(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-168494(P2015-168494A)
(43)【公開日】2015年9月28日
(54)【発明の名称】エレベータの群管理システム
(51)【国際特許分類】
B66B 1/18 20060101AFI20150901BHJP
【FI】
B66B1/18 S
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-42676(P2014-42676)
(22)【出願日】2014年3月5日
(71)【出願人】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】槇岡 良祐
【テーマコード(参考)】
3F002
【Fターム(参考)】
3F002BA01
3F002BB08
3F002FA01
(57)【要約】
【課題】ホール呼びに対する割当ての探索結果を保存・学習し、次の探索時に利用することで、割当精度と処理速度を上げて最適な乗りかごを効率良く応答させる。
【解決手段】群管理制御装置10は、現在の呼びの状態および将来発生する呼びの予測に基づいて割当対象となるホール呼びを上記各乗りかごのいずれかに割り当てるための探索を行う割当制御部11と、割当制御部11によって得られた探索結果に基づいて上記ホール呼びを各乗りかご1a〜1cの中の最適な乗りかごに割り当てる割当実行部12と、探索結果を保存するためのデータベース部13とを備える。割当制御部11は、任意の階で新たなホール呼びが発生した際に、データベース部13に保存された探索結果を参照して当該ホール呼びに対する割当ての探索範囲を絞り込む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数台の乗りかごの運転を制御するエレベータの群管理システムにおいて、
現在の呼びの状態および将来発生する呼びの予測に基づいて割当対象となるホール呼びを上記各乗りかごのいずれかに割り当てるための探索を行う割当制御手段と、
この割当制御手段によって得られた探索結果に基づいて上記ホール呼びを上記各乗りかごの中の最適な乗りかごに割り当てる割当実行手段と、
上記割当制御手段によって得られた探索結果を保存するためのデータベース手段とを具備し、
上記割当制御手段は、
任意の階で新たなホール呼びが発生した際に、上記データベース手段に保存された探索結果を参照して当該ホール呼びに対する割当ての探索範囲を絞り込むことを特徴とする群管理システム。
【請求項2】
上記割当制御手段は、
少なくともホール呼びの登録階と行先方向、上記各乗りかごの位置と運転方向を条件にして上記データベース手段から現状に近い探索結果を読み出し、その探索結果を参照して当該ホール呼びに対する割当ての探索範囲を絞り込むことを特徴とする請求項1記載の群管理システム。
【請求項3】
上記各乗りかごの実際の運行状況に基づいて、上記データベース手段に保存された探索結果に含まれる上記各乗りかごの割当評価値を再評価する評価手段をさらに具備し、
上記割当制御手段は、
上記評価手段によって得られた再評価値に基づいて、当該ホール呼びに対する割当ての探索範囲を絞り込むか、あるいは、探索を中断することを特徴とする請求項1または2記載の群管理システム。
【請求項4】
上記割当制御手段は、
上記評価手段によって得られた再評価値が平均値よりも高かった場合に、上記探索結果を優先的に当該ホール呼びの割当ての候補に含めて割当ての探索範囲を絞り込むことを特徴とする請求項3記載の群管理システム。
【請求項5】
上記割当制御手段は、
上記評価手段によって得られた再評価値が平均値よりも低かった場合に、上記探索結果を当該ホール呼びの割当ての候補から除外して探索を中断することを特徴とする請求項3記載の群管理システム。
【請求項6】
上記割当制御手段は、
特定の階で登録されたホール呼びに限定して、そのホール呼びに対する探索結果のみを上記データベース手段に保存することを特徴とする請求項1記載の群管理システム。
【請求項7】
上記特定の階には、定常的に乗客の乗り降りが多い階あるいは時間的に交通需要が高くなる階が含まれることを特徴とする請求項6記載の群管理システム。
【請求項8】
上記割当制御手段は、
運転サービス可能な乗りかごの台数が変更された場合には上記データベース手段を利用せずに通常の割当て探索を行うことを特徴とする請求項1に記載の群管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、複数台の乗りかごの運転を制御するエレベータの群管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータの群管理は、現在発生している呼び(ホール呼び,かご呼び)の状況と、乗りかごの現在位置、乗車人数等を加味し、ホール呼びを適切な乗りかごに割当てることを目的とする。ホール呼びを乗りかごに対して適切に割当てるためには、本来は次の全ての要因を考慮する必要がある。
【0003】
1.現在の割当が既に発生済みで未だサービスされていない呼び(未応答呼び)に与える影響
2.現在の割当が将来の呼びに与える影響
3.将来の呼び発生が今までに割当した全ての未応答呼びに与える影響
この中で、上記1の要因は扱い易いが、他の要因については、従来方式ではほとんど扱われていない。これは、従来の群管理方式と異なり、将来の仮想的な呼びを含む複数の呼びを同時に考慮する必要が生じるからである。つまり、複数の呼びに対し、すべての割当ての組合せの中から準最適な解を見つけ出す、一種の組合せ最適化演算を行わなくてはならならない。
【0004】
なお、最適化演算の方式としては、GA(遺伝的アルゴリズム)やSA(シミュレーテッドアニーリング)を利用する方式が知られている。しかしながら、これらの方式では、演算処理に時間がかかり、群管理に必要とされるリアルタイム性を実現することが極めて困難である。
【0005】
そこで、RTS(Real Time Scheduling)と呼ばれる新たな方式が考えられている。これは、現在割り当てられている呼びが将来の呼びに与える影響と、将来の呼びが今までに割当した全ての未応答の呼びに与える影響を考慮し、かつリアルタイム性のあるエレベータ群管理を実現するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−319707号公報
【特許文献2】特開平5−319706号公報
【特許文献3】特開2006−143360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したRTSでは、割当対象となるホール呼びに、将来発生すると予測される仮想的な呼び(ホール呼びとかご呼び)を含めて割当ての探索を行う。このため、乗りかごの台数や階床数が増えると、割当ての探索範囲が広がってしまい、一定時間内に最適な乗りかごを決定することが難しくなる。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、ホール呼びに対する割当ての探索結果を保存・学習し、次の探索時に利用することで、割当精度と処理速度を上げて最適な乗りかごを効率良く応答させることのできるエレベータの群管システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本実施形態に係る群管理システムは、複数台の乗りかごの運転を制御するエレベータの群管理システムにおいて、現在の呼びの状態および将来発生する呼びの予測に基づいて割当対象となるホール呼びを上記各乗りかごのいずれかに割り当てるための探索を行う割当制御手段と、この割当制御手段によって得られた探索結果に基づいて上記ホール呼びを上記各乗りかごの中の最適な乗りかごに割り当てる割当実行手段と、上記割当制御手段によって得られた探索結果を保存するためのデータベース手段とを具備し、上記割当制御手段は、任意の階で新たなホール呼びが発生した際に、上記データベース手段に保存された探索結果を参照して当該ホール呼びに対する割当ての探索範囲を絞り込むことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は本実施形態に係るエレベータの群管理システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は同実施形態における群管理制御装置の探索結果保存・学習処理を説明するためのフローチャートである。
【
図3】
図3は同実施形態における群管理制御装置の割当ての探索を模式的に示した図である。
【
図4】
図4は同実施形態における群管理制御装置のデータベース部の構成を示す図である。
【
図5】
図5は同実施形態における各号機の乗りかごの実際の運行状況の一例を示す図である。
【
図6】
図6は同実施形態における群管理制御装置のデータベース部に設定される再評価値の一例を示す図である。
【
図7】
図7は同実施形態における群管理制御装置の割当て処理を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は同実施形態における群管理制御装置のデータベース部の保存内容の一例を示す図である。
【
図9】
図9は同実施形態における群管理制御装置のデータベース部を参照した割当ての探索を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0012】
図1は本実施形態に係るエレベータの群管理システムの構成を示すブロック図であり、複数台(ここではA〜C号機の3台)のエレベータが群管理された構成が示されている。なお、ここで言う「エレベータ」とは、基本的には「乗りかご」のことであり、複数台ある場合には「号機」という言い方もする。
【0013】
図中の1a〜1cは号機制御部、2a〜2cは乗りかごである。A号機制御部1aは、A号機の乗りかご2aの運転制御を行う。具体的には、号機制御部1aは、乗りかご2aを昇降動作させるための図示せぬモータ(巻上機)の制御やドアの開閉制御などを行う。B号機制御部1b、C号機制御部1cも同様である。これらの号機制御部1a〜1cは、コンピュータによって構成される。
【0014】
乗りかご2a〜2cは、モータ(巻上機)の駆動により昇降路内を昇降動作する。乗りかご2aの室内には、行先階釦3a、戸開釦4a、戸閉釦5aを含む各種操作ボタンが設置されている。これらの釦の信号は、A号機制御部1aを介して群管理制御装置10に伝送される。
【0015】
同様に、乗りかご2bの室内には、行先階釦3b、戸開釦4b、戸閉釦5bを含む各種操作ボタンが設置されている。これらの釦の信号は、B号機制御部1bを介して群管理制御装置10に伝送される。乗りかご2cの室内には、行先階釦3c、戸開釦4c、戸閉釦5cを含む各種操作ボタンが設置されている。これらの釦の信号は、C号機制御部1cを介して群管理制御装置10に伝送される。
【0016】
また、各階の乗場(エレベータホール)には、ホール呼びを登録するためのホール釦6a,6b,6c…が設置されている。なお、
図1の例では、ホール釦6a,6b,6c…が号機制御部1a〜1cを介して群管理制御装置10に接続されているが、群管理制御装置10に直接接続される構成であっても良い。
【0017】
これらのホール釦6a,6b,6c…は、上方向釦と下方向釦からなり、利用者の行先方向に応じて、上方向釦または下方向釦を押下するように構成されている。なお、最下階では上方向釦、最上階では下方向釦だけで構成される。
【0018】
「ホール呼び」とは、各階の乗場に設置されたホール釦の操作により登録される呼びの信号のことであり、登録階と行先方向の情報を含む。また、「かご呼び」とは、かご室内に設けられた行先階釦の操作により登録される呼びの信号のことであり、行先階の情報を含む。
【0019】
群管理制御装置10は、乗りかご2a〜2cの運転を群管理制御するための装置であり、号機制御部1a〜1cと同様にコンピュータによって構成される。本実施形態において、この群管理制御装置10には、割当制御部11、割当実行部12、データベース部13、評価部14、状態監視部15が備えられている。なお、これらの処理部は、実際にはソフトウェアあるいはソフトウェアとハードウェアの組み合わせにより実現される。
【0020】
割当制御部11は、RTS(Real Time Scheduling)の機能を有し、現在の呼びの状態および将来発生する呼びの予測に基づいて割当対象となるホール呼びを各号機の乗りかご2a〜2cのいずれかに割り当てるための探索を行う。なお、RTSについては公知であるため、ここではその詳しい説明を省略するものとする。
【0021】
割当実行部12は、割当制御部11によって得られたRTSの探索結果に基づいて当該ホール呼びを最適な乗りかごに割り当てる。例えば乗りかご2aが最適かごとして決定された場合には、割当実行部12はA号機制御部1aに対してホール呼びの割当信号を出力する。A号機制御部1aは、このホール呼びの割当信号を受信することにより、当該ホール呼びの登録階に乗りかご2aを応答させる。
【0022】
データベース部13は、ノンクリアRAMからなり、割当制御部11によって得られたTRSの探索結果を保存する。RTSによる割当ての探索結果には、各号機の乗りかご2a〜2cの運行状態を表した運行曲線や割当評価値などを含む(
図4参照)。「割当評価値」とは、ホール呼びを割り当てた場合の最適さを表す指標である。この割当評価値は、その数値が小さいほど評価が高く、その数値が大きいほど評価が低くなることを表わす。
【0023】
評価部14は、各号機の乗りかご2a〜2cの実際の運行状況に基づいて、データベース部13に保存された探索結果に含まれる割当評価値を再評価する。「割当評価値を再評価する」とは、割当評価値を実際の運行状況と照らし合わせて検証したときに、どのくらいの確率で的中しているのかを判定することである。評価部14は、その的中率を示す再評価値をデータベース部13上の探索結果に付加して保存しておく。この再評価値は、「0.0〜1.0」の値を取り、数値が高い程、評価が高い(的中率が高い)ことを表わす。
【0024】
状態監視部15は、各号機の乗りかご2a〜2cの運転状態(かご位置、運転方向、戸開閉状態など)や、呼び(ホール呼びとかご呼び)の発生状況などを監視している。
【0025】
このような構成において、任意の階で新たなホール呼びが発生すると、割当制御部11は、RTSによる割当ての探索を行い、その探索結果に基づいて当該ホール呼びを乗りかご2a〜2cの中の最適な乗りかごに割り当てる。
【0026】
ここで、RTSでは、将来発生すると仮定した仮想的な呼びも含めて割当ての探索を行うため、かご台数や階床数が増えると、探索範囲が広がり、処理に時間がかかる問題がある。そこで、本実施形態では、RTSによる割当ての探索を行ったときに、その探索結果をデータベース部13に保存・学習(再評価)しておき、次の探索時に利用することで処理の短縮化を図るものである。
【0027】
以下に、本実施形態の動作を詳しく説明する。
ここでは、(a)探索結果保存・学習処理と、(b)割当て処理に分けて説明する。なお、以下の各フローチャートで示される処理は、コンピュータである群管理制御装置10が所定のプログラムを読み込むことにより実行される。
【0028】
(a)探索結果保存・学習処理
図2は群管理制御装置10の探索結果保存・学習処理を説明するためのフローチャートである。
【0029】
群管理制御装置10の割当制御部11は、状態監視部15を通じて任意の階で登録されたホール呼びを検出すると、RTSによる割当ての探索を行う(ステップS11)。
【0030】
具体的には、まず、割当制御部11は、割当対象となるホール呼びに、現在の呼びの状態と将来発生する呼びの予測を考慮して仮想的に発生させた仮想呼びを追加する。割当制御部11は、これらの呼びを乗りかご2a〜2cに割り当てた場合の運行曲線を作成し、これらの運行曲線を比較しながら最適な乗りかごを探索するといった処理を繰り返し行う。
【0031】
なお、初期状態ではデータベース部13にまだ探索結果が保存されていないため、通常の割当て処理が行われる。また、データベース部13に探索結果が保存されていても、今回の割当ての探索に利用できない場合には、そのまま通常の割当て処理が行われることになる。
【0032】
最適な乗りかごが探索されると、割当制御部11は、割当実行部12を介してホール呼びの割当て信号を当該乗りかごに対応した号機制御部に出力して、上記ホール呼びの登録階に応答させる(ステップS12)。
【0033】
ここで、割当制御部11は、今回の割当て処理中に得られたRTSの探索結果をデータベース部13に保存しておく(ステップS13)。この探索結果には、各号機の乗りかご2a〜2cの運行曲線、これらの運行曲線から算出された各号機の乗りかご2a〜2cの割当評価値が含まれる。
【0034】
また、乗りかごがホール呼びの登録階に応答したときに、評価部14は、実際の運行状況を確認し、データベース部13に保存された探索結果の割当評価値を再評価し、その評価結果を数値化した再評価値を当該探索結果に付加してデータベース部13に保存しておく(ステップS14)。
【0035】
ここで、上記ステップS13およびS14の処理について具体例を挙げて説明する。
図3は割当ての探索を模式的に示した図である。
図4はデータベース部13の構成を示す図である。
【0036】
RTSでは、各号機の乗りかごに割当対象のホール呼びと仮想呼びを割り当てた場合の運行曲線を段階的に作成する。なお、仮想呼びは、各階の交通需要や時間帯などを考慮して仮想的に発生させた呼びであり、ホール呼びとかご呼びの両方が含まれる。
【0037】
図3において、図中の丸数字は運行曲線のデータ番号である。割当対象のホール呼びをA〜C号機の乗りかごに割り当てた場合の運行曲線が「1」,「2」,「3」で表されている。さらに、運行曲線「1」の状態から1つめの仮想呼びをA〜C号機の乗りかごに割り当てた場合の運行曲線が「4」,「5」,「6」、運行曲線「2」の状態から1つめの仮想呼びをA〜C号機の乗りかごに割り当てた場合の運行曲線が「7」,「8」,「9」、運行曲線「3」の状態から1つめの仮想呼びをA〜C号機の乗りかごに割り当てた場合の運行曲線が「13」,「14」,「15」で表されている。また、運行曲線「9」の状態から2つめの仮想呼びをA〜C号機の乗りかごに割り当てた場合の運行曲線が「10」,「11」,「12」で表されている。
【0038】
仮想呼びの個数は予め設定されている。その設定個数の中で運行曲線を段階的に作成し、これらの運行曲線から各号機の乗りかごの平均未応答時間を求め、その平均未応答時間に基づいて割当評価値を算出するといった処理を繰り返す。その繰り返しの中で最も評価の高い乗りかごを最適かごとして決定する。なお、「最適かご」とは、割当対象ホール呼びを割り当てる乗りかごのことである。
【0039】
上記ステップS13では、
図3の探索結果(運行曲線、割当評価値)をデータベース部13に保存する。ただし、すべての結果をデータベース部13に保存すると、メモリ容量が不足するため、探索結果の一部のみを保存するものとする。
【0040】
具体的には、最適な運行曲線(ホール呼びの割当てを決めた運行曲線)を有する探索結果をデータベース部13に保存する。
図4の例では、10番の運行曲線が割当評価値と共にデータベース部13に保存されている。この10番の運行曲線によれば、B号機の乗りかごにホール呼びが割り当てられることになる(運行曲線「10」→「9」→「2」を参照)。
【0041】
なお、探索を打ち切った運行曲線(評価が低く、ホール呼びの割当てに利用できない運行曲線)を保存対象に含まれることでも良い。これは、次回以降の探索時に当該運行曲線を割当ての候補から除外することができるからである。
【0042】
上記ステップS14では、実際の運行状況を確認し、データベース部13に保存された探索結果に含まれる割当評価値を再評価する。
図5および
図6に具体例を示す。
【0043】
図5は各号機の乗りかごの実際の運行状況の一例を示す図であり、横軸は時間、縦軸は階床数を表している。図中の黒三角はホール呼びである。
図6はデータベース部13に設定される再評価値の一例を示している。
【0044】
いま、1階で発生した上方向のホール呼びに対してRTSによる探索を行った結果、最適な運行曲線がデータベース部13に保存されているものとする。
図6の例では、運行曲線「10」である。
【0045】
ここで、実際の運行状況とデータベース部13に保存された運行曲線とを照合する。データベース部13に保存された運行曲線の通りに割当かごが最も早く応答していた場合には良い価値を与える(再評価値を高く設定する)。
図5の例では、B号機の乗りかごが1階で発生した上方向のホール呼びに最も早く応答しているので、データベース部13に保存された運行曲線は的中したことになる。この場合、再評価値として、例えば「0.6」を与えるものとする。
【0046】
なお、再評価値は「0.0」〜「1.0」の値を取る。データベース部13に保存された運行曲線が的中したときに、すぐに最高値の「1.0」を与えないのは、次回以降に同じ結果が出るとは限らないためである。したがって、平均値「0.5」よりもやや高い「0.6」を初期値として与えて、そこから微調整していく方法が好ましい。
【0047】
一方、例えばかご呼びが多数発生するなどして応答が遅くなったり、他の号機の乗りかごが先にホール呼びの登録階を通過してしまった場合には、データベース部13に保存された運行曲線は予測が外れたとして、悪い評価を与える(再評価値を低く設定する)。
図5の例で言えば、B号機よりも先にA号機あるいはC号機の乗りかごが1階を通過してしまった場合に再評価値を低く設定する。
【0048】
なお、再評価値を低く設定する場合に、最低値の「0.0」ではなく、次回以降の様子を見るために、平均値「0.5」よりもやや低い「0.4」程度を初期値として与えて、そこから微調整していく方法が好ましい。
【0049】
また、ここでは基本的に割当て変更は考えないものとする。つまり、例えば割当かごであるB号機よりも先にC号機の乗りかごが1階を通過すことが事前に分かっていても、C号機の乗りかごにホール呼びを割当て変更することはしない。ただし、例えばB号機とC号機との間に所定時間以上の差が生じてしまう場合には、割当て変更を行うようにしても良い。
【0050】
(b)割当て処理
図7は群管理制御装置10の割当て処理を示すフローチャートである。
【0051】
任意の階で新たなホール呼びが発生すると(ステップS21のYes)、そのホール呼びの信号は群管理制御装置10の状態監視部15を介して割当制御部11に与えられる。ここで、割当制御部11は、少なくともホール呼びの登録階と行先方向、各かごの位置と運転方向を条件にしてデータベース部13から現状に近い探索結果をサーチする(ステップS22)。
【0052】
上記(a)により、データベース部13には過去の探索結果(過去の探索によって得られた運行曲線と割当評価値)が保存されている。現状に近い探索結果(現状と同じ場合を含む)がデータベース部13に保存されていれば(ステップS23のYes)、割当制御部11は、その探索結果をデータベース部13から読み出す(ステップS24)。
【0053】
例えば、1階で上方向のホール呼びが登録され、そのときにA〜C号機のかご位置と運転方向が
図6に示した運行曲線「10」と近ければ、データベース部13からインデックス「001」の探索結果が読み出されることになる。
【0054】
続いて、割当制御部11は、RTSによる割当ての探索を実施する(ステップS25)。その際、割当制御部11は、上記データベース部13から読み出した現状に近い探索結果に付加された再評価値を参照して、当該ホール呼びに対する割当ての探索範囲を絞り込むか、あるいは、探索を中断する(ステップS26)。
【0055】
すなわち、探索結果の再評価値が高い場合には、データベース部13と同様の割り当てを行うことで良い結果が得られる可能性が高い。したがって、割当制御部11は、当該探索結果を優先的に割当ての候補に含めて探索範囲を絞り込む。一方、探索結果の再評価値が低い場合には、データベース部13と同様の割り当てを行っても実際には予測から外れる可能性が高い。したがって、割当制御部11は、当該探索結果を割当ての候補から除外して別の探索を行うようにする(
図8参照)。
【0056】
このようにして、割当制御部11は、過去の探索結果を参照しながら当該ホール呼びに対する割当ての探索を実施し、所定時間内に最適なかごを選出して割当実行部12に知らせる(ステップS27)。なお、今回の探索で得られた結果はデータベース部13に追加保存され、
図2で説明したように実際の運行状況との照合により再評価される。
【0057】
また、上記ステップS23において、データベース部13に現状に近い探索結果が保存されていなかった場合には、割当制御部11は、通常のRTSによる割当ての探索を実施し、所定時間内に最適なかごを選出して割当実行部12に知らせる(ステップS28)。この場合も今回の探索で得られた結果はデータベース部13に追加保存され、
図2で説明したように実際の運行状況との照合により再評価される。
【0058】
ここで、上記ステップS26の処理について具体例を挙げて説明する。
図8はデータベース部13の保存内容の一例を示す図である。
図9はデータベース部13を参照した割当ての探索を模式的に示した図であり、
図3と同様に丸数字は運行曲線のデータ番号を示す。
【0059】
いま、
図8に示すデータベース部13において、現状に近い探索結果がインデックス「001」,「003」であったとする。インデックス「001」の探索結果に付加された再評価値は「0.6」、インデックス「003」の探索結果に付加された再評価値は「0.2」である。
【0060】
ここで、インデックス「003」のように、再評価値が平均値(0.5)よりも低い探索結果は割当精度が低いので、割当ての候補から除外する。この例では、
図9に示すように、当該探索結果の運行曲線「6」に関連した呼びの組み合わせに対する割当ての候補が除外されることになる。また、インデックス「001」のように、再評価値が平均値(0.5)よりも高い探索結果は割当精度が高いので、優先的に割当ての候補に含めるようにする。これにより、B号機の乗りかごに当該ホール呼びを割り当るケースが最も良いことが短時間で判明することになる。
【0061】
このように、RTSによる割当ての探索結果をデータベース部13に保存しておき、新たなホール呼びが発生した際に、データベース部13を参照することで割当ての探索範囲を絞り込むことができる。したがって、全ての呼びの組み合わせについて運行曲線を作成して割当てを探索する場合に比べて、処理時間を短縮でき、最適かごを早く選出して応答させることができる。
【0062】
さらに、実際の運行状況と照合してデータベース部13上の探索結果を再評価しておけば、優先すべき割当ての候補と除外すべき割当ての候補を事前に知ることができ、より効率的に割当ての探索を実施して最適かごを選出することが可能となる。
【0063】
(他の実施形態)
上記実施形態では、すべての階で登録されたホール呼びを対象にしてRTSによる割当ての探索結果をデータベース部13に保存したが、ある特定の階のホール呼びに限定してデータベース部13に保存することでも良い。「特定の階」とは、例えば「基準階」などのように定常的に乗客の乗り降りが多い階や、「食堂階」などのように時間的に交通需要が高くなる階である。
【0064】
このように、特定の階のホール呼びに限定してデータベース部13に保存する構成とすれば、メモリ容量を抑えることができ、また、
図7の処理でもデータベースをサーチする時間を短縮できる。
【0065】
また、例えば故障や点検などにより運転サービス可能な号機の台数の変更された場合には、データベース部13を利用せずに、
図7のステップS28に示した通常の割当て探索を行うものとする。これにより、環境が変わった場合にデータベース部13を参照して不適切な割当てを行うことを防ぐことができる。
【0066】
以上述べた少なくとも1つの実施形態によれば、ホール呼びに対する割当ての探索結果を保存・学習し、次の探索時に利用することで、割当精度と処理速度を上げて最適な乗りかごを効率良く応答させることのできるエレベータの群管システムを提供することができる。
【0067】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0068】
1a〜1c…号機制御部、2a〜2c…乗りかご、3a〜3c…行先階釦、4a〜4c…戸開釦、5a〜5c…戸閉釦、6a〜6c…ホール釦、10…群管理制御装置、11…割当制御部、12…割当実行部、13…データベース部、14…評価部、15…状態監視部。
【手続補正書】
【提出日】2015年4月28日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数台の乗りかごの運転を制御するエレベータの群管理システムにおいて、
現在の呼びの状態および将来発生する呼びの予測に基づいて、上記各乗りかごの運行曲線を予め設定された仮想呼びの個数の中で段階的に作成し、これらの運行曲線を比較しながら割当対象となるホール呼びを上記各乗りかごのいずれかに割り当てるための探索を行う割当制御手段と、
この割当制御手段によって得られた探索結果に基づいて上記ホール呼びを上記各乗りかごの中の最適な乗りかごに割り当てる割当実行手段と、
上記割当制御手段によって上記ホール呼びの割当てを決めた運行曲線を有する探索結果を保存するためのデータベース手段とを具備し、
上記割当制御手段は、
任意の階で新たなホール呼びが発生した際に、少なくともホール呼びの登録階と行先方向、上記各乗りかごの位置と運転方向を条件にして上記データベース手段から現状に近い運行曲線を有する探索結果を読み出し、その探索結果を参照して当該ホール呼びに対する割当ての探索範囲を絞り込むことを特徴とする群管理システム。
【請求項2】
上記各乗りかごの実際の運行状況に基づいて、上記データベース手段に保存された探索結果に含まれる上記各乗りかごの割当評価値を再評価する評価手段をさらに具備し、
上記割当制御手段は、
上記評価手段によって得られた再評価値に基づいて、当該ホール呼びに対する割当ての探索範囲を絞り込むか、あるいは、探索を中断することを特徴とする請求項1記載の群管理システム。
【請求項3】
上記割当制御手段は、
上記評価手段によって得られた再評価値が平均値よりも高かった場合に、上記探索結果を優先的に当該ホール呼びの割当ての候補に含めて割当ての探索範囲を絞り込むことを特徴とする請求項2記載の群管理システム。
【請求項4】
上記割当制御手段は、
上記評価手段によって得られた再評価値が平均値よりも低かった場合に、上記探索結果を当該ホール呼びの割当ての候補から除外して探索を中断することを特徴とする請求項2記載の群管理システム。
【請求項5】
上記割当制御手段は、
特定の階で登録されたホール呼びに限定して、そのホール呼びに対する探索結果のみを上記データベース手段に保存することを特徴とする請求項1記載の群管理システム。
【請求項6】
上記特定の階には、定常的に乗客の乗り降りが多い階あるいは時間的に交通需要が高くなる階が含まれることを特徴とする請求項5記載の群管理システム。
【請求項7】
上記割当制御手段は、
運転サービス可能な乗りかごの台数が変更された場合には上記データベース手段を利用せずに通常の割当て探索を行うことを特徴とする請求項1に記載の群管理システム。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0003
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0003】
1.現在の割当が既に発生済みで未だサービスされていない呼び(未応答呼び)に与える影響
2.現在の割当が将来の呼びに与える影響
3.将来の呼び発生が今までに割当した全ての未応答呼びに与える影響
この中で、上記1の要因は扱い易いが、他の要因については、従来方式ではほとんど扱われていない。これは、従来の群管理方式と異なり、将来の仮想的な呼びを含む複数の呼びを同時に考慮する必要が生じるからである。つまり、複数の呼びに対し、すべての割当ての組合せの中から準最適な解を見つけ出す、一種の組合せ最適化演算を行わなくては
ならない。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
本実施形態に係る群管理システムは、複数台の乗りかごの運転を制御するエレベータの群管理システムにおいて、現在の呼びの状態および将来発生する呼びの予測に基づいて
、上記各乗りかごの運行曲線を予め設定された仮想呼びの個数の中で段階的に作成し、これらの運行曲線を比較しながら割当対象となるホール呼びを上記各乗りかごのいずれかに割り当てるための探索を行う割当制御手段と、この割当制御手段によって得られた探索結果に基づいて上記ホール呼びを上記各乗りかごの中の最適な乗りかごに割り当てる割当実行手段と、上記割当制御手段によって
上記ホール呼びの割当てを決めた運行曲線を有する探索結果を保存するためのデータベース手段とを具備し、上記割当制御手段は、任意の階で新たなホール呼びが発生した際に、
少なくともホール呼びの登録階と行先方向、上記各乗りかごの位置と運転方向を条件にして上記データベース手段から現状に近い運行曲線を有する探索結果を読み出し、その探索結果を参照して当該ホール呼びに対する割当ての探索範囲を絞り込むことを特徴とする。