特開2015-16844(P2015-16844A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本車輌製造株式会社の特許一覧

<>
  • 特開2015016844-鉄道車両の車内構造 図000003
  • 特開2015016844-鉄道車両の車内構造 図000004
  • 特開2015016844-鉄道車両の車内構造 図000005
  • 特開2015016844-鉄道車両の車内構造 図000006
  • 特開2015016844-鉄道車両の車内構造 図000007
  • 特開2015016844-鉄道車両の車内構造 図000008
  • 特開2015016844-鉄道車両の車内構造 図000009
  • 特開2015016844-鉄道車両の車内構造 図000010
  • 特開2015016844-鉄道車両の車内構造 図000011
  • 特開2015016844-鉄道車両の車内構造 図000012
  • 特開2015016844-鉄道車両の車内構造 図000013
  • 特開2015016844-鉄道車両の車内構造 図000014
  • 特開2015016844-鉄道車両の車内構造 図000015
  • 特開2015016844-鉄道車両の車内構造 図000016
  • 特開2015016844-鉄道車両の車内構造 図000017
  • 特開2015016844-鉄道車両の車内構造 図000018
  • 特開2015016844-鉄道車両の車内構造 図000019
  • 特開2015016844-鉄道車両の車内構造 図000020
  • 特開2015016844-鉄道車両の車内構造 図000021
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-16844(P2015-16844A)
(43)【公開日】2015年1月29日
(54)【発明の名称】鉄道車両の車内構造
(51)【国際特許分類】
   B61D 17/18 20060101AFI20141226BHJP
   B61D 49/00 20060101ALI20141226BHJP
【FI】
   B61D17/18
   B61D49/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-147155(P2013-147155)
(22)【出願日】2013年7月15日
(71)【出願人】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】特許業務法人コスモス特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 修
(57)【要約】
【課題】台車の上側に位置する客室内で台車から生じる低周波数の車内騒音を効果的に低減できる鉄道車両の車内構造を提供すること。
【解決手段】鉄道車両の車内構造10は、客室20とデッキ30とを仕切る仕切壁構造40を備え、仕切壁構造40は、対向して起立する客室側仕切パネル50とデッキ側仕切パネル60を有し、客室側仕切パネル50とデッキ側仕切パネル60との間の戸袋41で仕切扉42が収容可能になっている。客室側仕切パネル50では、客室表面板51と客室裏面板52との間が吸音材53で構成され、客室表面板51及び客室裏面板52は、音波に対する透過率が高くなるように構成されている。デッキ側仕切パネル60では、デッキ表面板61及びデッキ裏面板62との間が吸音材63で構成され、デッキ表面板61は音波に対する反射率及び遮音性が高い板材で構成され、デッキ裏面板62は音波に対する透過率が高くなるように構成されている。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の長手方向の中央部に位置する客室と、
車体の長手方向の端部に位置するデッキと、
前記客室と前記デッキとを仕切る仕切壁構造とを備え、
前記仕切壁構造は、車体の幅方向の一方側で対向して起立する客室側仕切パネル及びデッキ側仕切パネルを有し、前記客室側仕切パネルと前記デッキ側仕切パネルとの間の戸袋で仕切扉を収容する鉄道車両の車内構造において、
前記客室側仕切パネルでは、客室表面と客室裏面との間が吸音材で構成され、前記客室表面及び前記客室裏面は、音波に対する透過率が高くなるように構成されていて、
前記デッキ側仕切パネルでは、デッキ表面とデッキ裏面との間が吸音材で構成され、前記デッキ表面は音波に対する反射率及び遮音性が高い板材で構成され、前記デッキ裏面は音波に対する透過率が高くなるように構成されていることを特徴とする鉄道車両の車内構造。
【請求項2】
請求項1に記載された鉄道車両の車内構造において、
前記客室側仕切パネルの吸音材及び前記デッキ側仕切パネルの吸音材は、発泡アルミで構成され、
前記客室側仕切パネルの客室表面から前記デッキ側仕切パネルのデッキ表面までの距離と、前記客室側仕切パネルの吸音材の厚さと、前記デッキ側仕切パネルの吸音材の厚さは、定常走行状態で台車の主電動機から生じる低周波領域の音波を吸音できるように、設定されていることを特徴とする鉄道車両の車内構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載された鉄道車両の車内構造において、
前記客室側仕切パネルの客室表面は、通気性を有する布で覆われていることを特徴とする鉄道車両の車内構造。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載された鉄道車両の車内構造において、
前記客室側仕切パネルは、前記客室表面及び前記客室裏面が板材で構成され、前記客室表面及び前記客室裏面で吸音材を挟むサンドイッチ構造になっていて、
前記デッキ側仕切パネルは、前記デッキ表面及び前記デッキ裏面が板材で構成され、前記デッキ表面及び前記デッキ裏面で吸音材を挟むサンドイッチ構造になっていることを特徴とする鉄道車両の車内構造。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れかに記載された鉄道車両の車内構造において、
前記仕切壁構造は、車体の幅方向の他方側で対向して起立する第2客室側仕切パネル及び第2デッキ側仕切パネルを有し、
前記第2客室側仕切パネルでは、客室表面と客室裏面との間が吸音材で構成され、前記客室表面及び前記客室裏面は音波に対する透過率が高くなるように構成されていて、
前記第2デッキ側仕切パネルでは、デッキ表面とデッキ裏面との間が吸音材で構成され、前記デッキ表面は音波に対する反射率及び遮音性が高い板材で構成され、前記デッキ裏面は音波に対する透過率が高くなるように構成されていて、
前記第2客室側仕切パネルの客室裏面と前記第2デッキ側仕切パネルのデッキ裏面との間に、吸音材が配置されていることを特徴とする鉄道車両の車内構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の車内構造に関し、特に、台車の上側又はパンタグラフ等の屋根上構造物の下側に位置する客室内で、台車又は屋根上構造物から生じる低周波数の車内騒音を低減する鉄道車両の車内構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高速鉄道車両において快適な客室空間の提供が求められ、車内の静粛性を確保することが重要な課題に挙げられている。車内騒音を低減する一般的な技術として、壁面や板材に吸音材を取り付ける方法がある。この方法では、騒音が吸音材を通過する際に、吸音材の分子が振動し、空気振動によるエネルギーが熱エネルギーに変換される。これにより、騒音のエネルギーが減少し、騒音が吸音材によって低減するようになっている。
【0003】
吸音材を用いて車内騒音を低減する従来技術は、例えば下記特許文献1に記載されている。ここで、下記特許文献1に記載された従来技術を「従来技術1」と呼ぶことにする。従来技術1では、図16に示すように、台車の内側である車内取付部101にスペーサ102を介して吸音材である発泡アルミ103が取付けられ、発泡アルミ103と車内取付部101の間に空気層104が形成されている。そして、発泡アルミ103にはパンチングメタル105が重ねられ、そのパンチングメタル105の表面全体が布106で覆われている。従来技術1によれば、パンチングメタル105を透過する騒音を発泡アルミ103で吸音している。また、布106によって表面が滑らかになり、防音構造自らが発生する空力音を低減するようになっている。
【0004】
また、吸音材を用いて車内騒音を低減する別の従来技術もあり、この従来技術を「従来技術2」と呼ぶことにする。従来技術2では、図17に示すように、床下に設けられる空調ダクト111の周りを吸音材112で覆い、その吸音材112の周りを遮音板113で囲んでいる。なお、空調ダクト111は、送風機(図示省略)の回転による駆動音を騒音として伝搬していて、車内騒音の発生源になっている。こうして、従来技術2では、空調ダクト111から生じる騒音が吸音材112を通過する際に吸音(減衰)される。更に、吸音材112を透過した騒音は遮音板113によって反射され、反射した騒音を再び吸音材112で吸音するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−067941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、図18に示すように、台車203の上側に位置する客室220内、即ち客室220の端部220aでは、台車203の車輪206で発生した騒音及び台車203自体の振動に起因した騒音が伝搬し易いため、客室220の中央部220bに比べて車内騒音が大きい特徴がある。また、屋根上構造物であるパンタグラフ207の下側に位置する客室220内でも、風圧によってパンタグラフ207自体が振動したときに生じる騒音(風圧加振による屋根上構造物の固体音)が多く伝搬される。そして、客室220とデッキ230との間に仕切壁構造240があるため、仕切壁構造240付近に位置する座席では、台車203又はパンタグラフ207から伝搬する騒音と仕切壁構造240によって反射した騒音が重なり、車内騒音が特に大きくなる傾向がある。このような騒音を改善する方法として、仕切壁構造240に吸音材を用いて車内騒音を低減することが考えられる。
【0007】
従来の仕切壁構造は、一般的に、図19(A)に示すように、客室側(図19(A)の右側)に客室側仕切パネル250を有し、デッキ側(図19(A)の左側)にデッキ側仕切パネル260を有し、客室側仕切パネル250とデッキ側仕切パネル260との間に仕切扉242を収容する戸袋241を有している。客室側仕切パネル250は、アルミ板である表面板251と裏面板252との間に芯材253を挟んでいて、サンドイッチ構造になっている。デッキ側仕切パネル260も、アルミ板である表面板261と裏面板262との間に芯材263を挟んでいて、サンドイッチ構造になっている。
【0008】
このような従来の仕切壁構造240に対して、上述した従来技術2を適用しようとすると、例えば図19(B)に示す仕切壁構造340が考えられる。図19(B)に示すように、仕切壁構造340の客室側仕切パネル350において、表面板351は、通気孔351aによって音波に対する透過率が高くなるように構成される。そして、芯材353が吸音材で構成され、裏面板352は、音波に対する反射率及び遮音性が高い反射板で構成される。これにより、仕切壁構造340に向かって伝搬する騒音は、客室側仕切パネル350の表面板351を透過し、吸音材である芯材353を通過する際に吸音される。更に、芯材353を透過した騒音は裏面板352によって反射され、反射した騒音を再び芯材353で吸音することができる。なお、デッキ側仕切パネル360は、上述したデッキ側仕切パネル260と同様の構成である。
【0009】
しかしながら、上述した仕切壁構造340を車内構造に用いても以下の問題点がある。即ち、車内騒音のうち台車又はパンタグラフ等の屋根上構造物から生じる騒音は、その他の騒音(例えば歯車の噛み合い音)に比べて周波数が低い。このような周波数が低い騒音、つまり波長が長い騒音を客室側仕切パネル350の芯材353(吸音材)によって効果的に吸音するためには、吸音材の厚さを大きくして、騒音が吸音材を通過する距離を大きくする必要がある。しかし、仕切壁構造340の各部材は、構造上その厚さに制約があり、客室側仕切パネル350の芯材353を現状から十分厚くすることは不可能である。こうして、台車又は屋根上構造物から生じる低周波数の車内騒音を効果的に吸音することができなくて、台車の上側又は屋根上構造物の下側に位置する客室内で、車内騒音を効果的に低減できることが求められていた。
【0010】
そこで、本発明は上記した問題点を解決するためになされたものであり、台車の上側又は屋根上構造物の下側に位置する客室内で、台車又屋根上構造物から生じる低周波数の車内騒音を効果的に低減できる鉄道車両の車内構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る鉄道車両の車内構造は、車体の長手方向の中央部に位置する客室と、車体の長手方向の端部に位置するデッキと、前記客室と前記デッキとを仕切る仕切壁構造とを備え、前記仕切壁構造は、車体の幅方向の一方側で対向して起立する客室側仕切パネル及びデッキ側仕切パネルを有し、前記客室側仕切パネルと前記デッキ側仕切パネルとの間の戸袋で仕切扉を収容するものであって、前記客室側仕切パネルでは、客室表面と客室裏面との間が吸音材で構成され、前記客室表面及び前記客室裏面は、音波に対する透過率が高くなるように構成されていて、前記デッキ側仕切パネルでは、デッキ表面とデッキ裏面との間が吸音材で構成され、前記デッキ表面は音波に対する反射率及び遮音性が高い板材で構成され、前記デッキ裏面は音波に対する透過率が高くなるように構成されていることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る鉄道車両の車内構造によれば、台車又はパンタグラフ等の屋根上構造物から生じる低周波数の騒音が、仕切壁構造に向かって伝搬したとき、先ず客室側仕切パネルの客室表面を透過して、客室側仕切パネルの吸音材によって吸音される。次に、この吸音材を透過した騒音は、客室側仕切パネルの客室裏面を透過して、戸袋をデッキ側へ通過する。続いて、戸袋を通過した騒音は、デッキ側仕切パネルのデッキ裏面を透過して、デッキ側仕切パネルの吸音材によって吸音される。そして、この吸音材を透過した騒音は、デッキ側仕切パネルのデッキ表面で反射する。これにより、反射した騒音は、デッキ側仕切パネルの吸音材によって吸音され、デッキ側仕切パネルのデッキ裏面を透過して、戸袋を客室側へ通過する。戸袋を通過した騒音は、客室側仕切パネルの客室裏面を透過し、客室側仕切パネルの吸音材によって吸音される。最後に、吸音材を透過した騒音は、客室側仕切パネルの客室表面を透過して、客室内に向かって伝搬する。
【0013】
こうして、台車又は屋根上構造物から生じる低周波数の騒音が仕切壁構造で反射する際に、吸音材によって4回吸音される。つまり、仕切壁構造の空間を最大限利用して、仕切壁構造の各部材の厚さを従来から大きく変更することなく、騒音が吸音材を通過する距離を大きくすることができる。この結果、台車又は屋根上構造物から生じる低周波数の騒音を仕切壁構造によって効果的に吸音することができ、台車の上側又は屋根上構造物の下側に位置する客室内で、車内騒音を効果的に減少させることができる。
【0014】
また、本発明に係る鉄道車両の車内構造において、前記客室側仕切パネルの吸音材及び前記デッキ側仕切パネルの吸音材は、発泡アルミで構成され、前記客室側仕切パネルの客室表面から前記デッキ側仕切パネルのデッキ表面までの距離と、前記客室側仕切パネルの吸音材の厚さと、前記デッキ側仕切パネルの吸音材の厚さは、定常走行状態で台車の主電動機又は屋根上構造物から生じる低周波領域の音波を吸音できるように、設定されていることが好ましい。ここで、台車の主電動機又は屋根上構造物から生じる音波の低周波領域とは、高速鉄道車両が約270km/hで走行する定常走行状態において、台車の主電動機の回転によって生じる約80Hz〜315Hzの領域、又は風圧によって屋根上構造物自体が振動したときに生じる約100〜315Hzの領域を意味する。
この場合には、吸音材の中で発泡アルミを用いることで、その他の吸音材を用いる場合に比べて、より低い周波数の音波を吸音させることができる。更に、各吸音材の厚さと、客室表面からデッキ側表面までの距離とを考慮して、音波が吸音材及び空気層を通過する距離を調整することで、吸音する周波数領域をより低い周波数領域にコントロールしている。こうして、定常走行状態で台車の主電動機又は屋根上構造物から生じる低周波領域(約80Hz〜315Hz)の騒音を最適に吸音することができる。
【0015】
また、本発明に係る鉄道車両の車内構造において、前記客室側仕切パネルの客室表面は、通気性を有する布で覆われていると良い。
この場合には、客室側仕切パネルの客室表面に通気孔等が形成されていても、布で客室表面を覆うことで意匠性及び触感を向上させることができる。また、通気性を有する布であるため、音波の透過性を阻害することがない。
【0016】
また、本発明に係る鉄道車両の車内構造において、前記客室側仕切パネルは、前記客室表面及び前記客室裏面が板材で構成され、前記客室表面及び前記客室裏面で吸音材を挟むサンドイッチ構造になっていて、前記デッキ側仕切パネルは、前記デッキ表面及び前記デッキ裏面が板材で構成され、前記デッキ表面及び前記デッキ裏面で吸音材を挟むサンドイッチ構造になっていても良い。
この場合には、客室側仕切パネル及びデッキ側仕切パネルを、従来構造であるサンドイッチ構造を維持しつつ構成することができる。即ち、客室側仕切パネル及びデッキ側仕切パネルを従来構造から大きく変更する必要がなくて、従来構造を利用して容易に実施することができる。
【0017】
また、本発明に係る鉄道車両の車内構造において、前記仕切壁構造は、車体の幅方向の他方側で対向して起立する第2客室側仕切パネル及び第2デッキ側仕切パネルを有し、前記第2客室側仕切パネルでは、客室表面と客室裏面との間が吸音材で構成され、前記客室表面及び前記客室裏面は音波に対する透過率が高くなるように構成されていて、前記第2デッキ側仕切パネルでは、デッキ表面とデッキ裏面との間が吸音材で構成され、前記デッキ表面は音波に対する反射率及び遮音性が高い板材で構成され、前記デッキ裏面は音波に対する透過率が高くなるように構成されていて、前記第2客室側仕切パネルの客室裏面と前記第2デッキ側仕切パネルのデッキ裏面との間に、吸音材が配置されていても良い。
この場合には、仕切壁構造において、第2客室側仕切パネル及び第2デッキ側仕切パネルによっても、台車又は屋根上構造物から生じる低周波数の騒音を効果的に吸音することができる。特に、第2客室側仕切パネルの客室裏面と第2デッキ側仕切パネルのデッキ裏面に吸音材が配置されているため、騒音が吸音材を通過する距離を更に大きくすることができ、より低い周波数の騒音に対して効果的に吸音させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の鉄道車両の車内構造によれば、仕切壁構造の空間を最大限利用して、騒音が吸音材を通過する距離を大きくすることができる。このため、仕切壁構造のサイズを従来と同等のサイズを維持しつつ、台車又は屋根上構造物から生じる低周波数の騒音を効果的に吸音することができ、台車の上側又は屋根上構造物の下側に位置する客室内で、車内騒音を効果的に低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】高速鉄道車両を示した図である。
図2】本実施形態の車内構造を模式的に示した平面図である。
図3図2に示したS−S線に沿った断面図である。
図4図3のT部分を拡大して示した図である。
図5図3に示した客室表面板の正面図である。
図6図3に示した客室裏面板の正面図である。
図7図3に示したデッキ表面板の正面図である。
図8図3に示したデッキ裏面板の正面図である。
図9図2に示したU−U線に沿った断面図を拡大した図である。
図10】所定の周波数の音波を吸音する際の吸音材の位置を説明するための図である。
図11】垂直入射吸音率測定法を説明するための図である。
図12】垂直入射吸音率測定結果を示した図である。
図13】本実施形態の仕切壁構造によって騒音が吸音される状態を説明するための図である。
図14】変形実施形態の仕切壁構造を示した図である。
図15】客室側仕切パネルの変形例を示した図である。
図16】吸音材を用いて車内騒音を低減する従来技術1を説明するための図である。
図17】吸音材を用いて車内騒音を低減する従来技術2を説明するための図である。
図18】仕切壁構造付近で生じる車内騒音を説明するための図である。
図19】(A)従来の仕切壁構造を示した図である。(B)従来の仕切壁構造に従来技術2を適用した場合の図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る鉄道車両の車内構造の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、高速鉄道車両1を示した図である。高速鉄道車両1は、図1に示すように、多数編成車両になっていて、1つの車体2には、長手方向の両端部の下側にそれぞれ台車3が設けられている。また、高速鉄道車両1は、車体2の上側に設けられた屋根上構造物であるパンタグラフ4によって集電し、台車3に搭載された主電動機5が車輪6を回転させることで走行している。車体2の内部には、本実施形態の鉄道車両の車内構造10(以下、単に「車内構造10」と呼ぶ)が設けられている。図2は、車内構造10を模式的に示した平面図である。なお、図2では、車体2の長手方向の一方側のみが示されている。
【0021】
車内構造10は、図2に示すように、車体2の長手方向の中央部に位置する客室と20と、車体2の長手方向の一端部(図2の左端部)に位置するデッキ30と、客室20とデッキ30とを仕切る仕切壁構造40とを備えている。客室20には、多数の座席21が配置されている。デッキ30には、乗客等が車体2の側構体2aから乗降する出入り口31が設けられている。なお、デッキ30には、車掌室、トイレ、洗面台、ダストボックス、喫煙ルーム等が設けられる場合がある。
【0022】
ところで、車内構造10において、台車3の上側に位置する客室20内では、台車3の車輪6で発生した騒音及び台車3自体の振動に起因した騒音が伝搬し易いため、客室20の中央部に比べて車内騒音が大きくなる。また、パンタグラフ4の下側に位置する客室220内でも、風圧によってパンタグラフ4自体が振動したときに生じる騒音(風圧加振による屋根上構造物の固体音)が多く伝搬される。そして、客室20とデッキ30との間に仕切壁構造40があるため、仕切壁構造40付近に位置する座席21では、台車2又はパンタグラフ4から伝搬する騒音と仕切壁構造40によって反射した騒音が重なり、車内騒音が特に大きくなる傾向がある(図18参照)。
【0023】
そして、車内騒音のうち台車3及びパンタグラフ4から生じる騒音は、その他の騒音(例えばギヤの噛み合い音)に比べて周波数が低い。具体的には、高速鉄道車両1が約270km/hで走行する定常走行状態において、台車3の主電動機5の回転によって生じる騒音は、低周波領域である約80Hz〜315Hzになっている。また、定常走行状態において、風圧によってパンタグラフ4自体が振動したときに生じる騒音は、低周波領域である約100〜315Hzになっている。なお、ギヤの噛み合い音は約2.5kHz付近である。
【0024】
このように台車3及びパンタグラフ4から生じる約80Hz〜315Hzの低周波数の騒音、つまり波長が長い騒音を低減するためには、仕切壁構造40に厚い吸音材を設けて、騒音が吸音材を通過する距離を大きくする必要がある。しかし、仕切壁構造40の各部材は、構造上その厚さに制約があるため、厚い吸音材を設けると従来の仕切壁構造のサイズより大幅に厚くなってしまい、実現不可能である。そこで、本実施形態の車内構造10では、従来の仕切壁構造と同等のサイズを維持しつつ、約80Hz〜315Hzの低周波数である騒音を低減できるように、仕切壁構造40が構成されている。ここで、図3は、図2に示したS−S線に沿った断面図である。
【0025】
仕切壁構造40は、図2及び図3に示すように、車体2の幅方向の一方側(図2の下側)で、対向して起立する客室側仕切パネル50及びデッキ側仕切パネル60を有している。客室側仕切パネル50とデッキ側仕切パネル60の間には、空間である戸袋41が形成されていて、この戸袋41に仕切扉42が収容できるようになっている。仕切扉42は、客室20とデッキ30の間で乗客の出入りを可能にする開閉扉であり、周知のスライド機構(図示省略)によって、図2に示した位置から戸袋41の方へスライド可能になっている。ここで、図4は、図3のT部分を拡大して示した図である。
【0026】
客室側仕切パネル50は、図4に示すように、サンドイッチパネル構造になっていて、客室側(図4の右側)に客室表面板51を有し、デッキ側(図4の左側)に客室裏面板52を有し、客室表面板51と客室裏面板52の間に芯材として吸音材53を有している。この客室表面板51が本発明の「客室表面」に相当し、客室裏面板52が本発明の「客室裏面」に相当する。また、客室側仕切パネル50の客室表面板51は、布54で覆われている。
【0027】
また、デッキ側仕切パネル60も、図4に示すように、サンドイッチパネル構造になっていて、デッキ側にデッキ表面板61を有し、客室側にデッキ裏面板62を有し、デッキ表面板61とデッキ裏面板62の間に芯材として吸音材63を有している。このデッキ表面板61が本発明の「反射率及び遮音性が高い板材」に相当し、デッキ裏面板62が本発明の「デッキ裏面」に相当する。以下、各部材51〜54,61〜63の構成について詳細に説明する。
【0028】
客室表面板51は、図5に示すように、アルミ製のパンチングメタルの板材で構成されていて、多数の通気孔51aを有している。これら多数の通気孔51aによって、客室表面板51では、音波に対する透過率が高くなっている。客室表面板51の厚さは約1mmである。この客室表面板51では、板材としての強度を確保できる範囲で、透過率を高くするために、できるだけ多くの通気孔51aが形成されている。これにより、客室表面板51は、軽量で大きな開口面積を有する板材になっている。
【0029】
客室裏面板52は、図6に示すように、アルミ製の板材で構成されていて、複数の大きな切欠き孔52aを有している。これら大きな切欠き孔52aによって、客室裏面板52では、音波に対する透過率が高くなっている。客室裏面板52の厚さは約1mmである。客室裏面板52では、板材としての強度を確保できる範囲で、透過率を高くするために、できるだけ大きな切欠き孔52aが形成されている。これにより、客室裏面板52は、軽量で大きな開口面積を有する板材になっている。なお、客室表面板51及び客室裏面板52は、アルミ製に限られず、素材は適宜変更可能である。また、客室表面板51及び客室裏面板52に形成されている孔の形状及び大きさは適宜変更可能であり、例えば客室裏面板52は、図5に示す多数の通気孔51aが形成されたパンチングメタルの板材であっても良い。
【0030】
吸音材53は、発泡アルミで構成されていて、騒音(音波)を吸音するものである。つまり、騒音が吸音材53を通過する際に、吸音材53の分子が振動し、空気振動によるエネルギーが熱エネルギーに変換される。これにより、騒音のエネルギーが減少し、騒音を低減するようになっている。本実施形態では、吸音材53の発泡アルミとして、例えば神鋼鋼線工業株式会社製の商品名「アルポラス」を用いている。吸音材53の厚さは約18mmになっていて、客室側仕切パネル50全体としての厚さは約20mmになっている。なお、吸音材53の発泡アルミは、「アルポラス」に限られず適宜変更可能である。
【0031】
布54は、客室表面板51に貼り付けられていて、通気性及び不燃性を有する素材として例えばアラミド繊維で構成されている。この客室側仕切パネル50では、客室表面板51に多くの通気孔51aが形成されているため、仮に乗客が客室表面板51を直接見ると意匠性(見た目)が悪く、客室表面板51を直接触ると触感(手触り感)が悪いおそれがある。このため、客室表面板51を布54で覆うことにより、意匠性及び触感を向上させている。そして、布54は通気性を有するため、音波の透過性を阻害することがない。なお、布54は、アラミド繊維で構成されるものに限られず、素材は適宜変更可能である。
【0032】
この客室側仕切パネル50においては、客室表面板51が、客室20から仕切壁構造40に向かって伝搬する音波のうち、多くの音波を透過させる。そして、客室表面板51を透過した音波は、吸音材53によって吸音され、一部の音波が吸音材53を透過する。更に、吸音材53を透過した音波は、客室裏面板52でほとんど反射されずに、客室裏面板52を透過して、戸袋41の方へ伝搬するようになっている。
【0033】
デッキ表面板61は、図7に示すように、例えば鉄製の板材で構成されていて、音波を反射する遮音板になっている。このため、デッキ表面板61には、音波を透過させるための孔が形成されておらず、質量が大きくなるように構成されている。これにより、デッキ表面板61は、音波に対する反射率及び遮音性が高い板材になっている。デッキ表面板61の厚さは約1mmである。なお、デッキ表面板61は鉄製に限定されるものではなく、遮音板であれば素材は適宜変更可能である。
【0034】
デッキ裏面板62は、図8に示すように、アルミ製の板材で構成されていて、複数の大きな切欠き孔62aを有している。これら大きな切欠き孔62aによって、客室裏面板62では、音波に対する透過率が高くなっている。客室裏面板62の厚さは約1mmである。客室裏面板62では、板材としての強度を確保できる範囲で、透過率を高くするために、できるだけ大きな切欠き孔62aが形成されている。これにより、客室裏面板62は、軽量で大きな開口面積を有する板材になっている。なお、切欠き孔62aは、図8に示す形状及び大きさに限定されるものではなく、適宜変更可能である。
【0035】
吸音材63は、発泡アルミで構成されていて、騒音を吸音するものである。つまり、騒音が吸音材63を通過する際に、吸音材63の分子が振動し、空気振動によるエネルギーが熱エネルギーに変換される。これにより、騒音のエネルギーが減少し、騒音を低減するようになっている。本実施形態では吸音材63の発泡アルミとして、例えば神鋼鋼線工業株式会社製の商品名「アルポラス」を用いている。吸音材63の厚さは約18mmになっていて、デッキ側仕切パネル60全体としての厚さは約20mmになっている。なお、吸音材63の発泡アルミは、「アルポラス」に限られず適宜変更可能である。
【0036】
こうして、デッキ側仕切パネル60において、デッキ裏面板62が、客室側仕切パネル50から戸袋41の方へ伝搬された音波のうち、多くの音波を透過させる。そして、デッキ裏面板62を透過した音波は、吸音材63によって吸音され、一部の音波が吸音材63を透過する。吸音材63を透過した音波は、デッキ表面板61でほとんど反射される。これにより、反射された音波は、吸音材63によって吸音され、一部の音波が吸音材63を透過する。そして、吸音材63を透過した音波は、デッキ裏面板62を透過して、戸袋41の方へ伝搬するようになっている。
【0037】
その後、デッキ側仕切パネル60から戸袋41の方へ伝搬した音波は、客室側仕切パネル50で吸音されることになる。即ち、客室側仕切パネル50において、客室裏面板52が、デッキ側仕切パネル60から戸袋41の方へ伝搬した音波のうち、多くの音波を透過させる。これにより、客室裏面板52を透過した音波は、吸音材53によって吸音され、一部の音波が吸音材53を透過する。そして、吸音材53を透過した音波は、客室表面板51を透過して、仕切壁構造40から客室20の方へ伝搬するようになっている。
【0038】
ここで、客室側仕切パネル50及びデッキ側仕切パネル60は、従来構造と同様、サンドイッチ構造である。つまり、客室側仕切パネル50及びデッキ側仕切パネル60は、透過率、反射率、遮音性等の特性以外に、従来構造から大きく変更されておらず、従来構造を利用して容易に実施できるものである。また、客室側仕切パネル50の厚さは約20mmであり、戸袋41の厚さは約50mmであり、デッキ側仕切パネル60の厚さは約20mmである。このため、客室側仕切パネル50の客室表面板51からデッキ側仕切パネル60のデッキ表面板61までの距離は、従来と同様に約90mmであり、仕切壁構造40が従来の仕切壁構造と同等のサイズを維持して構成されている。
【0039】
そして、仕切壁構造40は、上述したように、客室20側から向かって来た音波を反射して客室20側の方へ戻す際に、吸音材53及び吸音材63によって多く吸音するようになっている。これは、従来の一般的な客室側仕切パネル及びデッキ側仕切パネルの構成と異なり、客室表面板51と客室裏面板52とデッキ裏面板62とを透過率が高くなるように構成し、デッキ表面板61を反射率及び遮音性が高くなるように構成したためである。つまり、客室側仕切パネル50及びデッキ側仕切パネル60を一つの構造物とみなして、透過と吸音と反射を利用して、音波(騒音)が吸音材53,63を通過する距離を大きくしたためである。これにより、従来の仕切壁構造と同等のサイズを維持しつつ、低周波数である騒音を低減できるようになっている。
【0040】
また、図2に示すように、仕切壁構造40は、車体2の幅方向の他方側(図2の上側)で、対向して起立する第2客室側仕切パネル70及び第2デッキ側仕切パネル80を有している。第2客室側仕切パネル70と第2デッキ側仕切パネル80の間には、空間43が形成されているが、この空間43の方へ仕切扉42がスライドすることはない。ここで、図9は、図2のU−U線に沿った断面図を拡大した図である。
【0041】
第2客室側仕切パネル70は、図9に示すように、サンドイッチパネル構造になっていて、客室側(図9の右側)に客室表面板71を有し、デッキ側(図9の左側)に客室裏面板72を有し、客室表面板71と客室裏面板72の間に芯材として吸音材73を有している。また、第2客室側仕切パネル70の客室表面板71は、布74で覆われている。これら客室表面板71と客室裏面板72と吸音材73と布74の構成は、上述した客室側仕切パネル50の客室表面板51と客室裏面板52と吸音材53と布54の構成と同様であるため、その説明を省略する。
【0042】
第2デッキ側仕切パネル80は、図9に示すように、サンドイッチパネル構造になっていて、デッキ側(図9の左側)にデッキ表面板81を有し、客室側(図9の右側)にデッキ裏面板82を有し、デッキ表面板81とデッキ裏面板82の間に芯材として吸音材83を有している。これらデッキ表面板81とデッキ裏面板82と吸音材83の構成は、上述したデッキ側仕切パネル60のデッキ表面板61とデッキ裏面板62と吸音材63の構成と同様であるため、その説明を省略する。本実施形態において、仕切壁構造40のうち、枕木方向の一方側の構成及び作用効果と、枕木方向の他方側の構成及び作用効果とが実質的に同様であるため、以下では、枕木方向の一方側についてのみ説明する。
【0043】
ここで、所定の周波数の音波を吸音する際の吸音材の位置について、図10を参照して説明する。図10では、低周波数の音波がA1で示され、高周波数の音波がA2で示されている。また、音波A1,A2は、反射面HMで振幅0の状態で反射されるという条件で説明する。図10に示すように、音波A1,A2の最大の振幅になる位置に吸音材を配置すれば、その音波A1,A2を効率的に吸音することができる。つまり、低周波数の音波A1を効果的に吸音するためには、反射面HMから音波A1の波長λ1の4分の1の距離に、吸音材K1を配置すれば良いことなる。一方、高周波数の音波A2を効果的に吸音するためには、反射面HMから音波A2の波長λ2の4分の1の距離に、吸音材K2を配置すれば良いことになる。
【0044】
従って、低周波数の音波A1を吸音するためには、高周波数の音波A2を吸音する場合に比べて、反射面HMから離れた位置に吸音材を配置する必要があり、吸音材K1の厚さ(音波A1が吸音材K1を通過する距離)が大きい方が低周波数の音波A1を吸音し易いことが分かる。なお、図10の説明では、吸音材K1,K2と反射面HMの間に空気層が形成されていて、効率的に吸音するためには少なくとも波長λ1,λ2の4分の1の位置に吸音材K1,K2を配置すれば良いという意味である。即ち、空気層を設けなくて反射面HMから連続する厚い吸音材K1,K2を設ければ、より吸音効果を高められることになる。
【0045】
次に、垂直入射吸音率測定方法と、吸音材として発泡アルミを用いた場合の垂直入射吸音率測定結果について説明する。図11は、垂直入射吸音率測定方法を説明するための図であり、図12は、垂直入射吸音率測定結果を示した図である。図11に示すように、垂直入射吸音率測定法では、吸音材Kに対して垂直方向から入射される音波の吸音率を測定している。吸音率は、入射する音波のエネルギーと、反射しない(透過及び吸収する)音波のエネルギーとの比である。
【0046】
図11に示すように、音響管ONの中で、スピーカSPから発泡アルミである吸音材Kに向けて音波を放射する。放射された音波は、吸音材Kで吸音され、吸音材Kで反射し、吸音材Kを透過する。吸音材Kを透過した音波は反射面HHで反射される。この状況で、音響管ONに取付けられた二つのマイクロフォンM1,M2が、放射された音波と反射されてきた音波とを測定し、図示しないコンピュータが吸音率を求めている。この垂直入射吸音率測定法では、音波の周波数を変化させると共に、吸音材Kと反射面HHの間の空気層Qの厚さを変化させて、吸音率を求めている。
【0047】
図12では、神鋼鋼線株式会社が発泡アルミである「アルポラス」を吸音材Kとして用いて測定した吸音率を示している。なお、吸音材Kの厚さが9mmである場合の測定結果である。図12に示すように、例えば空気層Qが無い場合(□付の細線参照)、約2000Hzの音波に対して吸音率が約0.78でピークであり、周波数が小さくなるほど吸音率が低下している。また、空気層Qが10mmである場合(△付の太い二点鎖線参照)、約1000Hzの音波に対して吸音率が約0.85でピークであり、周波数が約1000Hzから小さくなるほど吸音率が低下している。更に、空気層Qが50mmである場合(×付の太い実線参照)、約400Hzの音波に対して吸音率が約0.92でピークであり、周波数が400Hzから小さくなるほど吸音率が低下している。
【0048】
図12に示す測定結果から、空気層Qの厚さが大きくなるほど、吸音材Kがより低い周波数の音波に対して効果的に吸音できることが分かる。しかし、空気層Qが50mmである場合には、約400Hz付近の音波しか効果的に吸音することができず、約80Hz〜315Hzの低周波数の音波に対して効果的に吸音することができていない。ここで、上述した垂直入射吸音率測定法に対して、本実施形態の客室側仕切パネル50の吸音材53を、図11に示す吸音材Kとみなし、デッキ側仕切パネル60のデッキ表面板61を、図11に示す反射面HHとみなして考えることにする。
【0049】
本実施形態の仕切壁構造40では、従来では吸音するためのスペースとは考えられてかった戸袋41及びデッキ側仕切パネル60を、吸音するための空間として利用している。このため、客室側仕切パネル50の吸音材53からデッキ側仕切パネル60のデッキ表面板61までの距離を少なくとも約70mm確保することができる。この約70mmを仮に上記した空気層Qの厚さとみなせば、本実施形態の仕切壁構造40による垂直入射吸音率測定結果は、図12において、○付の太い一点鎖線になると考えられる。即ち、本実施形態では、50mmである空気層より大きな空気層を確保できるため、ピークの吸音率の周波数が、空気層Qが50mmである場合のピークの吸音率の周波数(約400Hz)より、低くなると考えられる。
【0050】
これにより、本実施形態の仕切壁構造40では、図12に示すように、ピークの吸音率の周波数を約250Hz付近まで下げることができる。更に、仮定した本実施形態の空気層には、デッキ側仕切パネル60の吸音材63が考慮されておらず、客室側仕切パネル50の吸音材53の厚さ(約18mm)は、図12の測定結果を得るために用いた吸音材Kの厚さ(9mm)より十分大きい。加えて、図12に示した測定結果は、あくまで垂直方向に入射された音波に対する結果であり、実際に仕切壁構造40に入射する音波の方向はランダムである。このため、実際には、垂直入射吸音率測定結果より、より低い周波数領域の音波を吸音できると考えられる。こうして、本実施形態の仕切壁構造40は、約250Hz付近、更に約250Hz以下の低周波数領域の音波を効果的に吸音できると言える。
【0051】
本実施形態の作用効果について説明する。
本実施形態の車内構造10によれば、台車3から生じる低周波数の騒音が、仕切壁構造40に向かって伝搬したとき、図13の(I)で示すように、先ず客室側仕切パネル50の客室表面板51を透過して、吸音材53によって吸音される。次に、吸音材53を透過した騒音は、客室裏面板52を透過して、戸袋41をデッキ30側へ通過する。続いて、戸袋41を通過した騒音は、図13の(II)で示すように、デッキ側仕切パネル60のデッキ裏面板62を透過して、吸音材63に吸音される。
【0052】
そして、吸音材63を透過した騒音は、図13の(III)で示すように、デッキ表面板61で反射する。これにより、反射した騒音は、吸音材63によって吸音され、デッキ裏面板62を透過して、戸袋41を客室20側へ通過する。戸袋41を通過した騒音は、図13の(IV)で示すように、客室側仕切パネル50の客室裏面板52を透過し、吸音材53によって吸音される。最後に、吸音材53を透過した騒音は、客室表面板51を透過して、客室2内に向かって伝搬する。
【0053】
こうして、台車3又はパンタグラフ4から生じる低周波数の騒音が仕切壁構造40で反射する際に、吸音材53及び吸音材63によって、4回吸音される。つまり、仕切壁構造40の空間を最大限利用して、仕切壁構造40の各部材の厚さを従来から大きく変更することなく、騒音が吸音材を通過する距離を大きくすることができる。この結果、台車3又はパンタグラフ4から生じる低周波数の騒音を仕切壁構造40によって効果的に吸音することができ、台車3の上側又はパンタグラフ4の下側に位置する客室20内で、車内騒音を効果的に減少させることができる。
【0054】
また、本実施形態の車内構造10によれば、吸音材53,63として用いた発泡アルミは、その他の吸音材(例えばグラスウール)に比べて、より低い周波数の音波を吸音することができる。特に、高速鉄道車両1が約270kmで走行する定常走行状態において、台車3の主電動機5及びパンタグラフ4から生じる約80Hz〜315Hzの騒音を吸音できるように、客室表面板51からデッキ表面板61までの距離(約90mm)と、吸音材53,63の厚さ(約18mm)とを設定している。つまり、各吸音材53,63の厚さと、客室表面板51からデッキ表面板61までの距離を考慮して、音波が吸音材53,63及び空気層を通過する距離を調整することで、吸音する周波数領域をより低い周波数領域にコントロールしている。この結果、定常走行状態で台車3の主電動機5及びパンタグラフ4から生じる低周波数の騒音を最適に吸音することができる。
【0055】
次に、変形実施形態について、図14を参照して説明する。本実施形態の仕切壁構造40では、図2に示すように、車体2の幅方向の他方側(図2の上側)で、第2客室側仕切パネル70と第2デッキ側仕切パネル80の間に空間43が形成されている。これに対して、変形実施形態の仕切壁構造40Aでは、図14に示すように、第2客室側仕切パネル70の客室裏面板72と第2デッキ側仕切パネル80のデッキ裏面板82の間全体に、吸音材44が敷き詰められている。この吸音材44は、例えば発泡アルミで構成されていて、その厚さは約50mmである。変形実施形態のその他の構成は、上記した本実施形態の構成と同様であるため、対応する部位に同一の符号を付してその説明を省略する。この変形実施形態によれば、上記した本実施形態と同様の作用効果を得ることができると共に、客室裏面板72とデッキ裏面板82の間に吸音材44が配置されているため、騒音が吸音材を通過する距離を更に大きくすることができ、より低い周波数の騒音に対して効果的に吸音させることができる。
【0056】
以上、本発明に係る鉄道車両の仕切壁構造の実施形態及び変形実施形態について説明したが、本発明はこれら実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
例えば、本実施形態及び変形実施形態において、吸音材44,53,63,73,83を発泡アルミで構成した。しかしながら、吸音材は、発泡アルミに限られるものではなく例えばアルミ不織布、グラスウール等の多孔質材料で構成しても良い。但し、グラスウール等の多孔質材料で吸音材を構成する場合、剛性を確保するために、図15に示すように、吸音材55を補強骨56によって骨皮構造になるように構成する。
【0057】
また、本実施形態及び変形実施形態において、客室側仕切パネル50、デッキ側仕切パネル60、第2客室側仕切パネル70、第2デッキ側仕切パネル80が、板材で吸音材を挟むサンドイッチ構造になるように構成した。しかしながら、各パネルの構成は適宜変更可能であり、例えば客室側仕切パネル50が、客室表面板51及び客室裏面板52を有しておらず、剛性が高い吸音材だけで構成されていても良い。また、デッキ側仕切パネル60が、デッキ裏面板62を有しておらず、デッキ表面板61と吸音材63だけで構成されていても良い。
また、本実施形態及び変形実施形態で説明した寸法及び形状は、あくまで一つの実施例としての寸法及び形状であって、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 高速鉄道車両
2 車体
3 台車
5 主電動機
10 車内構造
20 客室
30 デッキ
40 仕切壁構造
41 戸袋
42 仕切扉
44 吸音材
50 客室側仕切パネル
51 客室表面板
52 客室裏面板
53 吸音材
54 布
60 デッキ側仕切パネル
61 デッキ表面板
62 デッキ裏面板
63 吸音材
70 第2客室側仕切パネル
71 客室表面板
72 客室裏面板
73 吸音材
74 布
80 第2デッキ側仕切パネル
81 デッキ表面板
82 デッキ裏面板
83 吸音材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19