【解決手段】ステアリング軸111と、ステアリング軸111に対して相対回転可能であるピニオン軸121と、ピニオン軸121と一体で回転するねじ棒21と、ステアリング軸111の軸方向において直線運動可能であると共にステアリング軸111に対して相対回転不能であるアウターパイプ10及びナット22とを有し、ねじ棒21の回転運動をアウターパイプ10及びナット22の直線運動に変換するボールねじ20と、アウターパイプ10の直線運動をロックするロック装置30と、を備えるロック構造体1である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態について
図1〜
図5を参照して説明する。
【0016】
≪操舵装置の構成≫
操舵装置100は、操舵輪131(前輪)を操舵するステアバイワイヤ方式の操舵装置である。
【0017】
操舵装置100は、運転者の操舵するステアリングホイール101(操舵部材)と、ステアリングホイール101と一体で回転するステアリング軸111(操舵部材側軸、第1回転軸)と、操舵輪131に対応して回転し下部にピニオン歯121aが形成されたピニオン軸121(操舵輪側軸、第2回転軸)と、ピニオン歯121aに噛合するラック歯132aが形成され車幅方向に延びるラック軸132(転舵軸)と、を備えている。ラック軸132の両端は、タイロッド133を介して操舵輪131に連結されている。
【0018】
ステアリング軸111とピニオン軸121とは、通常時、機械的に非結合状態であり、相対回転自在である。一方、異常時(フェール時)、ステアリング軸111とピニオン軸121とが機械的に結合され一体で回転するように構成されている。
【0019】
ステアリング軸111の下部の外周面にはスプライン軸112が形成されている(
図2、
図3参照)。スプライン軸112は、後記するスプライン孔12とスプライン結合している。なお、ステアリング軸111、ピニオン軸121は、軸受等によって回転自在に支持されているが軸方向において移動しない。また、スプライン軸112は、チルトステアリング機構を構成するスプライン軸を使用することもできる。
【0020】
操舵装置100は、反力アクチュエータ141と、操舵アクチュエータ151と、を備えている。反力アクチュエータ141、操舵アクチュエータ151は、例えば、電動モータで構成されている。
【0021】
反力アクチュエータ141は、ステアリング軸111に反力を付与するアクチュエータである。反力とは、運転者による操舵により回転するステアリング軸111の回転力と反対向きの力である。具体的には、ステアリング軸111にウォームホイール142が固定され、反力アクチュエータ141の出力軸にウォーム143が固定されている。ウォーム143はウォームホイール142に噛合している。そして、反力アクチュエータ141がステアリング軸111に反力を付与すると、運転者が操舵感を得るようになっている。
【0022】
操舵アクチュエータ151は、ピニオン軸121に操舵力を付与するアクチュエータである。操舵力とは、操舵輪131を回転させる力である。具体的には、ピニオン軸121にウォームホイール152が固定され、操舵アクチュエータ151の出力軸にウォーム153が固定されている。ウォーム153はウォームホイール152に噛合している。そして、操舵アクチュエータ151がピニオン軸121に操舵力を付与すると、ピニオン軸121が回転し、ラック軸132が車幅方向において移動し、操舵輪131が操舵されるようになっている。
【0023】
操舵装置100は、操舵角度センサ161と、操舵トルクセンサ162と、車速センサ163と、ECU200(Electronic Control Unit、電子制御装置)と、を備えている。
【0024】
操舵角度センサ161は、ステアリングホイール101(ステアリング軸111)の操舵角度を検出し、ECU200に出力するようになっている。操舵トルクセンサ162は、運転者からステアリングホイール101(ステアリング軸111)に入力された操舵トルクを検出し、ECU200に出力するようになっている。車速センサ163は、車速を検出し、ECU200に出力するようになっている。
【0025】
ECU200は、操舵装置100を電子制御する制御装置であり、CPU、ROM、RAM、各種インタフェイス、電子回路などを含んで構成されており、その内部に記憶されたプログラムに従って、各種機器を制御し、各種処理を実行するようになっている。
具体的には、ECU200は、操舵角度、操舵トルク及び車速に基づいて、反力アクチュエータ141及び操舵アクチュエータ151を駆動させるようになっている。また、ECU200は、後記するロック装置30をON/OFF制御する機能も備えている。
【0026】
≪ロック構造体の構成≫
操舵装置100は、ロック構造体1を備えている。ロック構造体1は、(1)通常時、ステアリング軸111とピニオン軸121とを相対回転自在で連結し、(2)異常時、ステアリング軸111とピニオン軸121とを周方向においてロックし相対回転不能とする構造体である。
【0027】
ロック構造体1は、アウターパイプ10(直線運動部)と、ボールねじ20(変換機構)と、ロック装置30と、を備えている。
【0028】
<アウターパイプ>
アウターパイプ10は、円筒状の部材である。
アウターパイプ10の上部は、前記したスプライン軸112に外嵌する外嵌部11を構成している。外嵌部11の内周面には、スプライン孔12が形成されている。スプライン孔12は、小さな隙間Sを形成しつつ(
図4参照)、前記したステアリング軸111のスプライン軸112とスプライン結合している。
【0029】
これにより、アウターパイプ10は、ステアリング軸111に対して、軸方向において直線運動可能であると共に周方向において相対回転不能である。すなわち、アウターパイプ10は、ステアリング軸111に対して、軸方向において摺動可能となっている。
【0030】
言い換えると、アウターパイプ10とステアリング軸111とがスプライン結合している構造(スプライン結合構造)は、アウターパイプ10とステアリング軸111との相対的な軸方向の移動(直線運動)を許容すると共に、相対回転を規制する規制部を構成している。
【0031】
外嵌部11には、軸方向に延びるスリット13が形成されており(
図4参照)、輪切り断面視においてC字形を呈している。そして、周方向においてスリット13を挟む外嵌部11の両端から径方向外側に延びる第1舌片14、第2舌片15が形成されている。
【0032】
そして、後記するロック装置30によりスリット13の幅が小さくなり(
図5参照)、外嵌部11が縮径すると、スプライン孔12とスプライン軸112との間における摩擦力(摺動抵抗)が大きくなり、外嵌部11がステアリング軸111に対して摺動不能となり、ロックされるようになっている。
【0033】
アウターパイプ10の下端は、ボールねじ20の後記するナット22と結合されている。これにより、アウターパイプ10は、ナット22と一体で軸方向において移動するようになっている。
【0034】
また、ここでは、アウターパイプ10は、ステアリング軸111、ピニオン軸121と同軸で配置されている。ここで、同軸とは、ステアリング軸111等の中心軸線が完全一致した態様の他、中心軸線の位置、方向が多少ずれた態様も含む。すなわち、ステアリング軸111等が、自在継手を介して連結され屈曲した構成でもよい。
【0035】
<ボールねじ>
ボールねじ20は、アウターパイプ10(ステアリング軸111)とピニオン軸121とを相対回転可能に連結する機構である。ボールねじ20は、ステアリング軸111に対するピニオン軸121の相対回転運動を、アウターパイプ10の軸方向における直線運動に変換する変換装置である。ボールねじ20は、ねじ棒21(回転部)と、ナット22(直線運動部)と、複数のボール23と、を備えている。
【0036】
<ボールねじ−ねじ棒>
ねじ棒21は、ピニオン軸121の上端に同軸で固定されており、周方向においてピニオン軸121と一体で回転運動するようになっている。なお、ピニオン軸121は軸方向に移動しないので、ねじ棒21も軸方向に移動しない。
【0037】
ねじ棒21の外周面には、軸方向断面視において半円状を呈し、軸方向に螺旋状で延びる第1螺旋溝21aが形成されている。第1螺旋溝21aは、後記するナット22側の第2螺旋溝22aとで、円状のボール通路を構成している。
【0038】
<ボールねじ−ナット>
ナット22は、アウターパイプ10の下端に同軸で固定されており、軸方向においてアウターパイプ10と一体で直線運動するようになっている。すなわち、ねじ棒21がナット22に対して相対回転すると、ねじ棒21及びナット22の螺合位置が変化し、ねじ棒21の回転方向に対応して、ナット22及びアウターパイプ10が、上方又は下方に摺動するようになっている(
図2、
図3参照)。よって、ステアリング軸111の軸方向において直線運動可能であると共にステアリング軸111に対して相対回転不能である直線運動部は、アウターパイプ10とナット22とを備えて構成されている。
【0039】
ナット22の内周面には、軸方向断面視において半円状を呈し、軸方向に螺旋状の第2螺旋溝22aが形成されている。
【0040】
<ボールねじ−ボール>
ボール23は、ねじ棒21及びナット22の間において、第1螺旋溝21a及び第2螺旋溝22aで形成されたボール通路を転動することにより、ねじ棒21及びナット22の相対回転に伴う抵抗を小さくするものである。
【0041】
なお、ナット22内に軸方向に延びる循環路を形成し、ボール23を循環させる構成としてもよい。
【0042】
<ロック装置>
ロック装置30は、軸方向において、ステアリング軸111に対してアウターパイプ10を移動自在又はロック(固定)する装置である。
【0043】
ロック装置30は、先端が第2舌片15に固定されたロッド31と、ロッド31の基端に固定された可動コア32と、可動コア32を吸引する固定コア33と、固定コア33を励磁するソレノイド34と、第2舌片15が第1舌片14に近づくように可動コア32及びロッド31を付勢する圧縮コイルばね35と、これらを収容するハウジング36と、を備えている。ソレノイド34には、ECU200の指令に従って、電源(図示しない)から電力が供給されるようになっている。
【0044】
そして、ECU200の指令に従ってソレノイド34がON(通電状態)になると、固定コア33が励磁し、固定コア33がその吸引力により可動コア32を吸引し、スリット13が広がるように構成されている(
図4参照)。スリット13が広がると、スプライン孔12とスプライン軸112との間に隙間Sが形成され、アウターパイプ10がステアリング軸111に対して軸方向において摺動自在となるように構成されている。
【0045】
一方、ECU200の指令に従って、または、電源を消失し、ソレノイド34がOFF(通電停止状態)になると、固定コア33は消磁し、圧縮コイルばね35が可動コア32及びロッド31を付勢することで、スリット13が狭くなるように構成されている(
図5参照)。スリット13が狭くなると、アウターパイプ10がステアリング軸111に対して軸方向においてロックされるように構成されている。
ただし、これとは逆に、ソレノイド34のON時にスリット13が狭くなってロックされ、ソレノイド34のOFF時にスリット13が広がって摺動自在となる構成としてもよい。
【0046】
≪操舵装置、ロック構造体の作用、効果≫
操舵装置100、ロック構造体1の作用、効果を説明する。
【0047】
<通常時(非ロック時)>
通常時、つまり、ロック装置30による非ロック時を説明する。
ECU200は、ソレノイド34をON(通電)し、励磁した固定コア33で可動コア32を吸引している(
図4の矢印A5参照)。これにより、第1舌片14と第2舌片15との間、つまり、スリット13の幅が大きくなる。
【0048】
そうすると、外嵌部11とステアリング軸111との間に隙間Sが形成され、外嵌部11とステアリング軸111との間の摩擦力が小さくなり、外嵌部11(アウターパイプ10)がステアリング軸111に対して、軸方向において摺動自在なる。なお、外嵌部11(アウターパイプ10)とステアリング軸111とはスプライン結合しているので、外嵌部11(アウターパイプ10)とステアリング軸111とは相対回転しない。
【0049】
ECU200は、操舵角度センサ161から入力される操舵角度、操舵トルクセンサ162から入力される操舵トルク、車速センサ163から入力される車速に基づいて、反力アクチュエータ141、操舵アクチュエータ151を駆動させる。
【0050】
そして、ステアリング軸111とピニオン軸121とが相対回転すると、その相対回転量に対応してピニオン軸121と一体であるねじ棒21がナット22に対して回転する(
図2の矢印A1、
図3の矢印A3参照)。
【0051】
そうすると、ナット22及びアウターパイプ10が、スプライン結合によって軸方向においてガイドされながら、ステアリング軸111に対して軸方向において摺動する、つまり、直線運動する(
図2の矢印A2、
図3の矢印A4参照)。すなわち、独立して回転するステアリング軸111及びピニオン軸121の間で回転角度差が発生した場合、回転角度差に対応してアウターパイプ10がステアリング軸111に対して上下に摺動し、回転角度差を吸収する。
【0052】
<異常時(フェール時、ロック時)>
次に、異常時(フェール時)、つまり、ロック装置30によるロック時を説明する。
ECU200は、例えば、操舵角度、操舵トルクが所定値以上であり、操舵装置100が異常であると判断した場合、ソレノイド34をOFFする。この他、ソレノイド34が電源を消失した場合等も異常時である。
【0053】
そうすると、圧縮コイルばね35によって、可動コア32及びロッド31が前進し、第2舌片15を第1舌片14に向けて付勢する(
図5の矢印A6参照)。これにより、スリット13の幅が小さくなり、外嵌部11が縮径し、外嵌部11がステアリング軸111に密着し、外嵌部11とステアリング軸111との間における摩擦力が大きくなり、外嵌部11がステアリング軸111に対して摺動不能となる。すなわち、ステアリング軸111とアウターパイプ10とが軸方向において固定される。ここで、アウターパイプ10はステアリング軸111に対して相対回転不能であるから、ステアリング軸111とアウターパイプ10とは、軸方向及び周方向においてロック(一体化)した状態となる。
【0054】
そうすると、運転者の操舵力は、ステアリング軸111、アウターパイプ10を介して、ナット22にそのまま入力されることになる。ここで、ねじ棒21の固定されたピニオン軸121は軸方向に移動不能であるので、ナット22はねじ棒21に対して相対回転できない。これにより、ナット22、ねじ棒21及びピニオン軸121は、一体で回転する。
【0055】
したがって、運転者の操舵力は、ナット22から、ねじ棒21、ピニオン軸121にそのまま入力される。すなわち、ステアリング軸111、アウターパイプ10、ナット22、ねじ棒21及びピニオン軸121が一体で回転する。そして、ラック軸132が移動し、操舵輪131が操舵される。
【0056】
このようにして、異常時、ステアリング軸111に対してアウターパイプ10を軸方向においてロックし、運転者の操舵力をピニオン軸121に伝達し、操舵輪131を操舵できる。
【0057】
このような操舵装置100は、アウターパイプ10、ボールねじ20を備える簡易な構成であるので、低コストで製造できる。
【0058】
≪変形例≫
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されず、例えば、次のように変更してもよい。
【0059】
<変形例1>
前記した実施形態では、ナット22及びアウターパイプ10が操舵力の入力側(ステアリングホイール101側)のステアリング軸111に結合され、ねじ棒21が操舵力の出力側(操舵輪131側)のピニオン軸121に結合された構成を例示したが、逆の構成でもよい。すなわち、ねじ棒21がステアリング軸111に結合され、アウターパイプ10がピニオン軸121とスプライン結合した構成でもよい。
【0060】
<変形例2>
前記した実施形態では、アウターパイプ10がステアリング軸111に外嵌する構成を例示したが、その他に例えば、ステアリング軸111の下端が円筒状に形成され、ステアリング軸111がアウターパイプ10に外嵌しつつスプライン結合する構成でもよい。
【0061】
<変形例3>
前記した実施形態では、アウターパイプ10がステアリング軸111に対して軸方向に移動可能かつ相対回転不能とするために、アウターパイプ10とステアリング軸111とがスプライン結合した構成を例示したが、その他の構成としてもよい。
【0062】
<変形例3−1>
(1)例えば、ステアリング軸111の外周面に径方向外側に突出する突起(キー)を形成し、アウターパイプ10の内周面に軸方向に延びる溝(キー溝)を形成し、キーがキー溝を軸方向において摺動する構成としてもよい。その他、アウターパイプ10の内周面に径方向内側に突出する突起が形成され、ステアリング軸111の外周面に溝が形成された構成としてもよい。
【0063】
<変形例3−2>
(2)また、ステアリング軸111の外周面の一部に弦方向(径方向と直交する方向)に延びる切欠面を形成し、アウターパイプ10の内周面に前記切欠面と合わさって摺動する合わせ面を形成する構成としてもよい。
【0064】
<変形例4>
前記した実施形態では、ボールねじ20によって、ステアリング軸111に対するピニオン軸121の相対回転運動を、アウターパイプ10の軸方向における直線運動に変換する変換装置を構成したが、その他の構成としてもよい。
例えば、ピニオン軸121の上端に外周面に螺旋溝が形成された円筒カムを固定し、アウターパイプ10の下端に前記螺旋溝を摺動するスライダを固定し、ステアリング軸111に対してピニオン軸121が相対回転すると、スライダが螺旋溝を摺動し、アウターパイプ10が軸方向に移動する構成としてもよい。なお、この構成の場合、ステアリング軸111及びアウターパイプ10の中心軸線と、ピニオン軸121及び円筒カムの中心軸線がずれて配置されることになる。
【0065】
<変形例5>
前記した実施形態では、ソレノイド34のOFF時、ロッド31及び第2舌片15を第1舌片14側に付勢してスリット13を狭くし、アウターパイプ10がステアリング軸111に対して軸方向においてロックされる構成を例示したが、その他の構成としてもよい。
【0066】
<変形例5−1>
(1)例えば、第1舌片14及び第2舌片15を貫通するねじ棒と、ねじ棒を回転させるモータとを備え、ねじ棒が回転するとスリット13の幅が変化するように構成してもよい。この場合、ねじ棒は、例えば、第1舌片14に対して回転自在かつ軸方向に移動不能に取り付けられ、第2舌片15に対して螺合した構成となる。
【0067】
<変形例5−2>
(2)また、径方向に移動自在なロック片と、ロック片を径方向において移動させるアクチュエータ(ソレノイド)とを備え、ロック片がアウターパイプ10及びステアリング軸111の両方を貫通した場合、アウターパイプ10がステアリング軸111に対して軸方向においてロックされる構成としてもよい。この場合、複数のロック片を周方向に等間隔で備えることが好ましい。
【0068】
<変形例5−3>
(3)また、ロック時に、アウターパイプ10とステアリング軸111とを二液混合系の瞬間接着剤によって接着させ、アウターパイプ10がステアリング軸111に対して軸方向においてロックされる構成としてもよい。
【0069】
<変形例5−4>
(4)また、ロック時に、アウターパイプ10を径方向内側に塑性変形させてステアリング軸111に密着させ、アウターパイプ10がステアリング軸111に対して軸方向においてロックされる構成としてもよい。
【0070】
<変形例6>
前記した実施形態では、ロック構造体1が、操舵装置100に組み込まれた構成を例示したが、その他の装置に組み込まれた構成でもよい。