特開2015-171978(P2015-171978A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋炭素株式会社の特許一覧

特開2015-171978多孔質炭素、その製造方法、及び多孔質炭素を用いた吸着/脱離装置
<>
  • 特開2015171978-多孔質炭素、その製造方法、及び多孔質炭素を用いた吸着/脱離装置 図000006
  • 特開2015171978-多孔質炭素、その製造方法、及び多孔質炭素を用いた吸着/脱離装置 図000007
  • 特開2015171978-多孔質炭素、その製造方法、及び多孔質炭素を用いた吸着/脱離装置 図000008
  • 特開2015171978-多孔質炭素、その製造方法、及び多孔質炭素を用いた吸着/脱離装置 図000009
  • 特開2015171978-多孔質炭素、その製造方法、及び多孔質炭素を用いた吸着/脱離装置 図000010
  • 特開2015171978-多孔質炭素、その製造方法、及び多孔質炭素を用いた吸着/脱離装置 図000011
  • 特開2015171978-多孔質炭素、その製造方法、及び多孔質炭素を用いた吸着/脱離装置 図000012
  • 特開2015171978-多孔質炭素、その製造方法、及び多孔質炭素を用いた吸着/脱離装置 図000013
  • 特開2015171978-多孔質炭素、その製造方法、及び多孔質炭素を用いた吸着/脱離装置 図000014
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-171978(P2015-171978A)
(43)【公開日】2015年10月1日
(54)【発明の名称】多孔質炭素、その製造方法、及び多孔質炭素を用いた吸着/脱離装置
(51)【国際特許分類】
   C01B 31/02 20060101AFI20150904BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20150904BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20150904BHJP
【FI】
   C01B31/02 101B
   B01J20/20 A
   B01J20/30
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-49200(P2014-49200)
(22)【出願日】2014年3月12日
(71)【出願人】
【識別番号】000222842
【氏名又は名称】東洋炭素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126963
【弁理士】
【氏名又は名称】来代 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100131864
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 正憲
(72)【発明者】
【氏名】森下 隆広
(72)【発明者】
【氏名】折笠 広典
(72)【発明者】
【氏名】豊田 昌宏
【テーマコード(参考)】
4G066
4G146
【Fターム(参考)】
4G066AA04B
4G066AB23A
4G066BA25
4G066BA26
4G066BA38
4G066DA07
4G066FA11
4G066FA21
4G066FA33
4G066FA34
4G146AA01
4G146AB01
4G146AC04A
4G146AC04B
4G146AC08A
4G146AC08B
4G146AC09A
4G146AC09B
4G146AC13A
4G146AC13B
4G146AC20B
4G146AC22A
4G146AC22B
4G146AD11
4G146AD19
4G146AD31
4G146BA11
4G146BC03
4G146BC07
4G146BC23
4G146BC33B
4G146BC34A
4G146BC34B
4G146BC35A
4G146BC35B
4G146BC36A
4G146BC36B
4G146BC37A
4G146BC37B
4G146CA02
4G146CA12
(57)【要約】
【課題】本発明は、酸化消耗温度が高い多孔質炭素、その製造方法、及び多孔質炭素を用いた吸着/脱離装置を提供することを目的としている。
【解決手段】メソ孔とこのメソ孔の外郭を構成する炭素質壁とを備えた多孔質炭素であって、主としてハードカーボンから構成され、酸化消耗温度が600℃以上であることを特徴とするものであり、2500℃以上で30分以上60分以下加熱した後に、X線回折法によって(002)面の平均面間隔d(002)を測定した場合、当該値が0.350nm以上であることが望ましい。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メソ孔とこのメソ孔の外郭を構成する炭素質壁とを備えた多孔質炭素であって、
主としてハードカーボンから構成され、酸化消耗温度が600℃以上であることを特徴とする多孔質炭素。
【請求項2】
2500℃で30分以上60分以下加熱した後に、X線回折法によって(002)面の平均面間隔d(002)を測定した場合、当該値が0.350nm以上である、請求項1に記載の多孔質炭素。
【請求項3】
比表面積が500m/g以上である、請求項1又は2に記載の多孔質炭素。
【請求項4】
上記メソ孔の容量は0.2ml/g以上である、請求項1〜3の何れか1項に記載の多孔質炭素。
【請求項5】
真密度は1.0g/cc以上である、請求項1〜4の何れか1項に記載の多孔質炭素。
【請求項6】
金属有機酸の水和物を用いてメソ孔を有する炭素質焼成体を作製する第1ステップと、
上記炭素質焼成体を、非酸化雰囲気の下、1500℃以上3000℃以下で1分以上60分以下熱処理する第2ステップと、
を有することを特徴とする多孔質炭素の製造方法。
【請求項7】
上記熱処理における昇温速度が5℃/min以上30℃/min以下である、請求項6記載の多孔質炭素の製造方法。
【請求項8】
上記請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の多孔質炭素が吸着/脱離剤として用いられることを特徴とする吸着/脱離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多孔質炭素、その製造方法、及び多孔質炭素を用いた吸着/脱離装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多孔質炭素の製造方法としては、木材パルプ、のこ屑、ヤシ殻、綿実殻、もみ殻等のセルロース質や、粟、稗、とうもろこし等の澱粉質、リグニン等の植物性原料、石炭やタール、石油ピッチ等の鉱物性原料、更にはフェノール樹脂やポリアクリロニトリル等の合成樹脂等を原料とし、これを非酸化性雰囲気下で加熱して炭素化する方法が周知であり、また、これらの炭素化物(活性炭)を薬剤で処理して賦活化する方法もよく知られている。
【0003】
また最近では、賦活用の薬剤として水酸化カリウムを使用し、これを有機質樹脂と混合して非酸化性雰囲気下で加熱すれば、3000m/gにも達する高い比表面積の活性炭が得られることが確認され、注目を集めている(下記特許文献1参照)。ところが、当該方法は、工業的規模での実用化には適していない。
【0004】
このようなことを考慮して、有機質樹脂を、アルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、有機酸塩よりなる群から選択されるアルカリ土類金属化合物の少なくとも1種と混合し、非酸化性雰囲気で加熱焼成する工程を含む活性炭の製造方法が提案されている(下記特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−86914号公報
【特許文献2】特開2006−062954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の方法で作製した場合には、酸化消耗温度が低くなるという課題を有していた。
【0007】
そこで本発明は、酸化消耗温度が高い多孔質炭素、その製造方法、及び多孔質炭素を用いた吸着/脱離装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明は、メソ孔とこのメソ孔の外郭を構成する炭素質壁とを備えた多孔質炭素であって、主としてハードカーボンから構成され、酸化消耗温度が600℃以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、酸化消耗温度が高くなるといった優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の製造工程を示す図であって、同図(a)は原料の化学式を示す説明図、同図(b)は原料を熱処理した状態を示す説明図、同図(c)は多孔質炭素を示す説明図である。
図2】炭素A1における炭素重量と温度との関係を示すグラフ。
図3】炭素A2における炭素重量と温度との関係を示すグラフ。
図4】炭素A3における炭素重量と温度との関係を示すグラフ。
図5】炭素A4における炭素重量と温度との関係を示すグラフ。
図6】炭素A5における炭素重量と温度との関係を示すグラフ。
図7】炭素A6における炭素重量と温度との関係を示すグラフ。
図8】炭素A7における炭素重量と温度との関係を示すグラフ。
図9】炭素Zにおける炭素重量と温度との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、メソ孔とこのメソ孔の外郭を構成する炭素質壁とを備えた多孔質炭素であって、主としてハードカーボンから構成され、酸化消耗温度が600℃以上であることを特徴とする。
上記構成であれば、酸化消耗温度が高くなるといった優れた効果を奏する。主としてハードカーボンから構成されていると、耐熱性に優れるため、酸化消耗温度が高くなる他、電気絶縁性に優れる。更に、粉末強度が高くなるので、外力が加わった場合であっても粒度変化が少なくなる。
ここで、主としてハードカーボンから構成されるとは、ハードカーボンの割合が90質量%以上の場合をいう。尚、ハードカーボンの割合は95質量%以上、特に99質量%以上であることが望ましく、一番好ましいのは、全てがハードカーボンの場合である。
【0012】
2500℃で30分以上60分以下加熱した後に、X線回折法によって(002)面の平均面間隔d(002)を測定した場合、当該値が0.350nm以上であることが望ましい。
2500℃で30分以上60分以下加熱した場合には、黒鉛化されていると想定されるため、当該状態でX線回折法による(002)面の平均面間隔d(002)を規定している。
ここで、本明細書において、ハードカーボンとは、2500℃で30分以上60分以下加熱した場合に(002)面の面間隔d(002)の値が0.340nm以上となるカーボンをいい、ソフトカーボンとは、2500℃で30分以上60分以下加熱した場合に(002)面の面間隔d(002)の値が0.340nm未満となるカーボンをいう。
【0013】
比表面積が500m/g以上であることが望ましい。
比表面積が500m/g未満であると、気孔の形成量が不十分となるため、例えば吸着/脱離剤として用いられた場合にガス吸着能が低下することがある。一般的に、熱処理をすると、多孔質炭素の比表面積は小さくなるが、本発明の如く主としてハードカーボンから構成されていれば、比表面積が小さくなり難くなる。したがって、ガス吸着能が低下するのを抑制することができる。尚、比表面積の上限は限定するものではないが、一般的には、1700m/gが上限である。
【0014】
上記メソ孔の容量は0.2ml/g以上であることが望ましい。
メソ孔の容量が0.2ml/g未満であると、上述のように吸着/脱離剤として用いられた場合に、比表面積を確保することが困難であり、しかも、相対圧力が高い場合のガス吸着能が低下する場合がある。一般的に、熱処理をすると、多孔質炭素のメソ孔の容量は小さくなるが、本発明の如く主としてハードカーボンから構成されていれば、メソ孔の容量が小さくなり難くなる。したがって、相対圧力が高い場合のガス吸着能が低下するのを抑制することができる。尚、メソ孔の容量の上限は限定するものではないが、一般的には、1.0ml/gが上限である。
【0015】
真密度は1.0g/cc以上であることが望ましい。
真密度が1.0g/cc未満であると、比表面積を確保することが困難であり、炭素質壁の形状が保てなくなることがある。一般的に、熱処理をすると、多孔質炭素の真密度は低くなるが、本発明の如く主としてハードカーボンから構成されていれば、真密度が低下し難くなる。したがって、炭素質壁の形状が保てなくなるのを抑制することができる。尚、真密度の上限は限定するものではないが、一般的には、1.9g/ccが上限である。
【0016】
また、本発明は、金属有機酸の水和物を用いてメソ孔を有する炭素質焼成体を作製する第1ステップと、上記炭素質焼成体を、非酸化雰囲気の下、1500℃以上3000℃以下で1分以上60分以下熱処理する第2ステップと、を有することを特徴とする。
熱処理温度と熱処理時間とを規制するのは、以下に示す理由による。
熱処理温度が1500℃未満となったり、熱処理時間が1分未満となったりすると、熱処理が不十分となって、酸化消耗温度が低くなったり、比表面積が大きくなり過ぎたり、メソ孔の容量が大きくなり過ぎたり、真密度が高くなり過ぎたりする場合がある。一方、熱処理温度が3000℃を超えたり、熱処理時間が60分を超えると、熱処理が過剰となって、比表面積が小さくなり過ぎたり、メソ孔の容量が小さくなり過ぎたり、真密度が低くなり過ぎたりする場合がある。
尚、非酸化雰囲気とは、アルゴンガス雰囲気或いは窒素ガス雰囲気等の場合の他、減圧雰囲気〔133Pa(1torr)以下〕を含む。
【0017】
上記熱処理における昇温速度が5℃/min以上30℃/min以下であることが望ましい。
【0018】
吸着/脱離装置に、上述した多孔質炭素が吸着/脱離剤として用いられることを特徴とする。
従来用いられていた活性炭では、酸化消耗温度が300℃以下であり、300℃以上の雰囲気下では、吸着/脱離剤として使用できなかった。本願の多孔質炭素は、酸化消耗温度が600℃以上であり、高温でもポーラス構造が維持されるので、300℃以上の耐酸化性が要求される状況下でも、吸着/脱離剤として使用できる。尚、高温で使用できる吸着/脱離装置として金属フィルタが存在するが、当該フィルタの孔サイズは多孔質炭素と比べると、格段に大きい。したがって、本願の多孔質炭素を用いた吸着/脱離装置に比べると、吸着/脱離性能が著しく劣る。
【0019】
上記炭素質壁は3次元網目構造を成すことが望ましく、また、メソ孔は開気孔であって、気孔部分が連続するような構成となっていることが望ましい。
これらの構成であれば、本発明の多孔質炭素を吸着/脱離剤として用いた場合に、ガスの流れが円滑になるので、よりガスを補足し易く、ガス吸着能が向上する。
【0020】
ここで、具体的な実施形態を以下に説明する。
本発明の多孔質炭素は、熱処理による熱分解過程で、鋳型粒子である酸化物(例えば、酸化マグネシウム)と炭素とに状態が変化する、金属有機酸(クエン酸マグネシウム、シュウ酸マグネシウム、クエン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム等)の水和物を原料として使用する。そして、この原料を非酸化雰囲気或いは減圧雰囲気で、例えば500℃以上の温度で炭化した後、洗浄処理することで酸化物を取り除いて炭素質焼成体を作製し、しかる後、この非晶質の多孔質炭素を、非酸化雰囲気で、1500℃以上3000℃以下で1分以上60分以下熱処理することにより得られる。
【0021】
前記非晶質多孔質炭素は多数のメソ孔を有しており、このメソ孔間に形成された炭素質壁におけるメソ孔に臨む位置には、ミクロ孔が形成されるような構造となっている。また、上記炭素質焼成体の熱処理においては、多数のメソ孔が存在した状態は維持されている。尚、本明細書においては、細孔径が2nm未満のものをミクロ孔、細孔径が2〜50nmのものをメソ孔と称することとする。
【0022】
ここで、炭素質焼成体を作製する場合の原料としては、上記金属有機酸の水和物に限定するものではなく、有機質樹脂と、酸化物(鋳型粒子)とを湿式もしくは乾式混合したものを用いても良い。
上記酸化物(鋳型粒子)としては、アルカリ土類金属の酸化物等が挙げられる。アルカリ土類金属としてはマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等が挙げられるが、これらの中でも好ましいのはマグネシウムとカルシウムであり、とりわけマグネシウムが最適である。上記酸化物の形態は特に制限されず、粉末状、ペレット状、顆粒状、ペースト状など、任意の形態で使用できるが、特に好ましいのは、上記有機質樹脂と均一混合し易く炭化物の多孔質化に最も有効な粉末状もしくは顆粒状のものである。上記有機質樹脂に対する上記酸化物の配合比率は特に制限されないが、得られる多孔質炭素の多孔質化を増進する上で特に好ましいのは、上記有機質樹脂100質量部に対し上記酸化物が40〜700質量部の範囲である。ちなみに、上記酸化物の配合比率が40質量部未満では、多孔質炭素に対する多孔質化増進効果が不足気味となる。一方、多孔質炭素の多孔質化作用の観点からすると、上記酸化物の配合比率に上限は存在しないが、その作用は700質量部でほぼ飽和し、それ以上配合してもそれ以上に比表面積は増大せず、上記酸化物の使用量がいたずらに増大するだけでなく、炭化処理後の上記酸化物の除去作業性も低下するので好ましくない。上記酸化物の配合量のより好ましい下限値は100質量部で、より好ましい上限値は300質量部である。上記有機質樹脂と上記酸化物の配合形態にも格別の制限はなく、最も一般的な粉末や顆粒状物などの固形物同士の均一混合の他、例えば上記有機質樹脂を加熱溶融し、これに上記酸化物を均一分散させてから球状、ペレット状、塊状など任意の形状に二次成形したもの、更には有機溶剤や水などに溶解した上記有機質樹脂と上記酸化物の混合溶液やスラリーやその乾燥物など、任意の形態で使用することができる。
上記有機質樹脂としては、単位構造中に少なくとも一つ以上の窒素を含むポリイミドもしくは炭素化収率が40重量%以上85重量%以下の樹脂、例えばフェノール樹脂等が好ましく用いられる。
【0023】
上記単位構造中に少なくとも一つ以上の窒素を含むポリイミドは、酸成分とジアミン成分との重縮合により得ることができる。但し、この場合、酸成分及びジアミン成分のいずれか一方又は両方に、一つ以上の窒素原子を含む必要がある。
具体的には、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を成膜し、溶媒を加熱除去することによりポリアミド酸膜を得る。次に、得られたポリアミド酸膜を200℃以上で熱イミド化することによりポリイミドを製造することができる。
【0024】
前記ジアミンとしては、p−フェニレンジアミン(PPD)、ジオキシジアニリン等の芳香族ジアミンが例示できる。また、上記ジアミン成分は上記各芳香族ジアミンを2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0025】
一方、酸成分としては、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、ピロメリット酸二無水物(PMDA)等が挙げられる。
また、ポリイミド前駆体の溶媒として用いる有機溶媒は、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
【0026】
イミド化の手法としては公知の方法〔例えば高分子学会編「新高分子実験学」共立出版、1996年3月28日、第3巻高分子の合成・反応(2)158頁参照〕に示されるように、加熱あるいは化学イミド化のどちらの方法に従ってもよく、本発明はこのイミド化の方法には左右されない。
更に、ポリイミド以外の樹脂としては、石油系タールピッチ、アクリル樹脂等40%以上の炭素収率を持つものが使用できる。
【0027】
また、酸化物を取り除く洗浄液としては、塩酸、硫酸、硝酸、クエン酸、酢酸、ギ酸など一般的な無機酸を使用し、2mol/l以下の希酸として用いるのが好ましい。また、80℃以上の熱水を使用することも可能である。
【実施例】
【0028】
〔第1実施例〕
(実施例1)
先ず、図1(a)に示すように、炭素前駆体と鋳型粒子前駆体とを兼ねる二クエン酸三マグネシウム九水和物〔Mg(C・9HO〕を用意し、これをアルゴン雰囲気中900℃で1時間熱処理した。これにより、図1(b)に示すように、鋳型粒子であるMgOと炭素質壁3とを備えた焼成物を得た。次いで、得られた焼成物を1mol/lの割合で添加された硫酸溶液で洗浄して、MgOを完全に溶出させることにより、図1(c)に示すように、多数のメソ孔4を有する非晶質の多孔質炭素5を得た。最後に、この非晶質の多孔質炭素を、以下に示す条件で熱処理して、多孔質炭素を得た。
【0029】
・熱処理条件
雰囲気:アルゴンガス雰囲気
熱処理温度:1800℃(20℃/分で温度上昇)
熱処理時間:30分
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、炭素A1と称する。
【0030】
(実施例2)
非晶質の多孔質炭素の熱処理温度を2000℃とした他は、上記実施例1と同様にして多孔質炭素を作製した。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、炭素A2と称する。
【0031】
(実施例3)
非晶質の多孔質炭素の熱処理温度を2200℃とした他は、上記実施例1と同様にして多孔質炭素を作製した。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、炭素A3と称する。
【0032】
(実施例4)
非晶質の多孔質炭素の熱処理温度を2400℃とした他は、上記実施例1と同様にして多孔質炭素を作製した。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、炭素A4と称する。
【0033】
(実施例5)
非晶質の多孔質炭素の熱処理温度を2500℃とした他は、上記実施例1と同様にして多孔質炭素を作製した。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、炭素A5と称する。
【0034】
(実施例6)
非晶質の多孔質炭素の熱処理温度を2700℃とした他は、上記実施例1と同様にして多孔質炭素を作製した。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、炭素A6と称する。
【0035】
(実施例7)
非晶質の多孔質炭素の熱処理温度を3000℃とした他は、上記実施例1と同様にして多孔質炭素を作製した。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、炭素A7と称する。
【0036】
(比較例)
非晶質の多孔質炭素の熱処理を行わなかった他は、上記実施例1と同様にして多孔質炭素を作製した。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、炭素Zと称する。
【0037】
(実験1)
上記炭素A1〜A7、Zを大気雰囲気下で昇温して、炭素重量と温度との関係を調べたので、その結果を図2図9に示す。図2は炭素A1のグラフ、図3は炭素A2のグラフ、図4は炭素A3のグラフ、図5は炭素A4のグラフ、図6は炭素A5のグラフ、図7は炭素A6のグラフ、図8は炭素A7のグラフ、図9は炭素Zのグラフである。また、図2図9より、炭素A1〜A7、Zの酸化消耗温度を導出したので、その結果を表1に示す。
【0038】
ここで、上記酸化消耗温度とは、例えば図2に示すように、殆ど重量変化しない部分(横軸に略平向な部分)の仮想延長線Aと、重量変化が著しい部分の仮想延長線Bとの交点Cにおける温度である。
また、表1には、炭素A1〜A7、Zの比表面積、メソ孔の容量、及び、真密度についても併せて示す。上記比表面積は、試料に、窒素ガスを77Kの温度中の各相対圧力で吸着させ、吸着等温線を測定し、BET法によって算出した。上記メソ孔の容量は、吸着等温線より算出された全細孔容積および、DA法を用いたミクロ孔容積を用い、全細孔容積からミクロ孔容積を差し引くことでメソ孔容量を算出した。真密度は、ピクノメーターにゲーリュサック比重瓶を用いて、浸透液に1−ブタノールを用いて、ピクノメーター法により測定した。
【0039】
【表1】
【0040】
表1から明らかなように、酸化消耗温度につき、炭素Zでは575℃であるのに対して炭素A1〜A7では620〜672℃であって、炭素A1〜A7は炭素Zより高くなっていることが分かる。尚、熱処理したことに起因して、炭素A1〜A7は炭素Zに比べて、比表面積、真密度及びメソ孔の容量が小さくなっていることが分かる。但し、炭素A1〜A7における比表面積は500m/g以上で、メソ孔の容量は0.2ml/g以上で、真密度は1.0g/cc以上であるので、実用上の問題はない。
【0041】
〔第2実施例〕
(実施例1〜5)
実施例1〜5として、上記第1実施例の実施例1、実施例3、実施例5、実施例6、実施例7で示した炭素A1、炭素A3、炭素A5、炭素A6、炭素A7を用いた。
【0042】
(比較例1)
炭素前駆体と鋳型粒子前駆体とを兼ねる二クエン酸三マグネシウム〔Mg(Cで表され、水和していないもの〕を用い、熱処理時間を60分とした以外は、上記第1実施例の実施例1と同様にして多孔質炭素を作製した。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、炭素Y1と称する。
【0043】
(比較例2)
非晶質の多孔質炭素の熱処理温度を2200℃とした他は、上記比較例1と同様にして多孔質炭素を作製した。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、炭素Y2と称する。
【0044】
(比較例3)
非晶質の多孔質炭素の熱処理温度を2500℃とした他は、上記比較例1と同様にして多孔質炭素を作製した。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、炭素Y3と称する。
【0045】
(比較例4)
非晶質の多孔質炭素の熱処理温度を2800℃とした他は、上記比較例1と同様にして多孔質炭素を作製した。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、炭素Y4と称する。
【0046】
(実験1)
上記炭素A3、A5〜A7、Y2〜Y4におけるハードカーボンの割合と、X線回折法(線源:CuKα線)による(002)面の平均面間隔d(002)(以下、単に、平均面間隔d(002)と称することがある)とを調べたので、その結果を表2に示す。また、上記炭素A5、Y3における酸化消耗率を調べたので、その結果を表2に示す。
【0047】
上記平均面間隔d(002)はX線回折法よりより得られた回折プロファイルにおいて、002面の回折ピークが2つ以上存在する際は、各回折ピークトップの2θを用いて、それぞれBraggの式〔2dsinθ=λ(λ=1.5148Å)〕よりd(002)を算出した後、平均値を算出し、平均面間隔d(002)とした。また、002面の回折ピークが1つの場合は、回折ピークトップの2θを用いて、Braggの式〔2dsinθ=λ(λ=1.5148Å)〕よりd(002)を算出し、平均面間隔d(002)とした。
【0048】
尚、ハードカーボンの割合については、平均面間隔d(002)と熱分解のグラフとから算出した。具体的には、平均面間隔d(002)の値より、ハードカーボンのみから構成されているのか、ソフトカーボンのみから構成されているのか、ソフトカーボンとハードカーボンとの混合物で構成されているのかが判明する。そして、ソフトカーボンとハードカーボンとの混合物で構成されている場合には、熱分解のグラフの面積比より、ソフトカーボンとハードカーボンとの比率を計算した。
【0049】
また、上記酸化消耗率は、以下のようにして算出した。先ず、乾燥重量1gのサンプルをアルミナ製ルツボに入れ、大気中700℃で1時間保持した。その後、自然冷却し、ルツボに残った残分を秤量して、これをXgとした。そして、下記式(1)から酸化消耗率を算出した。
酸化消耗率={(1g−Xg)/1g}×100・・・(1)
【0050】
【表2】
【0051】
上記表2から明らかなように、炭素Y2〜Y4ではハードカーボンの割合が56〜89%となっているのに対して、炭素A3、A5〜A7ではハードカーボンの割合が全て100%となっていることが認められる。これは、以下に示す理由によるものと考えられる。炭素A3、A5〜A7では、原料として水和物(二クエン酸三マグネシウム九水和物)を用いているので、焼成時にHOが存在し、酸素が存在する。このため、クエン酸が不融化して、ハードカーボンの割合が高くなる。これに対して、炭素Y2〜Y4では、原料として水和物を用いていないので、焼成時にHOが存在せず、酸素が存在しない。したがって、クエン酸が重縮合して溶融するため、ハードカーボンの割合が低くなる。
【0052】
また、炭素Y2〜Y4では平均面間隔d(002)が0.346〜0.348nmとなっているのに対して、炭素A3、A5〜A7では平均面間隔d(002)が0.350〜0.362nmとなっていることが認められる。これは、炭素A3、A5〜A7は炭素Y2〜Y4に比べてハードカーボンの割合が高いことに起因するものと考えられる。
更に、炭素Y3では酸化消耗率が38mass%となっているのに対して、炭素A5では酸化消耗率が17mass%となっていることが認められ、炭素A5は炭素Y3に比べて耐酸化性が高くなっていた。これも、炭素A5は炭素Y3に比べてハードカーボンの割合が高いことに起因するものと考えられる。
【0053】
(実験2)
上記炭素A1、A3、A5、Y1〜Y3における電気伝導率を調べたので、その結果を表3に示す。尚、電気伝導率は、粉体用電気伝導度測定セル(有限会社タクミ技研製)のシリンダー部へ試料200mgを充填し、20MPaの圧力をかけながら電気抵抗を測定した。
【0054】
【表3】
【0055】
上記表3から明らかなように、炭素Y1〜Y3では電気伝導率が99〜159S/mであるのに対して、炭素A1、A3、A5では電気伝導率が65〜72S/mであることが認められる。このように、炭素A1、A3、A5は炭素Y1〜Y3に比べて電気伝導率が低くなるのは、実験2で示したように、炭素A1、A3、A5は炭素Y1〜Y3に比べてハードカーボンの割合が高いことに起因するものと考えられる。尚、炭素Y1〜Y3では熱処理温度が上がるに連れて電気伝導率が高くなるのに対して、炭素A1、A3、A5では熱処理温度が上がるに連れて電気伝導率が低くなることが認められる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、ケミカルフィルタ、金属メッシュフィルタ、カラム充填剤、液体フィルタ等に用いることができる。
【符号の説明】
【0057】
1:ポリアミック酸樹脂(イミド系樹脂)
2:酸化マグネシウム
3:炭素質壁
4:メソ孔
5:多孔質炭素
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9