【解決手段】ポリアミンのアルキレンオキサイド付加物(A)と、N−アシルアミノ酸、N−アルキルアミノ酸、N−アルケニルアミノ酸およびN−アラルキルアミノ酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の変性アミノ酸(B)と、水と、を含有する固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工液。
ポリアミンのアルキレンオキサイド付加物(A)と、N−アシルアミノ酸、N−アルキルアミノ酸、N−アルケニルアミノ酸およびN−アラルキルアミノ酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の変性アミノ酸(B)と、水と、を含有する固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工液。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工液(以下、単に「水溶性加工液」という。)は、固定砥粒ワイヤソーにより被加工材料を切削加工する際に用いられるものである。
「水溶性」は、本発明の水溶性加工液を水で希釈した場合に水に溶解することを意味する。
本発明の水溶性加工液は、ポリアミンのアルキレンオキサイド付加物(A)(以下、「(A)成分」という)と、N−アシルアミノ酸、N−アルキルアミノ酸、N−アルケニルアミノ酸およびN−アラルキルアミノ酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の変性アミノ酸(B)(以下、「(B)成分」という)と、水と、を含有する。
水を含有することで安全性が向上し、環境に対する悪影響が少なくなる。
(A)成分を含有することで、水の含有量が多い場合でも、優れた浸透性が発揮され、固定砥粒ワイヤソーや被加工材料の加工部位に水溶性加工液が到達しやすい。そのため、切削加工時の冷却効率等が向上し、優れた切削性で切削加工を行うことができる。また、切削加工時に生じる切り屑の洗浄性も向上する。
(B)成分は潤滑性の向上に寄与する。(A)成分に加えて(B)成分を含有することで、水の含有量が多く、(A)成分と(B)成分との合計量が少ない場合でも、優れた潤滑性が発揮され、固定砥粒ワイヤソーの固定砥粒の剥離、ワイヤの磨耗等が抑制されるため、切削性が向上する。また、pHが低下するため、当該水溶性加工液と接触するワイヤソーや加工機器の腐食を防ぐことができる。
さらに、本発明の水溶性加工液は、(A)成分と(B)成分とを含有することで、固定砥粒ワイヤソーにより被加工材料、特に脆性材料を切削加工した際に生じる切削屑が、当該水溶性加工液中で凝集しやすくなっている。そのため、水溶性加工液と切削屑とを含む切削後の加工液は、室温(約25℃)の下で短時間の遠心分離処理等の簡単な操作によって二層に分離するので、下層(切削屑の沈殿層)を除去することで、切削後の加工液から容易に切削屑を除去できる。回収した上層は、そのまま、又は下層とともに除去された成分((A)成分、(B)成分、水等)を必要に応じて添加することで、水溶性加工液として再利用できる。
【0010】
(A)成分において、ポリアミンとは、1分子中にアミノ基またはイミノ基を2個以上有する化合物であり、ポリアミンのアルキレンオキサイド付加物とは、ポリアミン分子中のアミノ基またはイミノ基が有する活性水素のところにアルキレンオキサイドを、ポリアミン1モルに対して1モル以上付加した化合物である。
活性水素は、アミノ基またはイミノ基の窒素原子に結合した水素原子であり、アミノ基には2個、イミノ基には1個の活性水素が含まれる。
【0011】
ポリアミンは、炭素数が2〜12であることが好ましく、2〜6であることが特に好ましい。
ポリアミンが有するアミノ基またはイミノ基の数(アミノ基およびイミノ基を両方有する場合はそれらの合計数)は、2〜6が好ましく、2〜3が特に好ましい。
ポリアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、メチルアミノエチルアミン、エチルアミノエチルアミン、2,5−ジメチルヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、メチルアミノプロピルアミン、エチルアミノプロピルアミン、N,N’−ジ−tert−ブチルエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、イミノビスプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、ビス(へキサメチレン)トリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミンなどの脂肪族ポリアミン、シクロヘキサンジアミンなどの脂環式ジアミンが挙げられる。これらのなかでも、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ジエチレントリアミンが好ましく、エチレンジアミンが特に好ましい。
【0012】
ポリアミンに付加するアルキレンオキサイドとしては、炭素数2〜4のものが好ましく、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、1,2−、2,3−、1,3−および1,4−ブチレンオキサイドなどが挙げられる、これらの中でも、エチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイドが好ましい。
ポリアミンに付加するアルキレンオキサイドは1種でも2種以上でもよい。2種以上のアルキレンオキサイドを付加する場合には、その付加の形態はブロック付加、ランダム付加のいずれでもよく、付加の順序も特に問わない。
アルキレンオキサイドの付加モル数は、浸透性、潤滑性の観点から、ポリアミン1モルに対して3〜100モルが好ましく、4〜70モルであることが特に好ましい。
本発明においては、ポリアミンが有するアミノ基またはイミノ基由来の活性水素の全てに、アルキレンオキサイドが付加することが好ましい。例えば、ポリアミンがエチレンジアミンである場合、エチレンジアミンの4個の活性水素にアルキレンオキサイドが付加することが好ましい。
【0013】
(A)成分としては、浸透性、潤滑性、洗浄性の向上効果に優れることから、下記一般式(I)で表される化合物が好ましい。
R
1−((R
2O)
n−H)
m (I)
式中、mは2〜8の数を表し、3〜8が好ましく、3〜6がより好ましい。
nは0〜25の数を表し、式中のm個のnは同一でも異なっていてもよい。ただしm個のnが全て0であることはない。つまりm個のnのうちの少なくとも1つは1〜25である。
R
1は、ポリアミンからアミノ基またはイミノ基の全ての活性水素をm個除いた残基を表す。ポリアミンとしては、活性水素をm個有するものであればよく、前記で挙げたポリアミンのなかから適宜選択できる。
R
2Oは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表し、オキシエチレン基またはオキシプロピレン基が好ましい。式中のn×m個のR
2Oは同一でも異なっていてもよい。
【0014】
(A)成分は、ポリアミンにアルキレンオキサイドを付加することによって得ることができる。アルキレンオキサイドの付加は、アミン化合物にアルキレンオキサイドを付加する通常の方法により実施できる。
(A)成分としては市販品を使用することも可能で有り、例えば、エチレンジアミンのプロピレンオキサイド・エチレンオキサイドブロック付加物であるアデカプルロニック TR701、TR702などのアデカプルロニックTRシリーズ(ADEKA社製)などが挙げられる。
【0015】
水溶性加工液中の(A)成分の含有量は、水溶性加工液の総質量に対し、0.15〜9質量%が好ましく、0.3〜2質量%がより好ましく、0.4〜1質量%が特に好ましい。(A)成分の含有量が0.15質量%未満では浸透性が不足して加工液が切削面まで充分に到達しない懸念がある。(A)成分の含有量が9質量%を超えると切削性が低下する懸念や発泡し易くなる懸念がある。
(A)成分は1種を単独で使用してもよく、2種以上を使用してもよい。
【0016】
(B)成分は、N−アシルアミノ酸、N−アルキルアミノ酸、N−アルケニルアミノ酸およびN−アラルキルアミノ酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の変性アミノ酸である。
【0017】
<N−アシルアミノ酸>
N−アシルアミノ酸は、アミノ酸のアミノ基またはイミノ基の窒素原子に結合した水素原子の少なくとも1つがアシル基で置換された化合物である。
アシル基で置換される前のアミノ酸としては、特に限定されず、例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸、α−アミノアジピン酸、システイン酸、ホモシステイン酸等の酸性アミノ酸;グリシン、N−メチルグリシン(サルコシンともいう。)、N−β−ヒドロキシエチルグリシン、アラニン、N−メチル−β−アラニン、アミノ酪酸、バリン、ロイシン、イソロイシン、シスチン、ホモシスチン、システイン、ホモシステイン、メチオニン、シスタチオニン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、プロリン、4−ヒドロキシプロリン等の中性アミノ酸;リシン、オルニチン、ヒドキシリシン、アルギニン、ヒスチジン等の塩基性アミノ酸;等が挙げられる。
【0018】
アシル基は、脂肪族アシル基でも芳香族アシル基でもよい。
脂肪族アシル基は、式:R−C(=O)−で表すことができる。式中、Rは脂肪族基である。脂肪族基としては、脂肪族カルボン酸から1つのカルボキシ基を除いた基が挙げられ、例えばアルキル基、アルケニル基等が挙げられる。脂肪族基は、飽和でも不飽和でもよく、直鎖状でも分岐鎖状でもよい。
脂肪族アシル基の炭素数は、切削性に優れることから、8以上が好ましく、8〜22が好ましく、8〜18がより好ましい。
芳香族アシル基は、式:R’−C(=O)−で表すことができる。式中、R’は芳香族基である。芳香族基としては、芳香族カルボン酸から1つのカルボキシ基を除いた基が挙げられ、例えばアリール基、アルキルアリール基、アラルキル基等が挙げられる。
芳香族アシル基の炭素数は、切削性に優れることから、15〜25が好ましい。
N−アシルアミノ酸が有するアシル基としては、炭素数8〜22の脂肪族アシル基または炭素数15〜25の芳香族アシル基が好ましい。
【0019】
N−アシルアミノ酸として具体的には、N−アシルアスパラギン酸、N−アシルグルタミン酸、N−アシル−α−アミノアジピン酸、N−アシルシステイン酸、N−アシルホモシステイン酸等のN−アシル酸性アミノ酸;N−アシルグリシン、N−アシルアラニン、N−アシル−β−アラニン、N−アシルセリン、N−アシルトレオニン、N−アシルフェニルアラニン等のN−アシル中性アミノ酸;N−アシル−N−メチルアスパラギン酸、N−アシル−N−メチルグルタミン酸、N−アシル−N−メチル−α−アミノアジピン酸、N−アシル−N−メチルシステイン酸、N−アシル−N−メチルホモシステイン酸等のN−アシル−N−アルキル酸性アミノ酸;N−アシル−N−メチル−β−アラニン、N−アシルサルコシン等のN−アシル−N−アルキル中性アミノ酸;ジアシルリシン、ジアシルオルニチン等のジアシル塩基性アミノ酸;等が挙げられる。これらのN−アシルアミノ酸は、光学異性に関わらずに使用することができる。これらのN−アシルアミノ酸は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0020】
N−アシルアミノ酸は、公知の方法により得ることができる。例えば、アミノ酸またはその塩とカルボン酸ハライドとを、塩基の存在下、水性溶媒中で反応させるショッテン−バウマン反応によりアミド誘導体を得た後、塩酸等の酸によって反応液を微酸性にすることで、N−アシルアミノ酸として単離することができる。
このとき使用されるアミノ酸としては、前記で挙げたものと同様のものが挙げられる。
アミノ酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。
アミノ酸またはその塩は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0021】
カルボン酸ハライドを構成するハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、フッ素原子等が挙げられる。これらの中でも、反応後の塩の処理のしやすさから、塩素原子が好ましい。すなわち、カルボン酸ハライドはカルボン酸クロリドであることが好ましい。
カルボン酸ハライドとしては、脂肪族カルボン酸でも芳香族カルボン酸でもよく、アミノ酸に導入するアシル基に応じたものが用いられる。カルボン酸ハライドの炭素数は炭素数8以上が好ましい。
脂肪族カルボン酸ハライドは、飽和でも不飽和でもよく、直鎖状でも分岐鎖状でもよい。脂肪族カルボン酸ハライドの炭素数は8〜22が好ましく、8〜18がより好ましい。
脂肪族カルボン酸ハライドとしては、例えば、カプリル酸ハライド、カプリン酸ハライド、ドデカン酸ハライド、テトラデカン酸ハライド、ヘキサデカン酸ハライド、オクタデカン酸ハライド、ドコサン酸ハライド、cis−9−オクタデセン酸ハライド(オレイン酸ハライドともいう。)、ヤシ油脂肪酸ハライド、牛脂脂肪酸ハライド等が挙げられる。なお、ヤシ油脂肪酸ハライド、牛脂脂肪酸ハライドは、混合脂肪酸ハライドである。
芳香族カルボン酸の炭素数は、15〜25が好ましい。
芳香族カルボン酸ハライドとしては、アルキルベンゾイルハライドが好ましく、例えば、p−(n−オクチル)ベンゾイルハライド、p−(n−デシル)ベンゾイルハライド、p−(n−ドデシル)ベンゾイルハライド、p−(n−オクタデシル)ベンゾイルハライド等が挙げられる。
これらのカルボン酸ハライドは、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
カルボン酸ハライドの使用量は、通常、アミノ酸1モルに対して0.5〜2モルが好ましく、0.7〜1.1モルがより好ましい。
【0022】
アミノ酸とカルボン酸ハライドとの反応の際に用いる塩基としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
アミノ酸とカルボン酸ハライドとの反応の際に用いる水性溶媒としては、使用するアミノ酸およびカルボン酸ハライドが溶解するものであればよく、水、親水性有機溶剤と水との混合物等が挙げられる。親水性有機溶剤としては、例えばイソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、ターシャリブチルアルコール等が挙げられる。水性媒体は、使用するアミノ酸およびカルボン酸ハライドに応じて適宜選択できる。
【0023】
<N−アルキルアミノ酸>
N−アルキルアミノ酸は、アミノ酸のアミノ基またはイミノ基の窒素原子に結合した水素原子の少なくとも1つがアルキル基で置換された化合物である。
アルキル基で置換される前のアミノ酸としては、前記と同様のものが挙げられる。
アルキル基は直鎖状でも分岐鎖状でもよい。アルキル基の炭素数は8〜22が好ましい。
N−アルキルアミノ酸として具体的には、N−アルキルアスパラギン酸、N−アルキルグルタミン酸、N−アルキル−α−アミノアジピン酸、N−アルキルシステイン酸、N−アルキルホモシステイン酸等のN−アルキル酸性アミノ酸;N−アルキルグリシン、N−アルキルアラニン、N−アルキル−β−アラニン、N−アルキルセリン、N−アルキルトレオニン、N−アルキルフェニルアラニン等のN−アルキル中性アミノ酸;N−アルキル−N−メチルアスパラギン酸、N−アルキル−N−メチルグルタミン酸、N−アルキル−N−メチル−α−アミノアジピン酸、N−アルキル−N−メチルシステイン酸、N−アルキル−N−メチルホモシステイン酸等のN−アルキル−N−メチル酸性アミノ酸;N−アルキル−N−メチル−β−アラニン、N−アルキルサルコシン等のN−アルキル−N−メチル中性アミノ酸;ジアルキルリシン、ジアルキルオルニチン等のジアルキル塩基性アミノ酸;等が挙げられる。これらのN−アルキルアミノ酸は、光学異性に関わらずに使用することができる。
N−アルキルアミノ酸は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0024】
N−アルキルアミノ酸は公知の方法により得ることができる。
例えば、アミノ酸またはその塩と、アルキルハライドとを、塩基の存在下、水性溶媒中で反応させるショッテン−バウマン反応によりアミド誘導体を得た後、塩酸等の酸によって反応液を微酸性にすることで、N−アルキルアミノ酸またはN−アルケニルアミノ酸として単離することができる。
この反応は、カルボン酸ハライドの代わりにアルキルハライドを用いる以外は、前記N−アシルアミノ酸の説明で挙げた方法と同様にして実施できる。
アルキルハライドを構成するハロゲン原子としては、カルボン酸ハライドを構成するハロゲン原子と同様のものが挙げられる。
アルキルハライドが有するアルキル基は前記と同様である。アルキルハライドとしては、例えば、n−オクチルハライド、n−デシルハライド、n−ドデシルハライド、n−テトラデシルハライド、n−ヘキサデシルハライド、n−オクタデシルハライド等が挙げられる。アルキルハライドは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0025】
N−アルキルアミノ酸を得る他の方法として、アルキルアミンを出発原料として用いる方法も挙げられる。
例えば、アルキルアミンにモノクロル酢酸ナトリウムの水溶液を作用させることによってN−アルキルアミノアセチル酸ナトリウムを得た後、塩酸等の酸によって反応液を微酸性にすることで、N−アルキルアミノ酸[N−アルキルアミノアセチル酸]として単離することができる。
N−アルキルアミノアセチル酸に比べてアミノ基とカルボキシ基との間のメチレン基(−CH
2−)が1個多い(アミノ基とカルボキシ基との間のメチレン基が2個ある)構造のN−アルキルアミノ酸[N−アルキルアミノプロピオン酸]は、例えば、アルキルアミンに、60〜70℃でアクリル酸メチルを滴下し反応させてN−アルキルアミノプロピオン酸メチルを得た後、水酸化ナトリウムの水溶液を加え加熱してN−アルキルアミノプロピオン酸ナトリウムとし、その後、塩酸等の酸によって反応液を微酸性にすることで得ることができる。
N−アルキルアミノプロピオン酸は、アルキルアミンとアクリロニトリルとを反応させてN−アルキルアミノプロパンニトリルを得た後、水酸化ナトリウムの水溶液を加え加熱してN−アルキルアミノプロピオン酸ナトリウムとし、その後、塩酸等の酸によって反応液を微酸性にすることでも得ることができる。
上記の反応で用いるアルキルアミンが有するアルキル基は前記と同様である。アルキルアミンとしては、例えば、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、ドコシルアミン等が挙げられる。アルキルアミンは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0026】
<N−アルケニルアミノ酸>
N−アルケニルアミノ酸は、アミノ酸のアミノ基またはイミノ基の窒素原子に結合した水素原子の少なくとも1つがアルケニル基で置換された化合物である。
アルケニル基で置換される前のアミノ酸としては、前記と同様のものが挙げられる。
アルケニル基は直鎖状でも分岐鎖状でもよい。アルケニル基の炭素数は8〜22が好ましい。
N−アルケニルアミノ酸として具体的には、N−アルケニルアスパラギン酸、N−アルケニルグルタミン酸、N−アルケニル−α−アミノアジピン酸、N−アルケニルシステイン酸、N−アルケニルホモシステイン酸等のN−アルケニル酸性アミノ酸;N−アルケニルグリシン、N−アルケニルアラニン、N−アルケニル−β−アラニン、N−アルケニルセリン、N−アルケニルトレオニン、N−アルケニルフェニルアラニン等のN−アルケニル中性アミノ酸;N−アルケニル−N−メチルアスパラギン酸、N−アルケニル−N−メチルグルタミン酸、N−アルケニル−N−メチル−α−アミノアジピン酸、N−アルケニル−N−メチルシステイン酸、N−アルケニル−N−メチルホモシステイン酸等のN−アルケニル−N−メチル酸性アミノ酸;N−アルケニル−N−メチル−β−アラニン、N−アルケニルサルコシン等のN−アルケニル−N−メチル中性アミノ酸;ジアルケニルリシン、ジアルケニルオルニチン等のジアルケニル塩基性アミノ酸;等が挙げられる。これらのN−アルケニルアミノ酸は、光学異性に関わらずに使用することができる。
N−アルケニルアミノ酸は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0027】
N−アルケニルアミノ酸は公知の方法により得ることができる。
例えば、前記N−アルキルアミノ酸の説明で挙げた方法の反応原料であるアルキルハライドやアルキルアミンを、アルケニルハライドやアルケニルアミンに換えることにより得ることができる。
アルケニルハライドを構成するハロゲン原子としては、カルボン酸ハライドを構成するハロゲン原子と同様のものが挙げられる。アルケニルハライドが有するアルケニル基は前記と同様である。アルケニルハライドとしては、例えば、オクタデセニルハライド(オレイルハライドともいう。)等が挙げられる。アルケニルハライドは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
アルケニルアミンが有するアルケニル基は前記と同様である。アルケニルアミンとしては、例えば、オクタデセニルアミン(オレイルアミンともいう。)等が挙げられる。アルケニルアミンは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0028】
<N−アラルキルアミノ酸>
N−アラルキルアミノ酸は、アミノ酸のアミノ基またはイミノ基の窒素原子に結合した水素原子の少なくとも1つが、アルキル基が置換していてもよいアラルキル基(アリールアルキル基)で置換された化合物である。
アラルキル基で置換される前のアミノ酸としては、前記と同様のものが挙げられる。
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基等の無置換のアラルキル基でもよく、アルキルベンジル基、アルキルフェネチル基等のアルキルで置換されたアラルキル基でもよい。アラルキル基としては、特に、アラルキル基中のアリール基にアルキル基が結合したもの(アルキルアラルキル基)が好ましい。
アラルキル基の炭素数(アルキル基が置換している場合はその炭素数を含めた炭素数)は15〜25が好ましい。
アラルキル基としては、例えば、p−オクチルベンジル基、p−デシルベンジル基、p−ドデシルベンジル基、p−テトラデシルベンジル基、p−ヘキサデシルベンジル基、p−オクタデシルベンジル基等が挙げられる。
【0029】
N−アラルキルアミノ酸として具体的には、N−アラルキルアスパラギン酸、N−アラルキルグルタミン酸、N−アラルキル−α−アミノアジピン酸、N−アラルキルシステイン酸、N−アラルキルホモシステイン酸等のN−アラルキル酸性アミノ酸;N−アラルキルグリシン、N−アラルキルアラニン、N−アラルキル−β−アラニン、N−アラルキルセリン、N−アラルキルトレオニン、N−アラルキルフェニルアラニン等のN−アラルキル中性アミノ酸;N−アラルキル−N−メチルアスパラギン酸、N−アラルキル−N−メチルグルタミン酸、N−アラルキル−N−メチル−α−アミノアジピン酸、N−アラルキル−N−メチルシステイン酸、N−アラルキル−N−メチルホモシステイン酸等のN−アラルキル−N−メチル酸性アミノ酸;N−アラルキル−N−メチル−β−アラニン、N−アラルキルサルコシン等のN−アラルキル−N−メチル中性アミノ酸;ジアラルキルリシン、ジアラルキルオルニチン等のジアラルキル塩基性アミノ酸;等が挙げられる。これらのN−アラルキルアミノ酸は、光学異性に関わらずに使用することができる。
N−アラルキルアミノ酸は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0030】
N−アラルキルアミノ酸は公知の方法により得ることができる。
例えば、前記N−アルキルアミノ酸の説明で挙げた方法の反応原料であるアルキルハライドを、アラルキルハライドに換えることにより得ることができる。
アラルキルハライドを構成するハロゲン原子としては、カルボン酸ハライドを構成するハロゲン原子と同様のものが挙げられる。アラルキルハライドが有するアラルキル基は前記と同様である。アラルキルハライドとしては、例えば、p−オクチルベンジルハライド、p−デシルベンジルハライド、p−ドデシルベンジルハライド、p−テトラデシルベンジルハライド、p−ヘキサデシルベンジルハライド、p−オクタデシルベンジルハライド等が挙げられる。アラルキルハライドは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0031】
(B)成分としては、上記N−アシルアミノ酸、N−アルキルアミノ酸、N−アルケニルアミノ酸およびN−アラルキルアミノ酸のいずれか1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
水溶性加工液中の(B)成分の含有量は、水溶性加工液の総質量に対し、0.01〜1質量%が好ましく、0.03〜0.2質量%がより好ましく、0.04〜0.1質量%が特に好ましい。(B)成分の含有量が0.01質量%未満では充分な切削性が発揮されない懸念がある。(B)成分の含有量が1質量%を超えると、充分な切削性を保持することが難しくなる懸念や発泡し易くなる懸念がある。
【0032】
水としては、特に制限はないが、精製水、特に脱イオン水が好ましい。
水溶性加工液中、水の含有量は、安全性、環境等を考慮すると、水溶性加工液の総質量に対し、90〜99.8質量%が好ましく、90〜99.5質量%が特に好ましい。
【0033】
本発明の水溶性加工液は、上記各成分の組み合わせにより、潤滑性および浸透性が従来には無い優れたものとなっている。
本発明の水溶性加工液は、(A)成分0.15〜9質量%と、(B)成分0.01〜1質量%と、水90〜99.8質量%と、を含有するものであることが好ましい。このような組成を有することで、潤滑性、浸透性が特に優れたものとなり、冷却性等が向上して、固定砥粒ワイヤソーによる切削加工を優れた切削性で実施できる。
【0034】
本発明の水溶性加工液は、本発明の目的に反しない範囲で、防錆剤、消泡剤、酸化防止剤、金属不活性化剤、pH調整剤、および殺菌剤・防腐剤など、従来より用いられている添加剤を配合することができる。例えば、防錆剤としては、アルキルベンゼンスルフォネート、ジノニルナフタレンスルフォネート、アルケニルコハク酸エステル、多価アルコールエステルなどが挙げられる。消泡剤としては、シリコーン油、フルオロシリコーン油およびフルオロアルキルエーテルなどが挙げられる。酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤やアミン系酸化防止剤などが挙げられる。金属不活性化剤としては、イミダソリン、ピリジン誘導体、チアジアゾール、ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。pH調整剤としては、酢酸、ホウ酸、クエン酸、炭酸、アンモニア、重曹などが挙げられる。殺菌剤・防腐剤としては、パラオキシ安息香酸エステル類、安息香酸、サリチル酸、ソルビン酸、デヒドロ酢酸、p−トルエンスルホン酸およびそれらの塩類、フェノキシエタノールなどが挙げられる。
これらの添加剤の配合量は、その目的により量を決定すればよいが、通常、水溶性加工液全量に対して0.01〜5質量%程度である。
【0035】
本発明の水溶性加工液は、pHが4〜10であることが好ましく、5〜8であることが特に好ましい。pHが4未満では加工装置を錆びさせる懸念があり、pHが10を超えると被加工材料のシリコンを腐食させる懸念がある。
水溶性加工液のpHは、(A)成分と(B)成分の配合比率を調整する、pH調整剤を添加する等によって調製できる。
なお、該pHは20℃における値である。
【0036】
本発明の水溶性加工液は、水を90〜99.8質量%含有することが好ましいが、(A)成分の含有量および(B)成分の含有量を多くして水の含有量が少ない原液を調製しておき、使用時に、各成分の含有量が好ましい含有量になるように水で希釈して切削加工に用いることにも問題はない。
【0037】
本発明の水溶性加工液は、固定砥粒ワイヤソーにより被加工材料を切削加工する際に用いられる。
本発明の水溶性加工液は、潤滑性および浸透性に優れているため、固定砥粒ワイヤソーにより被加工材料を切削加工する際に優れた切削性を発揮し、高い加工精度で切削加工を行うことができる。
固定砥粒ワイヤソーとしては、公知のものが使用できる。
切削加工は、加工液として本発明の水溶性加工液を用いる以外は、公知の方法により実施できる。
被加工材料としては、固定砥粒ワイヤソーによる切削加工が可能なものであればよく、特に限定されないが、脆性材料が好適である。すなわち、本発明の水溶性加工液は、脆性材料、特にシリコンインゴットの切削加工において優れた切削性を発揮することから、脆性材料を固定砥粒ワイヤソーにより切削加工する方法に好適に用いられる。
本発明の水溶性加工液は、シリコンインゴットをワイヤソーで切削加工する際に好適に用いられるが、シリコン以外の脆性材料である水晶、カーボン、ガラス等を切削加工する際にもそのまま用いることができる。
【0038】
近年、生産性や経済性を向上させる観点から、加工液を再利用することが試みられている。インゴット等の切断に用いた加工液には切削屑が混入しているため、該加工液を再利用するにあたっては、切削屑を分離し、再生する作業が必要となる。
本発明の水溶性加工液は、(A)成分と(B)成分とを含有することで、再生が容易である利点をさらに有する。すなわち、(A)成分と(B)成分とを含有することで、固定砥粒ワイヤソーにより被加工材料、特に脆性材料を切削加工した際に生じる切削屑が、本発明の水溶性加工液中で凝集しやすくなっている。そのため切削後の加工液から、遠心分離などの簡単な操作で分離効率よく切削屑を分離でき、再生が容易である。
【0039】
本発明の水溶性加工液を用いた脆性材料の切削加工方法の好適な例として、下記の脆性材料の切削加工方法(1)が挙げられる。この脆性材料の切削加工方法(1)は、本発明の水溶性加工液中の組成、成分の効果により切削後加工液中の切削屑が凝集し、水溶性加工液から分離することを利用するもので、切削後加工液の再生を簡単な操作で短時間に行うことができる。しかも、切削屑と水溶性加工液との分離効率が優れているので、分離した前記切削屑を除去することによって得られる残液(上層)は、効率よく水溶性加工液として再利用できる。
【0040】
[脆性材料の切削加工方法(1)]
脆性材料を固定砥粒ワイヤソーにより切削加工する方法であって、
前記切削加工を、前記(A)成分と、前記(B)成分と、水と、を含有する固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工液(本発明の水溶性加工液)を用いて行う工程と、
前記切削加工で生じた、前記固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工液と前記脆性材料の切削屑とを含む切削後加工液から、少なくとも前記切削屑を除去する工程と、
前記切削後加工液から少なくとも前記切削屑を除去して得た残液を固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工液として再使用するか、または、前記残液に、前記(A)成分、前記(B)成分もしくは水を添加して固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工液を得て、当該固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工液を脆性材料の切削加工に使用する工程とを含み、
前記切削屑を除去する工程が、
前記切削後加工液を、前記固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工液を主成分とする上層と、前記切削屑の沈殿層(下層)とに分離する第1工程と、
前記第1工程で分離された前記切削後加工液から前記切削屑の沈殿層(下層)を除去する第2工程とを含む、脆性材料の切削加工方法。
【0041】
切削加工についての説明は上記と同様である。
切削屑を除去する工程の第1工程における分離は、例えば、切削後加工液を遠心分離する等により実施できる。
脆性材料の切削屑は、切削後加工液中で凝集しやすく、例えば室温(約25℃)で、短時間の遠心分離(例えば1000〜4000rpmで2〜3時間程度)といった簡単な操作でも、切削後加工液中の多くの切削屑が沈殿し、水溶性加工液を主成分とする上層と、前記切削屑の沈殿層(下層)とに分離する。
前記沈殿層(下層)はほぼ切削屑で構成されるが、水溶性加工液を構成する成分による凝集作用を利用して切削屑を沈殿させているため、沈殿層(下層)に、切削屑以外に水溶性加工液を構成する成分((A)成分、(B)成分、水等)の一部が含まれることがある。この場合、該沈殿層(下層)を切削後加工液から除去して得た残液は、水溶性加工液を構成する成分のいずれか1種以上の濃度が、最初(切削加工前に使用する前)の水溶性加工液中の濃度よりも低くなる。残液中の(A)成分、(B)成分、水の濃度がいずれも最初の水溶性加工液中の濃度の90質量%以上であれば、そのまま水溶性加工液として脆性材料の切削加工に再使用することができる。(A)成分、(B)成分、水のうち、残液中の濃度が最初の水溶性加工液中の濃度の90質量%未満となっている成分があれば、該成分を添加することで、脆性材料の切削加工に再使用できる。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明について実施例でもって更に詳しく説明するが、これらの実施例は本発明を制限するものではない。
以下、「部」は、特に言及しない限り、質量部を示す。
後述する実施例および比較例で使用した原料をまとめて以下に示す。
(A−1):エチレンジアミンのプロピレンオキサイド42モル・エチレンオキサイド6モルブロック付加体。
(A−2):エチレンジアミンのプロピレンオキサイド48モル・エチレンオキサイド16モルブロック付加体。
(b1−1):N−ラウロイルサルコシン。
(b1−2):N−オレオイルサルコシン。
(b2−1):N−ラウリルサルコシン。
(b3−1):N−オレイルサルコシン。
(b3−2):N−オレイルアスパラギン酸。
(b3−3):N−オレイル−β−アラニン。
(b3−4):N−オレイルリシン。
(b4−1):N−(p−ラウリルベンジル)サルコシン。
(D−1):ジエチレングリコール。
(D−2):プロピレングリコール。
(D−3):ジエチレングリコールモノメチルエーテル。
(D−4):N−オレオイルサルコシンカリウム塩。
【0043】
[実施例1]
(A−1)0.6部を水99.36部に溶解し、そこに、(b1−2)0.04部を加えて均一に混合、溶解することにより水溶性加工液を調製した。
この水溶性加工液を用いて下記往復摩擦試験、表面張力試験および切断性試験を行った。結果を表1に示す。
【0044】
1.往復摩擦試験:
表面試験機(トライボステーションType32、新東科学(株)製)を用い、該表面試験機の取扱説明書に従い、下記試験条件で500往復の動摩擦試験を行い、摩擦係数(動摩擦係数)を測定した。
該動摩擦係数が小さいほど、潤滑性が高いことを示す。固定砥粒ワイヤソー用の加工液用途において、該動摩擦係数は、好ましくは0.05〜0.20、より好ましくは0.07〜0.15である。動摩擦係数が大きすぎると潤滑性が不足し、動摩擦係数が小さすぎると切削時にワイヤの滑り等が生じ、切削性が低下するおそれがある。
(試験条件)
・球:直径6mmのSUJ2
・荷重:400g
・摺動距離:10mm
・摺動速度:500mm/分
・試験板:単結晶シリコン
・測定温度:20℃
【0045】
2.表面張力試験:
100mLのガラスビーカーに、調製した固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工液を50mL入れて、SURFACE TENSIOMETER CBVP−A3(協和界面科学社製)を用いて20℃における表面張力(mN/m)を測定した。
該表面張力が小さいほど、浸透性が高いことを示す。該表面張力は、好ましくは50mN/m以下、より好ましくは40mN/m以下である。
【0046】
3.切断性試験:
切断装置(マルチウェーハメーカー PV500D、コマツNTC株式会社製)を用い、下記の試験条件でワークの切断試験を行い、ウェーハを作製した。得られたウェーハの精度(Ra、Rz、SORI)を表面粗さ測定機(サーフコーダSE500−18D、(株)小坂研究所社製)により測定した。
Ra、Rz、SORIは、それぞれの値が小さいほどウェーハ精度が高いことを示す。Raは、1μm以下であることが必要であり、0.5μm以下が好ましい。Rzは、4μm以下であることが必要であり、2μm以下が好ましい。SORIは、70μm以下であることが必要であり、40μm以下が好ましい。
(試験条件)
・ワイヤー:芯線直径120μm、ダイヤ径15−20μm
・切断装置:コマツNTC株式会社製マルチウェーハメーカー PV500D
・ワーク:単結晶シリコンインゴット(125mm×125mm×190mmの直方体)
・ワイヤー線速度:900m/min
・フィード速度:1mm/min
・ワイヤー張力:25N
【0047】
[実施例2〜13、比較例1〜6]
表1〜表2に示す配合比となるように、使用する原料の種類および配合量を変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2〜13、比較例1〜6の水溶性加工液を調製した。
得られた水溶性加工液について、上記往復摩擦試験、表面張力試験および切断性試験を行った。結果を表1〜表2に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
表1〜表2の結果に示すとおり、実施例1〜13の水溶性加工液は、水を90質量%以上含んでいても適度な潤滑性と良好な浸透性を有していた。従って、これらの水溶性加工液を用いることにより、固定砥粒ワイヤソーによる切断加工を良好な切削性で行うことができ、実際、これらの水溶性加工液を用いた切断性試験では高精度なウェーハが得られた。また、洗浄性にも優れ、切り屑の除去を良好に行うことができる。また、該水溶性加工液は、水を大量に含むことから、作業環境や安全性の点でも優れた状態で切削加工を行うことができる。
一方、グリコール類と水との混合物である比較例1〜3の水溶性加工液、(A)成分とグリコール類と水との混合物である比較例4〜5の水溶性加工液はそれぞれ、動摩擦係数が0.20を超えており、潤滑性が低かった。また、表面張力も、実施例1〜13に比べて高く、浸透性に劣っていた。
(A)成分を含有しない比較例6の水溶性加工液は、ワークの切断試験の途中で泡が多くなり、ワークの切断試験を続けることができなかった。
【0051】
4.切削後加工液の再生確認試験:
前記3.切断性試験を行った後の、シリコン切削屑を含む使用済みの実施例1および実施例6の切削後加工液それぞれ200gを採取し、遠心分離装置(卓上多本架遠心機LC−220、トミー工業(株)製)を用いて3000rpmの回転数で2時間の遠心分離処理を行って、液層と固層に分離した。
この液層部分を取り出して、前記1.往復摩擦試験および2.表面張力試験と同様の操作で、摩擦係数(動摩擦係数)および表面張力(mN/m)の測定を行った。その結果、実施例1の切削後加工液から採取した液層は、動摩擦係数が0.10、表面張力が33.5mN/mであり、実施例6の切削後加工液から採取した液層は、動摩擦係数が0.10、表面張力が33.3mN/mであって、切削加工前と同様の値であった。
これらの結果から、実施例1、実施例6の水溶性加工液は、容易に再生利用できることが確認できた。
一方、前記3.切断性試験を行った後の、シリコン切削屑を含む使用済みの比較例1の切削後加工液200gを採取し、上記と同じ条件で遠心分離処理を行ったところ、比較例1の切削後加工液は、この条件では液層と固層に分離しなかった。