【実施例】
【0028】
〔第1実施例〕
(実施例1)
先ず、
図1(a)に示すように、炭素前駆体と鋳型粒子前駆体とを兼ねる二クエン酸三マグネシウム九水和物〔Mg
3(C
6H
5O
7)
2・9H
2O〕を用意し、これをアルゴン雰囲気中900℃で1時間熱処理した。これにより、
図1(b)に示すように、鋳型粒子であるMgOと炭素質壁3とを備えた焼成物を得た。次いで、得られた焼成物を1mol/lの割合で添加された硫酸溶液で洗浄して、MgOを完全に溶出させることにより、
図1(c)に示すように、多数のメソ孔4を有する非晶質の多孔質炭素5を得た。最後に、この非晶質の多孔質炭素を、以下に示す条件で熱処理して、多孔質炭素を得た。
【0029】
・熱処理条件
雰囲気:アルゴンガス雰囲気
熱処理温度:1800℃(20℃/分で温度上昇)
熱処理時間:30分
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、炭素A1と称する。
【0030】
(実施例2)
非晶質の多孔質炭素の熱処理温度を2000℃とした他は、上記実施例1と同様にして多孔質炭素を作製した。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、炭素A2と称する。
【0031】
(実施例3)
非晶質の多孔質炭素の熱処理温度を2200℃とした他は、上記実施例1と同様にして多孔質炭素を作製した。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、炭素A3と称する。
【0032】
(実施例4)
非晶質の多孔質炭素の熱処理温度を2400℃とした他は、上記実施例1と同様にして多孔質炭素を作製した。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、炭素A4と称する。
【0033】
(実施例5)
非晶質の多孔質炭素の熱処理温度を2500℃とした他は、上記実施例1と同様にして多孔質炭素を作製した。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、炭素A5と称する。
【0034】
(実施例6)
非晶質の多孔質炭素の熱処理温度を2700℃とした他は、上記実施例1と同様にして多孔質炭素を作製した。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、炭素A6と称する。
【0035】
(実施例7)
非晶質の多孔質炭素の熱処理温度を3000℃とした他は、上記実施例1と同様にして多孔質炭素を作製した。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、炭素A7と称する。
【0036】
(比較例)
非晶質の多孔質炭素の熱処理を行わなかった他は、上記実施例1と同様にして多孔質炭素を作製した。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、炭素Zと称する。
【0037】
(実験1)
上記炭素A1〜A7、Zを大気雰囲気下で昇温して、炭素重量と温度との関係を調べたので、その結果を
図2〜
図9に示す。
図2は炭素A1のグラフ、
図3は炭素A2のグラフ、
図4は炭素A3のグラフ、
図5は炭素A4のグラフ、
図6は炭素A5のグラフ、
図7は炭素A6のグラフ、
図8は炭素A7のグラフ、
図9は炭素Zのグラフである。また、
図2〜
図9より、炭素A1〜A7、Zの酸化消耗温度を導出したので、その結果を表1に示す。
【0038】
ここで、上記酸化消耗温度とは、例えば
図2に示すように、殆ど重量変化しない部分(横軸に略平向な部分)の仮想延長線Aと、重量変化が著しい部分の仮想延長線Bとの交点Cにおける温度である。
また、表1には、炭素A1〜A7、Zの比表面積、メソ孔の容量、及び、真密度についても併せて示す。上記比表面積は、試料に、窒素ガスを77Kの温度中の各相対圧力で吸着させ、吸着等温線を測定し、BET法によって算出した。上記メソ孔の容量は、吸着等温線より算出された全細孔容積および、DA法を用いたミクロ孔容積を用い、全細孔容積からミクロ孔容積を差し引くことでメソ孔容量を算出した。真密度は、ピクノメーターにゲーリュサック比重瓶を用いて、浸透液に1−ブタノールを用いて、ピクノメーター法により測定した。
【0039】
【表1】
【0040】
表1から明らかなように、酸化消耗温度につき、炭素Zでは575℃であるのに対して炭素A1〜A7では620〜672℃であって、炭素A1〜A7は炭素Zより高くなっていることが分かる。尚、熱処理したことに起因して、炭素A1〜A7は炭素Zに比べて、比表面積、真密度及びメソ孔の容量が小さくなっていることが分かる。但し、炭素A1〜A7における比表面積は500m
2/g以上で、メソ孔の容量は0.2ml/g以上で、真密度は1.0g/cc以上であるので、実用上の問題はない。
【0041】
〔第2実施例〕
(実施例1〜5)
実施例1〜5として、上記第1実施例の実施例1、実施例3、実施例5、実施例6、実施例7で示した炭素A1、炭素A3、炭素A5、炭素A6、炭素A7を用いた。
【0042】
(比較例1)
炭素前駆体と鋳型粒子前駆体とを兼ねる二クエン酸三マグネシウム〔Mg
3(C
6H
5O
7)
2で表され、水和していないもの〕を用い、熱処理時間を60分とした以外は、上記第1実施例の実施例1と同様にして多孔質炭素を作製した。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、炭素Y1と称する。
【0043】
(比較例2)
非晶質の多孔質炭素の熱処理温度を2200℃とした他は、上記比較例1と同様にして多孔質炭素を作製した。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、炭素Y2と称する。
【0044】
(比較例3)
非晶質の多孔質炭素の熱処理温度を2500℃とした他は、上記比較例1と同様にして多孔質炭素を作製した。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、炭素Y3と称する。
【0045】
(比較例4)
非晶質の多孔質炭素の熱処理温度を2800℃とした他は、上記比較例1と同様にして多孔質炭素を作製した。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、炭素Y4と称する。
【0046】
(実験1)
上記炭素A3、A5〜A7、Y2〜Y4におけるハードカーボンの割合と、X線回折法(線源:CuKα線)による(002)面の平均面間隔d(002)(以下、単に、平均面間隔d(002)と称することがある)とを調べたので、その結果を表2に示す。また、上記炭素A5、Y3における酸化消耗率を調べたので、その結果を表2に示す。
【0047】
上記平均面間隔d(002)はX線回折法よりより得られた回折プロファイルにおいて、002面の回折ピークが2つ以上存在する際は、各回折ピークトップの2θを用いて、それぞれBraggの式〔2dsinθ=λ(λ=1.5148Å)〕よりd(002)を算出した後、平均値を算出し、平均面間隔d(002)とした。また、002面の回折ピークが1つの場合は、回折ピークトップの2θを用いて、Braggの式〔2dsinθ=λ(λ=1.5148Å)〕よりd(002)を算出し、平均面間隔d(002)とした。
【0048】
尚、ハードカーボンの割合については、平均面間隔d(002)と熱分解のグラフとから算出した。具体的には、平均面間隔d(002)の値より、ハードカーボンのみから構成されているのか、ソフトカーボンのみから構成されているのか、ソフトカーボンとハードカーボンとの混合物で構成されているのかが判明する。そして、ソフトカーボンとハードカーボンとの混合物で構成されている場合には、熱分解のグラフの面積比より、ソフトカーボンとハードカーボンとの比率を計算した。
【0049】
また、上記酸化消耗率は、以下のようにして算出した。先ず、乾燥重量1gのサンプルをアルミナ製ルツボに入れ、大気中700℃で1時間保持した。その後、自然冷却し、ルツボに残った残分を秤量して、これをXgとした。そして、下記式(1)から酸化消耗率を算出した。
酸化消耗率={(1g−Xg)/1g}×100・・・(1)
【0050】
【表2】
【0051】
上記表2から明らかなように、炭素Y2〜Y4ではハードカーボンの割合が56〜89%となっているのに対して、炭素A3、A5〜A7ではハードカーボンの割合が全て100%となっていることが認められる。これは、以下に示す理由によるものと考えられる。炭素A3、A5〜A7では、原料として水和物(二クエン酸三マグネシウム九水和物)を用いているので、焼成時にH
2Oが存在し、酸素が存在する。このため、クエン酸が不融化して、ハードカーボンの割合が高くなる。これに対して、炭素Y2〜Y4では、原料として水和物を用いていないので、焼成時にH
2Oが存在せず、酸素が存在しない。したがって、クエン酸が重縮合して溶融するため、ハードカーボンの割合が低くなる。
【0052】
また、炭素Y2〜Y4では平均面間隔d(002)が0.346〜0.348nmとなっているのに対して、炭素A3、A5〜A7では平均面間隔d(002)が0.350〜0.362nmとなっていることが認められる。これは、炭素A3、A5〜A7は炭素Y2〜Y4に比べてハードカーボンの割合が高いことに起因するものと考えられる。
更に、炭素Y3では酸化消耗率が38mass%となっているのに対して、炭素A5では酸化消耗率が17mass%となっていることが認められ、炭素A5は炭素Y3に比べて耐酸化性が高くなっていた。これも、炭素A5は炭素Y3に比べてハードカーボンの割合が高いことに起因するものと考えられる。
【0053】
(実験2)
上記炭素A1、A3、A5、Y1〜Y3における電気伝導率を調べたので、その結果を表3に示す。尚、電気伝導率は、粉体用電気伝導度測定セル(有限会社タクミ技研製)のシリンダー部へ試料200mgを充填し、20MPaの圧力をかけながら電気抵抗を測定した。
【0054】
【表3】
【0055】
上記表3から明らかなように、炭素Y1〜Y3では電気伝導率が99〜159S/mであるのに対して、炭素A1、A3、A5では電気伝導率が65〜72S/mであることが認められる。このように、炭素A1、A3、A5は炭素Y1〜Y3に比べて電気伝導率が低くなるのは、実験2で示したように、炭素A1、A3、A5は炭素Y1〜Y3に比べてハードカーボンの割合が高いことに起因するものと考えられる。尚、炭素Y1〜Y3では熱処理温度が上がるに連れて電気伝導率が高くなるのに対して、炭素A1、A3、A5では熱処理温度が上がるに連れて電気伝導率が低くなることが認められる。