(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-169210(P2015-169210A)
(43)【公開日】2015年9月28日
(54)【発明の名称】グロープラグのケーブルにおける機械的な障害を検出する方法及び装置
(51)【国際特許分類】
F02P 19/02 20060101AFI20150901BHJP
F23Q 7/00 20060101ALI20150901BHJP
【FI】
F02P19/02 321A
F23Q7/00 T
F02P19/02 311E
F02P19/02 321Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-44856(P2015-44856)
(22)【出願日】2015年3月6日
(31)【優先権主張番号】10 2014 204 198.8
(32)【優先日】2014年3月7日
(33)【優先権主張国】DE
(71)【出願人】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ヨヘン フォーゲル
(72)【発明者】
【氏名】ハラルト リュル
(57)【要約】
【課題】グロープラグのケーブルにおける機械的な障害の検出にあたり急速に不安定に出現する、バウンス特性を有するエラーも診断時に確実に識別されるようにする。
【解決手段】グロープラグ温度と目標温度(T
soll)との温度偏差(T
diff)を算出して求め、この温度偏差(T
diff)から補正電圧(U
GLP)を導出して、グロープラグ(2)へ供給することにより、グロープラグ(2)の温度を制御する。温度制御には、障害を検出する診断動作が含まれている。診断動作中、補正電圧(U
GLP)に依存して障害検出信号(DS)を形成し、この障害検出信号(DS)を予め定められた障害閾値(D
sch)と比較する。少なくとも、障害検出信号(DS)が障害閾値(D
sch)に達した場合には、グロープラグ(2)のケーブルにおいて機械的な障害が発生したと判定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グロープラグのケーブルにおける機械的な障害を検出する方法であって、
グロープラグ温度と目標温度(Tsoll)との温度偏差(Tdiff)を算出して特定し、該温度偏差(Tdiff)から補正電圧(UGLP)を導出し、該補正電圧(UGLP)を前記グロープラグ(2)へ供給することにより、前記グロープラグ(2)の温度を制御し、該温度制御には、障害を検出するための診断動作が含まれている、
グロープラグのケーブルにおける機械的な障害を検出する方法において、
前記診断動作中、前記補正電圧(UGLP)に依存して障害検出信号(DS)を形成し、該障害検出信号(DS)を予め定められた障害閾値(Dsch)と比較し、
少なくとも、前記障害検出信号(DS)が前記障害閾値(Dsch)に達した場合には、前記グロープラグ(2)のケーブルにおいて機械的な障害が発生したと判定する
ことを特徴とする、
グロープラグのケーブルにおける機械的な障害を検出する方法。
【請求項2】
前記障害検出信号(DS)を、前記補正電圧(UGLP)の勾配の絶対値の積分から形成する、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記障害検出信号(DS)を予め定められた期間内で評価する、
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記診断動作を、内燃機関(4)の回転数(n)に応じて起動する、
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記診断動作を、内燃機関(4)の回転数(n)が所定の回転数よりも低い場合に起動する、
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記グロープラグ(2)のケーブルにおいて機械的な障害が検出された場合には、警告信号を送出する、
請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
グロープラグのケーブルにおける機械的な障害を検出する装置であって、
前記グロープラグ(2)の温度を調整するための補正電圧(UGLP)を送出する制御ユニット(15)と、診断ユニット(13)とが設けられており、
前記補正電圧(UGLP)は、前記グロープラグ(2)の測定温度(Tist)と目標温度(Tsoll)との比較に基づき求められて、前記グロープラグ(2)へ供給される、
グロープラグのケーブルにおける機械的な障害を検出する装置において、
前記診断ユニット(13)は、前記制御ユニット(15)から送出された補正電圧(UGLP)に依存して、障害検出信号(DS)を形成し、該障害検出信号(DS)を予め定められた障害閾値(Dsch)と比較し、
前記診断ユニット(13)は少なくとも、前記障害検出信号(DS)が前記障害閾値(Dsch)に達した場合には、前記グロープラグ(2)のケーブルにおいて機械的な障害が発生したと判定する
ことを特徴とする、
グロープラグのケーブルにおける機械的な障害を検出する装置。
【請求項8】
予備制御ユニット(12)及び加算ユニット(16)を介して、温度設定ユニット(11)が前記グロープラグ(2)に接続されており、
前記制御ユニット(15)は前記加算ユニット(16)に結合され、前記グロープラグ(2)は、前記診断ユニット(13)を介してモデリングユニット(14)へ接続され、該モデリングユニット(14)は前記制御ユニット(15)と接続されている、
請求項7に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グロープラグのケーブルにおける機械的な障害を検出する方法及び装置に関する。ここでは、グロープラグ温度と目標温度との温度偏差を算出して特定し、該温度偏差から補正電圧を導出し、該補正電圧を上記グロープラグへ供給することにより、上記グロープラグの温度を制御し、該温度制御には、障害を検出する診断動作が含まれている。
【背景技術】
【0002】
ドイツ特許出願公開公報DE2008040971A1号から、内燃機関におけるグロープラグの温度を制御する方法が知られている。この方法によれば、個々のグロープラグごとに、測定温度と測定抵抗値との間の数学的モデルが内燃機関の基準動作中に記録される。このモデルに基づき、グロープラグの実際温度が求められ、その温度が制御ユニットにおいて目標温度と比較される。実際に測定された温度と目標温度との温度偏差から、制御ユニットは差分電圧を計算し、この電圧がグロープラグの動作電圧に加算される。温度制御部には診断ユニットが設けられており、このユニットはグロープラグにおける電流測定及び電圧測定によって、そのグロープラグの実際の抵抗値を計算する。例えば、測定値を取り出すための端子がグロープラグから離隔している等して、場合によってはケーブルの影響が加わるが、そのような影響は補正ユニットにより補償される。
【0003】
診断動作中に、内燃機関のグロープラグに至るケーブルにおける機械的なエラー、例えば接触不良等を検出するためには、そのエラーがデバウンス時間を超えて持続的に生じていなければならない。エラーがある特定のバウンス特性を有している場合、即ち、エラーの発生及び消滅の時間が、診断のデバウンス時間よりも実質的に短いと、エラーは識別されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】ドイツ特許出願公開公報DE2008040971A1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の課題は、急速に不安定に出現するエラーも診断時に確実に識別される方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によればこの課題は、診断動作中、補正電圧に依存して障害検出信号を形成し、該障害検出信号を予め定められた障害閾値と比較し、少なくとも、前記障害検出信号が前記障害閾値に達した場合には、グロープラグのケーブルにおいて機械的な障害が発生したと判定することにより解決される。
【0007】
有利には、接触不良等の機械的な障害が高い信頼性で検出されることにより、グロープラグにおけるグロー電力の損失が識別される。機械的な障害が補正されることによって、アイドリング変動及び放出物増加が発生するエンジンの冷間始動において、グロープラグのパフォーマンス損失が確実に阻止される。
【0008】
有利には、障害検出信号は、補正電圧の勾配の絶対値の積分から形成される。この障害検出信号は、グロー時間制御装置においてグロープラグの温度制御の枠内で求められて評価される。このようなソフトウェア割り込みによって、グロープラグのケーブルにおける機械的な障害を、簡単にかつ装置技術的に余分なコストをかけずに、検出することができる。
【0009】
1つの実施形態によれば、障害検出信号は診断動作の予め定められた期間内で評価される。この期間の設定によって保証されるのは、機械的な障害が本当に検出され、散発的に発生する他のエラーによって誤った診断が引き起こされないようになることである。
【0010】
1つの実施形態によれば、診断動作が内燃機関の回転数に応じて起動される。これによれば、内燃機関の運動により発生するフライホイール質量体の回転が、接触不良の検出にあたり共に考慮される。
【0011】
別の実施形態によれば、診断動作は内燃機関の回転数が所定の回転数よりも低い場合に起動される。このことにより得られる利点とは、障害信号が有利には内燃機関のアイドリング中に発生することから、診断動作の実行に必要とされる計算能力が抑制されることである。
【0012】
さらに、グロープラグのケーブルにおいて機械的な障害が検出された場合には、警告信号が送出される。視覚的及び/又は聴覚的なこの警告信号によって、グロープラグにおけるエラーを修正するためにサービスが必要であることが通知される。
【0013】
さらに本発明は、グロープラグのケーブルにおける機械的な障害を検出する装置にも関する。この場合、グロープラグの温度を調整するための補正電圧を送出する制御ユニットと、診断ユニットとが設けられており、補正電圧は、グロープラグの測定温度と目標温度との比較に基づき求められて、グロープラグへ供給される。時間的に速くかつ不安定に発生するエラーも検出される装置によれば、制御ユニットの補正電圧に応じて診断ユニットが障害検出信号を形成し、この障害検出信号を予め定められた障害閾値と比較する。その際に診断ユニットは少なくとも、障害検出信号が障害閾値に達した場合には、グロープラグのケーブルにおいて接触不良が発生したと判定する。これにより得られる利点とは、例えばグロープラグにおけるケーブルの接触不良等、高速で不安定な機械的エラーが、診断中に確実に検出されることであり、これによってグロープラグにおけるグロー電力の損失が適時に検出され、グロープラグにケーブルが固定されて、損失が迅速に取り除かれることである。
【0014】
有利には、予備制御ユニット及び加算ユニットを介して、温度設定ユニットがグロープラグに接続されており、制御ユニットは加算ユニットのところに結合され、グロープラグは、診断ユニットを介してモデリングユニットへと接続され、このモデリングユニットは制御ユニットと接続されている。このように温度制御のほか、同時に診断も実行する装置は公知であり、特にグロープラグのケーブルにおける機械的な障害を検査するための診断も同時に実行する装置は公知であるため、余分な素子や測定プロセスを確実に省くことができる。
【0015】
本発明によれば、数多くの実施形態が可能である。次に、それらのうちの1つを図面を参照しながら詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】ディーゼルエンジン内のグロープラグの配置構成を示す基本説明図。
【
図2】診断動作を備えたグロープラグ用温度制御回路を示す図。
【
図3】本発明による方法に従って実施される接触不良検出に関する基本説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
同じ要素乃至部材には同じ参照符号が付されている。
【0018】
冷間の内燃機関、特にディーゼルエンジンは、周囲温度が40°Cよりも低い場合、ディーゼルエンジンに供給される燃料空気混合物を着火させるために始動補助を必要とする。
始動補助としてグローシステムが用いられ、このシステムは、グロープラグと、グロー時間制御装置と、エンジン制御装置内に格納されたグローソフトウェアとによって構成されている。
【0019】
図1には、この種のグローシステム1が描かれている。ここでは、ディーゼルエンジン4の燃焼室3内に、シース型グロープラグ2が突入している。シース型グロープラグ2は、グロー時間制御装置5と接続されている一方、車載電圧源6とも接続されており、この電圧源6は、例えば11Vの定格電圧によってグロープラグを動作させる。グロー時間制御装置5はエンジン制御装置7と接続されており、さらにエンジン制御装置7は、やはりディーゼルエンジン4と接続されている。
【0020】
燃料空気混合物の着火にあたりグロープラグ2は、1乃至2秒程度継続するプッシュフェーズ中、過電圧の印加により予め加熱される。このようにしてグロープラグ2へ供給される電気エネルギーは、ここには特に描かれていないグロープラグ2のヒータによって熱に変換される。その際、グロープラグ2の先端部の温度が急勾配で上昇する。ヒータの加熱パワーは、電子的なグロー時間制御装置5により個々のディーゼルエンジン4の要求に整合される。燃料空気混合物は、グロープラグ2の高温の先端部の部位を通過し、それによって加熱される。これと同時に、グロープラグ2の先端部が冷却される。ディーゼルエンジン4の圧縮サイクル中の吸気加熱も合わさって、燃料空気混合物の着火温度に達する。
【0021】
グロープラグ2の温度は、
図2に示されている制御回路10によって制御される。この種の制御回路10は、グロー時間制御装置5内又はエンジン制御装置7内に格納可能である。制御回路10は温度設定ユニット11を有しており、このユニットはグロープラグ2の目標グロー温度T
sollを設定して、予備制御ユニット12へ供給する。予備制御ユニット12には基本特性マップKFが格納されており、このマップは、グロープラグ2の動作電圧U
KFと、ディーゼルエンジン4の測定されたエンジン回転数n及び噴射量qとの関係を表している。
【0022】
診断ユニット13は、グロープラグ2と電気的に接続されている。診断ユニット13は、グロープラグ2における電流及び電圧の測定に基づき、グロープラグ2の実際抵抗値R
istを算出する。モデリングユニット14における数学的関数MFを介して、実際抵抗値からグロープラグ2の実際温度T
istが算出され、目標温度T
sollと比較される。制御ユニット15は、温度偏差T
diffから差分電圧U
diffを計算し、この電圧は適正な符号で動作電圧U
KFに加算される(回路点16)。このようにして求められた補正電圧U
GLPがグロープラグ2へ供給される。このような手法によって、いかなる時点においても、グロープラグ2の目標温度T
sollがディーゼルエンジン4の最適な動作点に正確に整合される。
【0023】
さらに診断ユニット13は診断動作も実行し、この動作によれば、診断のデバウンス時間よりも時間的に著しく速く出現及び消滅するバウンス特性を有するエラーを、識別することができる。このような手法によって、例えば、グロープラグ2へ向かうケーブルの接触不良を検出することができる。次に、これについて
図3を参照しながら説明する。
図3には領域1が示されており、この領域ではケーブルはグロープラグ2と100%接触している。ここでは、制御ユニット15に基づくグロープラグ2の補正電圧U
GLPの動きは、正常であることがわかる。診断動作実行中、診断ユニット13は障害検出信号DSを発生し、この信号は制御ユニット15の補正電圧U
GLPから算出される。この場合、次式が成り立つ:
【数1】
【0024】
これによれば、制御ユニット15の補正電圧U
GLPの制御器成分から時間軸上の勾配が計算され、この勾配から絶対値が形成されて積分され、障害検出信号DSが得られる。この障害検出信号DSが障害閾値D
schと比較される。障害検出信号DSが障害閾値D
schに達すると、所定時間経過後にエラーの発生が通知され、このような通知を視覚又は聴覚による警告装置によって行うことができる。
【0025】
図3の領域2において、グロープラグ2に至るケーブルに接触不良が発生し、その結果、グロープラグ2の補正電圧U
GLPのノイズが高まる。その理由は、接触不良に起因してバウンスを伴う接触が生じることで、制御ユニット15が熱雑音を検出し、それを補償しようとするからである。
【0026】
領域3には、ディーゼルエンジン4が所定の回転数に達した直後の補正電圧U
GLPの特性が示されている。この場合、補正電圧U
GLPのノイズは低減していく。その理由は、ディーゼルエンジン4の揺動がフライホイール質量体乃至慣性質量体の定常化状態に起因して減少して、このことがグロープラグ2のケーブルにおける接触不良にも作用を及ぼすからである。ディーゼルエンジン4のアイドリング中において、ディーゼルエンジン4の揺動は、アイドリング中よりも高い回転数nのときよりも強くなる。その理由は、アイドリング中、ディーゼルエンジン4の振動質量体にはほとんどエネルギーが蓄えられておらず、従って、個々の圧縮行程が強まるからである。このため、先ずはディーゼルエンジンのアイドリング中、障害検出信号DSが障害閾値D
schを上回る。領域2における電圧ノイズは、制御ユニット15の動きによって引き起こされる。
【0027】
以上のとおり、ここで提案した方法によれば、ソフトウェア機能を追加するだけで、グロープラグにおいてバウンスのある機械的な障害を確実に検出することができる。