【解決手段】通信信号を伝送路に送信する送信部51と、伝送路から通信信号を受信する受信部53と、送信部51と伝送路との間に配置され、送信部51が送信する通信信号を通過させる送信BPF52aを備える送信用フィルタ52と、受信部53と伝送路との間に配置され、受信部53が受信する通信信号を通過させる受信BPF54aを備える受信用フィルタ54とを備える通信部13(23)において、送信BPF52aと伝送路との間に、受信BPF54aと中心周波数を共通にする受信BEF52bを備え、受信BPF54aと伝送路との間に、送信BPF52aと中心周波数を共通にする送信BEF54bを備えるようにした。
前記第1の帯域通過型フィルタの中心周波数が4MHzであり、前記第2の帯域通過型フィルタの中心周波数が8MHzであるか、または、前記第1の帯域通過型フィルタの中心周波数が8MHzであり、前記第2の帯域通過型フィルタの中心周波数が4MHzである、
請求項1ないし5のいずれかに記載の通信装置。
【背景技術】
【0002】
消耗電極式の溶接装置は、通常、重量があるために移動させない溶接電源装置と、溶接位置の移動に伴って作業者が持ち運びするワイヤ送給装置とに分離されている。溶接電源装置とワイヤ送給装置とは、パワーケーブルで接続されている。
【0003】
このパワーケーブルを介して、溶接電源装置とワイヤ送給装置との間で通信を行う溶接システムが開発されている。例えば、特許文献1には、直接スペクトル拡散(Direct Sequence Spread Spectrum:DSSS)通信方式を用いて、パワーケーブルを介して通信を行う溶接システムが記載されている。
【0004】
溶接電源装置およびワイヤ送給装置は通信信号の送受信を同じパワーケーブルで行うために、溶接電源装置からワイヤ送給装置に送信する通信信号と、ワイヤ送給装置から溶接電源装置に送信する通信信号とで、異なる周波数帯域を利用している。
【0005】
図9は、従来の溶接システムでの通信システムを説明するための図である。
【0006】
溶接電源装置が出力する送信信号は、パワーケーブル(伝送路)を介してワイヤ送給装置に送られ、受信信号として受信される(
図9における実線矢印参照)。また、ワイヤ送給装置が出力する送信信号は、伝送路を介して溶接電源装置に送られ、受信信号として受信される。溶接電源装置およびワイヤ送給装置は、送信側に送信用フィルタ52’を設け、受信側に受信用フィルタ54’を設けている。送信用フィルタ52’は、送信信号を通過させるための帯域通過型フィルタであり、受信用フィルタ54’は、受信信号を通過させるための帯域通過型フィルタである。受信用フィルタ54’は、送信信号を通過させず、受信信号だけを通過させるように設計されているので、送信信号は受信側に入力されず、受信信号だけが受信側に入力される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
送信信号が利用する周波数帯域と受信信号が利用する周波数帯域とが近い場合、送信信号の一部が受信用フィルタ54’に吸収されてしまい(
図9における破線矢印a’参照)、送信信号の一部が減衰した状態で通信相手に送信されるという問題が生じる。また、伝送路から入力される受信信号の一部が送信用フィルタに52’に吸収されてしまい(
図9における破線矢印b’参照)、受信信号の一部がさらに減衰した状態で受信されるという問題も生じる。
【0009】
図10は、帯域通過型フィルタの通過特性と入力特性を示す図であり、同図(a)は中心周波数を4MHzとする帯域通過型フィルタのものであり、同図(b)は中心周波数を8MHzとする帯域通過型フィルタのものである。各図において、符号cを付している細線が通過特性を示しており、符号dを付している太線が入力特性を示している。
【0010】
通過特性は、入力信号の強度に対するフィルタの出力端での信号の強度を周波数毎に示したものであり、いわゆる周波数特性の振幅特性に相当する。同図(a),(b)の細線cに示すように、帯域通過型フィルタは入力信号のうち、中心周波数を中心とした所定の周波数帯域の周波数成分をあまり減衰させず、前記所定の周波数帯域以外の周波数成分を減衰させることで、前記所定の周波数帯域の周波数成分を通過させる。
【0011】
また、入力特性は、入力信号の強度に対するフィルタの入力端での信号の強度を周波数毎に示したものである。入力信号のうちフィルタの入力端で反射される周波数成分については、太線dが0dBより大きい値になっている。一方、入力信号のうちフィルタに吸収される周波数成分については、太線dが0dBより小さい値になっている。同図(a)の太線dに示すように、中心周波数を4MHzとする帯域通過型フィルタは、6MHzあたりの周波数成分を吸収する。また、同図(b)の太線dに示すように、中心周波数を8MHzとする帯域通過型フィルタは、5.5MHzあたりの周波数成分を吸収する。
【0012】
溶接電源装置は、スペクトル拡散によって送信信号を広い周波数帯域に拡散しているので、送信信号は5.5MHzあたりの周波数成分も含んでいる。溶接電源装置の受信用フィルタ54’は、同図(b)の太線dに示す入力特性を有する帯域通過型フィルタを備えているので、送信信号の5.5MHzあたりの周波数成分を吸収してしまう(
図9における破線矢印a’参照)。したがって、送信信号の一部が減衰した状態でワイヤ送給装置に送信される。また、ワイヤ送給装置の送信用フィルタ52’も、同図(b)の太線dに示す入力特性を有する帯域通過型フィルタを備えているので、伝送路から入力される受信信号の5.5MHzあたりの周波数成分が送信用フィルタに52’に吸収されてしまい(
図9における破線矢印b’参照)、受信信号の一部がさらに減衰した状態で受信される。
【0013】
ワイヤ送給装置の受信用フィルタ54’および溶接電源装置の送信用フィルタ52’は同図(a)の太線dに示す入力特性を有する帯域通過型フィルタを備えているので、ワイヤ送給装置から溶接電源装置に送信される信号も同様に、6MHzあたりの周波数成分を吸収されて、ワイヤ送給装置の送信信号の一部が減衰した状態で、受信信号として溶接電源装置に受信される。信号の一部が減衰されて受信された場合、正しい信号に復調できない場合がある。
【0014】
本発明は上記した事情のもとで考え出されたものであって、送信信号が利用する周波数帯域と受信信号が利用する周波数帯域とが近い場合でも、信号の一部が減衰してしまうことを抑制することができる通信装置を提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0016】
本発明の第1の側面によって提供される通信装置は、通信信号を伝送路に送信する送信手段と、前記伝送路から通信信号を受信する受信手段と、前記送信手段と前記伝送路との間に配置され、前記送信手段が送信する通信信号を通過させる第1の帯域通過型フィルタを備える送信用フィルタと、前記受信手段と前記伝送路との間に配置され、前記受信手段が受信する通信信号を通過させる第2の帯域通過型フィルタを備える受信用フィルタとを備え、前記送信用フィルタは、前記第1の帯域通過型フィルタと前記伝送路との間に、前記第2の帯域通過型フィルタと中心周波数を共通にする第1の帯域阻止型フィルタを備え、前記受信用フィルタは、前記第2の帯域通過型フィルタと前記伝送路との間に、前記第1の帯域通過型フィルタと中心周波数を共通にする第2の帯域阻止型フィルタを備えていることを特徴とする。
【0017】
本発明の第2の側面によって提供される通信装置は、通信信号を伝送路に送信する送信手段と、前記伝送路から通信信号を受信する受信手段と、前記送信手段と前記伝送路との間に配置され、前記送信手段が送信する通信信号を通過させる第1の帯域通過型フィルタを備える送信用フィルタと、前記受信手段と前記伝送路との間に配置され、前記受信手段が受信する通信信号を通過させる第2の帯域通過型フィルタを備える受信用フィルタとを備え、前記送信用フィルタは、前記第1の帯域通過型フィルタと前記伝送路との間に、前記第2の帯域通過型フィルタと中心周波数を共通にする第1の帯域阻止型フィルタを備えていることを特徴とする。
【0018】
本発明の第3の側面によって提供される通信装置は、通信信号を伝送路に送信する送信手段と、前記伝送路から通信信号を受信する受信手段と、前記送信手段と前記伝送路との間に配置され、前記送信手段が送信する通信信号を通過させる第1の帯域通過型フィルタを備える送信用フィルタと、前記受信手段と前記伝送路との間に配置され、前記受信手段が受信する通信信号を通過させる第2の帯域通過型フィルタを備える受信用フィルタとを備え、前記受信用フィルタは、前記第2の帯域通過型フィルタと前記伝送路との間に、前記第1の帯域通過型フィルタと中心周波数を共通にする第2の帯域阻止型フィルタを備えていることを特徴とする。
【0019】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記第1の帯域通過型フィルタ、前記第2の帯域通過型フィルタ、前記第1の帯域阻止型フィルタ、および、前記第2の帯域阻止型フィルタは、T型フィルタである。
【0020】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記送信手段は、スペクトル拡散した通信信号を送信する。
【0021】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記第1の帯域通過型フィルタの中心周波数が4MHzであり、前記第2の帯域通過型フィルタの中心周波数が8MHzであるか、または、前記第1の帯域通過型フィルタの中心周波数が8MHzであり、前記第2の帯域通過型フィルタの中心周波数が4MHzである。
【0022】
本発明の好ましい実施の形態においては、電力伝送線を介して通信を行う。
【0023】
本発明の第4の側面によって提供される溶接電源装置は、本発明の第1ないし第3の側面によって提供される通信装置を備えており、前記電力伝送線を介して、ワイヤ送給装置との間で通信を行うことを特徴とする。
【0024】
本発明の第5の側面によって提供されるワイヤ送給装置は、本発明の第1ないし第3の側面によって提供される通信装置を備えており、前記電力伝送線を介して、溶接電源装置との間で通信を行うことを特徴とする。
【0025】
本発明の第6の側面によって提供される溶接システムは、本発明の第1ないし第3の側面によって提供される通信装置を備えている溶接電源装置と、本発明の第1ないし第3の側面によって提供される通信装置を備えているワイヤ送給装置とを備えており、前記電力伝送線を介して、前記溶接電源装置と前記ワイヤ送給装置との間で通信を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によると、送信用フィルタが第1の帯域阻止型フィルタを備えているか、受信用フィルタが第2の帯域阻止型フィルタを備えている。第1の帯域阻止型フィルタは、第2の帯域通過型フィルタを通過する周波数成分を反射するので、当該周波数成分が第1の帯域通過型フィルタに吸収されることを抑制する。また、第2の帯域阻止型フィルタは、第1の帯域通過型フィルタを通過した周波数成分を反射するので、当該周波数成分が第2の帯域通過型フィルタに吸収されることを抑制する。これにより、第1の帯域通過型フィルタまたは第2の帯域通過型フィルタに信号が吸収されて減衰してしまうことを抑制することができる。
【0027】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を、本発明に係る通信装置を溶接システムに用いた場合を例として、図面を参照して具体的に説明する。
【0030】
図1は、第1実施形態に係る溶接システムAを説明するための図であり、溶接システムAの全体構成を示している。
【0031】
図1に示すように、溶接システムAは、溶接電源装置1、ワイヤ送給装置2、溶接トーチ3、および、パワーケーブル41,42を備えている。溶接電源装置1の一方の出力端子aは、パワーケーブル41を介して、ワイヤ送給装置2に接続されている。ワイヤ送給装置2は、ワイヤ電極を溶接トーチ3に送り出して、ワイヤ電極の先端を溶接トーチ3の先端から突出させる。溶接トーチ3の先端に配置されているコンタクトチップにおいて、パワーケーブル41とワイヤ電極とは電気的に接続されている。溶接電源装置1の他方の出力端子bは、パワーケーブル42を介して、被加工物Wに接続される。溶接電源装置1は、溶接トーチ3の先端から突出するワイヤ電極の先端と、被加工物Wとの間に発生させたアークに電力を供給する。溶接システムAは、当該アークの熱で被加工物Wの溶接を行う。
【0032】
溶接電源装置1は、アーク溶接のための直流電力を溶接トーチ3に供給するものである。溶接電源装置1は、電源部11、制御部12、および、通信部13を備えている。
【0033】
電源部11は、電力系統から入力される三相交流電力をアーク溶接に適した直流電力に変換して出力するものである。電源部11に入力される三相交流電力は、整流回路によって直流電力に変換され、インバータ回路によって交流電力に変換される。そして、トランスによって降圧(または昇圧)され、整流回路によって直流電力に変換されて出力される。なお、電源部11の構成は、上記したものに限定されない。
【0034】
制御部12は、溶接電源装置1の制御を行うものであり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。制御部12は、溶接電源装置1から出力される溶接電圧や溶接電流が設定電圧や設定電流になるように、制御を行う。また、制御部12は、溶接条件の変更や電源部11の起動、異常の検出などを行う。また、制御部12は、ワイヤ送給装置2に対する送給指令などのための信号を通信部13に出力させる。
【0035】
通信部13は、パワーケーブル41,42を介して、ワイヤ送給装置2との間で通信を行うためのものである。通信部13は、ワイヤ送給装置2から受信した通信信号を復調して、制御部12に出力する。ワイヤ送給装置2から受信する通信信号には、例えば、溶接条件を設定するための信号や、電源部11の起動を指示する起動信号などがある。また、通信部13は、制御部12から入力される信号を変調して、通信信号としてワイヤ送給装置2に送信する。ワイヤ送給装置2に送信する通信信号には、例えば、検出された溶接電圧または溶接電流の検出信号や、異常発生を示す信号、送給指令のための信号などがある。なお、ワイヤ送給装置2との間で送受信される通信信号は、上記したものに限定されない。
【0036】
通信部13は、直接スペクトル拡散通信方式を用いて通信を行う。直接スペクトル拡散通信方式では、送信側は、送信する通信信号に対して拡散符号による演算を行い、元の信号のスペクトルをより広い帯域に拡散して送信する。受信側は、受信した通信信号を共通する拡散符号を用いて逆拡散することで、元の信号に戻す。通信信号にノイズが重畳された場合でも、逆拡散によってノイズのスペクトルが拡散されるので、フィルタリングによって元の通信信号を抽出することができる。また、溶接システムA毎に異なる拡散符号を用いていれば、別の溶接システムAで送受信される通信信号を誤って受信したとしても、当該通信信号は異なる拡散符号で逆拡散されて、ノイズとして除去される。したがって、高い通信品質で通信を行うことができる。
【0037】
通信部13は、結合回路を備えている。当該結合回路は、通信部13の出力端に接続されたコイルと、パワーケーブル41,42が接続された出力線に並列接続されたコイルとを磁気結合させた高周波トランスを備えており、通信部13が出力する通信信号をパワーケーブル41,42に重畳し、また、パワーケーブル41,42に重畳された通信信号を検出する。
【0038】
図2は、通信部13の内部構成を説明するための図である。通信部13は、送信部51、送信用フィルタ52、受信部53、および、受信用フィルタ54を備えている。結合回路に接続する伝送路は分岐されており、一方は送信部51に接続し、他方は受信部53に接続している。送信部51に接続する伝送路には送信用フィルタ52が配置されており、受信部53に接続する伝送路には受信用フィルタ54が配置されている。
【0039】
送信部51は、制御部12より入力される信号に応じてキャリア信号をBPSK(Binary Phase Shift Keying)変調し、変調信号にスペクトル拡散を行い、アナログ信号に変換して出力する。なお、変調方法はBPSK変調に限られず、ASK変調やFSK変調を行うようにしてもよい。また、スペクトル拡散は直接拡散方式に限られず、周波数ホッピング方式を用いてもよい。なお、本実施形態では、スペクトル拡散を行っているが、これに限定されず、スペクトル拡散を行わないようにしてもよい。
【0040】
本実施形態では、溶接電源装置1からワイヤ送給装置2に送信する通信信号が例えば4MHzを中心周波数とする周波数帯域を利用し、ワイヤ送給装置2から溶接電源装置1に送信する通信信号が例えば8MHzを中心周波数とする周波数帯域を利用している。なお、各通信信号が利用する周波数帯域は例示であって、これに限られない。
【0041】
送信用フィルタ52は、送信BPF52aおよび受信BEF52bを備えている。送信BPF52aは、4MHzを中心周波数とする帯域通過型フィルタ(バンドパスフィルタ)である(
図10(a)に示す通過特性および入力特性参照)。本実施形態では、スペクトル拡散を行っているので、通信信号の利用する周波数帯域が広がっている。送信BPF52aは、この通信信号を通過させることができるように設計されている。
図3(a)は、送信BPF52aの一例であるT型帯域通過型フィルタを示している。なお、送信BPF52aは、これに限られない。例えば、Π型帯域通過型フィルタやL型帯域通過型フィルタであってもよいし、ハイパスフィイルタとローパスフィルタとを合わせたものであってもよい。また、弾性表面波フィルタやアクティブフィルタであってもよい。送信BPF52aは、送信信号が利用する周波数帯域の成分を通過させるフィルタであればよい。
【0042】
受信BEF52bは、8MHzを中心周波数とする帯域阻止型フィルタ(バンドエリミネーションフィルタ)であり、後述する受信BPF54aが通過させる周波数帯域の信号の通過を阻止する。
図3(b)は、受信BEF52bの一例であるT型帯域阻止型フィルタを示している。なお、受信BEF52bは、これに限られない。受信BEF52bは、受信信号が利用する周波数帯域の成分を反射させるフィルタであればよい。
【0043】
受信部53は、パワーケーブル41,42で送られてきた通信信号を受信し、デジタル信号に変換して、逆拡散およびフィルタリングを行い、復調を行って、制御部12に出力する。
【0044】
受信用フィルタ54は、受信BPF54aおよび送信BEF54bを備えている。受信BPF54aは、送信BPF52aと同様の帯域通過型フィルタであり、8MHzを中心周波数とする(
図10(b)に示す通過特性および入力特性参照)。本実施形態では、スペクトル拡散を行っているので、通信信号の利用する周波数帯域が広がっている。受信BPF54aは、この通信信号を通過させることができるように設計されている。
【0045】
送信BEF54bは、受信BEF52bと同様の帯域阻止型フィルタであり、4MHzを中心周波数とする。送信BEF54bは、送信BPF52aが通過させる周波数帯域の信号の通過を阻止する。
【0046】
図4は、帯域阻止型フィルタの通過特性と入力特性を示す図であり、同図(a)は中心周波数を4MHzとする帯域阻止型フィルタのものであり、同図(b)は中心周波数を8MHzとする帯域阻止型フィルタのものである。各図において、細線cが通過特性を示しており、太線dが入力特性を示している。同図(a),(b)の細線cに示すように、帯域阻止型フィルタは入力信号のうち、中心周波数を中心とした所定の周波数帯域の周波数成分を大きく減衰させることで、前記所定の周波数帯域の信号の通過を阻止する。
【0047】
ワイヤ送給装置2は、ワイヤ電極を溶接トーチ3に送り出すものである。ワイヤ送給装置2は、制御部21、送給機構22、および、通信部23を備えている。なお、ワイヤ送給装置2は、ガスタンクのシールドガスを溶接トーチ3の先端に供給するためのガス電磁弁などを備えているが、記載を省略している。
【0048】
制御部21は、ワイヤ送給装置2の制御を行うものであり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。制御部21は、溶接トーチ3に設けられている図示しないトーチスイッチより入力される起動のための操作信号に応じて、溶接電源装置1の電源部11を起動するための起動信号を通信部23に出力する。また、図示しない操作部より入力される溶接条件を変更するための操作信号に応じて、図示しない記憶部に記憶されている溶接条件を変更する。制御部21は、あらかじめ設定された送信周期ごとに、記憶部に記憶されている溶接条件を読み出して、通信部23に出力する。また、制御部21は、通信部23より入力される溶接電圧または溶接電流の検出値を、図示しない表示部に出力して表示させたり、通信部23より入力される異常発生を示す信号に基づいて、図示しない報知部に異常の報知(例えば、スピーカによる警告音や振動による報知)をさせたりする。また、制御部21は、通信部23から送給指令を入力されている間、送給機構22にワイヤ電極の送給を行わせて、溶接トーチ3にワイヤ電極を送り出す。
【0049】
送給機構22は、溶接トーチ3にワイヤ電極の送給を行うものである。送給機構22は、制御部21からの送給指令に基づいて、モータによって送給ローラを回転させて、ワイヤ電極を溶接トーチ3に送り出す。
【0050】
通信部23は、パワーケーブル41,42を介して、溶接電源装置1との間で通信を行うためのものである。通信部23は、溶接電源装置1から受信した通信信号を復調して、制御部21に出力する。溶接電源装置1から受信する通信信号には、例えば、溶接電源装置1においてセンサで検出された溶接電圧または溶接電流の検出信号や、異常発生を示す信号、送給指令のための信号などがある。また、通信部23は、制御部21から入力される信号を変調して、通信信号として溶接電源装置1に送信する。溶接電源装置1に送信する通信信号には、例えば、溶接条件を設定するための信号や、電源部11の起動を指示する起動信号などがある。なお、溶接電源装置1との間で送受信される通信信号は、上記したものに限定されない。
【0051】
通信部23は、結合回路を備えている。当該結合回路は、パワーケーブル41,42に並列接続されたコイルと通信部23の入力端に接続されたコイルとを磁気結合させた高周波トランスを備えており、通信部23が出力する通信信号をパワーケーブル41,42に重畳し、また、パワーケーブル41,42に重畳された通信信号を検出する。
【0052】
通信部23の内部構成は、通信部13の内部構成と同様である(
図2参照)。ただし、溶接電源装置1からワイヤ送給装置2に送信する通信信号が4MHzを中心周波数とする周波数帯域を利用し、ワイヤ送給装置2から溶接電源装置1に送信する通信信号が8MHzを中心周波数とする周波数帯域を利用しているので、送信BPF52aおよび送信BEF54bが8MHzを中心周波数とし、受信BEF52bおよび受信BPF54aが4MHzを中心周波数とする。
【0053】
次に、通信部13および23の作用および効果について説明する。
【0054】
図5は、通信部13と通信部23との通信について説明するための図である。なお、通信部23の各フィルタは中心周波数が通信部13の各フィルタと異なるので、それぞれ送信BPF52a’、受信BEF52b’、受信BPF54a’および送信BEF54b’として、通信部13のものと区別している。
【0055】
図5(a)は、溶接電源装置1の通信部13からワイヤ送給装置2の通信部23に通信信号を送信する場合を示している。送信BPF52aは、送信部51で変調した信号(送信信号)から、4MHzを中心周波数とする所定の周波数帯域以外の信号を減衰させて、伝送路に出力する。受信BPF54a’は、伝送路から入力される通信信号のうち、4MHzを中心周波数とする所定の周波数帯域の信号を通過させて、受信信号として受信部53に出力する(
図5(a)における実線矢印参照)。
【0056】
送信BPF52aを通過した送信信号は、送信BEF54bによって反射されるので(
図5(a)における破線矢印a参照)、送信信号の一部が受信BPF54aに吸収されることを抑制することができる。また、伝送路を介して送られてきた送信信号は、受信BEF52b’によって反射されるので(
図5(a)における破線矢印b参照)、送信信号の一部が送信BPF52a’に吸収されることを抑制することができる。したがって、溶接電源装置1からの送信信号が、受信BPF54aまたは送信BPF52a’に吸収されて、一部の周波数成分が減衰した受信信号としてワイヤ送給装置2に受信されることを抑制することができる。
【0057】
図5(b)は、ワイヤ送給装置2の通信部23から溶接電源装置1の通信部13に通信信号を送信する場合を示している。送信BPF52a’は、送信部51で変調した信号(送信信号)から、8MHzを中心周波数とする所定の周波数帯域以外の信号を減衰させて、伝送路に出力する。受信BPF54aは、伝送路から入力される通信信号のうち、8MHzを中心周波数とする所定の周波数帯域の信号を通過させて、受信信号として受信部53に出力する(
図5(b)における実線矢印参照)。
【0058】
送信BPF52a’を通過した送信信号は、送信BEF54b’によって反射されるので(
図5(b)における破線矢印a参照)、送信信号の一部が受信BPF54a’に吸収されることを抑制することができる。また、伝送路を介して送られてきた送信信号は、受信BEF52bによって反射されるので(
図5(b)における破線矢印b参照)、送信信号の一部が送信BPF52aに吸収されることを抑制することができる。したがって、ワイヤ送給装置2からの送信信号が、受信BPF54a’または送信BPF52aに吸収されて、一部の周波数成分が減衰した受信信号として溶接電源装置1に受信されることを抑制することができる。
【0059】
図4(a)の太線dに示すように、中心周波数を4MHzとする帯域阻止型フィルタは、中心周波数を8MHzとする帯域通過型フィルタが吸収してしまう5.5MHzあたりの周波数成分を反射する。
図4(b)の太線dに示すように、中心周波数を8MHzとする帯域通過型フィルタは、中心周波数を4MHzとする帯域通過型フィルタが吸収してしまう6MHzあたりの周波数成分を反射する。
【0060】
図6は、帯域通過型フィルタと帯域阻止型フィルタとを合わせたフィルタ(
図2の送信用フィルタ52および受信用フィルタ54に相当)の通過特性と入力特性を示す図である。各図において、細線cが通過特性を示しており、太線dが入力特性を示している。同図(a)は、中心周波数を4MHzとする帯域通過型フィルタと、中心周波数を8MHzとする帯域阻止型フィルタとを合わせたフィルタ(
図2の送信用フィルタ52に相当)である。同図(a)の太線dに示すように、当該フィルタに吸収すされる周波数成分は、14MHzあたりになっている。つまり、帯域阻止型フィルタを追加することで、吸収される周波数成分が6MHzあたりから14MHzあたりにずれている。したがって、受信信号の一部を吸収してしまうことを抑制することができる。
【0061】
同図(b)は、中心周波数を8MHzとする帯域通過型フィルタと、中心周波数を4MHzとする帯域阻止型フィルタとを合わせたフィルタ(
図2の受信用フィルタ54に相当)である。同図(b)の太線dに示すように、当該フィルタに吸収すされる周波数成分は、2.5MHzあたりになっている。つまり、帯域阻止型フィルタを追加することで、吸収される周波数成分が5.5MHzあたりから2.5MHzあたりにずれている。したがって、送信信号の一部を吸収してしまうことを抑制することができる。
【0062】
なお、本実施形態においては、コイルによる磁気結合を利用して、通信部13,23が通信信号をパワーケーブル41,42に重畳し、パワーケーブル41,42に重畳された通信信号を検出する場合について説明したが、これに限られない。例えば、コンデンサによる電界結合を利用するようにしてもよい。また、パワーケーブル41,42に並列に通信信号を入力するのではなく、パワーケーブル41または42に直列に通信信号を入力するようにしてもよい。
【0063】
本実施形態においては、通信部13(23)が受信BEF52bおよび送信BEF54bを備える場合について説明したが、これに限られない。例えば、送信BEF54bのみを備えるようにしてもよい。この場合、受信信号の一部が送信BPF52aに吸収されるが、送信信号の一部が受信BPF54aに吸収されることを抑制することができる。逆に、受信BEF52bのみを備えるようにしてもよい。この場合、送信信号の一部が受信BPF54aに吸収されるが、受信信号の一部が送信BPF52aに吸収されることを抑制することができる。これらの場合でも、通信信号の一部の周波数成分が減衰して受信されることを抑制することができる。ただし、通信信号の減衰をより抑制するためには、受信BEF52bおよび送信BEF54bの両方を備えることが望ましい。
【0064】
上記第1実施形態においては、溶接電源装置1とワイヤ送給装置2とが、パワーケーブル41,42を介して通信を行う場合について説明したが、これに限られない。例えば、溶接電源装置1とワイヤ送給装置2とが、専用の通信線で通信を行うようにしてもよい。また、溶接電源装置1とワイヤ送給装置2とが、無線通信を行うようにしてもよい。溶接電源装置1とワイヤ送給装置2とが無線通信を行う場合を、第2実施形態として、以下に説明する。
【0065】
図7は、第2実施形態に係る溶接システムA2を説明するための図である。
図7において、第1実施形態に係る溶接システムA(
図1参照)と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
【0066】
図7に示す溶接電源装置1は、通信部13に代えて、無線通信を行う通信部13’を備えている点で、第1実施形態に係る溶接電源装置1と異なる。また、
図7に示すワイヤ送給装置2は、通信部23に代えて、無線通信を行う通信部23’を備えている点で、第1実施形態に係るワイヤ送給装置2と異なる。
【0067】
第2実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0068】
上記第1ないし第2実施形態においては、溶接電源装置1とワイヤ送給装置2との間で通信を行う場合について説明したが、これに限られない。例えば、非消耗電極式の溶接装置の場合、ワイヤ送給装置2は用いられず、溶接電源装置1と溶接トーチ3に接続されたリモコンとの間で、通信を行う。この場合、リモコンに通信のための構成を設け、溶接電源装置1との間で通信を行うようにすればよい。溶接電源装置1とリモコンとが通信を行う場合を第3実施形態として、以下に説明する。
【0069】
図8は、第3実施形態に係る溶接システムA3を説明するための図である。
図8において、第1実施形態に係る溶接システムA(
図1参照)と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
【0070】
図8に示す溶接システムA3は、ワイヤ送給装置2に代えて、リモコン2’を備えている点で、第1実施形態に係る溶接システムAと異なる。リモコン2’は、パワーケーブル41,42を介して、溶接電源装置1との間で通信を行う。通信部23は、第1実施形態におけるワイヤ送給装置2の通信部23と同様の構成で同様の機能を有する。したがって、第3実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0071】
なお、溶接トーチ3にリモコン2’を取り付けるのではなく、溶接トーチ3自体に制御部21および通信部23を設けて、溶接電源装置1と溶接トーチ3との間で通信を行うようにしてもよい。
【0072】
上記第1ないし第3実施形態においては、本発明に係る通信装置を溶接システムに用いた場合について説明したが、これに限られない。本発明に係る通信装置は、他のシステムにおいても用いることができる。また、本発明は、通信のみを行う通信装置においても適用することができる。
【0073】
本発明に係る通信装置、溶接電源装置、ワイヤ送給装置、および、溶接システムは、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る通信装置、溶接電源装置、ワイヤ送給装置、および、溶接システムの各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。