【課題】タマネギを原料とする熱水抽出によるケルセチン含有抽出物であり、ケルセチン純度が高く、色および風味において格段に優れた食材と呼ぶにふさわしい抽出物(ケルセチン含有抽出物)、および該抽出物が簡便に得られる製造方法を提供すること。
結晶化工程の後、結晶化物を含む抽出液を再加熱して粒成長させる粒成長工程、を含む請求項3〜5のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたケルセチン含有抽出物。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係るケルセチン含有抽出物は、タマネギより熱水抽出したケルセチン含有抽出物であり、L
*a
*b
*表色系によるL
*値(明度)が50以上であり、かつ同b
*値(色度)が15以上であることを特徴とする。L
*a
*b
*表色系によるL
*値およびb
*値がこの範囲にあるケルセチン含有抽出物とすることにより、ケルセチン含有抽出物としての色(見た目)、特有の刺激臭および苦味が改善され、喫食あるいは飲食する際の不快感を低減することができる。
【0018】
L
*値およびb
*値が前記の数値範囲から外れると、見た目が悪くなり、喫食あるいは飲食する際の不快感が増す傾向がある。また、特有の刺激臭および苦味が発現しやすくなり、喫食あるいは飲食する際の不快感が増す傾向がある。
【0019】
L
*値は、物質が有する色の明度を規定する値であり、0〜100の間の数値で表される。L
*値が100である場合最も明るい状態(完全な白色)を示し、一方、L
*値が0である場合最も暗い状態(完全な黒色)を示す。
【0020】
本発明のケルセチン含有抽出物のL
*a
*b
*表色系によるL
*値は50以上であり、55以上が好ましく、60以上がより好ましい。L
*値が50未満の場合は、不純物の含有量が多く、これに由来する色、特有の刺激臭および味が強く、喫食あるいは飲食する際に不快感をもよおす傾向がある。なお、L
*値の上限は特に限定されず、ケルセチン純度97質量%の場合のL
*値が約85であることから、85以下であればよい。
【0021】
b
*値は、物質が有する色の色度を規定する値であり、b
*値が大きいほど黄色が強いことを示し、一方、b
*値が小さいほど青色が強いことを示す。その範囲は、−60〜60の間の数値で表される。
【0022】
本発明のケルセチン含有抽出物のL
*a
*b
*表色系によるb
*値は15以上であり、18以上が好ましく、20以上がより好ましい。b
*値が15未満の場合は、不純物の含有量が多く、これに由来する色、特有の刺激臭および味が強く、喫食あるいは飲食する際に不快感をもよおす傾向がある。なお、b
*値の上限は特に限定されず、ケルセチン純度97質量%の場合のb
*値が約47であることから、47以下であればよい。
【0023】
また、a
*値も、物質が有する色の色度を規定する値であり、a
*値が大きいほど赤色が強いことを示し、一方、a
*値が小さいほど緑色が強いことを示す。その範囲は、−60〜60の間の数値で表される。
【0024】
本発明のケルセチン含有抽出物のL
*a
*b
*表色系によるa
*値は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、例えば−10〜20であればよい。
【0025】
なお、本発明におけるL
*a
*b
*表色系による値は、JIS Z 8730に規定される値であり、コニカミノルタ株式会社製 スペクトロメーター CM−3600dなどの市販の色差計により測定される値である。
【0026】
本発明のケルセチン含有抽出物におけるケルセチン含有抽出物の純度は15質量%以上であることが好ましく、20質量%以上がより好ましい。ケルセチン含有抽出物の純度が15質量%以上の場合、L
*値が50以上、かつb
*値が15以上の範囲に入りやすくなり、ケルセチン含有抽出物としての見た目が改善され、喫食あるいは飲食する際の不快感が低減される傾向がある。さらに、ケルセチン含有抽出物の純度が20質量%以上の場合、喫食あるいは飲食する際の不快感がより低減される傾向がある。
【0027】
本発明のケルセチン含有抽出物の製造方法の一例として、タマネギを熱水により抽出し、ケルセチン含有抽出液を得る抽出工程、抽出液と原料残渣とを分離する固液分離工程1、ケルセチンを結晶化させる結晶化工程、および結晶化物を回収する固液分離工程2、を含むケルセチン含有抽出物の製造方法を説明する。当該製造方法によれば、タマネギを原料とする熱水抽出による製造方法であるにもかかわらず、本願発明に係るケルセチン含有抽出物を容易に製造することができる。なお、本発明の効果を損なわない限り、当該製造方法以外で製造されたケルセチン含有抽出物であってもよい。
【0028】
原料
原料となるタマネギとしては、ヒガンバナ科ネギ属のタマネギに分類される植物の球根部(以下、単にタマネギとも記載する)であれば特に限定されない。品種によりバラつきはあるものの、タマネギの球根部にケルセチンが含まれていることから、品種に限定されることなく本発明における原料として用いることができる。また、使用するタマネギの部位としてはケルセチンが最も多く含まれている外皮部分が最も好ましいが、外皮部分より内側の可食部との中間に位置する内皮や、可食部にもケルセチンが含まれているため、これらの各部位または各部位の混合物を原料として用いることができる。なかでも、不純物が多く含まれており本発明の効果をより発揮できるという点から外皮部分を含む混合物を原料とすることが好ましく、外皮部分のみを原料とすることがより好ましい。タマネギの品種、部位によるケルセチン含量の詳細については、たとえばN.Beesk et al., Food Chemistry, 122(2010)566.などの文献により広く知られている。
【0029】
タマネギの状態として、水分を多く含んだ生の状態、乾燥した状態(絶乾状態)、多少の水分を飛ばした半乾燥状態などが考えられるが、いずれの状態のタマネギを用いてもよい。また、熱水抽出に用いるタマネギは原形のままでもよいが、鱗葉をばらしたものや、粉砕したものを用いることもできる。なお、土などの汚れは水洗いやエアー、ブラシなどにより洗浄して取り除いたものを用いることがより好ましい。タマネギ皮最外層の、栽培において土に接触している皮のみを取り除くだけでも汚れを格段に減らすことができる。
【0030】
なお、タマネギにはケルセチンに1または2〜3個の糖が結合した配糖体と呼ばれる成分も含まれるが、この配糖体も本発明のケルセチンに含まれてもよい。また、一般的にケルセチンに水が結合した水和物(最も一般的には1−2水和物)も知られているがこの水和物も本発明のケルセチンに含まれてもよい。また、本発明のケルセチンには前述の配糖体およびケルセチンに水が結合した水和物ともに含まれてもよい。
【0031】
抽出工程
抽出工程は、前記タマネギを所定の温度で熱水により抽出し、ケルセチン含有抽出液を得る工程である。
【0032】
抽出工程に用いる溶媒は熱水、つまり水である。前記水としては、特に限定はなく水道水、蒸留水、井戸水など、食品用途に使用できる水を用いることができる。
【0033】
溶媒の液量は絶乾状態のタマネギの質量の5倍以上が好ましく、30倍以上がより好ましい。溶媒の液量は少ないほど以降の工程の操作がより簡便になるが、溶媒の液量が5倍未満の場合は抽出効率が悪化する傾向がある。また、液量は200倍以下が好ましい。200倍より多く用いても抽出効率の向上は見られないし、溶媒の量を増やし過ぎると以降の工程の簡便性が低下する傾向がある。
【0034】
また、抽出温度は60℃以上が好ましく、60〜150℃がより好ましく、90〜99℃がさらに好ましい。抽出温度が60℃未満の場合はタマネギから成分が溶出しにくく、抽出効率が悪化する傾向があり、ケルセチンの収量が向上しない。また、150℃を超える場合はケルセチンが分解してしまい、抽出効率が悪化する傾向があり、ケルセチンの収量が向上しない。抽出温度を90〜99℃で行うことは、タマネギから成分の溶出がしやすく、かつ、ケルセチンが分解しにくいので、最も抽出効率がよくなる。
【0035】
抽出時間は5分以上が好ましく、30分以上がより好ましい。抽出時間が5分未満の場合はタマネギから成分が溶出しにくく、抽出効率が悪化する傾向があり、ケルセチンの収量が向上しない。また、3時間を超えて抽出しても抽出効率の向上は見られないことから、抽出時間は3時間以下が好ましい。
【0036】
抽出工程で使用する容器としては前記抽出温度に耐え得る容器であれば特に限定されず、ステンレスなどの金属製、セラミック製、樹脂製、ガラス製などの各種容器を用いることができる。特に100℃近く、もしくは100℃を超える抽出温度では、溶媒である水の蒸発を防ぐことができるという理由から市販の圧力鍋やオートクレーブなどの金属製の密閉容器、セラミック製の密封容器を用いることが好ましい。
【0037】
固液分離工程1
固液分離工程1は、前記抽出工程で得られたケルセチン含有抽出液と原料残渣とを分離する工程である。
【0038】
固液分離工程1としては、ろ過、デカンテーション、スクリュープレス、ローラープレス、ロータリードラムスクリーン、ベルトスクリーン、振動スクリーン、多重板振動フィルター、真空脱水、加圧脱水、ベルトプレス、遠心分離、遠心脱水、多重円板脱水などの方法を採用することができる。なかでも、操作が簡便であるという理由からはデカンテーションが好ましく、分離効率に優れるという理由からはろ過や遠心脱水などが好ましい。
【0039】
前記ろ過に用いるろ材としては、特に限定はなく不織布、織布、セルロースろ紙、ガラスろ紙などの公知のろ紙やフィルターを用いることができる。固液分離工程1におけるろ物は原料残渣であるから、比較的目の粗い不織布、織布、孔径の大きなセルロースろ紙やガラスろ紙、ナイロンメッシュ、ポリエステルメッシュ、ポリプロピレンメッシュ、ポリエチレンメッシュ、アフロンメッシュ、交点溶着メッシュ、金属メッシュを用いてもよい。
【0040】
また、固液分離工程1は、前記抽出工程の直後に行うことも、抽出液の温度が低下してから行うこともできる。なお、抽出液の温度が低下してから行う場合であっても、60℃未満まで低下すると、ケルセチンが結晶化しやすくなり、適切なろ紙やフィルターの選定が必要となるため60℃以上の状態で行うことが好ましい。適切なろ紙やフィルターの選定により、結晶化したケルセチンよりも孔径が大きく、原料残渣よりも孔径が小さなフィルターなどが使用可能であれば、固液分離工程1の抽出液の温度は60℃未満であってもかまわない。
【0041】
結晶化工程
結晶化工程は、ケルセチンの水の温度に対する溶解度の差を利用し、抽出液に溶解しているケルセチンを結晶化させる工程であり、固液分離工程1で得られたケルセチン含有抽出液を所定の温度まで冷却してケルセチンを結晶化させる工程とすることができる。なお、ここで記載している「結晶化工程」とは抽出液からケルセチンを含む沈殿物が析出してくる工程であり、当然のごとくケルセチンと似た溶解度を持つ非晶質体を含んだ他の物質も析出してくる。またケルセチン自体もその析出粒子形態が微小であったり、析出に当たって水やその他物質を取り込んでしまったりすると、いわゆる原子や分子が規則正しく配列した「結晶」とはならず、その一部、もしくは大部分が非晶質体として析出してくることもあるが、ここではこのような広義の意味を含めて「結晶化工程」の用語を使用している。
【0042】
ケルセチンの結晶化は、熱水抽出温度よりも10℃以上低い温度まで冷却することで徐々に始まるが、冷却後の温度(冷却温度)が60℃以上では結晶化が十分ではなく、抽出効率が悪化する傾向があることから、結晶化工程における冷却温度は、60℃未満が好ましく、40℃以下がより好ましい。また、冷却温度の下限は抽出液が凍結しない温度であれば特に限定されない。
【0043】
冷却方法は、水などの冷媒を用いた急冷とすることも、自然放置や風冷などの徐冷とすることもできる。ケルセチンの結晶が比較的大きな結晶となり、後述の固液分離工程2などが容易になるという点、後述する粒成長工程が不必要となる場合があるという点から徐冷が好ましい。
【0044】
冷却時間は5分以上が好ましく、30分以上がより好ましい。冷却時間が5分未満の場合は結晶化が十分ではなく、抽出効率が悪化する傾向がある。また、48時間を超えて冷却しても結晶化の進展は見られないことから、冷却時間は48時間以下が好ましく、24時間以下でもよい。なお、本発明における冷却時間は、抽出液が目標とする冷却温度に達してからの時間とする。
【0045】
粒成長工程
前記結晶化工程の後、結晶化工程で得られたケルセチンの結晶化物を粒成長させる、つまり結晶を粗大化させる、粒成長工程を行うことが好ましい。当該工程により結晶化物を粗大化させることで、後述の固液分離工程2などをより簡便に行うことができる。
【0046】
粒成長は、結晶化物を含む抽出液を再加熱することで開始させることができる。再加熱温度は結晶化工程における冷却温度より10℃以上高い温度が好ましく、再加熱後の温度(再加熱温度)を4〜80℃の範囲内とすることが好ましく、20〜70℃の範囲内とすることがより好ましい。再加熱温度が4℃未満の場合は粒成長効率が悪くなる傾向がある。また、80℃を超える場合は沈殿物や結晶化物が再溶解してしまう傾向がある。再加熱温度を20〜70℃の範囲とすることが、粒成長効率がよく、沈殿物や結晶化物が再溶解されにくいという理由から好ましい。
【0047】
再加熱時間は5分以上が好ましく、60分以上がより好ましい。再加熱時間が5分未満の場合は粗大化が不十分となる傾向がある。また、12時間を超えて再加熱しても粗大化進展は見られないことから、再加熱時間は12時間以下が好ましい。なお、本発明における再加熱時間は、抽出液が目標とする再加熱温度に達してからの時間とする。
【0048】
なお、一度の粒成長工程では結晶化物の粗大化が不十分な場合は、前記の結晶化工程(冷却)および粒成長工程(再加熱)を繰り返し行うことで結晶化物の粗大化が改善する場合がある。
【0049】
固液分離工程2
固液分離工程2は、前記結晶化工程で得られた結晶化物を含む沈殿、または前記粒成長工程を行った場合は得られた粗大化した結晶化物を含む沈殿を回収する工程である。ケルセチンの結晶化物を含む沈殿を回収し、不純物を多く含む液相を除くことでケルセチンの純度を高めることができる。また、多く液相を除くことができるため、粉末状のケルセチン含有抽出物を調製する場合であっても簡便に残りの液相を揮発させることができる。
【0050】
固液分離工程2としては、前述の固液分離工程1と同様の方法を採用することができる。なかでも、操作が簡便であるという理由からはデカンテーションが好ましく、分離効率に優れるという理由からはろ過や、遠心分離などが好ましい。
【0051】
当該ろ過に用いるろ材としても前述の固液分離工程1と同様のろ材を用いることができる。ただし、固液分離工程2におけるろ物は結晶化物を含む沈殿であることから比較的目の細かい不織布、織布、セルロースろ紙やガラスろ紙、ナイロンメッシュ、ポリエステルメッシュ、ポリプロピレンメッシュ、ポリエチレンメッシュ、アフロンメッシュ、交点溶着メッシュ、金属メッシュなどを用いることが好ましい。
【0052】
後処理工程
後処理工程は前記固液分離工程2で回収された沈殿を保存に適した形態や、健康食品などに加工しやすい形態に処理する工程である。
【0053】
固液分離工程2で回収された沈殿は水分を含むスラリー状である。後処理工程としては、スラリーの水分を調整する、スラリーを凍結させる、可溶性の有機溶剤(エタノールなど)に溶解させる、乾燥させる、などが挙げられ、用途に応じて適宜選択したり、組み合わせたりすることができる。なかでも、より取り扱いが容易な粉末状および固形状の抽出物が得られることから乾燥を含む後処理工程とすることが好ましい。
【0054】
乾燥方法としては、特に限定されず、自然乾燥、加熱系乾燥、非加熱系乾燥などを採用することができる。加熱系乾燥としては、箱型乾燥や噴霧乾燥などの伝熱乾燥、マイクロ波乾燥などの内部発熱乾燥等が挙げられ、非加熱系乾燥としては、凍結乾燥、真空乾燥、吸引乾燥、加圧乾燥、超音波乾燥等が挙げられるが、一般的で簡便なオーブンや恒温槽を用いた乾燥でもよい。
【0055】
前記製造方法によれば、タマネギを原料とする熱水抽出、固液分離工程1、結晶化工程および固液分離工程2を含む製造方法であり、添加物の添加やpHの調整などの煩雑な工程を行うことなく簡便にケルセチン純度の高いタマネギ抽出物を製造することができる。また、結晶化工程の後に粒成長工程を行うことにより、より簡便にケルセチン純度の高いタマネギ抽出物を製造することができる。また、従来の熱水抽出により調製されたケルセチン含有抽出物に比べ明るい見た目を示し、タマネギ臭や苦味が大幅に改善された抽出物を得ることができる。
【0056】
前記製造方法により得られるケルセチン含有抽出物の純度は高く、その純度は15質量%以上であり、従来法で得られたケルセチン含有抽出物の純度は10質量%未満であることから、高純度のケルセチン含有抽出物であると言える。また、前記製造方法では、ケルセチン含有抽出物の純度が20質量%以上のケルセチン含有抽出物を得ることもできる。さらに、純度が高くなることにより従来のタマネギ抽出物に多く存在していた黒ずんだ不純物が減少し、見た目においては改善されて明るみ〜黄色味をおび、本願発明に係るケルセチン含有抽出物を得ることができる。
【実施例】
【0057】
本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
【0058】
実施例1
<抽出工程>
粉砕して水で洗浄した生のタマネギ外皮70g(含水率90%)を500mlのビーカーに入れ、90℃の熱水357mlを添加し、90℃で1時間撹拌することで熱水抽出を行った。
<固液分離工程1>
抽出直後、引き続きセルロースろ紙(ADVANTEC製の5A)により、抽出液と残渣とを分離した。
<結晶化工程>
抽出液を500mlのビーカーに入れ、4℃で12時間静置し、ケルセチンを含む不溶性物質を析出・結晶化させた。静置後はビーカーの底に析出物が沈殿として観察された。
<粒成長工程>
60℃に再加熱し、60℃で60分間静置させて結晶化物を粒成長させた。
<固液分離工程2>
デカンテーションにより、残存液が全体液量の約1/10となるように上澄液を除去し、結晶化物を含む沈殿を回収した。
<後処理工程>
回収した結晶化物を含む沈殿を−80℃で凍結させ、凍結乾燥機(EYELA製のFDU−2200)により室温で12時間乾燥させて粉末状態の抽出物を得た。
【0059】
実施例2
<抽出工程>
粉砕して水で洗浄した生のタマネギ外皮140g(含水率90%)を1000mlのビーカーに入れ、90℃の熱水714mlを添加し、90℃で1時間撹拌することで熱水抽出を行った。
<固液分離工程1>は実施例1と同様の操作を行った。
<結晶化工程>
抽出液を1000mlのビーカーに入れ、4℃で12時間静置し、ケルセチンを含む不溶性物質を析出・結晶化させた。静置後はビーカーの底に析出物が沈殿として観察された。
<粒成長工程>、<固液分離工程2>、<後処理工程>は実施例1と同様の操作を行った。ただし<固液分離工程2>においては残存液が全体液量の約1/15となるように上澄液を除去した。
【0060】
実施例3
実施例2において<粒成長工程>を省いた以外は実施例2と同様の操作を行った。ただし<固液分離工程2>においては残存液が全体液量の約1/20となるように上澄液を除去した。
【0061】
実施例4
実施例3と同様の操作を行った。ただし<固液分離工程2>においては残存液が全体液量の約1/50となるように上澄液を除去した。
【0062】
実施例5
実施例4と同様の操作を行った。ただし<固液分離工程2>においては残存液が全体液量の約1/80となるように上澄液を除去した。
【0063】
実施例6
<抽出工程>
粉砕した絶乾状態のタマネギ外皮3gを500mlのビーカーに入れ、90℃の熱水177mlを添加し、90℃で1時間撹拌することで熱水抽出を行った。
<固液分離工程1>、<結晶化工程>、<粒成長工程>は実施例1と同様の操作を行なった。
<固液分離工程2>
セルロースろ紙(ADVANTEC製の5C)を用いたろ過により、結晶化物を含む沈殿を回収した。残存液の割合は明らかに実施例5よりも少なくした。
<後処理工程>
回収した沈殿物をオーブン(Yamato製のSterilizer SI401)により105℃で12時間乾燥させて絶乾状態の抽出物を得た。
【0064】
実施例1〜6において粒成長工程を行った実施例1、2および6では、しばらく静置しておくとすぐに沈殿が沈降し、見た目も結晶粒が大きいものが観察され、デカンテーションを行なった実施例1および2では上澄液を除去しやすかった。一方、粒成長工程を行っていない工程である実施例3、4および5では、見た目において細かい沈殿がゆっくりと沈降しているようであり、静置時間につれてビーカー底には沈降したものの、デカンテーションにおいてはゆっくりと上澄を除去していかないと沈殿が舞い上がってしまい、慎重な作業を必要とした。
【0065】
比較例1
<抽出工程>
粉砕した絶乾状態のタマネギ外皮3gを500mlのビーカーに入れ、90℃の熱水177mlを添加し、90℃で1時間撹拌することで熱水抽出を行った。
<固液分離工程>
抽出直後、引き続きセルロースろ紙(ADVANTEC製の5A)により、抽出液と残渣とを分離した。
<後処理工程>
回収した抽出液をオーブン(Yamato製のSterilizer SI401)により105℃で12時間乾燥させて絶乾状態の抽出物を得た。
【0066】
抽出物の成分分析
実施例1〜6および比較例1で得られた各抽出物を100mlのビーカー内で99.5%エタノールに溶解させてHPLC用試料を作成し、100mlメスフラスコで定容後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて成分分析を行い、ケルセチン量を算出した。そして、絶乾タマネギ原料1g当たりのケルセチン抽出量および不純物抽出量ならびにケルセチン純度を算出した。結果を表1ならびに
図1、
図2および
図3に示す。
【0067】
HPLCの測定条件を以下に示す。
測定装置:株式会社島津製作所製のLC−2010HT
カラム:ナカライテスク株式会社製のCOSMOSIL(登録商標)MS−II Waters(φ4.6×250mm)
移動相:A;0.1%ギ酸、B;メタノール
0min-8min; A:B=90:10→50:50
8min-21min; A:B=50:50→30:70
21min-25min; A:B=30:70
25min-25min50sec; A:B=30:70→0:100
25min50sec-35min; A:B=0:100
35min-35min50sec; A:B=0:100→90:10
35min50sec-45min50sec; A:B=90:10
カラム温度:35℃
UV検出:350nm
導入量:10μl
流量:0.6mL/min
分析時間:45min
標準試薬:ケルセチン(≧99.0%、CALBIOCHEM社製)
【0068】
タマネギ臭の評価
実施例1〜6および比較例1で得られた計7つの抽出物の臭いを順番に5人のパネラーにより評価し、下記の基準に基づき採点した。評価結果は5人のパネラーによる採点結果の平均を算出した値である。
タマネギ臭の評価基準
1:かすかなタマネギ臭
2:若干のタマネギ臭
3:鼻は刺激しないがはっきりとわかる、強いタマネギ臭
4:鼻を刺激するような強いタマネギ臭
【0069】
味の評価
実施例1〜6および比較例1で得られた計7つの抽出物の味を順番に5人のパネラーにより評価し、下記の基準に基づき採点した。評価結果は5人のパネラーによる採点結果の平均を算出した値である。
味の評価基準
1:わずかな苦味
2:若干の苦味
3:舌をあまり刺激しないがはっきりとわかる苦味
4:舌をかなり刺激する苦味
【0070】
色の評価
実施例1〜6、比較例1で得られた計7つの抽出物をそれぞれ約0.1g採取し、色彩色差計(コニカミノルタ株式会社製 スペクトロメーター CM−3600d、光源:D65 視野:10度 方式:SCI)にてL
*a
*b
*表色系によるL
*値、a
*値およびb
*値を測定した。参考例として試薬であるケルセチン2水和物(ケルセチン純度97質量%、Alfa Aesar、ジョンソン・マッセイ社製)も同様に測定した。
【0071】
【表1】
【0072】
表1ならびに
図1、
図2および
図3の結果より、本発明のケルセチン含有抽出物によれば、見た目に優れ、タマネギの特有の刺激臭および苦味が低減されていることがわかる。さらに、前述の製造方法により製造されたタマネギ抽出物は、ケルセチン純度が15質量%以上(実施例の結果からは、ケルセチン純度が20質量%以上である。)であるケルセチン含有抽出物であることがわかる。実施例1〜6の結果の比較により、上澄液を除去する割合を多くすることによりケルセチン純度を上昇させることができることがわかる。一方、比較例1の結果より、不純物を多く含む抽出物となりケルセチン純度が10質量%未満であり、不純物の含有量が多いことから、見た目が悪く、タマネギの特有の刺激臭および苦味が強いことがわかる。