【解決手段】一実施形態によれば、インクジェットプリントヘッドは、基板と、複数のアクチュエータと、バッファ材と、オリフスプレートを備える。複数のアクチュエータは、前記基板と平行な第1軸方向へ配列される。バッファ材は、無鉛材料からなり、前記基板に対して、前記アクチュエータを支持する。オリフスプレートは、前記バッファ材と前記アクチュエータによって規定される圧力室に通じる開口が形成され、前記基板と平行に支持される。
前記基板には、前記圧力室に供給されるインクが流入する流入口と、前記圧力室から流出する流出口が形成される請求項1乃至3のいずれか一項に記載のインクジェットプリントヘッド。
【背景技術】
【0002】
液体インクを紙などの記録媒体に吹き付けることにより印刷を行うインクジェットプリンタでは、印刷が行われない待機時間が長期化すると、プリントヘッドに設けられたノズル内のインクが乾燥する。ノズル内のインクが乾燥すると、インクの粘度が高くなったりインクが固形化し、ノズルの目詰まりが発生する。
【0003】
そこで、プリントヘッドのノズル内で、インクの乾燥を防止するための技術が種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
従来のインクジェットプリントヘッドは、シェアモードシェアードウォール型のインクジェットプリントヘッドである。このインクジェットプリントヘッドは、圧電素子によって規定される圧力室を有している。そして、この圧力室内のインクを、圧電素子を変形させることにより、記録媒体に吐出する。
【0005】
特許文献1に開示された従来のインクジェットプリントヘッドでは、圧力室とインク室が隣接して設けられている。このため、当該圧力室を規定する圧電素子の大きさは、たとえ圧力室が小さい場合であっても、インク室の大きさに基づいて規定されている。
【0006】
一般に、圧電素子としては、チタン酸ジルコン酸鉛などの鉛を含むピエゾ素子がよく用いられる。このため、インクヘッドの製造時や、インクヘッドを廃棄処分するときの環境負荷を考慮する必要がある。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本実施形態を、図面を用いて説明する。説明には、相互に直交するX軸、Y軸、Z軸からなる直交座標系を用いる。
【0012】
図1は、本実施形態に係るプリントヘッド(インクジェットプリントヘッド)10を示す斜視図である。プリントヘッド10は、シェアモードシェアードウォール型のプリントヘッドである。このプリントヘッド10は、ベース基板20、フレーム30、オリフィスプレート40を有している。
【0013】
図2は、
図1に示されるプリントヘッド10の展開斜視図である。
図2に示されるように、ベース基板20は、長手方向をX軸方向とする長方形板状の部材である。ベース基板20は、アルミナやセラミックからなり、Y軸方向中央部には、X軸に沿って複数の開口21が形成されている。また、開口21の−Y側には、X軸に沿って複数の開口22
1が形成され、開口21の+Y側には、X軸に沿って4つの開口22
2が形成されている。
【0014】
ベース基板20の上面には、2つの駆動ユニット50
1,50
2が配置されている。
図2に示されるように、駆動ユニット50
1は、開口21と開口22
1の間に配置され、駆動ユニット50
2は、開口21と開口22
2の間に設けられている。
【0015】
図3は、駆動ユニット50の一部を拡大して示す図である。
図3に示されるように、駆動ユニット50は、ベース基板20の上面に接着されるバッファ材51、バッファ材51に支持される複数のアクチュエータ50aからなる。
【0016】
バッファ材51は、ZY断面が台形で、長手方向をX軸方向とする部材である。バッファ材51は、例えば、ガラスエポキシ樹脂、或いはポリイミドなどの絶縁材料からなる。このバッファ材51の上面には、上方(+Z方向)に突出する突出部51aが、X軸に沿って等間隔に形成されている。また、バッファ材51の下面は、接着層54を介して、ベース基板20の上面に接着されている。
【0017】
アクチュエータ50aは、2つの圧電素子52,53を有している。圧電素子52は、接着層55を介してバッファ材51の突出部51aに接着されている。また、圧電素子53は、圧電素子52の上面に、接着層56を介して接着されている。このように、駆動ユニット50は、バッファ材51と、2つの圧電素子52,53からなる三層構造の部材となっている。
【0018】
圧電素子52,53は、チタン酸ジルコン酸鉛を主成分とするピエゾ素子である。圧電素子52,53それぞれの分極方向はZ軸に平行であり、圧電素子52の極性と、圧電素子53の極性は逆になっている。圧電素子52,53それぞれの+Y側の側面は、バッファ材51の+Y側の面と連続する平面となり、圧電素子52,53それぞれの−Y側の側面は、バッファ材51の−Y側の面と連続する平面となるように、圧電素子52,53それぞれが整形されている。
【0019】
駆動ユニット50では、隣接する1組のアクチュエータ50aと、これらを支持する1組の突出部51aの間が、圧力室Sとなっている。また、本実施形態では、
図2に示されるように、駆動ユニット50
1のアクチュエータ50aの配列ピッチと、駆動ユニット50
2のアクチュエータ50aの配列ピッチは等しいが、駆動ユニット50
2のアクチュエータ50aの位置が、−X方向へオフセットしている。このため、駆動ユニット50
1の圧力室Sに対して、駆動ユニット50
2の圧力室Sは、アクチュエータ50aの配列ピッチの1/2だけ、−X方向にオフセットしている。
【0020】
また、
図1乃至3で図示が省略されているが、
図4示さるように、各圧力室Sの内壁面から、ベース基板20の上面にかけて、電極パターン60が形成されている。この電極パターン60は、例えば、ニッケル膜からなるパターンであり、アクチュエータ50aに電圧を印加するための電極として機能する。
【0021】
各電極パターン60に選択的に電圧を印加することで、
図5に示されるように、直線的になっているアクチュエータ50aを、
図6に示されるように、屈曲させることができる。アクチュエータ50aが屈曲すると、圧力室Sの体積が小さくなり、オリフィスプレート40の開口41からインクが吐出する。
【0022】
なお、
図5に示される圧電素子52,53の厚さd2,d3は、80μm程度であり、バッファ材51の厚さd1は、0.3mm程度である。
【0023】
図2に戻り、フレーム30は、長手方向をX軸方向とする部材である。フレーム30は、例えば、セラミックやアルミナ、又は、表面が絶縁材料によって被覆されたアルミニウム或いはステンレスなどの金属からなる。また、フレーム30は、ベース基板20よりも一回り小さい。
【0024】
フレーム30の中央には、開口31が形成されている。開口31の内壁面には、外側に向かって窪む8つの凹部32が形成されている。フレーム30は、
図7に示されるように、ベース基板20に接着される。この状態のときには、フレーム30の内壁面に形成された凹部32に、ベース基板20に形成された開口22が位置した状態になる。
【0025】
図2に戻り、オリフィスプレート40は、ポリイミド等を素材とし、長手方向をX軸方向とする長方形のシートである。オリフィスプレート40のX軸方向の大きさは、フレーム30のX軸方向の大きさよりもやや小さいか、もしくは等しい。また、オリフィスプレート40のY軸方向の大きさは、フレーム30のY軸方向の大きさよりやや小さいか、もしくは等しい。
【0026】
このオリフィスプレート40には、X軸に沿って等間隔に円形の開口41
1が形成されている。また、開口41
1の+Y側には、Y軸に沿って等間隔に円形の開口41
2が形成されている。開口41は、プリントヘッド10を循環するインクを、紙などの記録媒体に吐出するためのノズルとして機能する。これらの開口41の配列ピッチは、
図2に示されるアクチュエータ50aのX軸方向の配列ピッチに等しい。
【0027】
オリフィスプレート40は、
図1に示されるように、フレーム30の上面に接着される。
図5を参照するとわかるように、この状態のときには、オリフィスプレート40に設けられた開口41が、アクチュエータ50aによって規定される圧力室Sそれぞれの上方に位置する。
【0028】
上述のように構成されるベース基板20、フレーム30、オリフィスプレート40は、ベース基板20の上面にフレーム30が接着され、フレーム30の上面にオリフィスプレート40が接着されることで一体化される。
図8は、
図1に示されるプリントヘッド10のAA断面を示す図である。
図8に示されるように、ベース基板20、フレーム30、オリフィスプレート40が一体されたときには、圧力室Sの上方がオリフィスプレート40によって塞がれた状態になる。
【0029】
これにより、ベース基板20に形成される開口21,22と、駆動ユニット50の圧力室Sとの間をインクが循環するための流路が形成される。
図8の実線で示されるように、プリントヘッド10では、ベース基板20の開口21から流入したインクは、駆動ユニット50の圧力室Sを通過して、ベース基板20の開口22から流出する。
【0030】
また、インクが、
図8の実線で示されるように循環しているときに、
図4に示される電極パターン60に選択的に電圧を印加すると、アクチュエータ50aが、
図5に示される状態から、
図6に示される状態に変形する。これにより、圧力室Sが収縮して、
図8の白抜き矢印に示されるように、オリフィスプレート40に形成された開口41からインクが吐出する。
【0031】
次に、上述のように構成されたプリントヘッド10の製造方法について説明する。まず、ベース基板20と同じ素材からなる基板200を準備する。そして、
図9に示されるように、この基板200に、機械加工を施して、開口21,22を形成する。
【0032】
次に、
図10を参照するとわかるように、ベース基板20の上面に、バッファ材51と同じ素材からなる2枚のシート510を接着する。シート510の接着には、例えば、熱硬化性を有する接着材或いは紫外線硬化性を有する接着材を用いることができる。これにより、2枚のシート510それぞれは、開口21と開口22の間に固定される。
【0033】
次に、圧電素子52と同じチタン酸ジルコン酸鉛を主成分とする2枚のシート520を、2枚のシート510の上面にそれぞれ張り付ける。なお、シート520の分極方向はシート520の法線に平行な方向である。ここでは、シート520の極性が+Z方向になるように、シート520を、シート510に接着する。
【0034】
続いて、圧電素子53と同じチタン酸ジルコン酸鉛を主成分とする2枚のシート530を、2枚のシート520の上面にそれぞれ張り付ける。シート520と同様に、このシート530の分極方向はシート530の法線に平行な方向である。ここでは、シート530の極性が、シート520の極性とは逆の−Z方向になるように、シート530を、シート520に接着する。なお、シート同士を接着する工程では、各シートの間に気泡が入らないように、真空雰囲気下で、それぞれのシートを加圧圧着するのが好ましい。
【0035】
以上の工程を経ることにより、ベース基板20の上面に、積層された3枚のシート510,520,530からなる2つのシートブロック500
1,500
2が形成される。
【0036】
次に、
図11に示されるように、ダイヤモンドソーなどを用いて、シートブロック500
1,500
2のZY断面が台形になるように、シートブロック500
1,500
2それぞれの側面を、切削する。
【0037】
次に、
図12に示されるように、ダイヤモンドソーなどを用いて、シートブロック500
1,500
2それぞれに、シート530の上面からシート510に達しY軸に平行な溝500aを、X軸に沿って等間隔に形成する。シートブロック500
1,500
2それぞれを構成するシート520,530は、溝500aが形成されることにより、小片に分割される。シート520が分割されることにより形成される小片は、
図3に示される圧電素子52となる。また、シート530が分割されることにより形成される小片は、圧電素子53となる。これにより、アクチュエータ50aが形成される。
【0038】
次に、隣接するアクチュエータ50aの間から基板200の上面に、
図4に示される電極パターン60を形成する。この電極パターン60は、例えば、スパッタ法を用いて、シートブロック500及び基板200の表面全体にニッケルからなるソリッドパターン(べたパターン)を形成し、このソリッドパターンを、パターニングすることにより形成することができる。基板200に電極パターン60を形成することで、
図2に示されるベース基板20が完成する。
【0039】
次に、
図13に示されるように、ベース基板20の上面に、フレーム30を接着するとともに、フレーム30の上面に、オリフィスプレート40となるシート400を接着する。これにより、アクチュエータ50aとシート400によって囲まれる部分に圧力室Sが形成される。
【0040】
次に、シート400の上面にレーザ光を照射して、シート400の上方から圧力室Sに通じる開口41を形成する。これにより、開口41が形成されたシート400は、
図8に示されるように、開口41がノズルとなったオリフィスプレート40となる。
【0041】
プリントヘッド10は、以上の工程を経て、製造される。このプリントヘッド10は、電極パターン60に、ドライバICが接続され、ベース基板20の開口21,22に、インク循環系が接続される。
【0042】
以上説明したように、本実施形態に係るプリントヘッド10では、
図3を参照するとわかるように、2つの圧電素子52,53からなるアクチュエータ50aが、バッファ材51に形成される突出部51aによって支持される。これにより、従来、圧電素子のみから構成される駆動ユニット50を、バッファ材と圧電素子によって構成することができ、プリントヘッド10に使用される圧電素子の割合を小さくすることができる。
【0043】
したがって、プリントヘッド10の製造時に、圧電材料を切削することなどにより発生するチタン酸ジルコン酸鉛などの特定有害物質の発生量を削減することができる。また、プリントヘッド10に使用される圧電材料の量が少なくなるため、プリントヘッド10を廃棄する際に生じるチタン酸ジルコン酸鉛などの特定有害物質の量を削減することができる。したがって、プリントヘッドの製造時や、プリントヘッドの廃棄時に発生する特定有害物質を含む廃棄物の量を少なくすることができ、環境負荷を低減することが可能となる。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態によって限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、バッファ材51が、ガラスエポキシ樹脂、或いはポリイミドなどの絶縁材料からなることとした。バッファ材51の材料はこれに限られるものではなく、例えば、PETなどの他の材料から構成されていてもよい。
【0045】
上記実施形態では、アクチュエータ50aを構成する圧電素子52,53の厚さが相互に等しい場合について説明した。これに限らず、圧電素子52,53の厚さは、圧電素子52,53相互間で異なっていてもよい。プリントヘッド10の用途、解像度に応じて、圧電素子52,53の大きさや形状を決定することができる。
【0046】
上記実施形態では、スパッタ法を用いて電極パターン60を形成する場合について説明した。これに限らず、無電解めっき及び電界めっきからなるめっき膜を、シートブロック500及び基板200の表面全体に形成し、シートブロック500及び基板200の表面全体に形成されたソリッドパターン(べたパターン)をパターニングすることにより、電極パターン60を形成することとしてもよい。
【0047】
また、シートブロック500及び基板200の表面全体に、蒸着法を用いて、ソリッドパターンを形成し、このソリッドパターンをパターニングすることにより、電極パターン60を形成することとしてもよい。ソリッドパターンに対しては、レーザ光を用いたパターニングや、ルータ等を用いたパターニングを行うことが考えられる。また、マスクを用いて、電極パターン60が形成される部分にのみ、金属膜を形成することとしてもよい。
【0048】
上記実施形態では、ベース基板20と、フレーム30が、セラミックやアルミナ等から形成されている場合について説明した。ベース基板20及びフレーム30の素材は、上記材料に限定されるものではなく、例えば樹脂等であってもよい。
【0049】
上記実施形態では、オリフィスプレート40が、ポリイミド等からなる場合について説明した。これに限らず、オリフィスプレート40は、ポリイミド以外の金属や樹脂から構成されていてもよい。
【0050】
上記実施形態では、フレーム30とオリフィスプレート40とを接着してから、オリフィスプレート40に開口41を形成することとした。これに限らず、プレス加工や電鋳により、あらかじめ開口41が形成されたオリフィスプレート40を、フレーム30に張り付けることとしてもよい。
【0051】
上記実施形態に係るプリントヘッド10は一例であり、ベース基板20に形成される開口21,22の数や、アクチュエータ50aの数は、プリントヘッド10の用途や解像度に応じて、適宜変更することができる。
【0052】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施しうるものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。