上記目的は、溶媒中で、一般式(1)で表わされる3−ハロゲノ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノンと塩基性物質とを接触させることにより、グアイアシルビニルケトンを得る工程を含む、温和な条件下で効率よく高純度のグアイアシルビニルケトンを製造する方法により解決される。
前記塩基性物質が、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の重炭酸塩及びアルカリ金属のアルコキシドからなる群から選ばれる塩基性物質である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のグアイアシルビニルケトンの製造方法。
前記溶媒が水であり、かつ、前記塩基性物質がアルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩及びアルカリ金属の重炭酸塩からなる群から選ばれる塩基性物質である、請求項1又は2に記載のグアイアシルビニルケトンの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1に記載の方法によれば、グアイアシルビニルケトンが得られる。しかし、該方法は、高温下で反応しなければならず、さらに反応後に回収の難しい高沸点の溶媒を用いる点で、工業的規模でのグアイアシルビニルケトンの製造方法として不適なものである。また収率も24%と低く、反応効率が非常に低いという問題がある。
【0009】
そこで、グアイアシルビニルケトンと同じフェニルビニルケトン系化合物を製造する方法である、特許文献1及び非特許文献2に記載の方法を参照して、グアイアシルビニルケトンを製造しようとすることが考えられる。特許文献1及び非特許文献2に記載の方法は、出発物質として3−クロロ−1−(4−メトキシフェニル)−1−プロパノン又は3−クロロ−1−(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチル−プロパン−1−オンを用いて、4−ヒドロキシフェニルビニルケトン又はその誘導体を製造する方法である。しかし、これらの方法は、反応条件が正反対であり、しかも一方の文献には、他方の文献に記載の反応条件では反応が円滑に進行しないことが記載されている。
【0010】
このように、見かけ上、一部において化学構造が類似していると思われる出発物質であっても、反応条件が違えば、目的とする生成物が得られない可能性があることから、反応系を類推することは困難である。特に、非特許文献2に記載の塩基性物質を用いる反応条件は、カルボニル基のα水素が脱離してアルドール反応に進む条件やマイケル付加反応条件と重複すること、生成したビニルケトン類が反応して付加反応や重合反応が生じる可能性があることなどから、塩基性物質を用いる反応条件によって所望の目的物が得られるであろうと予測することは非常に困難である。
【0011】
そこで、本発明は、非特許文献1に記載の方法に比して、反応効率が高く、かつ、工業的規模での生産に適したグアイアシルビニルケトンを製造する方法を提供することを、発明が解決しようとする課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、グアイアシルビニルケトンを製造するにあたり、出発物質及び反応条件について鋭意研究を積み重ねたところ、出発物質として3−ハロゲノ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノンと塩基性物質とを反応させることによりグアイアシルビニルケトンを得ることに成功した。しかも、驚くべきことに、反応条件は極めて温和な条件に設定することができ、例えばアルコール類や水を溶媒とした場合には、室温付近で反応させることができることを見出した。また、使用する塩基性物質として苛性ソーダをはじめとする汎用の塩基性化合物が使用でき、さらに反応効率が高いことを見出した。本発明はこのような成功例や知見に基づき完成された発明である。
【0013】
したがって本発明によれば、溶媒中で、下記一般式(1)
【化1】
(1)
(式中、Xはハロゲン原子を示す。)
で表わされる3−ハロゲノ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノンと塩基性物質とを接触させることにより、グアイアシルビニルケトンを得る工程を含む、グアイアシルビニルケトンの製造方法が提供される。
【0014】
好ましくは、本発明の製造方法において、前記ハロゲン原子が塩素原子又は臭素原子である。
【0015】
好ましくは、本発明の製造方法において、前記溶媒がアルコール類又は水である。
【0016】
好ましくは、本発明の製造方法において、前記塩基性物質が、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の重炭酸塩及びアルカリ金属のアルコキシドからなる群から選ばれる塩基性物質である。
【0017】
好ましくは、本発明の製造方法において、前記溶媒が水であり、かつ、前記塩基性物質がアルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩及びアルカリ金属の重炭酸塩からなる群から選ばれる塩基性物質である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の製造方法によれば、非特許文献1に記載の方法に比して、3−ハロゲノ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノンから、温和な条件で、回収の容易な溶媒や汎用の塩基性物質を使用して収率よくグアイアシルビニルケトンを製造することができる。したがって、本発明の製造方法によれば、工業的規模でのグアイアシルビニルケトンの製造が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の詳細について説明する。
本発明のグアイアシルビニルケトンの製造方法は、溶媒中で、下記一般式(1)
【化2】
(1)
(式中、Xはハロゲン原子を示す。)
で表わされる3−ハロゲノ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノンと塩基性物質とを接触させることにより、グアイアシルビニルケトンを得る工程を少なくとも含む。
【0021】
3−ハロゲノ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノンは、上記一般式(1)に示されているとおり、プロパノン骨格の3位の炭素原子にハロゲン原子が付加された化合物である。3−ハロゲノ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノンは、上記一般式(1)に示される構造式を有するものであれば特に限定されず、例えば、分子中のハロゲン原子はフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などであることができ、好ましくは塩素原子及び臭素原子である。
【0022】
3−ハロゲノ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノンの取得方法は特に限定されないが、例えば、3−ヒドロキシ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノンから製造することができる。具体的には、非特許文献2に記載されている、3−ヒドロキシ−1−(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチル−プロパン−1−オンを濃塩酸中で加熱して3−クロロ−1−(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチル−プロパン−1−オンを合成する方法を応用すれば、3−ヒドロキシ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノンから、良好な収率及び純度で、3−ハロゲノ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノンが得られる。
【0023】
より具体的には、3−ヒドロキシ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノンを、約20質量倍の30〜50質量%のハロゲン化水素酸水溶液中で、40〜90℃で、0.5〜2時間程度反応させることにより、3−ハロゲノ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノンを、ほぼ定量的な収率で、結晶としてろ過分離することができる。この際に使用されるハロゲン化水素酸は特に限定されないが、例えば、塩酸、臭化水素酸、フッ化水素酸、ヨウ化水素酸などが挙げられ、好ましくは塩酸及び臭化水素酸である。
【0024】
3−ハロゲノ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノンの好ましい態様としては、操作性及び安全性の観点から、3−クロロ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノン及び3−ブロモ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノンが挙げられるが、より好ましくは3−クロロ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノンである。
【0025】
3−ハロゲノ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノンの使用量は系内の混合が可能な量であれば特に限定されず、例えば、溶媒の容量に対して0.1%(W/V)から50%(W/V)とすることができ、好ましくは1%(W/V)〜10%(W/V)である。
【0026】
本発明の製造方法に用いる溶媒としては3−ハロゲノ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノンに対して可溶性があるものであれば特に限定されないが、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、グライムなどのエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサンなどの炭化水素類;クロロフォルム、ジクロロメタン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;ジメチルフォルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性極性溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類などが挙げられるが、安全性、操作性及び塩基性物質の溶解性を考慮すれば、水及びアルコール類が好ましい。これらの溶媒は、単独又は2種以上を混合した混合溶媒であってもよい。
【0027】
溶媒の使用量は、3−ハロゲノ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノンの使用量によって適宜変更することができ、特に限定されないが、例えば、3−ハロゲノ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノンが流動する量として、3−ハロゲノ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノンに対して1〜100質量倍であり、3〜50質量倍が好ましい。
【0028】
使用する塩基性物質は、溶媒が塩基性(アルカリ)になることに寄与する物質であれば特に限定されないが、例えば、苛性ソーダ(NaOH)、苛性カリ(KOH)、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸ソーダ(Na
2CO
3)、炭酸カリ(K
2CO
3)、重炭酸ソーダ(NaHCO
3)、重炭酸カリ(KHCO
3)などの無機性塩基性物質;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、アンモニア、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム、ピリジン、トリエチルアミン、酢酸ソーダなどの有機性塩基性物質などが挙げられるが、この中でも、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の重炭酸塩及びアルカリ金属のアルコキシドは、廃棄処理が簡単であることなどの理由から、好適に使用できる。これらの塩基性物質は、単独又は2種以上を混合したものであってもよい。
【0029】
特に、溶媒として水を用い、かつ、塩基性物質としてアルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩及び/又はアルカリ金属の重炭酸塩を用いる場合は、本発明の製造方法は、経済性が高く、さらに溶液が強塩基性となり均一系で反応することができることから、簡便で、廃液の問題が軽減された方法となるという利点を有する。
【0030】
塩基性物質の使用量は、塩基性物質の種類、3−ハロゲノ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノンや溶媒の使用量などによって適宜変更でき特に限定されないが、例えば、3−ハロゲノ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノンから脱離するハロゲン化水素酸を中和できる量であり、好ましくは該ハロゲン化水素酸の0.85等量〜5.0等量であり、より好ましくは1.0〜3.0等量である。
【0031】
3−ハロゲノ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノンと塩基性物質との接触手段は、溶媒中で3−ハロゲノ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノンと塩基性物質とが接触すれば特に限定されず、例えば、所定量の溶媒を加えた容器に、3−ハロゲノ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノンの適当量を加えて撹拌しながら3−ハロゲノ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノンを溶媒中に溶解又は拡散させ、次いで塩基性物質を徐々に添加していくことが好ましい。3−ハロゲノ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノンと塩基性物質とが接触して反応することにより、グアイアシルビニルケトンが生成される。反応時の温度や時間などの条件は特に限定されず、例えば、0℃〜100℃であり、好ましくは15℃〜80℃であり、より好ましくは室温付近である。具体的には、アルコール類を溶媒とした場合には、10℃〜40℃とすることが好ましい。反応の時間は、溶媒や塩基性物質の性質、反応温度などによって適宜設定することができるが、例えば、0.5〜5.0時間程度であり、好ましくは1.0〜3.0時間程度である。反応の終点は、実施例1に記載の条件のHPLCや薄層クロマトグラフなどの3−ハロゲノ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノンやグアイアシルビニルケトンを検出する方法で、原料化合物の消失や生成物の生成量を確認するなどして決定することができる。
【0032】
また、本発明の製造方法では、3−ヒドロキシ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノンとハロゲン化水素酸水溶液とを反応させることにより得られた3−ハロゲノ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノンを、ハロゲン化水素酸水溶液と非相溶性の有機溶媒で抽出して、次いでこの有機溶媒に塩基性物質を加えることにより、3−ハロゲノ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノンと塩基性物質とを接触させることにより達成できる。
【0033】
ハロゲン化水素酸水溶液と非相溶性の有機溶媒としては、3−ハロゲノ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノンが溶解し得る有機溶媒であれば特に限定されないが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサンなどの炭化水素類;クロロフォルム、ジクロロメタン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;前記した本発明の製造方法に用いる溶媒などを挙げることができ、これらを単独又は2種以上を混合したものであってもよい。
【0034】
本発明の製造方法では、溶媒中で、3−ハロゲノ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノンと塩基性物質とを接触させることにより、グアイアシルビニルケトンが得られる。グアイアシルビニルケトンは、下記式(2)に示す1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−2−プロペン−1−オンであり、重合性官能基であるビニル基を有することから、高分子材料のモノマー成分として使用可能な有用物質である。
【化3】
(2)
【0035】
グアイアシルビニルケトンは、中性付近では水に対して不溶性のオイル状を呈する。そこで、反応終了後は、水と水に対して非相溶性の有機溶媒との二相系として、グアイアシルビニルケトンを有機溶媒層に移行させ、かつ、反応の結果生成した塩類を水層に移行させることにより、目的物質であるグアイアシルビニルケトンと水に可溶性の物質とを分離することが好ましい。
【0036】
例えば、反応終了後に、反応混合物に水及び酸を加え、又は水を加えた後に酸を加えて、過剰の塩基性物質を中和する。得られた中和物に、必要に応じて反応に使用した溶媒を留去して、水に非相溶性の有機溶媒を加えて、水層と有機溶媒層との二相系として、グアイアシルビニルケトンを有機溶媒層に移行させ抽出する。
【0037】
中和に用いる酸は反応混合物中の塩基性物質を中和し得る酸であれば特に限定されず、例えば、塩酸、硫酸、臭化水素酸、リン酸、酢酸などが使用できる。中和後の水層の液性は、pHとして、3.0〜9.0とするのが好ましい。また、この際に用いる抽出用の水に非相溶性の有機溶媒としては、グアイアシルビニルケトンが溶解し得るものであれば特に限定されないが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサンなどの炭化水素類;クロロフォルム、ジクロロメタン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;ブタノール、ヘキサノールなどのアルコール類などが挙げられ、これらを単独で、又は2種以上を混合して使用できる。
【0038】
グアイアシルビニルケトンを含む有機溶媒層からグアイアシルビニルケトンを得る方法は特に限定されず、例えば、該有機溶媒層から常圧下又は減圧下に有機溶媒を留去することにより、グアイアシルビニルケトンを無色〜わずかに褐色に着色した液体として得ることができる。
【0039】
反応後の溶液からグアイアシルビニルケトンを抽出する操作における、水、酸及び水に対して非相溶性である有機溶媒の量は特に限定されず、当業者により適宜設定できる。また、グアイアシルビニルケトンの収率を高めるために、抽出の際に分離された水層に水に対して非相溶性である有機溶媒を添加して再抽出する操作を1〜複数回繰返してもよい。さらに、高純度のグアイアシルビニルケトンを得るために、抽出後の有機溶媒層を水などで1〜複数回洗浄してもよい。
【0040】
上記した操作を通じて、グアイアシルビニルケトンは、各成分の含有量、塩基性物質及び溶媒の組合せ、溶液のpH、反応温度や時間などの条件を適宜設定することにより、90%以上、好ましくは95%以上の高純度で得ることが可能である。したがって、本発明の製造方法によって得られたグアイアシルビニルケトンは、その後の精製操作を経ることなく、その状態のままで高分子化合物の製造のためのモノマー成分として利用できる。
【0041】
さらに精製してより高純度なグアイアシルビニルケトンを得るためには、後述する実施例1に記載されているような、本発明の製造方法によって得られたグアイアシルビニルケトンを、シリカゲルや逆相C−18充填剤などを用いたカラム処理や真空蒸留などの通常知られている有機化合物を精製する手段に供すればよい。
【0042】
本発明の製造方法では、本発明の目的を達成し得る限り、上記した工程の前段若しくは後段又は工程中に、種々の工程や操作を加入することができる。
【0043】
本発明の製造方法の具体的態様は、例えば、以下のとおりであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
[具体的態様1]
水、アルコール類又はこれらの混合液に、3−ハロゲノ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノンを加えて、10〜45℃で撹拌することにより、3−ハロゲノ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノン含有溶液を得る。得られた3−ハロゲノ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノン含有溶液を撹拌しながら、無機又は有機の塩基性物質を少量ずつ10〜45℃下で加える。得られた塩基性物質を添加した溶液を数分間〜数時間、10〜80℃で撹拌して反応させる。3−ハロゲノ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノンの消失を確認した後、反応後の溶液に、水及び酸を徐々に滴下してpHを3.0〜9.0に調整し、次いで必要に応じてアルコール類を留去した後に、水に対して非相溶性である有機溶媒を加えてグアイアシルビニルケトンを抽出分離する。また、該有機溶媒を使用して水層を再抽出する。これを1〜複数回繰返す。得られた抽出液(有機溶媒層)を合わせ、水で洗浄する。洗浄後の抽出液から、該有機溶媒を減圧下又は低温下に留去し、グアイアシルビニルケトンを得る。
【0044】
本発明の製造方法によって得られるグアイアシルビニルケトンは、重合性官能基であるビニル基を有することから、高分子物質を製造する際のモノマー成分とすることができ、例えば、
図1に示すように、それ単体で、又は架橋剤や他のモノマー成分と供に重合させることができる。さらに、グアイアシルビニルケトンは、レジストなどの光感受性組成物の製造用原料として有用である。
【0045】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
【実施例】
【0046】
[実施例1]
20mlのエタノールを加えた100mlの三角フラスコに、3−クロロ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノン 1.41g(0.0066モル)を室温で撹拌しながら溶解させた。この溶液に、ナトリウムエトキシド 0.9g(0.0132モル)を室温下に加え、1.5時間反応させて、グアイアシルビニルケトンを得た。以下のHPLC条件では、原料の3−クロロ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノンは保持時間9.9分で検出され、目的物のグアイアシルビニルケトンは保持時間8.9分で検出された。反応終了後には、原料のピークである9.9分の保持時間のピークは消失した。
【0047】
HPLC条件:
装置:ウォーターズ2795、2998
カラム:X−bridgeC18,3.5μ,径4.6mm×100mm,(30℃)
キャリヤー:(A)2mM−NH
4OAc aq.(0.05%V/V Formic acid)、(B)MeOH
グラジエント:5%V/V MeOH(1min),MeOH 5%V/V→95%V/V(1〜15min),95%V/V MeOH(15〜18min)
検出器:UV300nm
【0048】
反応終了後、反応混合物に水 10ml及び10%(W/W)塩酸 2.4gを加えることにより、過剰のナトリウムメトキシドを中和した。反応混合物中のエタノールを減圧下に留去したところ褐色のオイル状物が分離された。このオイル状物を含む残渣に酢酸エチル 10mlを加え、50ml容量の分液ロートに移した。水層のpHは約4.0であった。
【0049】
酢酸エチル層を分離して水 5mlで洗浄した。洗浄後の酢酸エチル層をエバポレーターに移し、減圧下に酢酸エチルを留去した。粗製状態のグアイアシルビニルケトン 1.22g(収率104%)が淡褐色のオイル状物として得られた。HPLC純度は93%であった。
【0050】
粗製グアイアシルビニルケトンの全量を以下のようにカラム処理して精製した。
ワコーゲルC200を内径21mmのガラスカラムに100mm充填し、トルエンを供給した。充填剤がトルエンで満たされた後、ここに粗製グアイアシルビニルケトンをトルエン 6mlに溶解して供給した。トルエンを溶媒として展開し、20mlずつのフラクションを採取した。目的物の含有されているフラクションを、薄層クロマトグラフで確認して回収した後、エバポレーターで減圧下にトルエンを留去したところ、精製されたグアイアシルビニルケトン 0.75gを得た。精製収率は61%であり、HPLC純度は99%であった。
【0051】
得られた精製グアイアシルビニルケトンを、以下の条件の逆相UPLC−飛行時間型精密質量分析(ACCUITY UPLC H−Class,XevoG2 QTOF;ウォーターズ社製)にかけ、マススペクトルを測定したところ、177.0550の負イオンを検出した。これは目的物の分子量−1に相当する。
【0052】
逆相UPLC条件
カラム;ACQUITY UPLC HSS T3 C18 Column,1.8μm、2.1mm x 100mm(ウォーターズ製)、
溶離液;(A)[2mM 酢酸アンモニウム、0.05%V/V ギ酸]、(B)メタノール、
送液:溶離液(B)0−5分 5%V/V−95%V/V;溶離液(B)5−7分 95%V/V、
カラム温度;40℃、流速;0.4ml/min
【0053】
質量分析条件
検出質量範囲100−1000Da、データ取得スキャン間隔0.1秒、デソルベーションガス温度 500℃、イオンソース ESIネガティブモード イオンソース温度150℃、コーン電圧20V
【0054】
次に、精製グアイアシルビニルケトンを、400MHzの核磁気共鳴吸収装置に供して測定したNMRスペクトルの結果及び帰属を示す。これらの測定結果は測定対象物がグアイアシルビニルケトンの構造を有することを支持する。
【0055】
1H−NMR測定結果(CD3COCD3溶媒)
3.93ppm(s,3H)−OCH3
5.85ppm(dd,1H,J=10.4Hz,J=2Hz) C=CH2
6.35ppm(dd,1H,J=16.8Hz,J=2Hz) C=CH2
6.95ppm(d,1H,J=8.4Hz)芳香族−H(5位)
7.39ppm(dd,1H,J=16.8Hz,J=10.4Hz)−CH−
7.61ppm(d,1H,J=2Hz)芳香族−H(2位)
7.64ppm(dd,1H,J=8.4Hz,J=2Hz)芳香族−H(6位)
【0056】
[実施例2]
25mlの水を加えた50mlの三角フラスコに、3−クロロ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノン 0.61g(0.00284モル)を室温で撹拌しながら溶解させた。この溶液に、1M−NaOH水溶液 5.69g(0.00569モル)を室温で徐々に加えたところ、黄色の均一な反応液を得た。この反応液を、室温で0.5時間及び65℃で1時間反応させた。原料のピークが消失したことを実施例1に記載の条件で実施したHPLCにより確認した。
【0057】
上記反応の終了後、反応液を室温まで冷却し、さらに10%(W/W)塩酸 1.06g(0.00290モル)で中和してpHを約5としたところ、水溶媒の中に褐色のオイル状物が分離した。ここに、酢酸エチル 10mlを加えて、50ml容量の分液ロートに移し酢酸エチル層を採取した。さらに水層を酢酸エチル 10mlで抽出し、計2回抽出を行った。抽出液を水 5mlで洗浄し、酢酸エチル層から揮発分をエバポレーターで減圧下に留去したところ、淡褐色のオイル状のグアイアシルビニルケトン 0.51g(収率100%)が得られた。HPLCによる純度は97%であった。不純物として2%の3−ヒドロキシ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−プロパノンを含んでいた。
【0058】
[参考例1]
5ml容量の試験管に、モノマー成分として実施例2で得られたグアイアシルビニルケトン 0.16g(0.00090モル)と、溶媒としてモレキュラーシブス3Aで2日間乾燥したテトラヒドロフラン 1gと、ラジカル開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル 7mgとを加えた。この試験管をシリコンゴム栓で封じた後、窒素置換した。この試験管を60℃のシリコンオイルバスに浸けて、44.5時間反応させた。反応後、試験管中の反応混合物から、減圧下に溶媒を留去したところ、フラスコ壁に膜状物が付着した。この膜状物の重量は0.15gであり、収率は94%であった。この膜状物を機械的に掻きとると白色粉末となった。
【0059】
この白色粉末は、メタノール、テトラヒドロフラン、アセトンなどに溶解し、クロロフォルムには溶解しなかった。この粉末をテトラヒドロフラン溶液として試験管に入れ、溶媒を留去することによって透明の膜が形成した(
図1を参照)。また、この透明の膜は、希薄な苛性ソーダ水溶液に溶解することができた。
【0060】
上記白色粉末をプロトンNMR(CD3COCD3溶媒)に供したところ、グアイアシルビニルケトンのスペクトルで見られる5.85ppm及び6.35ppmの二重結合に基づく吸収が消失し、高分子のメチンプロトンとメチレンプロトンにそれぞれ帰属される3.0ppm付近と1.9ppm付近に新しい吸収が認められた。
【0061】
上記白色粉末の高分子は、アルカリ水溶液に溶解したのち、塩酸などの酸性物質で中和して沈殿させ、濾過水洗することにより精製品を得ることができた。