独に調製してもよいし、両者を混合した均一溶液にしてもよい。
【0021】
水素化活性成分の含浸溶液には、必要に応じて溶液のpH調整、液安定性や触媒の水素化活性を向上させるため、アンモニア水、過酸化水素水、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸、フッ化水素酸等を添加してもよい。
なお、リン酸は触媒成分として添加することもでき、その場合の添加量範囲は、酸化物触媒基準でリン酸化物として0.5〜15質量%、好ましくは1〜10質量%、更に好ましくは2〜8質量%である。添加できるリン酸としては、オルトリン酸、ピロリン酸、メタリン酸、ホスホン酸、ジホスホン酸、ホスフィン酸、ポリリン酸やそれらの有機塩、無機塩等が挙げられる。
なお、リン酸は、水素化活性成分の含浸液に添加する以外に、シリカ−アルミナ−周期表第2族金属酸化物担体の調製過程で添加量の一部または全量を含有させてもよい。
【0022】
有機添加物は以下に示すような水溶性有機化合物であり、多価アルコール類とそれらのエーテル類、多価アルコール類またはエーテル類のエステル類、糖類、カルボン酸類やそれらの塩類、アミノ酸類やそれら塩類、各種キレート剤などから選ばれる。
【0023】
多価アルコール類とそれらのエーテル類としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、イソプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ブタンジオール(1,2−、1,3−、1,4−、2,3−)、ペンタンジオール(例えば1,5−、他の異性体を含む)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール(例えば1,2−、1,6−、他の異性体を含む)、ヘキシレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール(平均分子量200〜600)、ポリプロピレングリコール(水溶性に限る)、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール(例えば1,2,6−、他の異性体を含む)、エリトリトール、ペンタエリトリトール等の多価アルコール類とそれらのエーテル類(メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、セカンダリーブチル、ターシャリーブチルやこれらの任意の組合せから選ばれるモノエーテル、ジエーテル、トリエーテルで水溶性のもの)が例示される。
【0024】
多価アルコール類またはエーテル類のエステル類としては、上記多価アルコール類または前記エーテル類のエステル類(蟻酸、酢酸等のモノエステル、ジエステル、トリエステルで水溶性のもの)が例示される。
【0025】
糖類としては、グルコース、フルクトース、異性化糖、ガラクトース、マルトース、ラクトース、スクロース、トレハロース、澱粉、デキストリン、ペクチン、グリコーゲン、カードラン等の糖類が例示される。
【0026】
カルボン酸類やそれらの塩類としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、蓚酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸(無水物、一水和物)、リンゴ酸、グルコン酸、グルタル酸等のカルボン酸類やそれらの塩類が例示される。
【0027】
アミノ酸類やそれら塩類としては、アスパラギン酸、アラニン、アルギニン、グリシン、グルタミン酸等のアミノ酸類やそれら塩類が例示される。
【0028】
各種キレート剤としては、エチレンジアミン(EDA)、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、ペンタエチレンヘキサミン(PEHA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、トリエチルテトラアンミン六酢酸(TTHA)、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIDA)、1,3−プロパンジアミン四酢酸(PDTA)、1,3−ジアミノ−2−ヒドロキシプロパン四酢酸(PDTA−OH)、トランス−1,2−シクロヘキサンジアミン四酢酸(CyDTA)、グリコールエーテルジアミノ四酢酸(GEDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)、(S,S)−エチレンジアミン−N,N’−二コハク酸(EDDS)等の各種キレート剤が例示される。
上記の有機添加物は、単独または適宜組合せて使用することができる。
【0029】
有機添加物の添加量は、周期表第6族元素及び周期表第8〜10族元素の合計モル数の0.05〜3倍量であり、好ましくは0.08〜2.8倍量、特に好ましくは0.1〜2.5倍量である。0.05倍モル未満では触媒性能の向上効果が見られない。3倍モルを超えても活性の増分はない。
なお、水素化活性成分の添加との関係であるが、水素化活性成分と有機添加物の添加の順序に制限はない。即ち、水素化活性成分の添加前や添加後に別の溶液として添加してもよいし、水素化活性成分との均一溶液として同時に添加してもよい。さらに水素化活性成分溶液、有機添加物溶液またはこれらの均一溶液は、溶液の粘度や担体の細孔容積(吸水量)に応じて、一度にまたは複数回に分けて添加してもよい。
【0030】
水素化活性成分、有機添加物の添加を終えた後は、後述する乾燥処理を施すことで周期表第6族元素、周期表第8〜10族元素および有機添加物が担体に担持された完成触媒となる。上記成分の担持の際、乾燥処理で止めて焼成しないことにより、従来の焼成触媒よりも優れた活性を有する触媒を得ることができる。
この乾燥処理では、有機添加物が基本的な骨格構造を変えず(結晶水、水素イオン、水酸化物イオン、アンモニウムイオン等の付加や脱離は考慮しない)、少なくともその一部が水素化活性成分に相互作用(分子間力、水素結合、共有結合、イオン結合、配位結合等)を及ぼして残存していることが望ましい。
有機添加物の残存割合の目安として、完成触媒を空気中550℃で1時間加熱したときの質量減少割合が3〜60質量%、好ましくは4〜55質量%、特に好ましくは5〜50質量%の範囲内であることが好ましい。質量減少割合が3質量%に満たない場合、担持した有機添加物の揮散、分解等が起きており、水素化活性金属成分との相互作用が不十分となることで触媒活性の向上は見られない。60質量%を超えるような場合、予備硫化工程時に生成する多量の水で有機添加物が流出してしまい、触媒活性の向上が図れない。
【0031】
上述のような有機添加物と水素化活性成分と相互作用を保持できるならば、乾燥方法に特に制限はない。例えば、空気中や不活性ガス中での対流伝熱乾燥(熱風乾燥)、輻射伝熱乾燥(赤外線、遠赤外線乾燥)、伝導伝熱乾燥、マイクロ波乾燥、凍結乾燥や減圧乾燥などの種々の工業的な手法が適用できる。乾燥条件も特に限定されることはなく、有機添加物の揮散、分解条件に合わせて適宜設定できる。
最も簡便な乾燥方法に熱風乾燥があるが、その場合、例えば空気中や不活性ガス(窒素ガス、希ガス、炭酸ガス、低酸素雰囲気等)中で、上記のように有機添加物の基本骨格を変えないような温度や時間として、例えば30〜250℃(雰囲気温度ではなく乾燥物の物質温度として)、好ましくは50〜220℃、より好ましくは80〜180℃で、さらに好ましくは90〜150℃で、0.1〜3時間といった条件が挙げられる。なお、本願触媒の製造段階での物質温度とは、当業者が用いる任意の手法、例えば熱電対によって測定されるものである。
【0032】
(3)完成した触媒の性状
完成した触媒が良好な触媒性能を発揮するには、以下の物性、細孔構造を有することが望ましい。即ち、平均細孔直径は9〜20nm、好ましくは10〜18nm、より好ましくは11〜16nmである。平均細孔直径が9nm未満では炭化水素油の細孔内拡散が不十分となり、20nmを超えると比表面積が低下するため触媒性能は低下する。
また、全細孔容積は、0.3〜0.6ml/gが好ましく、より好ましくは0.4〜0.5ml/gである。0.3ml/g以下では炭化水素油を細孔内に拡散させるのに不十分であり、0.6ml/gを超えた場合、反応器に触媒を充填した場合、触媒の絶対質量が軽くなる(触媒活性成分量が減少する)ため、十分な触媒性能が現れない。
ここで、触媒の細孔の均一さを示す指標として、平均細孔直径±1.5nmの範囲の直径を有する細孔容積の割合が、全細孔容積に対して20〜60%、好ましくは22〜58%である細孔構造を有することが望ましい。20%未満では反応に寄与しない微小細孔や表面積の低い大細孔の割合が増加し、60%を超える場合は、比較的分子サイズの大きな炭化水素油の細孔内拡散が阻害されることで触媒活性の低下を招く。なお、本発明の触媒の細孔径分布は、平均細孔直径やその近傍を中心とする単峰性の分布である。
比表面積は、100〜170m
2/gが望ましく、より好ましい範囲は110〜160m
2/g、さらに好ましくは115〜150m
2/gである。100m
2/g未満では触媒性能が不十分であり、170m
2/gを超えると平均細孔直径が小さくなりすぎるため、反応中に細孔閉塞等が起こりやすくなる。
【0033】
なお、細孔構造(細孔容積、平均細孔直径、細孔径分布等)は水銀圧入法(接触角140°、表面張力480dyn/cm)、比表面積はBET法でそれぞれ得られた値である。完成触媒の細孔構造、比表面積の測定や水素化活性成分の担持量定量に際しては、完成触媒を空気中450℃で1時間処理して水分や有機物を除去したものを測定対象とし、ここで得られた分析、測定値を酸化物触媒基準での値としている。なお、水素化活性成分や担体構成成分の定量では、蛍光X線分析装置を用いた。
【0034】
なお、触媒は通常、予備硫化操作を施してから使用されるが、この予備硫化操作は反応塔内または反応塔外でも可能である。
予備硫化方法としては、加熱状態、水素雰囲気下で硫黄分を含む灯油や軽油留分を用いたり、これらの油に二硫化炭素、ブタンチオール、ジメチルジスルフィド(DMDS)、ジターシャリーノニルポリスルフィド(TNPS)等の硫化剤を適量添加したものを用いての液相での硫化や、加熱水素気流中で硫化水素や二硫化炭素を硫化剤として用いる気相硫化法等が適用できる。
【0035】
(4)炭化水素油
本発明の触媒による水素化処理の対象となる炭化水素油は、ASTM D−2887またはD−2887拡張手法に基づいて、90%沸点温度が560℃以下、好ましくは540℃以下、初留点が100℃以上、好ましくは150℃以上の留出油である。
具体的には、主として石油系のナフサ、直留灯油、直留軽油、重質軽油、減圧軽油、重質減圧軽油等が例示できるが、水素化分解装置、熱分解装置や流動接触分解装置から得られる灯軽油留分(ライトサイクル油やコーカー軽油など)や重油直接脱硫装置由来の灯軽油留分に加え、石炭由来または動植物系のバイオマス由来の灯軽油相当留分、以上列記した留出分の任意の混合油も包含される。
なお、処理する原料油中のバナジウムやニッケルといった金属分は、5質量ppm以下、好ましくは1質量ppm以下、残留炭素分は1質量%以下、好ましくは0.9質量%以下であることが望ましいが、前記の金属分や残留炭素分の含有量を満たすように、原料留出油に減圧軽油、常圧残油、減圧残油、溶剤脱瀝油、石炭液化油、頁岩油、タールサンド油等の重質油を混合して処理することもできる。
【0036】
(5)水素化処理方法
本発明の水素化処理触媒は、固定床、沸騰床、移動床等の反応器で、前記の炭化水素油を水素の存在下での水素化、水素化脱硫、水素化脱窒素、水素化脱酸素、水素化分解、水素化異性化等を行なう種々の水素化処理反応に使用できる。本発明の水素化処理触媒のより好ましい用途は、石油系留出油の脱硫、脱窒素、特には灯油又は軽油留分中の硫黄分を80質量ppm以下、さらには10質量ppm以下に低減することである。
水素化処理装置で使用する場合、反応条件は原料油種にもよるが、水素分圧1〜20MPa、好ましくは3〜18MPa、水素/油比50〜1,200Nm
3/kl、好ましくは、100〜1,000Nm
3/kl、液空間速度0.1〜10h
-1、好ましくは、0.5〜8h
-1、反応温度300〜450℃、好ましくは320〜430℃で使用するのが一般的である。
【実施例】
【0037】
以下に示す実施例によって、更に本発明を具体的に説明する。ただし、下記実施例は何ら本発明を限定するものではない。
〔触媒の調製〕
(実施例1)
温水の水道水を入れたタンクに硫酸アルミニウム、アルミン酸ソーダおよび水ガラスを添加、混合することで、シリカ−アルミナ水和物ゲル(シリカ/アルミナ質量比:8.5/91.5)を調製した。
溶液から水和物を分離し、温水を用いて不純物を洗浄除去した後、硝酸を添加し、次いで、炭酸マグネシウム(酸化物触媒基準、酸化マグネシウムとして0.5質量%)を加え、混練機を用いて加熱混練して水分率を調整した後、押出し成形し、空気中、780℃で1.5時間か焼することでシリカ−アルミナ−マグネシア担体を得た。
この担体に対して、酸化物触媒基準で三酸化モリブデン22質量%、酸化コバルト4質量%、酸化リン3質量%となるように、三酸化モリブデン、塩基性炭酸コバルト、リン酸と有機添加物としてクエン酸一水和物、ポリエチレングリコール(平均分子量200)(有機添加物は、モリブデンとコバルトの合計モル数に対して、クエン酸一水和物、ポリエチレングリコールをそれぞれ0.1倍モル、0.3倍モル量添加)を含有する水溶液を含浸し、含浸物の温度が120℃となる条件で、2時間、空気中で熱風乾燥処理して触媒Aを得た。
触媒Aの物性、化学組成を表1に示す。
【0038】
(実施例2)
実施例1で、有機添加物であるクエン酸一水和物、ポリエチレングリコール(平均分子量200)を、モリブデンとコバルトの合計モル数に対してそれぞれ0.05倍モル量用いた以外は実施例1と同様の方法で触媒Bを調製した。
触媒Bの物性、化学組成を表1に示す。
【0039】
(実施例3)
炭酸マグネシウムの添加量を酸化物触媒基準で酸化マグネシウムとして0.8質量%とした以外は、実施例1と同様の方法で触媒Cを調製した。
触媒Cの物性、化学組成を表1に示す。
【0040】
(実施例4)
炭酸マグネシウムに換えて炭酸カルシウムとした以外は実施例1と同様の方法で触媒Dを調製した。
触媒Dの物性、化学組成を表1に示す。
【0041】
(実施例5)
混練機にシリカゾル、擬ベーマイト粉を入れ(シリカ/アルミナ質量比:8.5/91.5)、炭酸マグネシウム(酸化物触媒基準、酸化マグネシウムとして0.5質量%)、イオン交換水、クエン酸を投入し混練後、加熱混練して水分率を調整した後、押出し成形し、空気中、780℃で1.5時間か焼することでシリカ−アルミナ−マグネシア担体を得た。
この担体に対して、酸化物触媒基準で三酸化モリブデン22質量%、酸化ニッケル4質量%、酸化リン5質量%となるように、三酸化モリブデン、塩基性炭酸ニッケル、リン酸と有機添加物としてジエチレングリコール(有機添加物は、モリブデンとニッケルの合計モル数に対して0.4倍モル量添加)を含有する水溶液を含浸し、含浸物の温度が120℃となる条件で、2時間、空気中で熱風乾燥処理して触媒Eを得た。
触媒Eの物性、化学組成を表1に示す。
【0042】
(比較例1)
温水の水道水を入れたタンクに硫酸アルミニウムとアルミン酸ソーダを添加、混合することで、アルミナ水和物を調製した。溶液から水和物を分離し、温水を用いて不純物を洗浄除去した後、硝酸を添加し、次いで、混練機を用いて加熱混練して水分率を調整した後、押出し成形し、空気中、680℃で1.5時間か焼することでアルミナ担体を得た。
この担体に対して、酸化物触媒基準で三酸化モリブデン22質量%、酸化コバルト4質量%、酸化リン3質量%となるように、三酸化モリブデン、塩基性炭酸コバルト、リン酸と有機添加物としてクエン酸一水和物、ポリエチレングリコール(平均分子量200)(有機添加物は、モリブデンとコバルトの合計モル数に対して、クエン酸一水和物、ポリエチレングリコールをそれぞれ0.1倍モル、0.3倍モル量添加)を含有する水溶液を含浸し、含浸物の温度が120℃となる条件で、2時間、空気中で熱風乾燥処理して触媒Fを得た。
触媒Fの物性、化学組成を表1に示す。
【0043】
(比較例2)
実施例1で炭酸マグネシウムを使用せず、シリカ−アルミナ水和物の成形物を890℃でか焼した以外は実施例1と同様の方法で触媒Gを調製した。
触媒Gの物性、化学組成を表1に示す。
【0044】
(比較例3)
実施例1で、炭酸マグネシウムの添加量を2.1質量%とした以外は実施例1と同様の方法で触媒Hを調製した。
触媒Hの物性、化学組成を表1に示す。
【0045】
(比較例4)
混練機に擬ベーマイト粉、イオン交換水、硝酸を投入し十分に混練後、加熱混練して水分率を調整した後、押出し成形し、空気中、680℃で1.5時間か焼することでアルミナ担体を得た。
この担体に対して、酸化物触媒基準で三酸化モリブデン22質量%、酸化ニッケル4質量%、酸化リン5質量%となるように、三酸化モリブデン、塩基性炭酸ニッケル、リン酸と有機添加物としてジエチレングリコール(有機添加物は、モリブデンとニッケルの合計モル数に対して0.4倍モル量添加)を含有する水溶液を含浸し、含浸物の温度が120℃となる条件で、2時間、空気中で熱風乾燥処理して触媒Iを得た。
触媒Iの物性、化学組成を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
〔水素化活性試験〕
1.軽油水素化処理試験
実施例1〜4、比較例1〜3の触媒を固定床小型流通反応機に充填した後、表2の軽油にジメチルジスルフィドを添加した硫化油(全硫黄分として2.5質量%相当)による予備硫化を行なった後、表2の原料油に切り替えて表3の条件で水素化処理試験を実施した。
試験で得られた生成油の硫黄分をそれぞれ蛍光X線法で測定し、式(1)、(2)に基づいて容量基準の比活性を求めた。
試験結果を表6に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
【数1】
【0051】
上式中、LHSVは液空間速度、kは反応速度定数、nは反応次数、Xは原料油中の、Yは生成油中の硫黄分の質量割合である。
【0052】
2.減圧軽油水素化処理試験
実施例5および比較例4の触媒を固定床小型流通反応機に充填し、前記表2の軽油にジメチルジスルフィドを添加した硫化油(全硫黄分として2.5質量%相当)による予備硫化を行なった後、表4の原料油に切り替え、表5の条件で、減圧軽油の水素化処理試験を行なった。
試験で得られた生成油の硫黄分を蛍光X線法で、窒素分を酸化分解化学発光法で測定し、式(3)〜(5)に基づいて容量基準の比活性を求めた。
評価結果は表7に示した。
【0053】
【表4】
【0054】
【表5】
【0055】
【数2】
【0056】
上式中、LHSVは液空間速度、kは反応速度定数、nは反応次数、Xは原料油中の硫黄または窒素分の、Yは生成油中の硫黄または窒素分の質量割合である。なお、lnは自然対数の表記である。
【0057】
【表6】
【0058】
表6中のエネルギー消費指数とは、触媒の調製過程で要した燃料、電気使用量を熱量に換算し、比較例1での数値に対する実施例1〜4、比較例1〜3の数値の比を100倍したものである。
【0059】
【表7】
【0060】
表7中のエネルギー消費指数とは、触媒の調製過程で要した燃料、電気使用量を熱量に換算し、比較例4での数値に対する比較例4、実施例5の数値の比を100倍したものである。
【0061】
軽油および減圧軽油の水素化処理試験結果(表6、7)から、本発明のシリカ−アルミナ−周期表第2族金属酸化物担体を使用した水素化処理触媒は、従来のアルミナ系担体を用いた使用触媒に比べて優れた水素化脱硫、水素化脱窒素活性を示していることが分かる。
なお、比較例2の触媒は、周期表第2族金属を含まないシリカ−アルミナ担体を用いているが、その軽油脱硫活性は実施例とほぼ同等である。
しかしながら、実施例触媒と同様の細孔構造を有する触媒を得るためには、担体製造工程で高温のか焼温度を必要とするため、商業的な製造においてはエネルギーコストが割高となるといった欠点を有する。
本願発明の触媒は、従来に増して触媒活性が高く、製造面においてもエネルギー消費量を抑えた経済性の高い触媒であることが分かる。