【課題】酸素センサとして適切に動作させることができ、且つ、検知極に白金を使用しないで低コスト化を図ることができる電位検出型固体電解質酸素センサ用検知極材料、及び、これを用いた濃淡電池式酸素センサ並びにラムダセンサを提供する。
【解決手段】電位検出型固体電解質酸素センサ1は、検知極10と、検知極10が所定箇所に設けられた酸素イオン導電性を有する固体電解質20と、固体電解質20の所定面の反対面となる大気開放された箇所に設けられた白金よりなる参照極30とを備え、検知極10は、Ba
請求項1に記載の検知極材料よりなる検知極と、前記検知極が所定面に設けられた酸素イオン導電性を有する固体電解質と、前記固体電解質の前記所定面の反対面となる大気開放された箇所に設けられた白金よりなる参照極と、前記固体電解質を加熱するヒータとを備え、前記ヒータは、前記固体電解質を500℃以上600℃以下となるよう加熱することを特徴とする濃淡電池式酸素センサ。
請求項1に記載の検知極材料よりなる検知極と、前記検知極が所定面に設けられた酸素イオン導電性を有する固体電解質と、前記固体電解質の前記所定面の反対面となる大気開放された箇所に設けられた白金よりなる参照極と、前記固体電解質を加熱するヒータとを備え、前記ヒータは、前記固体電解質を550℃以上600℃以下となるよう加熱することを特徴とするラムダセンサ。
【背景技術】
【0002】
現在、固体電解質センサは、応答信号の種類によって複数の型に分類することができる。このうち、最も基本的な応答方式である平衡電位型センサは、固体電解質を隔壁(膜)としたガス濃淡電池を形成し、両電極界面での電気化学反応の平衡に基づくネルンスト式に従う平衡起電力をセンサ信号としている。また、このようなセンサの電極には、高価な貴金属材料である例えば白金が用いられている。
【0003】
従来の固体電解質ガスセンサでは、白金などの高価な金属を電極に用いることが多いため、デバイス自体が高価なものとなってしまう。そこで、白金に替わる低コストの電極材料が求められている。
【0004】
ここで、特許文献1には、白金又は白金合金とバリウム化合物とを含有した電極を有するガスセンサ素子が開示されている。バリウム化合物にはバリウムのペロブスカイト型酸化物やバリウムのスピネル型酸化物も挙げられている。この特許文献1の技術では、白金の触媒活性を下げる目的で白金にバリウム化合物を接触させており、使用されるバリウム化合物も白金と比べて少なく、バリウム化合物単独で用いるものではない。
【0005】
また、特許文献2には、電極に銀若しくは金又はこれらの主成分とする合金を用いた酸素センサが開示されている。なお、特許文献2には、カソードが電子とイオンの混合伝導体とする旨の開示があり、具体的にはLa
0.5Sr
0.5Co
0.8Mn
0.2O
3、La
0.4Sr
0.6Co
0.8Fe
0.2O
3、La
0.5Sr
0.5Co
0.8Ni
0.2O
3、及びLa
0.5Sr
0.5Co
0.6Cu
0.4O
3などが挙げられている。また、これらのLa−Sr−Co−Mn−O系に限らず、電子とイオンの混合伝導体であれば、Ba−Sr−Co−O系でも、La−Ba−Fe−O系でもよい旨も開示されている。ただし、この酸素センサは、いわゆる電流検出型酸素センサであり、低温度で作動可能とするため上記酸化物を用いている。
【0006】
また、白金よりも低温で作動可能なLa−Sr−Co系などのペロブスカイト型酸化物を検知極として用い、セリア系、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、及びBIMEVOX系などの固体電解質と組み合わせた電位検出型酸素センサが報告されている(非特許文献1〜4)。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】電位検出型固体電解質酸素センサを示す模式的な構成図である。
【
図2】実施例1〜4及び比較例1〜15に係る種々のガスに対する起電力応答をまとめた図である。
【
図3】実施例1〜4及び比較例14,15に係る種々のガスに対する起電力応答を比較した図である。
【
図4】実施例1及び比較例15に係る各被検ガスに対する応答曲線を示すグラフであり、作動温度400℃を示している。
【
図5】実施例1及び比較例15に係る各被検ガスに対する応答曲線を示すグラフであり、
図5は作動温度450℃を示している。
【
図6】実施例1及び比較例15に係る各被検ガスに対する応答曲線を示すグラフであり、作動温度500℃を示している。
【
図7】実施例1及び比較例15に係る各被検ガスに対する応答曲線を示すグラフであり、作動温度550℃を示している。
【
図8】実施例1及び比較例15に係る各被検ガスに対する応答曲線を示すグラフであり、作動温度600℃を示している。
【
図9】実施例1及び比較例15に係る酸素に対する応答特性を示すグラフであり、(a)は各濃度の酸素ガスに対する応答曲線を示し、(b)は起電力応答の酸素濃度に対する依存性を示し、且つ、作動温度400℃を示している。
【
図10】実施例1及び比較例15に酸素に対する応答特性を示すグラフであり、(a)は各濃度の酸素ガスに対する応答曲線を示し、(b)は起電力応答の酸素濃度に対する依存性を示し、且つ、作動温度450℃を示している。
【
図11】実施例1及び比較例15に係る酸素に対する応答特性を示すグラフであり、(a)は各濃度の酸素ガスに対する応答曲線を示し、(b)は起電力応答の酸素濃度に対する依存性を示し、且つ、作動温度500℃を示している。
【
図12】実施例1及び比較例15に係る酸素に対する応答特性を示すグラフであり、(a)は各濃度の酸素ガスに対する応答曲線を示し、(b)は起電力応答の酸素濃度に対する依存性を示し、且つ、作動温度550℃を示している。
【
図13】実施例1及び比較例15に係る酸素に対する応答特性を示すグラフであり、(a)は各濃度の酸素ガスに対する応答曲線を示し、(b)は起電力応答の酸素濃度に対する依存性を示し、且つ、作動温度600℃を示している。
【
図14】実施例1及び比較例15に係るλに対する起電力を示すグラフであって、作動温度400℃を示している。
【
図15】実施例1及び比較例15に係るλに対する起電力を示すグラフであって、作動温度450℃を示している。
【
図16】実施例1及び比較例15に係るλに対する起電力を示すグラフであって、作動温度500℃を示している。
【
図17】実施例1及び比較例15に係るλに対する起電力を示すグラフであって、作動温度550℃を示している。
【
図18】実施例1及び比較例15に係るλに対する起電力を示すグラフであって、作動温度600℃を示している。
【
図19】実施例1及び比較例15のセンサについて、λをリーン領域とリッチ領域とに繰り返し変化させた場合における起電力変化を示すグラフであって、作動温度550℃を示している。
【
図20】実施例1及び比較例15のセンサについて、λをリーン領域とリッチ領域とに繰り返し変化させた場合における起電力変化を示すグラフであって、作動温度600℃を示している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下では本発明の一実施形態を例示して説明するが、本発明は以下の実施形態に限られるものではない。
【0020】
図1は、電位検出型固体電解質酸素センサを示す模式的な構成図である。
図1に示す電位検出型固体電解質酸素センサ1は、例えば自動車等の内燃機関の排気ガスモニタリングに使用されるものであって、本実施形態に係る検知極材料より構成される検知極10と、検知極10が所定面に設けられた酸素イオン導電性を有する固体電解質(YSZチューブ)20と、固体電解質20の所定面の反対面となる大気開放された箇所に設けられた白金よりなる参照極30と、固体電解質20を所定温度に暖めるヒータ(不図示)とを備えている。また、チューブ状の固体電解質20の外周面には帯状にYSZ層21が形成され、検知極10はそのYSZ層21上に積層されている。さらに、検知極10と白金参照極30とにはマルチメータ200に接続するためのリード線22が取り付けられている。
【0021】
このようなセンサ1の検知極10は、バリウム−ストロンチウム−鉄系ペロブスカイト型酸化物により構成されている。この酸化物は、Ba
xSr
(1−x)FeO
(3−δ)で表わされるペロブスカイト型酸化物であり、xは0.1以上1.0以下の値であり、δは0を超え0.5以下の値である。ただし、
図2〜
図20においては、Ba
xSr
(1−x)FeO
(3−δ)をδを用いずに簡略化して、便宜的にBa
xSr
(1−x)FeO
3と記述している。特に、x=1.0の場合にはBaFeO
3と記述した。
【0022】
以下、本実施形態に係る検知極10を用いた酸素センサ1による実験結果(種々のガスに対する起電力応答、濃淡電池式酸素センサ応答、及びラムダセンサ応答)を示すが、それに先立って実験に用いたセンサ1(
図1に示すもの)の作製法を説明する。
【0023】
実験に用いたセンサ1(以下の実施例1〜3)は、固体電解質20は、YSZ一端封止管(例えば8mol Y
2O
3添加、内径5mm、外径8mm、長さ300mm)を用いた。また、YSZ粉末とα−テルピネオールを混練して得られたペーストを、一端封止YSZ管の外側表面に帯状に厚さ数十μmで塗布し、100℃で乾燥させてYSZ層21を形成した。検知極10の材料としては、上記のBa−Sr−Fe系酸化物を用い、α-テルピネオールと混練した後、YSZ層21の上部に数十μmの厚さで積層し、さらに100℃で乾燥させた。参照極30は、Ptペーストとα−テルピネオールを混練した後、YSZ管の内側先端表面に塗布し、100℃で乾燥させた。このようにして得られたYSZ管を最終的に1200℃で2時間焼成した。なお、白金参照極側は常時大気開放とした。
【0024】
一方、比較例に係る酸素センサは、上記とは異なる酸化物又はPtを検知極材料とした点以外は、実施例1〜4に係る酸素センサ1と同様にして作製されたものである。
【0025】
次に、酸素センサの第1の実験結果(種々のガスに対する起電力応答)を示す。実験にあたっては、実施例及び比較例に係るセンサを石英セル100に入れ、センサ特性評価装置にセットし、検知極10と参照極30との電位差をマルチメータ200を用いて測定した。作動温度を600℃とし、ベースガスを加湿合成空気(21vol.%O
2+5vol.%H
2O+N
2バランス)とし、被検ガスをCO,NO,NO
2,C
3H
6,C
3H
8,NH
3のそれぞれ(各100ppm,ベースガス希釈)とした。また、上記ベースガス又は被検ガスをガス流量100cm
3/minで測定用セル(石英セル100)に供給した。
【0026】
図2は、実施例1〜4及び比較例1〜15に係る種々のガスに対する起電力応答をまとめた図である。この図に示すように、比較例1において検知極材料はNiOであり、CO,NO,NO
2,C
3H
6,C
3H
8,NH
3のそれぞれに対して、起電力(mV)が順にー6.47,−5.65,29.45,(測定せず),−53.83,−13.88であった。
【0027】
比較例2において検知極材料はZnOであり、CO,NO,NO
2,C
3H
6,C
3H
8,NH
3のそれぞれに対して、起電力(mV)が順に−24.18,2.90,30.30,−95.53,−87.79,8.19であった。
【0028】
比較例3において検知極材料はSnO
2であり、CO,NO,NO
2,C
3H
6,C
3H
8,NH
3のそれぞれに対して、起電力(mV)が順に−16.07,−0.11,6.10,(測定せず),−89.41,−3.88であった。
【0029】
比較例4において検知極材料はMgCr
2O
4であり、CO,NO,NO
2,C
3H
6,C
3H
8,NH
3のそれぞれに対して、起電力(mV)が順に−0.38,−0.61,6.05,−27.64,−23.87,−8.32であった。
【0030】
比較例5において検知極材料はZnFe
2O
4であり、CO,NO,NO
2,C
3H
6,C
3H
8,NH
3のそれぞれに対して、起電力(mV)が順に−1.05,−3.19,17.44,(測定せず),−28.50,−7.33であった。
【0031】
比較例6において検知極材料はNiWO
4であり、CO,NO,NO
2,C
3H
6,C
3H
8,NH
3のそれぞれに対して、起電力(mV)が順に−25.68,−3.67,32.77,−222.82,−90.49,−13.23であった。
【0032】
比較例7において検知極材料はCeNbO
4であり、CO,NO,NO
2,C
3H
6,C
3H
8,NH
3のそれぞれに対して、起電力(mV)が順に−0.28,−3.83,26.12,−51.65,−6.82,−7.37であった。
【0033】
比較例8において検知極材料はCeTaO
4であり、CO,NO,NO
2,C
3H
6,C
3H
8,NH
3のそれぞれに対して、起電力(mV)が順に0.00,−0.01,11.96,−39.24,−6.48,−3.86であった。
【0034】
比較例9において検知極材料はLaMnO
3であり、CO,NO,NO
2,C
3H
6,C
3H
8,NH
3のそれぞれに対して、起電力(mV)が順に−0.16,−0.69,5.01,−14.39,−1.44,−3.46であった。
【0035】
比較例10において検知極材料はNiTiO
3であり、CO,NO,NO
2,C
3H
6,C
3H
8,NH
3のそれぞれに対して、起電力(mV)が順に−6.82,3.75,−16.74,−187.04,−72.64,2.87であった。
【0036】
比較例11において検知極材料はFeTiO
3であり、CO,NO,NO
2,C
3H
6,C
3H
8,NH
3のそれぞれに対して、起電力(mV)が順に−8.21,−19.69,91.40,−116.37,−132.05,−3.78であった。
【0037】
比較例12において検知極材料はGaFeO
3であり、CO,NO,NO
2,C
3H
6,C
3H
8,NH
3のそれぞれに対して、起電力(mV)が順に−3.81,2.20,75.80,−139.90,−37.89,−5.27であった。
【0038】
比較例13において検知極材料はSmFeO
3であり、CO,NO,NO
2,C
3H
6,C
3H
8,NH
3のそれぞれに対して、起電力(mV)が順に−1.80,−4.42,29.50,−67.14,−32.72,−26.67であった。
【0039】
実施例1において検知極材料はBaFeO
3であり、CO,NO,NO
2,C
3H
6,C
3H
8,NH
3のそれぞれに対して、起電力(mV)が順に0.03,0.10,0.19,−0.03,−0.03,0.08であった。
【0040】
実施例2において検知極材料はBa
0.9Sr
0.1FeO
3であり、CO,NO,NO
2,C
3H
6,C
3H
8,NH
3のそれぞれに対して、起電力(mV)が順に−0.04,0.14,0.21,−0.01,−0.11,0.22であった。
【0041】
実施例3において検知極材料はBa
0.5Sr
0.5FeO
3であり、CO,NO,NO
2,C
3H
6,C
3H
8,NH
3のそれぞれに対して、起電力(mV)が順に0.11,0.12,0.26,−0.66,−0.22,0.18であった。
【0042】
実施例4において検知極材料はBa
0.1Sr
0.9FeO
3であり、CO,NO,NO
2,C
3H
6,C
3H
8,NH
3のそれぞれに対して、起電力(mV)が順に−0.07,0.07,0.25,−0.31,−0.14,0.23であった。
【0043】
比較例14において検知極材料はSrFeO
3であり、CO,NO,NO
2,C
3H
6,C
3H
8,NH
3のそれぞれに対して、起電力(mV)が順に−0.07,−0.04,1.91,−0.32,−3.43,−0.53であった。
【0044】
比較例15において検知極材料はPtであり、CO,NO,NO
2,C
3H
6,C
3H
8,NH
3のそれぞれに対して、起電力(mV)が順に0.00,0.10,0.20,−0.18,−0.15,0.02であった。
【0045】
図3は、実施例1〜4及び比較例14,15について、各ガスに対する600℃での起電力応答を比較した図である。実施例1〜4と比較例15では、いずれのガスに対しても±1mV以下の応答しか示さないが、比較例14はC
3H
6やNO
2に対して数mVの応答を示した。
【0046】
以上のように、検知極10に本実施形態外の酸化物を用いた比較例1〜14は、いずれかの被検ガスに対して応答を示しているため、これらの雑ガスが混在したガス中では、酸素センサとして良好に機能しないことがわかった。一方、実施形態1〜4は、検知極材料がPtである比較例15と同様に、披検ガスに対してほとんど応答せず、これらの雑ガスが混在したガス中においても酸素センサとして良好に機能し得ることがわかった。
【0047】
図4〜
図8は、種々のガスに対する応答曲線を示すグラフであり、
図4は作動温度400℃を示し、
図5は作動温度450℃を示し、
図6は作動温度500℃を示し、
図7は作動温度550℃を示し、
図8は作動温度600℃を示している。なお、
図4〜
図8において実線は実施例1の応答曲線を示し、破線は比較例15の応答曲線を示している。また、
図4〜
図8において縦軸は起電力(Emf/mV)を示し、横軸は時間(Time/min)を示している。
【0048】
図4に示すように、作動温度400℃において実施例1及び比較例15の双方は、いずれの被検ガスに対しても比較的大きな応答を示した。また、
図5に示すように、作動温度450℃において実施例1は、NOx(NO及びNO
2)に対してやや応答し、その他の被検ガスについては僅かな応答しか示さかった。これに対して比較例15は、NO及びCH
4に対して僅かに応答を示し、その他の被検ガスについて大きな応答を示した。
【0049】
また、
図6〜
図8に示すように、実施例1は500℃においてはNOxに対して非常に僅かにだけ応答するものの、その他の被検ガスに対しては応答しなかった。この実施例1は550℃及び600℃では、すべての被検ガスに対して応答しなかった。一方、比較例15は、作動温度500℃においてC
3H
8,C
3H
6,H
2,NH
3に対して僅かに応答を示し、その他の被検ガスに対しては応答しなかった。また、比較例15は、作動温度550℃においてC
3H
6に対して僅かに応答を示し、その他の被検ガスに対しては応答しなかった。さらに、作動温度600℃では、全ての被検ガスに対して応答しなかった。
【0050】
このように、実施例1は、作動温度500℃以上600℃以下において、披検ガスに対してほとんど応答しないことがわかった。特に、
図6と
図7から明らかなように、作動温度500℃と550℃において実施例1は、検知極10が白金により構成される比較例15よりも被検ガスに対して不活性であることがわかった。
【0051】
次に、第2の実験結果(濃淡電池式酸素センサ応答)を示す。実験にあたっては、実施例1及び比較例15に示したセンサを石英セル100に入れ、センサ特性評価装置にセットし、検知極10と参照極30との電位差をマルチメータ200を用いて測定した。作動温度を400〜600℃とし、ベースガスを加湿合成空気(21vol.%O
2+5vol.%H
2O+N
2バランス)とし、被検ガスの酸素濃度を0.05〜21vol.%の範囲で変化させた。
【0052】
図9〜
図13は、酸素に対する応答特性を示すグラフであり、(a)は各濃度の酸素ガスに対する応答曲線を示し、(b)は起電力応答の酸素濃度に対する依存性を示している。なお、
図9は作動温度400℃を示し、
図10は作動温度450℃を示し、
図11は作動温度500℃を示し、
図12は作動温度550℃を示し、
図13は作動温度600℃を示している。また、
図9〜
図13において実線は実施例1の応答特性を示し、破線は比較例15の応答特性を示している。また、
図9〜
図13において縦軸は起電力(Emf/mV)を示し、横軸は時間(Time/min)(各図(a))及び酸素濃度(対数目盛,O
2濃度/vol.%)(各図(b))を示している。
【0053】
図9(a)に示すように、作動温度400℃の場合、実施例1は、酸素濃度の低濃度領域(0.05〜0.5 vol.%O
2)において酸素濃度が切り替えられた直後に、適切な起電力を発生しておらず、比較例15と比べて応答速度(濃度を上昇させていく際の追従速度)及び回復速度(濃度を低下させていく際の追従速度)が小さくなった。また、
図9(b)に示すように、酸素濃度の対数に対して測定した起電力の値をプロットした結果、実施例1は比較例15と比較してネルンスト式に従う良好な直線関係は得られなかった。また、反応電子数も理論値がn=4.0であるのに対して、比較例15はn=4.16と近いが、実施例1はn=4.44を示した。
【0054】
図10(a)に示すように、作動温度450℃の場合、実施例1は、酸素濃度の極低濃度領域(0.05〜0.2 vol.%O
2)において酸素濃度が切り替えられた直後に、適切な起電力を発生しておらず、比較例15と比べて応答及び回復が遅かった。なお、
図10(b)に示すように、酸素濃度の対数に対して測定した起電力の値をプロットした結果、実施例1は比較例15と同様にネルンスト式に従う良好な直線関係が得られ、反応電子数も理論値がn=4.0であるのに対して、実施例1は比較例15と共にn=4.19と近い値を示した。
【0055】
図11(a)、
図12(a)及び
図13(a)に示すように、作動温度500℃、550℃及び600℃である場合、実施例1は、酸素濃度の全濃度領域において酸素濃度が切り替えられた直後に、適切な起電力を発生しており比較例15と同様に良好な応答速度及び回復速度を示した。また、
図11(b)、
図12(b)及び
図13(b)に示すように、酸素濃度の対数に対して測定した起電力の値をプロットした結果、実施例1は比較例15と同様にネルンスト式に従う良好な直線関係が得られ、反応電子数も理論値がn=4.0であるのに対して、実施例1はn=4.16〜4.21、比較例15もn=4.17〜4.21と理論値に近い値を示した。
【0056】
なお、実施例1については作動温度600℃で2週間放置した後も、
図13に示す結果は殆ど変化しなかったことから、安定で信頼性の高い検知極材料であるといえる。
【0057】
以上に示すように、検知極10をBa
xSr
(1−x)FeO
(3−δ)で表わされるペロブスカイト型酸化物(xは0.1以上1.0以下の値、δは0を超え0.5以下の値)にて構成したセンサは、作動温度600℃においては、種々の雑ガスに対して不活性であり、濃淡電池式酸素センサ用検知極材料として適していることがわかった。加えて、検知極10に上記x=1であるBaFeO
(3−δ)で表わされる酸化物を用いると、白金に代わる安価な検知極材料として作動温度500℃以上600℃以下において、濃淡電池式酸素センサ用に使えることがわかった。
【0058】
次に、第3の実験結果(ラムダセンサ応答)を示す。実験にあたっては、実施例1及び比較例15に示したセンサを石英セルに入れ、センサ特性評価装置にセットし、検知極10と参照極30との電位差をマルチメータを用いて測定した。また、石英セルの入口に500℃において酸化触媒(1400℃で2時間焼成した2gのMn
2O
3)を設置し、2000ppmのC
3H
8と種々の濃度のO
2を混合することにより、作動温度400〜600℃での種々のラムダ(以下λと記載し、λ=空燃比/理論空燃比、理論空燃比=空気の質量/燃料の質量=14.7)に対する起電力の値を測定した。また、λの範囲は0.85〜1.15とした。なお、被検ガス中の水蒸気濃度は5vol.%、ガス流量は100 cm
3/minとした。
【0059】
図14〜
図18は、λに対する起電力を示すグラフであって、
図14は作動温度400℃を示し、
図15は作動温度450℃を示し、
図16は作動温度500℃を示し、
図17は作動温度550℃を示し、
図18は作動温度600℃を示している。なお、
図14〜
図18において実線は実施例1の応答特性を示し、破線は比較例15の応答特性を示している。また、
図14〜
図18において縦軸は起電力(Emf/mV)を示し、横軸はλを示している。
【0060】
図14〜
図16に示すように、作動温度が400℃、450℃及び500℃である場合、実施例1は、空気過剰なリーン領域と燃料過剰なリッチ領域との境界(当量点,λ=1)の近傍において、比較例15と同様に急激な起電力変化を示した。しかし、実施例1は、比較例15と比較して電位の変化が小さかった。
【0061】
一方、
図17及び
図18に示すように、作動温度が550℃及び600℃である場合、実施例1は、リーン領域とリッチ領域の境界近傍において、比較例15と同様に急激な起電力の変化を示すと共に、比較例15と同様の大きな起電力変化量を示した。
【0062】
図19及び
図20は、λをリーン領域とリッチ領域との間で繰り返し変化させた場合における起電力応答を示すグラフであって、
図19は作動温度550℃、
図20は作動温度600℃での特性を示す。なお、
図19及び
図20において実線は実施例1の応答特性を示し、破線は比較例15の応答特性を示している。また、
図19及び
図20において縦軸は起電力(Emf/mV)を示し、横軸は時間(Time/min)を示している。
【0063】
図19に示すように、作動温度550℃において、λをリーン領域(λ=1.1)とリッチ領域(λ=0.9)との間で繰り返し変化させた場合、実施例1は比較例15と同様の応答曲線を示した。また、
図20に示すように、作動温度600℃においてもλをリーン領域(λ=1.1)とリッチ領域(λ=0.9)との間で繰り返し変化させた場合も、実施例1は比較例15と同様の応答曲線を示した。
【0064】
このように、検知極10をBa
xSr
(1−x)FeO
(3−δ)で表わされる酸化物(xは0.1以上1.0以下の値、δは0を超え0.5以下の値)にて構成したセンサによれば、作動温度が少なくとも550℃以上600℃以下においてλの変化に伴い良好な応答特性と再現性が得られ、ラムダセンサにも応用できることがわかった。
【0065】
このようにして、本実施形態に係る電位検出型固体電解質酸素センサにおいて、検知極材料をBa
xSr
(1−x)FeO
(3−δ)で表わされる酸化物により構成し、xは0.1以上1.0以下の値であり、δは0を超え0.5以下の値であれば、検知極に白金を使用しないで低コスト化を図ることができ、しかも酸素センサとして適切に動作させて、濃淡電池式酸素センサやラムダセンサに利用可能となる。
【0066】
また、ヒータにより固体電解質20を500℃以上600℃以下となるよう加熱することにより、検知極に白金を使用しないで低コスト化を図ったうえで、濃淡電池式酸素センサとして適切に動作させることができる。
【0067】
また、ヒータにより固体電解質20を550℃以上600℃以下となるよう加熱することにより、検知極に白金を使用しないで低コスト化を図ったうえで、ラムダセンサとして適切に動作させることができる。
【0068】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、上記記載の形態及び技術を組み合わせるようにしてもよい。例えば固体電解質20はYSZに限らず、酸素イオン導電性を有するものであれば、他のもの(バリウムセリウム系酸化物、セリア系、BIMEVOX系など)であってもよい。
【0069】
さらに、上記においては、酸素センサとして動作させるに必要な他の構成については、図示及び説明を省略しているが、センサ1を駆動させる場合に必要に応じてこれら構成を備えることは言うまでもない。
【0070】
加えて、
図3〜
図20では、濃淡電池式酸素センサ及びラムダセンサに応用する際の400℃以上600℃以下の作動温度での特性結果を示しているが、600℃を超えて900℃においても実施例1及び比較例15はいずれも良好な応答特性を示しており、600℃以下に作動温度が限定されるものではない。
【0071】
さらに、
図1に示すセンサ1は、チューブ型により構成されているが、これに限らず、平面型及び積層型などの素子構成とすることも可能である。