【解決手段】車両のステアリングホイールの操舵に対してアシスト力を付与する電動モータと、ステアリングホイールの操舵トルクを検出するトルクセンサと、トルクセンサに故障が生じた場合にステアリングホイールの回転角度に基づいて電動モータを制御する制御装置と、を備え、制御装置は、ステアリングホイールの回転角度が同じであるとしても、車両の移動速度である車速が零の場合には、零以外である場合よりもアシスト力を大きくする。
前記制御手段は、前記ステアリングホイールの回転角度が同じであるとしても、前記車速が所定車速よりも大きい場合には当該車速が大きくなるに従って前記アシスト力を小さくする
ことを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
前記制御手段は、前記ステアリングホイールの回転角度が同じであるとしても、前記車速が、零と前記所定車速との間の基準車速よりも大きく当該所定車速よりも小さい場合には、当該車速が大きくなるに従って前記アシスト力を大きくする
ことを特徴とする請求項2に記載の電動パワーステアリング装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、実施の形態に係る電動パワーステアリング装置100の概略構成を示す図である。
電動パワーステアリング装置100(以下、単に「ステアリング装置100」と称する場合もある。)は、車両の進行方向を任意に変えるためのかじ取り装置であり、本実施の形態においては車両の一例としての自動車に適用した構成を例示している。
【0010】
ステアリング装置100は、自動車の進行方向を変えるために運転者が操作する車輪(ホイール)状のステアリングホイール(ハンドル)101と、ステアリングホイール101に一体的に設けられたステアリングシャフト102とを備えている。また、ステアリング装置100は、ステアリングシャフト102と自在継手103aを介して連結された上部連結シャフト103と、この上部連結シャフト103と自在継手103bを介して連結された下部連結シャフト108とを備えている。下部連結シャフト108は、ステアリングホイール101の回転に連動して回転する。
【0011】
また、ステアリング装置100は、転動輪としての左右の前輪150のそれぞれに連結されたタイロッド104と、タイロッド104に連結されたラック軸105とを備えている。また、ステアリング装置100は、ラック軸105に形成されたラック歯105aとともにラック・ピニオン機構を構成するピニオン106aを備えている。ピニオン106aは、ピニオンシャフト106の下端部に形成されている。これらラック軸105、ピニオンシャフト106などが、ステアリングホイール101の回転操作力を前輪150の転動力として伝達する伝達機構として機能する。ピニオンシャフト106は、前輪150を転動させるラック軸105に対して、回転することにより前輪150を転動させる駆動力を加える。
【0012】
また、ステアリング装置100は、ピニオンシャフト106を収納するステアリングギヤボックス107を有している。ピニオンシャフト106は、ステアリングギヤボックス107内にてトーションバー112を介して下部連結シャフト108と連結されている。そして、ステアリングギヤボックス107の内部には、下部連結シャフト108とピニオンシャフト106との相対回転角度に基づいて、言い換えればトーションバー112の捩れ量に基づいて、ステアリングホイール101に加えられた操舵トルクTを検出する検出手段の一例としてのトルクセンサ109が設けられている。
【0013】
また、ステアリング装置100は、ステアリングギヤボックス107に支持された電動モータ110と、電動モータ110の駆動力を減速してピニオンシャフト106に伝達する減速機構111とを有している。減速機構111は、例えば、ピニオンシャフト106に固定されたウォームホイール(不図示)と、電動モータ110の出力軸に固定されたウォームギヤ(不図示)などから構成される。電動モータ110は、ピニオンシャフト106に回転駆動力を加えることにより、ラック軸105に前輪150を転動させる駆動力を加える。本実施の形態に係る電動モータ110は、電動モータ110の回転角度を検出するレゾルバ120を有する3相ブラシレスモータである。
【0014】
また、ステアリング装置100は、電動モータ110の作動を制御する制御手段の一例としての制御装置10を備えている。制御装置10には、上述したトルクセンサ109からの出力信号が入力される。また、制御装置10には、自動車に搭載される各種の機器を制御するための信号を流す通信を行うネットワーク(CAN)を介して、自動車の移動速度である車速Vcを検出する車速センサ170などからの出力信号が入力される。
【0015】
以上のように構成されたステアリング装置100は、トルクセンサ109が検出した検出トルクに基づいて電動モータ110を駆動し、電動モータ110の発生トルクをピニオンシャフト106に伝達する。これにより、電動モータ110の発生トルクが、ステアリングホイール101に加える運転者の操舵力をアシストする。
【0016】
次に、制御装置10について説明する。
図2は、制御装置10の概略構成図である。
制御装置10は、CPU、ROM、RAM、EEPROM(Electrically Erasable & Programmable Read Only Memory)等からなる算術論理演算回路である。
制御装置10には、上述したトルクセンサ109にて検出された操舵トルクTが出力信号に変換されたトルク信号Tdと、車速センサ170にて検出された車速Vcが出力信号に変換された車速信号v、レゾルバ120からの電動モータ110のモータ回転角度θに応じた出力信号である回転角度信号θs、などが入力される。
【0017】
そして、制御装置10は、トルク信号Td、車速信号vなどに基づいて電動モータ110が供給するのに必要となる目標電流Itを算出(設定)する目標電流算出部20と、目標電流算出部20が算出した目標電流Itに基づいてフィードバック制御などを行う制御部30と、を備えている。また、制御装置10は、電動モータ110のモータ回転角度θを算出するモータ回転角度算出部71と、モータ回転角度算出部71にて算出されたモータ回転角度θに基づいて、モータ回転速度Nmを算出するモータ回転速度算出部72と、ステアリングホイール101の回転角度である操舵角を算出する操舵角算出部73と、を備えている。
【0018】
次に、目標電流算出部20について詳述する。
図3は、目標電流算出部20の概略構成図である。
目標電流算出部20は、目標電流Itを設定する上で基準となるベース電流Ibを算出するベース電流算出部21と、電動モータ110の慣性モーメントを打ち消すためのイナーシャ補償電流Isを算出するイナーシャ補償電流算出部22と、モータの回転を制限するダンパー補償電流Idを算出するダンパー補償電流算出部23とを備えている。また、目標電流算出部20は、ベース電流算出部21、イナーシャ補償電流算出部22、ダンパー補償電流算出部23にて算出された値に基づいて仮の目標電流である仮目標電流Itfを決定する仮目標電流決定部25を備えている。また、目標電流算出部20は、トルクセンサ109にて検出された操舵トルクTの位相を補償する位相補償部26を備えている。
【0019】
また、目標電流算出部20は、トルクセンサ109の故障を検出するセンサ故障検出部27と、センサ故障検出部27がトルクセンサ109の故障を検出した場合に電動モータ110に供給する目標電流Itの基となる電流を算出するセンサ故障時電流決定部28と、を備えている。また、目標電流算出部20は、最終的に電動モータ110に供給する目標電流Itを決定する最終目標電流決定部29を備えている。
なお、目標電流算出部20には、トルク信号Td、車速信号v、モータ回転速度信号Nmsなどが入力される。
【0020】
図4は、操舵トルクTおよび車速Vcとベース電流Ibとの対応を示す制御マップの概略図である。
ベース電流算出部21は、位相補償部26にてトルク信号Tdが位相補償されたトルク信号Tsと、車速センサ170からの車速信号vとに基づいてベース電流Ibを算出する。言い換えれば、ベース電流算出部21は、位相補償部26にて位相補償された操舵トルクTと、車速Vcとに応じたベース電流Ibを算出する。なお、ベース電流算出部21は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、位相補償された操舵トルクT(トルク信号Ts)および車速Vc(車速信号v)とベース電流Ibとの対応を示す
図4に例示した制御マップに、操舵トルクTおよび車速Vcを代入することによりベース電流Ibを算出する。
【0021】
イナーシャ補償電流算出部22は、位相補償部26にてトルク信号Tdが位相補償されたトルク信号Ts、車速信号vに基づいてイナーシャ補償電流Isを算出する。言い換えれば、イナーシャ補償電流算出部22は、位相補償部26にて位相補償された操舵トルクTと、車速Vcとに応じたイナーシャ補償電流Isを算出する。なお、イナーシャ補償電流算出部22は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、位相補償された操舵トルクT(トルク信号Ts)および車速Vc(車速信号v)とイナーシャ補償電流Isとの対応を示す制御マップに、位相補償された操舵トルクTおよび車速Vcを代入することによりイナーシャ補償電流Isを算出する。
【0022】
ダンパー補償電流算出部23は、位相補償部26にてトルク信号Tdが位相補償されたトルク信号Ts、車速信号v、モータ回転速度信号Nmsなどに基づいてダンパー補償電流Idを算出する。言い換えれば、ダンパー補償電流算出部23は、位相補償部26にて位相補償された操舵トルクTと、車速Vcと、モータ回転速度Nmに応じたダンパー補償電流Idを算出する。なお、ダンパー補償電流算出部23は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、位相補償された操舵トルクT(トルク信号Ts)、車速Vc(車速信号v)およびモータ回転速度Nm(モータ回転速度信号Nms)と、ダンパー補償電流Idとの対応を示す制御マップに、位相補償された操舵トルクT、車速Vcおよびモータ回転速度Nmを代入することによりダンパー補償電流Idを算出する。
【0023】
仮目標電流決定部25は、ベース電流算出部21にて算出されたベース電流Ib、イナーシャ補償電流算出部22にて算出されたイナーシャ補償電流Isおよびダンパー補償電流算出部23にて算出されたダンパー補償電流Idに基づいて仮目標電流Itfを決定する。仮目標電流決定部25は、例えば、ベース電流Ibに、イナーシャ補償電流Isを加算するとともにダンパー補償電流Idを減算して得た電流を仮目標電流Itfとして決定する。
【0024】
センサ故障検出部27は、例えば、トルクセンサ109からの出力が零(V)に固定される、あるいは0〜5(V)以外の電圧が出力される等の異常を検出したときにトルクセンサ109が故障したと判定し、故障した旨を最終目標電流決定部29に出力する。
センサ故障時電流決定部28については後で詳述する。
【0025】
最終目標電流決定部29は、センサ故障検出部27が故障と判定していない場合(故障した旨の信号を取得していない場合)には、仮目標電流決定部25にて決定された仮目標電流Itfを最終的な目標電流Itとして決定する。他方、センサ故障検出部27が故障と判定した場合(故障した旨の信号を取得した場合)には、センサ故障時電流決定部28にて決定されたセンサ故障時電流Ieを最終的な目標電流Itとして決定する。
【0026】
ここで、トーションバー112の捩れ量が零の状態を中立状態(中立位置)とし、中立状態(中立位置)からのステアリングホイール101の右回転時におけるステアリングホイール101(下部連結シャフト108)とピニオンシャフト106との相対回転角度が変化する方向(相対回転角度が生じる方向)をプラス(操舵トルクTがプラス)とする。他方、中立状態からのステアリングホイール101の左回転時におけるステアリングホイール101(下部連結シャフト108)とピニオンシャフト106との相対回転角度が変化する方向(相対回転角度が生じる方向)をマイナス(操舵トルクTがマイナス)とする。このとき、ステアリングホイール101とピニオンシャフト106との相対回転角度が中立状態より右回転方向に捩れている(トーションバー112が右回転方向に捩れている)ときの、トルクセンサ109からの出力値であるトルク信号Tdの符号をプラス、相対回転角度が中立状態より左回転方向に捩れている(トーションバー112が左回転方向に捩れている)ときの、トルクセンサ109からのトルク信号Tdの符号をマイナスとする。
【0027】
そして、トルクセンサ109からのトルク信号Tdの符号がプラスであるときに、電動モータ110を一方の回転方向に回転させるようにベース電流算出部21にてベース電流Ibが算出され、そのベース電流Ibが流れる方向をプラスとする。つまり、
図4に示すように、トルクセンサ109からのトルク信号Tdの符号がプラスで操舵トルクTがプラスのときにベース電流算出部21はプラスのベース電流Ibを算出し、電動モータ110を一方の回転方向に回転させる方向のトルクを発生させる。他方、トルクセンサ109からのトルク信号Tdの符号がマイナスのときにベース電流算出部21はマイナスのベース電流Ibを算出し、電動モータ110を他方の回転方向に回転させる方向のトルクを発生させる。
【0028】
次に、制御部30について詳述する。
図5は、制御部30の概略構成図である。
制御部30は、
図5に示すように、電動モータ110の作動を制御するモータ駆動制御部31と、電動モータ110を駆動させるモータ駆動部32と、電動モータ110に実際に流れる実電流Imを検出するモータ電流検出部33とを有している。また、制御部30は、モータ電流検出部33が検出した実電流Imとモータ角度算出部71で算出されたモータ回転角度θとに基づいてフィードバック電流Ifを算出するフィードバック電流算出部38を有している。
【0029】
モータ駆動制御部31は、目標電流算出部20にて最終的に決定された目標電流Itと、フィードバック電流算出部38にて算出されたフィードバック電流Ifとの偏差に基づいてフィードバック制御を行うフィードバック(F/B)制御部40と、電動モータ110をPWM駆動するためのPWM(パルス幅変調)信号を生成するPWM信号生成部60とを有している。
【0030】
フィードバック制御部40は、目標電流算出部20にて最終的に決定された目標電流Itとフィードバック電流算出部38にて算出されたフィードバック電流Ifとの偏差を求める偏差演算部41と、その偏差がゼロとなるようにフィードバック処理を行うフィードバック(F/B)処理部42とを有している。
【0031】
フィードバック(F/B)処理部42は、目標電流Itとフィードバック電流Ifとが一致するようにフィードバック制御を行うものであり、例えば、偏差演算部41にて算出された偏差に対して、比例要素で比例処理し、積分要素で積分処理し、加算演算部でこれらの値を加算する。
PWM信号生成部60は、フィードバック制御部40からの出力値とモータ回転角度算出部71が算出したモータ回転角度θとに基づいて電動モータ110をPWM(パルス幅変調)駆動するためのPWM信号を生成し、生成したPWM信号を出力する。
【0032】
モータ駆動部32は、所謂インバータであり、例えば、スイッチング素子として6個の独立したトランジスタ(FET)を備え、6個の内の3個のトランジスタは電源の正極側ラインと各相の電気コイルとの間に接続され、他の3個のトランジスタは各相の電気コイルと電源の負極側(アース)ラインと接続されている。そして、6個の中から選択した2個のトランジスタのゲートを駆動してこれらのトランジスタをスイッチング動作させることにより、電動モータ110の駆動を制御する。
【0033】
モータ電流検出部33は、モータ駆動部32に接続されたシャント抵抗の両端に生じる電圧から電動モータ110に流れる実電流Imの値を検出する。
フィードバック電流算出部38は、予めROMに記憶しておいた演算式、モータ電流検出部33が検出した実電流Im、およびモータ回転角度算出部71が算出したモータ回転角度θに基づいてフィードバック電流Ifを算出する。
【0034】
モータ回転角度算出部71は、レゾルバ120の出力信号に基づいてモータ回転角度θを算出する。
モータ回転速度算出部72(
図2参照)は、モータ回転角度算出部71が算出したモータ回転角度θに基づいて電動モータ110のモータ回転速度Nmを算出し、算出したモータ回転速度Nmが出力信号に変換されたモータ回転速度信号Nmsを出力する。
操舵角算出部73(
図2参照)は、ステアリングホイール101、減速機構111などが機械的に連結されているためにステアリングホイール101の回転角度(操舵角)と電動モータ110のモータ回転角度θとの間に相関関係があることに鑑み、モータ回転角度算出部71にて算出されたモータ回転角度θに基づいて操舵角を算出する。操舵角算出部73は、例えば、モータ回転角度算出部71にて定期的(例えば1ミリ秒毎)に算出されたモータ回転角度θの前回値と今回値との差分の積算値に基づいて操舵角を算出する。
【0035】
ここで、ステアリングホイール101が零度から右回転されたときの操舵角の符号をプラス、左回転されたときの操舵角の符号をマイナスとする。また、ステアリングホイール101と機械的に連結されている電動モータ110の回転方向の符号を、ステアリングホイール101が右回転されたときの電動モータ110の回転方向(上述した一方の回転方向)をプラス、ステアリングホイール101が左回転されたときの電動モータ110の回転方向(上述した他方の回転方向)をマイナスとする。
【0036】
次に、センサ故障時電流決定部28について詳述する。
図6は、センサ故障時電流決定部28の概略構成図である。
センサ故障時電流決定部28は、操舵角算出部73にて算出された算出操舵角θscに基づいて後述する制御マップに代入するための操舵角である代入用操舵角θseを算出する代入操舵角算出部281と、代入操舵角算出部281が算出した代入用操舵角θseに基づいてセンサ故障時電流Ieのベースとなるセンサ故障時ベース電流Iebを算出するセンサ故障時ベース電流算出部282と、を備えている。
【0037】
また、センサ故障時電流決定部28は、ステアリングホイール101が切り戻されている場合のセンサ故障時電流Ieが小さくなるように補正するための戻り補正係数Krを設定する戻り補正係数設定部283と、センサ故障時ベース電流算出部282が算出したセンサ故障時ベース電流Iebと戻り補正係数設定部283が設定した戻り補正係数Krとを乗算することにより戻り補正後ベース電流Iebrを算出する戻り補正係数乗算部284と、を備えている。
【0038】
また、センサ故障時電流決定部28は、モータ回転速度Nmに応じた回転速度補正係数Kmを設定する回転速度補正係数設定部285と、戻り補正係数乗算部284にて算出された戻り補正後ベース電流Iebrと回転速度補正係数設定部285が設定した回転速度補正係数Kmとを乗算することにより回転速度補正後ベース電流Iebvを算出する回転速度補正係数乗算部286と、を備えている。
【0039】
また、センサ故障時電流決定部28は、回転速度補正係数乗算部286にて算出された回転速度補正後ベース電流Iebvに対してリミット処理を行うリミット処理部287と、リミット処理部287にてリミット処理後の回転速度補正後ベース電流Iebvであるリミット処理後ベース電流Ilに対して符号化処理を行う符号化処理部288と、を備えている。
【0040】
また、センサ故障時電流決定部28は、符号化処理部288にて符号化処理が施されたリミット処理後ベース電流Ilを、車速Vcに基づいてフェード処理を施すフェード処理部289を備えている。
【0041】
次に、センサ故障時電流決定部28を構成する要素について詳述する。
代入操舵角算出部281は、零度から、操舵角算出部73にて定期的(例えば1ミリ秒毎)に算出された算出操舵角θscの前回値と今回値との差分を積算することにより零度からの回転角度を算出し、この算出値を代入用操舵角θseとする。そして、所定のリセット条件が成立したら代入用操舵角θseを零にリセットする。リセット条件としては、ステアリングホイール101の回転角度(操舵角)の差分が零度となったことを把握できる条件であればよく、例えば、目標電流算出部20にて設定された目標電流Itあるいはモータ電流検出部33が検出した実電流Imが零又は零値近傍となったとき、を例示することができる。
【0042】
図7は、センサ故障時ベース電流算出部282の概略構成図である。
センサ故障時ベース電流算出部282は、代入操舵角算出部281にて算出された代入用操舵角θseの絶対値化を行う絶対値化部282aと、絶対値化部282aにて絶対値化された絶対値化後操舵角|θse|に基づいて仮のセンサ故障時ベース電流Iebである仮センサ故障時ベース電流Iebaを算出する仮ベース電流算出部282bと、を備えている。また、センサ故障時ベース電流算出部282は、車速信号vに基づいて車速補正係数Kvを設定する車速補正係数設定部282cと、仮ベース電流算出部282bにて算出された仮センサ故障時ベース電流Iebaと車速補正係数設定部282cにて設定された車速補正係数Kvとを乗算することによりセンサ故障時ベース電流Iebを算出する車速補正係数乗算部282dと、を備えている。センサ故障時ベース電流算出部282は、定期的(例えば1ミリ秒毎)にセンサ故障時ベース電流Iebを算出する。
【0043】
絶対値化部282aは、プラス又はマイナスの符号を持つ代入用操舵角θseの絶対値を算出する。絶対値化部282aにて算出された値が絶対値化後操舵角|θse|である。
【0044】
図8は、絶対値化後操舵角|θse|と仮センサ故障時ベース電流Iebaとの対応を示す制御マップの概略図である。
仮ベース電流算出部282bは、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、絶対値化後操舵角|θse|と仮センサ故障時ベース電流Iebaとの対応を示す
図8に例示した制御マップに、絶対値化後操舵角|θse|を代入することにより仮センサ故障時ベース電流Iebaを算出する。
【0045】
図9は、車速補正係数Kvと車速Vcとの対応を示す制御マップの概略図である。
車速補正係数設定部282cは、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、車速補正係数Kvと車速Vcとの対応を示す
図9に例示した制御マップに、車速Vcを代入することにより車速補正係数Kvを算出する。
図9に例示した制御マップにおいては、車速Vcが零(km/h)であるときの車速補正係数Kvを1、車速Vcが略1(km/h)であるときの車速補正係数Kvを略0.5としている。また、車速Vcが略5(km/h)であるときの車速補正係数Kvを略0.3とし、車速Vcが略1から略5(km/h)に変化する間に車速補正係数Kvを徐々に低下させている。また、車速Vcが略40(km/h)であるときの車速補正係数Kvを略0.4とし、車速Vcが略5から略40(km/h)に変化する間に車速補正係数Kvを徐々に上昇させている。そして、車速Vcが略40(km/h)から大きくなるに従って車速補正係数Kvを徐々に低下させている。
【0046】
車速補正係数乗算部282dは、仮ベース電流算出部282bにて算出された仮センサ故障時ベース電流Iebaと車速補正係数設定部282cにて設定された車速補正係数Kvとを乗算することによりセンサ故障時ベース電流Iebを算出し、算出したセンサ故障時ベース電流Iebを戻り補正係数乗算部284に出力する。
【0047】
図10は、戻り補正係数設定部283の概略構成図である。
戻り補正係数設定部283は、操舵角算出部73にて算出された算出操舵角θscの絶対値化を行う絶対値化部283aと、絶対値化部283aにて絶対値化された絶対値化後操舵角|θsc|に基づいて仮の戻り補正係数Krである仮戻り補正係数Kraを算出する仮戻り補正係数算出部283bと、を備えている。また、戻り補正係数設定部283は、車速Vcに応じて、仮戻り補正係数算出部283bが算出した仮戻り補正係数Kraか予め定められた値かを選択する第1選択部283cを備えている。また、戻り補正係数設定部283は、操舵角算出部73にて算出された算出操舵角θscと代入操舵角算出部281にて算出された代入用操舵角θseとに基づいてステアリングホイール101が切り込まれているのか切り戻されているかを判定する判定部283dを備えている。また、戻り補正係数設定部283は、判定部283dが判定した操舵状況に応じて、第1選択部283cが選択した値か予め定められた値かを選択する第2選択部283eを備えている。
【0048】
絶対値化部283aは、プラス又はマイナスの符号を持つ算出操舵角θscの絶対値を算出する。絶対値化部283aにて算出された値が絶対値化後操舵角|θsc|である。
【0049】
図11は、絶対値化後操舵角|θsc|と仮戻り補正係数Kraとの対応を示す制御マップの概略図である。
仮戻り補正係数算出部283bは、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、絶対値化後操舵角|θsc|と仮戻り補正係数Kraとの対応を示す
図11に例示した制御マップに、絶対値化後操舵角|θsc|を代入することにより仮戻り補正係数Kraを算出する。
図11に示した制御マップにおいては、絶対値化後操舵角|θsc|が予め定められた下側操舵角θd以下である場合には仮戻り補正係数Kraは零となり、絶対値化後操舵角|θsc|が予め定められた上側操舵角θu以上である場合には仮戻り補正係数Kraは1となる。そして、絶対値化後操舵角|θsc|が下側操舵角θdから上側操舵角θuの間では、仮戻り補正係数Kraは零から1まで徐々に大きくなる。
【0050】
第1選択部283cは、車速Vcが予め定められた所定車速Vcd以上である場合には仮戻り補正係数算出部283bが算出した仮戻り補正係数Kraを選択し、所定車速Vcd未満である場合には予め定められた値である1を選択する。なお、所定車速Vcdは、1km/hであることを例示することができる。
【0051】
判定部283dは、操舵角算出部73にて算出された算出操舵角θscと代入操舵角算出部281にて算出された代入用操舵角θseとを乗算することにより得た乗算値(=θsc×θse)が零以上である場合は切り込まれていると判定し、乗算値が零未満である場合は切り戻されていると判定する。
【0052】
第2選択部283eは、判定部283dが切り込まれていると判定した場合には予め定められた値である1を選択し、判定部283dが切り戻されていると判定した場合には第1選択部283cが選択した仮戻り補正係数Kraを選択する。そして、第2選択部283eは、選択した値を戻り補正係数Krとして出力する。
【0053】
以上説明した構成により、戻り補正係数設定部283は、定期的(例えば1ミリ秒毎)に戻り補正係数Krを設定する。そして、戻り補正係数設定部283は、ステアリングホイール101が切り込まれている場合には、戻り補正係数Krを1に設定する。また、戻り補正係数設定部283は、ステアリングホイール101が切り戻されている場合であっても、車速Vcが所定車速Vcd未満である場合には戻り補正係数Krを1に設定する。また、戻り補正係数設定部283は、ステアリングホイール101が切り戻されており、かつ、車速Vcが所定車速Vcd以上である場合に、絶対値化後操舵角|θsc|が上側操舵角θu以上である場合には戻り補正係数Krを1に設定する。他方、戻り補正係数設定部283は、ステアリングホイール101が切り戻されており、かつ、車速Vcが所定車速Vcd以上である場合に、絶対値化後操舵角|θsc|が上側操舵角θu未満である場合には絶対値化後操舵角|θsc|に応じた戻り補正係数Krを設定する。
【0054】
回転速度補正係数設定部285は、モータ回転速度Nmに応じた回転速度補正係数Kmを設定する。
図12は、モータ回転速度Nmと回転速度補正係数Kmとの対応を示す制御マップの概略図である。
回転速度補正係数設定部285は、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、モータ回転速度Nmと回転速度補正係数Kmとの対応を示す
図12に例示した制御マップに、モータ回転速度Nmを代入することにより回転速度補正係数Kmを算出する。
図12に示した制御マップにおいては、モータ回転速度Nmが予め定められた回転速度Nm0以下である場合には回転速度補正係数Kmは1であり、モータ回転速度Nmが回転速度Nm0より大きい場合には、回転速度補正係数Kmはモータ回転速度Nmが大きくなるに従って1から零まで徐々に減少する値となる。
【0055】
図13は、車速Vcと車速補正係数Kcとの対応を示す制御マップの概略図である。
回転速度補正係数設定部285は、
図12に示した制御マップに代入するモータ回転速度Nmを、
図13に示した制御マップと車速Vcとに基づいて設定した車速補正係数Kcを用いて補正する(
図12に示した制御マップに代入するモータ回転速度Nm=モータ回転速度算出部72にて算出されたモータ回転速度Nm×Kc)。
図13に例示した制御マップにおいては、車速Vcが零から第1車速V1であるときの車速補正係数Kcを1、車速Vcが第2車速V2よりも大きい場合には車速補正係数Kcを略0.3としている。また、車速Vcが第1車速V1から第2車速V2まで大きくなる間に車速補正係数Kcが1から0.3まで徐々に小さくなる値に設定している。なお、第1車速V1は略15(km/h)、第2車速V2は略35(km/h)であることを例示することができる。
【0056】
以上説明した構成により、回転速度補正係数設定部285は、定期的(例えば1ミリ秒毎)に回転速度補正係数Kmを設定する。そして、回転速度補正係数設定部285は、モータ回転速度Nmが大きい場合、言い換えればステアリングホイール101の操舵角速度が大きい場合には、切り込み過ぎを抑制するべく回転速度補正係数Kmを1よりも小さい値に設定する。ただし、車速Vcが大きい場合の危険回避に必要なアシスト力を確保するために、車速Vcが第2車速V2よりも大きい場合には
図12に示した制御マップに代入するモータ回転速度Nmが小さくなるように補正する。他方、車速Vcが第1車速V1よりも小さい場合には、ステアリング取られを防止するために、
図12に示した制御マップに代入するモータ回転速度Nmを小さくする補正を行わない。
【0057】
リミット処理部287は、回転速度補正係数乗算部286にて算出された回転速度補正後ベース電流Iebvが予め定められた上限値よりも大きい場合には、上限値をリミット処理後ベース電流Ilとして出力し、算出された回転速度補正後ベース電流Iebvが上限値以下の場合には、算出された回転速度補正後ベース電流Iebvをリミット処理後ベース電流Ilとして出力する。
【0058】
符号化処理部288は、代入操舵角算出部281にて算出された代入用操舵角θseの符号がプラスである場合にはリミット処理部287から出力されたリミット処理後ベース電流Ilにプラスの符号を付す。他方、符号化処理部288は、代入操舵角算出部281にて算出された代入用操舵角θseの符号がマイナスである場合にはリミット処理部287から出力されたリミット処理後ベース電流Ilにマイナスの符号を付す。
【0059】
なお、上述した戻り補正係数乗算部284、回転速度補正係数乗算部286、リミット処理部287および符号化処理部288は、定期的(例えば1ミリ秒毎)に各処理を行う。ゆえに、符号化処理部288は、定期的(例えば1ミリ秒毎)に、符号が付されたリミット処理後ベース電流Ilをフェード処理部289に出力する。
【0060】
フェード処理部289は、定期的(例えば1ミリ秒毎)に行う処理において、センサ故障検出部27がトルクセンサ109の故障を検出した場合には、車速Vcに基づいて決定した値をセンサ故障時電流Ieと決定し、トルクセンサ109の故障を検出していない場合には、センサ故障時電流Ieを零と決定する。
そして、フェード処理部289は、センサ故障検出部27がトルクセンサ109の故障を検出し、車速Vcに基づいてセンサ故障時電流Ieを決定する際には、車速Vcが、
図9に例示した制御マップに示したように車速補正係数Kvが大きく変化する零から略1(km/h)の間以外の大きさ(1(km/h)よりも大きな速度)である場合には、センサ故障時電流Ieを、符号化処理部288にて符号が付された回転速度補正後ベース電流Iebvに決定する。他方、車速Vcが1(km/h)以下の場合には、前回のセンサ故障時電流Ieから今回符号化処理部288にて符号が付された回転速度補正後ベース電流Iebvまで所定期間かけて徐変させる。例えば、車速Vcが1(km/h)から減速している場合には、1秒間で、前回のセンサ故障時電流Ieから今回符号化処理部288にて符号が付された回転速度補正後ベース電流Iebvに変化する値を、定期的(例えば1ミリ秒毎)にセンサ故障時電流Ieとして決定する。一方、車速Vcが零から加速している場合には、0.5秒間で、前回のセンサ故障時電流Ieから今回符号化処理部288にて符号が付された回転速度補正後ベース電流Iebvに変化する値を、定期的(例えば1ミリ秒毎)にセンサ故障時電流Ieとして決定する。
【0061】
以上のように構成されたステアリング装置100によれば、トルクセンサ109に故障が生じてトルクセンサ109にて検出した操舵トルクTに基づいて決定した目標電流Itをアシスト電流とする通常のアシスト制御を行うことができない場合にも、レゾルバ120からの出力値に基づいて故障時のアシスト制御を行うことができる。
故障時のアシスト制御を行う際、路面の摩擦力が大きい停車時には、
図9に例示した制御マップに基づいて車速補正係数Kvが1に設定されるので、車速Vcが零よりも大きい場合よりもアシスト力が大きくなる。その結果、故障時のアシスト制御であっても駐停車時の取り回し性は確保される。他方、車速Vcが略1(km/h)よりも大きくなり動摩擦力の領域に移った場合には、
図9に例示した制御マップに基づいて車速補正係数Kvが0.5以下に設定され、アシスト力が急激に弱められるのでアシスト過多にならないように調整される。さらに、車両の旋回が行われる、車速Vcが略10(km/h)より大きな領域では、操舵力が増加する傾向にあるが、この速度では車速補正係数Kvが略5(km/h)近辺よりも高められるのでアシスト力が増加する。ただし、車速Vcが略40(km/h)より大きい領域では車速補正係数Kvが小さく設定されるので、アシスト力が弱められる。これにより、高車速時の車両のふらつきが抑制される。
さらに、車速Vcが零から略1(km/h)の間で車速補正係数Kvが大きく変化する構成としても、フェード処理部289によりアシスト力が徐変されるので、アシスト力が急激に変化することに起因して操舵フィーリングが悪化することが抑制される。
【0062】
また、故障時のアシスト制御における切り戻し時においては、回転速度補正係数設定部285が設定する回転速度補正係数Kmにより、ステアリングホイール101の操舵角速度が大きい場合の切り込み過ぎが抑制される。ただし、車速Vcが第2車速V2よりも大きい場合には回転速度補正係数Kmが大きくなるように設定されるので、車速Vcが大きい場合の危険回避に必要なアシスト力が確保される。また、車速Vcが第1車速V1よりも小さい場合には、回転速度補正係数Kmが小さくなるように設定されるので、低μ路低速走行時においてもステアリング取られが抑制される。また、停車時のステアリング引っ掛かりが抑制される。
【0063】
このように、本実施の形態に係るステアリング装置100によれば、故障時のアシスト制御時においても、車両の使用状況に応じたアシスト力を付与することができる。つまり、危険回避のためのアシスト力の付与を実現することができるとともに、一般走行のためのアシスト力の付与も実現することができる。その結果、トルクセンサ109に故障が生じた後も自宅または最寄りのディーラーまで行くことができ、運転者の安全を確保することができる。
【0064】
なお、上述した実施の形態においては、フェード処理部289において車速Vcに応じてセンサ故障時電流決定部28から出力するセンサ故障時電流Ieをフェードしているが他の部位でもフェードするようにしてもよい。例えば、リミット処理部287の前段でリミット処理部287に入力される回転速度補正後ベース電流Iebvをフェードするようにしてもよい。これにより、アシスト力が急激に変化することに起因して操舵フィーリングが悪化することが抑制される。
【0065】
また、上述した実施の形態においては、レゾルバ120からの出力信号に基づいて操舵角算出部73が算出したステアリングホイール101の回転角度(操舵角)を用いてセンサ故障時電流Ieを決定しているが特にかかる態様に限定されない。例えば、ステアリングホイール101の回転角度を検出する操舵角センサを備え、操舵角センサが検出した操舵角に基づいてセンサ故障時電流Ieを決定してもよい。