【実施例】
【0022】
図1に示すように、ベルト式無段変速機10は、クランク軸11の一端に形成されるプーリ軸12と、このプーリ軸12に支持される駆動プーリ13と、この駆動プーリ13と図示しない従動プーリとに掛け渡されるベルト14とを基本要素としている。さらに、駆動プーリ13は、プーリ軸12に固定される固定シーブ15と、プーリ軸12に支持され固定シーブ15に対して相対移動可能な可動シーブ16からなり、これら固定シーブ15と可動シーブ16との間にベルト14が巻き掛けられている。
【0023】
可動シーブ16の背後には、ランププレート17がプーリ軸12に固定されており、これら可動シーブ16とランププレート17との間に複数の遠心ウエイト19が保持されている。プーリ軸12が回転し、その回転速度に応じた遠心力が遠心ウエイト19に作用すると、遠心ウエイト19が可動シーブ16のカム面21に沿って径外方へ移動し、可動シーブ16を固定シーブ15側へ移動させる。結果、固定シーブ15と可動シーブ16との間隔が狭くなり、ベルト14の巻き掛け半径が大きくなる。
【0024】
また、可動シーブ16は、ベルト14の摺動面とカム面21とが別部品で構成されており、両面間のボス部23には、軸受24を介してアーム26が取付けられている。さらに、アーム26の先端には、遠心ウエイト19と協働して可動シーブ16を移動させるアクチュエータ30の出力軸31が係合されている。
【0025】
アクチュエータ30は、モータ32の動力を伝達するギヤ群33と、このギヤ群33を介して回転駆動されるナット部材34と、このナット部材34の回転を直線運動に変えて出力する出力軸31とを有している。ギヤ群33は複数個のギヤで構成されており、最終段のギヤ36は、ナット部材34と一体に形成されている。これらギヤ群33及びナット部材34は、アクチュエータケース38に収容されている。
【0026】
アクチュエータケース38は、ギヤ群33の各回転軸およびナット部材34を両端でそれぞれ支持する構造となっており、いずれも金属製の第1ケース41と第2ケース42とからなっている。
【0027】
図2に示すように、出力軸31の先端には、第1ピン44が取付けられると共に、さらに、この第1ピン44から所定の間隔Lを置いた位置に第1ピン44と同径の第2ピン45が取付けられている。そして、これら第1ピン44と第2ピン45とでアーム26の先端を挟み、第1ピン44又は第2ピン45の一方を介して出力軸31の移動をアーム26へ伝えるようになっている。すなわち、本例では、出力軸31とアーム26との係合を、第1ピン44又は第2ピン45のみで行い、出力軸31とアーム26との間に存在する隙間を1箇所に減らした。結果、隙間に起因する可動シーブ16の移動遅れを大幅に抑制することができる。
【0028】
さらに、プーリ軸12の軸直角方向から視た場合に、第1ピン44及び第2ピン45をベルト14の軌跡外に配置した(
図1参照。)。これにより、ベルト14が第1ピン44及び第2ピン45に接触する心配がなく、ベルト14を出力軸31に接近させることができるため、変速機のコンパクト化が可能となる。また、ベルト14が第1ピン44及び第2ピン45に接触する心配がないため、ベルト14の損傷を防ぐことができる。
【0029】
なお、第1ピン44及び第2ピン45は、嵌め合いによって出力軸31に固定されている。ただし、出力軸31への第1ピン44及び第2ピン45の固定方法は、嵌め合いに限られず、ねじ等による機械的な方法や、接着剤等による化学的な方法であっても良い。
【0030】
図3に示すように、出力軸31の先端は、互いに平行な2つの平面部47、48となっている。第2ピン45は、平面部47から平面部48へ貫通しており、第2ピン45の両端が平面部47、48から突出している。すなわち、第2ピン45は上下に突出部51、52を有している。同様に、第1ピン44も突出部51、52を有している(
図2参照。)。
【0031】
なお、本例のように第1ピン44及び第2ピン45を貫通させる他、第1ピン44及び第2ピン45を上ピースと下ピースとに分割し、上ピースを平面部47に固定すると共に下ピースを平面部48に固定して、突出部51、52としても良い。
【0032】
アーム26の先端は二股のフォーク部53とされており、このフォーク部53で平面部47と平面部48を挟むようになっている。すなわち、フォーク部53で出力軸31を挟むようにしたため、出力軸31の回り止めとアーム26の回り止めとを行うことができる。結果、係合だけでなく複数の回り止めの機能も兼用させて、構造の簡素化を図ることができる。
【0033】
さらに、第2ピン45の軸線45aは、出力軸31の軸線31a(この軸線31aは図面表裏方向に延びている。)と交差している。出力軸31が移動して第2ピン45でフォーク部53が図面表側へ押されると、アーム26から出力軸31に図面奥側への反力が加わる。しかしながら、第2ピン45の軸線45aが出力軸31の軸線31aと交差しているため、出力軸31には曲げモーメントが作用しない。結果、軸力のみを考慮して出力軸31の強度を設計すれば良く、出力軸31の小径化が可能となる。また、出力軸31に曲げモーメントが作用しないため、出力軸31の円滑な移動が保証される。
【0034】
これと同様に、第1ピン(
図2、符号44)の軸線も出力軸31の軸線31aと交差しており、第1ピン44でフォーク部53が押されても、出力軸31に曲げモーメントが作用しないようになっている。
【0035】
図4(a)に示すように、軸受24は、主に内輪54と転動体55と外輪56とからなる。軸受24は、転動体55が内輪54と外輪56との間を転動するため、転動時のフリクションや発熱を下げるべく数十μm程度の内部すきまが設けられている。
【0036】
この内部すきまの存在により、
図4(b)に示すように、内輪54を固定して外輪56にモーメントを作用させると、内部すきまの分だけ遊びが詰まり、外輪56が内輪54に対してθだけ傾く。
【0037】
ベルト式無段変速機10においては、出力ロッド31が移動することでアーム26を介して外輪56にモーメントが作用するため、外輪56に取付けられたアーム26が傾き、結果、
図5(a)に示すように、フォーク部53が傾く。
ここで、第1ピン44及び第2ピン45の間隔Lは、フォーク部53の傾きが最大のθmaxの状態(内部すきまの遊びが完全に詰まった状態)であっても、フォーク部53と第1ピン44との間にδ1の隙間が確保されるように設定した。すなわち、フォーク部53の厚さをtとすると、L=(t/cosθmax)+δ1とした。
【0038】
なお、
図5(a)では、
図1において出力軸31が右側へ移動し、その移動が第2ピン45を介してフォーク部53へ伝えられる状態を図示しているが、
図1において出力軸31が左側へ移動する場合には、その移動が第1ピン44を介してフォーク部53へ伝えられ、
図5(a)に示す状態とは反対側にフォーク部53がθmaxだけ傾く。この場合、フォーク部53と第2ピン45との間にδ1の隙間が確保される。
【0039】
すなわち、フォーク部53と第1ピン44又は第2ピン45との間には、常に隙間δ1が確保され、フォーク部53がどのような傾き状態にあっても第1ピン44及び第2ピン45の両方に同時に接触することはなく、それによって出力軸31に無理な力が加わることがない。結果、出力軸31の円滑な移動が保証される。なお、δ1は数μm程度に設定される。
【0040】
また、アクチュエータ30の組立て時には、
図5(b)に示すように、1/2δ1より大きな隙間δ2、δ2が確保された状態で、第1ピン44と第2ピン45との間にフォーク部53を挿し込むことができる。このように、第1ピン44と第2ピン45との間にフォーク部53を挿し込むだけで出力軸31とアーム26とを係合でき、さらに、フォーク部53の挿し込み深さが出力軸31の移動に与える影響も少ないため、アクチュエータ30の組立作業を極めて容易にできる。
【0041】
なお、本例では第1ピン44と第2ピン45とを同径としたが、
図1において出力軸31が右側へ移動する場合と左側へ移動する場合とで、アーム26から出力軸31に加わる反力が異なるため、反力の大きさに応じて第1ピン44及び第2ピン45の径を設定しても良い。これにより、第1ピン44及び第2ピン45の強度を最適に確保することができる。