特開2015-168893(P2015-168893A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2015-168893炭素繊維用サイジング剤、炭素繊維及び炭素繊維複合材料
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  • 特開2015168893-炭素繊維用サイジング剤、炭素繊維及び炭素繊維複合材料 図000024
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-168893(P2015-168893A)
(43)【公開日】2015年9月28日
(54)【発明の名称】炭素繊維用サイジング剤、炭素繊維及び炭素繊維複合材料
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/507 20060101AFI20150901BHJP
   D06M 15/273 20060101ALI20150901BHJP
   D06M 15/285 20060101ALI20150901BHJP
   D06M 15/53 20060101ALI20150901BHJP
   D06M 13/17 20060101ALI20150901BHJP
   C08L 51/08 20060101ALI20150901BHJP
   C08K 5/06 20060101ALI20150901BHJP
   C08F 265/04 20060101ALI20150901BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20150901BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20150901BHJP
   D06M 101/40 20060101ALN20150901BHJP
【FI】
   D06M15/507 Z
   D06M15/273
   D06M15/285
   D06M15/53
   D06M13/17
   C08L51/08
   C08K5/06
   C08F265/04
   C08J5/04CER
   C08F2/44 C
   D06M101:40
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-43405(P2014-43405)
(22)【出願日】2014年3月6日
(11)【特許番号】特許第5570087号(P5570087)
(45)【特許公報発行日】2014年8月13日
(71)【出願人】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081798
【弁理士】
【氏名又は名称】入山 宏正
(72)【発明者】
【氏名】前田 基樹
(72)【発明者】
【氏名】大島 啓一郎
【テーマコード(参考)】
4F072
4J002
4J011
4J026
4L033
【Fターム(参考)】
4F072AA07
4F072AB10
4F072AB22
4F072AC05
4F072AC12
4F072AD38
4F072AE02
4F072AH31
4F072AJ04
4F072AK06
4F072AK14
4F072AK17
4F072AL02
4F072AL04
4J002BN171
4J002CD191
4J002ED036
4J002FD316
4J002GH02
4J002HA06
4J011AA05
4J011AB02
4J011AC06
4J011JA06
4J011JB02
4J011JB06
4J011JB12
4J011JB26
4J011PA88
4J011PB39
4J011PC02
4J011PC07
4J011PC13
4J026AB08
4J026AC23
4J026AC26
4J026BA27
4J026BA30
4J026BB03
4J026DA05
4J026DA10
4J026DA17
4J026DB03
4J026DB08
4J026DB13
4J026DB23
4J026DB32
4J026EA06
4J026FA04
4J026GA01
4J026GA09
4L033AA09
4L033AC11
4L033AC12
4L033BA14
4L033CA21
4L033CA23
4L033CA45
4L033CA48
(57)【要約】
【課題】炭素繊維と熱硬化性樹脂との接着性に優れ、炭素繊維複合材料の強度低下の要因となるボイドを発生させない炭素繊維用サイジング剤、かかる炭素繊維用サイジング剤を使用した炭素繊維及び炭素繊維複合材料を提供する。
【解決手段】炭素繊維用サイジング剤として、分子中に特定の親水基を有するポリエステル樹脂Xの存在下に、水性媒体中で、分子中にエポキシ基を有するビニルモノマーYと、ビニルモノマーYと共重合可能な単量体Zとを重合させた特定の改質樹脂と、特定の脂肪族非イオン界面活性剤とを、特定割合で含有して成るものを用いた。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の改質樹脂を75〜99質量%及び下記の脂肪族非イオン界面活性剤を1〜25質量%(合計100質量%)の割合で含有して成ることを特徴とする炭素繊維用サイジング剤。
改質樹脂:分子中に下記の親水基を有するポリエステル樹脂Xの存在下に、水性媒体中で、分子中にエポキシ基を有するビニルモノマーYと、ビニルモノマーYと共重合可能な単量体Zとを重合させた改質樹脂であって、下記の数1により算出されるエポキシ基含有率が0.1〜20%であり、且つ下記の数2により算出される変性率が30〜70%である改質樹脂
親水基:カルボニル基、スルホ基、ポリオキシエチレン基、下記の化1で示される有機基及び下記の化2で示される有機基から選ばれる一つ又は二つ以上
【化1】
【化2】
(化1及び化2において、
M:アルカリ金属又はアミノ基)
【数1】
(数1において、
構成単位B:ビニルモノマーYから形成された構成単位
構成単位C:単量体Zから形成された構成単位)
【数2】
(数2において、
構成単位A:ポリエステル樹脂Xから形成された構成単位
構成単位B,C:数1の場合と同じ)
脂肪族非イオン界面活性剤:炭素数8〜22の脂肪族アルコール1モル当たりエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを合計3〜20モルの割合で付加反応させたもの
【請求項2】
改質樹脂を82〜90質量%及び脂肪族非イオン界面活性剤を10〜18質量%(合計100質量%)の割合で含有して成る請求項1記載の炭素繊維用サイジング剤。
【請求項3】
脂肪族非イオン系界面活性剤が、炭素数8〜18の脂肪族アルコール1モル当たりエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを合計で3〜20モルの割合で付加反応させたものである請求項1又は2記載の炭素繊維用サイジング剤。
【請求項4】
ビニルモノマーYが、下記の化3で示される化合物及び/又は下記の化4で示される化合物である請求項1〜3のいずれか一つの項記載の炭素繊維用サイジング剤。
【化3】
【化4】
(化3及び化4において、
,R:水素原子又はメチル基
:下記の化5〜化7で示される置換基から選ばれるもの
n:1〜6の整数)
【化5】
(化5において、
m:1〜4の整数)
【化6】
【化7】
【請求項5】
単量体Zが、(メタ)アクリル酸エステルである請求項1〜4のいずれか一つの項記載の炭素繊維用サイジング剤。
【請求項6】
改質樹脂が、エポキシ基含有率が1〜15%である場合のものである請求項1〜5のいずれか一つの項記載の炭素繊維用サイジング剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一つの項記載の炭素繊維用サイジング剤を付着させたことを特徴とする炭素繊維。
【請求項8】
請求項7記載の炭素繊維と熱硬化性樹脂とを含むことを特徴とする炭素繊維複合材料。
【請求項9】
熱硬化性樹脂が、不飽和結合を有するものである請求項8記載の炭素繊維複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂と炭素繊維との接着性に優れ、炭素繊維複合材料の強度低下の原因となるボイドを発生させない炭素繊維用サイジング剤、かかる炭素繊維用サイジング剤を付着させた炭素繊維及び炭素繊維複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維を使用した複合材料(コンポジット)はスポーツ、レジャー、航空宇宙分野等に広く利用されている。炭素繊維は通常、フィラメント又はトウの形で製造され、更に一方向に引き揃えたシート、テープ、フィラメントワインディング、織物又はチョップドファイバー等に加工されて使用されている。ところで、かかる炭素繊維の加工においては、その加工工程中での取り扱いやすさの向上、炭素繊維の品位維持のために、サイジング剤が炭素繊維に付与されている。また、サイジング剤はコンポジットに用いられる樹脂と炭素繊維との接着性にも大きく関与することが知られており、樹脂の種類に応じて様々なサイジング剤が用いられている。
【0003】
近年、複合材料の用途拡大に伴うより一層のコスト低減が要求されるにしたがい、硬化時間の短い不飽和ポリエステルやビニルエステル等の熱硬化性樹脂との複合化が重要になってきている。これらの樹脂に用いられるサイジング剤としては、自己乳化型不飽和ポリエステルを用いるサイジング剤(例えば、特許文献1参照)、強化繊維を得る目的で芳香族ジカルボン酸を用いた共重合ポリエステル樹脂を採用したサイジング剤(例えば、特許文献2参照)、(メタ)アクリロイルオキシ基とエポキシ基とを有する化合物を含有するサイジング剤(例えば、特許文献3参照)等が提案されている。しかし、これら従来のサイジング剤には、これらを炭素繊維に付着させると、付着させた炭素繊維が、不飽和ポリエステルやビニルエステルとの接着性が不十分という問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−299573号公報
【特許文献2】特開2005−42220号公報
【特許文献3】特開2000−355884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、炭素繊維と熱硬化性樹脂との接着性に優れ、炭素繊維複合材料の強度低下の要因となるボイドを発生させない炭素繊維用サイジング剤、かかる炭素繊維用サイジング剤を付着させた炭素繊維及び炭素繊維複合材料を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、特定の改質樹脂と特定の脂肪族非イオン界面活性剤とを特定割合で含有して成る炭素繊維用サイジング剤が正しく好適であることを見出した。
【0007】
すなわち本発明は、下記の改質樹脂を75〜99質量%及び下記の脂肪族非イオン界面活性剤を1〜25質量%(合計100質量%)の割合で含有して成る炭素繊維用サイジング剤に係る。また本発明は、かかる炭素繊維用サイジング剤を付着させた炭素繊維に係り、更に本発明は、かかる炭素繊維を含有する炭素繊維複合材料に係る。
【0008】
改質樹脂:分子中に下記の親水基を有するポリエステル樹脂Xの存在下に、水性媒体中で、分子中にエポキシ基を有するビニルモノマーYと、ビニルモノマーYと共重合可能な単量体Zとを重合させた改質樹脂であって、下記の数1により算出されるエポキシ基含有率が0.1〜20%であり、且つ下記の数2により算出される変性率が30〜70%である改質樹脂
【0009】
親水基:カルボニル基、スルホ基、ポリオキシエチレン基、下記の化1で示される有機基及び下記の化2で示される有機基から選ばれる一つ又は二つ以上
【0010】
【化1】
【0011】
【化2】
【0012】
化1及び化2において、
M:アルカリ金属又はアミノ基
【0013】
【数1】
【0014】
数1において、
構成単位B:ビニルモノマーYから形成された構成単位
構成単位C:単量体Zから形成された構成単位
【0015】
【数2】
【0016】
数2において、
構成単位A:ポリエステル樹脂Xから形成された構成単位
構成単位B,C:数1の場合と同じ
【0017】
脂肪族非イオン界面活性剤:炭素数8〜22の脂肪族アルコール1モル当たりエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを合計3〜20モルの割合で付加反応させたもの。
【0018】
先ず、本発明に係る炭素繊維用サイジング剤(以下、本発明のサイジング剤という)について説明する。本発明のサイジング剤は、前記した改質樹脂を75〜99質量%及び前記した脂肪族非イオン界面活性剤を1〜25質量%(合計100質量%)の割合で含有して成るものであるが、なかでも改質樹脂を82〜90質量%及び脂肪族非イオン界面活性剤を10〜18質量%(合計100質量%)の割合で含有して成るものが好ましい。
【0019】
本発明のサイジング剤に供する改質樹脂は、分子中に下記の親水基を有するポリエステル樹脂Xの存在下に、水性媒体中で、分子中にエポキシ基を有するビニルモノマーYと、ビニルモノマーYと共重合可能な単量体Zとを重合させた改質樹脂であって、前記の数1により算出されるエポキシ基含有率が0.1〜20%であり、且つ前記の数2により算出される変性率が30〜70%である改質樹脂である。
【0020】
ポリエステル樹脂Xは、分子中に前記の親水基を有するものであり、かかる親水基としては、カルボニル基、スルホ基、ポリオキシエチレン基、前記の化1で示される有機基及び前記の化2で示される有機基が挙げられ、化1及び化2中のMで示されるアルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム等が挙げられ、アミノ基を形成するアミンとしては、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチルジメチルアミン、ジエチルメチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、sec−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、ジブチルアミン、ジイソブチルアミン、トリブチルアミン、ペンチルアミン、ジペンチルアミン、トリペンチルアミン、2−エチルヘキシルアミン等が挙げられるが、なかでもカルボニル基、化2中のMがナトリウムである場合の有機基が好ましい。以上説明したポリエステル樹脂Xは、公知の方法により合成することができるが、例えば、バイロナール(東洋紡社製の商品名)、ポリエスター(日本合成化学社製の商品名)、ペスレジン(高松油脂社製の商品名)といった市販のものを用いることもできる。
【0021】
ビニルモノマーYは、分子中にエポキシ基を有するものであり、例えば、アリルグリシジルエーテル、メタリルグリシジルエーテル、1,2−エポキシ−5−ヘキセン、1,2−エポキシ−7−オクテン、1,2−エポキシ−9−デセン、8−ヒドロキシ−6,7−エポキシ−1−オクテン、8−アセトキシ−6,7−エポキシ−1−オクテン、N−(2,3−エポキシ)プロピルアクリルアミド、N−(2,3−エポキシ)プロピルメタクリルアミド、4−アクリルアミドフェニルグリシジルエーテル、3−アクリルアミドフェニルグリシジルエーテル、4−メタクリルアミドフェニルグリシジルエーテル、3−メタクリルアミドフェニルグリシジルエーテル、N−グリシドキシメチルアクリルアミド、N−グリシドキシメチルメタクリルアミド、N−グリシドキシエチルアクリルアミド、N−グリシドキシエチルメタクリルアミド、N−グリシドキシプロピルアクリルアミド、N−グリシドキシプロピルメタクリルアミド、N−グリシドキシブチルアクリルアミド、N−グリシドキシブチルメタクリルアミド、4−アクリルアミドメチル−2,5−ジメチル−フェニルグリシジルエーテル、4−メタクリルアミドメチル−2,5−ジメチル−フェニルグリシジルエーテル、1,2−エポキシ−4−ビニルシクロヘキサン、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル、メタクリル酸グリシジルなどが挙げられるが、なかでも下記の化3で示される化合物、下記の化4で示される化合物が好ましく、下記の化4で示される化合物がより好ましい。







【0022】
【化3】
【0023】
【化4】
【0024】
化3及び化4について、
,R:水素原子又はメチル基
:下記の化5〜化7で示される置換基から選ばれるもの
n:1〜6の整数
【0025】
【化5】
【0026】
化5について、
n:1〜4の整数
【0027】
【化6】
【0028】
【化7】
【0029】
化3及び化4において、Rは水素原子又はメチル基であるが、なかでもメチル基が好ましい。またRは前記した化5〜化7で示される置換基から選ばれるものであるが、なかでも化6で示される置換基が好ましい。
【0030】
単量体Zは、ビニルモノマーYと共重合可能なモノマーであり、これには例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、( メタ) アクリル酸シクロヘキシル、( メタ) アクリル酸シクロヘキシルメチル、スチレン、α −メチルスチレン、ビニルトルエン、p − メチルスチレン、クロロメチルスチレン、エチルビニルベンゼン等が挙げられるが、なかでも(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。
【0031】
本発明のサイジング剤に供する改質樹脂のエポキシ基含有率は、前記した数1により算出され、その値は0.1〜20%の範囲にあり、且つ変性率は、前記した数2により算出され、その値は30〜70%の範囲にあるものである。数1及び数2において、構成単位Aはポリエステル樹脂Xから形成された構成単位であり、構成単位BはビニルモノマーYから形成された構成単位であり、構成単位Cは単量体Zから形成された構成単位である。かかるエポキシ基含有率は、1〜15%の範囲にあるものが好ましい。
【0032】
本発明のサイジング剤に供する脂肪族非イオン界面活性剤は、炭素数8〜22の脂肪族アルコール1モル当たりエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを合計3〜20モルの割合で付加反応させたものである。炭素数8〜22の脂肪族アルコールとしては、オクチルアルコール、2−エチル−ヘキシルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、2−プロピル−ヘプチルアルコール、ウンデシルアルコール、ドデシルアルコール、sec−ドデシルアルコール、2−ブチル−オクチルアルコール、トリデシルアルコール、イソトリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、エイコシルアルコール、ドコシルアルコール等が挙げられるが、なかでも炭素数8〜18の脂肪族アルコールが好ましい。かかる脂肪族アルコールとしては、市販のものを用いることもでき、例えば、コノール10W、コノール30S(以上、新日本理化社製の商品名)、カルコール1098、カルコール2098(以上、花王社製の商品名)、イソトリデカノール(協和発酵社製の商品名)等が挙げられる。また以上のような脂肪族アルコール1モル当たりのエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドの付加反応モル数は、合計3〜15モルとするのが好ましく、合計3〜10モルとするのがより好ましい。以上説明した脂肪族非イオン界面活性剤は、公知の方法により合成することができるが、例えば、ソフタノール90(日本触媒社製の商品名)のような市販のものを用いることもできる。
【0033】
次に本発明に係る炭素繊維(以下、本発明の炭素繊維という)について説明する。本発明の炭素繊維は、本発明のサイジング剤を付着させた炭素繊維である。
【0034】
本発明の炭素繊維に用いることができる炭素繊維としては、アクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維等の周知の炭素繊維が挙げられる。
【0035】
本発明の炭素繊維における本発明のサイジング剤の付着量は適宜選択でき、所望の機能を発揮するに適した量を選択すればよいが、炭素繊維に対して0.1〜20質量%とするのが好ましく、0.1〜10質量%とするのがより好ましく、0.1〜5質量%とするのが特に好ましい。
【0036】
本発明のサイジング剤の付着方法としては、浸漬給油法、ローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法、スプレー給油法等が挙げられるが、浸漬給油法、ローラー給油法が好ましい。
【0037】
最後に、本発明に係る炭素繊維複合材料(以下、本発明の複合材料という)について説明する。本発明の複合材料は、本発明の炭素繊維と熱硬化性樹脂とを含む炭素繊維複合材料である。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられるが、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂等、分子中に不飽和結合を有するものが好ましい。
【発明の効果】
【0038】
以上説明した本発明によると、炭素繊維と熱硬化性樹脂との接着性に優れ、炭素繊維複合材料の強度低下の原因となるボイドを発生させないという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】サイジング剤を付着させた炭素繊維とこの炭素繊維に固定した熱硬化性樹脂との接着性評価に用いた試験装置をその使用状態も含めて略示する平面図。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0041】
試験区分1(改質樹脂の乳化物の調製)
次のように改質樹脂E−1〜E−13及びRE−14〜RE−16の乳化物を調製し、その内容を表1にまとめて示した。
【0042】
・改質樹脂(E−1)の乳化物の調製
温度計、窒素ガス導入管、攪拌機を備えた反応容器にジメチルイソフタレート1475部、エチレングリコール304部、ネオペンチルグリコール485部、酢酸亜鉛1部及び三酸化アンチモン1部を仕込み、180℃で3時間かけてエステル交換反応を行った。次に、5−ナトリウムスルホイソフタル酸153部を添加し、240℃で1時間かけてエステル化反応を行った後、250℃で減圧下にて2時間かけて重縮合反応を行い、ポリエステル樹脂(R−1)を得た。得られたポリエステル樹脂(R−1)1000部とテトラヒドロフラン3000部を反応容器に仕込み、55〜65℃で撹拌均一化した。ここに水4000部を徐々に加えて乳化した後、減圧下に40〜60℃にてテトラヒドロフランを除去した後、水を加えて濃度調節を行い、固形分25%の安定なポリエステル水分散液(P−1)を得た。得られたポリエステル水分散液(P−1)1200部を四つ口フラスコに入れ、攪拌しながら窒素ガスを吹き込んでフラスコ内の脱酸素を行った後、70℃に昇温した。次いで、過硫酸アンモニウム1.5部を添加し、グリシジルメタクリレート(日本油脂社製の商品名ブレンマーG)30部とメタクリル酸メチル270部の混合液をフラスコ内の溶液の温度を70〜75℃に維持した状態で、2時間かけて滴下した。滴下後、温度を70℃に維持した状態で2時間攪拌を継続し、その後25℃まで攪拌しながら冷却して、改質樹脂(E−1)の乳化物を得た。この乳化物の固形分濃度は40%であり、改質樹脂(E−1)のエポキシ基含有率は10%、変性率は50%であった。
【0043】
・改質樹脂(E−2)の乳化物の調製
前記のポリエステル水分散液(P−1)1560部を四つ口フラスコに入れ、攪拌しながら窒素ガスを吹き込んでフラスコ内の脱酸素を行った後、70℃に昇温した。次いで、過硫酸アンモニウム1.05部を添加し、グリシジルメタクリレート(日本油脂社製の商品名ブレンマーG)21部とメタクリル酸メチル189部を用いて、以下は改質樹脂(E−1)の乳化物と同様の方法により改質樹脂(E−2)の乳化物(固形分濃度34%)を得た。
【0044】
・改質樹脂(E−3)の乳化物の調製
前記のポリエステル水分散液(P−1)840部とラウリル硫酸ナトリウム3.9部を四つ口フラスコに入れ、攪拌しながら窒素ガスを吹き込んでフラスコ内の脱酸素を行った後、70℃に昇温した。次いで、過硫酸アンモニウム1.95部を添加し、グリシジルメタクリレート(日本油脂社製の商品名ブレンマーG)39部とメタクリル酸メチル351部を用いて、以下は改質樹脂(E−1)の乳化物と同様の方法により改質樹脂(E−3)の乳化物(固形分濃度49%)を得た。
【0045】
・改質樹脂(E−4)〜(E−12)の乳化物の調製
構成単位Bを形成することとなるビニルモノマーYと構成単位Cを形成することとなる単量体Zを表1に記載したものに変更したこと以外は改質樹脂(E−1)の乳化物と同様の方法により、改質樹脂(E−4)〜(E−12)の乳化物(固形分濃度40%)を得た。
【0046】
・改質樹脂(E−13)の乳化物の調製
前記のポリエステル水分散液(P−1)1200部を四つ口フラスコに入れ、攪拌しながら窒素ガスを吹き込んでフラスコ内の脱酸素を行った後、70℃に昇温した。次いで、過硫酸アンモニウム1.5部を添加し、グリシジルメタクリレート(日本油脂社製の商品名ブレンマーG)60部とメタクリル酸メチル240部を用いて、以下は改質樹脂(E−1)の乳化物と同様の方法により改質樹脂(E−13)の乳化物(固形分濃度40%)を得た。
【0047】
・改質樹脂(RE−14)の乳化物の調製
前記のポリエステル水分散液(P−1)をそのまま改質樹脂(RE−14)の乳化物とした。
【0048】
・改質樹脂(RE−15)の乳化物の調製
前記のポリエステル水分散液(P−1)1200部とラウリル硫酸ナトリウム3部を四つ口フラスコに入れ、攪拌しながら窒素ガスを吹き込んでフラスコ内の脱酸素を行った後、70℃に昇温した。次いで、過硫酸アンモニウム1.5部を添加し、メタクリル酸メチル300部を用いて、以下は改質樹脂(E−1)の乳化物と同様の方法により改質樹脂(RE−15)の乳化物(固形分濃度40%)を得た。
【0049】
・改質樹脂(RE−16)の乳化物の調製
イオン交換水1200部とラウリル硫酸ナトリム3部を四つ口フラスコに入れ、攪拌しながら窒素ガスを吹き込んでフラスコ内の脱酸素を行った後、70℃に昇温した。次いで、過硫酸アンモニウム1.5部を添加し、グリシジルメタクリレート(日本油脂社製の商品名ブレンマーG)30部とメタクリル酸メチル270部を用いて、以下は改質樹脂(E−1)の乳化物と同様の方法により改質樹脂(RE−16)の乳化物(固形分濃度20%)を得た。










【0050】
【表1】
【0051】
表1において、
R−1:5−スルホイソフタル酸ナトリウム/テレフタル酸/エチレングリコール/ネオペンチルグリコールの共重合体
Y−1:グリシジルメタクリレート
Y−2:グリシジルアクリレート
Y−3:4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル
Y−4:N−グリシドキシメチルメタクリレート
Y−5:アリルグリシジルエーテル
Y−6:1,2−エポキシヘキセン
Y−7:1,2−エポキシ−4−ビニルシクロヘキサン
Z−1:メタクリル酸メチル
Z−2:メタクリル酸エチル
Z−3:メタクリル酸ブチル
【0052】
試験区分2(サイジング剤の調製)
・実施例1〜32及び比較例1〜8
2000Lのビーカーに前記の改質樹脂(E−1)の乳化物1000部を入れ、500rpmの条件で撹拌しながら、脂肪族非イオン界面活性剤(A−1)71部を徐々に添加し、そのまま30分撹拌混合して、実施例1のサイジング剤を得た。同様にして、表1に記載の改質樹脂の乳化物、表2に記載の脂肪族非イオン界面活性剤を用いて、実施例2〜32及び比較例1〜8のサイジング剤を得た。尚、比較例8のサイジング剤は、改質樹脂(RE−14)の乳化物と改質樹脂(RE−16)の乳化物とを、固形分換算での質量比が50:50になるように混合したものである。調製した各例のサイジング剤の内容を表3にまとめて示した。



【0053】
【表2】
【0054】
試験区分3(炭素繊維のサイジング及び評価)
・炭素繊維のサイジング
試験区分2で調製した各例のサイジング剤を各サイジング剤の目標付着量に合わせてそれぞれ水希釈し、処理浴に入れた。ポリアクリロニトリル系繊維から得た未サイジングの炭素繊維(引張強度3500MPa、引張弾性率2.3×10MPa、12000フィラメント)を連続的に上記処理浴に浸漬し、各サイジング剤の付着量が炭素繊維に対して一定の付着量となるようにローラーの絞り条件を調節して、該炭素繊維に目標量のサイジング剤を付着させた。引き続き連続的に120℃のオーブンに5分間通して乾燥し、サイジング剤を付着させた炭素繊維を得た。これらを接着性評価試料とした。
【0055】
・接着性の評価
前記で調製した接着性評価試料の炭素繊維から1本の炭素繊維2を取り出し、緊張した状態でその両端を図1に示すホルダー1に接着剤4で固定した。次に、ビニルエステル樹脂(昭和電工社製の商品名リポキシR806)/メチルエチルケトンパーオキサイド(日本油脂社製の商品名パーメックN)=100/1(質量比)の割合で混合した樹脂を直径がほぼ100μmの樹脂滴3となるように炭素繊維2に付着させ、150℃の雰囲気下で15分間加熱して固定した。炭素繊維2に固定した樹脂滴3を2枚のブレード7a、7bではさむようにしてホルダー1を基板6に固定し、ホルダーを15mm/分の速度で繊維軸方向に移動させた時に、ブレード7a,7bによって樹脂滴3が炭素繊維から剥離する際に生じる最大応力Fを、基板6に接続したロードセル5にて計測した。計測した値を用いて、下記の数4により界面せん断強度τを算出した。同様の操作を20回行い、得られた界面せん断強度の平均値を下記の基準により評価し、結果を表3にまとめて示した。

【0056】
【数3】
【0057】
数3において、
F:炭素繊維2から樹脂滴3が剥離する際に生じる最大応力(N)
D:炭素繊維2の直径(m)
L:樹脂滴3の引き抜き方向の直径(m)
【0058】
◎◎:界面せん断強度25以上
◎:界面せん断強度が23以上25未満
○:界面せん断強度が20以上22未満
×:界面せん断強度が20未満
【0059】
・ボイドの確認
ビニルエステル樹脂(昭和電工社製の商品名リポキシR806)100部にナフテン酸コバルト1部とメチルエチルケトンパーオキサイド(日本油脂製社製の商品名パーメックN)1部を混合した熱硬化性マトリックス樹脂中に接着性評価試料を浸漬させ、120℃で2時間加熱して、試験片を得た。得られた試験片に衝撃を加えて割った破片の表面をマイクロスコープにて観察し、炭素繊維と熱可塑性樹脂の界面におけるボイドの有無について下記の判定基準により評価した。結果を表3にまとめて示した。
◎:ボイドが全く見られない
○:ボイドがほとんど見られない
×:明らかなボイドが見られる






















【0060】
【表3】
【0061】
表3において、
E−1〜E−13,RE−14〜RE−16:表1に記載の改質樹脂
A−1〜A−13,RA−14〜RA−17:表2に記載の脂肪族非イオン界面活性剤
【符号の説明】
【0062】
1 ホルダー
2 炭素繊維
3 ビニルエステル樹脂
4 接着剤
5 ロードセル
6 基板
7a,7b ブレード
図1