特開2015-168812(P2015-168812A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2015-168812マイクロ波非平衡プラズマによるバイオマスからの燃料ガス回収方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-168812(P2015-168812A)
(43)【公開日】2015年9月28日
(54)【発明の名称】マイクロ波非平衡プラズマによるバイオマスからの燃料ガス回収方法
(51)【国際特許分類】
   C10J 3/72 20060101AFI20150901BHJP
   C10J 3/00 20060101ALI20150901BHJP
【FI】
   C10J3/72 E
   C10J3/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-47119(P2014-47119)
(22)【出願日】2014年3月11日
(71)【出願人】
【識別番号】000116666
【氏名又は名称】愛知電機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】城 康彰
(57)【要約】
【課題】 バイオマスをプラズマにより直接燃料ガスに改質して回収することのできる燃料ガスの回収方法を提供する。
【解決手段】 真空ポンプ6によって減圧した反応管5内に供給管4から水蒸気を導入して、ここにマイクロ波発振器1からマイクロ波を照射することにより、プラズマ形成部Xに水プラズマを形成する。プラズマ形成部X内には試料台が設置されており、この資料台上に試料容器11からバイオマスを連続的に投下して水プラズマにより分解し、燃料ガスを生成する。生成した燃料ガスは排気管22を通して回収する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧した系内に水蒸気を導入して、ここにマイクロ波を照射することにより水プラズマを形成し、該水プラズマ形成部にバイオマスを投入することによってバイオマスを分解し、生成した燃料ガスを回収することを特徴とするマイクロ波非平衡プラズマによるバイオマスからの燃料ガス回収方法。
【請求項2】
減圧した系内に水蒸気を導入して、ここにマイクロ波を照射することにより水プラズマを形成し、該水プラズマ形成部にバイオマスを投入することによってバイオマスを分解し、生成した燃料ガスのうち一酸化炭素を水性シフト反応によって水素に変性して回収することを特徴とするマイクロ波非平衡プラズマによるバイオマスからの燃料ガス回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非平衡プラズマによりバイオマスを分解処理し、分解後の生成物として水素や一酸化炭素等の燃料ガスを高収率で得ることのできる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油や石炭などの化石燃料の使用は二酸化炭素の排出をもたらし、地球温暖化の原因となっている。また、産油国の政情不安や石油枯渇の問題も相まって、化石燃料に頼らないエネルギー利用の構築が重要視されている。
【0003】
また、世界の二酸化炭素排出量の20%が運輸部門によるものであり、自動車産業においても二酸化炭素削減は大きな課題とされる。そこで、近年、ガソリン自動車に代えて電気自動車や燃料電池自動車の開発がされ、注目を集めている。
【0004】
特に燃料電池自動車は、水素を燃料として発電しモーターを駆動して走行するものであるので、二酸化炭素等の排出ガスを出さず、運輸部門における二酸化炭素排出量の削減に大きく貢献できるものである。
【0005】
このような状況の下、燃料としての水素を大量に生成する必要が生じる。水素は天然には産出しないので、化石燃料から改質するか水を電気分解して生成するのが一般的である。
【0006】
或いは、近年、バイオマスをプラズマで分解して、水素等のガスに改質する方法も提案されている(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−147373
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、化石燃料を改質する場合、製造工程において二酸化炭素が発生するし、水を電気分解する場合も、電気分解に利用する電気の発電時に化石燃料が利用されるので、同様に二酸化炭素が発生してしまう問題がある。
【0009】
また、特許文献1に記載されるバイオマスをプラズマで分解し水素等のガスに改質する方法は、二酸化炭素の生成比率が低く、変換エネルギー効率を高くできる利点を有しているが、プラズマで分解する前段階で、バイオマスを低温ガス化する必要があり、迂遠である。
【0010】
そこで、本発明はバイオマスを前処理でガス化することなく、プラズマにより直接燃料ガスに改質して回収することのできる燃料ガスの回収方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1記載の発明は、減圧した系内に水蒸気を導入して、ここにマイクロ波を照射することにより水プラズマを形成し、該水プラズマ形成部にバイオマスを投入することによってバイオマスを分解し、生成した燃料ガスを回収することに特徴を有する。
【0012】
請求項2記載の発明は、減圧した系内に水蒸気を導入して、ここにマイクロ波を照射することにより水プラズマを形成し、該水プラズマ形成部にバイオマスを投入することによってバイオマスを分解し、生成した燃料ガスのうち一酸化炭素を水性シフト反応によって水素に変性して回収することに特徴を有する。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の発明によれば、前処理なくバイオマスを直接、燃料ガスに改質することができる。
【0014】
また、請求項1記載の発明によれば、二酸化炭素の生成を抑制し、高収率で水素や一酸化炭素等の燃料ガスを生成することができる。
【0015】
請求項2記載の発明によれば、燃料ガスのうち一酸化炭素を更に水素に変性することができるので、燃料としての水素の生成に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係るバイオマスの分解方法を実現する装置の全体構成図である。
図2】バイオマスの改質部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図1および図2を用いて説明する。図1は本発明によるバイオマスの分解および燃料ガスの回収方法を実現するための処理装置Aを示している。
【0018】
処理装置Aは、マイクロ波発振器1と、マイクロ波導波管2、バイオマスの供給管3、水蒸気の供給管4、内部にプラズマを発生させる反応管5、反応管5内の気圧を調整する真空ポンプ6と、反応管5内の気圧を測定する圧力計7によって概略構成されている。
【0019】
マイクロ波導波管2は、マイクロ波発振器1が発振したマイクロ波の反射を吸収して、マイクロ波が発振器1内に戻ることを防止するアイソレータ8と、マイクロ波の強度を調べるパワーモニタ9、マイクロ波を共振させることで、反応管5内のプラズマ形成部Xにマイクロ波の焦点を合わせるチューナ10を備えている。
【0020】
バイオマスの供給管3には、バイオマスを収容する試料容器11が操作バルブ12を介して連結されており、水蒸気の供給管4は一端を例えばバイオマスの供給管3に接続し、他端をオイルバス13内に浸水し、操作バルブ14,15を介して水供給管16と連通している。
【0021】
反応管5は、マイクロ波導波管2によって導かれるマイクロ波を通過可能とする透明の中空石英管であり、その上端には、バイオマスの供給管3を貫通させて、反応管5内部を外気と遮断する上側封止栓17が取り付けられている。
【0022】
反応管5の下端には、真空ポンプ5に接続される気圧調整管18を接続した下端封止栓19が取り付けられており、反応管5の外周には、反応管5内に照射されたマイクロ波が反応管5外部に漏洩することを防止するマイクロ波漏洩防止網20が取り付けられている。
【0023】
真空ポンプ6の後段には、反応管5内の気体(水素、一酸化炭素、酸素、炭化水素、二酸化炭素等)をサンプリングポート21又は排気管22間で切り換えて排出する切換弁23が取り付けられている。
【0024】
つづいて、上記の如く構成した処理装置Aを用いてバイオマスから燃料ガスを生成し回収する方法について説明する。バイオマスを分解処理する場合、図1に示す操作バルブ12を開放操作して、試料容器11から反応管5内にバイオマスを供給する。
【0025】
反応管5内に供給されたバイオマスは、図2に示す試料投入口24から反応管5内に設置した試料台25上に連続的に落下する(例えば33g/h)。なお、25aは試料台上に落下したバイオマスが零れ落ちることを防止する試料台カップである。
【0026】
次に、図1に示す操作バルブ14,15を開放操作して、水供給管16から供給した水をオイルバス13内で加熱、蒸発させて水蒸気を発生させる。発生した水蒸気は、水蒸気供給管4内を通過しバイオマス供給管3内を降下して、試料投入口24から反応管5内に供給される(例えば、22g/h)。この結果、反応管5内は水蒸気で満たされることとなる。
【0027】
次に、真空ポンプ6を起動して、下側封止栓19に接続される気圧調整管18を介して、反応管5内を真空引きして減圧する。このとき、反応管5内の気圧は圧力計7を利用して数百[Pa](例えば200[Pa])に調整する。
【0028】
つづいて、マイクロ波発振器1を起動して所定の出力(例えば500[W])のマイクロ波を出力すると、マイクロ波は導波管2からアイソレータ8を介してパワーモニタ9に伝播し、パワーモニタ9によって入射電力が検出される。このとき、アイソレータ8は反射したマイクロ波を吸収して、マイクロ波発振器1を保護することは前述した通りである。なお、反射したマイクロ波の電力はパワーモニタ9によって検出される。
【0029】
導波管2内を通過したマイクロ波はチューナ10によって共振され、反応管5のプラズマ形成部Xにおいてマイクロ波が最大量消費されるように、反応管5に照射される。
【0030】
照射されたマイクロ波は、透明石英管からなる反応管5を透過して反応管5内に入射し、反応管5内に充満する水蒸気に照射される。水蒸気は反応管5内のプラズマ形成部Xにおいて電離してプラズマ化される(水プラズマ)。
【0031】
このとき発生するプラズマは、反応管5内が数百[Pa]に減圧されているのでグロー放電によって生じる。グロー放電は、コロナ放電と比較してより広範囲で安定した放電であり、アーク放電と比較して低エネルギーで生じさせることができる。
【0032】
水プラズマが発生すると試料台25上のバイオマスは分解され、水素や一酸化炭素、炭化水素等の燃料ガスや不活性ガスである二酸化炭素を生成する。生成される比率は燃料ガスが95%以上であり、二酸化炭素は5%未満である。
【0033】
生成された燃料ガスおよび二酸化炭素は、反応管5の下部から気圧調整管18内を通過し、真空ポンプ6を介して切換弁23の操作によってサンプリングポート21からサンプル採取され、ガスの性状を分析したり、排気管22を介して回収される。
【0034】
回収された可燃ガスのうち、水素は燃料電池の燃料として燃料自動車等に利用され、一酸化炭素はアルコールやグリコール類,カルボン酸類(ギ酸,酢酸等)などの製造原料として利用される。
【0035】
また、一酸化炭素は水性シフト反応によって水素を生成することが可能であるので、回収した一酸化炭素を水素に変性して上記燃料電池の燃料として利用することもできる。
【0036】
そして、不活性ガスである二酸化炭素はその生成率が5%未満と少ないので、大気に排出したとしても環境に与える負荷を最小限に抑えることができる。
【0037】
なお、上記実施例ではプラズマの形成に水蒸気を利用することにより、希ガスを利用する場合と比較してバイオマスの分解を廉価に実現することが可能となるが、コスト抑制を重要視しない場合は反応ガスとして希ガスを用いることも可能であることは当然である。
【0038】
また、プラズマ形成部への水蒸気の供給量は22[g/h]に限定されるものではなく、投入するバイオマスの部分酸化に必要となる酸素量に基づき決定すればよいし、反応管5内の圧力をより低く設定し、また、マイクロ波の出力をより高い値に設定すればバイオマスの分解量を増加することが可能となる。
【0039】
さらに、水蒸気の供給管4の一端をバイオマスの供給管3に接続することなく、直接、上側封止栓17を挿通して反応管5内に引き入れるなど、その趣旨を逸脱しない範囲内で装置Aの構成を変更したものも本発明に含まれる。
【0040】
以上説明したように、本発明のマイクロ波非平衡プラズマによるバイオマスからの燃料ガスの回収方法は、プラズマによるバイオマスの分解に従来技術のような低温ガス化させる前処理が必要なく、装置を安価に構成できるとともに作業および装置のメンテナンス負担を軽減することができる。
【0041】
また、バイオマスを分解して生成されるガスは、不活性ガスである二酸化炭素の生成率が非常に低く、環境負荷を極力抑制できるとともに、水素等の燃料ガスの生成率が非常に高いので、今後注目される燃料電池の燃料の生成に貢献することができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
バイオマスから燃料ガスを生成する場合に利用可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 マイクロ波発振器
2 マイクロ波導波管
3 バイオマスの供給管
4 水蒸気の供給管
5 反応管
6 真空ポンプ
7 圧力計
8 アイソレータ
9 パワーモニタ
10 チューナ
11 試料容器
12,14,15 操作バルブ
13 オイルバス
16 水供給管
17 上側封止栓
18 気圧調整管
19 下側封止栓
20 マイクロ波漏洩防止網
21 サンプリングポート
22 排気管
23 切換弁
24 試料投入口
25 試料台
25a 試料台カップ
A 処理装置
X プラズマ形成部
図1
図2