【実施例】
【0034】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
≪IVL
hiPS≫
[肝組織体の作製]
(IVL
hiPSの作製)
EHSゲル(BD Biosciences社製)上に、HUVECs(Cambrex BioScience社製)を4.2×10
4cells/cm
2で播種し、5%CO
2、37℃条件下で培養した。なお、以下に示す他の培養についても該条件の下で行った。HUVECsは12時間以内にネットワークを形成した。なお、前記HUVECsは予めゼラチンコート プレート上でEGM−2(Lonza Japan Ltd.製)入りの培地中にて培養しておいたものである。
hiPS細胞(201B1株,文部科学省ナショナルバイオリソースプロジェクトを介して理研BRCから提供されたもの、Takahashi, K., Tanabe, K., Ohnuki, M., Narita, M., Ichisaka, T., Tomoda, K., and Yamanaka, S. (2007). Induction of pluripotent stem cells from adult human fibroblasts by defined factors. Cell 131, 861-872.)をマウス胎仔線維芽細胞上で4μgのbFGF(R&D Systems 社製)含有霊長類ES/iPS細胞用培地(Reprocell社製)を使用して培養した。70%コンフルエント状態のiPS細胞に、Activin A(R&D Systems 社製)を加えた後、3日間培養を行った。次いで、Activin A存在下で3日間培養された当該iPS由来の細胞を、1.2×10
5cells/cm
2で、培養開始から1日目の前記HUVECネットワークが形成されている培地中に播種した。その後1日間の培養期間中で、当該iPS由来の細胞はHUVECネットワークへと移動した。このようにして、HUVECネットワーク(管状構造を有する内皮細胞ネットワーク)上に形成されたhiPS細胞由来の肝細胞の細胞塊を含む肝組織体(IVL
hiPS:human iPS cell-derived in vitro liver system)を得た(
図1)。
【0036】
(IVL
hESの作製)
iPS細胞に代えてhES細胞を用いた以外は、前記(IVL
hiPSの作製)と同様にして、HUVECネットワーク(管状構造を有する内皮細胞ネットワーク)上に形成されたhES細胞由来の肝細胞の細胞塊を含む肝組織体(IVL
hES:human ES cell-derived in vitro liver system)を得た。hES細胞は京都大学の中辻らが樹立し、京都大学経由で供与された KhES-1 株(Suemori, H., Yasuchika, K., Hasegawa, K., Fujioka, T., Tsuneyoshi, N., and Nakatsuji, N. (2006). Efficient establishment of human embryonic stem cell lines and long-term maintenance with stable karyotype by enzymatic bulk passage. Biochem. Biophys. Res. Commun. 345, 926-932.)を使用した。
【0037】
また比較対象として、iPS細胞由来肝細胞及びHuh−7細胞を用意した。iPS細胞由来肝細胞は、iPS細胞にActivin Aを3日間、BMP-2とFGF-4を5日間、HGFを5日間、OSMとDexamethasoneを5日間、順番に培地中に添加して得たものである。Huh−7細胞は、細胞内でのC型肝炎ウイルスの増殖が可能なヒト肝癌細胞株である。iPS細胞由来肝細胞、及びHuh−7細胞の両細胞ともにHUVECネットワーク上での培養を経ない状態で培養を行った。
【0038】
[NTCP発現量の測定]
得られたIVL
hiPSの培養中のナトリウムイオン−胆汁酸トランスポータータンパク質(NTCP)の発現量を求めた。NTCPは、B型肝炎ウイルス(HBV)が細胞への感染に利用する可能性が報告されている膜タンパク質である(Yan, H., Zhong, G., Xu, G., He, W., Jing, Z., Gao, Z., Huang, Y., Qi, Y., Peng, B., Wang, H., et al. (2012). Sodium taurocholate cotransporting polypeptide is a functional receptor for human hepatitis B and D virus. Elife 1, e00049.)。NTCPの発現量は、リアルタイムPCR法を用い、培養中の前記IVL
hiPS、iPS細胞由来肝細胞、Huh−7細胞をそれぞれ同量取り出し、mRNAを逆転写したcDNA量を、β-ACTINに対する相対値として定量した。
NTCP特異的プライマー(配列番号1:5’-ATCGTCCTCAAATCCAAACG-3’、配列番号2:5’-CCATTGAGGCAGAAGAGAGC-3’)とβ-ACTIN特異的プライマー(配列番号3:5’-GGGCATGGGTCAGAAGGATT-3’、配列番号4:5’-CAGTGCACATCACATCAACC-3’)を使用し、95℃15秒、65℃30秒を1サイクルとし、40サイクルまでの反応を測定した。全てのサンプルはduplicateで測定し、その平均値を測定値として使用した。反応終了後、融解曲線分析により増幅産物が1種類のみであることを確認した。
【0039】
図2にNTCP発現量の測定結果を示す。グラフの縦軸はNTCPの発現量(相対値)であり、横軸は培養日数であり、IVL
hiPS及びiPS細胞由来肝細胞については分化誘導開始時点(Activin A添加時点)からの培養日数である。
図2のグラフから、IVL
hiPSでのNTCPの発現量は、iPS細胞由来肝細胞及びHuh−7細胞と比較して、高いことが明らかである。この結果から、IVL
hiPSはHBVへの感染しやすさが高められていることが示された。
【0040】
[B型肝炎ウイルスの増殖−1]
上記の結果を得て、IVL
hiPSのHBVへの感染実験を行った。IVL
hiPSが培養されている培地中へとHBVを添加し本発明に係る肝炎組織体を得た。
また比較対象として、EHSゲルを用いずに直接ゼラチンコート上に前記iPS細胞由来肝細胞を播種した以外は、上記IVL
hiPSの作製と同様にしてHUVEC上に形成された細胞塊(共培養on gelatin)を得て、HBVへの感染実験を行った。このとき共培養on gelatinのHUVECはIVL
hiPSとは異なり、管状構造を有する内皮細胞ネットワークを形成していなかった。
HBV添加後4日目、8日目、12日目のHBVの各群でのpgRNAの発現量を求めた。pgRNAの発現量は、培養中のIVL
hiPS、前記共培養on gelatinが含む肝細胞系譜細胞を含むペレットを同量取り出してtotal RNAを抽出し、RT−PCRを行い、β-ACTINに対する相対値としてpgRNA量を定量した。
pgRNA特異的プライマー(配列番号5:5’-TCCCTCGCCTCGCAGACG-3’、配列番号6:5’-GTTTCCCACCTTATGAGTC-3’)とβ-ACTIN特異的プライマー(配列番号7:5’-TTCTACAATGAGCTGCGTGTG-3’、配列番号8:5’-GGGGTGTTGAAGGTCTCAAA-3’)を使用し、95℃15秒、60℃30秒を1サイクルとし、40サイクルまでの反応を測定した。全てのサンプルはduplicateで測定し、その平均値を測定値として使用した。反応終了後、融解曲線分析により増幅産物が1種類のみであることを確認した。
【0041】
図3にHBVのpgRNAの発現量の測定結果を示す。共培養on gelatinの肝細胞系譜細胞と比較して、IVL
hiPSではpgRNAの発現量が高められており、IVL
hiPSにおいて良好にHBVが増殖していることが示された。
【0042】
[B型肝炎ウイルスの増殖−2]
前記[B型肝炎ウイルスの増殖−1]と同様にして、IVL
hiPSが培養されている培地中へとHBVを添加し本発明に係る肝炎組織体を得た。また比較対象として、前述のHUVEC上に形成された細胞塊(共培養on gelatin)と、前記[NTCP発現量の測定]で用いたものと同様にして得たiPS細胞由来肝細胞とを用意した。
HBV添加後6日目、9日目、12日目の各群の培養液中あたりのHBVのDNAコピー数を求めた。PCR条件は前記[B型肝炎ウイルスの増殖−1]で示したものと同一である。
【0043】
図4にHBVのDNAコピー数の測定結果を示す。共培養on gelatinの肝細胞系譜細胞と比較して、IVL
hiPSではHBVのDNAコピー数が高められており、IVL
hiPSにおいて良好にHBVが増殖し、培養液中にウイルス粒子が放出されていることが示された。
【0044】
以上の結果から、iPS細胞を用いて分化誘導した肝細胞系譜とヒト内皮細胞管腔ネットワークと共培養することにより、肝臓の構成単位である肝小葉に近い組織構造(IVL
hiPS:human iPS cell-derived in vitro liver system)をin vitroで構築することに成功したことが示された。また、当該IVL
hiPSでは、HBVへの感染しやすさが高く、HBVが良好に増殖可能であった。
【0045】
≪IVL
Hep G2.2.15≫
[肝炎組織体の作製]
(EHS(+), HUVEC(+))
EHSゲル(BD Biosciences社製)上に、HUVECs(Cambrex BioScience社製)を4.2×10
4cells/cm
2で播種し、5%CO
2、37℃条件下で培養した。なお、以下に示す他の培養についても該条件の下で行った。HUVECsは12時間以内にネットワークを形成した。なお、前記HUVECsは予めゼラチンコート プレート上でEGM−2(Lonza Japan Ltd.製)入りの培地中にて培養しておいたものである。
次いで、ヒト肝細胞癌由来の細胞株であって、継続的にHBVの複製が行われているHep G2.2.15を1.2×10
5cells/cm
2で、培養開始から1日目の前記HUVECネットワーク上に播種した。その後1日間培養して、HUVECネットワーク(管状構造を有する内皮細胞ネットワーク)上に形成されたHep G2.2.15の細胞塊を含む、本発明に係る肝炎組織体(IVL
Hep G2.2.15)を得た(
図5(A))。
【0046】
(EHS(+), HUVEC(−))
HUVECを用いずにHep G2.2.15を播種した以外は、上記の(EHS(+), HUVEC(+))系と同様にして、Hep G2.2.15の培養を行った(
図5(B)参照)。
【0047】
(EHS(−), HUVEC(+))
EHSゲルを用いずに、直接ゼラチンコート上にHUVECを形成させた以外は、上記の(EHS(+), HUVEC(+))系と同様にして、Hep G2.2.15の培養を行った(
図5(C)参照)。
【0048】
(EHS(−), HUVEC(−))
EHSゲル及びHUVECを用いずに、直接ゼラチンコート上にHep G2.2.15を播種した以外は、上記の(EHS(+), HUVEC(+))系と同様にして、Hep G2.2.15の培養を行った(
図5(D)参照)。
【0049】
上記の系のうち、(EHS(−), HUVEC(+))の系HUVECは(EHS(+), HUVEC(+))の系のHUVECとは異なり、管状構造を有する内皮細胞ネットワークを形成していなかった。
【0050】
次いで、上記各群でのpgRNAの発現量を求めた。pgRNAの発現量は、培養7日目の各群からHep G2.2.15を含むペレットを同量取り出してtotal RNAを抽出し、半定量RT−PCRを行い、β―ACTINに対する相対値としてpgRNA量を定量した。
また、上記各群の培養液中あたりのHBVのDNAコピー数を求めた。測定方法は、上記≪IVL
hiPS≫で行ったものと同様であり、培養1−3日目と培養3−5日目での培養液に対して測定を行った。
【0051】
図5(E)にHBVのpgRNAの発現量を定量した結果を示す。この結果から、EHS(+), HUVEC(+)の系で得られたIVL
Hep G2.2.15及び、EHS(−), HUVEC(+)で培養されたHep G2.2.15では、EHS(+),HUVEC(−)及びEHS(−),HUVEC(−)の系と比較して、HBV pgRNAの発現量が高められ、良好にHBVが増殖していることが示された。
図5(F)に培養液中あたりのHBVのDNAコピー数を定量した結果を示す。この結果から、EHS(+), HUVEC(+)の系で得られたIVL
Hep G2.2.15では、HBVのDNAコピー数が他の系と比較して高められており、良好にHBVが増殖し、培養液中にウイルス粒子が放出されていることが示された。
【0052】
以上の結果から、Hep G2.2.15とヒト内皮細胞管腔ネットワークと共培養することにより、肝臓の構成単位である肝小葉に近い組織構造(IVL
Hep G2.2.15)をin vitroで構築することに成功したことが示された。また、当該IVL
Hep G2.2.15では、HBVが良好に増殖可能であった。
【0053】
≪IVL
HuH−HB−Ae≫
[肝炎組織体の作製]
分化型の肝細胞癌由来の細胞株であるHuH−7にgenotype A−containing plasmidをトランスフェクションさせ、継続的にHBV遺伝子が発現している細胞株であるHuH−HB−Aeを得た。
(EHS(+), HUVEC(+))
上述の≪IVL
Hep G2.2.15≫の(EHS(+), HUVEC(+))において、Hep G2.2.15に代えて前記HuH−HB−Aeを用い、HUVECネットワーク(管状構造を有する内皮細胞ネットワーク)上に形成されたHuH−HB−Aeの細胞塊を含む、本発明に係る肝炎組織体(IVL
HuH−HB−Ae)を得た(
図6(A))。
また、Hep G2.2.15に代えて前記HuH−HB−Aeを用い、上述の≪IVL
Hep G2.2.15≫と同様にして(EHS(+), HUVEC(−))(
図6(B)参照)、(EHS(−), HUVEC(−))(
図6(C)参照)、(EHS(−), HUVEC(−))(
図6(D)参照)の系でHuH−HB−Aeの培養を行った。
【0054】
次いで、上記各群でのB型肝炎表面抗原(HBsAg)の発現量を求めた。HBsAgの発現量は、各群の培養液に対してHBsAgに対する抗体を用いてエンザイムイムノアッセイによって求めた。
図6(E)に培養液中あたりのHbsAgを定量した結果を示す。この結果から、EHS(+), HUVEC(+)の系で得られたIVL
HuH−HB−Aeでは、HBsAgの値が他の系と比較して有意に高められており、良好にHBVが増殖し、培養液中にウイルス粒子が放出されていることが示された。
【0055】
以上の結果から、HuH−HB−Aeとヒト内皮細胞管腔ネットワークと共培養することにより、肝臓の構成単位である肝小葉に近い組織構造(IVL
HuH−HB−Ae)をin vitroで構築することに成功したことが示された。また、当該IVL
HuH−HB−Aeでは、HBVが良好に増殖可能であった。
【0056】
以上で説明した各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項(クレーム)の範囲によってのみ限定される。